富と名声のためにトレセン学園の門戸をくぐったら同期が王族と気性難な件について   作:RKC

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6話 血統よりは環境の問題が大きい

(スーパーグリード)

 

 どうも。ファイン殿下の写真を載っけて一時的にフォロワー数を増やしたけど、アカウントを分離した瞬間、元に……いや、フォロワーが減ったクソ雑魚インフルエンサーことスーパーグリードです。

 殿下のアカウントにフォロワー吸われちゃった……。

 

 まぁ、SNSに関しては地道にフォロワーを増やす事にしよう。レースで勝っていけば、知名度は上がるし、GIレースの勝者ともなれば競バに興味のない層に対しても名前を覚えてもらえる場合もある。

 

 レースで勝てば名声が手に入り、加えて賞金――富も得られる。勝つのが非常に難しい事を除けばレースは素晴らしい物だ。

 と言うわけで、レースに勝つため今日も今日とて練習に励んでいる。

 

「坂路終わったよ~、トレーナ~……」

 

「なら10分休憩。次はシャカールと並走してくれる?」

 

「へ~い……」

 

 水を飲んだ後、ベンチの上で横になる。

 

 シャカと並走――そういえば、彼女はもうすぐデビュー戦だったっけか。

 

 後ろからの追い込みを得意とする彼女。逃げが得意な私、先行脚質のファインと並走し、仕掛ける位置取りやタイミングの練習をしようという事なのだろう。

 

「気が進まないなぁ……」

 

 ファインとシャカ、二人は私より速い。併走すればまず負ける。負けるのは好きじゃない。しかも、間近で完成度の高い走りを見せつけられる事になるので、自分の実力の無さを思い知る事になってしまう。

 

 まぁ、自分より速い子と走るのは良い練習になるんだろうけどね……。

 

 理屈と心は別なのであった。

 

 

 

 

 

 

「よーい……スタート!」

 

 トレーナーの合図を機に、三人が一斉に駆けだした。

 私とファインが並んで前に。シャカはずっと後ろの方に。その位置取りのまま、走り続ける。

 

(ファインとグリードはシャカールの前について、追い込みの進路を出来るだけブロックして欲しい。彼女にはそれを躱す練習をしてもらいたいから)

 

 トレーナーの言葉を頭の中で思い出す。

 

 追い込みの進路をブロック……。内側から差させず大外を回らせるようにすれば、普通より長い距離を走らせられる。そこを意識して――とはいえ、最後のスパートまでは暇だな。

 

 私の横を走るファインの様子を(うかが)った。彼女はたまに後ろのシャカの様子を確認しながら、目をキラキラさせて走っている。

 

 おー……相変わらず楽しそうで。

 

 彼女は練習中いつもこうだ。併走中の今ならともかく、坂路やタイヤ引きなど、自由に走れるわけでも誰かと競い合うわけでもない、ただ辛いだけの練習でも目を輝かせながら全うしている。

 

 彼女の心には走る事だけではなく、走りに繋がる事すべてが新鮮で楽しい物に感じられるのだろう。

 

「すー……ふー……」

 

 自分の呼吸音に意識を集中させる。すると心臓の鼓動、体温、発汗、筋肉の熱を全身で感じられた。筋肉で発生した熱が肌の表面を()ぐ風と、乾く汗の気化熱で冷やされていく。サウナ→外気浴のループを一瞬で繰り返しているかの様だ。

 

 異常な事態に私の脳は興奮(ハイ)状態に。

 

 ――来た。これよこれ、ウマ娘が“走り”を大好きな理由は。

 

 SNSでの投稿がバズった*1時、レースの賞金が振り込まれた残高たっぷりの預金通帳を見ている時――所謂(いわゆる)、“脳汁が出ている”状態になれる。もう、ガンギマリよ。

 

 運動すれば脳内ホルモンが分泌され、高揚するというのは今や有名な話だが、ウマ娘に至っては規格外の速度、運動量から、それに匹敵する規格外の脳内ホルモンが分泌されているのではと私は密かに思っている。

 

 レース中、ペースを見失い暴走するウマ娘の事を“いや、そうはならんやろ”と言う人がいるかもしれないが、そういう奴は一回ウマ娘の体で走ってみて欲しい。初回は確実に暴走するから。

 加えて公式のレースともなれば、緊張や期待など諸々の感情のごった煮。そんな状態ではさらに自分を見失う可能性が高いと言える。

 

 そういう観点から見ると、興奮状態を適正範囲に抑える事もレースで勝つには必要なポイントと言えるだろう。

 

 話題がズレたので話を戻そう。とにかく、ウマ娘は走る事自体を楽しんでいると言う事が言いたかったのだ。ファインは幼い頃走れなかった分、それを強く感じているのだろう。

 

 練習をしていると、“レースで勝利するために我慢しなきゃ”という思考になりがちだ。しかし、ファインと一緒に練習すると、走る事自体の楽しさを思い出せるので、辛い練習のモチベーションを保てる。そういう点で密かに助けてもらっているのだった。

 

 

 

 私がトリップしている間に、最後のコーナーが近づいて来ていた。

 

(シャカールの前について、追い込みの進路を出来るだけブロックして欲しい)

 

 トレーナーの指示を思い出し、慌てて後ろを確認する。するとシャカがかなり外に位置付けているのが見えた。

 

 外から抜かそうって魂胆かな。

 

 視線を隣に移すと、ファインと目が合った。言葉を交わさなくとも、お互いの意図を察する。

 

 コーナーに入った私たちは、遠心力に逆らわず、外に膨らむ。そうすれば、後ろのシャカは更に外に膨らまざるを得ない。コーナーで膨らめば、走る距離が伸び、最後までスパートが持たなくなるはず。

 

 あれ……? このままいけばシャカに勝てちゃったりする?

 

 

 

 

 

 

(エアシャカール)

 

 とか、浅ェ事考えてンだろうなァ、あのバカは。

 

 コーナーで膨らむ前の二人。だが俺はコーナーの入り口で減速し、一気に内側に切り込んだ。再び俺の姿を確認した二人の表情が驚きに染まる。

 

 この展開になる事は確定してんだ。わざと外から行くように見せかけたんだっつーの!

 

 幾度も重ねたシミュレーションがこの模擬レースにおける「式」を導き、そして――

 

「証明終了だ、バァカ」

 

 誰よりも早くゴールラインを割った。

 

 

 

 

 

 

「お疲れシャカール。最終コーナー、凄かったよ」

 

 トレーナーの手から水筒を受け取る。

 

「前が二人だけ、それも俺をブロックしに来るって分かってんだからこンぐらい楽勝だ。本番のデビュー戦は8人同時。もう少し骨が折れる。グレードが上がってもっと人数が増えりゃ詰む事だってある。前につける練習もしとかねェと」

 

「そこはおいおいだね。さっきの調子ならデビュー戦は追い込みでいいかな」

 

「あァ」

 

 一通り会話を終え、水筒から水を飲む。そうしていると、ファインが目をシイタケみたいにしながら詰め寄って来た。

 

「凄かったね! 最後のコーナー! 少し目を離した隙に一瞬で内側に入ってきて! それに最後の直線も! 全身全霊のスパート!」

 

「へッ、そうかよ」

 

「うん! 私も最後まで頑張ったけど抜かされちゃった! やっぱりシャカールは凄いね」

 

「……ンな事ねェよ。こンぐらい普通だ」

 

「そんな事無いよ。シャカールが毎日頑張ってるのを私、知ってるから。君の努力の積み重ねが今日の結果に繋がった――それはとっても素晴らしい事だよ!」

 

「……あァ」

 

 俺は生来のはねっ返りな性格のせいで、誰に対しても口が悪くなりがちだ。そのせいで誰かと仲良くした経験がほとんどない。

 だから俺に執拗に絡んでくるファインに対してどう対応すれば良いのか分からない。曖昧な返事を返すだけに終わった。

 

 ……苦手だ。

 

 そういえば、執拗に絡んでくると言えば“あいつ”も……。

 

「あ~、ダメだぁ……私には才能がねぇんだぁ……。追い込みのブロックすら満足に出来ないなんて……」

 

 “あいつ”はベンチの上でアイスクリームみたいに溶けていた。

 

「そんな事ないよ、グリード。デビュー戦、一勝クラスでは勝てたし、この前のレースだって入着した実績があるじゃない」

 

「今だけだよ~……。もっとグレードが上がって、ファインやシャカみたいなのと当たったらズタズタに負けちまうんだぁ~……」

 

 トレーナーが慰めの言葉を掛けるが、グリードは相変わらず溶けたまま。

 

「初めて全力疾走するファインと並走した時も負けたしさぁ~……。初心者に負けるって、それはもう才能じゃん……。王の血筋には勝てねぇんだ~……。かなりブラッドスポーツだよこれぇ……」

 

 グリードがそう愚痴るのを聞いて、無性に腹が立った。――いや、無性にではない。どうして腹が立ったかの見当は付いている。

 しかし、その考えを巡らせる前に口が動いていた。

 

「チッ、ウマ娘の走力に遺伝子が大きく影響する事は今に始まった事じゃねェだろ。短距離が得意な奴の子供は短距離が得意、長距離が得意な奴の子供は長距離が得意。そういう傾向があるのは常識だ。じゃなきゃメジロなんかの名門は出来ねぇよ。才能の如何(いかん)は大きい」

 

「やっぱり……」

 

「だが、生まれついたモンで全部決まっちまうのか? 決まったレールの上をなぞるだけなのか? ――ンなのは、ぜんッぜん面白くねェ。……そうだ、面白くねェよ」

 

「……シャカ?」

 

 俺の異変を察したのかグリードが怪訝そうな表情に。

 

「……なンでもねェよ。とにかく、お前みたいな寒門の奴が名門の奴らをぶッ倒す――そっちの筋書きの方が人気は出るんじゃねェか? お前の大好きなフォロワー数もさぞ増えるだろうよ」

 

「それはそうかも……。でも勝てなきゃ意味無いからなぁ……」

 

「へッ、それにファインを素人扱いしてたが王族だぞ。スポーツ系の習い事をやっててもおかしくねェ」

 

 ファインの方に視線を向ける。察して答えてくれた。

 

「そうだね。テニスにスキーにダンス、体操もやってたかな」

 

「へー、体操か。道理で体幹が優れてると思った」

 

 感心するトレーナーを他所にグリードに声を掛ける。

 

「ほら見ろ。お偉いコーチに指導してもらってたわけだ。対してお前は?」

 

「……近所のレース教室にたまに通ってたぐらい」

 

「お前の方がよっぽど素人じゃねェか。基礎が違ってンだよ、基礎が」

 

「…………」

 

 俺がそう言うと、グリードは黙って俯いた。

 

「あー……ほ、ほら! それにウマ娘によって成長の速度にも違いがあるから。早熟の子、平均的な子、大器晩成の子。グリードは大器晩成型だよ、きっと!」

 

 重くなった雰囲気を和らげる為にトレーナーがフォローする。

 

 データもねェのに良く言う……。俺の個人的なデータによる見立てじゃあ、こいつの成長タイプはいたって平均的。平凡も良い所だ。

 

 とはいえ、グリードにとっては気休めになったようだ。

 

「晩成……大器晩成、かぁ……。そう、そうだよ! 大器晩成の私はクラシック、シニア期で無双する予定! 今は準備段階だよね、トレーナー!」

 

「うんうん!」

 

「晩成過ぎて、芽の出ないまま終わらないと良いけどな」

 

「「シャカール!」」

 

 つい出た悪態に、トレーナーとファインとからお叱りを受けた。しかし、グリードは俺の嫌味で落ち込む様子はない。

 

「私もファインみたいに他のスポーツやってみようかなぁ。テニスかスキーか体操か……トレーナーはどれが良いと思う!?」

 

「え、普通に走りの練習をした方が――いや、待てよ。もしかしたらこの発想は皆の練習に使えるかも……」

 

 トレーナーはぶつぶつと何事かを呟きながら考え込んでしまった。あいつはたまにああなる。

 

「もー! トレーナーはまた自分の世界に入ってからに!」

 

 がやがやと騒ぐグリードと顎をさするトレーナー。二人を他所にファインは俺の方に寄ってきた。

 

「ねぇ、シャカール」

 

「あァ“? なンだよ?」

 

「どうしてさっきは怒ってたの?」

 

 さっき。グリードに講釈垂れていた時か。

 

「ふン、殿下様は察しの良い事で」

 

「やっぱり怒ってたんだ。――良ければ聞かせて欲しいな」

 

 俺が怒っていた理由。それは俺が抱えている悩みに直結する事。

 

「――俺はデータ信者だ。データってのは正直で嘘を付かねぇ。だから俺はデータを利用する。数値を見て、傾向を見て、展開を予想し、レースで勝つ。今までそうしてきた」

 

「だが、データは見たくもねェモンまで見せてくンだよ。――決められた天井、自分の限界もな。だが、(あらかじ)め定められている道に(のっと)るだけなんてクソくらえだ」

 

「予測を覆すには材料が必要だ。いくらあっても足りねェ。だからファイン、お前の走りは興味深い。他の奴とは明らかに違う”ゆらぎ”が見える。そいつを利用すれば日本ダービーもあるいは……」

 

 そこまで言って口を(つぐ)む。

 

「シャカール?」

 

「――クソッ、喋りすぎた」

 

 頭を乱暴に掻く。

 

「俺はもう上がる。今日の練習は終わったしな」

 

 俺はファイン達に背を向け、その場を去った。

 

 

 

 

*1
短期間に多くの人の耳目や注目を集める事




シャカール構文のキレの良さは異常。

ここら辺からはシャカールの描写が増えていきます。
今まであらすじ詐欺(シャカールメイン)で本当にすみませんでした。
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