暗い闇の中で空気を裂くような雷電がキラーアントに襲い掛かる。
雷電は回避しきれない絶対の攻撃である。それは標的に向かいどれだけ避けようとしてもその性質上、避けることは不可能だ。
そんな雷電に蹂躙されるキラーアントの大群は、何十とやられた同胞の仇を討つべく数の暴力となってその敵に飛びつくが、すぐにそれの餌食となり灰となって消えていく。
そこには徐々に減っていくキラーアントを蹂躙する一人の少年の影があった。
キラーアントの大群を始末し終えたロアは、そこらじゅうに転がる小さな魔石やドロップアイテムを拾い上げ、入れようとしたところでポーチがパンパンに膨れ上がり、これ以上入らないとポーチが突っ張っていた。
「帰るか」
一言呟いて残された魔石やドロップアイテムを無視しながら、ロアは九階層から地上を目指した。
☆☆☆
ダンジョンから脱出し、夕日に照らされた顔の汗を拭いながら、自分の獲物を確認する。
すでに刃こぼれがひどくこの二ヶ月間使い潰していたせいか、ナイフの耐久値はとっくに限界を迎えていた。
そろそろローン返済を月一度しても余るぐらいのお金が溜まってきたので、新しい獲物が欲しいところだ。
ロアはあれから日々毎日ダンジョンに潜り続けていたことでステイタスも順調すぎるほどにトントン拍子で上がっていき、今では九階層まで潜ることができると言う。駆け出し冒険者としては、明らかに異常なスピードで成長して、どんどんと下層へと挑戦していたのである。
そして、アフロディーテのミアハ・ファミリアのバイトによる収入と、ロアのダンジョンでの稼ぎで、少しずつ貯めたお金は、ヘファイストスとの約束の月五万ヴァリスのローンを無事、余裕をもって返済することができたのだ。
この調子だとローンは、一年半ほどで返済し終わることができる。
明日らへんは貯めたお金で防具でも買いに行こうかと予定を立てていると、街の一角で大きな爆発音がした。
「い、
街の人々は爆発した建物からより遠くへ遠くへと逃げようとして、場は混乱の渦へと成り下がった。
人の悲鳴がそこらじゅうで共鳴するように響いたかと思うと、白い装束を身につけた集団が、逃げ遅れた人々を容赦なく、蹂躙していく。
特にロアは気にせず、この状況をどうにかしようとは思っていなかった。魔力も節約してきたためか余裕があり、やろうと思えばいくらでも闇派閥を、黒焦げにすることができたが、この付与魔法、発動すると威力を落としても、周りの人々に被害がもたらされてしまう。
今この人が混雑している状況で魔法を使ったのならば、周りの人々はあえなく麻痺して数時間動けなくなるだろう。
そうなると色々とギルド関連で面倒臭いので、闇派閥に背を向けて、人の波に紛れ込もうとしたその時。
「『正義』、参上!」
太陽のような赤い髪をポニーテールでまとめた少女を筆頭に、数人の少女たちが暴れていた闇派閥たちを、無力化していく。
闇派閥と少女たちの実力は、圧倒的な差があった。その動きはロアの目には、オラリオの冒険者の半分といない上級冒険者の強さだと一眼でわかった。
あっという間に闇派閥たちを捕らえ終えた少女たちは、闇派閥によって虫の息となっていた住民たちに惜しげもなく回復薬をかけた後、団長と思われる赤い髪の少女は、それぞれの団員に指示を出す。
「ライラ、そっちの怪我人を手当てしてあげて。私たちはそのままガネーシャ・ファミリアに闇派閥たちを預けてくるから」
そんなやりとりを呆然とした態度で見つめていたロアは、なにかが引っかかった。何が、とは正確にはわからないがどこかモヤモヤとした気持ちを胸に抱きながら、自分のその疑問に、疑問を感じた自分自身に疑問を感じた。
その気持ちがなんなのかは分からず、ただ突っ立っていると、モンスターの雄叫びのような、叫び声を上げながら、最後の力を振り絞ってその少女たちの拘束を振り払った闇派閥がいた。
その闇派閥は、少女たちには敵わないと言わんばかりに逃げ出したかのように思えた。
その男はもうロア以外誰もいなくなったメインストリートに自分の剣を握りしめて、何かを目指して突っ走っていた。
いや、何かではない。標的は外見的にまだ幼いロアだった。
迎撃しようと思えば、簡単にできた。もう周りに人はいないので、速攻魔法で一撃で沈めることもできた。
だから、自己防衛のためにその男を殺そうと思った。
そう思い、魔法を展開しようとした時、ロアとその男の間に、実際にはロアに背を向けてその外見的に小さくてか弱そうな少年を守るために、その少女はその男に立ちはだかった。
そして、立ちはだかった少女は、構わず突貫してきた闇派閥の男の斬撃を軽々と捌いた後、その男の首に峰打ちを打ち込み、その男はぐったりと地面へと崩れ落ちた。
先ほどの疑問が大きくなったような気がした。
その金色の髪とスラっとしたスタイルを持つ少女はこちらへと振り返ると、表情を真顔のままロアに一言言葉を送った。
「大丈夫ですか?」
「…………あぁ、問題ない」
少女は、その少年の見た目とは予想のつかない堅い返事が返ってきたことに面を食らったかのような表情をとる。
「ふーっ、ふーっ!ご、ごめん!逃しちゃった、テヘペロ」
「はぁ、しっかりしてくださいアリーゼ。危うくこの少年に怪我をさせてしまうところでしたよ」
「ま、リオンのお陰でその子も怪我はなかったんだし、結果オーライね!」
「団長さんよ、自分の失敗を結果オーライで終わらすなよ…」
息を切らしながら急いでこちらへと向かってきたアリーゼと呼ばれた少女からは、アフロディーテのようなアホっぽい雰囲気を感じたが、ロアはこれ以上ここにいる理由はなかったので、少女たちに背を向ける。
リオンと呼ばれたエルフの少女は、何も言わずに去っていくロアに少し不満げな表情を浮かべていると、アリーゼに声をかけられる。
「リオン、そう言う時もあるって。お礼を言われずとも私たちは正義の眷属!きっとあの子も心の中では私たちに感謝しているわ!うん、きっとそうに違いない!」
「アリーゼ、あなたは少しポジティブすぎます」
「それが、うちらの団長の良いところではありませんか」
「そうだな、あたしたちの団長はバカでアホで自由すぎるからな」
正義は巡る。
☆☆☆
ホームへと帰宅したロアは、先ほどの疑問を頭の引き出しに仕舞い込み、玄関にて出迎えてくれたアフロディーテに自分の武器を買い替えるということを相談してみることにした。
「そろそろお金も余裕が生まれてきたことだし、装備を一新したいと思うんだ。少し出費が多くなるが大丈夫か?」
「んー?別に構わないわ。私だって勝手にファミリアの貯金を使って…、ないから!ふ、服を買ったりとかしてないからね!」
「おい、使ってんじゃねーか。お金の余裕が出てきたからといって、無駄遣いは良くないぞ?」
「む、無駄遣いじゃないわよ!こ、今度一緒にデートに行ってあげようと思ったから、オシャレしようと思っただけよ!」
顔を真っ赤に染めながら、アフロディーテは服を買ったことを認めて、その言い訳を並べるが、そこまで懐事情は悪くないので、気にすることではない。
それに、今度アフロディーテとデートできるのなら別に怒る必要もないか、とため息を吐いてゆるした。
「はいはい、まぁ、お金なんてまた稼げばいいし。で、いくら使ったん?」
「……………30万ヴァリスほど」
「おいコラ、表でろ」
そのあと、アフロディーテは正座させられ、三時間ほどお金の大切さについて説教されましたとさ。
いきなりUAとお気に入りが増えててびっくり。
昨日投稿してないのに、なんでぇ?笑
違和感、ご指摘などあれば迅速に対応いたします。