ファミリア・テイル   作:烏兎 満

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第十九話 紅い瞳のエルフ

 

「今日はここまでにしておこうか」

 

 槍の穂先に塗り付けられた赤い液体を振るって、背後にいた二人に今日のダンジョン探索の終了を告げる。

 ルドロットは、息も絶え絶えというほどに疲弊しきってしまっており、その場に座り込んでしまった。まだLv1の総合ステイタスがDにも満たない駆け出し冒険者なので無理もないだろう。

 ルドロットとは対照的に余裕そうな表情を浮かべるケーレは、己の武器である双剣を鞘に収めると、このパーティーリーダーであるロアに問いかける。

 

「その槍の調子はどうだ? 対モンスター用に柄と刃先を長くして作ったんだが……」

「あぁ、少し扱いづらいがモンスターと十分な距離を置いた状態で一方的に殺せるな。課題としては、この武器に慣れることと連携を想定した動きだな」

 

 ケーレはロアの槍の評価に瞑目し、何か考え事をするかのように手を顎に添える。

 ルドロットは、ある程度体力が回復したのか額の汗を拭いながら、加工され強化された大剣を軽々と持ち上げて背中に背負う。

 

 ここはダンジョン上層、十二階層。ダンジョンギミックである霧が充満するLv1の上限深度である。

 ロアたちは、これよりも深い中層へと潜るために着々と準備を進めてきていた。その準備とは、新たに新調した武器や防具の調達、そしてその調整。ルドロットの基礎ステイタスの底上げ。三人での連携や中層の知識など。他にもポーションやその他必須のアイテムを調達するための資金。

 ここまで準備していたとしても安全とは言えないほどに中層とは危険な場所なのだ。

 

 ダンジョンから帰還したロアたちは、ギルドで魔石やドロップアイテムを換金して、山分けした後中央広場でケーレと別れホームに向かって歩を進めていく。

 ロアの隣を歩いている全身を重装で固められたルドロットは歩くたびに鉄と鉄がぶつかり合いガシャガシャとなる西洋風の蒼い甲冑装備を気にもしないでロアに話しかけた。

 

「兄貴、中層に潜るにあたってもう少しファミリアを大きくするのもありだと思います。ケーレもLv2で俺よりも十分強いんですが、やはりもっと将来を見据えて強力な仲間を集めるのも……」

「わかっている。お前をファミリアに入れた時点でそのことについては少し考えていた。だが、俺たちのファミリアはしっかりとしたホームもないし、新しいホームを作るためのお金もない。まだ仲間を増やす時期じゃないんだ。入れたとしても一人か二人が限度だ」

 

 基本的に中層に潜るにはLv2の冒険者が四人以上いなければ、異常事態に対処するのは困難だ。ルドロットはそれを危惧して、ファミリアを大きくすることを提案したのだろう。しかし、中層に潜る費用に加えて、新たなホームを建てるだけのお金がないのだ。

 お金を稼ぐためにはもっと深くダンジョンに潜る必要があり、新たな仲間を迎え入れる余裕もない。

 

 ホームへ到着すると何やら騒がしい雰囲気が外からでも伝わってきた。

 確かもうアフロディーテが帰ってきているため、一人で何か盛り上がっているのだろうと見当をつけてドアノブを回す。

 

「ほ、本当に私なんかがファミリアに入っていいんですか…? まだここの団長さんにも伝えてないんですよね……?」

「いいのいいのー! うちはいくらでも新しい冒険者を迎え入れる余裕があるからどんと任せなさいっ! ロアにも私から言っておくから」

 

 最初に目に入ってきたのは、霞んだ金髪を背中の辺りまで伸ばしたエルフであった。その顔は美貌と呼べるほどに整っており、隣にいるアフロディーテに負けず劣らずの美人であった。そして、普通のエルフと唯一違う特徴的な点として真紅の瞳が爛々と輝いていた。

 しかし、当の本人はその輝きとは真逆に不安そうな瞳を覗かせており、我が主神の軽い発言に振り回されているようだった。

 

「あ、おかえりー、二人とも。ロア、この子ファミリアに入れてもいいわよね?」

 

 アフロディーテは、帰宅した二人の存在に気がつくととびっきりの笑顔をこちらへと向けてくる。

 ロアは、自由奔放なアフロディーテに深いため息を吐き出し、困惑したような表情を浮かべるエルフに視線を向ける。

 

「あ、えっと、こんにちは。私の名前はエウリカ・ヒューズと言います。アフロディーテ様にファミリアに入れてあげると言われてきたんですが……」

「らしいな。俺がロアだ。よろしく」

 

 自己紹介というにはあまりにも手短なロアの言葉に、エウリカと名乗ったエルフは、驚きに目を見開いていた。

 

「えっ!? まさか、あなたが団長?」

「何か問題でも?」

 

 エウリカはロアの隣で微動だにしない甲冑男とロアを交互に見比べて、驚愕を隠せないようだった。

 すぐに状況を理解したロアは、彼女がルドロットのことをアフロディーテ・ファミリアの団長と勘違いしていたことを察して、眉間に皺を寄せる。

 

「勘弁してくれ。見た目で判断するな」

「す、すみません! てっきり彼が団長なのかと…」

 

 ルドロットもようやく状況を把握して、エウリカの言葉に照れたようにガチャガチャと鎧の音をたてながら、後頭部を掻く動作をする。少しその動作が気に食わなかったため、肩の部分を殴り飛ばしておく。

 

「えへへ……、あいたっ!? 何するんですか!?」

「ちょっとむかついただけだ。あと、そろそろ敬語やめろ」

「理不尽っ!? 兄貴にタメ語なんて考えられません!」

 

 お前の方が年上だろ、と心の中で面倒臭いやつだなと思いながら、蚊帳の外にいるエウリカに話しかける。

 

「悪いな。脱線した。で、なんでうちのファミリアに入りたいんだ?」

 

 ロアの真剣な眼差しに緊張した空気を感じて唾を飲み込んだエウリカは、ポツポツと自分について語り出した。

 

「私、英雄譚のアルゴノゥトのお話が大好きで、彼のようになりたいと思っているんです」

「え、ハーレムになりたいのか………?」

「余計な口出しするな」

 

 空気の読めないルドロットに対して先ほどよりも強い一撃を加えてやるとその場でうずくまってしまったが気にすることはないだろうとエウリカに話の続きを促した。

 

「えと、そういう意味じゃなくて、面白おかしく人々を救って最後には笑顔にしちゃうってところが好きであって……」

「アルゴノゥトか……」

 

 ロアは今まで英雄譚の物語を読んだことはないが、題名ならば耳にしたことがあるほどにその英雄譚は有名だった。

 じっとエウリカの話を聞いていたアフロディーテに目配せをすると、何も嘘はついていないとこちらに頷いてみせる。

 

「質問の答えとしてはずれているが、まぁいい。過程はどうあれ俺と目的は変わらないようだな。歓迎しよう、ようこそアフロディーテ・ファミリアへ」

 

 ゼロから一を作り出すことは難しいが、一からニへと進めることは簡単だとある偉人は言っていた。ルドロットが初めての眷属であり、一とするならば、エウリカはニ。まさに、偉人の言っていた通りになっているとロアは納得していた。

 意外にもあっさりと入団を許可してくれたロアに対して、驚いてみせたがすぐに右手を差し出して握手を求めてきた。

 

「よ、よろしくお願いします!」

「あぁ、よろしく。まずは神の恩恵の贈呈だな。ディーテ」

「はいはーい。あ、男子諸君は早く出ていくようにー」

 

 アフロディーテは部屋からハエでも追い払うかのようにロアたちを部屋から追い出して、数分ほどしてから羊皮紙を手にしたアフロディーテに続いてエウリカが戻ってきた。

 アフロディーテから手渡されたエウリカのステイタスが刻まれた赤茶けた羊皮紙にルドロットとともに目を通して、愕然とした。

 

「っ!? これはなかなかな逸材を見つけてきたじゃないか」

 

エウリカ・ヒューズ

『Lv 1』

 力 : I 0

 耐久 : I 0

 器用 : I 0

 敏捷 : I 0

 魔力 : I 0

 

《魔法》

【ルースリス・ボム・フォーア】

・爆発魔法

・対象は生物のみ。

・対象への発動は座標位置の指定で可能。

・詠唱式【爆ぜよ。強者、弱者も選ばずただ無慈悲なる鉄槌に震えるがいい。仲間、同胞、主神。我が至宝を守護せんとする礎となれ】

 

【】

【】

 

 




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