転生したら、女傭兵二人に迫られてる件について 作:門番A
「こっちだと思うのよね。山超えたら近いし」
「方角違うと思うしそもそも何で、山を通る前提になるの……?」
『うん、それは僕も言いたかった』
シェズと共に大修道院への帰路に着いていたが、やはり彼女の無鉄砲さは結構ヤバイ。
山超えるわ、魔獣と出会うわ、何かはぐれ盗賊みたいのおるわ―ゲーヘェッヘェッと笑ってたから、念入りにシバき倒しといた―それだけで一つの課題みたいなレベルだった。
で……何かまた遠くから喧騒聞こえるんだけど何だこれ。
「……! 人の声ね、やっぱりこっちで会ってるわよ」
「シェズ、一人だと絶対野垂れ死ぬタイプでしょ」
『キミと彼、どっちも孤立したら死ぬと思うよ?』
見えるのは、訓練用の武器を持って戦う生徒達の姿。
あー、そうだ。今日そういえば学級対抗戦の日だったわ。
……え、もしかして戦場に迷い込んだ感じなのこれ。
「――前向きに行きましょう。全員倒して、一緒に帰ったら解決よ」
「脳筋思考やめない?」
確かに色々と苦労はある。でもどうしてか。
彼女と共にいる時間は、悪くないと思うのだ。
「鬼が出る?」
ゲッツの言葉を、シェズはそのまま返答にした。
次の依頼はある盗賊団の殲滅――根城は突き止め、強襲を仕掛ける事となった。その前日、作戦を各々で確認し合っている時、彼がそう呟いたのである。
「ああ、そうだ。何でも、化け物みたいに強いヤツが彷徨ってるらしくてな。最後にいたとされるのが、その近辺らしいぜ」
「何で、それが分かるのよ」
「鬼退治とやらを任された傭兵団が全員、一蹴されたとかだそうだ。相手が殺す気なら全滅していたとか言ってたぜ」
「あー、それ私も聞いた事ありますよ」
ゲッツだけならともかく、リザリまでが言うのなら間違いはないのだろう。
「鬼に会ったと思ったら、仏心に会ったって訳ね。……ホントかどうかはともかく興味はあるけど」
シェズとて傭兵であるが、時折手合わせもしたくなる一面もある。
ベルラン傭兵団は、皆が気のいい者ではあるが傭兵としてはそこまで強く名が知れてる訳ではない。
「お前ら、早く寝な! 明日は、忙しくなるぞ!」
ベルラン団長の声で噂話に興じていた者達は、蜘蛛の子を散らすように自分の寝床へ着く。
この傭兵団のいつもの光景だった。まるで酒場の一部分を切り取ったかのような空気は、ただただ心地よい。
――そうして翌日、件の盗賊団の根城へ向かった。
転がっていたのは、痛みに呻く盗賊達。
「なんだ、こりゃ……」
「あの噂は本当だったって事ですかね」
「とりあえずここの頭領を探しな」
ベルラン団長の指示に従い、盗賊達の捕縛を任せてこれをした人物の捜索に向かう。
シェズが向かったのは、根城の奥。かつては教会として使われていたであろう建物だった。三階は吹き抜けになっており、そこから村を一望できる。
見栄張りな頭は、こういった場所を好むものだと経験が告げていた。そしてそれを裏付けるかのように転がっている盗賊の数が多くなっていく。
「これ……もしかして一人でやったって事?」
倒れている盗賊達の各部位には、殴打されたような痕だけがあり斬撃や刺突と言った刃の類の傷は無い。同じ武器で攻撃されたとしか考えられなかった。
階段を奥まで上がっていくとテラスがあり、頭領らしき男が胸を潰されて転がっていた。見ただけで即死だと分かる。
その壁――部屋の奥の壁に背中を預けて誰かが座っていた。
「誰?」
夜明けの光が差し込んで、その人物を照らし出すも顔は輪郭程度しか見えない。
右手には多量の血が付いた鉄の棒、服や顔は返り血で塗れていて元の色をほとんど留めていないように見えた。
「……誰か、いるのか」
若い少年の声だった。
目には生気がなくまるで幽鬼のようで、果たせぬ想いを抱いて戦場に転がる戦士の骸の如く。
――そんな彼を見た時、酷く胸が掻き鳴らされるような感覚があった。彼が運命を共にする存在なのだと言わんばかりの感情だった。
「私はシェズ。ベルラン傭兵団の一人よ」
「傭兵……? 俺を、殺しに来たのか」
「だったら、とっくに斬りかかってるわよ。ほら、立てる?」
少年に手を差し伸べる。
彼は、それを見てから僅かに視線を背ける。まるで、眩しいと言わんばかりに。
それだけで彼がどのように生きてきたのかを、悟ってしまう。
「……貴方は」
「何?」
「貴方は……俺が恐ろしくないのか」
「……何が恐ろしいのか、分からないわ。寧ろ放っておけないって言うの? そんなカンジよ」
少年は、伸ばしかけた手を一度止めて。僅かな時の後にもう一度その手を掴んだ。
弱々しい子どものような力だった。
「さ、行きましょう。皆に貴方を紹介しなくちゃ」
彼の手を引いて階段を下りる。
言葉は無かったけれど、彼が困惑しているという事は分かった。けれど嫌がっている訳では無さそうだ。
「シェズー! 遅いぞー!」
「皆待ってますよー」
「……? 何だ、その少年。捕らわれてたのか」
待っていた傭兵団の面々に思わず、息が零れてしまう。
この何とも言えない空気が、シェズはとても心地良かった。
「逆よ逆。彼がここの片付けしてくれてたのよ」
「ホントかよ? ……って事はコイツが噂のヤツか!」
「噂……?」
「めちゃくちゃ強いヤツがいるって事。あんまり気にしなくていいわ」
「……そうか」
一瞬で彼は注目の的になる。血塗れだろうが何だろうが、傭兵にはなんて無い事だ。
この空気に慣れてないのか、少年は戸惑ったような反応をしていた。
「ところでアンタ、名前は?」
「名前……」
「なるほど、訳アリって事か。……じゃあそうだな、ウィルって名前はどうだ?」
「ウィル……」
「あ、団長抜け駆けずるいですよ!」
「うるさいね。言い出したモン、早いモン勝ちに決まってんだろう」
眼前で行われる些細な口論。けれど内容は肩の力が抜けてしまうモノばかりで。
――ほんの少しだけ、彼の口元が小さく笑んだ。
「何よ、ちゃんと出来るじゃない」
「……出来なかった訳じゃない」
このまま共に過ごしていけば、彼は本来の自分を取り戻していくだろう。
彼にとって、この傭兵団の空気は悪い物では無さそうなのは幸いだった。
「よっしゃ、お前ら! ウィルの歓迎会だ! さっさと戻って宴と行くぞ!」
「ウィル、傭兵やる上での俺の経験談教えてやるよ」
「ちょっと、ゲッツ。先輩風吹かせるのはいいですけど、傭兵は戦果が全てですからね」
「わ、分かってるって」
下らない事を話しながら帰り路を歩く。共に生きていなければ出来ない一時。
どうかこの場所が、彼の縁となりますように。
そんな彼との出会いを思い出しながら、眼前に迫る敵を斬る。無論、真剣ではなく訓練用の剣だ。
赤、青、黄と言ったそれぞれの兵が眼前に集いこちらを狙ってくる光景は中々に経験できないだろう。
背後を守ってくれる相棒の奮戦を感じながら、剣を握り直す。敵の中になだれ込み、瞬く間に蹴散らしていく様子は、夜を裂く暁風のよう。
『随分と余裕じゃないかシェズ』
「そりゃまあ。頼もしい相棒がいてくれるから、余裕もあるわよ」
脳内に聞こえる彼の声に、小さく返答する。
別に周りに聞こえるのは構わないが彼に聞こえて変人扱いされるのは嫌だった。そんな事されたら三日三晩寝込む自信がある。
『確かに、彼はとても強い。キミと二人がかりなら灰色の悪魔を倒せるんじゃないか?』
「その前に彼とどういう関係なのか根掘り葉掘り問いただしてからだけど。あの反応を見るからに他人ってワケじゃなさそうだし」
あの遭遇の後、関係を尋ねたが知らないとしか言わなかった。彼が器用な嘘をつける性格ではないのは知っていたが、収まりが悪い。何故か、あの女に彼の事で負けるのだけは嫌だった。
『相手が逃げていくね。ここは制圧したようだ』
辺りはどうやら制圧したらしい。敵だった生徒は本陣へ引き返していく。
「シェズ、まだ行く……?」
「ええ、勿論。誤解って事をちゃんと説明しなきゃ」
『誤解も何も、三学級を薙ぎ倒している時点で弁明のしようが無い気がするけどね』
「えぇ……」
ベルラン傭兵団はもう無いが、その時の思い出の一つ一つは確かにここにある。そしてそれを共に振り返る相手もいる。
思う所が無い訳では無いが、未練自体は無かった。
「さ、行くわよウィル。貴方の
「今、何か違ったニュアンスがあったような……」
『キミも苦労しているんだね、ウィル……』
“でもね、シェズ。彼を他人ではないと思うのは僕も一緒なんだよ。
彼には、キミと違った共同体のようなモノを感じるんだ”