ファミリア・テイル   作:烏兎 満

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四期きちゃ


第十七話 フィン・ディムナという男

 オラリオの最北端に存在する大きな建物。それは、オラリオ最強派閥の一角である【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)の『黄昏の館』が建てられている。

 ロアは、ルドロットに今日はダンジョンに潜らずに休んでいろと伝えてから朝一番にこの場所を訪れた。

 朝日が登り始めてすぐの時間は、オラリオの屈強な冒険者たちが続々とダンジョンへと吸い込まれるように探検しに行く時間であり、ロアとは逆方向に向かう冒険者も多くいた。

 

「ここが【ロキ・ファミリア】か…」

 

 ぽつりと誰にも気づかれない程度に呟くと、背中に背負っている槍の点検を軽く済ませる。

 先日専属契約を果たしたケーレからは、もう十分に使えるほどにメンテナンスは行なっているとのことなので、点検をしなくても良いのだが、万が一のためにしっかりと確認しておく。

 ケーレは今ロアが頼んだもう一本の槍の構造を考えるためにしばしの間、火事場に籠ると言っていたため、今日はいない。

 

 門の前にはまだ早朝だというのに二人の少年少女が眠い目を擦りながら、門番を務めていた。

 

「はぁ、朝早くから門番はだるいっすね。もう、こんな時期に来なければよかったっす」

「ほら、文句言わない。こういう雑用は私たち下っぱがやらないといけないんだから」

 

 ロアから見ればロアよりも身長の低い二人に見えるが、ロアよりは年上である。しかし、ロアはそれを知らないし、知っていたとしても敬語を使うことはないだろう。

 

「ちょっといいか? お前たちの団長に用があるんだが…」

「え、え!? ど、どちら様でしょうか…? まさか、闇派閥(イヴィルス)…!?」

「そんなわけないでしょう!? すみません、まだこの子ファミリアに入ったばかりの新人で…」

「いや、アキも俺と同時期ぐらいにファミリアに入ったっすよね!?」

 

 なんだこいつら、と呆れながら二人の痴話喧嘩?を眺めていると、門の中から小人族(パルゥム)が姿を現した。その容姿は、小柄でありながら自己主張の強い金髪に透き通った碧眼、自信に満ち溢れているその表情。その全ての容姿の情報からこの小人族がかの有名な【ロキ・ファミリア】団長、フィン・ディムナだとロアはすぐに理解した。

 

「やぁ、よくきてくれたね。君が今オラリオを騒がせている【電撃(スパーク)】で間違いないかな?」

「あぁ、俺がその人だ。それで、お前はあの【勇者(ブレイバー)】で間違ってないか?」

「はは、また肝の据わった大物が現れたものだね。そうさ、僕がこの【ロキ・ファミリア】の団長、フィン・ディムナだ」

「俺はロア・バートハートだ。よろしく頼む」

 

 ロアとフィンによる初対面なのにバチバチな雰囲気にラウルとアナキティは、戦慄の表情を浮かべる。

 ロアはフィンの第一印象として「食えない男」と心の中で評しながら、会話を進める。

 

「さて、早速だが庭に移動しようか。君の実力とやらを見せてもらおう。ラウルとアキも来てくれ。門番は他の者に頼む」

「「は、はい(っす)…!」」

 

 『黄昏の館』の横にある大きな庭にはたくさんの【ロキ・ファミリア】団員がお互いで模擬戦を行い、切磋琢磨を繰り広げている。

 団員たちはフィンが現れると、「お疲れ様です!」と大きく挨拶をしてフィンの人望の厚さが窺える。

 

「遠慮なく来てくれて構わない。ルーキーにやられるほど僕はやわじゃないからね。じゃあ、始めようか」

 

 フィンは背負っていた黄金の穂先を朝日によって照らされた槍でロアに向かって構える。アナキティとラウルは、二人の模擬戦に巻き込まれないように離れたことを確認すると、ロアも銀の槍を構える。

 油断はできない。相手は都市最強クラスの『Lv.5』。第一級冒険者の実力は、一人でもいるだけで万の力になる。

 フィンは動かない。あくまでこちらから仕掛けることを望んでいるかのように余裕の笑みで微動だにしない。

 ロアはその挑発めいた行動に乗らずに、ゆっくりとフィンを観察する。

 

 気づかぬうちに【ロキ・ファミリア】の団員たちはそれぞれ動きを止めてこの二人の戦いに注目し始めていた。

 先ほどまで響いていた甲高い鉄の音は鳴りを潜めて、この場に静寂をもたらす。

 その異常なまでの緊張感にラウルがごくりと唾を飲み込む。

 最初に動いたのはロアだった。

 上級冒険者の力を遺憾なく発揮して地面を蹴る。フィンを殺すつもりでその余裕そうな美貌を貫くように槍を向ける。

 フィンはこれを首を横に傾けて最小限の動きで交わすと、ロアの脇腹目掛けて穂先を滑らすかのように曲線を描く。

 ロアは槍で受け止めて反撃に出ようとした瞬間、意識外からの衝撃に吹き飛ばされる。

 すぐに受身を取り体制を整えるが、フィンは余裕の表情のままで静かにそこに佇んでいた。

 

ーーー今何をされた?

 

 ロアの頭の中で先程の衝撃を思い出す。フィンの動作に注意しながら、記憶の中でのフィンの動き方を瞬時に再生して一つの答えに辿り着く。

 それは、ロアの視覚外からの蹴り。それに、ロアが吹き飛ばされただけの威力の蹴りなら明らかにフィンはロアに手加減をしている。第一級冒険者がその気になれば、上級冒険者の骨を粉々に粉砕することなんて容易なのだから。

 鼻から息を大きく吸い込み、口から大きく吐き出す。深呼吸を一度してから新鮮な空気を肺へと回す。

 次に仕掛けたのはフィンだった。

 気づけば目の前にいたフィンに慌てずにその一撃を防いでから、剣戟ならぬ槍戟が始まった。

 ロアはフィンの本気を引き出すために全力で殺しに行くが、全ての攻撃を軽々と受け流される。対して、フィンからの攻撃は着実にロアの傷となって蓄積されている。

 ロアは先程のフィンを真似るように死角からの蹴りを放つが、これを難なく塞がれてから、フィンの槍の柄で脇腹を抉られる。

 

「ぐぅっ!?」

 

 ロアはなんとか踏みとどまり、フィンの槍を掴み自身の槍を頭に目がけて差し込むと同時にフィンの脇腹に蹴りを叩き込む。

 フィンの獲物を捕まえた後に、頭と脇腹への二点攻撃はそのどちらをも軽々と塞がれ、避けられた瞬間、ロアの視界が傾く。顔の近くに地面の感触を感じて自分が転がされたのだと理解した時、頭上から槍の穂先が容赦なく降ってきた。

 横に転がり込んでそれを紙一重で避けると、すぐに立ち上がった時にも蹴りを入れられてフィンとの距離が開く。

 

「今のを凌ぐのは中々やるね」

「……嘘つけ。お前はやろうと思えばいつでもやれただろうに」

 

 ロアはフィンを忌々しげに睨みつけると、再び槍を構える。

 周囲はフィンとの闘争についていけるロアに戦慄の目を向けて、この闘いの行方を見守る中、ラウルだけはその第一級冒険者相手、それもオラリオで一二を争うフィン相手でも怯むことなく、臆することなく立ち向かうロアに憧れの気持ちを抱いていた。

 

「だが、そろそろ終わりにするとしよう。君の戦い方もだいぶわかってきた」

「本当、ムカつく男だな。お前」

 

 ロアは憎々しげな笑みをフィンに向けると、それに対しておどけたように笑ってくるフィンに怒気を体の内側に滲ませるが、感情と心を切り離す。

 

「ほう、君にも才能があると思うよ」

「うるせぇ、黙れ」

 

 ロアはフィンに悪態をついた瞬間、地面を強く蹴り出す。

 瞬間、ロアの身体中に寒気が走り、全身に鳥肌が総毛立つ。首の辺りに冷たい感触が伝わりロアは、自分の直感に従って大きく後ろに下がると、先ほどいた場所にフィンの手加減なしの拳が空を切っていた。

 

「今のを避けるのか。流石はワールドレコード保持者。だが、次はない」

 

 その場に冬でも訪れたかのように空気の温度が下がる。

 フィンが動き出した時、先ほどと同じような直感を背後に感じて振り返るがもう遅かった。高速移動をしたかのようにロアの背後へと回り込んだフィンは槍の柄をロアの意識を刈り取るように鳩尾を狙って刺突した。

 直球を投げられたボールの如く地面と並行に吹き飛んだロアは『黄昏の館』を取り囲む壁に激突して、座り込むがその目は変わらずフィンを捉えていた。

 

「なるほど、一本取られたわけだ」

 

 そうつぶやいたフィンは、自身の頬についた血を親指で拭いとる。フィンの頬には一筋の切り傷が刻まれており、赤い血がフィンの頬を伝わっていた。

 

「団長に傷をつけた!?」

「あいつLv.2だよな!? Lv.5の団長に傷をつけるなんてどんな化け物だよっ!?」

 

 闘いの行く末を憧れと渇望と共に眺めていたラウルは、目を見開いてフィンに刻まれた傷跡を凝視する。

 

「うそ、まさか団長に傷をつけるなんて…!」

「す、すごい…」

 

 ラウルはあまりの驚愕にいつもの語尾もつけ忘れてただただ倒れ伏してもフィンを睨みつけるロアに憧憬を抱いた。まだオラリオに来てまもないラウルにとって格上の相手に果敢に挑むロアにその感情を抱いてしまった。

 

「くそ、まだできるぞ」

「意識を刈り取ったつもりだったんだけどね。少しずらしたのか、君は。鍛えがいがありそうだ」

 

 ロアがゆっくりと立ち上がると『黄昏の館』の庭には多くの団員が集まっていた。

 その中から一人の顔立ちが神と同じぐらい整ったエルフと返り血をその身に浴びて真っ赤に染まった金髪金眼の少女がこちらに近づいてきた。

 

「何事だ、フィン」

「リヴェリアとアイズか。未来の戦力の芽を鍛えておこうと思ってね。リヴェリアにも前に話していたあの少年だ」

「ほう、まさかお前が傷をつけられるなんて油断でもしたのか?」

「いや、最後は油断も何も本気で気絶させるつもりでやったんだけどね。これは、かなり期待できるんじゃないか?」

「そうか、やはりワールドレコードを達成したあの少年は逸材か」

「……モンスター、まだ、殺せる」

「おい、アイズ。お前は一晩中ダンジョンにいたんだぞ。休まなければお前の体が持たない。それに、お前の体は返り血で異臭を放っているのだから、早くシャワーを浴びてこい」

「…………むー」

 

 ロアはなんとか立ち上がるとフィンたちの元へとフラフラと歩み寄った。その時、返り血に染まっている小さな少女と目があった。その少女の瞳は、本当に人なのかと疑ってしまうほどに目に光がなく、瞳の中から執着心と復讐心のようなものを感じてとても危ない諸刃の剣のような印象をロアに与えた。

 

「…………誰?」

「おい、フィン。こいつは……」

「わかっている。僕たちもなんとかしようと思っているんだが…」

 

 フィンは深刻そうな表情を浮かべて目の前のアイズと呼ばれた少女の異常性に気づいたロアに違う話を振る。

 

「この話は置いておこう。君には関係のない話だしね。それより、今日の特訓はここまでだ。僕から教えることは何もない。週に一度朝一番にここに来てくれ。一度だけ模擬戦をしてそこから自分で技術を盗んで磨くっていう方針でやらせてもらう」

「わかった、これからよろしく頼む」

「あぁ、このご時世少しでも戦力が欲しいからね。困ったときはお互い様だ」

 

 ロアはフィンと硬い握手を交わしてから門から出ていった。

 

 ラウルはその立ち去るロアの姿を憧憬の眼差しで揺らしながら、自分も強くなりたいと願うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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