富と名声のためにトレセン学園の門戸をくぐったら同期が王族と気性難な件について 作:RKC
(スーパーグリード)
先輩方の朝練にまぎれてから、入学式や入寮など様々なイベントがあったが、簡単に結果だけをまとめる。
入学式ではファインが新入生総代として挨拶をしていた。流石王族、人前で喋るのはお手の物だったね。
寮は相部屋と聞いていたが、私は一人部屋だった。まぁ、一人の方が好き勝手出来て良いかもしれない。人肌恋しくなったらシャカとかファインの部屋にお邪魔させてもらおう。とはいえ、トレセン学園はレースで勝てないなどの理由や、中途編入、地方からの転入など出入りが激しい。新しい娘が入ってくれば年度の途中で相部屋になるかもしれない。
カレンダーはそこそこ進み、選抜レースが開催される時期に。選抜レースはウマ娘が己の力を示し、トレーナーにスカウトされる場。ここでより良いトレーナーに見初められる事が成功への近道と言えるだろう。
しかし私は更に上を目指す! G1ウマ娘を多数輩出する有名なチームの選抜試験を受ける事にした。有名チームはスカウトでは無く、試験を設けての採用制にしている所が多い。
……結果? 聞く? ダメだったよ。
まぁ、入学式の日の朝にトレーナーから微妙な評価を貰った私が受かる可能性はかなり低い。それは分かっていたが、試験を受けるだけならタダだ。無料の宝くじに外れただけと考えれば、しょうがないと思える。
なので、大人しく選抜レースに出る事にした。ひとまず1600mの芝のレースに出走。しかし、そこで思わぬ事態が。シャカが同じレースに出走する事になってしまったのだ。
「まさかこんなに早くシャカっちと戦う事になるとはねぇ」
声を掛けるが、彼女は無言のまま準備運動を続けている。
「あれ? 緊張してる? もしかして未来のG1バに気圧されちゃった?」
「あ“ァ”!? どこに未来のG1バがいンだよ!」
私が煽ると、やっと返事してくれる。今となっては「あ“ァ”?」も聞きなれたものだ。クラスメイトには不評の様だが。もう少し愛想よくすれば良いのに。
「今声掛けてもらってるでしょ?」
「今俺が声を掛けられてるのは選抜試験にことごとく落ちたパッとしねェウマ娘だけどな」
「いや~、あの時はちょっと調子悪かったからね~。でも今日は万全、オールオッケーよ」
私が両手でサムズアップすると、シャカが立ち上がった。準備運動を終えたようだ。
「チッ、ビッグマウスが。……このレースで見せてやるよ、本物の未来のGIバの走りをな」
「え、それってシャカが~? マジ~?」
茶化したように声を掛けるが無視されてしまった。シャカはそのままゲートの方に向かっていく。
あの様子だと冗談で言ったわけでは無いようだ。私もおふざけオーラを引っ込め、ゲートに向かった。
選抜レースの結果。もうね、凄かったね。
シャカっち? ノンノン。ありゃ釈迦っちだよ。格が違うね、速すぎる。シャカは大差で一着。一方で私は三着。
シャカだけに負けるならともかく、他の子にも負けちゃったかぁ……。
顔を上げると、圧倒的勝者のシャカの元に多くのトレーナーが詰めかけているが見える。
私があの立場だったらなぁ。ウッハウハだったのに……。
チヤホヤされるシャカに背を向け、トボトボとコースを去ろうとする。そこに一人のトレーナーが声を掛けに来てくれた。
「待って! 君をスカウトさせて欲しい!」
なんと、三着の私にもありがたい事にスカウトの声がかかったのだ。
「その~……少し生意気かもしれませんけど、私のどこに魅力を感じましたか?」
卑屈になっていた私はめんどくさい台詞を吐いてみる。
「スタミナかな。君は最高速を維持できる距離が普通の娘より長い。そこを鍛えれば重賞で勝つ事も夢じゃないよ!」
ほえ~……トレーナーってそんな所まで見てるのか。
感心しながらも、一つ質問をぶつけてみる。
「重賞ですか……。その、とんでもないスパルタでも良いので私をGIで勝たせてもらう事って出来ますかね?」
どうやら私はシャカのように才能に溢れるウマ娘ではないようだ。選抜レースの結果もそうだし、二人のトレーナーから「頑張れば重賞を取れる」「重賞も夢じゃない」と言われてしまった。
しかし、私はGIで勝ちたい。GIを勝ったという名声が欲しい。非常に欲しい。喉から手が出る程欲しい。
あわよくばクラシック三冠を全部取って「wining soul? 三回もセンターで踊ったのでちょっと飽きちゃいましたね!」なんて問題発言をして炎上してみたい。
そういう意図での質問。
「スパルタでGIか……私には無理かな」
「……私だとGIで勝つのは無理ですか?」
「あぁ、勘違いしないでね。そこまでは断言できないよ。私が無理だと言ったのはスパルタの部分。昔、教え子がハードトレーニングで怪我しちゃってからは、スパルタはしない様にしているんだ」
「そうですか……」
気まずい事を話させてしまった。流石の私も少し気が引ける。
「そういう事だから君と私の相性は悪そうだ。ごめんね、時間取らせてしまって」
「あ、いえ……声を掛けてくれてありがとうございました」
それきりトレーナーは私から離れていった。取り残された私はこめかみに指を当て、一休さんのポーズ。
う~ん、中々上手くいかないなぁ……。選抜試験もダメ、選抜レースもダメか……。
ふと、シャカの方を見ると、トレーナーの人だかりは消え、彼女一人だけが居た。
「あら? どうしたん、そっちは。えらいぎょうさんトレーナーに囲まれてはりましたけど」
「なンでいきなり京都弁なンだよ」
「気分。……真面目な話、あれだけいたトレーナーはどうしたの? 全員断ったとか?」
「そうだ」
「えぇ! そんなもったいない! あれだけいれば選び放題だろうに」
私がそう言うと心なしか、シャカの眉間にしわが寄った。
「……全員、普通なンだよ。優秀な奴は山ほどいたが、俺の限界を超えさせてくれそうなトレーナーがいなかった」
「限界……う~ん、つまりスパルタ調教施してくれるトレーナーがいなかったって事?」
「違ェ。スパルタで限界が超えられるか。努力量に比例して能力が伸び続けるなら誰も苦労しねェよ」
そう言ってシャカはコースを出ていく。彼女の様子からすると、どうやら「限界」を超える事を目標としているようだ。なぜそこにこだわるのかは今の私には分からない。
別に限界を超えなくったってシャカぐらいの実力者ならG1レースでも勝てそうだけどなぁ……。
そこまで考えて、私はシャカの後を追った。
「どこのチームもそうだ。日本ダービーを超えさせてくれそうなトレーナーはいなかった。どうする……? 名義だけ借りて最低限レースに出られるようにするか……? そうすりゃトレーナーに拘束されなくて済むが、指導を受けれられないのは流石にマイナスか……?」
シャカは一人でいると思い込んでいる時、考えている事がたまに声に出る。普段は愛想が無いが、こういう所は少しかわいい。
彼女の独り言を聞きながら後を付けていると、柵の外で誰かと話しているファインを見つけた。
「あ、シャカール! それにグリードも。ちょうど二人の話をしてたんだよ」
ファインは私達を見つけると、嬉しそうに声を掛けてくる。シャカはめんどくさそうな表情を浮かべて口を歪ませているので、私が返事をした。
「私たちの話?」
「そう! さっきの選抜レースを見てたんだけど、凄かったね! 特にシャカール! 最後方からの鬼気迫る追い込み!」
ファインは興奮冷めやらぬと言った様子で話す。私にはほとんど触れられてないのにちょっとガックリ来た。
「確か最初は抑えて……!」
しゃべりの勢いそのままに、ファインは柵を超えてコースを走り始める。
「っ! 殿下!? お待ちください!」
SPの人が大層慌て始める。それもそうだろう。ファインは王族、走る最中に転んで怪我をしたら一大事だ。
始めは心配が勝ったが、ファインの走りを見ているとすぐに別の思いが。
「すごい走りっぷり……」
呟いたのはファインと話していた女性。彼女の胸にはトレーナーの身分を示す蹄鉄型のバッジが。
「確かに。箱入りのお嬢様とはとても思えないね」
トレーナーが言った通り、ファインの走りは私から見ても上手に見える。
コースで走るのはこれが初めてだろうに。……王族の才能ってやつ? とんでもないなぁ。それに走りの上手さだけじゃない。
「とても楽しそう……」
再びトレーナーが呟く。
「うん。いつも楽しそうな顔してるけど、今は特に楽しそう。目なんかキラキラさせちゃって……。って、さっきからトレーナーさんの補足ばっかりなんだけど! 私もそう思ってたのに先に言われて後出しになるせいでなんか同調しただけに聞こえちゃうでしょ!?」
「あ、ご、ごめんね?」
なんてやり取りをしながら、ファインが一周してくるのを待った。
「殿下! 全力疾走は堅く禁じておられる旨、お忘れですか!?」
ファインが戻って来るなり、SPの人が注意する。
「えっ? ……あっ! ごめんあそばせ! 私ったらつい……」
ファインの様子から察するに、選抜レースを見て興奮しすぎて、つい暴走してしまったのだろう。
「貴方、走っちゃダメなの?」
女性のトレーナーがファインに聞く。
「あはは……うん、実はそうなのでした」
ファインはバツの悪そうな表情を浮かべる。
「怪我の危険があるような事……レースも、走る事も禁止されているの」
「走る事が禁止って……ならどうしてトレセン学園に留学しに来たの? 普通の学校でもよかったんじゃ……」
トレーナーの疑問は
「それはね、私と同じくらいの年で本気の夢に向かって努力する子達。そんなみんなとお話して友達になってみたかったの。その経験はきっと私の財産になって、私がこれから成すべき事のためにも大切な経験になると思ったから」
ファインは斜め上を見上げる。そして遠くに思いを馳せるような表情に。
成すべき事、おそらく王族としての責務の事を言っているのだろう。
……なんか重いなぁ。王族に生まれた責任か……。小市民の私にはとても想像できないや。
「ふふっ、日本がとびきり安全な国で良かった! お父様達を説得できたのはきっとそれが大きかったもの」
ファインは場の雰囲気が重くなったのを感じたのか、
「まだ少しの留学体験しかしてないけど、お友達もできて、楽しみにしていたラーメンも食べに行けて、レースの観戦もできて。きっと満足して国に帰れるよ!」
「…………本当に?」
トレーナーの言葉にファインが驚いた表情をする。
「本当にそれだけで満足?」
「えっ、と……」
さらに問い詰められて困ったような顔をするファイン。そこに私が割って入る。
「ちょっと何言ってるのトレーナー? ファインが困ってますー」
楽しそうに語るファインからは嘘を付いているような雰囲気を感じなかった。だからファインをかばい、トレーナーを責める。
「いや、それは……」
「殿下、お体が冷えてしまいます。寮へとお戻りください」
トレーナーが私の問いに言葉を詰まらせている間に、SPの人がファインを連れて寮の方へと戻っていく。それを見送った後、私は再びトレーナーに忠告する。
「トレーナーはトレーナーなんだからさ、もうちょっとウマ娘に対して気を使わないとダメじゃない? さっきみたいにウマ娘を困らせるなんてのはもってのほかで……ぁ
なぜかシャカにデコピンされた。
「なんでデコピン!?」
「うるせェ。お前もさっさと寮に帰ってろ」
「うぅ……選抜レースもダメだったし、理不尽な暴力受けたし……。今日はさんざん、もう帰って寝る……」
痛む額をなでなでしながら私は寮へと戻った。
(トレーナー)
ファインモーション。きっとあの子は……
「おい。……てめェ分かってて首突っ込ンでやがンのか?」
「えっ?」
思考の最中に声を掛けられ、素っ頓狂な声を出してしまった。
「え、じゃねェ!! 間抜け面しやがッて!」
声を掛けてきた黒髪のウマ娘――エアシャカールは真剣な表情で言う。
「覚悟もねェのに半端に手ェ出すンじゃねェよ」
覚悟……。
彼女の忠告は、鋭く胸を刺したのだった。
基本的にはアプリ版の内容を踏襲しています。