ファミリア・テイル   作:烏兎 満

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第二十二話 最初の死線(ファーストライン)

 中層への迷宮攻略(ダンジョンアタック)の準備を始めて一ヶ月。アフロディーテ・ファミリアが各々の課題と向き合い、それぞれの準備を進めてついに、今日中層攻略が始められようとしていた。

 

「はぁ、あなたがわがまま言うから完成が出発ギリギリになったんだけど」

「ごめん! でも、俺はこの大剣と共に行きたいんだ。約束のために」

 

 ルドロットは、ケーレから手渡された大剣を何か昔を思い出すのように懐かしげに見つめると、軽々と持ち上げて背負う。ケーレは興味のなさそうに、ふーんと呟くとこちらを向き嬉しそうに微笑む。

 

「ようやく中層への挑戦だね。最初の死線(ファーストライン)。今までの上層とは比べ物にならないぐらい過酷な場所だよ」

「あぁ、下準備は整えた。今回は十三階層までの攻略だ」

 

 ケーレがロアの発言に訝しげな表情を作る。

 

「下準備って?」

「中層に潜った。第二級冒険者と同行したから危険を冒さずに下見することができたのは大きな収穫だな」

 

 ロアの言葉にこの場にいる全員が驚愕の表情を彩る。

 その中で一人だけ怒気を放ちながら、淡々と全員が知らない事実を口にしたロアを問いただす。

 

「へぇ、中層に潜ったんだ? まぁ、そこはどうでもいい……いや、よくないけども、誰と潜ったの?」

 

 ケーレの有無を言わさない勢いに気圧されて冷や汗を流してしまう。

 

「い、いや、【日拳】のロイゼと【青月】のレイゼだが……」

 

 何か悪いことをしたわけではないのに、自分の悪事を無理矢理吐かされたかのような錯覚に襲われる。ロアの自白にケーレは怒鳴るわけでもなく、ただ可愛く頬を膨らませた。

 

「……あんまり他派閥の女と絡まないように」

「お、おう」

 

 いつもの淡々としたケーレとは違う反応をされて、少し戸惑いながらも持ち物や装備の点検を行う。

 早朝の中央広場(セントラルパーク)に集合したアフロディーテ・ファミリアのメンバーとパーティーに参加するケーレは、上層を一気に駆け降りて十四階層入り口までを目標とする。

 いざ出発、と団長であるロアが掛け声を出そうとすると、眠たげな表情でアフロディーテが登場した。

 

「みんな、おはよう……」

「ディーテ、無理してこんな朝早くに来なくてもいいのに……」

「ふふん、私のファミリアの出陣よ? 送り出すのが主神ってもんでしょうよ」

 

 アフロディーテは、確実にここ(オラリオ)に来てから何かが変わった。あの最初に出会ったわがままで自分勝手なアフロディーテとはまるで別人のように。

 ロアはアフロディーテの送り出しに素直に喜びながら必ず無事に帰る。いや、必ずここにいるメンバーを誰一人欠けることなく無事に帰らせる。背中に宿る『神の恩恵(ファルナ)』が熱くなるのを感じながら決意を固める。

 

「心遣い感謝します。アフロディーテ様」

「あ、ありがとうございます」

「こんなの主神として当然よ。堂々としてなさい!」

 

 ルドロットとエウリカも感謝を伝えるがそれが当然と、自信満々に微笑んで見せるアフロディーテに思わず笑みがこぼれる。

 大きく息を吸い込み、団長として号令をかける。

 

「これから我々が向かうは『最初の死線(ファーストライン)』! 我らアフロディーテ・ファミリアの最初の躍進、このオラリオに見せつけようじゃないかっ!」

「おおおおおぉおぉおお!!!」

 

 たった四人、しかもそのうち一人は手を上げただけだったが、十分だ。周りの冒険者たちは何事だと訝しげにこちらを覗いていたが、気にすることはない。

 アフロディーテに見送られて、ロアたちは昇りくる太陽に背を向けた。

 

 

☆☆☆

 

 

 上層までのパーティの布陣としては、ルドロットが前衛で耐久。ルドロットがモンスターの足を止めている間に遊撃隊であるケーレが自慢の双剣で切り刻む。ケーレの実力は、Lv2の後半といったこのパーティの最高ステイタスを誇るため、大抵のモンスターはケーレになすすべ無く殺される。

 そして、エウリカにサポーターを任せている。やはり、エルフの里でのトラウマがあったらしく、未だにあの魔法を唱えることはできない。そのため、今回は魔石やドロップアイテムの回収係兼サポート係に回ってもらうことにした。本人は悔しそうだったが、翌日には大事な役割だと理解してくれたのかやる気に満ちた瞳で応えてくれた。

 そのサポーターのエウリカを守る役割がロアの持ち場となっている。

 

 ロアはフィンから学んだ指揮官の知識を活用して、前衛の二人に具体的な指示を出しながら、自分も魔法によって二人をサポートする。

 

「ようやく十階層か。ここからは霧が蔓延している。分断されないようにルドとケーレは俺たちの方に寄ってくれ」

「了解です!」

 

 徒党を組んで迫り来るオークたちを薙ぎ倒しながら、背後からも襲いくるインプたちを魔法で黒焦げに焼き上げる。

 一通り片付け終わった後、エウリカに魔石の回収を頼む。

 

「そろそろ中層の入り口か。確か上層の次に死者が多い場所なんだろ?」

「そうなるね。上層が余裕になって調子づいた上級冒険者が軽く中層に挑んで無惨な死体で見つかる。まぁ、私たちは入念な準備と計画を立ててきたからそうなる可能性は限りなく低いけど、油断は禁物だよ」

 

 そう、先ほどのケーレが発言した通り、ここが最初の死線(ファーストライン)と呼ばれるには理由がある。中層からはLv1だけのパーティでは逆立ちしても勝てないほどに圧倒的なモンスターの数と強さが際立ってくる。Lv2でも単独での行動は自殺行為となる。

 ロアはケーレの忠告に気を引き締めながら、最短距離で中層の入り口へと向かっていく。

 そして、六時間の時をかけて中層の入り口へと辿り着いた。

 

「ふぅ、ようやく辿り着いた」

「もうへばっているのか? ここがゴールじゃないことを忘れるな」

「は、はい!」

 

 甲冑がルドロットの頭を覆っていて顔色は把握できないが息遣いから少し疲労が溜まっていることが伝わってくる。エウリカもかなり多くの荷物を持たせてしまっているため、少し休ませなければならない。

 ロアは三十分ほどの休憩時間を設けてケーレと共に計画の打ち合わせを行う。

 

「前にも話したが中層からは陣形を変える。まず、俺一人が前衛でモンスターを蹴散らす。ルドロットがエウリカの護衛。ケーレは基本的にルドロットのカバーだが、臨機応変に俺のサポートも頼む」

「了解」

 

 改めて荷物の点検を行い、パーティメンバー全員が対ヘルハウンド用の耐熱外套を身に纏う。

 

「さぁ、行くぞ」

 

 

☆☆☆

 

 

 中層に潜りたての冒険者が最も警戒するべきモンスターは、ヘルハウンドだろう。仔牛程度の大きさで別名『放火魔(バスカビル)』。その異名の通り、魔力で練った火炎放射を中距離から吐き出し、上級冒険者であっても呆気なく黒焦げにされる凶悪なモンスターが素早く動き回り、且つ数の暴力をふっかけてくる。そのため、十三階層でのパーティ壊滅は大体コイツらのせい。

 

「前方からヘルハウンドの群れっ! ルドは後方警戒、ケーレはカバー!」

 

 振り返らずにモンスターの軍勢に突っ込みながら、仲間たちに指示を出す。ロアはこの一ヶ月の間下見目的で、第二級冒険者に引っ張られながら中層を間近で観察してきた。ヘルハウンドの動きも十分に理解している。

 それに、今日はなんだか調子がいい。上層では後衛をしていて実感が湧かなかったが、自分の体を動かしてみて思い通り以上に体が動き、背中が熱くなる。

 

「ふふ、私のカバーなんかいらないじゃないか」

 

 そんな呟きが聞こえたがリーダー命令には従ってほしいなと心に留めながら、火の手の中を駆け抜けヘルハウンドを一匹一匹確実に仕留めていく。

 最後の一匹にとどめを刺した時、ルドロットの報告が響き渡る。

 

「後方からアルミラージの大群っ! ケーレ、カバーを頼む!」

「はいはい」

 

 あちらは大丈夫そうだ、と思いながら前方からまたも出現するヘルハウンドに辟易とする。やはり、上層とはモンスターの質と数が天と地ほどの差が出てくる。精神(マインド)はなるべく温存させておきたいため、魔法を使わずに槍一本で黒犬どもを串刺しにしていく。

 

 戦闘をしながら前に進むという強引な手を使おうかと思った時、ようやくモンスターの宴は終わりを迎えた。

 

「はぁ、はぁ、これが中層……!」

「久しぶりに潜ったけど、やっぱり嫌なところだね」

「…………」

 

 三者三様の反応を見せる中、ロアは自分が普段以上の実力を発揮したことに自分自身驚いていたが、それを今考えるほどの余裕と時間はない。

 

「もうすぐゴールだ。ここで休憩なんてできない。移動するぞ」

「あ、あの私に何かできることは……」

 

 魔石やドロップアイテムを回収し終わったエウリカが何かを堪えるように次に進もうとするロアの背中に問いかける。

 ロアは真っ直ぐに先の闇を見つめながら、振り返ることなく淡々と答える。

 

「サポートに徹することだ。その気持ちを理解したいが、まずは己のトラウマを克服しろ」

「っ! ごめんなさい……」

 

 すぐに下を向いて俯いてしまったエウリカにケーレは言葉をかけず優しく背中を摩ってあげていた。

 

 

☆☆☆

 

 

 そこからは先ほどと同じく、モンスターの群れに遭遇、殺す、進むを繰り返し行いながら、ゴールに到着。引き返してまた遭遇殺す進む………。これの繰り返しを行いようやく上層まで帰還することに成功した。

 唯一の大きなミスは、ルドロットの腕にヘルハウンドが甲冑ごと噛み砕いてそのまま自爆覚悟の火炎放射を喰らってしまい火傷してしまったことだが、すぐにエウリカが高級回復薬を施し、無傷で終えたことだ。

 幸い後に響くことはなかったが、ヘルハウンド一体を視界の外に置いてしまったのは、ロアの失敗であるため見直さなければならないと謝罪と共に反省を行った。

 

 地上に帰還してからは、朝日が昇っており一日が経ってしまっていることに心底驚いたことをよく覚えている。

 ケーレ以外のメンバーもそのようで、ダンジョンとは体内時間さえも狂わせる危険な場所なんだと改めて再認識させられた。

 

「はぁ、それにしても体が酷く痛い…。こんな疲労感は久しぶりだ」

「………悪かったな。一匹取り逃してしまった」

「いやいやいやっ!? あれは俺の油断から食らってしまったもので、こちらこそ高級回復薬を使ってしまってすみませんっ!」

 

 年下であるケーレには敬語を使わないのに、なぜ自分には使うのだろうかと疑問に思いながらも、それを問うのはもう面倒であったためスルーを決める。

 

「久しぶりに腕が痛い。ちょっと鈍りすぎたかな」

 

 肩を回しながらつぶやくケーレにロアは素直に賞賛の言葉を送る。

 

「ケーレ、今回は助かった。お前がいるといないとでは進行に大きな違いがあっただろう。ありがとう」

 

 ロアが滅多に見せない微笑みを前に、急に顔を真っ赤に染めて声にならない声を絞り上げた後に、ヘファイストス・ファミリアのホームへとダッシュで帰っていった。どこにそんな体力残っていたんだ、とルドロットが戦慄している。

 

「よし、今日と明日はオフだ。ゆっくり英気を養ってくれ、解散」

 

 エウリカから預かったパンパンに膨れ上がった魔石袋を受け取り、換金のためにギルドへと向かう。

 昇りくる太陽がおかえりなさい、と燦々と輝いてロアに伝えているようだった。

 




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