本作でも度々登場するアニメオリジナルウマ娘・リオナタールはCVが同じ青山女史なんですね。共演しないだろうか。
『シダーブレードは現在14番手から15番手で向正面入っていきます!』
迫る2度目の直線。これを最内枠の1番を風除けにしながら迎えたシダーは、周囲の変化にアンテナを張りながら走行を続けていた。
『さあ先頭から見ていきましょう! 先頭は9番のツインターボ、少し離れて6番ネクストゥミー、そして5番のネオホーリースカイ、アウトコースを通りまして大外枠のナントウミスト、その後ろから15番のヨイデボイジャー、さらに3番のリオサプレス、そして7番アゲインリサイタルであります』
隊列は後ろにある程度固まる形に収まった。そしていま読み上げられたウマ娘たちが、その固まりより前にいる面々だ。
『その後ろでありますが、4番のステクホウジョウがいます。さらに11番リオナタールはこの位置! さらにもうひとり13番のヨイデシーズン、1番のヨイデスパルタ! その外目に着けまして16番ブレスシークラウドであります!』
そしてバ群となった後方組が途中までアナウンスされたところで、第3コーナーを迎える。この後呼ばれなかったメンバーの中に自分がいる訳だが、今に至るまで自分の記憶の中のダービーと、さほど違った点はなかった。
(おかしい、大逃げが出ているんだ、もう少し混乱したって──)
体感ペースも劇的に早くなっているようには思えない、そう。あまりにも展開に乱れがない、とシダーが気付いた、いや気付いてしまったのはここにきてだった。
『3コーナーの坂、各ウマ娘、18人の優駿が駆け上がって3コーナーから4コーナーへ向かいます! 内をついておりますシダーブレードは後方2番手──おっとどうした!?』
わずかに空いていたイン目掛けて、シダーは加速を試みる。直線の距離が長い東京レース場では無謀と言えるロングスパートだったが、その判断を下したのは、内ラチ越しにターボの表情を見たからだった。
(なぜ……あんなにも笑っていた?)
青葉賞で見た彼女は、このコーナーの地点で既に苦しそうな顔をしていたはずだ。GIの高揚感ゆえか? 知らない間にそれだけのスタミナを手にしていたゆえか?
いずれも正解である、と思えなかったシダーの脳裏には、あるレースが頭によぎっていた。
それは後にGI馬らを撫で切りにした、1993年オールカマーの幻惑逃げ戦法。
何と言うことはない、彼女は将来採っていたはずの策を、今この場に前倒しで使っていたのだ。
(無茶だ、中山とは訳が違うんだぞ)
そう歯噛みしながらも、脚を使うのはやめなかった。捉えるならもうスパートを開始するしかない、とした上での判断だが、内のある声がわずかに脚を鈍らせていた。
──テイオーからダービーを奪って、まだ何か望むのか?
それは皐月賞で聞いた声ではない。自分の負い目から来る弱音に等しい何かだ。
はるか遠くにたなびくツインテールが、絞った視界の中でただひとつ鮮烈に輝いていた。
「……っ!」
視界の隅にいたルームメイトが、わずかにこちらへ振り向いたのが見えたが、至極どうでもよかった。
『第4コーナーを回った! シダーブレード内から仕掛ける! リオナタールも上がった!』
最終コーナーを抜けた一行は、ついに直線へと脚を踏み入れる。
『大逃げ宣言・ツインターボも頑張っている!』
距離にして新潟レース場に次ぐ2番手であるそこは、彼女にとってのウイニングロードでないと思われていたことだろう。しかし、今に限ってはこの個性派ウマ娘の術中の内だった。
「んぎぎぎ……3つ目ぇ……ト・リ・プ・ル・ターボだぁぁぁっっ!!」
高低差2mの坂も何のその、と気迫で駆け上がるターボの咆哮に、スタンドのボルテージも最高潮へ達する。
「ぐぅぅっ……!」
なんとか中位まで浮上したシダーだったが、脚は肉体的にも精神的にもギアが上がりきってくれない。
もともと8位で終えるレースなのだ、無理のある異常ではなかった。しかし、内なる声──皐月賞以来聞こえなかった声が、再び内に膨れ上がってきていた。
『貸セ……』
ブチブチ、と筋繊維だろう何かが千切れる音と共に、視界がモノクロへ変化する。
一瞬顔を伏せた彼女は、水平に等しいほどの前傾姿勢へと切り替えると幽鬼のごとく先頭を追う。
『内からシダーブレードが飛んでくる! リオナタールも来ている!』
揃ってバ群から抜け出していたらしいナタールと共に、まだ遠い先頭へひた走る。
しかし彼がいないその頂に座そうとしている者は、本来ここに立つこともない存在らしい。
興味を惹かれていない、と言えば嘘になる。なぜなら──。
『見セロ……ソノ面ヲヲヲォォッッ!!』
自身が成せなかった待望を果たそうとしている様を、覗こうというのだから。
『シダーブレード! ツインターボ! シダーブレード! ツインターボ!』
3バ身、2バ身と詰めていく自分と先頭に、デットヒートの様相を見たゆえのアナウンスが響き渡る。
追い抜かしたのかそうでないのかはシダーには分からなかったが、ターボの表情をようやく目の当たりにしたのは、ゴール板がすぐ隣まで来たところだった。
『──ソレガ、ワタシトノ差カ』
それは自嘲か、冷笑か。
虚しげにはにかむシダーが見たのは、とびきり無邪気に泣き笑うターボの横顔だった。
『並ぶのか!? シダーブレード、ツインターボ、ふたりもつれてゴールイン!』
横一線となってゴール板を駆け抜けたチームメイトらを、ただ見届ける南坂たち。青葉賞で見せた意地の粘り腰に賭けた策が、ものの見事にハマってくれたのだ。
「勝ちましたね」
「……うん」
メガネを押し上げながら口にするイクノに頷いたネイチャは、垣間見たシダーの表情を見て内心喝采を上げた。
間もなく着順を点灯した掲示板の頂上には、ターボの9番が鎮座していた。
『なんと全開ターボエンジン逃げ切った! 去年のアイネスフウジンに続く、逃げウマ娘のダービー制覇です!』
声高らかに勝者を讃えたアナウンスに、歓声が沸き立つ。
「ありがとう、ターボ……あの子に、見せつけてくれて」
倒れ伏した勝者へ向け、そう溢すネイチャ。
しかし、ひとつ頬を叩いた彼女は、客席を後にせんとターフへ背を向けた。
「……ネイチャさん?」
どこへ行くのか、と声をかけてきた南坂へ、振り向くとネイチャはこう応えた。
「控え室、ひとりくらい居てやんなきゃでしょ?」
ウイナーズサークルは任せた、と言外に告げつつ、彼女は去っていった。
「……次は、アタシの番」
秋の一冠と、そこに懸けた約束を──すでに見据えながら。
ある講堂にて、プレスが詰めかける中で宣言を行わんとしているウマ娘がいた。
「……今日は集まってくれてありがとう」
マイクを手に謝辞を切り出したのは、今年の皐月賞を獲った俊英・トウカイテイオー。
全治半年を言い渡された故障ゆえに、先日のダービーを欠場するほかなかったこの天才は、松葉杖を傍に置きながらも力強い瞳を携えていた。
そして間もなく本題に入った彼女の言葉に、記者一同は仰天することになる。
「秋の菊花賞……ボクは絶対出る」
おお、と上がったどよめきを意に介さず、片腕を杖に身を乗り出した彼女は、続けてこう宣言した。
「絶っ対に倒すよ、シダーも……ダービーウマ娘・ツインターボも」
皐月賞で覇を競った名刃と、衝撃のダービー勝者の名を続けて口にしたテイオー。
だから、と息を吸い込んだ彼女は、マイクにあらん限りの声量でこう叫んだ。
「ボクと勝負だあぁぁぁっっ!!」
ご愛読感謝します。
ぱかライブ楽しみだなー。