ファミリア・テイル   作:烏兎 満

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なっつやっすみ!


第十三話 正義を掲げる青年

 悲鳴が響く。オラリオのある一画で闇派閥による住民たちへの無差別な蹂躙は、その一帯を瞬く間に炎の渦へと呑み込み、逃げ遅れた住民たちは火の手にやられるか、武装した闇派閥に殺されるかのどちらかしか残されていなかった。

 最近は落ち着いてきていたオラリオの治安の安全さに見落としていた絶望が住民たちの心に深く刻まれ、逃げ惑いながら助けを呼ぶ。

 その助けを求める声に反応したのは、ガネーシャ・ファミリアでもアストレア・ファミリアでもなく、一人の青年であった。

 

「誰かっ!?誰でもいいので助けてくださいっ!!」

「当たり前だっ!今助かるから待っていろ!」

 

 その青年は神の恩恵をその背に宿しておらず、自分の素の能力のみで迫り来る闇派閥から住民たちを守るために火の手に怯むことなく、立ち向かっていく。

 

 しかし、現実とは残酷なものである。

 

 彼の能力では邪神から神の恩恵を授かっている闇派閥には到底敵わず、住民を守るどころか己の身ですら守ることなどできないということに彼は気づかずに自分の正義感を胸に宿して無駄な抵抗とも知らずに背負っていた故郷の大剣を両手で握りしめ住民たちに背を向ける。

 

 勢いよく振りかぶった大剣は、きっと闇派閥から見ればナマケモノのようにのんびりとした動きに見えていたことだろう。

 闇派閥は、難なくこれを避けるとその隙を狙って青年に数の暴力を浴びせる。

 

「おいおい、クソ雑魚じゃねぇかよこいつ。住民たちを守ろうだなんて抜かしやがって。なぶり殺してやる」

 

 タコ殴りにされる青年に住民たちは先ほどまで抱いていた希望が羽虫を潰すように呆気なく潰されてしまい、再び絶望へと落とされてしまう。

 

「……ぐっ!?…くそっ!まだだ!」

 

 青年は最後の抵抗を試みるために懐に忍び込ませていたナイフで闇派閥の一人の胸に突き刺す。

 青年は霞む視界の中で一人の闇派閥を倒せたことに満足感が湧き上がってくるが、それも束の間。激昂した闇派閥の仲間たちは、より一層青年を痛めつけ立てなくなった青年の胸にとどめを刺そうとすると、一人の闇派閥が焼き焦げた。

 それは一瞬の出来事であり、火の手で燃やされたものではないと悟った闇派閥だったが、時すでに遅し。

 この場に現れた一人の救世主は、手元に獲物を持っていなかったがその強力な付与魔法の力により闇派閥たちの全てを炭へ変えると、すぐに住民たちの避難誘導を開始する。

 

「お前たち、こっちだ!火の手が広がる前にさっさと逃げるぞ!」

 

 住民たちは現れた希望の指示に従い、最初に立ち向かってくれた青年を置き去りにして我先にへと脱出を図る。

 この場での英雄であった少年は、一人蹲り悔しそうな涙を流している青年に声をかける。

 

「おい、そんなところで蹲っていると死ぬぞ。早く来い」

「……俺はみんなを守れなかった…!こんなにも弱い俺が情けない…!」

 

 全身の切り傷と打撲を無視して地面を殴りつけている青年に、少年ロアは静かに青年を見下ろすと、そのLv.2としての力を遺憾なく発揮して自分よりもひと回りでかい青年の襟首を持ち上げる。

 

「嘆くのは後にしろ。まずは脱出だ」

 

 自分よりも小さな少年に軽々と持ち上げられたことに驚きつつ、この状況を飲み込めないのか抵抗をせず、呆然とした態度で雑に引き摺られていった。

 

 無事に全ての住民たちを助け出したロアは、後から現場にたどり着いたガネーシャ・ファミリアにこの出来事について事情聴取を受けていた。

 

「本当にあなたが全員助けてくれたの?」

「そうだが。というか、早く離してくれ。おつかいを頼まれてるんだ」

「へぇ!びっくりしちゃった。こんなに小さな少年が武器もなしに闇派閥を全滅にして住民たちも助けちゃって。でも、ありがとうね」

「当然のことをしたまでだ」

 

 短い水色の髪を後ろでまとめたガネーシャ・ファミリアの団員であるアーディ・ヴァルマからの賞賛に対し嬉しそうな表情を出すことはなく毅然とした態度で対応していると、ガネーシャ・ファミリアの団長であり、アーディ・ヴァルマの姉でもあるシャクティ・ヴァルマが話しかけてきた。

 

「住民たちを助けてくれて感謝している。こちらとしてももっと早く対応できれば良かったのだが…。こちらの不手際ですまない」

「いや、そちらがオラリオの憲兵として動いていることは重々承知している。忙しいのも仕方のないことだろう。何せこんな時期だ、手が回らないのは当然の帰結だ」

「そう言ってもらえるとありがたい。あとはこちらに任せてほしい」

「あと、一人闇派閥を捕虜で捉えておいた。あとは頼む」

 

 シャクティは妹とともにロアへと頭を下げると、すぐに現場へと向き直り精力的に団員たちに指示を飛ばす。

 ロアも商店街のほうに用があったため、その場からすぐに立ち去ろうとしたが、兄貴!、と呼びかけられて、足を止める。

 振り向くと、先程闇派閥にボコボコにされていた青年が回復薬を飲んだのかある程度の傷が治った状態で、こちらへと歩み寄ってきた。

 その身長は180を超えており、ロアは自然と見上げるようにその青年の声に応えた。

 

「兄貴!先程は助けてもらいありがとうございます!そして、兄貴のその実力を見込んで頼みがあります!この俺をファミリアに入れてください!」

 

 いきなり話しかけられて、いきなりファミリアに入れてほしいだとか勢いのある青年に対して、うげぇと苦い表情を作ると懇願して頭を下げている青年からダッシュで逃げるように走っていった。

 

「俺、まだこの都市に来て右も左も分からないんです!ファミリアに入るならガネー……って兄貴っ!?」

 

 青年の懇願に全力で背を向けるロアに驚きつつ、急いで追いかけようとするが、恩恵のないものがLv.2のロアに追いつくわけがなかった。

 

 しかし、青年は諦めない。あんなにも住民を手際よく無事に救える人の元で働いて、人を助け自分も強くなるためにあの少年のファミリアに必ず入ろうと決意したのであった。

 

 

☆☆☆

 

 

 時は移り変わり、ロアがケーレに振られた翌日。

 どうしても彼女に武器を作ってもらいたかったロアは、懲りずに昨日と同じ時刻に冒険者の墓場に訪れていた。

 昨日と変わらず、花束を抱えたケーレが花束を新しいのに取り替えており、ロアは毎日花束を取り替えているのかと呆れたため息を吐く。

 

「昨日ぶりだな。ケーレ」

 

 こちらに気づいたのか振り向いて相変わらず疲れた表情をしているケーレに気さくに話しかける。

 

「俺も墓掃除を手伝おう」

「……君には関係ないだろう?」

「お前の大切な人の墓なんだろ?なら、これから武器を作ってもらう俺にも関係のある話だ」

「いつ私が作ると言った?私はもう鍛治師には戻れない」

 

 ケーレはロアからの言葉が一切心に響いていないようで、すぐに墓場の掃除へと移る。ロアもケーレの動きに倣って同じように雑巾で墓石を拭き始めた。

 

「ま、お前がなんと言おうと俺はやるぞ」

「……好きにしろ」

 

 そのまま二人で墓場の掃除を行うが、二人の間には会話がない。しかし、ロアもケーレも元々あまりおしゃべりではないので、特に気にすることもなく、黙々と作業をこなす。

 掃除をし終えると、ケーレはロアの存在を無視するように一切気にしないで、墓場に向けて話し始めた。

 

「今日で君がいなくなって一年が過ぎた。君の鍛治師であった私は未だに前を向けない。………私が未熟ですまなかった」

 

 昨日とは違い謝罪を一つで済ますと、そこから立ち去ろうとする。

 

「……君がケーレと専属契約をしていた冒険者か。俺の名前はロア・バートハート。実は、君の専属契約しているケーレ・ヴィシュトと専属契約をしようと思っているんだ。しかし、彼女はなかなか承諾してくれないみたいでね。どうすればいいか悩んでるんだ」

 

 ケーレの真似事をするようにゆっくりと語りかける。

 ロアは墓に向かって話しかけるケーレの姿に理解を示すことはできなかった。ロア自身死というものを身近に感じることはなく、未だにどのようなものかは理解しておらず、ケーレのしている行いについてもよくわからなかった。

 なぜなら、死んだものはもうその墓場にはおらず、神の話によると死亡するとすぐに天へと還る。だから、墓場に語り還るのはただの石へと語りかけるのであって、その人物へと届くことはないからだ。

 しかし、ロアだってわからないものは試すのが最初の一歩だ。

 笑顔の美しさを知るためにも試さなければ、理解することができなかった。

 その教訓を生かしてロアはその冒険者へと語りかける。

 

 ケーレは驚いたようにこちらへと振り向くと、ふぅ、とため息をこぼすとロアへと優しく笑いかけた。

 

「君は面白いな。きっと、彼女が君と出逢えたのならば、きっと相性がいいことだろう」

 

 ケーレはそれだけ言い残すと、すぐにまた踵を返してはヘファイストス・ファミリアのホームへと帰っていった。

 

 

 

 




この鍛治師めんどくせぇ
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