転生したら、女傭兵二人に迫られてる件について 作:門番A
俺に過去の記憶はない。どこで生まれたのか、どうやって育ったのか、誰と共に生きたのか。
だけどずっと、心に残っている言葉はある。
“自分の意志は、自分の為に使いなさい”
今の俺を形作る言葉。今の俺を支えてくれる言葉。
それを教えてくれたのは誰だったのかは思い出せないけれど。
どこかで見たのかもしれない光景は残らなくとも、交えた言葉が響いている。だからきっと、とても大切な思い出があったのだ。
だから苦しくはない。寂しくはない。
ただ一つ苦しいと感じるのは、自分が何一つ知らぬ顔でいて大切な人が苦しんでいる事を知った時だ。
「ここまで。これ以上はさすがに怪我します」
「そうか……。もう少しぐらいできそうだと思ったんだが、お前がそういうなら止めにしよう」
ディミトリとの訓練を終える。
何でも俺の棒術から動きを盗みたいという事で、青獅子の学級の面々が見守る中での模擬戦となった。
にしても本当に強いなぁ、ディミトリ。
「手合わせ、感謝する。学級戦の時も思ったが、想像以上だ。本当の戦場で出会いたくないな」
「こちらこそ貴重な機会です。殿下と直々に手合わせ出来るなど」
「よせ、礼を言うのはこちらの方だ」
やっぱり骨の髄から王様だよ、彼。立ち振る舞いや考え方がもう為政者のソレだもん。
エガちゃんやクロードもそうなんだけど、個人的にはディミトリが頭一つ抜けてる気がする。
狂気に駆られなければ、真面目に理想の王だと思う。
「……ところで、一つ尋ねたいんだがいいか?」
「大丈夫ですけど……何か?」
もしかして、失礼な言動とか振る舞いしてしまってたのだろうか。
やば……後でジェラルトさんに相談しよう。
「――どこかで、会った事ないか? どうにも、お前の姿に既視感があってな……」
「既視感、ですか。生憎、過去の記憶がないもので……」
俺が覚えているのは、森の中を彷徨っていた事。そこから盗賊の拠点を襲撃し、明日を生きる食い扶持を繋いでいた事。そしてベルラン傭兵団に拾われた事。
後は精々、前世の記憶ぐらい。……いや、よく生きてんなコイツ本当に。
「そう、か……。すまないな、昔の友を思い出した」
「友、ですか」
そんな人物居たっけか……。
「おい、猪。そこまでにしておけ」
「……そうだな、すまなかったウィル」
「大丈夫です。それよりも昼食行きます? 王国の話とか結構聞きたかったんですよ」
「ああ、その話で良ければいくらでも」
そういう裏事情と言うか裏設定、めちゃくちゃ気になるのよ。
ディミトリの脳裏に過ぎるのはかつての記憶。
シルヴァンの兄であるマイクランが、一人の少年を拾ってきた所からだった。
『領内を彷徨っててよ、放っておくわけにも行かねぇだろ』
ボロボロの布切れを身に付けた、幼い少年であった。紋章は見えず、捨て子か何かであったのだろう。
彼はフラルダリウス家に引き取られた。しかし兵士として鍛えるのではなく、彼の気持ちが落ち着き行く先が定まるまでの期間であった。
寡黙でありあまり喋らず、けれど人に無関心では無かった。盗賊の征伐が近づけば武器の整備を行い、民の収穫が近づけば屋敷を抜け出し共に手伝っていた。
その様子にとある兵士は聞いたが、彼は首をかしげるだけで返事はせず。もしかすると彼の過去に関係があると勘ぐる者もいた。
そんな彼の行く末が定まったのは、ある日の事。
グレンとロドリグ、ランベールと言った面々が剣の稽古をしており、それを幼きディミトリ達は眺めるのが好きであった。
珍しく、彼は顔を出しており共に訓練を眺めていた。
そして訓練の合間、兵士達が訓練用の槍を組み交わしている時にソレは起こった。
『まずい……! そこから離れなさい!』
弾かれた槍が手元から弾け、ディミトリ達の下へ飛来していく。
訓練用の槍とは言え、充分に重たい物は子どもへ直撃すれば命まで危うい程。
『――』
少年が、彼らの前へ入り訓練用の槍を両手で止めたのである。
無論、衝撃を殺すために槍を手に取った後は掌で一回転させていた。
まるで放たれた矢を、素手で掴んで止める様なモノ。その芸当に思わず彼らは舌を巻き、幼き者達には眩い光景となった。
――それから、先王ランベールは彼に槍術を教え込もうとしたり、グレンは彼に剣術の手ほどきをした。
ロドリグは彼の力にどこか疑問を感じていたからこそ、ある言葉を彼に送った。
『自分の意志は、自分の為に使いなさい。』
どうかこの先、数多の道を前にして迷わないように。
悪意の中に落とされたとしても、見失わないように。
意思を挫く試練の最中でも、決して折れないように。
『――はい、その言葉は忘れません』
彼が珍しくそう返事をして、ロドリグは安堵した。
それから、しばらくして。
グレンと共に護衛として選ばれた彼は、ダスカーの地へ先王と共に赴き――襲撃者と刺し違える形で亡くなったと聞いた。
ディミトリはその一報を、重傷を負いながらも王国へ戻った先王ランベールから聞き、ロドリグはそれを同じく傷を負ったグレンから聞いた。
それから数日後、彼らはその時の傷が原因で亡くなった。
“まさか、な”
ディミトリはウィルを見る。
少なくとも記憶の中の彼は、無表情であったし言葉数もかなり少なかった。けれど、ウィルはよく笑いよく話す。
だからこの感覚は、生きていて欲しいと願っていた自分の幻想だろう。
でも似ていたのだ。手合わせの時に感じたモノ。体捌きや得物の使い方も。
「……? どうかしました」
「いや、何でもない。……ウィル」
「はい?」
「もし今の課題が終わったら、どこかで王国に来てくれないか。お前と共に見たいと思った光景があるんだ」
故人を勝手に人と重ねるのは愚かだと思う。
だが言葉にせずにはいられなかった。
「――ええ、時期があればいつか」
もし彼と共に王国を見たのなら、もしかすると――。