独自解釈が結構あります
店に届いた望月を早々に目覚めさせて購入を決定した俺は、望月を伴って商談用の部屋へとやってきた。そういえばここ、入るのはバイトの面接以来だな。
「観用少女のご購入、ありがとうございます伊達君。少女を目覚めさせたお客様には、彼女らについて軽く説明させてもらいますが、伊達君には今後店員になってもらいますので、もう少し詳しい話をします」
「は、はぁ」
「あぁ、そこまで緊張しなくても大丈夫ですよ。それほど難しい話ではありませんし、いきなりお客様の相手をしろなんて事もさせませんし。観用少女の扱いについて、通常のお客様より少しばかり込み入った話をするので、それを頭の片隅にでも覚えてもらえば、程度の気持ちで充分です」
固まっている俺に、店長はクスリと微笑むと「では」と説明に入った。
「まず、観用少女の世話自体については、それほど手間ではありません。風呂やトイレ、着替え等はすでに覚えていますから。なので、世話として主にやることと言えば、日に三回のミルクの温めです」
「世話の話だけに絞れば、観用少女の扱いはそれ程難しいものではないでしょう。しかし、彼女らの体調を維持するには『愛情』が必須になります。これが、なかなか大変になります」
店長の言う通り、買ってから少女の具合が良くないと相談にくる持ち主はそれなりにいる。
「愛情が足りなくなると、どんな変化が起きるんですか」
「最初に気づく異変としては髪の艶が無くなってきた、肌の質が悪くなってきた、の二種類ですね。この時点なら、補助栄養剤として専用の砂糖菓子をミルクと共に与えながら愛情を注いでやれば直ぐに改善されるでしょう。放置しておくと、ミルクを残したり飲まなくなってきます。ここまできた場合はメンテナンスが必要です。観用少女のメンテナンスは、アフターサービスとして無償で行っておりますが、愛情不足からくるメンテナンス時はお客様責任ということで、有償となります」
だいたいこのくらいですね、と短冊に表示された金額は相変わらずエグかった。怖、絶対大事にしよう。
「ここまでが、観用少女を助けられるギリギリのラインですね。これ以上放置しておくと」
「……しておくと?」
「『枯れ』ます」
また穏やかじゃない単語が出てきたな。しかし枯れるって……ミイラみたいになるのか? 完全にホラーじゃないか。
「『枯れる』というのは便宜上の意味で、実際は消滅ですよ。愛情不足が極まると、少女たちは僅かな灰を残して消えてしまいます。因みに少女に暴力を振るおうとして、『枯れる』事もあります。強いストレスを与えれば枯れる、とでも覚えていて下さい」
つまり、観用少女はとにかく可愛がれ、虐待なんてもっての他というわけか。
改めて大事にしようと誓って、隣にいる望月へ視線を移せば、店長をじっと見つめている。真面目に話を聞いている風だったが、視線に気づくとすぐさま俺を見つめてきたので、急いで視線を反らす。まだ買って時間が経ってないのもあるが、綺麗な顔した子に見つめられるって恥ずかしいというか、照れるというか……慣れないな。
しかし、そんなことして望月のストレスの元になったらヤバいので、顔を付き合わせるのには早めに慣れないと。
「とりあえず、望月の様子は日々しっかり確認した方がいいってことですね」
「そうです、変化に気付くのも愛情の一つと言えるでしょう。あと気を付けることは……まぁ伊達君はこれから正式な店員になるのでやらないとは思いますが、観用少女には絶対に『決められた物』以外は与えないで下さい」
「ええ、そのつもりですけれど……いるんですか、ミルク以外を与える人が」
「割といらっしゃるのですよ『少女が興味深そうに見ていたのでつい』という方が。本人も、一枚のクッキーや一口のジュース程度のつもりでいるので、それほど大事にはならないと考えているのでしょうね」
「与えるとどうなるんですか」
「まずは高確率で倒れて、メンテナンスが必要になります。この場合も、お客様責任ということで有償になりますので。次の可能性は『枯れる』事になります。これは少女にとってあまりにも刺激の強いもの……酒や煙草類が当てはまりますかね。一瞬で『枯れ』てしまうのでご注意を」
「……超気を付けます」
「実際は欲しがっているわけではなく、ただ持ち主の行動を眺めているだけなので、気にしないのが一番ですよ。そして、先程の話に戻しますが……低確率で『育ち』ます」
「育つ?」
「観用少女の名前の通り、彼女たちの見た目は少女のまま、固定されています。毎日ミルクを飲んでも成長は一切しません、その内に解ると思いますが、髪の毛すら伸びませんからね。髪型を変えたいというお客様がいらっしゃったら、特殊な合成肥料をお渡しすることになりますし」
言いながら棚から取り出したのは、トリートメント材のようなもの。これを入浴時に髪に塗って、成長を促すんだとか。
「『育つ』……という事は大人になるって解釈でいいんでしょうか?」
「はい、しかしどう育つかは少女によって異なりますので定義はありません。特殊過ぎて事例がほぼないのですよ、私も育った観用少女は噂で一度聴いただけです。それだけ少女が育つのは珍しく難しい」
「難しい……?」
「育ちきるまで倒れず枯れずの状態で、人の食べ物を長期間与え続けないとですから。少しでも用量を間違えれば、メンテナンスか枯れてしまいますし。狙ってやるとしてもかなりの根気と運がないとなんですよ。そして、大人になったからといって理想の美女になるかは解りませんからね。育ちきったらメンテナンスは出来ませんし、返品も不可ですよ」
つまりは、危険を犯してまでやる価値が無いと。確かに、美少女が微笑んでくれるだけで充分だもんな。
「と、色々説明をしましたが、気負わずに可愛がってあげるだけで問題ないですよ。少女たちも持ち主を選んで目覚めますから、特別相性が悪いこともないでしょう」
「うぃ、解らない事があれば店長に訊くので、その時はよろしくお願いします」
「そうして下さい。大切に扱えば望月は“銘”付きです。ひょっとしたら、天国の涙が手に入るかもしれないですよ」
「何ですか、それ」
「あぁ、言ってませんでしたか。天国の涙というのは宝石の一種で―――」
その後、客がくるまでの数時間、店長から観用少女についての細かい説明や、正社員として今後覚える仕事内容等を教えてもらった。
望月も俺が話を聞いてる間、ずっと傍にいたが……果たして意味を理解して聞いているのか謎である。
「だてくん、わたしのことだいじにしてね」