【完結】高い買い物をするはめになった   作:飛沫

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段々タイトル考えるのが苦しくなってきました


趣味と実益を兼ねた高い買い物をする

 香り玉を買って以降、望月は自分が欲しい物はおねだりをすれば、買ってもらえるかもしれない、という事実を知った。知ってしまった。

 そんなの気の持ちようでどうとでもなるだろ、と大抵の人は思うだろうが想像して欲しい。自分を慕う最上級の美少女が、何かを興味深そうに見つめた後に『これが欲しい、買って』と潤んだ瞳でこっちをジィっと見つめてくるのだ。

 それを見れば大抵の人は「買ってやりたい!」と激しく心を揺さぶられ、なるべく購入の方へ考えを傾けるだろうし、値段と相談して無理だった場合は「不甲斐ない持ち主で悪い」と多少は胸を痛めるだろう。

寧ろ、「ごめん」の謝罪もせずに買わないを選択できる方が人としてどうかしているんじゃないかと思うぞ、俺は。

 とはいえ、望月も俺が店に出入りする客ほど金を持ってないことを理解しているのか、あの香り玉以来、物を欲しがられる事は無いのだが。うーん、助かることは助かるんだが、ほんのちょっぴり悲しくもある。我ながら面倒臭いな。

 複雑な感情をもて余しながら、数日を過ごしていた時だった。

 クイクイとエプロンの紐を引っ張られて振り替えると、望月がタブレットを持ち上げながら例の潤んだ瞳で見上げてきたのだ。

 一瞬えぇ!? と焦ったが差し出されたタブレットの画面を見て冷静さを取り戻す。これは……また耳掻きの動画か?

 ということは、馬鹿みたいに高い観用少女に関する品物ではないな、ならヨシ!

 何だ何だと、腰を屈めて望月が見せたがっているであろう動画を再生してみる。

 何て事はない、いつも望月がよく見るタイプの耳掻きだ。変更点があるとすれば、この動画は掃除に使っているのが耳掻き棒じゃなくて、綿棒ってところか。……これの何が欲しいんだ?

 疑問符を浮かべながら、黙って動画を見ていると、ある場面で画面を止め、先程と同じように見つめてくる。ん、これを買えと?

 写っているのは液体の入った硝子瓶と、持っている耳掻き屋の店員だ。ちょうど指が硝子瓶に印刷されている文字に被って、商品名が解らないので、一時停止を解除して動画を進めると店員の口から「みみせんけつ」という言葉が聞こえてきた。みみせんけつ、ねぇ。

 直ぐにノートパソコンの前に陣取って、検索をかけると、通販サイトの商品案内が一番上に出てきた。耳洗潔、なるほどこういう漢字か。

 説明を読むと、ハッカと唐辛子の成分が入った液体でスッキリしながらも耳がポカポカとする仕様になっているらしい。想像がつかないな。

 因みに値段は……感じかたは人それぞれってなりそうな金額だ。使い方が限定的過ぎて高いと思う人もいれば、趣味の一環と考えれば妥当な値段だと思う人もいるだろう。因みに俺は観用少女の物に比べれば全然良心的な値段じゃね? と思った人間だ。いや、この前の香り玉もそうだけれど、観用少女に関係する品物本気で高過ぎ、怖い。

 更にそんな値段の品物を値切りもせずに、カードで購入していく客はもっと怖い。いくら、観用少女の持ち主は金持ちが多いからってウン万円、下手すりゃウン十万を顔色一つ変えないって次元が違いすぎる。望月がいなかったら関わりがなかっただろうなぁ。

 と、耳掻きから観用少女の品へ意識を飛ばしていたら、腕をグイグイと引かれて望月と目が合う。おう、悪い悪い、これを買って欲しいんだよな。

 ノートパソコンに視線を戻して、耳洗潔の購入ボタンをポチっとする。そういえば、最近は耳掻き棒ばっかり使っていたから、綿棒は持ってなかったな。一緒に買っておくか。

 その後も、ついでにいくつかの商品をポチっておいた。俺の物ばかりじゃ悪いので、望月用にと最近読み始めているファンタジー小説もこっそりとポチっておく。耳洗潔と一緒に渡したら、どんな顔してくれるやら。

 

 

 

 

 

 数日後、頼んだ荷物が人形屋に届く。店長に頼んで俺が頼んだ荷物も此方に届くようにしてもらっていたのだ、どうせ観用少女関連の商品の荷物も、毎日のように届くし。

 嵩張る物でもなかったので、望月に気付かれないようにしながら、こっそりとカバンにしまう。見つかったら、直ぐに耳掻きしたがるからな。

 

「伊達君、お客様が観用少女の靴を見たいと仰られているので、持ってきてくれませんか? 出来ることなら赤系統の靴がいいそうです」

 

「あ、はい。解りました」

 

 店長に声を掛けられて、俺は直ぐに靴がしまわれている場所へ向かう。こうやって作業しているうちに時間は過ぎて、あっという間に退勤時間となった。

 

 

 

 

 

「ほら、望月。欲しかったのが届いたぞ」

 

 全てが終わった夜の九時過ぎ、俺は耳洗潔一式と小説を望月へと渡す。

 品物を見たとたん、望月のパチパチと瞬きをした後に瞳をキラキラと輝かせた。そして、胸元に引き寄せてぎゅっと抱き締めてからミルクを飲み干した時のように口元を微かに上げた綺麗な笑みを見せる。

 こうやって見ると、改めて望月の感謝の表現は控えめだなと思う。たいていは持ち主が何かを買うと、大抵の観用少女は抱きついてきたり、少女らしくはしゃいでみたりするのだ。まぁ、それに不満があるわけじゃないから、いいんだけれどさ、可愛いし。

 耳掻き用品の梱包を全て開封すると、もう我慢できないといった様子で、正座をした望月がペチペチと太ももを叩いてきた。本来の予定日よりも早いが、まあ数日なら誤差の範疇ということにしておこう。プレゼントしておいて「また今度な」は非情といえば非情だしな。

 

「おし、じゃあ頼むな」

 

 何時ものように、望月に対して垂直の位置で頭を乗せる。最初に手にしたのは、太めの綿棒擬きだ。どうやっても耳の中に入る大きさの綿棒ではない、おそらくだが患部に消毒液や薬を塗るのに使う用途の綿棒なのだろう。

 もう少し手元を眺めていたかったが、ガーゼのハンカチに視界を遮られる。残念、ならば触覚と聴覚で後は楽しませてもらおう。

 少しでも感覚を鋭くするために目を閉じているとカポン、という硬質な音が聞こえてきた。これは耳洗潔の蓋を開けた音か? こういうプラスチックっぽい音、結構好きだな。

 

「……おぉー」

 

 次にやってくるのは、耳朶の溝をなぞる綿棒の感触。綿棒が太めだから、塗れた指先で溝を拭かれているような感覚がする。綿棒は溝の中を一通り拭うと、耳の裏側まで丁寧に往復してくれた。掃除が終わってしばらくすると、耳朶全体がスウスウとポカポカが同時にきたような、なんともいえない感じになる。これがハッカと唐辛子効果か? スウスウしてからポカポカするかと思いきや一度にやってくるとは思ってもみなかったぜ。

 外側が綺麗になったので、次は内側だ。フィルムの破れるピリッという音に、どんな綿棒が使われるのか想いを馳せる。綿棒も何種類か買ってみたんだよな、望月の興味を引いたのはどれだろうか。

 

ペタッペタッ

 

 どうやら取り出したのは、粘着綿棒のようだ。入口付近にペタペタと、綿棒が押し当てられては離れていく。名前の割には粘着力が弱い気もするが、実際ガムテープ並みの粘着なら叫ぶだろうから、ほんの少しくっつく程度がベターな強さなんだと思う。

 粘着綿棒は、入口を数回ペタペタするだけで終わった。元々二週間間隔で望月がしっかり綺麗にしてくれるから、汚れなんて大してついていなかったんだろうし、サービスみたいなものか? 俺も初めての感覚を楽しめたしな。

 そして遂に、メインの綿棒を使った耳掻きが始まった。耳の穴の壁に綿棒が押し当てられ、ぐるりと一周してから外に出たり、中で綿棒をくるくる回してガサゴソいう音を立ててみたりと、望月は色々試して俺を気持ちよくさせようと頑張ってくれている。

 綿棒もいいなぁ。耳掻きは『掻く』ってだけあってあまり強い力を加えると痛くなるが、綿棒は素材が紙で柔らかいから、多少強く押し付けても痛みはないし。折角買ったことだし、これからは耳掻きと綿棒を交互で使ってもらうよう、望月に頼んでみるとするか。

 最後に、耳洗潔で耳の穴の中を一通り掃除して右耳は終了だ。穴の中がスウスウすると、綺麗になった感があるな、元より綺麗なんだろうけれど。望月のお陰で。

 ポンポンと頭を優しく叩かれたので、俺はゴロリと左に寝転がると、再び耳朶の掃除が始まった。この後は、極上の肩と背中のマッサージが待っている。今日はお返しとして、一緒に買った本を朗読するかな。

 そんな事を考えていたのだが、いざやろうとしたら首をやんわりと横に振られて、櫛を渡された。

 何だ、本の朗読は嫌なのか。お兄ちゃんは悲しいぞ。




「だてくん、わたしもうこどもじゃないよ」
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