雄大な自然と共に生きているシンオウ地方。

その北にあるエイチ湖 

そのほとりには誰も知らない一人の人間がいる。



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ある日みた夢の話です。


少女

 

エイチ湖

 

それは豪雪地帯の217番道路を抜けて比較的気候が安定したところにある大きな湖である。

水に恵まれたシンオウ地方を象徴する湖の一つでもある。テンガン山から吹き降ろす雪によって気温はとても低く

氷タイプのポケモンが多く生息している雪原のなかどうしてかここだけ吹雪は落ち着いているため様々な生物が迷い込んでくる。ある時は渡り鳥のポケモン達やどこからか迷い込んできたテンガン山のポケモン果てにはポケモンだけでなく人間までもがふらりふらりと迷い流れ着く。

 

迷い込んでしまった者たちは口々にこう語る

 

「あそこにはとても親切な湖の化身がいる」

 

「あそこには決して怒らせてはいけない魔女がいる」

 

「あそこには全知全能の湖の賢者がいる」

 

「あそこには不老不死の化け物がいる」

 

 

口々に語るは何の根も歯もない話それに語る者によって言うことがまるで違う

エイチ湖といえばシンオウ神話に関わる話もありなにか関係があるのだろうか

 

そんなエイチ湖のほとりにひっそりと佇むログハウスがあるとかないとか

 

 

そしてそのログハウスは今日も煙が上がっている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も湖は平和だねぇ。そう思うだろう我が主よ」

 

 

  きょうううーーん

 

黄色い頭部に額には赤い宝石 まるで妖精のような存在が鳴き声をあげた

先ほどの問に答えるかのようにコクコクとうなずいておりその手には色とりどりの果実が握られている。

 

「そうかい。捧げものも満足したようで何よりだよ。守り人冥利に尽きるってものかな。」

 

語るように呟くように時折目を伏せながら時折微笑みながら女はかの幻想的な存在と対話している。

手頃な岩。もっともテーブルとイスのようにも見えなくもない人間が座れるような岩に座り、向かい合っている。

 

して、その女の姿は雪のような白で染まっており神秘的であった。新雪のように薄いベールは彼女の水色の髪を引き立て深雪のように深い白のドレスは彼女の白い白い肌を際立たせた。そしてその白の中に深く深く引き込まれるような赤い宝石のサンクレットがさらに彼女を現実ばなれした存在だと印象づけるであろう。

 

そんな浮世離れした二人の周りはは一面水、水、水。見渡すかぎり青々としている湖の水に囲まれている。

どうやら湖の真ん中に浮かぶ空洞の上にいるようだ。周りには一面銀世界である。適度に降っている雪が一面に広がる水に吸い込まれるように消えていく。その水の中にはトサキントやコイキングが元気よく泳いでいる。

遠くではギャラドスが空高く飛び跳ねた。このまま天へと駆けていくのだろうか。

 

雪の降っている中一人と一体は対話し合う。

女はふと口にする。

 

「さぁ、まったく平和すぎる。どうやったらこの平和と云う暇を解決できるのか。どう思う我が主よ。」

 

 「こたえは もうすぐ くる」

 

女は少し目を大きくする。テレパスで目の前の存在は女に答えをだした。

そんなことができるのはひとえに目の前の存在が神の領域にあるからだろう。

 

「...驚いた。まさか我が主が答えてくれるとは...。ただの冗談だったのですが。」

 

女はするりと立ち上がる。所作はかなりゆっくりとし周りについているであろう雪を払う。さっさっと音が響く。

立ち上がると同時に彼女は湖の先。そうどこか遠い先を見通すように地平線の果てを見た。それはざっと3秒ほどであろうか。その沈黙の時間がすぎた後、彼女は目を閉じ。再びゆっくりと目を開いた。そうして彼女は目の前の尊大なる存在へ跪く。

 

「我が主ユクシーよ。その【こたえ】しかと承りました。では行って参ります。」

 

目の前に跪いている親愛なる隣人であり、従順なる従者である。忠実な信者であり、最大の友人へ微笑み

頭にちょんと手を置いた。クスクスという笑い声が聞こえたような気がした。

 

そしてかの尊大なる存在はスッと姿を消しその場には跪いている女のみが残ったのである。

その女はどこからかポケモンを呼び出し忽然と姿を消したのであった。先ほどまでいた一人と一体はまるでその場に存在しなかったの如くその場にある足跡等の痕跡すらそのうち消えるのであろう。

音もなくただ雪が降り積もるのみ。

 

ただその場には飛び上がったコイキングがちゃぽんと音を立てて水の中へ消えていった。

 

 

そんな情景で神秘的な存在に見える一体と一人は何者であろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

217番道路  

 

そう此処はシンオウ地方で最も過酷な場所であるといっても過言ではないだろう。

猛吹雪に当てられ自分が今どこにいるのかもわからず、深い雪に足を取られうまく進めず、おまけに危険なポケモンも多い。そんなこの場所は行方不明者が後を絶たずタウンマップには覚悟を決めて進もうと書かれるほどである。最もこの場所を通ろうとする者はほぼいない。最近はキッサキシティにいくにも船で安全に通行できるようになり217番道路を通る必要もなくなった。それでもこの場所を通ろうとするのは相当な命知らずか自殺願望者なのであろうか。それはさておき、そんな危険な場所にイーブイを連れた綺麗な金色の髪をした少女がいた。

 

 

「イーブイ!スピードスター!!」

 

金色の髪に黒いナポレオンコート、黒いブーツとしっかりと防寒対策をしているであろう少女が野生のポケモンと戦闘していた。その周りには大きな氷の岩がたくさんあり、どこか不思議な力を感じる。少女はイーブイに的確な指示で危なげなく戦闘に勝利した。野生のポケモンのユキワラシはくるくると目を回して瀕死の状態になった。

その様子をみてイーブイは少女へえっへんという表現が一番適しているであろう程愛くるしいどや顔で胸を張っていた。

 

「お疲れ様。イーブイよく頑張ったね。えらいよ」気

少女はわしゃわしゃとイーブイの頭をなでる。イーブイも大層なでられるのが好きなようで目を細めてうれしそげに鳴き声を上げている。ひとしきりイーブイをなで終わると少女はイーブイを連れて先に進もうと動く。

 

その深く深く積もった雪に足を入れ一歩一歩と歩を進めている。雪は少女の腰辺りまで積もっている所もあり進むのは困難であろう。彼女のイーブイはトレーナーである少女の苦労など気にしていないのであろうか。屈託のない笑顔でぴょんぴょんと雪原を走り回っている。そんなことをすれば雪に足を取られるのでは?と疑問に思う少女であったがその予想は見事であると賞賛するべきであろう。イーブイはズボッと音を立てて雪に沈んだ。

 

「こら!イーブイ。周りには気をつけなさい。ここら辺はとっても危険な場所なんだからね!今日は幸い晴れているし見通しもいいけれど山の気候は変動しやすいし、なにより強いポケモンもたくさんいるんだから!」

膨れ顔をして目の前の雪まみれの生物にしかりつける。ぶるるると体を震わせイーブイは体についているい雪を払い照れくさそうな顔をする。

 

そんな自分のポケモンに少々呆れつつも少女はイーブイを胸に抱えて先に進む。

そうして彼女はまた一歩と冒険の足跡を増やすはずであった。が、進めなかった。否、進もうとしなかったであろうか。遠くに何かが見えたのである。何かとはまた抽象的なものだが、確実に自分の視界。特にその中でも天と地が重なり合うところ――すなわち地平線であろう所から何かが近づいてくるのが見えたのである。

 

その様子を少女の胸元から不思議そうに見つめているイーブイもその何かに気づいたのであろうか。顔が青くなる。少女はその何かをはっきりと認識するよりも早く進行方向とは逆へと走っていった。彼女は走った最中に本能的な恐怖を感じているであろう。なにせ自分が相対す相手はこのシンオウの大自然である。そう、とどのつまり来ていたのは雪崩である。それはそれは大きな、ユキノオーですら飲み込んでしまうほどに大きな雪崩が雪原を駆けてきていたのだ。

 

少女は懸命にもその自然から逃れようと走る、走る、走る。だがしかし、ここは雪によって足場も悪く足がうまく進まない。少女はこのままこの雪崩から走って逃げ切るのは困難であろうと悟る。だが、かといってこのまま雪崩を耐えきれそうな、はたまたやり過ごせそうな便利な場所などは見当たらない。少女は空へと逃げればいいのではと考えたが、先ほどまで晴れていたはずが空は荒れており雪も強くなってきている。

もはや万事休すか。と頭に不吉な考えがよぎったりもしたが少女はブンブンと頭をふりそんな考えを振り払う。何か。何でもいい。この状況を打破できる起死回生の策はないものかと頭を働かせているとそれはまるで犍陀多に垂らされた一本の蜘蛛の糸のような、そんな神からのプレゼントのように少し大き目な洞穴があった。

 

もちろん少女はその洞穴へとに胸元のイーブイとともに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし悲しいことに犍陀多は結局地獄からでることはできなかったのであるが。少女の場合ではどうであろうか。うまい話には裏があるとはいうが、洞穴に入ったことで彼女の地獄は終わりを告げたのであろうか。

そもそもなぜこんなところに人一人が入れる大きさの洞穴があったのか。そのことについて少女に考えろというのはあまりに酷な話であろう。だが、入ってしまったのは事実。少女は次の地獄へと身を投げ出してしまったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガバイト!左によけてドラゴンクロー!そのまますなじごくで動きを抑えて!!」

 

少女はボロボロになった服も気にせず鬼気迫る表情で自分のポケモンに命を下す。

 

 ギャーオ!!!!

 

カバイトは目の前のポケモン―もとい怪物のようなユキノオーの群れと対峙していた。その一体一体が強者も風格を纏い、怒った表情でこちらを睨み咆哮をあげる。住処へと入ってきた侵入者を迎撃するため。己が家族を守るために容赦なく攻撃してくる。

 

【うかつだった.....まさか入った洞穴がユキノオーの巣だったなんて.........】

 

心の中で愚痴る少女。そう思うのも仕方がない。少女は今回復する手段もなく、かといってあなぬけのひものような緊急脱出できるアイテムもない。そして残るポケモンはイーブイと今戦っているガバイト。それにガバイトももうすぐ戦闘不能になってしまうであろうと感じる程のダメージを負っている。まさに絶体絶命である。もうすでに洞穴に入ってから5時間であろうか。いや、これは体感時間なのでもっと長いかもしれないが、それほどまで長い時間戦闘を続けている。そもそも目の前にいるユキノオーはおそらくだがガバイトよりも一回りや二回り強い。この長い時間戦えているのが奇跡のようであった。

 

【ガバイトにも限界が近い..】

 

自分の一番信頼できるポケモン。獅子奮迅の活躍をしているガバイトも限界が近いことも相まって少女はとある決断をした。

 

「イーブイ。あなたでこの洞窟の外にでて助けを呼んできてくれないかな?わたし達がユキノオーの巣に誤って入ってしまったこと。そして私たちが怒り狂ったユキノオーに襲われていることを伝えてくれる?」

 

少女は自分の後ろに隠れているイーブイに怖がらせないように微笑んで伝える。

イーブイはうなずくがどこか不安そうな顔をして少女を見つめる。おそらく少女を心配しているのであろう。

 

「あたし達は大丈夫よ。あたしにはガバイトがいるもの。彼が頼れるのは知っているでしょ?」

 

今も戦っているガバイトがチラリとイーブイを見る。傷だらけで今にも倒れそうな彼だがその眼にははっきりと闘志が宿っていた。まだ戦える。俺を信じろ。そう訴えかけているかのようにも感じた。

 

「さぁ!イーブイ!頼んだよ!」

 

イーブイは素早くでんこうせっかで洞穴の外に飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからどれくらいの時間がたったであろうか。1時間ほどであろうか。いや体感時間なので実際にはもっと短いのかもしれない。長い長い一秒が永遠と過ぎていく時間のなかでついにガバイトが膝をついた。

 

「ガバイト!あなをほって回避!」

 

その指示をカバイトが実行するよりも早くユキノオーのれいとうパンチがガバイトに直撃してしまった。

万全の状態でも瀕死になるその一撃をくらってしまったのだからガバイトが立ち上がれなくても無理はないであろう。

 

そして残った少女。運よく彼女だけ攻撃されないなんてことはなく容赦なくユキノオー達自慢の大きな腕でハンマーのようにたたきつけてくる。また、氷の光線を飛ばしてくるものもいた。ただ冷徹にただ冷血にただ冷静に。自然の摂理とでもいうべきなのであろうか。残酷なまでに決定的な事実。弱肉強食。まるで春の来ない冬のように襲い掛かってくる。少女は逃げて、逃げて、ただ逃げた。瀕死のポケモンたちを抱えながら。だが、そう都合よくよけ続けられるはずもなく。一体のユキノオーのとっしんが少女に命中する。少女は衝撃で吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる。目の前が暗くなりつつも何とか這うように逃げようとする。

 

【せめて外に近い場所に......】

 

そう思い外の光へ向かって手を伸ばし向かう。しかし無情にもその光が遮られ、少女の周りを雪の巨人が囲う。少女は自分の死をはっきりと意識し迫りくる影を受け入れつつ死を向かい入れる準備をした。薄れゆく意識のなかでこの場に不釣り合いなかわいらしい鳴き声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは雪原の中佇むログハウス。その中では水色の髪をなびかせた女が珈琲を飲んでいた。

暖炉の近くの椅子に座り、本を片手にカップの珈琲の香りを楽しんでいる様子はとても満足げだ。

内装は西洋のものでも東洋のものでもない、それぞれが入り混じった様子であり少々和風なものもある。

エンジュシティのものであろうか竹がコンと音を立ててなる獅子威しもあるがこの部屋の中でミスマッチ過ぎて浮いている。きっとこの部屋の主はセンスがないのであろう。そんなよく言えば和洋折衷、悪く言えばまとまりのない部屋の主である女はしばらく珈琲をすするとそのコーヒーを暖炉に流し込んだ。

 

 

暖炉の火はジュツと音を立てて消え部屋は少し寒くなる。

 

 

そしておもむろに腰からモンスターボールを取り出すとポケモンを呼び出した。

出てきたポケモンはサーナイト。呼び出されると同時になにやら目を見開くサーナイト。彼女の特性はテレパスなので女の考えていることなどすべてわかっているのであろう。女が自分に何をしてほしいのかすぐに理解し彼女の周りに力が集まる。彼女が何かを念じたことを確認すると真っ赤なサンクレットを身に着け扉を開け外の銀世界へ進んだ。

 

 

そして目の前には体中に雪がついているイーブイが姿を現したのだった。

女はイーブイを持ち上げられ体の雪をぱっぱと払う。

 

「今から君の主人の所へ向かう。余につかまっているといい。」

 

イーブイはなんだかよくわかっていない様子だがおとなしく女に抱えられている。

 

「いいこだねぇ。さぁ、英雄の登場といこう。まぁ、余は雌だがな。」

 

自分で言ったがクスクスと笑う女に向かってサーナイトは呆れた表情をうかべ苦笑いした。

どうやら女はかなり独創的なセンスを持っているようだ。

 

 

そして一人と二匹は姿を消した。

 

 

 

 

そして気づいたら目の前には倒れている少女とそれを囲う雪男たち。

それを見たイーブイは主人を心配するように鳴き声をあげる。

女はイーブイを床に下すとサーナイトを連れて前へと進み始めた。

 

 

「おや。ずいぶんと無茶をしたようだねぇ。ここまでとは思わなかったよ。こんなにも抵抗されるとはこ奴らとも想定外だったのかな。こんなにも真っ向から勝負するとは、負けず嫌いも過ぎているというかなんというか。困ったものだねぇ。さぁ、どいてもらえるか。雪の男たちよ。余はそこに倒れている痛々し気な少女に用があるんだ。」

 

 

ずかずかとユキノオーに近づく女。当然女やサーナイトも侵入者であることには変わりはなくユキノオー達にとっては排除対象であった。さらに多くの同胞も先の少女に傷つけられており、気もたっているので躊躇なく女に向かって腕を振るう。

 

「残念だよ。余は平和主義者ではあるが非暴力主義ではない。ことによっては暴力でしか解決できないこともあると考える。だから、君が余に攻撃の意思を示した時点で君は余からの反撃を受けても仕方がないと思うのだよ。」

 

女は饒舌に言葉を並べ目の前のユキノオーへと送り出す。そしてどこからともなく念力が飛んできてユキノオー達が倒れていく。その姿を女は冷ややかな目で見下す。その光景はまるで目の前のちっぽけな存在がとてつもなく強大で強力に見えたであろう。残ったユキノオー達は女に恐怖して誰一人として動けない。

 

「なぁ、ユキノオー余は争うためにここに来たのではない。むやみやたらと君らの子をいたぶろうともせん。ただそこの迷い込んだ少女を拾いに来ただけなんだよ。」

 

女は底冷えするような目で彼らを見る。まるで絶対零度である。きっと女にとってこれはただのお願いなのではなくこれ以上手を煩わせるなという勧告なのであろう。その一種の脅迫ともいえる行為に否と言えるほどユキノオー達は勇敢ではなかったようだ。彼らは逃げかえるように洞穴の奥へと引いていった。

 

「さて、君の主人は思っていたよりも傷だらけだねぇイーブイ。君の主人はとっても勇敢だ。誇ってもいい。このままでは少女は死んでしまう。だから、余の家へ招待しようと思うんだ。それでもいいかい?」

 

先ほどの冷たい視線とは打って変わって吹雪があけた後の太陽のようなあたたかい目でイーブイを見る。

イーブイはうなずくと女の肩に乗ってきた。

 

「もの分かりのいい子じゃないか。君はきっと大成するよ。さて、サーナイト一人分増えてしまったがお願いするよ。後で珈琲を淹れてやろう。」

 

 

サーナイトは別にいいです。と手を横に振っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは?」

 

目を覚ましたら見慣れない天井だった。ポケモンセンターでもなく、自宅でもない。ひょっとしたら死後の世界であろうか。いやそれはない。となりで寝ている自分のイーブイが自分がまだ生きていると感じることができた。であれば、自分は誰かに助けられたのであろうか。

そう思考にふけっていると自分の体が治療されていることに気が付いた。まだ体から痛みはあるものの動かせないほどではない。自分の服装はボロボロになってしまった自分の服ではなく真新しいセーターとパンツを着ている。色合いは紫色のセーターに白のパンツ。なかなかに個性的な組み合わせであった。

少女は体を起こすとあたりを見渡す。その奥の暖炉では雪のような服装をした女が本を読んでいた。

その片手にはカップが握られており何か暖かい飲み物が入っているのであろう。湯気が立ち上っている様はまだ入れたてであるのであろう。

 

「あぁ、起きたのだな。大層長く眠っていたものだ。君のイーブイも思わず眠ってしまったよ。そうだ、君はあまり動かない方がいい。よっぽど無茶をしたものよ。君は。」

 

女はこちらに振り返らず本のページをめくりながら言葉を紡ぐ。その声はいやにこの空間に響いていた。

電気が普及しているはずの今現在で何故かろうそく、いやキャンドルに近いだろうか。その明かりに照らされながら多少薄暗い中で本を読んでいるのは少女には違和感でしかなく、ここは現実でないように感じた。

 

「そうそう。ここはあの世、つまり死後の世界などではなく立派な現実さ。安心していい。」

 

なぜバレたのであろうか。あの人はこちらの表情を伺ってなどいないはずなのになぜ分かったのであろうか。

少女は少し震える声で目の前の女へと訊ねる。

 

「あなたは湖の化身様ですか?」

 

少女は言葉を絞り出してまばたきもせずに女を見つめる。静寂のひと時が流れ無音の時間が続く。数秒経ったら鹿威しがかーんと音を立てて鳴った。するとくっくっくとこらえていた笑い声が零れ始める。すると耐え切れなくなったのか女が笑い始める。少女はぽかんと口を開け呆然としていると、クルリとこちら側へと振り向く。振り向いた彼女の後ろにはサーナイトがいた。やれやれと呆れている表情をしているので、おそらくサーナイトが心を読むように頼まれたのであろう。

 

「はっはっは。君の驚愕した表情を見るのは楽しいな。余は愉快だ。最近の中で一番といってもいいほど愉快だ。すまなかったね。あと、余は湖の化身などでもやんごとなき仙人などでもない。ちょっと長生きした森の住人さ」

 

少女は女の額にある真っ赤なサンクレットが本当に自分心の中を覗き込んでいるように感じた。それはまるで第三の目、すべてを見通す真実の目であろうか。彼女の両の目に加えてもう一つの目はひどく魅惑的だった。

そんな女は笑顔でありその後ろにいる女は一通り笑い、収まると立ち上がってキッチンに向かって行った。

 

「まぁ、君は余の客人だ。もてなしてあげるよ。珈琲を入れてあげよう。それも至高の一杯だ。嗜好品はこれしかないんだ我慢しておくれよ。」

 

とことことキッチンから器具を取ってくる。ささと2つのカップを取ってくるとカップにペーパーフィルターを付け始める。するすると手際よく用意していく様を少女はぼんやりと見ていた。

 

 

 

「そう固くなりなさんな。楽にするといい。あぁ、それとも珈琲は苦手だったかな?確かに君みたいな少女には少々合わなかったか。そうだね。ホットミルクを入れてあげよう。」

 

「あ、はい。ありがとうございます。」

 

キッチンへ向かっていく女に少女は礼を言う。

 

「あの、助けてくれてありがとうございました。わたし、シロナって言います。良ければわたしに名前を教えてくれませんか?」

 

女は牛乳を熱しながら少し考える仕草をする。

 

「ふむ。名前…名前か。そうだね。アネモネと読んでくれ。」

 

「それにシロナか。いい名前じゃないか。シロツメクサ...絶えない意思を持つ君にはぴったりだ。名は体を表すというのは、あながち間違いではないね。ほれ、熱いから気を付けて飲むのだぞ。」

 

女、いやこの場ではアネモネと呼ぶべきか。彼女はシロナに出来上がったホットミルクを手渡しまた近くの椅子に腰かけた。片手には珈琲が握られており、その特有の香りが漂っている。シロナは手渡されたホットミルクをふーふーと冷ましちびちびと飲む。やはり暖かい飲み物は心が落ち着く。副交感神経が優位になるのでリラックス効果が出るらしいが、このような現実離れした場所でもしっかりと効果がでるのだから驚くことだ。

 

「そういえば、シロナ。君はカンナギの出だったな。考古学などに興味があったりするのか?」

 

何のことでもないようにアネモネは語る。

 

「ッ!?どうしそのことを知っているのですか?!」

 

「知っているとも。何もかも。なにせ余は君より少し長生きだからね。物知りなんだ。」

 

シロナの額から一筋の冷や汗が流れるとともに、副交感神経から交換神経へシフトしていくのがはっきりとわかった。目の前の女は自分のどこまで見透かしているのだろうか。サーナイトの仕業かとも考えたが、キッチンで洗い物をしており何か力を使っているわけでもない。キャンドルの炎ゆらりゆらりと揺れ動く。

 

「怖がらせてしまったのかな?すまないね。人と会うのは久しぶりで―いささか距離を測り違えているのかもしれない。そうだな。こういうときはどうすれば...そうだ君の願いを言ってみよ!叶えられる範囲であれば何でもしてあげよう!」

 

いやそれはないであろう。それは一般的に見れば怖がっている少女に恩着せる悪魔が契約の提示をしっているようではないか。シロナは目の前のひどく都合の良い。悪く言えば胡散臭い提案に危機感を感じ近くにいるイーブイを抱き、飲み終わったホットミルクをベット近くの台に置く。

 

「このイーブイは渡しませんよ!!」

 

「待て。待つんだ少女よ。君は何か勘違いをしている。余はそんな生贄みたいな悪魔の取引をするわけでは」

 

「この子を生贄にするんですか!?」

 

「違う違う違う。なぜそこだけ取り上げてしまったんだ。君はそんなに余を冷酷な魔女に仕立て上げようと」

 

「魔女なんですか?!?!」

 

「話を聞けぇい!」

 

結局この問答はシロナの暴走が収まるまではそう長くはなかった。やんややんやと騒ぐ声を聞きつけやってきたサーナイトがその場を落ち着けた。ミスマッチな鹿威しがかーんと鳴った。

 

 

 

「つまり、アネモネさんはこの子や私たちに何かするわけではないのですね?」

 

シロナはイーブイを抱きかかえながらこちらを見つめる。ジト目である。なんだかひどくこちらが悪いと訴えかけられられている気がするが気のせいであろうか。こちらを見るサーナイトは呆れを通り越し無表情である。しかし本当に自分だけが悪いのだろうか。勘違いしたシロナも―と考えているとサーナイトがにらみつけてきた。お前が悪い。反省しろと りつける。扱いがひどい。この微妙な空気を何とかするためにこほんと咳払いし仕切りなおす。

 

「勘違いが晴れて何よりだよ。まったく愉快なことだね。」

 

「それじゃあ、あなたが何者なのか聞かせてください。」

 

シロナは先ほどとは違って真面目な目でこちらへ問う。

 

「長生きした森の住人さ。それ以上でもそれ以下でもない。」

 

「はぐらかさないでください!」

 

シロナにはこれが自分の問いが無下にされたと感じたのだろう。それともまともに相手されていないのだろうか。

自然とこぶしを握る。

 

「はぐらかすも何もこれが事実さ。君はもっと広く視野を持つべきだ。力押しで前に前に進むのもまた若々しく良いが、それだけではどうにもならないこともあるだろう。目に見える事実だけがすべてではないよ。」

 

シロナの握る手に力が入る。

 

「そんなこと言われたって...わたしは何もわからないですよ。」

 

「そう。何もわからないんだよ。君は無知の知という言葉を知っているかい?無知であることを知るのが何かを考えることの始まりだ。物事に絶対なんてものはない。今はいんたーねっと?とやらですぐに何かを知ることができるようだが、時には常識を疑ってみるのも手だね。君は賢い。悩み、悩み、悩みなさい。知恵とはそのために存在する。」

 

アネモネはシロナの頭をなでる。諭すように紡いだ言葉はシロナに案外スッと入ってきた。不思議と握ったこぶしの力は消えていった。憑き物が取れたようであった。

 

「なら、エイチ湖に連れて行ってください。文献や論文だけじゃない。自分の目で自分の考えで調べてみたいのです。」

 

「いい顔だ。でも君には怪我もある。怪我が完治したらエイチ湖へ向かうとしよう。」

 

 

鹿威しがかーんと音を鳴らす。後のシンオウチャンピオンの運命的な一夜は、キャンドルと暖炉の暖かい光とともに更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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