アフロディーテの消費したお金は、ファミリア貯金の三分の一であり、ロアたちにとってこの三分の一は大きな損失であったが、ロアがアフロディーテを叱ることによってそれを許した。
「はぁ、全く勘弁してくれよ」
「いたた、足が痺れた…。………悪かったわよ」
「………よし、この話はここでもうおしまいだ。もっと建設的な話をしよう」
ロアは、頭をぶんぶんと振って自分の頭を一度リセットしてから、元々アフロディーテに相談しようと決めていた装備の費用についてを、ある程度調べていた装備の相場などの見解も踏まえて、丁寧に話した。
「まず、俺に足りないのはリーチだ。この短い手足じゃ相手に急接近して戦わないといけない。今使ってる壊れかけのナイフは、俺の手に馴染まなくて少し使いずらいし、そろそろ買い替える頃合いだと思っている。そうだな、理想としては槍がいい。そろそろランクアップについても視野に入れたいから、そこそこ良い槍を新調したい。あと、防具に関しては、速度重視に重きを置いて、やはり軽装がいいな。回復薬は、ミアハ・ファミリアから調達できるとして、問題は槍の値段。そこそこいいのだとやっぱり30万ヴァリスに届くと思うんだ。で、軽装で5万ヴァリスぐらい。合計で35万ヴァリス程度の出費にしたいと思うんだが…」
「………………」
ロアの長い長い見解に、眉間に皺を寄せて難しい表情をするアフロディーテ。
むぅ、と唸りながら頭を抑えたかと思ったら、急に立ち上がりロアの目を見て言った。
「………全部あなたに任せるわ!」
なぜか知らないが、渾身のドヤ顔を披露して見せたアフロディーテは、難しいことは考えたくなかったのかお金のことなどは全部ロアに丸投げにした。
「はぁ、まぁディーテにそういうの相談しても無駄だとは思っていたが、予想通りだったな」
「ちょっと、それどう言う意味?この賢くて天才で、全ての知恵を司るこの私に、そんなこと言っていいのかしら?」
「お前そんな権能司ってないだろ…」
ロアはどこから湧いてくるのかわからないアフロディーテの自信満々な表情に、呆れた眼差しを向けるが、我が主神はいつもこんなんだったなと、アフロディーテの扱いにもそろそろ慣れてきた。
「よし、もう寝よう。明日もあるしな」
「あ、今日こそ私とベッドで…」
「遠慮しときます」
「ああ、そう…」
若干落ち込んでいるアフロディーテに対して、ロアは毎晩誘ってくるアフロディーテと一緒に寝るのは、恥ずかしいという感情もあったのだが、それよりも守るべき主神と、この150センチ程度の自分が一緒に寝ると、まるでお守りをされている子供のような気がして嫌なのだ。
「じゃ、おやすみ、アフロディーテ」
「ん、おやすみなさい」
そのままアフロディーテ・ファミリアは夢の中へと落ちていった。
☆☆☆
今日は遅く起きてゆっくりディーテと話しながら一緒に朝食を取ろうと思っていたロアは、いつもの習慣で朝早くに目が覚めてしまった。
大きなあくびをしながら、まだぐっすり眠っているアフロディーテに毛布をかけてあげると、ファミリア貯金の中から、35万ヴァリスとまだ換金していないドロップアイテムを持って、軽いラフな格好でホームを出た。
街中はまだ朝日も昇ってもいないと言うのに、ダンジョンに向かう冒険者の数でメインストリートは昼のような活気が周囲に漂っていた。
そんな中、ロアはバベルへと向かう。
バベルへと向かう理由はダンジョン……ではなく、新しい防具と武器の調達のため、いつもよりゆっくりとした足取りでバベルを目指した。
バベルの上へと昇るための昇降機に乗り、三階へと向かい、ドロップアイテムを換金し、ちょっとした足し金を手に入れた。
その後、また昇降機に乗り、一個上の階である四階を目指した
今回装備を揃えようと思っている場所は、ヘファイストス・ファミリアが、テナントを借りて販売されている武具屋だ。
ヘファイストス・ファミリアの打った最高の武具は、街中で売られている武具たちは、第一級冒険者向けの武具で、ロアでは扱いきれない上に、何よりまず値段が桁違いに高い。
とてもではないが、ロアには手を伸ばしても届くはずのない領域にある武具である。
その反面、このテナントで売られている武具は、ヘファイストス・ファミリアのまだまだ未熟な鍛治師たちの作品であり、駆け出し冒険者が手を出せるほどの値段で売られているため、ここで武具を買う冒険者が多いのである。
ロアは、四階から八階にかけて売られている武具たちをこの一日で全て見てから、最終的にどんな武具を買うのか決めようと思っていた。
テナントに着くと、朝早いと言うのにある程度の冒険者たちが、武具やなにやらを見て回っている。ロアもそれと同じように、周回しながら、自分の目的の武具を探すことにした。
☆☆☆
時刻は正午となり、朝早くから見て回ったおかげか、最後の八階のテナントがもう少しで見終わろうとしていた。
八階の武具屋を回っていると、何度か会ったことのある神物に出くわした。
「ん、貴方は……、確かアフロディーテのところの子かしら?」
「………そうだ。それで、なんのようだ?」
「結構冷たいのね…。うちのファミリアで買い物をしてくれているのが嬉しくてつい声をかけてしまったわ。それで、どうかしら?私のファミリアの子たちが、作った武具たちは」
神と関わるのを、面倒に感じていたが、あのホームを提供してくれているのはこの神だし、アフロディーテがお世話になっているのもこの神なので、素直な感情を話すことにした。
「そうだな、どれも駆け出し冒険者の素人な俺から見ても良い出来のものが多いな。だが、朝から探しているが、目当てのものが見つからん」
「なるほどね、だったら…」
ヘファイストスが「こっちについてきて」、と言ってロアに背を向ける。
ロアも何かいい武具を紹介されるのかと思い、探している武具の特徴をヘファイストスに伝えようとした時、並べて置いてある沢山の武具の中で、埃をかぶった奥の方に置いてある一つの武器と防具のセットに目が止まった。
その槍と心臓部を守る鉄の胸当ての武具のセットを、数多の武具の中から引っ張り出して、手にとって触ってみる。
埃を払った槍の穂先は、銀色に輝く鉄でできており、長さはロアの身長の少し上の170センチの少し長い短槍で、胸当ても同じ鉄でできていた。
「おい、これを貰いたい」
「………わかったわ。もうここで私が受け渡すわね。代金は25万ヴァリスよ」
ロアは、25万ヴァリスを手渡すと、そのセットを抱えヘファイストスに背を向けて、昇降機へと向かった。
その後ろ姿を見つめる一柱の神は、とても嬉しそうな表情で顔を綻ばせながら少年を見送っていた。
☆☆☆
翌日の朝。新しく新調した装備を身に纏い、見違えるほどに冒険者らしくなったロアは、バベルの下にあるダンジョンへと潜った。
今回の装備と自分の実力を加味した上で、十階層への挑戦をしようと思っていた。
遭遇したモンスターを蹴散らしながら、槍の使い方について少しずつ理解することを大前提として意識する。
やはりリーチの長さからして、ナイフより長いリーチは、自分の身を危険に冒すことなく、距離のある位置から一方的な攻撃を行うことができる。
ロアが選んだ武器は、とても丁寧に細かくできており、打ったものの気持ちと情熱が込められているのだが、今のロアには興味がない。
ロアは、ただ使いやすくて丈夫だなとしか思っていなかった。
十階層へとたどり着いたロアは、そのギルドのダンジョンの地図と共にその階層の特徴を思い出す。
十階層からは、ダンジョンギミックと呼ばれる通常のダンジョンとは違う構造や環境が現れ始める。
十階層は、霧に包まれた環境であり、冒険者の視界が大幅に削られる。霧の中から現れるモンスターたちは上層のなかでも強い部類のものたちが冒険者に襲いかかり、駆け出し冒険者にとっても最初の難関である。
ロアは、躊躇なく霧の中へと入っていくと、少ししてモンスターが現れた。
それは、オークと呼ばれる豚頭人身のモンスターで、のしのしと鈍重な動きで、こちらへと向かってくる。
その手には、
もちろん、そんなゆっくりとした攻撃はロアには当たらないが、ロアがもといた場所には、クレーターができるほどの衝撃が地面に残っており、冷や汗をかく。
その攻撃を避けてから、すぐに攻勢にでるが、槍で切り付けても大したダメージは出ることなく、その緑色のぶっくりふくれあがった腹は、その脂肪によってタフネスさを発揮していた。
ロアは、オークに対しての戦闘方法を思い出すが、それでは魔石が取れることはないので、そのオークによる打撃攻撃を交わしながら、少しずつ傷をつけていき、弱ったところで槍の刺突で首をはねた。
その時だった。
「
五人ぐらいの冒険者パーティを組んでいる男たちが、ロアの前方にある霧の中からいきなり現れ、ロアの横を通り抜けていった。
「怪物の宴…?どこかで聞いたことが、いや読んだことが…」
と、考える前に事件は起きた。先程冒険者パーティが飛び出してきた霧の前方から、モンスターの叫び声やたくさんのモンスターの足音が響く。
怪物の宴。それは、ダンジョンから通常より多くのモンスターが突如として発生する現象を指すことである。
つまり、今さっき通り過ぎて行った冒険者たちは、大群のモンスターから逃げていたのだ。
「まずいな…、俺も逃げるか」
ロアが冒険者パーティの逃げた方向に、自分も逃げようとするとその方向から冒険者パーティの叫び声や悲鳴が木霊してきた。
ロアは逃げ道を失ったことを確信した。
それを悟った時、視界の悪い霧の中から、犬の頭を持っている痩せ細った人型のモンスター、インプの複数体がいきなり四方八方からロアに飛びついてきた。
声も出さずに現れたインプに対して、ロアは冷静に捌いてすぐに串刺しにするが、襲いかかってくるインプの数は減らないまま。
ずっと捌き続けていると、オークの群れが現れた。先程単体のオークに時間をかけて倒せたのに対して今度は、大群。
ロアも魔石がどうのとは言えなくなり、インプよりオークを優先して、倒すことにした。
オークの弱点は、モンスター共通の弱点である魔石だ。
魔石を壊すことができたのなら、その厚い緑の肌を何度も傷つけることなく、一瞬にして灰にすることが可能だ。
オークの一体一体の魔石を槍でブッ刺しながら、余すことなく倒していく。
その過程の中で、オークの攻撃にだけ注意をしていたためかインプの攻撃を何度かくらってしまい、すこしずつ動きが鈍くなっていることをロア自身が一番よくわかっていた。
あの時ほどではないが、ちょっとだけピンチだった。
「しょうがない。いくら倒してもキリがないからな。霧だけに」
と、モンスターたちも動きを一瞬止めるようなしょうもない親父ギャグをかまし、速攻魔法を唱える。
そのあとからは、楽だった。雷により視界の悪かった空間は無差別な雷電によりモンスターもろとも黒焦げにして、その場所には魔石やドロップアイテムが多く残っていた。
「やはり、この魔法は強力すぎるな」
雷電によりさっきまで騒がしかった怪物の宴も一瞬にして静かになり、静寂が訪れた。
ロアは、魔法の強力さを改めて感じたため、この魔法は当分の間使わないようにしようと心に決めた。
「帰るか」
モンスターたちの魔石をポーチの限界まで入れて、回収し終えると、階層の入り口へと向かった。
ちなみに、霧のせいで少し迷子になったのはここだけの話である。
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