ファミリア・テイル   作:烏兎 満

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難産


第九話 笑顔という魔法

 いつもより早くダンジョンから帰ってきたロアは、ホームへと足を向けていく。

 

 アフロディーテ・ファミリアのホームである小さな小屋は、北西のメインストリートからダイダロス通りほどではないが、そこそこ入り組んだ路地裏に建てられている。

 

 その路地裏からロアは、ホームへと向かう途中、微かな音が鼓膜に届き、その微かな音が何かを叫ぶような声に聞こえた。

 

 その声の元を無意識に辿っていくと、叫ぶような声は、必死に誰かに助けを求める声へと変わり、誰かから逃げているように聞こえ、ロアはその声の元に行こうか頭の中に迷いが生じていた。

 

 ここ最近による心の急な変化にロア自身も自分に戸惑っており、ここで『助ける』という選択肢が自分の頭に浮かび上がってくることに驚いていた。

 

 助けに行くことを迷っていた時、無意識に動いたロアの足は、声の元へと駆け足で向かいはじめた。

 

 今までにない焦燥感に駆られながら、ダンジョンに潜った疲労感さえ忘れて、その基本アビリティの敏捷がSになった足の速さで風をも置き去りにし駆ける。

 

 生憎とこの周辺の地理は、随分と理解していたのですぐにその声の元へと辿りついた時、ロアの目に飛び込んできたのは、白い装束を纏った男と小さな少女だった。

 

「た、助けて…」

 

 少女はぎゅっと目を瞑っており、ロアを視界に収めていない状態で架空の救世主に助けを求めており、その姿から少女が助けを求めているということが一目瞭然であった。

 

 その時、ロアの胸にある一つのある想いが宿った。

 

 

 助けなくてはならない。

 

 

 その想いは今まで一度も他人に抱いたことのない想いであり、ロアが抱くことのなかった他人へ向ける感情であった。

 

 アストレア・ファミリアが闇派閥から無償で襲われている人を助ける善行。

 

 アストレア・ファミリア主神の神アストレアが説くアストレア・ファミリアの人を笑顔にする理由。

 

 そして、我が主神アフロディーテが語る笑顔の美しさ。

 

 人を助ける。

 

 その行いにどれほどの価値があるのかロアには、まだ完璧には理解できていないのかもしれない。

 

 それでも、人を助ける行いによってその人が笑顔になるということは、とても素晴らしく、この少女の笑顔を見たいと思ってしまった。

 

 少女を殺そうとしてかその闇派閥らしい男は、手に持った太刀を少女の頭を真っ二つにするため上へ上へと振り上げる。

 

「……おい、やめろ」

 

 そう声をかけるが、その男はこちらを一瞥した後ただの無能な子供だと思ったのか無視を決めつけ、振り上げた太刀を躊躇なく振り下ろそうとしている。

 

 少女は、現実を見たくなかったのか震えながら「お母さん…!」と微かな声で母親に助けを求めるが、この場に母親はいない。

 

 いるのは少女を殺そうとしている男とそれを目を瞑って未だに何か迷っている少年ただ一人だった。

 

 不意に少女が気の迷いからかぎゅっと瞑っていた目を開けた時、振り下ろされようとしている太刀に恐怖しながらも、男の背後にいる少年を視界に入れた時、少女は必死な思いで悲鳴とは言えないほどの小さな声で言った。

 

「助けてぇ…!」

 

 一瞬だった。

 

 躊躇なく振り下ろされた太刀をとてつもない脚力で飛び出した少年が手に持つ槍でその太刀を弾いた後、男の死線に回り込み、男の首を槍で背後から無慈悲に串刺しにした。

 

 少女はその光景を目をつぶらずに、圧倒的で一瞬の出来事を目の当たりにしながらもその目には生気が宿り、キラキラと輝いて見えた。

 

 

 そして何より、彼女は笑顔になっていた。

 

 

 男の首から槍を引っこ抜き、少女に無事かどうかの声をかけようとした時、ロアはその少女の浮かべる表情を視認した時、胸からこぼれ落ちそうなほどの感情が込み上がってきた。

 

「…お兄さんっ!た、助けてくれてありがとう!」

 

 ロアの目に映る彼女の顔は、薄暗い路地裏を美しい花のような笑顔で咲かせて、ロアは自分の胸に宿る感情の意味をようやく理解した。

 

 人の笑顔がこんなにも素晴らしいものなのだということに本当に本当にようやく気付いたのだ。

 

 アフロディーテ以外の存在価値。

 

 そんなもの、ないと思っていたがたしかに本当の答えは『ない』のかもしれない。

 

 けれど、それは『ない』というよりも、こんな美しい笑顔に価値なんてものでは推量れないくらいに素晴らしいものなんだと。

 

「…あぁ、どういたしまして。そして、ありがとう」

 

 少女のお礼に対して、自分の答えを出させてくれた少女に感謝の意味も込めて返事を返すと、少女はなぜお礼を言ったのかわからなかったようで首をちょこんと傾げると、すぐに笑顔に戻り、次に出てくる言葉にロアは目を見開くことになる。

 

「お兄さんの笑顔、素敵だね!」

 

 ロアは、驚きながら自分の頬に手を添えてみると、たしかに口角が上がっており今鏡を見たのならば白い歯を見せつけて、一人の女神にしか見せない表情を少女に見せているのだろう。

 

「そうか?まぁ、でも、ありがとうな」

 

「うんっ!どういたしまして!」 

 

 ロアのこの人を笑顔にさせたい想い。

 

 これはアフロディーテへの想いより強くはないだろうが、それでもロアの胸には一つの決意が刻み込まれていた。

 

 

 人を笑顔にできる道化になろう。

 

 

 今までの自分に仮面を貼り付け、人を笑顔にさせる。

 

 それが、ロアの出した答えであった。

 

 

☆☆☆

 

 

 少女と談笑しながら、今ロアが思いつくいろんなことで笑わせて、母親を一緒に見つけた。

 

「す、すみません!本当にありがとうございます!」

 

「あぁ…んっん!いいや、全然この子は大丈夫だったよ。さっきまで楽しそうに俺と話してたし。な?」

 

「うん!ロア兄がとっても面白い話してくれたから、全然平気だった!」

 

「そうなのね、ロアさん。ありがとうございます」

 

 ロアは母親の笑顔を確認して、アフロディーテの言葉を思い出し、自然とロアも笑顔が溢れる。

 

「よし、じゃあシティアもしっかりお母さんと帰るんだぞ?もう迷子になっちゃダメだからな」

 

「約束する!」

 

 母親とシティアという名前の少女を見えなくなるまで送ると、背後から声をかけられた。

 

「はっはーん、あなたちゃんと正義を行っているじゃない!さては、私たちに影響されて人助けとかしてたりするんでしょう!」

 

 声をかけてきた赤毛の少女は、ニヤニヤとしながら己のひじをツンツンロアの背に向かってつつくがロアは動じず、今までのロアとは一変した対応を見せた。

 

「ふっ、お前らが助けていなかったから仕方なく俺が助けてやったのよ。お前ら、正義の眷属じゃないのー?」

 

「む!本当に助けてくれていたのね!ありがとう!」

 

 その心の底から感謝する態度に、ロアは面を喰らうがこの少女は確かこんなやつだったかと思い出し、苦笑いを浮かべながらも、少女の御礼をきちんと受け取った。

 

「はは、まぁ、一つの貸しにしといてやろう。俺の名前はロアだ。お前の名前は…」

 

「アリーゼ・ローヴェル!それが私の名前よ!」

 

 底抜けの明るさを持ったような性格の彼女にロアは、この少女といると疲れそうだなと思いながらも、信用のできそうな一人に置いておいた。

 

「んじゃ、またな」

 

「ええ、あなたのその笑顔。とっても素敵よ!」

 

 最後のアリーゼの言葉を耳に残しながら、メインストリートからの路地裏へと向かう。

 

 辺りはすっかりと日が暮れてしまい、暗くなった道を歩きながら、ロアは一人ぼそりとつぶやいた。

 

「笑顔って美しいな、ディーテ」

 

 その呟きは、夜の薄暗い闇へと吸い込まれていき、そこには静かな夜の空間だけが残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 よし、オリキャラ祭りを始めよう!

 ようやくロアちゃんの在り方が確立されたので、話をどんどん進めたいと思います。

 夏休み入るし、書くぞ書くぞー!

 感想などどんどんください。答えましょう!(なぜか上から目線。そして、なぜかテンション高い)
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