ファミリア・テイル   作:烏兎 満

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第二十一話 太陽と月

 オラリオ第七区、冒険者通りと呼ばれるその名の通り冒険者で溢れかえることで与えられた呼び名だ。そして、そのストリートにはクエストや換金など冒険者としての働きを資金へと変換する重要なギルドが建てられている。

 ギルドは神ウラノスがダンジョンを管理するために設立された機関である。

 今日のアフロディーテ・ファミリアは、ロアの指示により休日となっていた。休日にしたとしてもルドロットとエウリカは、ダンジョンに潜ると言っていたので、それぞれに限界深度を設けてそれより下層には潜らないことを取り決めた。

 ギルドの掲示板の前で軽くクエストを確認していたロアは、ふと二つの張り紙が目に映った。

 

「Lv3…か」

 

 その張り紙にはランクアップを成し遂げ第二級冒険者の仲間入りを果たしたという張り紙であった。

 フィンに相談した通り、ロアはステイタスがLv1の時よりも伸びが悪いことに小さな焦燥を抱いていた。ランクアップしてから三ヶ月が経つが漸く全基本ステイタスがD。

 フィンの言葉を信じるのならば、昇華を重ねるほどにステイタスは上昇しづらくなる。これは割り切るしかないなと思い、ロアは地道に努力していこうと決意した。

 掲示板に背を向けてホームで書類整理をしなければ、と憂鬱な気持ちを抱えてギルドを後にしようとしたその時だった。

 

「お前、ワールドレコード保持者だな?」

 

 背後からの声に振り返ると、数分前に掲示板に貼られていた張り紙に映されていた人物が輝かしい笑顔をこちらに向けていた。

 

「誰だ、お前」

「私はロイゼだっ! お前今から私と一緒に中層まで潜らないか?」

 

 ロイゼと名乗った少女は、面倒なことになったと眉間に皺を寄せるロアに対して太陽に反射された白い歯を光らせてニカッ、と笑ってみせる。眩いほどの金髪に赤い毛先、真っ赤な瞳という特徴的な容姿とその自信に満ち溢れる表情は、まるで太陽を具現化したような存在だった。

 

「武器も持っているようだしな、ちょっと行って帰ってくるだけだ。構わんだろう?」

 

 流石は第二級冒険者。中層へ降りることをただの遠足か何かと勘違いしているようだ。

 そして、その背後から彼女とは対照的な少女が現れた。

 

「姉さん、なんであんなガキを呼ぶんですか? もしかして馬鹿なんですか?」

「私が強そうだと思ったから呼ぶんだ。それ以上でもそれ以下でもない!」

 

 銀髪に毛先が青色という不思議な髪に、両目を閉じている少女は、その幻想的な容姿とは異なり、丁寧な口調の中に平然と棘のある言葉をつらつらと吐き出す。

 その毒舌に対してロイゼは怒ることがないので普段からこのような会話をしているのだろう。

 しかし、中層の知識についてはロアも直接現場での下見が必要だと感じて、L v3が二人パーティーに参加しているのならば、それが容易く達成できるのではないか。

 そうと決まれば善は急げだ。

 

「よし、その話乗らせてもらう」

「本気で言ってるんですか? あなたのようなガキが生き残れる場所じゃないですよ? それとも何か勘違い……」

「そこまでだ、レイゼ。彼も困っているだろう? ほら、今からパーティーなんだから仲良くやろうぜ」

 

 ガハハ、と豪快に笑うロイゼにレイゼと呼ばれた少女は、ため息を吐いてから姉の愚痴をネチネチと呪詛のように呟く。

 容姿こそ大きく異なるが、顔の整い方的に双子なのだろう。

 騒々しい姉妹だなと苦笑いを溢しながら、ロアは装備の点検を始めるのだった。

 

 

☆☆☆

 

 

 広く暗い洞窟に響き渡る自分の足音。迫り来るモンスターたちの攻撃を慣れない手つきで捌いていく。

 ここはダンジョン二階層。数多の冒険者の始まりの地である。

 

「…はぁっ、はぁっ」

 

 コボルトの群れに遅れをとっているようでは自分は強くなれない。激しい焦燥の中で乱れが生じてしまったのか鋭い爪が自分の腕を抉る。

 

 憧れにはたどり着けない。本当に情けない。

 

 大きく振るった短剣は運良く最後のコボルトの命を掻き取ったが、身体の至る所に打撲、右腕には大きな傷跡がズキズキと痛みを訴えている。こんな状態では、これ以上深く潜ることはできないだろう。

 彼女、エウリカ・ヒューズの心には余裕などなかった。

 団長が指定した限界深度は、上層二層。魔法の使用は禁止。

 それでもそれより下に行かなければ、冒険をしなければ強くなれない。あの英雄のようになれない。

 焦燥が加速して強迫観念へと変換されていく。

 

「………ごめんなさい」

 

 自分の実力を加味した上でダンジョンに潜らせてくれた団長に届かない謝罪を残して、下層へと降りた。

 

 

☆☆☆

 

 

 リザードの群れ。

 ダンジョンの天井を埋め尽くさんばかりの無数のトカゲもどきは、格好の獲物が舞い降りたと歓喜を示すかのように蠢き出す。

 我先にと跳んでくるリザードの攻撃から必死な思いで抵抗する。

 誰もが避けることのできない死への恐怖がエウリカの心を蝕んでいく。

 あぁ、もうだめだ、と心の中で呟いた時、黄金がエウリカの視界を飲み込んだ。

 

「……ぇ…?」

「大丈夫か?」

 

 エウリカの掠れた声に応答したのは、黒い髪にエルフに似た耳、金色の瞳を地獄のようなここでも輝くように放つ一人の青年であった。

 青年は、恐怖で腰が抜けてしまったエウリカの右腕に回復薬を躊躇なく垂らしていく。

 

「お前の実力じゃあ、これ以降は無理だ。冒険者に向いていない、諦めろ」

 

 ガツンと硬い者で頭を殴られたような錯覚を得る。自分でもわかっていた現実が言葉となってエウリカの心を深く抉っていく。

 

「わ、私はまだやれる……」

「俺が来なければお前は死んでいた。それが事実だ」

 

 右腕が完治したエウリカに、吐き出す言葉は刺々しいが手を差し伸べる。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 彼の手を取ると、意外にも温かく安心するような穏やかな気持ちに包まれるがその反面、助けられる自分に劣等感も感じていた。本当は自分が彼のように他人を助けなければならないのではないか?

 そう思い始めたら止まらなかった。鼻の奥がツンと響くと、視界がぼやけて何も見えなくなる。

 涙が溢れる瞬間、暖かい何かに包まれた。

 そう、泣き崩れるエウリカを優しく抱き止めたのは、ハーフエルフの青年であった。

 彼の体温はじんわりとエウリカの心を満たしていき、やがて胸の奥に秘めた感情が溢れ出す。

 静かにこぼれ落ちた雫は、彼の背中を濡らすが微動だにせず、その姿から大丈夫と伝えられている気がして、また溢れる。

 最近は泣いてばかりだ、と心の中で呟いた。

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