富と名声のためにトレセン学園の門戸をくぐったら同期が王族と気性難な件について   作:RKC

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16話 カラオケ大会の景品は「全国ラーメン味比べ」だった

 

(スーパーグリード)

 

 シャカの水着が派手だったり。スイカが爆裂四散したり、幽霊が出たりと忙しかった夏合宿初日。しかし、初日が過ぎれば合宿らしく練習漬けの日々が始まった。練習する環境が変わっため、始めこそ新鮮な気持ちで練習出来ていたが……まぁ、3日もすれば慣れるよね。練習内容が地味な基礎練習と言うのも相まって、今の私は合宿に来ているとは思えない程テンションが下がっていた。

 

「やっと練習終わった~~……」

 

 合宿所の部屋に戻るなり、布団にダイブする。

 

「疲れた……疲れた疲れたぁ~……。今日はもう立ちたくない……」

 

 寝そべりながらスマホを起動する。

 

「来る日も来る日もおんなじ練習……。ファインみたくレースに出~た~い~!」

 

 夏合宿の途中にファインの復帰戦があった。元々、怪我が心配されていただけで実力十分の彼女は、悠々と一着を(さら)った。

 

「出たいなら出ればいいだろうが」

 

 手足をジタバタさせる私の上からシャカの声が降ってくる。

 

「いや、レースには出たいけどさぁ……今のまま出ても勝てないし。勝てないとレースは楽しくないし。けど、基礎練習は死ぬ程楽しくないし。とはいえ、練習しないと勝てないし……あれ? 詰んでない?」

 

「まったく詰んでねぇだろうが。勝てるまで練習すりゃあ突破口が(ひら)けるだろうが」

 

「それじゃあ、勝てるまでつまらないじゃん!!」

 

「“つまる”“つまらない”で練習するもんじゃねぇだろ……」

 

「私の楽しみはこの時間だけだよ……」

 

 スマホの表計算アプリを立ち上げ、そこに今日行った練習を書き込んでいく。すると、アプリが自動で計算を行い、今まで行った練習量の合計を算出してくれる。

 

「あ~、数字が増えてく増えてく……」

 

 こうして自分がどれだけ頑張ったかを視覚的に確認する事が、今の私の楽しみだ。こうする事で、明日も頑張ろうという気になれる。

 

「あ、スクワットの項目が四桁の大台に乗ったぁ……。ふっひひひひ……」

 

 布団に頬をこすり付けながら、悦楽に浸る。この時間がたまんねぇんだわ。

 

「またやってるね、グリード」

 

「絵面は最低だがやってる事は結構合理的なンだよな……」

 

「意味も無く分散だしちゃお~……。走行距離の分散は小さいけど、筋トレの項目は大きいや。そりゃそうだよね~、筋トレは2,3日おきにしかやってないし~……」

 

 トランス状態の私はどんな事でも面白く感じられる。気ままに表計算ソフトをいじくり回して遊んでいると、部屋にトレーナーが入って来た。

 

「良かった、全員いるね」

 

「……あー、何か用か? トレーナー」

 

 こういう時、いつもなら私が真っ先に応対するのだが、疲れ切った私は寝そべったまま。代わりにシャカが受け答えをしてくれた。

 

「さっき耳に挟んだんだけどね。この近くで夏祭りが開催されているみたいなんだけど、よかったらみんなで行こうかな、と思って。練習の後だし、疲れてたら部屋で休んでいても良いけど」

 

「お祭り! 私は行ってみたいな!」

 

 真っ先に参加表明をしたのはファイン。

 

「シャカールも一緒に行こうよ! ね?」

 

「しょうがねェなァ」

 

 シャカールはファインに誘われて参加を決定する。

 

「グリードはどうする? 随分疲れてる様子だから、嫌なら休んでても……」

 

「やはり夏祭りか……いつ出発する? 私も同行しよう」

 

 対して私は、すでに寝間着から浴衣に着替えていた。

 

「行く気満々だね」

 

「どこから持ってきたんだ、その浴衣」

 

「部屋のクローゼットに置いてあったよ。旅館みたいだよね、この合宿所」

 

 合宿初日に部屋の中を色々と調べておいたのが、ここに来て役に立った。

 

「というか、“今日はもう立ちたくない”って言ってなかったか?」

 

「遊びと練習のスタミナは別よ、別。 ほら! みんなも着替えてさっさと行く!」

 

 この私が祭りと聞いて床に伏せているわけにはいかない。みんなの尻を叩くようにして会場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(エアシャカール)

 

 祭りの会場に来た俺ら一行。とはいえ、グリードが雄たけびを上げながら単独行動を始めた上に、それをトレーナーが追いかけたため、今は俺とファインの二人きりだ。

 

「わぁー……! すごい灯りの数!」

 

 祭り会場にたくさん並べられた提灯が殿下様の琴線に触れたご様子。

 

「それに屋台もたくさん! ファン感謝祭の時よりも多いよ! ラーメンの屋台は無いのかな!?」

 

「流石にねェよ」

 

「それは残念……」

 

 少しだけ残念な顔をするファインだが、すぐに気を取り直す。

 

「この服……浴衣だっけ? 日本の民族衣装なんだよね。柄が繊細でとっても素敵! 左右非対称のデザインも珍しいよね」

 

「確かに。アシンメトリーの美意識が優位の国は少ねェからな」

 

 そこで改めてファインを見た。

 彼女の浴衣は緑の下地に赤いアジサイの花が柄としてあしらわれている。帯は白色。いつものリボンではなく(かんざし)で髪を留めているため、和装としてのまとまりも良い。履物(はきもの)草履(ぞうり)鼻緒(はなお)が柔らかい素材なので指の間を痛める事もないだろう。

 

 ちなみに俺達と比べて、ファインの浴衣だけはかなり豪華だ。部屋に備え付けてあった安物の浴衣では無く、合宿所の受付で上等な奴をわざわざ借りた。

 

「それに体のラインを隠しているのに綺麗に見えるのが良いかな。ドレスは体のラインがはっきり出るからスタイルを良く見せる必要があるんだけど、コルセットで無理やり引き締めるのがキツくてどうもね……」

 

「十分スタイル良かったと思うが?」

 

 合宿初日にファインの水着姿を見たが、太っているとか、貧乳とかいうわけでは無かった。その疑問を聞いてみる。

 

「……サイキン、チョット、フトリギミデ……」

 

 すると、ファインは目線を逸らしながらギクシャクと答えてくれた。

 ……そういえば、直近のレースが終わってからファインの喰う量が増えてたっけか。

 

 ウマ娘は体重の増減が激しい。一度のレースで数キロ体重が減少する場合もあれば、一週間たたずに10キロ増える奴もいる。

 そんな体質で常に良いスタイルを保つのは至難に等しい。トレセン学園に入る前のファインは王族として、季節を問わず社交界に出ずっぱりだっただろう。コルセットの必要性が理解できた。

 

「とはいえ、帯の締め付けがあるだろ? ……ったく、違和感で気持ち悪ィ」

 

 ファインに問いかけながら、自分の帯を直す。

 

「全然緩い方だよ。コルセットは本当にキツくてキツくて……。体がちぎれるかと思った時もあったな……」

 

 遠い目をしながら語るファイン。どうやら俺の想像以上に苦労したご様子。

 

「まぁなンだ……大変だったンだな」

 

 ファインにとっては珍しく、苦々しい微笑を浮かべていたので、俺にしては珍しく同情の姿勢を見せておいた。

 

「あれ? ファインとシャカじゃん? こんな入り口付近で突っ立って何やってんの?」

 

 すると、グリードが突然話しかけてくる。彼女は頭にきつねの面、背中には特大ぬいぐるみ、右手には水風船のヨーヨー、左手にはハンドスピナー、そして手首足首にはサイリウム装着のフルアーマーだった。

 ……グリードの装備に少し違和感を覚えたが、判然とはしない。そのまま返事をする。

 

「逆にお前は何やってンだよ。別れてから20分も経ってねェぞ」

 

「凄い装備だね! それが夏祭りでの正装なの?」

 

「ふっふっふ、その通り! ささ、殿下も同じ装いに……」

 

「このアホ。留学生に間違った知識を植え付けてンじゃねェよ」

 

 平然と嘘を吐くグリードの口に目掛けて、ヨーヨーを弾いた。

 

「っでぇ……! 口だけで注意してくれないかなぁ!? ……ったくもうシャカは本当に……」

 

 グリードがブツブツと文句を言う間に、さっきの違和感の正体に気づいた。こいつの装備は祭りの屋台で買ったものだろうが、物品ばかりで食べ物が無い。焼き鳥、イカ焼き、綿あめ等、食べ歩ける料理がいくらでもあるだろうに。

 

「……詫びにタコ焼きでも奢ってやろうか」

 

「う~ん、タコ焼きかぁ~……」

 

 俺がそう言うと、グリードは渋い顔をする。

 

「なンだ? イカ焼きの方が良かったか?」

 

「あー、いや、そういうわけじゃなくてね……」

 

「やっと……見つけた……!」

 

 グリードが頭に装備したお面の位置を直しながら言い淀んでいると、掠れるようなトレーナーの声が聞こえてくる。

 

「勝手に……行動しないで……お願いだから……!」

 

「あ、ごめんごめんトレーナー。ついテンション上がっちゃってさ」

 

 トレーナーは人ごみに揉まれたのか、服が随分と着崩れていた。それをグリードが最低限直す。

 

『これより、予定されていたカラオケ大会が開催されます。飛び入り参加も可能ですので、奮ってご参加ください』

 

「はいはーい! 参加してきまーす!」

 

「あ、ちょっと! グリード!」

 

 トレーナーはグリードの背中を追って駆け出す。今日は散々振り回される羽目になりそうだ。再びファインと二人きりに。

 

「どうする? 俺らも行くか?」

 

「私は提灯通りをもう少し歩いてみたいかな。それにSPを携えたまま人ごみに向かうのも迷惑になるだろうしね」

 

 ファインが視線を送った先にはSPの隊長が。他にも数人の護衛が遠巻きにこちらの様子を(うかが)っていた。

 

「シャカールが良ければ、もう少し私に付き合ってくださるかしら?」

 

「へいへい……、殿下の仰せのままに」

 

「うむ。共に来る事を許してつかわす!」

 

 俺が大仰にお辞儀を返すと、ファインは満足そうに歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋台やら何やらに目移りするファインを抑えながら、散策すること十数分。食事場として設置されているテーブルに座り、買い込んだ屋台の料理を頬張っていた。

 グリードが参加しに行ったカラオケ大会の方に人が集まっているのか、こっちの方は閑散としている。

 

「シャカール、タコ焼き食べる?」

 

「あぁ」

 

「はい、あーん」

 

 当然の様にたこ焼きを手ずから食べさせようとするファイン。俺はそれを無視し、もう一本ある楊枝(ようじ)でたこ焼きを喰らう。

 ソースとマヨネーズの味を堪能した後、顔を上げるとファインの頬が膨れていた。

 

「ほっぺたタコ焼きにしてどうした? カツオ節かけてやろうか?」

 

「もう! 分かってる癖に!」

 

「あいにく俺は故郷の羊じゃないンでね」

 

 昔、似たようなシチュエーションで“故郷の羊に牧草を食べさせてあげたのを思い出すね”とファインに言われたのを俺は忘れてない。

 

「むー……一年以上前の事なのに」

 

 ファインは拗ねたようにたこ焼きを口に放り込む。最近はこういう子供っぽいファインを見るのも慣れてきた。初めの頃はもう少し真面目な奴という印象だったのだが。

 

 その変化は、禁じられていた“レースで走る事”を解禁されたから生じたのか。それとも、単純に長い時間を一緒に過ごして俺に気を許しているのか。……できれば後者の方が良い。

 

「……っ」

 

 そこまで考えて、楊枝をたこ焼きにぶっ刺す。同時にボキ、と折れる音が聞こえた。

 

 何ウェットになってンだ俺は……。

 

 感傷的になってしまったのを恥ずかしく思いながら、もう一つたこ焼きを喰らう。

 

「あ、この声。グリードじゃない?」

 

 耳を澄ませてみると、確かにグリードの声が聞こえてくる。カラオケ大会であいつの番になったのだろう。

 ……今思ったが、レースに出ているウマ娘はウイニングライブ出演するため、アイドル的な側面を持ち合わせているとも言える。そんなアイドルがアマチュアのカラオケ大会に出ても良いのか? いや、トレセン学園の合宿所の近くで開催している以上はそういう事態も想定している……のか?

 

 グリードの歌声をBGMに、どうでも良い思考が頭をよぎっていく。こういう時はえてして考えなくても良い事を考えてしまうものだ。

 

 対面にいるファインを視界の端に捉えながら思いを馳せる。

 

 八月の初旬。ファインは函館のレースで一着を取った。この結果は今のファインなら当然。そしてファインは今年の目標として秋華賞やエリザベス女王杯を目指している。私見だが恐らくこれにも勝つだろう。間近でファインの走りを分析しているため、予想がつく。

 脚部不安こそあったものの、ファインは走り始めて一年ぐらいしか経っていないのに、ポンポンと一足飛びで成長してきた。まるで限界など無いと言わんばかりに。

 

 ……だが、そこまでだ。ファインのピークはエリザベス女王杯。そこからは緩やかに衰えていく。そういう成長曲線を描くタイプだ、こいつは。

 

 エリザベス女王杯が今年の11月。その時にはファインがレースで走り始めてから約一年半になる。そしてファインの貰った期限は3年。

 残り半分の時間、こいつは思うように勝てないまま――衰えながら帰国することになる。

 

 俺はテーブルに目線を落とした。

 

 ……残酷なモンだな。お前には走りの才能なンか無かった方が良かった。それかピークが終わる前に期限が切れれば。

 

 俺のように絶望を味わわずに済むのに。

 

 

 

「? 何か顔に付いてる?」

 

 いつの間にかファインを注視してしまっていたらしい。ファインが首を傾げて聞いてくる。

 

「……ソースがな」

 

 ファインの綺麗な肌には何も付いていない。しかし、俺は抱えていた思いを悟られまいと、誤魔化すようにティッシュでファインの頬を拭いた。

 

「気づかなかった……。ありがとね、シャカール」

 

 ファイン再び食事に戻り、満足そうな顔で舌鼓(したつづみ)を打っている。

 

 ……それとも、お前が俺の光になってくれるのか? 俺の想像している限界なンか無いものみてぇに飛び越えて行ってくれンのか……?

 

 ファインの楽しそうな顔を見てそんな願望を抱いた。

 

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