理想とは斜め上に行くものである   作:J・イトー

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本編前のカノープスがどんなのだったかなんて知らないので都合よく過去、実績が捏造されてます。

途中サイドチェンジあり。


新たなる出会いとカノープス調査戦線

「入部テスト落ちました」

 

「なにやってんの」

 

 カフェテリアにて顔を合わせ、開口一番にナタールが告げた。

 

 表向きにはいっそ精々しているような顔をしているが、重たいスープをグビグビと飲み干して行くあたり相当ストレスに感じているらしい。

 彼女の敬愛するマルゼンスキーとの共闘戦線が崩されたのだから、当然といえば当然なのだろうが。

 

「業腹ですが、違うチームで頑張るしかありませんね」

 

 喋る度に不機嫌さが増していく声色と共に、昨日よりも早いスピードでどんぶりの中身を平らげていくナタールに呆然としてしまう。

 

「ぷはぁ。……では私はおかわりに行ってきますから」

 

 シダーが何か口に出すより早く、完食したナタールは厨房の方へ去っていった。

 

(怖っ……)

 

 静かなる怒りほど恐ろしいものは少ない、と肌で感じながらナタールを見つめていると、昨日にはなかったポスターが目に入った。

 

 ヘタウマなウマ娘の絵──おそらくナイスネイチャだ──と共に『集まれ輝く個性!! 目指せG1制覇!』と銘打たれた手書き感あふれるポスター。そう、カノープスのものである。

 

(う~ん……)

 

 内心、ほぼ気持ちは固まっていた。もともとレースに対する情熱のベクトルがズレているシダーにとって、実績や人数の多少は問題ではない。ただし入る理由が「ナイスネイチャがいるからです」では話にならないのだ。

 これからネイチャが残す爪痕を知っているのはこの世界では自分のみだろうし、さりとてネイチャと親交がある訳でもない。

 適当な理由をでっち上げるのは簡単だが、「他のチームでもよい」と訝しがられるのはむず痒いし、「弱小チームを強豪に導いてやりたい」とビッグマウスを叩くのはシダーの心臓が持たない。

 

(ああぁぁあ……何かこう、ないだろうか、マイナーチームに所属しても責められない理由は……)

 

 ウンウン悩む毎にドツボにはまってしまう。

 

 その後、最初の倍の量をおかわりしてきたナタールが戻るまで料理をほったらかしにしていたシダーは、文字通り冷や飯を喰うことになったという。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 放課後。チームに所属するウマ娘たちにとってはトレーニングの時間。

 以前シービーと共に訪れたときより時間帯が早かったためか、練習コースにはさまざまなチームや見物に来た新入生で賑わっていた。

 

「あ、いた」

 

 コースでトレーニングをしていたのはおよそ4組いたが、お目当ての二人組はすぐ見つかった。顔を覚えていたのもそうだが、それ以前に野次ウマが全くいなかったため逆に目立っていたのである。

 

 そのチームは昨日のような貸し切り状態ではないためか、コースにミニハードルを設置して使用面積の少ないトレーニングを行っている。

 

(……やべ、この後どうしよう)

 

 しかし見に行った後のことを考えていなかったシダーは、外ラチに着いたところで頭が真っ白になってしまった。

 このまま観察していようか。だが紛れる人混みもなく他人のトレーニングを無心で見ていられるほど、彼女の神経は図太くない。

 走るところを見るならまだしも、ミニハードルをひたすら越えていくところを見ていても得られる気付きは少ないだろう。

 

 だがここで帰ってもそれはそれで気まずいので、何かないだろうかと直立不動のまま見守っていると、横に気配を感じた。

 

 ゆっくり首を振ると視界に飛び込んできたのは、きちんと栗毛の髪を整えていて、いかにもな丸眼鏡を付けていて、まるで生真面目という性質のど真ん中といった出で立ちのウマ娘だ。

 

「……貴方も、このチームに興味がお有りで?」

 

「ええ。先輩に勧められまして」

 

 幸運にも向こうから話しかけてくれたので応じる。先輩というのは、もちろんミスターシービーのことだ。

 

「先輩に……ですか。私が言えたことではありませんが、目の付け所が変わったお方ですね」

 

「……まあ、そうですね」

 

 内心苦笑しながらも、間もなく同じ疑問が湧いて出てきたのでぶつけてみることにした。

 

「そちらはなぜこのチームの見学に?」

 

「トレーナーに興味があったからです」

 

「トレーナー? あの人ですか?」

 

 相手の答えに、昨日と変わらないグレーのスーツを着込む男性を指差してまた訊いた。こう見えて面食いなのだろうか、と阿保な考えがよぎるがそんなはずもない。

 

「レースに勝つために必要なものについて、貴方はどうお考えですか?」

 

 すると返ってきたのは10人に聞けば10通りあるような、答えのない問いであった。

 

 難しい質問だ。それでもあえて言うならば、レースに関わるものすべて、と答えたかったが、一点に絞らなければ不和を招きそうとなんとなく感じ取ったため却下した。

 

「え、うーん……圧倒的なスピード、ではないでしょうか」

 

 若干言い淀んだ後に口にしたのは、実に陳腐な回答であった。我ながら、ありきたりすぎて今からでもやり直したいくらいだ。

 

「……私は圧倒的なレース経験こそ肝要と考えています。極限状態におけるスパート、相手のウマ娘たちの本気の削り合い──これらすべての練習では到底賄えないものを一挙に得ることができる実戦の場こそが、厳しいレースを制すためのマスターキーに違いないからです」

 

 相手の持っていた答えは知的な外見に似合わず、叩き上げを至上とする主義から来ているものであった。

 

「以前のこのチームは、あまりGIに顔を出すチームではありませんでした。その分GIIIやオープン戦など、実績は質より量で稼いでいくスタイルでしたから」

 

 競馬シミュレーションゲームに長く興じていると感覚が麻痺しがちだが、GIに出ることは本来困難なことである。

 そのため、キャリアを通しての主戦場がGIIIクラスであることはよくある例といえた。

 

「だからこそ、私はそこに目をつけたのです」

 

 質より量を是とし、過密気味なローテーションこそ、経験値を欲する彼女にとっては好ましいもの、というのだ。故にその後継となる件のトレーナーに関心を抱いていたということらしい。

 

「なるほど。その流れを汲む存在があの人だったということですか」

 

「その通りです。そのために……いやその果てにGIにて勝利を掴むために、永く走るためのノウハウを頭に叩き込んできたくらいですから」

 

 確かな自信に裏打ちされたその言葉には、夢への想いの程が窺えた。

 

「なんというか、自分とは大違いですね」

 

「そうでしょうか。この世に真の意味で同じ動機など、そもそも存在しないと愚考しておりますが」

 

「……まあ、はい」

 

 ベクトルが予想の斜め上へ向いた返答に少々呆気にとられるシダー。すると相手はふと何かを思い出したように表情筋を動かし、間もなく言葉を接いできた。

 

「……おっと、初対面の相手に、名乗るのを忘れておりました」

 

 相手はこの会話、というより二人の間の親密度をひとつ前に進めようとしているらしかった。

 恐らく同じチームに所属するだろう相手の名だ。聞くなら早い方が良いだろう、とほんの少し耳に神経を集中させるシダーだったが、すぐに驚愕することになる。

 

「私は──イクノディクタスと申します」

 

 ほう、と思わず洩らす。シダーの知る名前だったからだ。

 

 生涯で50を超えるレースに出走し、その間一切故障離脱の無いまま引退した、鋼鉄の如き頑丈さで知られる名馬。

 

 シダーが前世で遊んでいたゲームにも顔を出しており、始めたてで試行錯誤していた時期に牝馬限定のGIの勝者となっているのを何回か見たことがあった。

 

「……なるほど。私はシダーブレードと申します。以後お見知りおきを」

 

 名乗りながらも、思わぬ出会いにLANE──前世にもあったチャットアプリの代替だ──の連絡先の交換を申し出るか迷ったが、勇み足すぎると却下し、それ以降の会話はなかった。

 

(それにしてもクセの強いチームになりそうだな、ココ)

 

 ナイスネイチャとそのトレーナーに視線を戻しながら内心、自分はとんでもないところに目を付けてしまったのかもしれないと苦笑するのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ではお二人とも、本日のトレーニングの内容と位置を記したものです。お受け取りを」

 

 チームカノープスが保有する部室にて。

 このチームを率いるトレーナー・南坂とそのメンバーたちの活動が始まろうとしていた。

 最近まではナイスネイチャ一人だけだったものの、イクノディクタスというウマ娘が新たに加入し、今現在メンバーは二人だ。

 

「はいはーい。今日はコレね……ん? まあなるほど」

 

「……まあ妥当かと」

 

 クリップボードから引き抜かれたプリントを受け取った二人のリアクションに、南坂は頬を掻く。

 

 中等部の新入生という身体的特徴に加え、自身がスカウト業務の本格化によってしばらく面倒を見きれない、という理由も合わさり、今日のメニューはかなり軽めだ。

 チームに所属してから初の練習参加となるイクノはともかく、出会って数日とはいえ実質専属の指導を受けていたネイチャははっきりと違和感を覚えたようだった。

 

「……不躾ながら、私はこれからメンバー集めに精を出す必要がありまして」

 

 言ってしまえば、半ば解散に等しい状態で引き継ぎを行うことになった弊害だ。

 そのあたりの事情を知っているネイチャのま、そーよねと両手を広げる仕草に肩をすくめた。

 

(あまり悠長にはしていられませんし……)

 

 再建への船出は、今のところ及第点といえるだろう。だが先行きはまだ不透明だ。

 

 初めて自らスカウトしたナイスネイチャはともかく、イクノディクタスの加入は前体制チームの実績に依るところが大きい。

 

 この幸運にすがって誰も集まらなければ話にならないし、となればチャンスは自ら引き寄せなければならない。

 

 財政面の問題から、以前行っていた食券プレゼントやハワイ合宿の口説き文句は封じられているが、それは諦める理由にはならないのだ。

 

「一段落したらそちらに向かいますので、それまではお二人のみで練習を……」

 

 手製ゆえに精度にばらつきのあるポスターの束を手にし、部室の出口に向かおうとしたその時、ノックの音が響く。

 間もなくドアノブを捻る音と共に扉が開き、一人のウマ娘が入ってきた。

 

「失礼します。ここはチームカノープスの部室で違いないでしょうか」

 

 入ってきたときと反対のドアノブに手を添えて扉を閉め切るや否や、そのウマ娘は問うてきた。

 

 呆気にとられていた南坂だったが、ネイチャが背中を軽く小突いたことにより意識を取り戻しすぐさま言葉を発する。

 

「はい。なにか御用でしょうか」

 

 肯定の返事を聞いて安堵した様子のそのウマ娘は、やがて自身を奮い立たせるように大きく頷き、それからこちらを見た。

 

「私はシダーブレードと申します! 継承間もないながらもGI制覇を目標とするその姿勢に感銘を受けました! 是非ともこのチームに加えて頂けないでしょうか!」

 

 緊張を必死にコントロールしているような声色で、希望を告げたシダーと名乗るウマ娘。

 

「おや、貴方でしたか」

 

 南坂が返答に窮していた数拍の間に、イクノが立ち上がって近づいてきた。

 

「あ、イクノさん! すでにいらしたんですね」

 

 どうやら見知った間柄らしい二人に、南坂は一度入部の件を後回しにして聞いてみることにした。

 

「えっと……お二人は知り合い同士、なのでしょうか」

 

「……このチームの見学をしていた際に少々語らいました。関係性については現在のところ、他人以上知り合い未満といったところです」

 

 明け透けに語るイクノに南坂が、ついでにシダーも苦笑したところで会話は次の段階に進んだ。

 

「……それで、私の入部は? あ、それともテストがあるということでしょうか?」

 

「ああ、ええと」

 

 来る者を拒んでいる暇はないこのチームだ。テストなどあろうはずがない。

 

「ささ、お待ちかねの新メンバーよ! 行ってきなさいっ!」

 

「は、はい!」

 

 ネイチャにやや強い力で背中を押され、慌ててシダーを連れて手続きに向かう。

 

 

 

 そしてこれが、自らを時代に巻き起こる旋風へ導く出会いとなることを、まだ南坂は知らない。




カノープスルートを選ぶと、スピカ勢と違ってずだ袋での拉致をさせる訳にもいかないので加入までの道筋を真面目に無理くり作るしかなかったのがキツかったです。

一部アニメモブウマ娘の名義変更について

  • 不可
  • どっちでもいいので早く投稿して
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