富と名声のためにトレセン学園の門戸をくぐったら同期が王族と気性難な件について 作:RKC
(スーパーグリード)
ファインと別れた後、シャカと一緒に先輩たちの朝練を見にきた。隣のシャカは地べたに座り込み、膝の上のカタカタとノートパソコンを叩いて忙しそうにしている。しかし、私は見ているだけではまったく面白くない。
「すいませ~ん! 私も走らせてもらえませんか!」
大きな声を出すと、コースにいる先輩達やトレーナーと思しき人が一斉にこちらに視線を向けてくる。私は人好きのする笑顔を浮かべ、大きく手を振った。
寝る前のスマイル練習が功を奏したのか、トレーナーが“仕方ないな”と言う顔で手招きをしてくれる。私は超特急でコースに乗り込んだ。
「走っても良いんですか!?」
「君は新入生だよね? 本当はまだ走らせちゃいけない決まりなんだけど……朝早くからきてくれたみたいだし、特別だからね?」
「よっしゃーー!!」
コースで走る許可を貰った私は、その場で制服のスカートを脱ぐ。こんな展開もあろうかとスカートの下に体操服を着ていたのだ。靴も入学祝いに買って貰ったおニューの奴を鞄から取り出して履く。二日かけてしっかりと慣らしておいたので、ぴったりフィット。
上は学生服、下は体操服と言うちぐはぐな格好のまま、準備運動を始める。
「シャカは走んないの?」
「俺はいい。運動着が手元にない」
ちぇっ。一緒に併走して私の走りを見せつけようと思ったのに。
「なら私のデータ、しっかり取っとけよぉ! シャカが私に挑む事もあるだろうからね!」
シャカは萎えた表情をした後、ノートパソコンを閉じかけたが、カタカタとキーボードを打ち始めた。
私の方も準備運動を終え、ターフに立つ。一面、芝、芝、芝。地元の砂のコースとは大違い。
うお~……すっげぇ広い。これが中央の設備か。どれだけ金がかかってるんだろ。
なんて俗っぽい事を考えながらスタート体勢に入った。周りからの視線を感じる。先輩達やトレーナー、加えてシャカの視線だろう。
心地よい注目を浴びながら、私はスタートを切った。
(エアシャカール)
「…………中の上だな」
それがグリードの走りを見た感想だった。フォームは発展途上、俺の目でも粗が分かる。加速力は並。最高速度は少し速め。スタミナはそこそこ。
ま、成長しても重賞で入着できるかどうかってレベルか。
単独で走っているためレース運びの上手さなどは推し量れないが、走りにおいてはその評価でおおむね間違ってないはず。
「…………チッ」
舌打ちが漏れる。俺は昔からこうだ。人の
しかし、この分析力は時に毒にもなる。成長の限界だって分かってしまうのだから。
「くそ……ッ!」
頭をガリガリと掻く。
……探さねェと。日本ダービーを乗り越える
平凡なグリードの走り。役に立つ事は無いだろうが、一応データを取っておく。どこにヒントがあるか分からないから。
(ファインモーション)
「あれは……」
理事長室で手続きを終えた後、始業式まで手持ち無沙汰だった私は校内を見回っていた。すると、今朝出会った子がコースで走っている姿を目にする。
彼女――グリードはとても楽しそうに芝の上を駆けていた。ただ走るだけであんなにキラキラ出来るなんて。
ウマ娘と言う種族は本能的に走る事を求め、楽しむ傾向があると言われている。だから彼女の楽しそうな様子も頭では理解できる。
しかし、心からの納得はできない。だって私は本気で走った事が無いから。王族として生まれ、危険だからと全力で走る事を禁止されていた。今も同じ、「絶対安全」を条件に留学している身。走る事は当然禁止されている。
私も走ればあんな風に……。
無意識に足踏みをしていた。いけない。足を落ち着かせる。
私が日本のトレセン学園に来たのは海外の文化を学ぶため。そして私と同じくらいの年齢で本気の夢に向かって努力する子達と友達になるため。きっとそれらは私の財産になって、これから成すべき事の糧になるはず。
決して走るために留学しに来たわけではない。
しかし、時折考えてしまう。あの芝の上で走る事が出来たら、レースで走る事が出来たらどれだけ気持ち良いのだろう、と。
(スーパーグリード)
「ふー……」
ひとっ走りを終えた私は一息つく。
「良い走りだったね」
いつの間にか隣に来ていたトレーナーが水筒を渡してくれる。ストロー付きだったので、そこから水を吸い上げた。
「どうでしたか!? 私の走り!」
水分補給を終えた後、自信満々に聞く。
地元じゃ敵無しだった私の走り。どれくらいのもんかなぁ……。もしかしたら、私のすんばらしい走りを見て “すごい! 君ならクラシック三冠も取れる!” な~んて、この場でスカウトされちゃうかも……。
「へへへ……」
「うん。良かったと思うよ。努力次第で重賞への入賞も夢じゃない」
妄想する私に非常に客観的な評価が下される。
…………あっれ~~? 何というかすっごい微妙な評価いただいちゃいました……。
冷や水を浴びせられたように気持ちが冷める。
「そ、そうですか……」
「僕のチームに空きがあれば、この場でスカウトしても良かったんだけどね。ちょっとタイミングが悪かったかな」
なんてフォローの言葉を貰ったが、今の私には本音では無く建前にしか聞こえなかった。
へへへ……私みたいな微妙なウマ娘をスカウトだなんてまたまた。どうせ空きがあっても声はかからないんでしょう?
……ダメだ、思考が悪い方に流れてしまっている。ペチペチと頬を叩いて気合を入れ直した。
どうやら今の私は井の中の蛙だったようだ。楽してガッポガポのウッハウハとはいかないか。しかし、井の中の蛙という事を知れた。天狗になったまま無為な時間を過ごすのは防げたのだ。今はそれだけで儲けものと思おう。
何事もポジティブに、ってね。それが私の人生哲学。
「それより汗だくだけど……入学式、大丈夫?」
「え?」
自分の体に意識を向けると、シャツがべったりと肌に張り付いていた。
「…………タオル、あるだけ貸してもらえませんか?」
入学式までに必死で汗を