ファミリア・テイル   作:烏兎 満

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モンハン楽しすぎ


第十二話 失意の鍛治師

 ロアが神会にて『二つ名』をつけられる少し前。

 世界最速ランクアップを果たした冒険者として、全ての冒険者や神々に興味の目を向けられていた。

 

 しかし、注目の的になっている当の本人は、そんなこと気にすることもなく鍛治神へ会うためにヘファイストス・ファミリアの本拠地へと赴いていた。

 神の恩恵のおかげなのか最近は、身長の伸びが異常に早く160センチに届いており、アフロディーテと肩を並べるぐらいの身長でアフロディーテと目が合うと、口をへの字に曲げて不機嫌そうな表情を作るので、本人には言わないが、少し可愛いと思っていた。

 

 ずっとロア自身も守るべき対象より背が低いことを気にしていたので、ロアのちょっとした悩み事が解消された嬉しい成長だった。

 

 話は変わりヘファイストス・ファミリアを訪れた理由は、自分の使っている銀色の槍の穂先が少し刃こぼれしてしまっているため、この武具を作り出した本人にメンテナンスを頼もうと思ったからである。

 この槍にはまだ未熟な鍛治師が打ち出した武具なので、ヘファイストス・ファミリアの銘柄は刻み込まれてなかったが、ロアから見てもあのテナントの奥に埃をかぶっていた武器とは思えないほどの出来であり、この槍の一つ一つが丁寧に作られており、この槍を打った鍛治師の熱意と技量が見るだけで伝わってきた。

 しかし、この槍には槍の名前も打ち出した鍛治師の名前も刻み込まれておらず、その鍛治師を探すためにヘファイストスに尋ねるのが最適だと思ったのだ。

 

「と、言うことなんだ」

「ふふっ、ありがとうね。あの子の作品をこうも長々と話してくれると、親である私も鼻が高いわ」

「まぁ、この作品は俺のお気に入りだからな。あと、この槍を作ったやつと専属契約をしたいと思ってるんだ。その仲介をヘファイストスに頼みたい」

 

 専属契約とは冒険者と鍛治師が個人で結ぶ契約であり、契約を結ぶとその冒険者が取ってきた素材を鍛治師に提供して専用の武具を作ってもらう利害一致の関係を築くことだ。

 ヘファイストスはテナントで会った時のような冷たい反応をするロアから一転して、接しやすい雰囲気を醸し出すロアに驚きはすれども、特に気にすることなく話を進める。

 

「そうね、あの子はある出来事をきっかけに鍛治師をやめてしまったの。でも、今のあなたなら彼女のトラウマのようなものを克服させることができるかもしれないわ」

「トラウマ…?」

「それは、私の口からは言えないわ。きっと今も冒険者のお墓に墓参りに行ってると思うから、あの子のことよろしくね」

 

 ヘファイストスは終始自分の子供のことを褒められたように嬉しそうな顔を作っていたが、その裏側には少し悲しそうな表情も滲み出ていた。

 ロアはヘファイストスにお礼をしてから、ダイダロス通りの近くにある冒険者の墓地がある南東へ早足で向かっていった。

 

 

☆☆☆

 

 

 『冒険者の墓地』とはその名の通り、冒険者たちの墓でありダンジョンで死んだもの、闇派閥に殺されたもの、寿命で尽きたものなど。これまでオラリオを支えてきた多くの冒険者たちが眠る墓場である。

 この暗黒期が始まってから冒険者の死が絶えず墓場の面積は日に日に大きくなっていき、今ではダイダロス通りと同じぐらいはなけれど、オラリオの大きな墓場となっている。

 冒険者の墓地はいつも静まり返っており、あまり訪れるものは少ないのだが、その墓場に一人毎日訪れる変わり者が今日もまた花束を抱えてやって来ていた。

 

「……本当に、すまない」

 

 その一人の女は、一つの墓場の前で立ち止まると抱えていた花束を花瓶のような瓶に入っている真新しい花束と交換した後、持ってきていた雑巾で墓の周りを綺麗に掃除する。

 周りの墓は人が訪れないためただの石のような汚れた墓ばかりだが、その墓だけは彼女が毎日手入れをしているようで、日光を反射してとても綺麗に磨き抜かれていた。

 

「……すまない、すまない」

 

 彼女は何度も謝罪の言葉を意味もなく連呼するが、それは彼女の頭に浮かび上がっている人物に届くことはあり得ない。

 

「……何してるんだ?そんな意味のない言葉を吐いても相手には届かないぞ」

 

 ヘファイストスに言われた通り冒険者の墓地へと赴いたロアは誰もいない静かな墓地に幽霊のような女が一人ボソボソと謝罪の言葉を吐いているのを見つけて、あれが目的の人物だろうと予想をつけ、彼女の背中に話しかけていた。

 

「………私にできることはその意味のない謝罪だけだ。放っといてくれ」

 

 彼女はこちらへと振り返ることはなく、ただまっすぐにその墓石を見つめている。その背中からは哀愁のようなものが漂っており、彼女にとって何か大切な人物の墓なのだろうことはすぐにわかった。

 

「ケーレ・ヴィシュト。お前のその鍛治師の腕を見込んで頼みがある。俺の武器を作ってくれ」

 

 ヘファイストスから教えてもらった彼女の名前を遠慮なくその寂しい背中へと投げかける。

 そんな遠慮のない態度を見せるロアに興味を抱いたのか彼女は初めてロアの方へと振り向いて、その疲れきって目の下にドス黒いクマを作った顔を自虐的な表情に歪めると、ロアへと拒絶の言葉を送った。

 

「やめてくれ、私はもう鍛治師じゃない。ガラクタしか作れないただの一人の女さ」

 

 その瞳からは光のようなものは失われており、人間の原動力とも言える目標も希望も何もかもを見失ってしまったような目をロアへと向けて、嗤ってみせた。

 だが、そんな闇を見せられてもロアにとってはそんなことどうでもよかった。それよりも、ロアは彼女がもっと思いっきり笑えるようにどうすれば良いかを考えていた。

 きっと、彼女は卑屈的な笑顔よりももっと綺麗な笑顔の方が美しいと真顔で勝手な予想を浮かべ、彼女のトラウマへと無遠慮に土足で踏み込んでいく。

 

「そうか。で、その墓は誰の墓なんだ?」

「………私は初めて専属契約をした冒険者の装備を全て担っていた」

 

 ロアの遠慮のない問いかけに答えることはなく、彼女は誰かに聞いて欲しかったのか溜め込んだ感情をゆっくりと語り始めた。

 

「ある日、彼女の帰りを待って次の装備をどんなのにしようと考えていた時、ダンジョンから彼女の遺体がディアンケヒト・ファミリアに担ぎ込まれたことを知ったんだ」

 

 ケーレはその時のことを思い出しているのか空を仰ぎ、天まで届くかのようなバベルへと悲しそうな眼差しを向ける。

 

「その彼女の元へと急いで向かったんだ。彼女とはファミリアは違うが、冗談を言い合えるほど仲は良かったから」

「死んでいると知っても最後に顔ぐらいは拝みたかったから。でも、見なければ良かったかもしれないとも思うし、それとは逆に見なければならなかったと思う自分もいる」

「私が彼女のために打った防具は粉々に砕かれて原型を保っておらず、同じく私が打った彼女の槍は、無惨にも折られていて……」

 

 ケーレはそのボサボサの腰まで伸ばした薄ピンク色のクセ毛の頭を何かに耐えるように抱えると苦しそうにうめきだした。

 それでも、最後まで語らなければならないという意地を見せて震える声を絞り出す。

 しかし、それは自分への罪を吐露するようなものにしかならなかった。

 

「……私のせいなんだ。私の鍛治師としての腕前が足りなかったから、彼女は死んでしまった。私が未熟だったせいで…!だから、私はもう鍛治師を名乗りたくないんだ。これ以上ヘファイストス様の顔に泥を塗りたくないし、なにより私のせいで死んでしまった彼女のようなものはもう出したくない…」

 

 力なくその場にうずくまると、何かを思い出したのかヨロヨロと立ち上がり、その疲れ切った顔をこちらへと向けて、こういった。

 

「だから、すまない。君の武器は私には作れない。他を当たってくれ」

 

 ロアは彼女の話を無言で静かに聞き届けると、こちらに背を向けて立ち去ろうとする彼女の背中に声をかけた。

 

「お前の作品を今使わせてもらっている。その使い手である俺から一つ言葉を送ろう。お前の武器のおかげで俺は難を逃れてきた。お前の作った武器のおかげで俺は今ここにいる」

 

 彼女は立ち去ろうとしていた足を止めて、何かに耐えるように俯いたが、こちらに振り向くことはなく、その言葉に答えることもなかった。

 

 ロアはその立ち去る背中にもう声をかけることはなく、静かに彼女を見送った。

 

 

 

 

 




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