富と名声のためにトレセン学園の門戸をくぐったら同期が王族と気性難な件について   作:RKC

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わざわざ感想をくださる方、いつもありがとうございます。
感想は全て拝見していますが、今後の展開に触れているものについては感想返信が難しいのでスルーさせていただいてます。ご容赦ください。


20話 私じゃダメなんだよね

 

(ファインモーション)

 

 走る事。それは私にとって楽しい事だった。ターフの上で、他のウマ娘達と全力で競い合い、抜かし抜かされるあの感覚は何物にも代えがたい心弾む体験だった。

 

 ――そう、“だった”。

 今はどうだろうか? ただ走るだけで楽しいなどという感覚を覚える事はもはや無い。私に競う事の興奮を教えてくれたシャカールと並走する事すら、今は楽しむことができない。走れば走るだけ、……シャカールと一緒にいればいるだけ、頭に嫌なノイズが走って目の前の事に集中することができない。

 

 全ては過去の物になってしまった。

 

 

 

 

 

 

「おい、ファイン」

 

 今日の練習が終了し、寮に帰る途中、シャカールに呼び止められた。

 

「……その、ごめんね?」

 

「――待て、なんで初手謝罪から入った?」

 

 面食らっているシャカールに理由を説明する。

 

「蝶々、あれから全然見えてないから。有もすぐ迫ってるのに」

 

 シャカールは私に何かを見出して、それを手がかりに自分の限界を超えようとしていた。私は未だ、その期待に答えられていない。

 

「ンな事かよ。今はそんなのどうでも良いだろ」

 

「良くないよ!」

 

 シャカールの言葉に、少しだけムキになってしまった。すぐに声を落ち着ける。

 

「……私、シャカールの役に立ってみせるって言ったのに。ようやく君のために何かできるって思ったのに。結局は何もできてないから」

 

 自分の限界にずっと苦しんでいたシャカール。一年以上、蚊帳(かや)の外に居続けた私がようやくチャンスをつかんだ。にも関わらず私は何もできていない。シャカールに何も返せていない。

 彼女は私に走る事、競う事の楽しさを教えてくれたのに。

 

 こんな無力な私が故郷に帰ったとしても、立派に使命を果たす事ができるのだろうか? 一人の親友の手伝いすらしてあげられない私が、百万単位の民がいる故郷の礎となる事なんて……。

 

「~~~ッ! ンな事どうだって良いンだよ!!」

 

 自尊心をズタズタに引き裂かれ、負の感情に憑りつかれた意識を引き上げてくれたのは、シャカールの怒声。

 

「てめェの面倒も見切れねェ奴に心配される謂れはねェ! 他人の前にまずは自分だろうが!!」

 

「自分の、って……」

 

「期限、気にしてないとは言わせねェぞ。バカみたいにニコニコしながらやってた練習も、最近はシケた面ぶら下げて義務のようにやってやがる」

 

「……」

 

 できるだけ顔には出さない様にはしていたのだけれど、バレていたようだ。

 

「今はお前の方が大変な時期だろうが。……もっと周りを頼れよ。何も言ってくれねェとこっちも手の打ちようがねェんだ」

 

 珍しく、困ったような顔をしているシャカール。彼女の発言に対して強く思った事は一つ。

 

「……シャカールも一緒だよ」

 

「あァ?」

 

 ズルいよ、シャカール。

 

「自分が大変なのはシャカールも一緒だよ。限界にぶつかったまま有効な手段を見つけてられてない君も! ……ならどうして君は私の心配をするの? 君だけは自分より人の事を優先しても良いの!?」

 

 いけない。今の私は一種の錯乱状態にある。頭の冷静な部分ではそう分かっていても、口は止まってくれない。

 

「そりゃあ…………お前だか……ら……

 

 シャカールはそこまで言って口ごもる。

 

「俺の事情は後回しでも間に合う事で……」

 

 今度はそこまで言って、ギリギリと歯ぎしり。

 

「――お前だからだよ!! 今は自分よりテメェの世話を焼きたいからそうしてンだ!! 文句あるか!?」

 

 最後にはそう告白してくれた。

 

 目の奥から湧いて出てくる物が零れない様に上を向く。

 

「私……わたし……」

 

 その続きは言えなかった。言ってしまえばもっと辛くなるから。

 

「ごめんなさい……!」

 

「おい!」

 

 痛む胸を抑えながら、その場から逃げだす。その日は自分の部屋でずっと(うずくま)っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(スーパーグリード)

 

 12月21日の行われた年末の大一番、有記念。結果から言うと、ファインが5着でシャカールが8着。

 今までほとんど無敗だった二人が3着以内にすら入らない。それは少なくないショックを私に与えた。これからはクラシック期も終わりを迎え、シニア期に入る。そうなれば同年代の子だけでなく、先輩とも競わなければならない。当然、その分選手層が厚くなり、勝つ事は難しくなるだろう。

 

 ――いや、そんな事は関係ない。来年こそ重賞で白星を挙げてみせる。

 

 センターでライブを踊る子を眺めながら、静かに決意する。

 

 密かに気合を入れる私とは裏腹に、チームの雰囲気は過去最悪だった。有の前も結構などんよりムードだったけれど、今はそれ以上。

 特にトレーナーがヤバい。有の翌日は特大の隈を目の下に作ってきた上に、お腹に手を当てている事が多くなっていた。どこか猫背気味にもなっていたし。

 心配になった私は病院に行くように言ってみた。その翌日、顔色が多少はましになっていたので、何とかなったのだとは思う。

 今まで負けてこなかった二人が負けちゃった責任を感じているのだろうか? それにファインの帰国の件についても、まだ悩んでいるのかもしれない。あんまり無理はしないで欲しいな。

 

 そしてファインとシャカールの方。こっちは有の前からどこか関係がおかしくなっていた。一緒に練習していても、どこか余所余所しい。いつもは仲良さそうにしていたのに。喧嘩でもしたのかな?

 

 それに加えて、ファインはレース引退の件についてもまだ解決していない様子。有では勝てなかったし、帰国しなければならない期限は刻一刻と迫っている。気に病むのは仕方が無いと思う。

 

 バラバラなチーム。それを立て直すためにはどうすれば良いか? できる事なら、まずはファインを立て直したい。私には及ばないものの、彼女も我がチームのムードメーカーの一人。そこを持ち直せば、一気にチーム全体も立て直せるはず。

 

 さて、ファインを立ち直らせるためにはどうすれば良いのか。その謎を解明するべく、調査隊(わたし)アマゾンの奥地(殿下の元)へと向かった――。

 

 

 

 

 

 

 

「でーんか!!」

 

「きゃっ!?」

 

 こっそりとファインの後ろに忍び寄り、肩を叩いた。すると大層驚いてくれる。

 

「グ、グリード、どうかしたの?」

 

「最近、悩んでる事について聞いても良いかな?」

 

 ここは単刀直入に行く。遠回しに聞くと、多分誤魔化されるから。腹を割って話そうという態度を示せば、ファインはそれに対応してくれると思った。

 

「……やっぱりグリードも気づいちゃうか」

 

「ここまで雰囲気が悪いと流石にね? 一年後には帰国しないといけない事について気にしてる、って事で良いのかな?」

 

「…………」

 

 私が切り込んだ瞬間、ファインの顔が見たこと無いほど曇った。聞いたこっちが罪悪感を覚えるぐらいだ。

 

「――その、私は医者でもないし、カウンセラーでもないけど話ぐらいは聞けるからさ。思ってる事好きにぶちまけてくれて良いんだよ? 私も色々溜まっている時は駄々こねて、愚痴こぼして発散して……」

 

「ありがとう」

 

 ファインにしては珍しく私の話を遮って口を開いた。

 

「でも、大丈夫だから」

 

 昔、ファインのポーカーフェイスに騙された事がある。しかし、今回はどう頑張っても騙されようがない。それぐらいファインの顔からはメッキが剥げていた。

 

「シャカと喧嘩してる?」

 

「……!」

 

 私に背中を向けて去ろうとするファインに、もう一つの実弾を打ち込む。

 

「ごめんなさい……」

 

 結果は震えた声が帰ってくるだけ。けれど、その反応だけでも成果は得られた。

 

「……私じゃダメ、か」

 

 遠ざかるファインの姿を見ながら、次の一手を考え始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(エアシャカール)

 

「あ“ァ“? ファインと二人きりで話せだと?」

 

「そうそう。ホントこれ! この通り! 一生のお願い! 一年後に帰国しなきゃいけない事についてズバッと聞いて欲しい!」

 

 グリードが俺を呼び出して、何の用かと思えばとんでもない事を頼んできやがった。

 

「バカか!? 今のアイツにそんな話しても傷口を広げるだけだ! そんな事も分かンねェのか!?」

 

 丁度良い発散相手を見つけてしまった事で、最近溜まっていた鬱憤がドロドロと溢れてしまう。その結果、グリードの胸倉をつかんで怒鳴るという対応に。

 

「分かってるよ」

 

「テメェ……!」

 

 分かっていながらなおファインを傷つけようとするグリードを目の前にして、ドンドン力がこもっていく。ついにはグリードの足が地面から浮いた。

 

「ぐ、ぅ……っ。でも……()むよりはマシだから……」

 

「あ“ァ”!?」

 

 言い訳をしようとするグリードに、腹の内が煮え返る。また数センチ、グリードを持ち上げた。

 

「怪我したら……傷口を切開して治療する事もあるでしょ……? そうしないと膿んで腐るから……。ファインも……今のままだと、多分……腐っちゃう……」

 

「…………」

 

 そう言われて、少しだけ頭から血が下った。

 

 俺はファインを傷つけたくないばかりに放置していた。しかし、それは本当にアイツのためになっていたのか? ただ孤独に追いやって爆弾を育てていただけだったってのか……?

 

「シャカ……そろそろ限界……」

 

 俺の腕をタップする感触と、細い声に反応して手を離した。ボス、と軽い音が響く。

 

「げほ、げほ……っ。――胸倉掴まれただけで、意外と締まるもんなんだね、首って」

 

 グリードは喉をさすりながら、フラフラと立ち上がる。

 

「……どうして俺に頼む? お前が聞けば良いだろうが」

 

 自分の心情だけを優先していた俺に、ファインと会う資格は無いように感じた。そのためグリードに役目を押し付けようとする。

 すると、グリードは眉をひそませて、

 

「私じゃダメなんだよね」

 

 そう言った。

 後にも先にも、グリードの悲しそうな表情を見たのはこの時だけだった。

 

「いたずらに傷口を広げるだけ。多分シャカならイケると思う」

 

「……根拠は?」

 

「ファインにシャカの話題を振ったら泣きそうになってたから。ファインの心を大きく動かせるのはシャカだけかな、って」

 

 俺の話題で泣きそうに。

 

 最後にファインと二人きりで話した時を思い出す。

 

 あの時も上を見上げて泣かない様にしていた。いや、そもそもどうして俺の話題で……? 何の関係がある……?

 

 考えていても答えは出ない。

 

「……分かった。ファインと話をすりゃあいいンだろ?」

 

「そうこなきゃあ!」

 

 大きく指を鳴らしながら、テンションを上げるグリード。

 

「だがどうやって俺とファインを二人きりにする? 今のファインじゃあ、密室でもない限り逃げちまいそうだぞ」

 

「そこはもう考えてあります! カモン!」

 

「失礼します」

 

 グリードが再び指を鳴らすと、どこからともなくSPの隊長が現れた。

 

「隊長にも協力してもらって、空き教室に二人を閉じ込めようかなと」

 

「シャカール様。殿下の事、よろしくお願いします」

 

 綺麗な姿勢で頭を下げる隊長。今の彼女の声には特別重い感情が込められているように聞こえた。

 

「よせ! 俺はそんなンじゃねェよ。頭を下げられるようなもンじゃあ……」

 

 今の俺には隊長の期待は重すぎた。ファインの事をただ放置していたも同然の俺には。

 

「シャカール様……」

 

「――だがやる事はきっちりやってやる。結果は分からねェがな」

 

 それだけが贖罪の道だ。

 

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