富と名声のためにトレセン学園の門戸をくぐったら同期が王族と気性難な件について   作:RKC

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誤字・脱字報告をしてくださった方、ありがとうございます。

過去作でも報告をしてくださった方が本作にも報告をしているのを見て、すごいエモい気分になった……。
改めてありがとうございます。


5話 まぁ私の器量を持ってすればデビュー戦ぐらい余裕よ

(スーパーグリード)

 

 ファインと模擬レースをしてから、数週間が経った。彼女はレースで走る許可を貰うために、お父さんと話し合ったり、選抜レースで実力を示したりと大変そうだった。しかし、努力の甲斐あってか、彼女は3年間レースで走る許可を貰えたそうだ。

 

 そしてシャカはファインと同じトレーナーに逆スカウトを仕掛けてOKを貰っていた。その場には私もいた。彼女の逆スカウトの文言はよく覚えている。

 

「トレーナー。てめェは期限までにファインを満足させてみせると言ったな? ――だったら俺も満足させてみやがれ」

 

 そのすぐ後に、

 

「私も満足させて下さい!!」

 

 便乗したら私もOKを貰えた。

 

 どうやらトレーナーは今年から3人のウマ娘を持てと言われていたようで、ファイン、シャカ、私がその三枠に収まった形。ファインやシャカと比べて微妙な実力の私を担当して貰えてありがたい限りだ。

 

 同期でトップクラスのファインやシャカと同じトレーナーに担当してもらえたのは都合が良い。普段の練習で二人の実力に迫ることができれば、私も同期の中ではトップクラスという証明になるからだ。分かりやすくて良い。いつかは二人とG1の大舞台で戦う事にもなるだろう。

 

 とはいえそれは先の話。今は6月のデビュー戦が目下の目標。

 ちなみにファインは今まで走っていなかった事を考慮し、12月あたりまで調整をするようだ。シャカも10月辺りまで調整を続けるらしい。

 

 ファインはともかく、シャカは今の段階で私より速いんだから、デビューしても良いと思うんだけどな……。いや、速いからこそ焦る必要がないのか? 

 

「いつでも勝てる自信があるから念入りに調整をする、って事かな……?」

 

「どうしたの? いきなり独り言呟いて」

 

「ケッ、どうせどうでも良い事考えてたンだろうよ」

 

 ファインとシャカの声に、意識が現実に引き戻される。今、私達がいるのはトレセン学園の食堂。三人でお昼を食べている所だ。

 

「どうでも良い事ってのは流石にひどくない? 私にしては珍しく有意義な事考えてたけど」

 

「自分で珍しく、って言うのかよ……」

 

 呆れ顔のシャカの方に目をやると、たくさんの皿が見える。対して私の元には数皿しかない。ファインも同様だ。

 

「シャカは相変わらず良く食べるね。どうしてそんなにお腹に入るの?」

 

 ウマ娘は普通の人に比べれば大食らいが多い。しかし、シャカールの食事量はウマ娘の中でもかなり多い方と言えるだろう。

 

「訓練したからな。アスリートにとって食べられるってのは一つの能力だ。データを見ても、多く食べるウマ娘は身体能力に優れる傾向があンだよ」

 

 へぇ~、大食らいもデータの内か……。シャカはいつもそうなんだよね。データ、データ。それが彼女の速さの秘訣なのかもしれない。

 漫画とかだとデータキャラって大抵噛ませ犬なのに。シニア期に入る頃にはデータを捨ててそう。

 

「たくさん食べるウマ娘ほど強いんだね。だからオグリキャップさんやスペシャルウィークさんも強いのかな」

 

 そう言うファインの視線の先には、数十人前の料理を平らげている途中のオグリキャップ先輩とスペシャルウィーク先輩が。

 

 オグリキャップ先輩と言えば、地方から来た怪物として実力、人気共に伝説クラスのスターウマ娘だ。スペシャルウィーク先輩は黄金世代と百花繚乱の時代でGIをいくつも勝ち取ったスターウマ娘。

 

 どちらも無限の胃袋を持っているという噂だったが、空皿が山のように積み重なっていく場面を目の当たりにすると、凄いというよりはドン引きの感情が勝る。

 それはシャカも一緒のようで呆れた顔をしていた。

 

「いや、あれは例外だろ……。つーか、自分の体積以上の飯が体のどこに入ッてんだ……?」

 

「そこは深く考えない方が良いんじゃない? ウマ娘の不思議の一つって事にしておいた方がね?」

 

 そもそもウマ娘は体の造りが人間と大差ないのに時速60kmで走れる謎種族だ。科学で理屈をつけるには相手が悪い。

 

「シャカールもあれぐらい食べてみたら? もしかしたら今以上に早くなれるかも……ほら、あ~ん」

 

 ファインがシャカに料理を食べさせようとする。

 

「現代の殿下様ってのは随分とマナーが悪ぃンだな」

 

「む~。ちゃんとファイン、って名前で呼んでよ」

 

 ファインは頬を膨らませながら続ける。

 

「それにレストランとかの公式の場ではこんなことしないよ。今いるのは学校の食堂。時と場所によって振る舞いを変えるのは普通でしょ? 一度、こういうのをやってみたかったの」

 

 キラキラとした目でシャカを見つめるファイン。こうなると大体シャカの方が先に折れる。今回もそうだった。シャカは渋々差し出された料理を口に含む。

 

「ふふっ。昔、故郷で羊に牧草を食べさせてあげたのを思い出すな」

 

「っ……」

 

 羊扱いされるシャカだが、口の中に料理があるため反論できない。ファインに便乗して私もシャカをからかう事にする。

 

「私も餌付けしよ。腹パンパンになるまで食わせてシャカの肝臓でフォアグラ作ろう~」

 

 料理をフォークで刺し、シャカの方に差し出すが、手を掴まれた。かなり力がこもっている。あっ、痛い痛い、すんません、本当にすんませんっした!

 

「お返しにてめェの臓物で腸詰め作ってやろうか?」

 

「うぅ……。シャカ、私にだけ当たりがキツくない? いや、ファインにだけ優しいのかな?」

 

「本当? 嬉しいな、特別扱いだなんて」

 

「るせェ! ……そういうお前はさっさと飯を食べろ。さっきから料理をつつき回してるだけじゃねェか」

 

 若干話をずらされた感じがあるが、シャカの指摘通り私はさっきから食べ物を口に運んでいない。

 

「う~ん、どうにも食欲が湧かないというか……」

 

 デビュー前で知らず知らずの内に緊張しているのだろうか。お腹は減っているが、料理を口に運びたくない気分。

 

「エネルギー不足になると、体は真っ先に筋肉を分解してエネルギーを(まかな)う。食わねェと筋肉量が落ちるぞ」

 

「それは分かってるんだけどね……あむ」

 

 気が進まないが、無理やり料理を口に押し込む。

 美味しい。一口食べると、その後は抵抗なく食事を進められた。

 

 

 

 

 

 

 私のデビュー戦。結論から言うと勝った。逃げたらそのまま一着。

 後ろからの追い込みが弱い事に拍子抜けしたが、シャカとかいうバケモンと並走していたせいで感覚がマヒしていたのだろう。

 

 何はともあれ、まず一勝! メイクデビューで勝ってSNSのフォロワー数も増えたし、賞金も貰えた。このままの調子で行けばフォロワー数10万人突破、この先働かなくても生活できるぐらいの貯金、どちらの目標も達成で出来そうだ。

 

 あぁ、それにしても良かったなぁ……ライブ。私がセンター、主人公。たくさんの人が私に注目し、応援してくれる……たまんねぇ~! 過去一番、自己顕示欲が満たされた瞬間だったなぁ……。もう一回味わいてぇ。

 

 そのためにはもう一度レースで勝つ必要がある。しかし、そうポンポンレースに出れるわけでは無い。脚がおしゃかになってしまう。レースに出場するなら多くとも一か月に一、二回が限界だろうか。それでもかなりのオーバーペースだが。

 

 ま、それまではSNSのイイねで我慢するか……。

 

「と、いうわけで! ファイン殿下のお写真を私めのSNSに乗せてもよろしいでしょうか、隊長!?」

 

「いえ、私に言われましても……。それより何が“というわけで”、なのですか……?」

 

「それはもちろん、殿下のお写真を載せた方がイイねが伸びるからですよ! 殿下を貶めたり、危険に晒すような投稿はいっさいしません! 投稿内容を事前に校閲していただきますから! どうか、どうか!」

 

 デビューで勝っただけの私と比べれば、王族で留学生の殿下の方がイイねを稼げる事は明白だ。

 

「ファイン殿下は王族として顔見せの執務もあるでしょうし、宣伝代わりに使っていただいても構いませんから! ほら、ファイン殿下は一見すると非常に気品あふれるお姿なので手の届かない存在だと思われがちですが、学内では意外と気さくなのでそういう部分をあえて見せる事でさらなる人気が見込めるかと!」

 

「SPに何を力説してんだおめェは」

 

 いつの間にかシャカがいた。

 

「ンで? ファインの写真を自分のSNSに載せてイイね稼ごうとしてんのか?」

 

「そうだけど?」

 

 シャカはガリガリと頭を掻く。

 

「……“イイね”が欲しいのは承認欲求を満たしてェからだろ? 他人の写真でイイね貰って満足か、おめェは?」

 

「それは……」

 

 言われて考える。

 

「…………あの~、殿下とのツーショットを載せるのって駄目ですかね?」

 

 そこが私の妥協点だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(三人称)

 

「結局、グリードのSNSに写真を載せる件はOK出したのか?」

 

「うん。とはいっても色々あったけどね。私を窓口に本国と色々やり取りしてようやく許可がでたかな」

 

「たかがSNSのイイねのためにそこまで面倒な事をすンのかよ、アイツ……。お前も良く付き合ったな」

 

「きっと彼女にとっては“たかが”じゃないんだと思うの。困難も気にせず一生懸命やるほどにはね。それはとても美しくて素晴らしい事だよ。だから私にできる範囲でその手伝いをしただけ」

 

「……ま、行動力だけは認めてやっても良いか」

 

 シャカールはスマホを取り出し、グリードのSNSを確認する。最新の投稿内容はグリードとファインのツーショット写真だった。コメント欄を見る。

 

(殿下可愛い)

(写真一枚からオーラが伝わってくる)

(隣のウマ娘いる?)

(次はワンショットを投稿しろ)

(王族と庶民の対比が良く出来てる)

(王族の威を借りるな)

 

「メチャクチャ言われてんな」

 

「はぁ~!? 私を褒めるコメントが無いんだが!? これが合コンで引き立て役に連れていかれる地味子の気持ち……!?」

 

 近くにいたグリードが悶えながらスマホを操作する。すると、新たな投稿がSNSに書き込まれた。

 

(は? 庶民じゃないが? これからレースで勝って賞金ガッポガポの金持ちになるが? オーラもビンビンだが?)

 

 その投稿に対して様々な反応が。

 

(この投稿がもう庶民)

(オーラ(成金))

(品性は金で買えないよ、グリード)

 

「こんのやろ……!」

 

 顔を真っ赤にして反論を書き込もうとするグリード。しかし、SPに肩を叩かれて顔を青くしていた。ファインの写真も投稿してしまった今、炎上沙汰になるのは不味いと仲裁が入ったようだ。

 

「……あれが、とても美しくて素晴らしい事か?」

 

「あはは……」

 

 後日、グリードのアカウントとは別にファインの公式アカウントが作られたそうな。

 


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