富と名声のためにトレセン学園の門戸をくぐったら同期が王族と気性難な件について 作:RKC
三回ほど確認しなおして見間違いじゃないと分かった瞬間脳が溶けました。涎が垂れるのにも気づかずトリップトリップトリップ。
エルデンリングで初めてマルギット倒した時よりも脳汁出ました。
見てくださっている皆様の期待に応えられるよう更新を頑張りたいと思います。
喜びのあまり自分語りをしてしまった事、ここに謝罪致します。
(スーパーグリード)
年も新しくなり、学校も始まった。となるとジュニア期も終わりを迎え、いざクラシック期。クラシック期と言えばクラシック三冠。
という事で皐月賞に向けて頑張る訳だけど……1つ問題が発生していた。それはトレーナーに師事する私とシャカールが同じレースに出るという事。
レースは脚力がモノをいう事が多いが、前の方に抜け出すか、後ろに控えるか、など作戦が勝敗を左右する事もある。つまり、同じトレーナーに指導を受けている二人が同じレースに出てしまうと、お互いの作戦が筒抜けになってしまう点が問題となるのだ。
対策として、トレーナーは作戦の指示はせずトレーニング指導だけする、などが挙げられる。しかし、今回の場合はもっと単純にケリがついた。
「本当に良かったの、シャカ? 皐月賞まではトレーナーから指導を受けないなんて……」
シャカが一時的にトレーナーから指導を受けないと言い出したのだ。そうすれば、作戦云々は関係なくなる。私だけが作戦の指示を受けるわけだ。
「完全に指導を受けねェわけじゃねェ。たまに質問しに行く。が、それだけだ。俺の分までお前が指導を受ければ良い」
「そんな余裕ぶってて良いの~? 流石にその条件じゃあ、私が勝っちゃうんじゃないかな~?」
今の時点では私より速いシャカ。とはいえ、皐月賞までは3か月もある。それまでの間、トレーナーからみっちり指導を受ければ私もかなり伸びるはず。
「そういう減らず口は重賞を一つでも勝ってからほざくンだな」
「うぐっ……」
痛い所を突いてくる。確かにシャカの言う通り、私はまだ重賞レースにおいて勝てていない。入着は何度もしているのだが。
「べ、別に出走条件さえ満たせばレースには参加できるし!? 重賞の勝利数で皐月賞が有利になるわけじゃないんだがぁ!?」
「狼狽えすぎだアホ。……とにかく、皐月賞まではお前がトレーナーに徹底指導してもらう。その代わり、皐月賞が終わった後は俺がトレーナーを借りるからな」
「分かってるって。日本ダービーまででしょ?」
そう。シャカは皐月賞まで指導を受けない代わりに、皐月賞から日本ダービーまで重点的に指導を受けるようにしたのだ。
日本ダービーに何か思い入れでもあるのかな……。
とはいえ、皐月賞までは3か月。皐月賞から日本ダービーまでは1か月半。私の方が得なので文句はない。
「分かってるなら良い。じゃあな」
そう言い残してシャカはどこかに行ってしまった。彼女と入れ替わるようにしてトレーナーがやってくる。
「グリード、これから練習でしょ? 一緒にコース行こうか」
「りょーかい」
間延びした言葉を返しながら、トレーナーと並んで歩く。道中、聞きたい事をトレーナーに聞いてみた。
「これから三か月はみっちり指導してもらうわけだけど……食事ってどうなるの?」
「食事?」
「私がレース前に食欲が無くなるって話は知ってるよね?」
「うん。デビュー戦の時からずっとそうなんだよね? グリードも意外と神経質な所あるな、って思った」
“意外と”神経質とは心外だ。私だって年頃の年齢には変わりない。
「意外と、って……私は見ての通り全身神経まみれ。国宝のごとく丁重に扱って欲しいもんだね」
軽く抗議しておいて話を戻す。
「で、最近また食欲が無くなってきてさ」
「そうなの? ……次のレースまでは結構間があるけど」
「そう、次のレースまで間があるのに」
トレーナーが“う~ん”と唸り、考え始めた。
今までの傾向には当てはまらない食欲減退。いったいどういうメカニズムで私の食欲は減っていくのだろうか?
「ま、今は何が原因かは置いといて」
前置きをして話を続ける。トレーナーも私の方を向いてくれた。
「とにかく、今は食欲が無いと。それで……まぁ……その気になれば食べる事はできるんだけど……その……」
「食事のたびに憂鬱?」
「いぐざくとりー」
トレーナーが気持ちを代弁してくれた。
「だから出来ればジュニア期みたいにバカスカ食べなきゃいけない、ってのは止めて欲しいなー……なんて」
ジュニア期の頃は食べなければ頑丈な体が出来ないからと、食事量を多くするように言われていた。レース前は太りすぎないように食事量が減らすので、レース前の食欲減退はそれほど問題にはならなかった。
しかし今は普段から食欲が減退している。多い食事量に対応できないだろう。いや、“したくない”が正しいか。詰め込もうと思えば詰め込めるのだから。
「その点に関しては心配しなくて良いよ。ジュニア期で体の基礎は出来上がったから食事量は普通に戻して大丈夫」
「そっか」
簡素に、だが安堵を込めて呟く。普通の食事量なら対応できそうだ。
「食欲減退の原因については考える必要がありそうだけど……」
「確かに。ん~、ホント何で食欲無くなったんだろ……」
「レース前に食欲が無くなるのは無意識の緊張とかストレスのせいかもしれなかったけど……」
「その延長とか? どえらい神経質な私は皐月賞という大舞台を控えて知らず知らずの内にその心を病んでしまったのです。それが食欲減退として目に見える形に……よよよ」
大げさに顔を手で覆ってみせる。
「……うん、皐月賞。一生に一回しか挑戦できない舞台だからね。緊張するのは無理ないよ。次のレースの結果次第では出走できない可能性もある訳だし」
するとトレーナーが真面目な顔をして話し始める。あ、冗談が通じてない奴だこれ。
「す、ストップ、トレーナー! じょーだん! 冗談だって! 緊張してるなら、焦りがあったり、寝つきが悪くなったりとかするもんでしょ? 私はそういうの無いから。少し食欲が無くなってるだけ。だから大丈夫だって。体質よ、体質」
私がそう弁明すると、トレーナーは少し考えてから口を開く。
「……皐月賞の事を考えると?」
「レースは先頭、ライブはセンター。フォロワー爆増」
間髪入れずに答えると、トレーナー少し笑った。
「虚勢でもなさそうだし、大丈夫そうかな。……自信過剰感は否めないけど」
「若いのは威勢が良くなくっちゃ」
「若いのが言うセリフではないね」
なんていつものようにやり取りをしながら、練習コースへと向かった。
(エアシャカール)
「一着は二番! 二着は大きく開いて六番!」
パソコンのスピーカーからはレースの実況の声が聞こえる。
カチ、カチッ
マウスを操作して動画の再生を止めた。続けて他の動画を再生する。
その動画は先のレースとは別の映像だが、一つだけ共通点がある。一人だけ同じウマ娘が出場しているのだ。
俺は画面のそいつをじっと睨み続けた。
程なくして映像のレースは終わりをむかえる。俺は椅子の背もたれに体を預けた。キィ、とバネがきしむ音が。
「あ、あの~……」
椅子の音に続いておっかなびっくりといった声が鼓膜を打つ。
「なんだ? ドトウ」
声の主は寮の同室相手。名前はメイショウドトウ。俺より一年先輩にも関わらず、なぜか敬語、そして俺の方がタメ口で喋る始末だ。
「その~、お茶を入れたんですけど……飲みますか?」
弱気な印象を受ける声色でドトウはそう話す。
“怒涛”という名前なのに小心者のような態度。“名は体を表す”に反するウマ娘だ。
「あァ」
「机に置いておきますね……」
ドトウが持っているお盆の上にはお茶が入った水筒が二つある。彼女は一つを掴み、自分の机の上へ置く。そしてもう一つの水筒を掴み、俺の方へ近づいてくる――瞬間、つまづいた。床に障害物があるわけでもないのに。
「ひぅっ!」
ずっこけたドトウ。彼女が持っていた水筒は宙を舞い、倒れた彼女の頭の上へ――
「よ、っと」
水筒がドトウの後頭部に衝突する前に、俺は空中でキャッチした。
「大丈夫か?」
「は、はい……。す、すみません~……」
ドトウはよろよろと立ち上がり、申し訳なさそうな顔をする。
「すみません、すみません……。何もないのにつまづいてコケてすみません~……。こんな私なんかがお茶を飲むなんておこがましいですよね……。私みたいなドジは味の無いぬるい
過剰に謝罪の言葉を口にするドトウ。こいつはよくドジをするせいか、自己肯定感がかなり低い気質だ。
「別にお前のドジは今に始まった事じゃねェだろ。少し前にもお茶をこぼしたが、今日は水筒でお茶を運んできた。そのおかげでカーペットが濡れずにすんだじゃねェか。
自分のドジを予想した対策。合理的だ。自分を卑下する必要はねェよ」
俺がそうフォローすると、ドトウは少しだけ喜色を取り戻す。
「そ、そうですね……。自分なりに対策を考えてみたんですけど、上手くいったのなら私、少しは成長してるって事ですよね……」
嬉しそうに水筒からお茶を飲み始めるドトウ。
“カーペットの代わりにお前の頭が危なかったがな“と思ったが、ここでは言わない方が合理的だろう。こいつにそういう悪態をつくと、数時間は凹んでしまう。一年、一緒に暮らした積み重ねが俺の口にチャックをしてくれた。
「そういえばシャカールさんは何を見てたんですか……?」
事態にひと段落つくと、ドトウがそう聞いてきた。
「シニア級、オープン戦の映像」
「……?」
ドトウの納得いかない表情。
“クラシック期のライバルの映像を見て研究したり、GIの有名レースの映像を見て勉強するのではなく、どうしてシニアの、それもオープン戦の映像を……?”とでも言いたげだ。
「気になる奴がいンだよ。こいつだ」
ドトウが何か言う前に先んじて答える。パソコンの画面を指さした。
「有名な人なんですか……?」
「いや、別に。パッとしない普通のウマ娘だ。ただこいつは自分の限界を超えている様な走りをしてンだよ。――これを見ろ。三か月前のレースだ」
パソコンに移るレースの映像。2分もせずにレースは終わり、例のウマ娘は5着に終わっていた。
「どう思った?」
「えっと……」
聞き方が抽象的過ぎたか。
「さっきのレース、このウマ娘はベストを尽くせていた。前を塞がれる事も無く、ペースを乱す事もなかった。自分のタイミングで完璧に仕掛けていた。……お前もそう思うか?」
「はい……。良い走りだったと思います……。あ、ごめんなさいごめんなさい! 私みたいなのが他の人の走りを評価なんておこがましいですよね、ごめんなさい~……!」
「自虐は後にしてくれ。次はこっち、最近のレースだ」
パソコンに移るレースの映像。例のウマ娘は1着で終わっていた。
「三か月前のレースと比べてどう思った?」
「そうですね……。たった三か月の間ですごい成長してたと思います……。最後の直線、末脚がとんでもなかったですし……」
「あァ、俺もそう思う。だがそれはおかしい。こいつが“成長”しているのはおかしいンだよ……」
不可解な事実に自然と眉間にしわが寄ってしまう。
「どういう事ですか……?」
「こいつの過去のレースをすべて見た。そのデータでの分析になるが、こいつの肉体的成長期はとっくに終わってんだよ。シニア二年目の今、これだけの成長を見せるのはどう考えてもおかしい」
「なるほど……。それでこの人は“自分の限界を超えた走りをしている“と……?」
「あァ、限界を超えるキッカケ。それさえ掴めれば俺も限界を越えられる。だから目を皿にしてレースの映像を見てたンだよ」
「そうだったんですね……。頑張ってください……」
ドトウは納得したのか自分の机に戻っていく。俺は頬杖をついて、思考にふけった。
このウマ娘、
こいつらに共通する事項はなんだ? どうやって限界を超えている?
しかしいくら考えても答えは出ない。レースの映像だけでは情報不足だ。
……直接データを集めに行くか。
そう結論付けた。今後に備えて、限界を超えたウマ娘のリストを纏める。今日はこれで終わりにしよう。伸びをしながら背もたれに体重を乗せる。
「うひぃあぁぁ~~!!」
「っ! ぃでっ!」
瞬間、隣から聞こえてきた大音声に驚き、椅子ごと後ろに倒れてしまった。
「いきなり何大声出してンだよ!」
逆さの視界のまま、ドトウの方を向く。すると、蓋の空いた水筒が倒れ、机とカーペットを盛大に濡らしている映像が目に入ってきた。
「すみませんすみませんすみません~……! 水筒の蓋を完全に閉めてないのに、蓋を持っちゃってすみません~……!! 」
「…………分かりやすい解説どうも」
ドトウのドジはこれに始まった事じゃない。彼女をフォローしながら、後片付けを進めた。
グリードといい、ドトウといい……ファインといい。なんだって、俺の周りにはキワモノばっか集まってくンだよ……。
心中で愚痴る。ファインをキワモノに含めるかどうか悩んだが、結局入れる事にした。
キワモノブーメラン刺さってますよ、シャカールさん。
ドトウはまだお迎えしていないので、キャラの解像度が低いと感じられたら申し訳ありません。ドトウのトレーナーは鬼畜で眼鏡かけてそう、って言われているのだけは知っています。