神の一手   作:風梨

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6800字



第11話

 

 

 

 

「──天野さん、彼は一体何者ですか?」

 

「ああ、キミは初めて見るか」

 

 紙とペンを持ちながら、今しがた目にした光景を書き留める天野にカメラマンの男が話しかけていた。

 天野はメモから視線を上げる。

 今はもう居ない、先ほどまでこの場にいた少年の影を見るように。

 

「彼の名は『進藤ヒカル』。詳しくはまだ言えないが、トップクラスの特ダネだよ。キミも間違っても取材なんかしちゃーいけないよ。口酸っぱくまだダメだって言われてるんだから。──ま、彼が優勝すれば話は別なんだけどね、ははは」

 

「っていうと、優勝者の記事を作るから、ですよね?」

 

「そう。『それだけ』の記事なら許されてる」

 

「……それ以上の何かが、あるって言うんですか?」

 

「あるよ」

 

 天野はそれだけ断言して、顔を綻ばせながら続けた。

 

「いや、しかし。『塔矢アキラ』そして『進藤ヒカル』。続々と新しい風が吹いてくるね、碁界の記者として鼻が高いよ。これで日本の囲碁はもっともっと面白くなる。あるいは彼なら最年少でのタイトルホルダーにも……。いや、それは言い過ぎだな」

 

「天野さんがそこまで言うって、相当っスよね」

 

「……そうかもしれないね。だけど、どうしても期待してしまう自分がいるんだ。記者としては失格かもしれないが、囲碁ファンとしての血が騒いでしまってね。どうにも仕方がないんだ」

 

 天野は困ったように笑いながら、しかし屈託のない表情だった。

 

「さて。若獅子戦の2回戦までが終わったんだ。残りの対局は3週間後に持ち越しだけど、楽しみだね」

 

 再び仕事人の表情に引き締め直した天野は今日の結果と取材報告のために管理委員会の元へと足を運ぶ。

 今後の根回しも兼ねた行動は恐らく決勝戦でぶつかり合うであろう、両雄の取材に関する内容。

 紙面を飾るだけのビッグニュースを是非とも報道するために、天野は苦労を惜しむつもりはなかった。

 

 

 

 

 

「──お、おい。ほんとにそんなに食えるのか?」

 

「だいじょーぶ!」

 

「そ、そうか」

 

『バクバク』と音が付きそうな勢いで口に寿司を放り込んでいくヒカルに若干引きながら、緒方はゆったりと湯呑みを傾けてお茶を啜った。

 そんな緒方を尻目に奈瀬がご機嫌に笑みを溢しながら、ヒカルを横目で見て、ゆったりとお寿司を口に入れた。

 

「ん〜、美味しい〜♡──進藤ってば、せっかくのお寿司なんだから、もうちょっと味わって食べなきゃ」

 

 思い思いに過ごすそんなヒカルと奈瀬とは異なって、あかりは着いてきたのは良いものの『あわあわ』しっ放しだった。

 

「な、奈瀬ちゃんなんでそんなに落ち着いてるの!? ヒカルは食べ過ぎ……! あわわ、ね、値段が書いてない……書いてないよぉ!!」

 

「時価って言うらしいよ。時期で値段が変わるから、あえて値段は書いてないんだ。──藤崎さんも食べたら? 美味しいよ」

 

 慣れた様子で、行儀良く寿司を口に運ぶ塔矢。

 奈瀬が機嫌良く言葉を引き継いだ。

 

「そうそう。こんな時でもなきゃ、こんなに良いお寿司食べれないんだから。ん〜、付いてきて良かった〜♡」

 

 奈瀬にそう言われてから、ようやく目の前のお寿司に手をつけ始めたあかりを見ながら塔矢が続けた。

 

「藤崎さんは予想通りだけど。少し意外だね。奈瀬さん、もっと慌てるかと思ってた」

 

「そう? ──うん、まぁちょっと心境の変化はあったかもね」

 

「そうなんだ。……話は変わるけど。さっきの対局も凄く良かったと思うよ。勝ってやるって気持ちが伝わってきた」

 

 そう言われて奈瀬の脳裏に蘇るのはつい先ほどの、塔矢アキラとの対局内容だった。

 苦笑いしながら続ける。

 

「あはは、そう言われると恥ずかしいね。まぁ負けちゃってるんだけどね。──次はもっと追い詰めてやるんだから」

 

「うん、楽しみに待ってる」

 

 自信有りげな笑みを浮かべた奈瀬と、その笑みを受けて嬉しそうに頷いた塔矢。

 仲の良さそうな二人を見ながら、緒方はふと疑問を尋ねた。

 

「──奈瀬くん、だったね。キミに聞きたいことがあったんだが、そこの藤崎って子も含めて、進藤くんの弟子なんだって?」

 

 緒方にとって『さん』付けは目上の人に対して使う敬称だ。

 だから、女性である少女たちに対しても『くん』を使う。

 目下に対しては『くん』、目上に対しては『さん』である。

 大人らしい敬称の使い分けだった。

 

「あ、ハイ。えーっと、いつからだったかな? 確か、塔矢くんの新初段シリーズの後だから──。1月後半くらい?」

 

「そうですね。ボクは2回目で遅かったですから。ちなみに1月28日ですよ」

 

「そっか。──うっわ、もう4ヶ月近く経ってるの? はっや」

 

「キミとアキラくんの対局は見れていないが、なるほど。1月と比べてウデは上がったのかい?」

 

「ハイ。それはもう。別人ってくらい強くなってると思います。──出来るなら、緒方九段とも打ちたいです」

 

「ははは、良い気迫だね。……構わないよ。後で打とうか。──アキラくんも久しぶりにどうだい?」

 

「いえ、ボクは遠慮しておきます。代わりにと言っては何ですが、藤崎さんとも打ってあげてもらえませんか、緒方さん」

 

「彼女とも? まぁオレに対して本気で向かって来れるだけの気持ちがあるなら、構わないけどね。自信の程はどうかな?」

 

 挑発するような緒方の視線に対して。

 あかりはそれまでの『オドオド』としていた雰囲気を一変させて向き合った。

 交わされる眼差しは緒方の御眼鏡に適うだけの気持ちが篭っている。

 

「お願いします!」

 

「おっと、小さな獅子を怒らせてしまったかな。──さて、進藤くん。そろそろ食い納めてくれよ」

 

「ふぁ、ふぁい」

 

 奈瀬に言われて少し味わいながら食べていたヒカルだったが、慌てて握りたてのお寿司を『バクバク』とお口に放り込んで恍惚(こうこつ)の表情を浮かべる。

 

(う、ウメェ……)

 

『ヒカル。お寿司もいいですが、緒方が待っていますよ?』

 

(お、おう)

 

 既に席を立って会計を済ませている緒方の姿にヒカルが慌てて立ち上がった。

 

 

 

 駅前の碁会所。

 ヒカルたちにとっても馴染みのあるこの場所で、多数のギャラリーが集まる一角があった。

 一応は礼儀として碁会所の邪魔にならないよう、隅の方に座っているが、そんな配慮も虚しく碁会所の者たちのほぼ全員がその一角に集まっていた。

 

「──さて。メインディッシュは最後、と言いたいところだが、待ちきれなくてね。打とうか、進藤くん」

 

「お願いします」

 

「……お願いします」

 

 それまでは、どこか子供っぽさの抜けきれない様子だった。

 それがどうだ。

 対局となればまるで別人のように切り替わった。

 ゾクゾクとした興奮を感じながら緒方は握る。

 

 手番は緒方が黒番、ヒカルが白番となった。

 

 

 緒方は手番が決まった途端に上着を脱ぎ、畳んで横の椅子に被せる。

 対面するだけで理解できる。

 尋常ではない圧力。

 今までは観戦する側だった。

 だからこそ気がつけなかった。

 この、対面に座らねば伝わって来ない気迫に。

 

 じっとりと嫌な汗が背中に流れる。

 ネクタイを緩めて、緒方は碁笥に手を差し入れた。

 意気は十分。

 少し先では、本因坊戦に挑むことも決定している。

 だが、重要なタイトル戦に向けての威勢を削がれる可能性があるとしても、今この場で挑まねば気が済まない。

 

 

 緒方の『ソレ』は可笑しな事に挑戦とも呼べる心境だった。

 

 それまでの、ともすれば軽薄な雰囲気はそこにはない。

 研ぎ澄まされた刃の如き気迫が瞳の奥に渦巻いていた。

 

 当人は自覚がない。

 しかし、緒方は塔矢行洋が認めるほどの『囲碁バカ』である。

 良い車にスーツを着こなし、タバコを吹かして静かに高い酒を呷る。

 碁打ちながらスタイリッシュな格好を気取って、周囲に見せている姿は本人からすればそれが本性であるが。

 

 しかし、彼は『囲碁バカ』である。

 先にも述べたが自覚がない。

 きっと、現『本因坊』である桑原が執拗に緒方を揶揄うのも、そこに理由の一端があるのだろう。

 

 囲碁に前のめりになってのめり込んでいる緒方は、進藤ヒカルという存在を知ってその心を熱くしていた。

『グツグツ』と湧き立つマグマの如き興奮。

 若獅子戦で、進藤ヒカルの対局の全てをその場で観戦していたのだ。

 その過剰なのめり込み具合が良くわかる。

 

 緒方は九段である。

 それは段位の最高位である。

 それ以上はタイトルである十段しか存在しない。

 つまり、タイトルホルダーには劣るものの、日本棋院の中では最上位に近い立場。

 

 そんな彼が、一介の院生の打つ全ての対局を観戦する。

 その影響力なんて糞食らえ、と言わんばかりに黙って進藤ヒカルを観戦し続けるほどに、緒方は『囲碁バカ』だった。

 

 だが、黙って観戦し続ける価値はあった。

 緒方の内面には新しい時代に対する期待感があった。

 これから日本の囲碁界はもっともっと面白くなっていく。

 その確信があった。

 

 確信を思い出して、緒方は獰猛な笑みを浮かべる。

 進藤ヒカルから伝わってくる圧力を前に、まだ一手すら放っていない盤面を前に『ゾクゾク』するほどの興奮を覚えていた。

 

 その思いが命じるがままに緒方は第一手目を盤面に放った。

 冷静沈着な緒方には珍しく、甲高い音を盤面から響かせた。

 

 ヒカルも応じる。

 佐為は、その背後で扇子を用いて指し示す。

 

 緒方の気魄(きはく)は『二人』の闘志をも呼び起こす。

 

 やっと。

『全力』を出せる時が来たと、そう言わんばかりに。

 

 奇しくも、この時三人は全く同じ表情を浮かべていた。

 

『『右上スミ 小目』』

 

 佐為とヒカルの声が重なる。

 ヒカルは打つ。

 

 一度戦いが始まれば無我の境地に入る。

 全力での戦いともなれば、その域も普段の姿勢とは比べ物にならない。

 

 緒方は未だタイトルを所持していない。

 だが、実力はタイトル所持者と同等と言っても良い。

 

 その解る者にしか解らぬモノが、佐為とヒカルに察せられぬ訳がなかった。

 

 盤面から鳴る音以外、全てが無音だった。

 アキラも、あかりも、奈瀬も、みな固唾を飲む事すら惜しんで盤面を見守った。

 

 いつもの『進藤ヒカル』ではない。

 この場の誰もがそう思った。

 

 何かが違う、決定的な何かが。

 

 だが、誰もソレを言語化できない。

 それは鬼神か、はたまた棋神か。

 

 想像もつかない程の高みに登ろうとする者が発する気魄(きはく)に場の空気は完全に呑まれていた。

 

 

『ヒカル。不思議ですね』

 

(ああ、何だろうな、この感じ)

 

『わかりませんが、しかし、心地良いのも確か。未だ掴みきれていませんが、全力を尽くしましょう』

 

(だな。こんなおもしれー対局。楽しまなきゃ損だ。・・・この感覚にも慣れたいしさ)

 

 しかし、呼応するように拓けた視界は未だ不安定。

 ヨミの鋭さと一手の厳しさは増している。

 だが、どことない不安定さも未だあった。

 

 その隙を緒方に突かれる。

 

 勝負勘。

 つまり、ここぞという場面での底力は十二分に緒方は持っている。

 吠えるように緒方が猛攻を仕掛ける。

 ここで取らねば先はないと決死の覚悟で踏み込んだ。

 

 右下隅から始まった戦いは右辺を飲み込み、中央にまで伸びる。

 事の発端は中央に置かれた四つの白石の死活。

 少し左辺に進めば、3つの白石がある。

 だが、そこは既に緒方は潰している。

 活路は上辺にしかないが、黒番である緒方は一手分の猶予を極めてギリギリで効果的に用いて、僅か一手分の差で中央の白石を八つ殺す事に成功する。

 

 

 食いつかれた。

 そう判断したヒカルは即座に致命傷を避ける術がない事を察するが、焦りとは無縁だった。

 視えていた。どこまでも。

 

 ここまでの手数は155手。

 盤面は黒番が優勢となっている。

 

 しかし、まだ盤面は空きが多い戦況。

 ヒリつくような局面が訪れた事が、却って『二人』の闘志に火をつける。

 

 打ち込んだのは左辺。

 右辺での戦いが主戦場となった事で、左辺は全体的に手が薄い。

 挽回の余地は十二分に残されていた。

 緒方としては、中央と右辺で作った地をキープすれば勝ちに持っていける盤面の状況。

 

 しかし、相手が相手であるために、一切の油断なく慎重に一手を重ね続けた。

 

 何より左辺は白石の厚みが極めて大きい。

 全体としてみれば黒番の優勢ではあるが、左辺に限定して言えば未だ白番が優勢である。

 この左辺の拡大を許せば、十分に逆転も有り得る。

 

 緒方は果敢に攻める。

 左上隅、周りが白石しかない盤面で、しかし『三々(盤面四隅にある、縦横三線が重なったオセロでいうところの四隅のような存在)』という格好の位置が空いている。

 

(進藤、これは誘いだな? ……いいだろう、乗ってやる。どうせお前の地を荒らさねばならんのだ。あえて隙を作ったのだろうが、それをオレが食い破ってやる)

 

 そこからは読み合いの応酬である。

 右辺、左辺、上下、中央。

 

 隙はどこにも存在する。

 探り読んで隙を作るべく戦略が蠢き合う。

 

 左上隅に2手打ったかと思えば、右上隅に数手を重ねる。

 かと思えば、再び左上隅に戻って乱戦。

 

 上辺では白石が死ぬ寸前まで陥りながらも、ギリギリで生き延びながらその石を伸ばしに伸ばしてゆく。

 一つ読み違えれば十数の大石が死にかねない危険な動きにも、『二人』の手が澱むことはない。

 

 そして。

 流れるような石の流れに翻弄されるがまま、上辺が『二人に』支配される。

 

 対面する緒方は冷汗を流しながらも、笑みが抑えられない。

 

(これほど上手く生きるか。まさか、こんなシビれる対局が、タイトル戦以外で経験出来るとは思わなかったぞ、進藤……!)

 

 上辺の白を囲み殺しに行ったはずの黒が『死に掛ける』。

 辛うじて回避した緒方だったが、中央で作った有利が潰されそうな状況にまで陥る。

 

 果敢に攻めた左上隅は早々に捨てざるを得ない判断を迫られた。

 荒らす事は難しいと悔しながらも、即座に緒方は切り上げる。

 

 ヨセで挽回すべく緒方は懸命に打った。

 しかし、左辺から伸びる白と、右下隅から伸びる白に、作ったはずの中央の地にまで圧力を掛けられてしまい、『ジリジリ』と差がつめられてゆく。

 

(ギリギリ、勝っている……か?)

 

 途中経過は未だ緒方がギリギリで綱を渡っていた。

 しかし、『二人』の怒涛の追い上げは止まる所を知らず、1目、1目と徐々に迫る。

 そして。

 

 ──緒方は悔しげに唇を食んだ。

 

「……ここまで、か」

 

「ありがとうございました」

 

 周りにもわかるよう、整地を行う。

 残った目は白番がコミを入れて2目半の勝利。

 

 進藤ヒカルの2目半勝ちである。

 

 間違いなく緒方は本気だった。

 途中では会心の出来で中央を制した。

 しかし、それでもなお『進藤ヒカル』に上を行かれた事に疑いようはなく、盤面がそれを否応なく証明してしまっている。

 

「……この一局はしばらく忘れられそうにないな」

 

 緒方の言った意味合いとしては、悔しすぎるから、という意味だったが、対面に座るヒカルは真逆の意見を言った。

 

「はい。オレ、こんな良い碁打てたの数えるくらいしかないって、今ようやく気がつきました。──もっと、もっと打ちたい。こんな碁が打てるなら、オレ。──誘ってくれてありがとうございました。やっと理解できた気がします。オレがプロにならなきゃいけないってワケが、今更ですけどわかった気がします」

 

 この一戦を経て、ヒカルは急速に大人びて見えた。

 どこか浮ついた気持ちだった。

 振り返ってヒカルはそう思う。

 

 佐為と一緒に楽しみながら打てれば良い。

 ヒリつくような対局が打ちたいと言いながらも、内心はそう思っていたのだ。

 

 だが、今日ハッキリとわかった。

 

 打ちたい。

 こんな碁が、もっともっと打ちたい。

 

 ──佐為と一緒に。

 

 聞かなくても同じ気持ちだとわかった。

 背後の佐為が、静かに沈黙して喜びに浸っていたから。

 

 ヒカルと佐為は思い出した。

 ギリギリの戦況で全力を出し切ることの面白さを。

 

 それがこれからにどう影響を及ぼすのか。

 ヒカルにも、それは分からない事だった。

 

 

 緒方は少し呆けていた。

 ヒカルのあんまりにポジティブで、自分とは正反対の意見を、敗者である自分に向けて堂々と言ってきたものだから。

 しかし。

 言っている事はもっともだ。

 

 これほどの対局。

 タイトル戦でも経験できないかもしれない、とは対局中にまさに自分が思っていたことだ。

 それを悔しいなどという気持ちで楽しむ前に蓋をしてしまうなんて、あまりにも勿体無い。

 そう気がつかされて。

 

 それを教えられたのが、一回り以上も年下の院生であると思い出して。

 

 ツボに入って、おかしくなって緒方は大笑いした。

 捩れる腹を押さえながら笑う緒方の姿は塔矢アキラですら見たことがない姿で、あんまりの変わりようにあの塔矢が目を剥かんばかりに驚いていた。

 

 佐為とヒカルは余韻に浸って、緒方は大笑いして。

 周りは検討したり、対局者たちの思わぬ様子に困惑したりしながら、その日は幕を閉じた。

 

 奈瀬明日美と藤崎あかりの両名との対局は後日に流れる。

 今日はこの余韻に浸っていたいと言われてしまえば、二人が無理を言えるはずもなかった。

 

 

 時は進んで3週間後。

 若獅子戦の最終戦が行われる。

 

 もちろん、緒方はまた楽しげな足取りで若獅子戦に顔を出していた。

 タイトル戦を控える棋士とは思えないフットワークの軽さだったが、本人にソレを気にした様子は微塵もない。

 

 第5回戦。

 つまり、決勝戦。

 

 順当に勝ち上がった『塔矢アキラ』と。

 

 そのライバルである『進藤ヒカル』の名前が、対戦者の欄に並んでいた。

 

 

 

 








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