富と名声のためにトレセン学園の門戸をくぐったら同期が王族と気性難な件について 作:RKC
本当はトレーナーの描写でございます。
勘違いをしてしまうような描写になってしまい、申し訳ありません。
また、分かりやすいように前話を加筆修正しております。
日記
スーパーグリード
1月10日(火)
冬休みも終わり新学期が始まった。
――あー! もう何書きゃいいの!? トレーナーに日記付けろって言われたからこうして付けてるけど。何でも自律神経が整うだとか、ストレスが減るだとかメリットがあるらしい。とはいえ初めてで何を書けば良いのかわからない。
――なんて書いている内に結構埋まってるじゃん。今日はこれぐらいにしとこ。
1月17日(火)
日記を書き始めて一週間。最近小さな物音にも敏感に反応するようになった。後ろの子が教科書をめくる音とか、衣擦れの音とか。遠くの音もすぐ近くで鳴っているように聞こえるのが何とも面白い。
――日記書くのにも慣れてきたんじゃない? 初日と比べると雲泥の差じゃん。ちゃんと日記になってるわ。
1月24日(火)
今日、私が出るレースが決まった。2月26日の中山記念。ここで勝てば、GI大阪杯の優先出走権が貰える。きちんと体を仕上げて一着を取ろうと思う。
――真面目に書いている部分を見直すと、なんか恥ずかしくなってくるなぁ……。まぁこれはこれでホラーゲームに出てくる手記感があって良いかもしれない。
かゆい
うま
なんてね。
1月31日(火)
最近、お腹が鳴る事が増えた。食事制限しているので当たり前と言えば当たり前なのだが、それにしても良く鳴る。小テスト中に三回鳴った時はとても恥ずかしかった。
――なんでよりにもよってテスト中に……orz*1 あ、今も鳴った。
おーよちよち。ごめんねぇ、ご飯食べさせてあげられなくて。お願いだからレースまでもうちょっと我慢しておくれ……。
なんで自分の胃袋の機嫌とってんだ、私? アホくさ。
2月7日(火)
今日はSPの隊長に威圧されてしまった。私がファインに話しかけると、急に間に割ってきて今にも掴みかからんばかりに。その後、気まずそうな顔で謝ってくれた。
――なんで?
普通に話しかけただけなのになぁ。“すごい敵意を感じたので”なんて言ってたけど……もしかして目つき悪かったかな?
――うん、鏡で見てきたけど目つき悪かったわ。自分で自分の顔に驚いちゃったよ。前髪、切らずに伸ばそっかな。陰気になるけど、見る人見る人全員に睨みを効かせるよりはマシでしょ。
2月14日(火)
いつもは夜に日記を書くが、今日は朝に書いている。寝起きに鏡を見ると、頬が少しこけていた。頬に空気を溜めると、普段通りに見える。しかし、日中ずっとそうしているわけにもいかない。
結局、学校は休むことにした。クラスのみんなに心配をかけるのも気が引ける。幸いにしてトレセン学園はレース関係で理由を付ければ、学校を休むのは難しくない。
練習も夜に行おう。
――レースまで結構休むことになっちゃうけど、出席日数足りるかな……? 確認、めんどくさいなぁ……。まぁ、多分足りるでしょ。
でも、もし足りなかったら……いや、そんな事ないよね? 今まで休んだことほとんどないし。けど……あーもうめんどくさい! 大丈夫でしょ!
2月17日(金)
お腹がずっと変な感じ。体は食べ物を欲しているのに、心は食事を受け入れようとしない。お腹の異物感の原因が、腹ペコだからなのか、満腹だからなのか分からなくなってくる。水を飲むとお腹が空腹を思い出してくれて、夢の中にいるような浮遊感が無くなるから重宝している。
――ニンジンハンバーグ食べたいなぁ。でもなんでか食べたくない、って気持ちもある。心がふたつあるる~。……誤字った。あーでも消すのめんどいし、そのまま書こ。
ファインが部屋に来てくれて、雑談してくれるのが最近の救いだなぁ……。気が紛れて
「……あ、ペン落とした。…………めんど、今日はここまで良いか」
2月21日(火)
エアコンの音がうるさく聞こえる。誰かの話し声がうるさく聞こえる。時計の針がうるさく聞こえる。
耳を塞ぐ。それでも筋肉の音がうるさく聞こえる。鋭くなりすぎた聴覚が仇になっているようだ。
削ぎ落としたい。
――物騒なこと書いちゃった。削ぎ落としたいだなんて私、異常者じゃん…ヤバいですね☆
もっと他のこと書かなきゃ。他のこと、他のこと……
「……ねぇよ」
2月23日(木)
お腹が空いた。空腹感が凄い。今まで感じなかったのがおかしかったのだろうか。あぁ、にしてもお腹が空いた。なんでこんなに腹減ってんだ? 誰のせいだよこんなに腹減ってんのは、バカか私のせいだったわ、ははははは何笑ってんだふざけてんじゃねぇよわたしのせいだろうがわたしがこんなに苦しんでんのは!―~#!R#W縺オ縺ス難谿コ縺呎ュサ縺ュ縺上◆縺ー繧後縺谿コ縺呎ュサ縺ュ縺上◆縺ー繧後縺
いや
お前らのせいだ
私の前を走る
お前らのせいだ
2月24日(金)
日記を読み返すと昨日の私は随分と荒れていたみたいだ。一晩経って、客観的に振り返ると幾分か落ち着きを取り戻せた。レースまで後2日、もう少し頑張る。
(ファインモーション)
2月26日。中山記念当日。パドックにはぶかぶかのジャージを着たグリードが、目を閉じて立っている。
『6番人気、この評価は少し不満か。スーパーグリード、仏頂面で仁王立ちだ。前髪も前より長いですね。イメチェンしたのでしょうか』
パドックは自分の仕上がりを観客に見せる為、脚を晒す場だ。例に漏れずグリードもジャージを一気に脱ぎ捨てる。
『勢いよくジャージを脱ぎ飛ばし……? いえ、これは……ジャージの下にジャージを着ている! ウケを狙いに行ったのでしょうか』
観客席からは結構な笑い声が上がる。それが収まるのを待たず、グリードは舞台から
「しかも、二枚目は脱ぎません! ジャージマトリョーシカの中にいったいどんな肉体を隠しているのか。手袋もして顔以外まったく肌が見えません。
その正体は本バ場で確認いたしましょう。もしかしたら調整に失敗して太り気味の可能性もありえます」
実況がグリードの行動をイジると、観客席からは再び笑いの声が上がった。
「さぁ、続きまして……」
グリードとすれ違いで、次の子がパドックの上に姿を現す。遠目からでも良くわかる。その子はひどく緊張していた。
パドックを見終えた後、シャカールと隊長と一緒にグリードの控室へ向かった。控室の扉をノックする。
「どうぞ」
トレーナーの声。グリードと一緒に中で待機しているのだろう。
部屋に入るべく扉を開いたその時、無意識にドアノブから手を離してしまった。体が後ろに引かれ、隊長が私の前に踊り出る。遅れて鼓動が加速し始めた。
扉の隙間からは、形容しがたい“気”が漏れていた。それでも言葉にするのなら……敵意、が近いだろうか。
「き、急に申し訳ありません。殿下」
「いいえ、大丈夫です」
謝罪を述べる隊長を後ろに下げる。
意を決して、今度こそ扉を開いた。部屋の中でグリードが椅子に座り、膝の上に肘を置いて前かがみの姿勢でいるのが見える。
「二人とも来てくれたんだ。それに隊長まで」
そのセリフの間に口から覗いたグリードの八重歯が、やけに鋭く見えた。
「ごめん、へち向いたままだけど。……今、目を合わせると多分怖がらせちゃうから」
グリードは自分の前髪をいじる。
「ううん、大丈夫。そのままで良いよ」
部屋の中に一歩踏み入れる。ひどく落ち着かない。空腹の狼と同じ檻に入れられれば、こんな心持ちになるのだろうか。
隊長は私の後に続いて、シャカールは少し
「……そういえばパドックではこけた頬、どうしてたの?」
「こう」
グリードの頬がぷくっ、と膨れた。そこから少しづつ空気が抜け、丁度良い塩梅の顔つきに。
「結構物理的に対処したんだね」
「ここまで来ると流石に化粧じゃ誤魔化せなくってね」
アイスブレイクと思っての会話だったが、私の緊張はまったく取れなかった。それでもグリードに近寄り彼女の腕を取る。
パドックとは違い、今のグリードは半そで姿。二か月前よりも少しだけ細い腕。脚は腕ほどでないがそれでもかなり細い。半ズボンの裾がダブダブだ。
「……お願い、怪我しないで帰ってきてね」
「ん、大丈夫」
グリードは軽い口調で答える。
「トレーナーやファイン、シャカには色々助けてもらったからね。怪我して恩を仇で返すような真似はしないよ。無事に帰って来るし、勝つから」
口調とは対照的に、グリードの目にはほの暗い
(三人称)
『さぁ、本バ入場の時間と相成りました』
次々と入場する子達は、ほとんどが健康的な肉体に闘志をたぎらせてレースに臨もうとしていた。
『次は………………? え、っと……?』
そこに明らかな異物が。ターフに姿を現したのは、枯れた肉体に
「おいおい、あんな体で走れんのかよ……?」
「体を絞ったってレベルじゃねぇし……ヤバいんじゃねぇのか? 」
「出走、止めさせた方が良いんじゃ……」
次第に観客席が動揺で埋まっていく。中にはグリードを心配し、走るのを止めさせようという声も上がっている。
しかし、ゲートの前まで歩いて来たグリードが観客席を一睨みすると、喧騒は一瞬で静まった。ゲートインを待つウマ娘達も、できるだけグリードから距離を置こうとしていた。
『ゲートインがなかなか進みません。普段ゲート難ではない子達も、今日ばかりは渋っています』
かなりの時間を要して、ようやくすべてのウマ娘がゲートに収まった。ここからは早い。一分と立たず、レースが始まる事だろう。
『……今スタート! かなりのウマ娘が出遅れました! 5枠のスーパーグリードに近い子ほど出遅れがひどい、綺麗に凹んでいる!』
グリードは逃げウマ娘。横に競り合う相手がいなければやりたい放題。彼女はそのまま先頭を突き進む。
『スーパーグリード、一人だけ独走状態! 力強さはないが、速い走り! まるで亡霊が一人、タイムアタックをしているかのようだ!』
グリードの力走に観客達がにわかに盛り上がる。しかし、彼女が前を通った瞬間にその顔を曇らせていく。
時速60kmで走るウマ娘が目の前を通る。普通であれば、かなりの振動と音が響くのだが、彼女に限ってはそうでなかった。
揺れがない。音がしない。風を感じない。目を閉じれば光の届かない深海にいると勘違いするほど彼女から気配を感じないのだ。
代わりに残すのは見る者の背筋を凍らせる“怖気”。半袖の観客は身震いするほど。
『レースは終盤! 先頭は相変わらずスーパーグリード! 後ろは追いつけないか? いや、一人だけ来ている! 一人だけ来ているぞ! 内からフォルテシオン! 6バ身、5バ身と差を詰めていく!』
第四コーナーを抜けた所で二人はついに並ぶ。グリードの方は序盤から飛ばしたせいで、フォルテシオンのほうは早めにスパートを掛けたせいで、どちらも垂れかけていた。
互いのスタミナは限界、そうなると勝負の決め手は何に委ねられる? 根性か、気合か、精神か。
フォルテシオンがグリードを睨む。グリードも睨み返す。
『ここで、フォルテシオンがついに顔を上げた! ずるずると失速! 一着は、スーパーグリードだ!! その体でよく頑張った!!』
ゴール板を割った瞬間、グリードが一気に減速する。そのまま地面に転がった。
「最後、引いてくれて助かったなぁ……。あのまま張り合われてたら、ファインとの約束守れなかったかも……」
シリアスな事を呟いたのも束の間、グリードの顔がだらしなく緩む。
「へへへへ……これで私も重賞バ、と……。はー、笑うのも一苦労だわこれは。トレーナー、ファイン、シャカ、早く来てくれー……」
大の字でピクリともせずに、助けを待つグリード。その顔はとても満足そうなものだった。
(ファインモーション)
「グリード、勝っちゃったね!」
「ケッ、脚の消耗を嫌ったフォルテシオンが減速しただけじゃねぇか。アイツの目標は大阪杯だからな、賢明なこった。
もしアイツが全力で行けばグリードは負けてたか……ただでは済んでなかっただろうよ」
「でも、結果はグリードの勝ち。勝負に“もし”は禁句でしょ?」
「……まぁ、そうだな」
シャカールは仰向けに転がるグリードを見つめている。その目はどこか羨ましそうに見える。
「最後、グリードが貪欲に勝ちを譲らなかったからフォルテシオンが先に折れて譲ったんだよね。“怪我をしない”“一着も取る”……すごいなぁ、どっちも達成しちゃった」
グリード。彼女は私とは正反対だ。私は諦めが良くて見切りが早い方だけど、彼女は決めた事は何があろうとやり抜こうとする。今回はその姿勢が功を奏したのだ。
……グリードが私と同じ立場だったらどうするんだろう。王族としての使命も、レースで走る事も、シャカールと離れたくないのも、全部諦めないのかな……?
でも、いくら彼女とはいえ、両立が不可能な事は達成できないんじゃ……待って、本当に両立は不可能なの?
閃き一閃。
“使命も果たす”、“レースも走る”、“シャカールと一緒にいる”、全部果たしてみせよう。それでこそ、私は真にファインモーション足り得るような気がした。
「いいんだよね、私もグリードみたいにおバカになっちゃっても」
賢明なままではダメだ。合理的で簡単な“諦める”という方向に流れてしまう。だからこそ愚鈍で、貪欲で、傲慢に行こう。 我、王族ぞ?
そうすることで初めて見える道が確かにあった。
『おっとスーパーグリード、倒れたまままったく動きません。トレーナーが駆け寄って肩を貸していますが、ちょっと厳しそうです』
「……私達も行こっか」
「レース後まで世話のかかる奴だな」
二人でコース上へと駆けていった。
(スーパーグリード)
「しゃあっ、一着!!」
無事に勝利を収めた私は、トレーナーとファインに肩を借りながら、控室まで戻ってきた。
「次はライブ、早く衣装着替えない……っとと……」
用意しておいた衣装に手を伸ばした途端、バランスを失い床に倒れてしまう。
「グリード! 流石にその体じゃあライブなんて……」
ファインが心配してくれるが、その点はノープロブレム。
「トレーナー、呼んでおいてくれた?」
「うん。すぐに来てくれると思う」
そのやり取りのすぐ後に、控室の扉が開かれた。
「グリード、持ってきたぞ」
「ビワハヤヒデ先輩!」
過度な食事制限をしていたため、例えレースで勝つ事ができてもウイニングライブで踊り切れる体力は残っていないだろうと予想していた。その対策としてビワハヤヒデ先輩に即効性のあるエネルギー食を用意してもらっていたのだ。先輩、その手の事に詳しいらしいから。
「いただきます!」
「えっと、その黒い液体は……」
私が飲み始めた液体の正体をファインが尋ねる。その問いにはビワハヤヒデ先輩が答えてくれた。
「炭酸抜きコーラ。炭酸を抜いたコーラはエネルギーの効率が極めて高い。レース直前に愛飲するマラソンランナーもいるくらいだ。――そして特大タッパのおじやとバナナ。これも即効性のエネルギー食。さらにウメボシも添えて栄養バランスも良い」
コーラを流し込みながら、ビワハヤヒデ先輩のうんちくを聞く。
「それにしても極度の食事制限、そしてレース直後だというのにこれだけ一気に補給できるのは超人的な消化力と言う他無いな」
褒められた私は気分を良くしながら、飲み干したコーラから口を離す。
「よし、と……」
ペットボトルを空にした後、タッパのおじやとバナナに取り掛かる。
味は薄いが空きっ腹には何でもおいしく感じられる。スプーンを動かす手を止めずに、どんどん食べ進める。
「……ふむ。それだけ強靭な胃袋をもっているのなら……」
ビワハヤヒデ先輩はこれまた特大サイズのシェイカー*2を取り出した。
「まずは水。汗がほとんど出ていなかったのを見るところ、水分もギリギリまで絞っていたのだろう。今のグリードに最低限必要な10キロ」
「うえぇ!? ぜ、全部は無理ですよ! 水ばっかり10キロも!」
ビワハヤヒデ先輩は慌てる私に笑いながらも続きを話してくれる。
「そのままでは無理だろう。こいつを混ぜる」
今度は白い物が詰まったビニール袋が出てきた。この場で封が開かれる。
「果糖。果実を精成した純粋な甘味料。ちょうど4キロ……量は多いが吸収率は無類だ」
水の入っているシェイカーの中に、果糖がどんどん流し込まれていく。
「炭酸抜きコーラ、おじやにバナナで最低限の栄養は確保したが……グリード、君はまだまだ、まるで完全ではない」
大きなシェイカーが目の前で豪快にシェイクされる。
「本来はタンパク質やデンプンが望ましいが……ライブまで時間がない」
果糖が溶け切り、一見するとただの水が入っているだけのシェイカーを手渡された。
「14キロの……砂糖水」
「奇跡が起こる」
私は意を決して、口を付けた。膨大な量の水を胃に流し込んでいく。
(ナレーション)
過度な食事制限で極限まで衰弱しきったウマ娘の肉体。そこへ、レースによるさらなる負担が加わり、ウマ体最後のエネルギー貯蔵庫である肝臓のグリコーゲンすら底をついた。
酷使に次ぐ酷使、もはや破壊されつくしたウマ娘の筋肉細胞たち。彼女らは復讐を誓っていた。次なる酷使に対する復讐。今後もし同じ事態が起こったなら、必ずライブまで踊り切ってみせる。補給など受けずとも独力で乗り切ってみせる。ウマソウルに誓いし復讐にミスはありえない。
今、少女の肉体に空前の超回復が起ころうとしていた!
「おっ……? おっ? おっ!?」
体から吹き上げる蒸気。14キロの砂糖水を飲み干してから、突然の異変に私はシェイカーを床に落としてしまう。その瞬間、一際大きく蒸気が噴き出した。
「わっ……!」
ファインが驚いたのも束の間、湯気が消えた中から現れたのは当然私。しかも完璧な肉体を取り戻した私だ。
「…………てェ~……」
絶好調の体に思わず声が漏れる。
「復、活!! スーパーグリード!! 復ッ活!!!」
「ライブしてェ~~……!」
ビワハヤヒデ先輩が喜んでくれる横で力強く呟いた。
(三人称)
超回復を経て、無事にウイニングライブをやり終えたグリードはファイン、シャカール、トレーナーと一緒にトレセン学園へと帰る途中。グリードはファインの送迎用リムジンに同乗しながら大喜びしていた。
「いやー、勝った勝った! 初めての重賞一着あざッス!! ギリギリだったけど、勝てたのは皆の手伝いあってこそだよ! まぁ、当然私という国士無双*3の才女が本気出したってのが一番大きいけどね!!」
「お前が国士無双だったらこの国は終わりだぞ」
「まぁまぁ、今は素直にお祝いしてあげようよ。改めておめでとう、グリード!」
「どうもどうも、いや、どうもどうも。アイルランドの国士無双に褒められてダブル役満だねこりゃ」
久しぶりの一着で調子に乗っているのか、舌も良く回るグリード。そんな彼女にシャカールが話しかける。
「おい」
「ん? 何かね、シャカール君?」
こめかみに青筋を浮かべたシャカール。しかし、何とか冷静さを取り戻し、口を開く。
「レース中、何か見えたりはしなかったか?」
「いや別に? ほとんど先頭で芝ばっかり見てたけど」
「ならいつもと違った感覚はしなかったか? 何でも良い、言ってみろ」
「う~ん、そもそも激やせ状態でレース出るのがいつもと違ってるからなぁ……。違った感覚と言われると難しいね、覚えてないや」
「……そうか」
シャカールはそれきり口を閉じ、窓の外を眺め始めた。
「トレーナーもホントありがと……って寝ちゃってるや」
グリードが改めてお礼を言おうとした相手は、リムジンのドアと背もたれに寄り掛かり目を閉じていた。
「……?」
しかし、その表情はどこか苦しそう。ひどい悪夢でも見ているようだ。
「トレーナー?」
グリードがトレーナーに近寄ろうとすると、彼女の腕がお腹を抑えた。
「大丈夫? また腹痛?」
ファインとグリードは心配そうな表情を浮かべ、窓の外を見ていたシャカールも何事かと車内に視線を戻している。
「…………ぅぅぅ“ぅ“、ぐ……ぅ”……」
「トレーナー?」
口からうめき声を漏らすトレーナーに、グリードの声から余裕が無くなった。トレーナーの額には大量の冷や汗がにじみ出ている。
「な、何これシャカ!? お腹抑えてるし盲腸とか!?」
「知るかよ! 俺は医者じゃねェんだぞ!」
「病院に向かって!」
リムジンは急遽進路を変える。
「……ちゃん、と、みんなを、満足……させない、と……」
その呟きは車内の喧騒にかき消された。