ファミリア・テイル   作:烏兎 満

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改題しました。



第二十三話 宴

 

「「「「「かんぱぁい!」」」」」

 

 『豊穣の女主人』にて、アフロディーテ・ファミリアの帰還祭が行われていた。

 オラリオでは未成人での飲酒は特別厳しく取り締まっていないため、ロアは初めてのお酒に少し興味を示した様子で飲み込んだ。喉が焼けるような感覚と独特な味わいに顔を顰めてしまい、ジョッキを机の上に戻す。

 

「ふふっ、ロアは初めてのお酒よね? 美味しかった?」

「なんとも言い難い飲み物だな。癖になるとまではいかないが、悪くはない」

「十二歳でお酒ってあんまり良くないような……」

 

 エウリカが心配そうにロアの顔を覗き込むが、これといって体調に変化があるわけではない。

 エウリカは今年で二十歳を迎えるらしく、ロアやケーレ、ルドロットよりも年上だ。しかし、エルフ基準で言うとまだまだ成人したとは言えない年齢らしい。

 ケーレはジョッキを傾けると、グビっと一気に飲み干す。

 

「け、ケーレ、そんなに飲んで大丈夫なのか?」

「お酒には強い方だから、大丈夫。たまに記憶は飛ぶが」

 

 最後に怪しい発言を残したケーレは、それから浴びるようにお酒を飲む。流石に危ないと感じたロアが止めたが、次は出てくる料理を無表情で食べ始めてしまい、放置することにした。

 

「あれはタチの良い酒癖ですね。兄貴はお酒飲んで大丈夫なんですか?」

「確かにまだ俺は子供という年齢だが……。お前の方こそどうなんだ?」

「俺はお酒は普通ですね。あんまり飲まないように気をつけます」

 

 ルドロットはお酒をちょびちょびと自分のペースで飲んでいるようだ。

 エウリカはお酒には強くないらしくあまり飲みたくないようなので、強制はしない。

 アフロディーテは、明らかに酔っ払っているようで扇子のようなものを取り出して、そこから水を出すという意味のわからない芸当で他の冒険者たちを驚かせていた。何やってんだ。

 

 数時間最初の死線(ファーストライン)突破で各々が食事や団欒で楽しんだ後の帰路、ロアは眠ってしまったアフロディーテとケーレを両脇に抱えながら、メインストリートを歩いていた。

 

「ふぅ、久しぶりにあんなに食べたなぁ。やっぱり『豊穣の女主人』の料理はコストも味も一品ですね!」

「そうだな、これからも贔屓にさせてもらおう。何より争い事が起きないのは居心地がいい」

 

 『豊穣の女主人』の店員のほとんどは第二級冒険者の女性で構成される屈強な集団だ。それに店を回している女将さんは、まさかの第一級冒険者。そんな猛獣が蔓延るこの飲食店でいざこざを起こそうものなら命がいくつあっても足りやしない。

 エウリカもいつもの暗い表情は、さっぱり抜け落ちたようにご満悦のようで何よりだった。

 

「それにしても、いいですね。こういうの」

「急にどうした」

 

 静かにオラリオを照らす月を見上げ、ルドロットは満足そうな表情を浮かべる。

 

「だって、家族みたいじゃないですか。みんなで騒いでみんなで食べて、みんなで喜びを分かち合う。こういうのを仲間って呼ぶんですかね」

 

 ルドロットの喜びに満ちた声は誰もいないメインストリートに沈み込む。それに対して、ロアはそれは違うぞ、とは否定する。

 

「家族みたいじゃなくて、もう俺たちは家族(ファミリア)だ。エウリカもそう思うだろ?」

「そう、ですね。確かに私も今日のような日は好きです。私ももうここにいるみんなは……家族、だと思っています…!」

 

 少し頬を赤らめて恥ずかしそうにするエウリカに思わずロアとルドロットは笑ってしまう。それを心外だと怒るエウリカ。そして、寝言をかますアフロディーテ。

 あぁ、こんな日々はあの頃の自分では考えられなかっただろうとロアはちょっとした感傷に浸り、顔を夜空へと向ける。

 星々は光り輝き、まるで今の自分達のように眩しかった。

 

 

☆☆☆

 

 

 アフロディーテ・ファミリアが中層に進出してから、一ヶ月が経った。中層の攻略は慎重にゆっくりとだが、確実に前進していき今では十五階層までがこのファミリアの最深深度にまで到達した。

 

「流石にミノタウロスはきついですね」

「あぁ、単体ならともかく複数の集まりだと厄介だな。お前が使い物にならないし」

「兄貴、もう少しオブラートに包んでくれないと俺のメンタルがきついです」

 

 ミノタウロスとは牛頭人身のモンスターで、ヘルハウンドに並んで中層を代表するモンスターである。ミノタウロスはパワー型のモンスターで上級冒険者でさえも油断すれば瞬く間に肉塊と化す化け物である。おまけに下級冒険者では絶対に敵わないと言われる理由として、咆哮(ハウル)による強制停止(リストレイト)は、下級冒険者では防ぐことはできない。つまり、ルドロットではなすすべがないのだ。

 

「事実だ」

「はい………」

 

 ここはダンジョン十五階層。中層は上層よりも洞窟状のダンジョンが広くなりかなり歩きやすくなったが、一気に下層へと降りることができてしまう縦穴に注意する必要がある。

 

「そろそろ引き返さない? 嫌な予感がする」

「ケーレもそう思うか。俺も十五階層に入ったあたりから妙な視線を感じる」

 

 背後を振り返ってみるが、特に何もないと思っていたが、一人の男と黒服の集団が立っていた。

 ケーレも気がついたようで双剣を引き抜く。

 明らかに冒険者ではない装いに槍を構えたロアは警戒を怠らない。

 

「おやおや、気づかれてしまいましたか。あなたたちが今勢いに乗っているアフロディーテ・ファミリアで間違いはありませんか?」

「誰だお前ら」

「今から殺す相手に自己紹介など不要だと思いますが」

 

 闇派閥(イヴィルス)だ。最近は鳴りをひそめていたと思ったが、そんなものはただの勘違いであったらしい。

 なぜ闇派閥(イヴィルス)がダンジョンにいないと思っていた? 闇派閥(イヴィルス)のことを考慮していなかったことに後悔しながら、気を引き締める。

 

「それにしても、先ほどのミノタウロスを倒したのは実にお見事でした。やはり、あなた方はこのまま成長すれば我々の障害となる。消えてもらいますよ」

 

 この男、ギルドで確認したブラックリストにはいない人物。背後には三十人ほどの闇派閥(イヴィルス)たち。

 

「逃げれるか?」

「無理だ。ここは一本道。あいつらから逃げるにはこれより下の階層に行かないといけない」

 

 それは逃げながらより強力なモンスターを相手にしなければならない。つまり、退路は断たれたということだ。

 

「さぁ、血の宴を始めましょうかっ!」

 

 血のように紅い髪を靡かせながら、迫り来る男を筆頭に黒服どもも続いていく。

 

「チッ、【レイシム・グロウ】っ! エウリカは魔剣の準備っ! ケーレとルドロットは連携して黒服どもをやれっ! 躊躇わずに殺せっ!」

「なかなか物騒な命令をするんですねぇ」

「ッ…!」

 

 速い。明らかにそこらの冒険者よりも圧倒的な速さに、この男が第二級冒険者の実力を秘めているのは確実だ。

 男に槍による横薙ぎを仕掛けるが弾かれてしまい、無防備となった胴体が切られる寸前、自分の狙って出せる最大威力の放電を発動し退かせる。

 

「【電撃(スパーク)】。その名の通り電撃を操ると聞きましたが、想像以上の威力でした。私でさえ食らっていれば数秒は動けなかったでしょう」

「……チッ」

 

 剣を一振りされるだけで魔力ごと弾かれてしまった事実に思わず舌打ちをしてしまう。相手はフィンに劣るがロアとの実力差は明白であった。これ以上魔法の威力を上げるのは、味方を巻き込む恐れがあるため使うことはできない。

 

「……なるほど。気が変わりました。みなさん、彼の相手をお願いします。あとは手はず通りに」

 

 男はロアに興味を無くしたのか混戦状態であるケーレたちの方へ走り始める。ロアは男を止めるべく追うが、黒服の闇派閥(イヴィルス)に行手を阻まれてしまう。

 

「クソがっ!」

 

 男はルドロットの元へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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