理想とは斜め上に行くものである   作:J・イトー

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お待たせしました。

偽シダー君のウマ娘知らない設定にそろそろ無理が出てきそうと感じている今日この頃です。


三冠二世、激突/妖刀の片鱗と若葉ステークス

 シダーがクラシック級に進んではや二ヶ月。

 

 チームカノープスは低迷の鍔際に立たされていた。

 

 キャプテンのネイチャが、若駒ステークスを走ったあとすぐに故障が発覚。夏までの離脱を余儀なくされる不運に見舞われ、五体満足のシダーやイクノもまだ今年に入ってから勝ちを挙げられておらず、はっきり言ってパッとしない成績に落ち込んでしまっていたのだ。

 

 ジュニアカップから三週間後のシダーは、本番の皐月賞に惜敗のビジョンを持ち越すことを懸念した南坂の提案を呑む形で、デビュー戦と同条件で行われるGIII『共同通信杯』にて重賞初挑戦をするも、先頭から3着まで1バ身もない大接戦に完全に置いてきぼりにされ5着と、連対記録が途絶える苦しい結果になった。

 

 目標とする皐月賞に向け、現状を打破するには優先出走権をなんとしても手に入れたい。そこで悩んだ末に、次走は皐月賞トライアル唯一のオープン戦である若葉ステークスに決定した。シダーが待ち望む三冠馬二世の邂逅の舞台でもあるので、人探しは終わったのではなかったか? と思うかもしれないが、あくまで目的はテイオーとの直接対決だ。

 

 テイオーは『出走をオープン戦に絞る』とマスコミに明言していたため、行くならスプリングSに行かせたがっていた南坂には渋られたが、『ここで糸口を掴めなければどうせ本番でも太刀打ちできない』と論じたことで強引に説き伏せた。

 

 そして現在はそれに向け特訓中。イクノとターボとの併走──とは名ばかりの、先をひた走るターボを差し切れるかというチャレンジに興じていた。

 

 この度ターボは、ようやく審査を通れるくらいにはゲート難を克服し、クラシック級からキャリアをスタート──テイオーと同世代がよいと言って聞かなかったらしい──。

 

 シダーにとっては4歳新馬(旧齢表記)にあたるレースに出走し、勝利を収めていた。

 さすがに皐月賞まで時間が足りず、順調に進んでダービーに出られるかどうかという見通しだが、彼女はようやくテイオーと戦えるときが迫ってきている、と気にしていないらしい。

 

「ターボっ、ぜんかーいっ!!」

 

 はるか前で無邪気にギアを上げ続けるターボの雄叫びが聞こえる。いくらなんでもご機嫌が過ぎるな、と内心苦笑しながら、前を走るイクノと共に駆け続けていく。

 

「……元気だねぇ、若人は」

 

 一方ゴール地点近くでは、松葉杖を立て掛け、ストップウォッチを片手にベンチへ座るネイチャがそう呟く。

 その声色にはキャプテンという身分でありながら、故障離脱により導くべきメンバーを見守るしかないことへの自嘲が含まれているようだった。

 

「ネイチャさんを鼓舞しようと、お三方とも張り切っておりますからね」

 

 隣に立つ南坂の声に、ネイチャは思わず彼を見上げる。張り切っているのは貴方もだろう、と感じながらも、そう言うのは憚られた。

 

「ま、しゃーなし。怪我人は怪我人らしく励まされてますよっと」

 

 物言いがひねてしまうのは、照れ臭さ故か。とにかく今は我慢するしかない、と思いを新たにしたネイチャは、一番乗りのイクノが目の前を横切ったのを認め、ストップウォッチのラップボタンを押した。

 

 遅れてシダー、ターボと続いて全員のタイムが出揃ったところで南坂にそれを託すと、横にあるカゴから飲料水を取り出し三人に手渡していく。

 

「ゼェ……ゼェ……イクノも……シダーもっ……はやいっ!」

 

 一番に口を開いたのは最後にゴールし息絶え絶えで寝転がるターボだ。

 

「そりゃあターボさんが博打打ちなのは二人とも知ってますし……」

 

「ええ。もともと事前情報が乏しい状態で挑めば面食らう戦術です。事実知っている私でもあの差は若干の焦燥を煽られますし、それは間違いありません」

 

 レースは結局、ターボがスタミナを切らしたところでイクノ、シダーがあっさり抜き去るいつもの展開になったワケだが、悲観する必要はないと二人は諭す。

 すると、先ほどまでストップウォッチとプリントの間で視線を往復させていた南坂が会話に加わってきた。

 

「お疲れ様でした。結果について言及するならば、ターボさんがラストでペースを落とすのはもう仕方がないとしても……シダーさん、タイムが延長気味ですよ? 道中でもペース配分が急ぎ目なうえに乱れが大きかったですし」

 

 な、と総括を受けたシダーは洩らした。確かに息の切れ具合は普段より大きかったとは感じていたが、そこまで異変がはっきり表れるほどの行動をしている自覚はなかったからだ。

 

「成る程……今回のシダーさんのスパートに迫力がなかったのはそのためですか」

 

 シダーに難なく先着していたイクノは、合点がいった、というように声を発する。

 そして返答に窮していたシダーを心配がったのか、南坂は言葉を次いできた。

 

「言えない事情なら仕方ありませんが、何かありましたら仰ってください。練習に身が入らないなら何もせず落ち着ける時間も必要です」

 

 コンディションが劣悪なら休息も必要だ、と諭す南坂だったものの、シダーの反応は鈍かった。

 

「なんでなんでしょうね……ホントに」

 

 心当たり自体はある。だが、それはこの世界に生きる者としては不適格な悩みだ。

 打ち明けられずともよい、とは言われてもそれで妙に勘繰られるのも厄介。そう考え沈黙を選んだ。

 

(早く会わせてくれよ、じゃないと自分が君になっちまう)

 

 未だ逢えぬ彼に縋るように、シダーはそう願った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 中山レース場。皐月賞トライアル競走のひとつに数えられるオープン戦『若葉ステークス』は、シダーにとっては4度目となる芝2000mの舞台であった。

 

 彼女が、いやゲートに集う全員が視線を注いでいるであろう今回の一番人気『トウカイテイオー』は、快活に客席へVサインを掲げている。

 

(ここで……大体の位置付けが分かる)

 

 愛馬を幾度となく下し、これから皐月賞とダービーを制すことになるこのウマ娘に、自分がどこまで食らいつけるのか。それを己の肉体を以て試せる、というのはチャンスであると同時に、考えようによってはファン冥利に尽きるかもしれない。

 自信の程は、と問われれば返答に窮するが、勝算は僅かにあった。

 実力差は不透明である上に不調気味な調子は拭えないが、シダーには前世で動画サイトに転がっていたこのレースの映像を見た記憶があったのだ。競馬という競技への愛着はあれどデータのみを見てレースを寸分違わず想起できるほどのマニアではなかった彼には、その記憶は映像込みで初めてアドバンテージと成り得る。

 尤も、愛馬の代わりに自分が入ってしまっているのだ。イレギュラーの懸念はあるが、悲観してばかりもいられない。

 

 テイオーに向け、ふとキッと目力を利かせたその時だった。

 

『今日のレースの若葉ステークスは、芝の2000mに十人立て。4番トウカ──試セルナ、今ナラ──に推されました』

 

 一瞬だけ、視界に映る光景がコマ落ちしたように飛ばされた気がした。

 瞬きをしたにしては切り取られた時間が長すぎるし、した覚えもない。

 

(いやむしろ、意識が唐突に飛んだという感覚の方が近いような)

 

 実況の台詞も無理に繋ぎ合わせたように聞こえていたことから、聴覚も遮断されていたに違いなかった。

 

「どーしたんだ、自分……」

 

 瞬時に眠って瞬時に起きるような、新手の居眠りでもしてしまったのか、と考えたシダーは両の親指で眉間を突っつくとため息を吐いた。

 

(うん、このレースが終わったらトレーナーに休みを掛け合ってみよう。そうしよう)

 

 そう決意すると辺りを見回してみる。全員の視線が他者への牽制や洞察に使われておらず、ゲートの方へ向けていることから、空気感は出走間近のフェーズに移行しているようだった。

 

 ひとつ首を回すと、自分もあたかもやる気ですとばかりにゲートを睨み付けた。

 

 休暇を申し出るうまい言い訳は、レースが終わってから考えればよいのだから。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『おーっと中でグルービンマジックが……?』

 

 出走者全員がゲートに収まった頃、周囲に突如引き気味な声があがった。見ると最内枠のウマ娘がゲート難を起こしたらしく、下をくぐり抜け脱出を図ったようだった。

 

(おいおい……人型になってもやるもんなんだな、それ)

 

 早々のトラブルに会場がシダーを含め騒然としながらも、結局大外枠の10番よりさらに外となる11番にあたる位置に収まるという異例の対応をしてなんとかスタートの用意を整えたことで、出走自体は滞りなく行われようとしていた。

 

『さあグルービンマジックのゲート枠番移動というアクシデントはありましたが、皐月賞トライアルの若葉ステークスが今スタートです』

 

 ひと悶着あったが元々知っていたことだ、問題ない。テイオーに勝てずとも2着に入ればよい、という最終目標を再確認し意識を切り替えて間も無く、目の前の扉が開いた。

 

『ゲートが開いてスタートが切られました、10人のスタート若葉ステークスであります』

 

 ロケットスタートよりも自分のペースでレースを始めることを優先したシダーの両脇から黄、オレンジの体操着が現れる。

 

『ちょっと場内騒然としている中での先行争いでありますが、外の方を通りまして、グルービンマジックが行きました!』

 

 開始早々、大外枠に行っておきながら前に出てきたゼッケン1番に思わず苦笑しながら、シダーは後方の位置取りを試みる。

 

『そして2番手に8番のジーシーアーメン、外を通りましてスヤマエンペラーが上がっていこうというところ!』

 

 先頭付近がコーナーに入りそうになる頃。しかし大衆の視線は先頭争いには目もくれず、一人のウマ娘に注がれていた。

 

『そして注目のトウカイテイオーは現在前から4番手!』

 

 今回も得意の先行策をとった彼女に声を張り上げる観客らの熱気を向正面ながら感じつつ、シダーは変わらず後方待機を継続。おそらく現在7、8番手といったところだろう。

 

『バ場の真ん中あたりを通りまして、第1コーナーに向かっていきます各ウマ娘であります』

 

 いよいよ最初のコーナーに差し掛かる先頭を内ラチ越しに見ながら、内に居る5番との折り合いをつけつつ省力化に励む。

 

『さて、先手を取りましたのはピンクのハーフパンツ、外の方を通りましてスヤマエンペラー、そして内の方にグルービンマジック現在2番手というところ。3番手からラッキーモーニングでありますが外の方を通りましてはジーシーアーメンが上がっていきました』

 

 立ち上がりを難なく終え、ここからは押し引きの場面。

 さて、シダーが2着以内を目標する上で障壁となるのはテイオーの他にもう一人いる。ゼッケン2番のラッキーモーニングだ。

 この戦いで愛馬を下したもう一頭の存在を象ったのだろうそのウマ娘は、4着以降に4馬身差をつける三つ巴の戦いを乗り切ったやり手だ。

 

『そしてその後ろから、赤いハーフパンツ3番のモンデンフォージュ、大外を通りましてトウカイテイオーは現在5番手から4番手というところであります』

 

 本来この後の6番手に続く存在は、あいにくシダーに置き換わっているため居ない。3着という好成績ではあっただけに、なぞって動く選択肢がないわけではなかったが、そうするとより上に行くために彼以上の力量を純粋に求められることになってしまうことから却下した。

 

『その後ろにヤマトボスホットがつけました、3番のモンデンフォージュちょっと下がっていく感じ、ゼッケン5番はフラッグシンガー。最後方から7番のローアランブラという態勢で向こう正面の直線であります!』

 

 舞台は二つ目の直線という中盤付近の位置に差し掛かり、シダーは9番手として各々の駆け引きを静観しながら終盤の仕掛けどきを待つ。

 

『先頭からシンガリまでは8バ身から9バ身という差でありますが、先頭はここでジーシーアーメンに代わっています。ジーシーアーメンが先頭で、ラッキーモーニング2番手。3番手外を通りましてすーっと上がっていこうというところは、無敗の帝王と言われます、ルドルフが期待を寄せるウマ娘、トウカイテイオーです!』

 

 沸き立ってきた歓声を気にも留めず走行を続ける。後ろでひとり離れた7番を除けば、すなわちシダーから先頭まではおよそ6バ身といったところだろうか。そろそろ詰めに動かなければ、とこのレースの記憶を回転させ、このあと大差負けを喫することになる9番の後退を見送ってから仕掛けよう、と自身と決め事をしたシダーの瞳に第3コーナーが映った。

 

『第3コーナーにこれから差し掛かります! 10人がほとんど一団です。ほとんど一団になっています! しかし、わずかにジーシーアーメンが先頭を取っています』

 

(うわ、こんなの抜ききれるのかよ……いや、やるしかないよなっ!)

 

 鮨詰めの様相を呈する前方に若干躊躇したものの、目の前で記憶と相違なく失速を始めた9番を予定通り見送ると外へ飛び出す。

 

『内の方を通りまして10番のスヤマエンペラーが着けまして、その外の方からトウカイテイオーが早くも前に、早くも前に取り付いていきました! 前に、もう既にトップに並んでいこうというところであります!』

 

 わずかに見える先頭集団を見れば、もうテイオーは首位浮上に王手をかけているらしい。独走はさせられない、と加速を続けるシダー。だが、ひとりふたりと追い抜く度に内側に見える他のウマ娘たちが視界から消えていくのを見届けながらも、されどテイオーの喉元には迫れまい、と本能で限界を感じ取り歯噛みした。

 

『一人遅れました、ヤマトボスホットがちょっと遅れています!』

 

 そのとき、ふと背後に意識をやってみれば既に一行に大差をつけられていた9番が目に入る。もう自身には関係のない事象であるそれにわざわざ目を向けたのは余裕からでも想定外だったからでもなく、自分の結末が凡走に行き着きそうと予感したゆえの現実逃避に近いものだった。

 

(くそ、こりゃ混ざれんか?)

 

 5バ身差の三番手が関の山か、と見切り目的の二人を出し抜く術に窮するシダーは内心でそう洩らす。

 

『さぁ3、4コーナーの中間を大きく過ぎました!』

 

 その一言から間もなく、一行は最終直線に差し掛かる。だがテイオーとモーニングのふたり以降を、見えない線が隔てたかのように差が開いてゆき、先頭二人のデットヒートを──いや、テイオーの蹂躙劇を演出した。置いてきぼりにされていったうちのひとりとなってしまったシダーは歯ぎしりを強めることしかできず、脳裏に焼き付いて離れてくれない愛馬の姿を幻視しながら目を伏せた。

 

 

 

 

「……貸セ」

 

 

 

 ふと、脳内にそんな声が響く。

 

「……んぁ?」

 

 競技の場に似合わぬ、間抜けな声を漏らすシダー。

 

 ──その後のことは、あまり覚えていない。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『400の標識を切って、最後の直線に入って参りました! 直線に入ってきた!』

 

 4枠4番、ラッキーモーニングは手応えを感じていた。

 

 初勝利以降、複勝圏内に入れず掲示板入りが関の山な低迷期に陥っていた彼女だが、二度目のトライアルとなる今回こそは満足いく成果を出そうと息巻いていた。

 

(やっぱり私にはここくらいが丁度いいっ!)

 

 ここ4レースは後方でのレース展開を試みていた彼女だったが、原点に立ち返る先行策を採ったところ好感触。現にラストスパートで好位置をキープできていた。

 

『トウカイテイオーが真ん中で先頭か! 内の方を通りましてラッキーモーニングでありましょうか!』

 

 外側からやってきたゼッケン4番は振り切れそうもなかったが、それでも十分だと内心ほくそ笑む。

 

(この1着はくれてやる、でも本番で笑うのは私だ!)

 

 勝利を欲して叫び逸る本能に言い聞かせるように、誰にも見えない虚勢を張る。これは負けではなく、次の勝ちの途中なのだと。

 

 ──しかし次の瞬間、彼女は異様な光景を目にする。

 

『外を通ってシダーブレード! ものすごい脚で上がってきた!?』

 

 妖気にも似た気迫を感じ取って振り返った先には、驚異のスピードで駆けるゼッケン6番の姿があった。

 

「なんだ、あれ……!」

 

 2番手の立ち位置が奪われようとしているのも忘れ、その形相に目を見張る。

 執念という言葉のみが表現に適切であるとすら言えたその表情は、まるで自分がウマ娘であることを忘れたかのような狂気を孕んでいた。

 

「くそっ! 覚悟や想いなんかで勝たれちゃ堪んないんだよ!」

 

 見れば潜在能力の解放だけで速力を賄っているような、出鱈目なそのフォームに反骨心を煮えたぎらせることで肉体の操縦権を取り戻したモーニングは懸命にテイオーを、いや6番を追う。彼女が何故このレースに命を燃やしているのかは知らない。だが今彼女を越せないことは、自分が今まで積み上げてきたもの全てを否定することに等しい──そんな強迫観念に突き動かされながら。

 

『上がってきたシダーブレード! しかしトウカイテイオー! トウカイテイオーが先頭に立って、最後の坂を駆け上がる!』

 

 200mの標識とともに差し掛かった上り坂に、悲鳴を上げる肉体に構わず前進を命ずるが、順位の浮上という結果に到底結びついてくれない。

 二人のどちらも坂の影響を何一つ受けていると思えぬ豪脚を見せていたからだった。だが──。

 

「……フン」

 

 6番の走りから、ふと迫力が消える──といっても減速は今の自分の全力と拮抗する程度までしか行われていなかったが──。持久力が持たなかったのか? いや、あんな眼ができるウマ娘がその程度で止まるはずもない。

 

『皐月賞に向けて! トウカイテイオーが先頭に立った! 先頭トウカイテイオー! やはり噂の豪脚だ!』

 

 何が何やら理解が及ばぬまま、今まさに先頭を脅かさんとしていた凶刃の減速によって、大事なく優位を手にしたテイオーに大勢が決まる。自分にとってこの場の最善は、3着以外なさそうだ。

 

『トウカイテイオー先着! そして2着にはシダーブレード!』

 

 結局、目の前の6番には半バ身差までしか詰め寄ることができないままレースは終わった。

 

『シダーの猛追も及ばず! クラシックの夢はテイオー以外には見られないというのでしょうか!?』

 

 レースは終わった。目標としていた2着以内には食い込むことができず、志すクラシック三冠に向けて急ブレーキをかけてしまう結果となったわけだが、今はそれを悔やんでいられる場合ではなかった。

 元凶となった6番の方を見やれば、こちらに構う様子もなく、1着でレースを終えて観客に手を振っていたテイオーを見つめていた。

 

「ククク……見エタゾ、テイオー……!!」

 

 くつくつと嗤う彼女に震え目を背ける。なにが、とは聞かずとも知れた。彼女は、いや奴はテイオーの息の根を止めること以外考えていないのだ──。

 

「……っは?」

 

 呑まれたまま次に彼女を見たときには、面影の一切が残らぬ平常通りの顔つきに戻っていた。

 

「ぐ、あがぁ……うっ!!」

 

 豹変に戸惑っている間もなく、彼女は突如頭を抑え片膝をついた。苦悶に晒されているようで、脂汗がうっすらと吹き出ている。

 

「だ、大丈夫……ですか?」

 

 たどたどしく口走った言葉は彼女の聴覚を捉えたらしく、気だるげな顔をゆっくりとこちらに向けてくれた。そこに先ほどまでの妄執はやはり窺えない。

 

「え、ええ……目まいが、ちょっと……」

 

 弱々しく応えるその様子にもはや不気味さのほか感じ取れなかったモーニングはそれ以上首を突っ込むことをやめた。

 

(なんだっていうんだよ……)

 

 禁忌をただ一人覗いてしまったこの体験を噛み砕くことはまだできていないが、はっきりとした事実がある。

 

 

 

 

 

 

 ──この世代は、奴とテイオーがぶつかるための舞台だ。




いかがでしたでしょうか。次話もごゆるりとお待ちください。

4/30 20:48追記
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