とうとう俺も接客を任されるようになった。とはいえ、相手をするのは既に観用少女を購入されたお客様で、勧めるのは服や小物になる。店長みたいに観用少女を勧める技術はまだない。というか、流れるように商品を紹介して買わせていくあの手腕、見てるとなんか口の上手い詐欺師みたいに思えてくるんだよな。いや、ちゃんと割引しているから決して損はさせていないんだけが、とにかく口がすげー回るから、必須ではないものもついつい買ってしまうというか。
「どうぞ、店長には一応合格をもらってますので不味くはないと思います」
「フフ、そんなに畏まらなくて大丈夫ですよ。伊達君」
若干緊張しながら、店長相手に練習したお茶を出せば、爽やかな笑顔で受け取ってくれるのはこの店のお得意様である今井さん。イケメンがいい感じで歳をとったような渋いアラフィフだ。
しかも顔がいいだけではない、観用少女の店の常連になれるくらいだから当然金も持っている。大きな骨董店を経営しているそうで本人曰く「人が大切に扱ってきた古いものが好きで、集めたり勉強しているうちに、それを仕事にして食べていけるようになった」とのこと。好きなもので仕事出来るって普通できることじゃねえぞ。
くわえて、だめ押しのように持っている観用少女が望月と同じ「銘」持ちだったりする。名前は「澪標」。逸品だけあって、とにかく完璧な仕上がりで、正直に言えば望月よりも綺麗な顔をしているかもしれない。
だが、あまりに顔が整いすぎているせいか、見つめていると得体のしれない焦燥感や怖気が襲ってくることがある。事実、澪標ちゃんは以前の持ち主から返品された過去をもっていた。曰く「綺麗過ぎて落ち着かない。頭がおかしくなるんじゃないかと錯覚する時がある」そうだ。
そして、返品された澪標ちゃんは長いこと店にいたらしい。いくら銘持ちでも他人のお手つきだったことと、綺麗すぎる顔に客は皆及び腰になっていたんだとか。けれど今井さんは「他の人が手放した観用少女を愛でるのもまた一興」と気にせず、お買い上げしたそうだ。とりあえず、澪標ちゃんが今井さんにべったりなのと、今井さんも疎んでいる様子はなさそうなので、関係に問題はないのだろう。
「ところで伊達君、頼んでいたアクセサリーが届いたと店長さんから連絡を貰ったのだけれど」
「はい、サフィレットで作られた観用少女用のペンダントとブレスレットが数点見つかったので、取り寄せてみました。今、お見せしますね」
持ち込んでいたアクセサリーを小型のクッションに乗せて今井さんの元へ持っていこうとしたら。ひょこりと望月が脇から顔を出してきた。
「あ、こら望月。これは今井さんが注文したアクセサリーだから、邪魔しちゃ駄目だぞ」
「構いませんよ。やはり女の子だから綺麗な物には惹かれるのでしょう。好きなだけ見て下さい」
「ありがとうございます、良かったな望月。でも、あんまり迷惑にならないようにな」
軽く頭を撫でてやれば望月はテーブルの縁に掴まり、まるで猫のように今井さんが手にするサフィレットのペンダントを目で追う。……ひょっとして、欲しいのか? すまん望月、俺にはそれを買うだけの財力はない。一つ云万円するし、高いってもガラスなんだぜそれ、宝石ですらないんだ。あぁ、財力が欲しいなぁ。
と、そんな俗物的な事を願っている俺を余所に、今井さんは恋愛漫画でも吐かなさそうな甘い台詞を澪標ちゃんに囁きながらアクセサリーを着けてやり、澪標ちゃんは恐ろしく綺麗な、だがどこか不安をかきたてるような笑みを浮かべて、甘えていた。
アレ、これって観用少女と持ち主のやり取りだよな。まるで恋人同士のように錯覚するんですが? 俺は一体何を見せられているんだ。そして、絵面的には凄くヤバイ筈なのに犯罪臭がしないのはなんで?
目の前の情報量を処理きしれず、ぼんやりと眺めていたところ、今井さんに声をかけられて我に返る。
「伊達君、良い品をありがとう。全部買わせてもらってもいいかな」
「あ、はい。ありがとうございます。それでしたら、多少お値引きしてこの価格に……」
店長に、ここまでなら値引きしてもいいと教えてもらっていた金額を提示すれば、今井さんは「助かるよ」と慣れた手付きで小切手をきる。俺の給料以上の額をポンと出せるって本当にスゲーや。
渡された小切手を奥の部屋にしまって戻ってくれば「そういえば」と今井さんが再び話を切り出してきた。
「店長さんにも話をしておこうと思っているのだがね、私も観用少女の品を扱おうと思っているんだ」
「え、観用少女の店を始められるんですか?」
「ははは、いくら金が有ろうと眠っている観用少女にミルクを飲ますことができなければ、店なんか作れないよ。扱うつもりでいるのは、『天国の涙』さ。手に入ったら、是非とも私に譲ってもらえないか」
天国の涙、というのは観用少女が流す涙で作られる宝石のことだ。少女が目にした光景と、溢れ出る感情が混ざり合って出来る真珠のようなもので、同じ物は一つもないと言われている。そして、その数の少なさから観用少女以上の値段で取り引きされるとの噂だ。
理由は簡単、観用少女は泣くような状況に陥ることがまずないから。何しろ愛されるために生まれてきた存在だ、幸せであることが当たり前なので嬉し泣きすることはない。そして、悲しみや辛さで泣くのなら、その前にストレスで枯れてしまうからだ。なので、天国の涙が取れるパターンは、持ち主が不慮の事故で亡くなり、それを知った少女が深い悲しみの中で一粒の涙を流して枯れてしまうというのが多い。故に、遺族が天国の涙を形見としてしまい込む為に表に出ることは殆どないのだ。
「構いませんが、あんまり期待はしないで下さいね。天国の涙って出回る事の方が珍しいので都市伝説みたいな扱いになってますし」
「あぁ、私も直ぐに手に入れられるとは思っていないから気長に待たせてもらうよ。それでは、今日はこれでお暇させてもらうとしようか」
今井さんが立ち上がったので、入り口まで見送ろうと扉に手をかけたときだった。
「す、すまない。伊達君はいるか?」
今度は池田さんが白妙ちゃんを連れてやってきた。アレ、今日は有給とって白妙ちゃんを海に連れていく予定だったんじゃ?
「どうしたんですか、池田さん。休みな筈じゃ」
「あ、ああ。出掛けるつもりだったんだが白妙の頭に、その、妙な物が生えてきて」
妙な物? 指摘されて白妙ちゃんの頭に視線を移せば、植えたての苗のような植物がふわふわと風に揺れている。……何だ、コレ?
「これ、本物の草ですよね。頭に張り付いているし……どうなってるんだ?」
「お、俺もよく解らないんだ。朝起きたらもうこうなっていて……。だが、白妙も痛がる素振りはみせないしどうしたものかと」
「ふむ、私も初めてみたな。伊達君、店長さんは?」
「昼を買いに出ただけなんで、もう少ししたら帰ってきます」
とにかく店長待ちになった。望月も、不思議そうな顔で白妙ちゃんの謎の植物をつついているし、澪標ちゃんも首を傾げながら白妙ちゃんを眺めている。
その内に店長が、弁当を持って帰ってきた。男三人が入り口で固まっている姿に、一瞬固まるが、白妙ちゃんの姿を見たら直ぐに察してしてくれたようだ。
「池田様、それは
「そうか、ならば害はないと」
「いえ、それは寄生植物の一種ですので、観用少女を栄養に育ちます。なので、花が枯れると少女も枯れます」
「今すぐに毟り取ってくれ!」
大声で叫ぶ池田さん。まぁ、当然の反応といえば当然だろう。その後、花冠を引き抜く作業や、生えた場所のケアなんかで池田さんの休日旅行は消えてしまったが、何だかんだで俺たちの間にある種の友情が芽生え連絡先を交換する流れになった。そして数日後。
「「オランピアの発見記念パーティー?」」
「ええ、とある広告会社の息子さんが長年探していた観用少女を手に入れたので祝いたいと仰ってましてね」
再び店にやってきた今井さんから、招待状と書かれた高価そうな封筒を渡される。
「出来れば、同じように観用少女を持っている方を呼んでもらいたいと頼まれて……よかったら二人とも参加してもらえませんか?」
「あのあくせさりー、だてくんみたいにきらきらしてる!」