生まれてこの方、満たされたことは一度もない。
腹が減って食事を取れば空腹は満たされる。常人ならば。
俺は常人ではなかった。
生まれつき食べ物の味がわからない、視界に広がるものは灰色の世界。耳に届くは雑音ばかり。おまけに、暑いのか寒いのかすらわからない。
まるで生きた屍のような、誰もが当たり前に持っているものを持っていなかった。
辺鄙な場所にある小さな村に欠陥を持ってして生まれた哀れな少年。それが俺だ。
物心ついてからは、世界を呪った。
なんで俺だけ。
そう思わずにはいられない。
廃人のような生活を送っていたある日。奇跡が起こった。
それは、紛れもなく俺の人生のターニングポイント、俺の世界が変わる瞬間だった。
十歳を迎えた日。ぼんやりと色のない空を眺めていた時、天からとてつもなく美しい女神が舞い降りたのだ。
そのとき、世界が変わった。その女神を中心に俺の世界に色がつき、いつも聞こえていた雑音は消え、感じることのできなかった風の心地よさが漂ってきた。
それが、俺が生まれてから初めて満たされた瞬間だった。
そして、俺が初めて恋をする瞬間だった。
俺が満たされてからの余韻に浸って呆然としていると、その女神はとても美しい笑顔で俺の耳に言葉を届けた。
「こーんなに顔を真っ赤にしてもしかして、この私に惚れちゃったの?ま、当然よね!だって私は、女神の中の女神────アフロディーテなんだからっ!!」
頭痛がした。
☆☆☆
あれから止まない頭痛に頭を抑えながら、俺は何故この頭の弱そうな女神がここに現れたのかを聞いた。
「んー?なんでここにって?あなたがとてつもなくつまらなそうな顔で空を見ていたから暇つぶしに降りてきたってわけ!」
裸体に布を巻いただけのような服装で腕を組みながら、名推理をしたようなドヤ顔を貼り付けている女神なんて見たくなかった。
「なるほど、よくわかりました。それでこの後アフロディーテ様はどうするのですか?」
「ふふん、それはもう決まってるわ!あなた、この世界で一番美しくて究極スーパー天才美少女な私の眷属になりなさい!」
頭痛がひどくなった。
「まぁ、いいですけど」
「あれっ!?なんか味気ないんだけど!おかしいわね、私の魅了だったら、本当ですか!アフロディーテ様っ!あなたの眷属になれること、人生至上の喜びです!恐悦至極!、とか言ってくれるもんじゃないの?」
あ、だめだ。俺にはこの神様敬えない。
「そんなこと言うわけないだろ。アフロディーテ……なんか長くて言いづらいからディーテな」
「な、ななななななっ!?この私に向かってなんたる不敬!…でも、ディーテって響きは悪くないわね。それに免じて不敬を許してあげてもいいわよ?」
うるせーな、この神様。俺が一言返せば、十帰ってくるようなうるさい女神だ。
「はぁ」
「なにそのため息、超ムカつく。でもまぁ、あなた面白そうだし、私の眷属になりなさい。拒否権はなし」
まったく。こんな女神の眷属になるなんて正直不安だが、彼女のお陰で俺は今世界を知れた。それは事実だ。
それに、俺はこの女神を────。
俺は自分の想いに蓋をしてから、彼女の前に跪き、彼女の手を取る。
「私はあなたの眷属になります。どんなことがあろうとあなたを守り、支えて見せましょう。神アフロディーテ」
彼女はさっきまでの態度を変えると、彼女には似つかわしくない真面目な顔をしたあと、にっこりと笑った。
「ええ、もちろん。これからあなたは私の眷属なのだから。さぁ、私にあなたの名前を聞かせてちょうだい」
目を瞑る。今までこの世界に生まれてから俺は自分を欠陥を持って生まれさせた世界を呪った。
だが、今日この瞬間。俺はこの出会いを、世界を愛した。手のひら返しと呼ばれても構わない。
目を開けるとそこには女神がいる。今まで認識することができなかった色彩が色鮮やかにその女神の特徴を伝えてくれた。
美しくて、神々しくて、何より愛おしい。
「私の名は、ロア・バートハート。あなたの眷属です」
その日、俺の人生は大きく動き出した。
頑張ります。
誤字脱字、おかしなところがあれば指摘のほどよろしくお願いします。