理想とは斜め上に行くものである   作:J・イトー

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オリジナルチーム捏造アリ。また、あるチームについて独自解釈が含まれております。


敬遠と長考のチーム調査戦線

「ナタール、チームはどうするの?」

 

 ある日、トレセン学園内のカフェテリアにて、シダーはリオナタールと向かい合い昼食ついでに話していた。

 

「あぁ……私はリギルに入ろうかと。マルゼン先輩もいらっしゃいますし」

 

 そう言いながらおかずを口に放り込むと同時に白米をかき込むナタール。

 

 リギルといえば、このトレセン学園内では最強候補筆頭のチームだ。マルゼンスキーの他にも『皇帝』シンボリルドルフが所属しており、前にチームメンバーリストを眺めたことがあったが、ナリタブライアン、タイキシャトル、テイエムオペラオーなど後の名馬たちの名もあり卒倒しかけたのはいい思い出である。

 

「あの入部テストやってるところかぁ……。自分はまだ決めてなくてさ……シービーさんと同じところ、っていうのもいいんだけどなんかこう、違うっていうか」

 

「そうですか」

 

 白米を咀嚼し終えて飲み込んだらしいナタールは、返事をするや否やスープに手を伸ばす。

 

(食うの早っ……)

 

 会話を障害とせずに、こちらの倍以上のスピードでトレーから料理を消していくのだ。ナタールの食いっぷりに、シダーは内心驚愕していた。

 

「ぷはっ。ごちそ……うーん、もう少しはいけるか……? ごめんなさい、シダー。私はおかわりしてきます」

 

「え、ええ」

 

 トレーを持って厨房に向かうナタール。

 この体になってからいくらかは食事量も増えたと思っていたが、元来人間であった自分と純粋種は違うらしい。

 

(……さて、ホントにどうしようか)

 

 離れていくナタールから視線を外し、周りの壁に無数に存在しているポスターたちを見やる。

 

 非常口のマークを模したものや、誰かの姿が描かれたものであったりデザインは様々だ。

 しかしこれだけではどうとも言えない──地面から足が生えているポスターのチームは即座にブラックリスト行きとなったが──のは事実であった。

 

(ま、とりあえずどこでもいいから見て回るかな)

 

 放課後の予定を未来の自分に投げ、料理を次々口に運び始めたシダー。

 

 途中、常識外れの量の料理を持ち運ぶ謎の芦毛ウマ娘を発見して思わずむせてしまったことによりナタールに大いに心配されることになるのだが、まだ本人にとっては知るよしもなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 放課後。チームに身を置く生徒たちにとってはトレーニングの時間。

 シダーはあるチームの練習場に見学に来ていた。

 

「サンゲン、マークの意識が薄いぞ! 何やってんの!」

 

「はい!」

 

 複数人で本物のレースさながらの実戦形式で走るウマ娘たちと、僅かな修正点を見極め叱責を飛ばすトレーナー。

 着実に成果を伸ばしつつある中堅チームと聞いていたが、その評価に留まらない洗練されたものであると言えた。

 

「ほら見てくれ。あそこの……後ろから2番目の娘。メジロブライトと言うんだが」

 

 案内役のウマ娘(普段はトレーナーの補佐をしているらしい)に促されて見てみると、走っているウマ娘たちの中には、名門として知られるメジロ家の一員『メジロブライト』の姿があった。

 確か20世紀末に活躍した競走馬の名前だっただろうか。

 

「彼女はマイペース故に揺さぶりが通じない娘でね。シンガリが追い立てても気にも留めていないだろう?」

 

 確かに表情に焦りなどは伺えず、走るテンポが変わっているようにも見えない。終盤までの消費を抑えに抑えることがモットーである追込としては、完璧と呼べた。

 

「君が追い掛ける三冠ウマ娘も、同じ後方での作戦を採るのだろう? 感じるものがあれば幸いなのだが」

 

「ふむ、そうですね。あの人(シービー)は全部ひっくるめて楽しんでマイペースに持っていく感じですが……そういうマイペースもありますか」

 

 そしてこうやってシダーが思考している内にも、トレーナーは次々と指導の言葉を下していく。各々が固有の勝負服を着るG1ならまだしも、学園指定のジャージを着ているのだからこうも密集すると判別が難しくなりそうなものだが、それをもろともしていない辺り優れたトレーナーであることは見当がついた。

 

「しかし、いいチームですね。自分も入ってみたいものです」

 

 案内役のチームメンバーに、思わずそう溢した。すると彼女はニヒルな笑みを浮かべ口を開く。

 

「いつでも入れるさ。私たちの誰かを、後ろから差せばいい」

 

「え」

 

 言葉をまんま捉えた脳が一瞬停止したものの、すぐに『加入出来るだけの才能を示せ』という暗喩であると理解し、安堵と納得が入り交じった失笑がこぼれた。

 

「覚えておきます」

 

「チームに入るからには上が阿保でも信じて戦うもの……だがその点私たちは運がいい。直属のトレーナーには、恵まれているからね」

 

 その言葉にはトレーナーに対する信頼が伺えた。

 

「やっばりそういうチームが勝つものなんですかね……」

 

 優秀なトレーナー、切磋琢磨するレベルの高い仲間たち。結局それが強いチームの条件なのだろう、と結論を下していた頃、相手はそれに待ったをかけた。

 

「否定はしないが、レースはそんなに簡単では無いよ。逆に、それだけ満たせば勝てるならレースはここまで発展していない」

 

「あー、まぁ確かに……」

 

 諭されてようやく、己の短慮を恥じた。競馬だって設備が良かったから、金があったから勝てたとかいう訳じゃあるまい。最強の条件など無いのである。

 

「私もかつてはメジロの名を背負い戦っていたものだが……」

 

「そうだったんですか?」

 

 独り言のように呟かれた言葉に、思わず聞き返してしまった。

 

「ん? あぁ、君が知らないくらいには派手に暴れられなかったからね、忘れてくれていい」

 

「……左様で」

 

「だが、ダービーを走ったときのことは今でも覚えているよ。あの一等星……で伝わるかな? あいつが先頭を突っ走るのをただ見ているしかなかったあの時、色々と気付いたのさ」

 

「はあ」

 

 ダービーを勝った、一等星の名前といえばシリウスシンボリだろうか。

 この世界に来てからのレースはそれなりに見てはいたが、その世代のクラシックについて元々疎かったシダーは生返事を返すしかなかった。

 

「レースに出れば、ベテランもルーキーも、名門も寒門も、金持ちも貧乏人も平等。誰もが勝つか、負けるかのラインに立っている……そして私はあいつと境遇こそ近かったろうが、負けた。それは勝ちへの執念の違いからだろう、と思うんだ」

 

「……つまり、本気で戦えってことですよね」

 

「まあね」

 

 ふむ、とシダーは「本気で戦うための条件」を考え込み出した。

 すると不意に控えめな手刀が打ち込まれる。

 

「いてっ」

 

「……あまり余計な事は考えるな。もっとシンプルに生きたまえ。インスピレーションに頼ることも大事だ」

 

「……はい」

 

 図星を衝かれ、内心を見透かされていたことへの恥ずかしさを感じた。

 

「……まあ説法はこれくらいにしておこう。君の食指がこのチームに動いてくれることを祈っているよ。それじゃ」

 

 満足したら適当に引き上げてくれ、とも言い添えながら、彼女は練習場に足を踏み入れていった。

 

「インスピレーション……直感、か」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「──それで、まだ目星をつけられていない、と」

 

 関心のあったチームをあらかた訪問したあと、トレーニングを終えて辺りをふらついていたらしいミスターシービーと偶然にも遭遇し、そのまま帰路を共にすることになったシダー。

 

 チームリストを開きウンウンと唸る。候補や除外対象に印が付けられたその表だが、候補が膨れ上がるあまり絞り込みを阻害している始末だ。

 

(他の所を見るにしてももう遅いよなぁ……)

 

 空は夕焼けに染まり、タイムリミットを雄弁に物語っていた。

 

「綺麗だね、この夕日」

 

「え、あ、はい、そうですね」

 

 こちらの悩みにはお構い無し──知った上でやっているのかもしれないが──なシービーのペースに巻き込まれつつ、練習場に重なる夕日を見やる。

 社交辞令の感覚で返事をしていたものの、よく見れば確かに美しい光景であった。

 

「……これは中々」

 

 輝く場所を選ばない橙色の球体は、学園を背景に美しく煌めいている。

 

「おや、あれは」

 

 気付くと興味の対象を手近な練習場に移していたシービー。それにつられるようにシダーが首を振ると目に入ったのは、昼間と比べて活気が乏しくなったコースを走るジャージ姿のウマ娘と、グレーのスーツを着た男性であった。

 

(練習しているのは誰だ? 一人だけか?)

 

 夕方という致命的に遅い訳でもない時間帯で、チームを指揮するトレーナーが立ち会っているのにトレーニングに参加しているのが一人だけとは珍しい。少なくてもあと2、3人は居そうなものだが。

 そしてウマ娘の方が誰か、という疑問についてはすぐに解消されることになる。

 

「ネイチャじゃないか」

 

「ネイチャ? もしかしてそのー……ナイスネイチャ……さんのことですかね」

 

 覚えのある固有名詞の断片に、思わず聞き返す。

 トウカイテイオーと同期にして、有馬記念3年連続3着という忘れ難い記録を残した名馬の名だ。シダーのお気に入りの競争馬と同じく、息の長い活動をしていたことでも知られる。

 

「ビンゴだ、クラスメイトだったかな?」

 

 言葉を受けて、シービーは親指を立てて正解を示した。

 

「いや、違います。別のクラスですね」

 

 まるで知っているかのような口ぶりで返答をしたものの、実際彼女の名はこの世界で聞いたことはないし、会ったことすらもなかった。

 数日前の上級生との交流会で同じ場にいた可能性はなくもなかったが、名前の見当もつかないウマ娘の顔を一人一人覚えていられるほど、シダーの記憶力はオープンではない。

 

「そうか。いやー、ルドルフが昨日「ようやくジョークが通じたぞ」と喜んでいたからね。覚えちゃった」

 

「へえ」

 

 ジョークとはなんぞや。会長にそんな趣味があったのか、と気にならない訳ではなかったが、それほど重要であるとも思えなかったので、ネイチャと巡り合う遠因になってくれたことに感謝だけしてチームリストを漁る。

 

(あ、無いわ)

 

 印を付けていない部分を重点的に探すも見つからなかったので、学園から配信されている連絡用のアプリからトレーナーのリストを漁ってみることにした。

 配られればそれまでのプリントと違い、常時更新されるため、情報の鮮度はこちらの方に分がある。

 

(あった、チーム名はカノープスでメンバーはナイスネイチャ一人だけ、か……)

 

 少々格闘した末に見つけ出したチーム概要によると、このチームは前任者の引退による引き継ぎがあった直後らしく、メンバーの少なさはその辺りに起因しているのだろうと思えた。

 

「へえ、カノープスって言うのかい、そのチーム」

 

 すると、シービーがスマホの画面を覗き込んできてそう言った。

 

「ええ、そのようです」

 

「いい響きだ。今がどうだかは知らないが、旋風を巻き起こしてくれそうだよ」

 

 シービーは気まぐれながらも、その実力や直感は本物だ。その彼女が言うのだから、ナイスネイチャはこの世界でも爪痕を残してくれるに違いない、とシダーの中の何かしらが確信に変わる。

 

「君も入ってみればどうかな? 崖っぷちからの下克上、これほど楽しいサクセスストーリーはなかなか無いよ」

 

「うーん……まあ前向きに考えておきます」

 

 悩みながらも、シダーは無難にはぐらかす。

 即決はしかねるが、面白味のある選択肢であることは確かだった。

 テイオー世代の最前線を往く者を特等席で拝める場は貴重だからだ。

 

 そして明日の放課後の行き道にこの練習場を加えたのは、それからすぐ後のことであった。




アンケートに答えてくれたり、お気に入り登録してくれた皆様に格別の感謝を。

一部アニメモブウマ娘の名義変更について

  • 不可
  • どっちでもいいので早く投稿して
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