富と名声のためにトレセン学園の門戸をくぐったら同期が王族と気性難な件について 作:RKC
(スーパーグリード)
日本ダービーが終わってから2か月。トレーニングの化身となり、荒れていたシャカは驚くほど落ち着いた。ダービーで二着だったから、更にひどくなるものと思い込んでいたけど……。まぁ、私が人の心を推し量ろうとするだけ無駄、と考えて現状を受け入れる事にした。こちとら鈍感なもんでね、ちゃんと言葉と態度にしてくれないと分からんのよ。
そんな事より、5/23に開催された日本ダービーから2か月経っているという事実の方が今は大事。現在の日付は7/23。つまり明日から夏休み。待ちに待った夏休み。待望の夏休みだ。
トレセン学園の夏休みと言えば夏合宿。煩わしい授業から解放され、普段の環境とは違う新天地で走る事だけに専念できる。
と、いうわけで海にやって来ました。
ファイン、シャカ、トレーナー、私の四人がやってきたのはトレセン学園が所有する合宿所、その近くにある海水浴場。
“おいおい、夏合宿に来たんじゃねぇのかよ。海水浴場でなに油売ってんだ“という幻聴が聞こえてきそうだが、初日ぐらいは海で遊んでも良いとトレーナーが言ってくれたので、ハメを外そうとしている所だ。
「……というか私だけ学校指定の水着?」
まずはファインを見る。彼女が身に纏っているのは露出の少ないパレオタイプの水着。ベースは赤で、クローバー意匠の緑色が良い塩梅だと思う。
次にシャカ。彼女は胸の左サイドにデカい
「逆にどうして学校指定の水着を着てンだよ。自前の持ってねェのか?」
「一応持ってるけど」
「ならなんでそのクソだせェ水着を着てンだよ」
「ちっちっ、分かってないなぁシャカは。スクール水着、確かにデザインはありきたり、色は紺、可愛さの“か”の字もない武骨な水着かもしれない。しかし! スクール水着は希少性が高い! 小、中、高校生しか着る事を許されない神聖な装具! 大学生が着れるか? 社会人が着れるか!? 答えは否! いい年した女では着られない! 若さに守られた学生の内でしか装備出来ない! 何より、普通の水着よりこっちの方が“いいね”が付きやすい! という事で私は数字のために恥を忍んで着ました!」
スマホで自撮りをし、「海水浴なう」とSNSに上げる。
「恥を忍んでって、自分で言っちまったじゃねェか。前半の勢いはどうした」
「それに普通の水着よりスクール水着に“いいね”付けるのは結構特殊な人だと思うけど」
シャカとトレーナーから鋭いツッコミをくらった。シャカに関しては何も言えない。しかし、トレーナーの意見に対しては反論する。
「え、でも大多数の人がスクール水着の方が良い、って言ってたけど」
「ちなみにどこで聞いたの?」
「ネット掲示板で」
「うん、そこはまさに特殊な人が集まる場所だね」
「なん、だと……!? そ、そんなバカな……!」
つまりあれか? 私は勘違いしていたと言うのか……?
あまりのショックに天を仰ぐ。太陽は私の気持ちなど知った事か、とギラギラ輝いていた。
「そ、そんなに落ち込まないで。ほら、今から私用の水着に着替えれば良いだけでしょ? そっちでも写真を取れば……」
落胆する私に優しい声を掛けてくれるファインだが、その内容は間抜けな私に追い打ちをかける物だった。
私用の水着を別に持ってくる。……その手があったかァ~~……ッ。
「あ、あれ? グリード、大丈夫? 何か凄い顔で動かなくなっちゃったけれど……」
「そいつのメモリ8ビット脳のこった、替えの水着持ってきてねェンだろ」
「うぅ……せめて上着があれば……。シャカのパーカー貸してくれぇ……」
私を罵倒しながらパラソルやビーチチェアを設置しているシャカに、縋るような目線を送った。
「しゃあねェな」
思わずため息が聞こえてきそうな表情のシャカが、パーカーのジッパーを降ろす。すると、彼女が着ている水着が露わになった。
上はホルターネック型、胸の部分が蜘蛛の巣のようなデザインになっている。下の方はタイサイド――所謂紐ビキニと呼ばれるもの。色は上下共に黒。
総評を述べると、私のスクール水着やファインのパレオ水着に比べて露出が多いのでなんかエッチです。
「……」
パシャ
「おいファインどうして無言で写真撮った?」
「あ、ごめん。撮るね?」
パシャ
「いや声掛ければ良いってもんじゃねェだろ!? 許可取れよ!! 何か知能下がってねェか!?」
“別に減るもんじゃねェから構わねェけどよ”とシャカールが呟き、私の方にパーカーを放って来る。
「ほら、着とけ」
「あ、ありがと」
受け取ったパーカーに袖を通すと少し暖かかった。太陽の熱を吸収したのか、それともシャカールの体温か。あれだけの露出だ、彼女の素肌から伝わった体温が残っていてもおかしくは……うん、これ以上考えるのは止めよう。
妙な気恥ずかしさを覚え始めた頃、私は思考を停止した。そこから遊びの方向に考えを急発進させる。
「じゃあ早速ビーチフラッグやろっか! ちゃんと旗も持ってきたから」
砂場に旗を突き刺し、10mほど距離を取る。
「ほらシャカール、一対一。レースじゃいつも負けてるけど、これなら多分勝てるからリベンジさせてもらおっかな」
「黒星増やしたいンなら相手してやンよ」
シャカールが不敵に歩いて来るのを見て、私は砂の上に伏せる。
「アッッツ!!」
それと同時に脚を焼かれた。太陽熱をたっぷり吸った砂に焼かれた。無防備な下半身を焼かれた。
「アホか。お前は何のためにサンダル履いてンだよ」
「いやいや! ちょっと待って! え、何!? だったら他の人はどうやってビーチフラッグやってんの!? みんな我慢してんの!? この砂の上で!? 焼き肉志願者ですかい!?」
「熱いのは表面だけだ。数センチも掘れば事足りる。俺のパーカー使っていいから掘れ」
言われるがままにパーカーで肌を防護しながら砂を掘る。ザクザクと4、5回掘ると、随分と砂がひんやりしてきた。
「ヨシ! これなら問題無し!」
少しくぼんだ砂地に伏せる。
「ほらシャカールも」
「……そこだけで良いのか?」
私の方は準備万端だというのに、シャカールは意味の分からない問いを投げかけてくる。
「何の話? とにかく早く始める!」
「……了解」
私が催促すると、ようやく構えの体勢に入った。お互い地面に寝そべり、腕立て伏せのような体勢に。
「合図はトレーナーがお願い!」
「うん。それは分かったけど、フラッグの方も……」
そこで、不自然に言葉が途切れた。隣のシャカールが少しだけ体を起こして、口元に一本指のジェスチャーをトレーナーに送っている。トレーナーの方を見ると口元を手で隠していた。口元を隠す一瞬、笑いをこらえるような表情をしていたのが気になったが、今は目先の勝負に集中集中。
「それじゃあ、よーい……ドン!」
合図と同時に腕で地面を押し、上体を起こす。次いで膝を上体の方に折り曲げ、サンダルの裏で大地を踏みしめる。座りこんだ体勢から体をコマのように回転させ、旗の方に向き合う。そこからは速かった。地面を蹴り、体を加速させ、一歩、二歩。もう旗が目の前に。勢いそのままに旗をダイビングキャッチ。
勝った……!
旗を握る確かな感触に、勝ちを確信する。
「アッッツァ!!」
直後、足を焼かれた。また焼かれた。再度焼かれた。
「旗の周辺も砂を掘らねェからそうなンだよ」
飛び跳ねながら悶える私を尻目にシャカールは悠々と歩き、私が手放した旗を拾い上げる。
「俺の勝ち」
無慈悲な勝利宣言が降ってきた。
「うぅ……ひどいや……。みんなして私をバカにして……」
シャカールはもちろん口止めされたトレーナーも、おそらくファインも私の見落としには気づいていたはず。にもかかわらず、誰もそれを口にしなかった。私は道化にされたのだ。
「ご、ごめん。グリードがいいリアクションするからもう一回見てみたくってさ……」
「ごめんね。ちょっと魔が差しちゃって……」
「お前が不注意なのが悪いんだろ」
パラソルの下、体育座りでしょげていると、トレーナーとファインが申し訳なさそうな表情を浮かべるが、シャカだけはブレずに私のアホさ加減を責めてくる。
「シャカールはさ! 口止めしてまで私の脚を焼きたかったの!?」
「勝つためにそうしただけだ」
私の文句もどこ吹く風、シャカは大きなバッグを漁っている。
「この論理屋! 頭でっかち! お前のパソコンステッカーだらけ! 勝負服の露出が……」
「スイカ割り、どっちやる?」
「割る方で!!」
私は迷わず目隠しと棒を受け取った。
ちなみにスイカは爆発四散した。私の叩く力が強すぎたせいです、はい。
(ファインモーション)
日よけのパラソルが役に立たないぐらい太陽が傾いた頃。海から上がった私は陸地で休んでいるトレーナーの横に座る。
「あれ、ファインもギブアップ?」
「うん。流石に疲れちゃったな」
沖の方を見ると、グリードとシャカールが泳いでいるのが見える。
「ビーチフラッグからスイカ割り、シュノーケリングにスキムボード、加えて遠泳まで。よくやるなぁ……。若いのにはついていけないよ、まったく」
「グリード、遊びとなると無尽蔵のスタミナを発揮するからね」
そうこう話している間にグリードとシャカールが沖から戻って来る。
「シャカ、泳ぐの速すぎない!? 10本やって1本も勝てなかったんだけど!?」
「そういうお前は……もうちょっと疲れた素振りを見せやがれ……」
珍しく疲労困憊のシャカール。さしもの彼女もグリードに付き合いきれなかった様子。
「もうバテたの? 体力無いなぁ。これから潮干狩りでもしようと思ってたんだけど……トレーナーかファイン、一緒にやらない?」
朝から遊び通しなのにまだ遊ぶ気力があるのか。驚きを通り越して畏怖の念を覚える。
「私は十分遊んだから止めておこうかな」
「私も……というかグリードも止めときなよ、日も沈みかけだし。それに貝を取ってどうするつもり?」
「宿泊所で料理してもらえたりしない?」
「しない」
「ちぇー……」
口を尖らせ、しぶしぶといった様子で熊手を片付けるグリード。トレーナーに止められなければ、一人でも実行していたに違いない。
「そのスタミナをレースでも発揮できれば言う事無しなんだけどなぁ……」
「遊びとレースのスタミナは別タンクよ。……トレーナー、その二つを連結してくんない? そうすれば私、ステイヤーとして生まれ変われそうなんだけど」
「う、う~ん……流石に難しいかな」
グリードの無茶振りにトレーナーが困り顔で受け流す。よく見る一連の流れも、トレーナーの方が疲弊しているせいか、少しぎこちない。
「まぁ、海ではしゃぐのはこれぐらいで良いかな。じゃ、夕飯食べたら皆で肝試し行こっか」
「あ“ァ”!?」
肝試し。グリードがそう口にした瞬間、シャカールが突然大声を出した。
「お前に付き合ってクソ疲れてンのに肝試しなンか行けるかよ!」
「疲れてるって言っても歩くだけだよ? ここら辺は有名な心霊スポットがあるから、巡回ルートも確立されてるらしいし」
「巡回ルートが確立されてるのは心霊スポットって言えンのか……? そもそも何を目的として肝試しなんか行くんだよ!? あ“ァ”!?」
「そりゃ、みんなで歩き回りながら肝試しを話のタネに盛り上がるのが目的でしょ。ウィンドウショッピングと同じ」
「だったら明日の朝イチにでも都市部に帰ってやってろやァ“……!」
きつい言葉でグリードに反論するシャカール。その光景は見慣れたものであるのだが、シャカールの言葉にはいつもと違うニュアンスが含まれているような気がする。
「あれ? もしかしてビビってる?」
シャカールが一瞬、言葉に詰まった。
「誰が何にビビッてるってェ……!」
グリードを睨むシャカールだが、少しだけ頬が引きつっているように見える。
「ならいいじゃん。私も暗いのとか怪談話が苦手な奴に強制したりはしないけどさ~。そうじゃないなら一緒に行くよね?」
グリードの言い回しは“肝試しに来ない奴はビビりだ”と暗に意味している風に聞こえる。事実、彼女の話し方からはそのような意図を感じた。
それを受けてシャカールは必死で肝試しを回避するための言い訳を考えている様子。
「……よ、夜に出歩くのは危険だろ……! 別に俺やお前やトレーナーは良いかもしれねェが、ファインに関してはSPがどう言うか……」
「それについては心配ございません。海水浴の時と同じ警備体制でかかれば十分に安全は確保できます。灯りの方もここに」
「うわ、めっちゃ明るい。軍用の奴とかじゃないこれ?」
撤退を試みたシャカールだが、退路はSPの隊長によって塞がれた。
「……分かったよ!! 参加すりゃいいンだろ!!」
果たしてシャカールは観念せざるを得なかった。
エアシャカール実装!
やっとこさの公式供給、たまりませんわ。
私服がターボ師匠の勝負服みたいで笑っちゃいました。
「Parcae」が導き出した、正しくロジカルな私服。良いと思います。
4話までのキャラストーリー、声優さんの演技も相まって神。
俺もシャカールのケツ追っかけて職質されてぇ……。
……まぁ引けなかったんですけどね。
提供割合見たら、ピックアップなのに0.75%で乾いた笑いが漏れました。
いつのまにそんなに星3キャラ増えてたんや……
ジュエルを天井分まで溜めていなかった私が全面的に悪かった……。
アプリにシャカールが追加され、いよいよ存在意義が危ぶまれるこの作品ですが、完結まで書いているので最後まで投稿しようと思います。
解釈違いは勘弁してください……。まさか投稿中に実装されるとは思ってもみませんでした……。