転生したら、女傭兵二人に迫られてる件について 作:門番A
紅花みたいに一気に書こうか悩んだのですが、蒼月はとても長くなるため一話一話の印象が薄れてしまうと思い、長くはなりましたがこのルートに関しては一つのエピソードを流して一気に進めるのではなく、一話一話をしっかり描写する方針に決めました。
気ままに書き散らす私ではありますが、どうかお付き合い頂けると幸いです。
決して私がイングリット推しなのとは関係ないです本当です多分。
――ふと、目を覚ます。
目頭が重い。少しばかり長く寝すぎてしまったようだった。
天井は見覚えのある模様。ルミール村の民家で、世話になっている最中だと理解する。
「……」
長い夢を、見ていたような気がする。
とても長く苦しくて、けれども確かに光はあったと思えるような悲しい夢を。
「……ん」
ふと人の気配を感じてみると、ベレス先生が立っていた。
いつもは伺えない筈の表情がどこか酷く懐かし気に見える。古い写真を見ているようだった。
「ウィル……」
「珍しいな、ベレスが先に起きているなんて」
「…………」
そっと服を掴まれる。
どこか、いつもと様子が違う。何と言うか細かい事を気にしない彼女にはして、不安を隠せない顔。
何かあったのだろうか。
「今度は、どこにも行かないで」
「……? 分かっているけど」
話がうまくかみ合わない。
彼女も悪い夢でも、見たのだろうか。
「おう二人とも起きてたか、そいつは良かった。
出立だ、出るぞ。――ん、ウィルお前何か変わったか?」
「? そんな事は無いと思うけど」
「……まあそうだよな。変な話しちまってすまん」
ベレス先生もジェラルトもどうしたんだろう。
……ってここ、遭遇戦イベントだったか。ならまずは戦いを乗り切らねば。
戦いは瞬く間に終わった。槍を使い、盗賊を蹴散らした。
こう見えてもジェラルト傭兵団の一員なのだ。そこそこの腕が無ければ務まらない。
流れるように大修道院へ向かい、あっという間にベレス先生が学級を選ぶ場面となりつつあった。無論、俺が口を挟む暇はほぼ無い。
「青獅子の学級を」
「分かりました、ディミトリが級長を務める学級ですね」
「そして彼を青獅子の学級の生徒で」
え、俺選択権なしですか。
いやまぁ、ベレス先生が行く学級なら着いていくけど。
何より死にたくないし。
あれよあれよと言う間に、どんどん話が進んでいく。
――実際、話の目的はジェラルトとレア様、そして教員となるベレス先生なのだから。俺の優先度はそりゃ下がる事だろう。
「……おいウィル、少し話が長くなりそうだから先に顔合わせでもしてきたらどうだ」
ジェラルドの言葉に頷く。何かベレス先生も、今度の課題の事とか話し込んでるから結構長くなりそうだこれ。
部屋を出る直前に頭を下げて、記憶任せの勘で青獅子の学級を目指す。
「確か、真ん中あたりにあったよな……」
見えた見えた。青がトレードマークの旗。入ると鉄や木材の香りが漂う。埃っぽさは無く、気品を感じるソレはまるで王族が使う一品のようだ。
ディミトリを中心に、生徒達が何か話している。
「ふむ、貴方だけか?」
「ベレス先生は後から。話が長くなりそうだから、俺だけ先に挨拶って感じです」
級長のディミトリに軽く会釈する。王族相手に不敬だと言われかねないと、した後で気づいた。その時はその時だ。
「――おい、猪。この傭兵、は」
「……ああ、面影がある。俺とて初めて会った時は動揺を隠せなかった」
ディミトリと初めて会った時か。珍しく彼が表情を崩す一面が見られたと思ったのだ。
けれど、学級生達の一部はそれと同じ眼をしている。
「マジかよ、生きてたのか……」
「待て、彼には記憶がない。あれこれ一度に聞いても、負担になるだけだ」
ディミトリは一歩前に出て、俺を見る。
身長高いなぁ……俺が僅かに見上げる感じだ。
「改めて、青獅子の学級へようこそウィル。俺達は貴方を歓迎しよう。
――そしてどうか、記憶を取り戻す助力をさせて欲しい」
「……心当たりが?」
「あぁ。貴方は……俺達のかつての友にどこか似ているんだ。こう、言葉では具体的に難しいが。
でも、心の何処かで貴方がその友であると確信している」
……随分直球に踏み込んできたな、と思った。
俺の過去が無いのは確かだ。けれど、それらを俺に言う必要は無い。やろうと思えば、彼らだけで意見も交えられた筈。
だからこれは、彼らなりの誠意なのだろう。
会ったばかりの人物に向けるには、余りにも眩しすぎるけど。
「もし、俺が。その友で無かった時は」
「新たな友人となるだけだ。突き放したりなどするものか。俺達が勝手に思い込み勝手に落ち込んだとでも思ってくれ」
「……ええと、こういう時なんて返事するべきか分からないですけど。
こちらこそ、よろしくお願いします」
なんだかちょっと気恥ずかしくて。
少し目を逸らした。
「よし、ならば訓練所に行こう。既に予約はとってある」
「殿下、お怪我だけはされぬようお願いします」
「待て、猪。俺が先だ」
「フェリクス、たまには俺に譲ってくれてもいいんじゃないか」
「とりあえず、自己紹介は皆で向かいながらでいいかな……」
「怪我しないようにね。アタシとメーチェがいるから手当はしてあげる」
「あらあらあら、皆元気ね~」
ワイワイと、進む皆と共に訓練所への道を往く。
ふと、誰かが袖を摘まんでいる事に気付いた。
振り返ると、長い金髪の少女が一人。確か、彼女は――。
「貴方、は」
鈍い頭痛と眩暈が走る。
走馬灯のように脳裏を駆けるは血と死体。
「あの……大丈夫ですか?」
「ああ、うん大丈夫。貴方は」
「イングリットと申します。……私を、覚えていますか」
重く何かが響いて、さらに頭痛が酷くなった。
覚えているような、そうでないような。けれど、忘れてはならないような過ちをしてしまったかのような。
「いえ、変な事を聞いてすみません。……私も、記憶を取り戻す手伝いをさせて貰いますので、どうか」
――悲しげな横顔が、酷く瞼の裏に焼き付いた。
訓練所は日差しが差しており、充分な明るさがある。
まだここぞとばかりに通う生徒はいないらしく、青獅子の学級の貸し切り状態でもあった。
「さあ、武器を取れ。刃を交えれば分かる事もあるだろう」
フェリクスが持っているのは、訓練用の剣。
多分俺も剣を選ぶのが普通なんだろうけど、どうしてか。彼らの前に剣を以て立ちたくは無かった。
手にしたのは、一本の訓練用の槍。刃であろう部分は石突のようになっていて、白布で覆われている。何度か掌で回すようにして感覚を確かめる。
ジェラルトからの教えは何とか活かせそうだったのは幸い。
お願いします、と言おうとして見ると。フェリクスは小さく息を吐いていた。
「そういう所も、酷く似ているな……。いや、すまん忘れろ。ただの独り言だ」
「ええ、そういう事に」
審判役のドゥドゥーが手を下ろすと同時に、フェリクスが先手を取ってくる。
振り下ろされる上段。棒を回転させ、弾くとその反動を利用しての横薙ぎ。受け流すようにして、その連撃も逸らす。
早くて正確かつ、力も相応。けれど対応出来ぬ相手では無かった。
ただ怪我させる訳にも行かない。何せ今日は入学初日。変な噂とて立てたくないのである。
打ち合いにして十分程。確かにフェリクスは強い。そこらの盗賊なら一蹴してしまう程の腕前である。
けれどこちらとて、ジェラルト傭兵団の技を習っているのだ。負ける理由などある筈もない。
「そこまでだ。それ以上は手傷となる」
ドゥドゥーの言葉に得物を下ろす。
身体の緊張をほぐすように小さく息を吐いた。
うおおお、と言わんばかりに人が集う。
「凄いね、ウィル。フェリクスと互角に打ち合うなんて!」
「綺麗な槍捌きでしたね! それでいて型に捕らわれない自由な動き……凄かった!」
アネットとアッシュを先頭に。青獅子の生徒達が次々と集まってくる。
マジか、自分でそんなつもり無いのに。傍から見るとそれ程か。
「皆、そこまでだ。まだ入学初日だぞ、ウィルが困るだろう。――すまなかったな」
「大丈夫です、寧ろ受け入れて貰えて有難いと言うか何と言うか……」
引かれてたらどうしようとは、ちょっと思ってました。
「さあ、ウィル。運動の後は腹ごしらえ。つまりは食堂だ。ここの料理は
……あれ、ディミトリって確か味覚が……。いや、まあそんな事今はいいか。
また彼らと話しながら、食堂へ向かう。
中はまだ人こそそんなにいないが、授業が始まれば本格的に生徒達で溢れるのだろう。
「ウィル君は、味の好みとかあるのかしら~」
「えーと……ブルゼンとかキジのローストとかですかね。何て言いますか、舌に合うって言うかそっちの方が好みと言いますか。
どうにも、高級食材とかは口に合わなくて」
高ければ美味い、なんて人によるのである。
ブルゼンは焼き菓子だが、ジェラルト曰く俺が言う事を聞かない時はブルゼンを上げると効果があったらしい。単純すぎないか。
「あらあら、ファーガスは貴方にとって故郷の味だったりして」
「……?」
「ブルゼンは王国名物の焼き菓子なんだ、傭兵にも人気があったなんて知らなかったよ」
「そうなのか……。確かにファーガス方面の仕事の時結構貰ってたっけ」
――もしかすると、ディミトリ達の予感は当たっているのかもしれない。
俺は彼らと共に幼少期を過ごした。
ならばどうして俺はそれを覚えておらず。傭兵として拾われる事になったのか。
きっとそれらと向き合う道になる。
培った予感が、そう告げていた。
「あの……ウィル。良かったら、私も同じ物を頼んでも良いでしょうか……?」
「同じ物って言うか、食べたい物を皆が頼む方が……」
「私が、そうしたいのです。ただ貴方が、その、気になるかな……と」
「イングリットはアンタと同じ物を食べたい、だってさウィル」
「シルヴァン……!」
皆で食卓を囲み、ファーガスの話を聞く日となった。
……何だが、とても大事な事を忘れているような……。
その夜、与えられた部屋に戻ると内部には不機嫌な女性が一人。
「……」
「……すみませんでした」
あの後戻ってくるだろうと思い、与えられた部屋で俺を待ち続けていたベレス先生。けど俺は戻る事無く、日が暮れるまで生徒達と話していたから彼女一人待ちぼうけとなる羽目になった。
「何だか、楽しそうだったと聞いた」
「……うん、まあ」
ベレス先生と生徒達があいさつした時、イングリット凄く複雑な目をしてたよなぁ……。
いや、うん彼女目が醒める程の美人だからそんな反応になるのも分からなくない。
部屋に持ち込んだ傭兵時代の荷物を解く。ベレス先生も手伝ってくれるそうだから、早めに終わりそうだ。
「…………私が、先だから」