イチャイチャ(?)回その二
今井さんから貰った観用少女の御披露目パーティー、少し悩んだ末に行くことにした。
不安がないわけではないのだが、池田さんも行くと言ってくれたので疎外感はかなり払拭されるだろうし、店長も「当店にお越しいただく以外のお客様と触れあう機会というのは滅多にありませんから、縁を作りに行くのは悪くない話だと思いますよ。楽しんできて下さいね」と背中を押してくれたからだ。後純粋に、上流階級のパーティーがどんな感じなのか気になるのもある。
とりあえず、池田さんと相談をして当日の服装は貸衣装で何とかすることにした。今井さんは普通のスーツで問題ないと教えてくれたが、俺そもそもちゃんとしたスーツ持ってないしな。就活する前に就職先決まったし。
「俺たちの服よりも問題なのは白妙だな。ドレスなんて持っていないし、買うとしても一度しか着ないだろう服に大枚を叩くのは正直厳しい」
「あー、望月たちのドレスに関しては、店長に相談したら貸してくれると」
「本当か!?」
「ええ。眠ってる観用少女の服って、型落ち品の中でも、普段着には向かないけれど人目を引きやすい派手なのを選んで使いまわしてるんですよ。当然、何度も着てクリーニングにも出してるから、お客さんに売ることも出来ない。その服だったら、一晩程度なら問題ないって言ってました。汚したら買い取ってもらうって言われましたが」
「いや、その条件で構わない。店長さんに礼を言っておいてくれ。助かったと」
「それじゃ、どんな感じか見てみます? あんまり種類は多くないですが」
「あぁ、頼む」
こんな感じで、多少バタツキながらも参加に向けての準備をして日々を過ごす。マナー的なものは今井さんに何度か連絡をして訊ねるが、立食式のパーティーだから、そこまでうるさいマナーはないと教えてもらえた。とりあえず常識的な行動をしていれば、咎められることはないとのこと。何より、メインは観用少女のオランピアだから、目立つことをしなければ問題視されないとも。
と、ある程度の安心材料を貰えたので俺も池田さんも以降は何時もと変わらぬ日常を送ることができた。そんなある日、ふと店長に例の観用少女について訊ねてみる。
「店長も、オランピアって観用少女の事はご存知だったんですか?」
「ええ。探していたお客様は、オランピアに随分と御執心でしてね。伊達君が来る前ですが、当店にもいらっしゃって見つけたら是非に、と頼まれておりました。どうやら、他の店が見つけたようですが」
「その、オランピアってのは銘なんですか」
「いえ、シリーズの総称のようなものですね。歌う観用少女・オランピアと言った感じの」
「歌う?」
そんな観用少女が存在するのか?
初めて聞いた単語に、店長は「伊達君には教えてなかったですね。では、簡単に観用少女の歴史について勉強しましょうか」と説明してくれた。
「SNSなどによって存在が周知されるようになったので、皆さん観用少女はここ数年で誕生したと思っていますが、実際は八十年ほどの歴史があるのですよ」
マジかよ。
「因みに伊達君は、どれくらいの歴史があると予想してました?」
「三十から四十年くらいかなと。お客様の中に十年以上連れ添ってるって方もいたので」
「成る程。話を戻しますね。初期は観用少女に特性を持たせようと色々試していた時期があったんです。歌う観用少女はその時に幾つか試作され、全てにオランピアの名前がつけられていたのですよ」
「初期の初期ってことはかなり古いんですね。てか、そんなに長寿なんですか観用少女って」
「知り合いの職人によると、愛情とミルクさえしっかりと与えていれば、百年は生きていける設計にしてあるそうです」
それは、持ち主の方が先に死んじまいそうだ。
「そんな理由で作られたオランピアですが、現在の観用少女の、愛情を糧にして持ち主だけに向けられる極上の笑みには及ばなかったようで、結局数体の試作品が作られるだけで終わってしまったようですね」
「歌う観用少女も需要はありそうな気はしますけど」
「販売されていれば、欲しがる方も多かったと思いますよ。ただ、どうも調整が安定しなかったようです。観用少女は人形ですが、同時に生きています。好きなように鳴らせるオルゴールのようには出来なかったのでしょう」
うーむ、と顔をしかめたくなる理由だが解らないでもない。歌う事をウリにしているのなら、やはり自分が聞きたいタイミングで歌って欲しい気持ちはある。決して安い買い物ではないわけだし。
「まぁ、あまり深く考えなくてもよいと思いますよ。試作品とはいえ、壊される事なく残されていた観用少女です。ある程度、持ち主の要求に応えられるのでしょう」
「そうします」
「あ、そうだ。パーティーの日の為に当店の名刺を作ったんですよ。もし、望月を通して観用少女に興味を持つ方がいらっしゃいましたら渡してもらえますかね」
「アッハイ」
接客中のような満面の笑みを浮かべながら、結構な量の名刺を渡されたので機械的に受けとる。この量、いつの間に。やはり店長となると、ここまで商魂逞しくなければやっていけないものなのかもな。
そうしてパーティー当日。俺は仕事をしながら、池田さんは半休をとってそれぞれの観用少女の身支度を手伝っていた。
「何から何まですまないな、伊達君。まさか服はおろかアクセサリーや靴まで無償で貸してもらえるなんて」
「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。店長も“あまり観用少女に興味を持っていない人に、アピールできる絶好の機会”と言ってたんで。望月と白妙ちゃんは丁度いい宣伝みたいなもんです」
「だとしても、借りれば相当の値段になるだろうに。そうだ、役に立つか解らんが、この店の為に出来ることがあれば言ってくれ。手伝うよ」
「それなら店長から観用少女に興味を持った方がいたら渡してくれと名刺預かってて。一緒に配ってもらえます?」
「ああ、喜んでやらせてもらうよ」
貰った名刺を三分の一程度出せば、嫌な顔せずに受け取ってくれる。俺よりも社会人生活が長い池田さんも配ってくれるなら、多少は捌ける筈。
時計を確認すれば、そろそろ出るのに良さそうな時間なので店長に声をかけて池田さんと会場へ向かう。観用少女を連れているからか途中、かなりの視線を向けられたが、二人揃って高いスーツ(借り物だが)で身をかためているからか、不審がられるというよりは好奇の感情がほとんどだった。やっぱ外見て大切なんだな。指定された場所に着くと、望月や白妙ちゃん以上に着飾って美しくなった澪標ちゃんと今井さんが待っていた、大型タクシーを呼んでいてくれたらしい。十分以上車に揺られてたどり着いた先は、県内でも名の知れたホテル。俺と池田さんは、てっきり大宴会場を借りきっているのだと思っていたのだが。
「いや、観用少女の持ち主は金持ってる人が大半なのは解ってたけど……規模がスゲェ」
「金は有るところにはあるんだな」
まさかのホテル丸々借りきっているとは想像もしていなかった。ホテルを貸し切りできる金額なんて知らないが、ひょっとすると観用少女買うよりも高くつくんじゃないのか?
ロビーに入ると、既に何人もの客が寛いでいたり、カウンターでチェックインしていた。遠方からきている客もそこそこいるんだろうか。
物珍しげに見ている内に人が増えたので、人々の後ろについて大宴会に向かう。その後パーティーが始まるが、正直恥をかかないように行動することと、店長から貰った名刺を池田さんと捌くことに必死で覚えていない。配り終えて一息ついていると、子供らしい可憐な、けれど美しい歌声が響いてきた。振り向けば、作られた特設ステージの上に長い髪の愛らしい少女がいて、満面の笑みを浮かべて歌っていた。言われなくてもあれが例のオランピアなんだろう。八十年も前の観用少女だから、もうちょい古臭いタイプなんだろうと決めつけていたが……普通に店にあってもおかしくない見た目だな。侮っていたぜ。
歌い終わると、一斉に拍手が起き客がオランピアと持ち主であろう男性の元へ集まっていき、歌声を誉めちぎっている。純粋に讃えているのもあるんだろうが、おべっかや胡麻すりもかなりあるんだろうな。
人が一気にいなくなったので、これから何をしようか考える。名刺はもう無いし、 食べるといっても酒がメインだからな、望月連れて酔っ払うのもアレだし。
(そういえば、このホテルって展望室があることで有名なんだよな)
「望月、このビルの最上階は展望室になってるんだ、今日は天気もいいから夜景もよく見えるだろうし、行ってみないか?」
手を差し出しながら誘ってみれば、望月が俺の手と自分の手を交互に見返し、指を絡めるようにして握り返してきた。俗に言う『恋人繋ぎ』という握り方で。
(あー……)
一瞬、どうしようかと悩む。やんわりと離してシェイクハンド繋ぎに直そうかとも思ったが。チラッと望月を見れば、僅かにだが緊張しているような表情をしてる。やはり、離される心配をしているのか。
(……いいか)
どうせ人はオランピアたちに夢中で、気付きもしないだろう。別に悪いことをしているわけでもないし、名刺が予定よりも早く捌けたのも望月がやってきた人に愛想笑いを浮かべて興味を引いてくれたのもある。これくらいは、可愛い我が儘の一つだ。
「よし、じゃあ行こうか」
笑顔でそのまま歩き出せば、望月は顔を俯かせたまま、ぎゅうぎゅうと強く握りしめてきた。
オランピア効果のお陰か、展望室には誰もおらず貸し切り状態だった。広がる夜景を目にした途端、目を輝かせ手を握りしめたまま走り出す望月。確かに綺麗な眺めだが、それほど珍しいものでもない。喜んでいる望月の姿に、楽しんでもらえて良かったという気持ちと、この程度しか出来なくて申し訳ないという気持ちが胸にせりあがってくる。
「なぁ、望月」
膝をついて話しかければ、首をかしげながら顔を向けてきた。
「俺はさ、多分望月……いや、観用少女の持ち主には相応しくないのかもしれない。村上さんみたいに好きなところに連れていける乗り物は持ってないし、今井さんのように望月の魅力を引き立てる服やアクセサリーなんかも気軽に買ってやれない。オランピアの持ち主みたいに、望月の為にビルを貸し切るなんてのはもっての他だ」
「けれどさ、望月は俺を選んでくれたから、少しでも俺と一緒に入れて良かったと思えるように努力する。だから望月もずっと俺の傍にいてくれ。頼む、な?」
まるで告白のようだと思いながらも、感じてる素直な気持ちを言葉を口にすれば。
望月の顔は。今日いや、今までみた中でも極上の笑みだった。
「~~~♪」