転生したら、女傭兵二人に迫られてる件について 作:門番A
森林近くまで撤退した。尚も追撃は続いている。
迫るは獣と人を合成させたような生き物。その魔獣の一撃を振り払う。勢いまでは殺せず、大きく背後へ吹き飛ばされた。
間髪入れず着地する地点へ魔術が放たれる。身を翻し、棒を蹴り飛ばして魔術にぶつけ相殺する。
“何が目的だ、コイツら一体どこまで……!”
共に防衛を行っていたクロードは、途中で狙いが自分にあると気づいたため、俺から援軍を頼み囮となった。思っていた通り、相手はクロードへ一切の兵を向けていない。
故に敵を倒す事に専念する。集中する。
既に打ち倒した相手の数は五十を超えてからは数えていない。
敵の数は衰える事を知らず。とうとう魔獣まで放り込んできた。
「……あぁ、畜生ッ!」
投入される魔獣の本能に敵味方の区別はないらしく。相手の味方であるはずの魔導士や剣士達は皆、この巨体に轢き潰されていく。
コイツがいる限り、こちらの増援にも死人が出る可能性が高い。故にここで仕留める必要があった。棒術では魔獣に致命的な一撃は与えられない。
腕しか残っていない死体から、剣を剥ぎ取る。べったりと、血糊の感触がこびり付いた。
酷い戦いだ。こんなの、虐殺に近い。
それも俺一人を狙えばいいと言うのに、相手は巻き添えすら迷っていない。
「何でもアリかよ……!」
俺と言う人物にそこまでの犠牲を払う理由が欠片も分からない。
振り下ろされる魔獣の腕を躱し、懐まで一気に飛び込んで――心臓があるであろう所を突き刺した。
さらに剣の柄を膝で蹴り上げて、奥へ抉る。そして最後に拳を叩き込むと完全に剣は貫通し、魔獣は動きをようやく止めた。
「――」
息を整える。血液に毒物が混じっていたのか、それを吸っただけで、僅かに体が痺れる。
「ほう、かつては神祖を昏睡させた毒を受けて尚も立つか。やはり贄としては素晴らしい」
「誰、だ……?」
転移してきた一人の男――着ている服や雰囲気から幹部である事が伺える。
あれは、司書の声とは一致しない。
「知る必要は無い。その記憶すらも、今から糧となるのだから」
男が手を翳す。
――途端、本能が死を察知し咄嗟に体を捻った。
先ほどまで体が合った所を黒の荊が貫いている。
「躱すか、良い。それも想定内よ」
視界外から迫る黒炎。それは回避不可能。全身に力を入れて、防御の体勢に入る。
けれど、それらは俺の四肢と頸を絡めとるだけに終わった。
「さあ、ザラスの禁呪よ。もう一度役目を果たす時だ。その顎を開き、炉への炎を灯すがよい」
「――ウィル!」
「来たか、だが遅い。最早止められん」
クロードが矢を放つ。男は視線を向けるまでも無く手を翳して、それを防ぐ。反対外からディミトリが突進し、槍の一撃を見舞うも男は転移してそれを回避する。そこから放たれる魔術を、エーデルガルトが斧の一撃で消し飛ばした。
「まあ良い、既に針は動き出した。あの傀儡が動き出すまで、後少しよ」
男は瞬きの間に姿を消す。
シェズとベレス先生は俺を見るや否や躊躇う事無く突っ込んできた。
「こんなの、一体どうすれば……!」
「離れ、て……!」
炎が首に食い込んで上手くしゃべれない。
体が闇に沈む。二人をせめて外へ投げようと力を入れるけど全く言う事を聞いてくれず思うように動かない。
「大丈夫、まだ諦めない」
「何、を」
ベレス先生の言葉を飲み込む前に、俺の意識は闇に沈んだ。
「――ここ、は」
気が付くと、暗い空の下にいた。
刺すような冷気。いるだけで凍えるのではないかと思う程に、この世界は冷え切っていた。
「……ウィル!」
見覚えのある声に振り返る。
ベレス先生とシェズ、級長の三人がそこにいた。彼らも飲まれていたのか。
「無事だったのね……! さすがに肝を冷やしたわよ……」
「怪我ならしてないから、大丈夫」
いや、本当に紙一重だったけれど。
でも今頭の中を占めているのは、今いる世界の話だ。
これは確か、ザラスの――。
「そうじゃ、ここはザラスの禁呪。何もかもを凍り付かせる闇の中。そのさらに深淵」
「ああ、ここは閉ざされた世界。冷えた炉、贄の行く末、旅の終わりだ」
「うぉっ」
緑の髪の少女と、白髪の中性的な人物――神祖ソティスなのは分かったけどもう一人は誰だ……?
「ラルヴァ!?」
「やあ、こうして会うのは初めましてだねウィル。シェズが世話になったよ」
「あっ、は初めまして……」
「――紹介は済んだか? わらわは神祖ソティス。主と姿を合わせるのは、初めてかのぅ」
「ソティス……?」
え、ナニコレ。
何で二人いるの? 何でソティスさんおるん?
「し、神祖ソティス……? 本物、なの……?」
「驚いたな……。幻覚……ではなさそうだ」
「……こりゃ、また。アイツらに言っても信じて貰えないな」
ラルヴァと呼ばれた少年は奥を指さす。
なだらかな坂。その奥は闇の霧が立ち込めていて、よく見えない。
「ウィル、キミが目指すべきは先。この世界の頂だ。そこまで行けば、ここから出る術がある」
なら迷ってる暇はないな。
ここはあんまり長居出来る場所じゃ無かった筈。早くいかないと。
と、歩き出そうとした途端誰かに服の裾を掴まれた。
振り返って、思わず思考が止まってしまう。
「ウィル……?」
「ど、どうしたんですか」
ベレス先生が、酷く泣きそうな顔をして俺を見ていた。
彼女の指先は弱々しく、けれど離さないように。
「……本当に、行くの?」
「今は手がかりもないですから」
この先に何が待ち受けているのか分からないけれど。
闇に蠢く者が俺を狙った理由があると言うのなら、それは知っておきたかった。あの惨劇を見てしまった者として、責任は果たさないと。
「……分かっ、た」
その指先が離れる。
俺を見るその瞳は、まるで迷い子のようだった。
霧を歩く。敵は全く出てこず。本当にただ歩いているだけ。ソティスとラルヴァがエーデルガルトやディミトリ、クロードと話をしているのを横目に聞きながら進んでいく。
やがて見えてきたのは、一つの石碑とそれを囲うようにして林立する複数の柱。
「着いたね、まずはここが一つ目。ウィル、一応聞いておくよ。真実を背負う覚悟はあるかい?」
ラルヴァの瞳は真剣そのもの。挨拶の時に会ったような軽い雰囲気は無かった。
まだ出会って時間は経ってないけれど、シェズを見守り続けてくれていた事から、俺はこの人物に信頼を置いていた。
故にそれは、俺の心を案じての質問と言う事が分かった。
「――ああ、俺は過去が無い。だから理由を知りたい。
自分が誰で、どうしてこの世界に生まれたのか。自分が何をするべきなのか」
「……そうか。なら、まずは事実を告げておこう。キミにとっては残酷な現実だ」
「……教えてくれ」
ラルヴァは、小さく目を閉じて。そうして俺の秘密を口にした。
「キミの体は、英雄の遺産を模倣し超越するために作られた生贄だ。キミの肉体から英雄の遺産のレプリカが生まれ、キミの記憶と精神を以てしてそのレプリカは本物に比類する」
息が止まる。
どうして自分が武器の扱いに優れ、相手の動きが思い通りになるのか分かった気がした。
「そしてここ、ザラスの禁呪は英雄の遺産が生まれた場所。言わば、炉なんだ。彼らの目的はキミに経験を積ませ、最後にその体を確保し強力な武器に錬成する事」
思考が停止する。
どうして闇に蠢く者があれだけの犠牲を出しながら俺を狙ってきたのかがはっきりした。
「……」
「――待ってくれラルヴァ。何故、英雄の遺産が肉体を使用する事に繋がる? 金属ではダメなのか」
ディミトリの疑問は尤もだ。
武器と肉体を使用する事が未だに繋がらない。そこが結びつかない以上、はっきりしない。
「簡単な事よ。英雄の遺産と言うのはわしらの眷属の体を元に作られた武器であるからじゃ」
「嘘……」
「な……!」
「マジかよ……」
絶句するしかないだろう。英雄の遺産の真実は、誰にも語られていない。
それこそ知るのは闇に蠢く者ぐらいだ。
「あやつらはその時に僅かな肉体を遺し、それを素体として人体を作り上げた。
それがお主じゃ、ウィル。故にその肉体は英雄の遺産となりうるに十分な素養を持っておる」
思考がやっと動き出す。
まずは肉体、そしてもう一つは精神と記憶と告げていた。
つまり俺には――。
「俺には、忘れている過去があって。ここはそれを思い出す場所?」
「そうだ。その石碑に触れるといい。それでキミは過去を思い出す筈だ」
右手をそっと握りしめて、石碑を見る。
ずっと疑問だった。何でベレス先生が俺にあれほどの感情をぶつけてくるのか。出会ったばかりの人物に向けるには余りにも不自然なモノ。
その答えが、この先にある。
「……」
決意を胸にして、その石碑にそっと触れた。
見えたのは、紅色の花と黒い鷺。――そうして、眠っている女性を起こそうとしている自分の姿だった。
ウィルが石碑に触れた瞬間、彼の姿が闇に包まれる。
彼が記憶を振り返っているのだろう。
「……ねぇ、ベレス。貴方もしかして知ってたの? ウィルの事」
「……多少は」
嘘だ、とシェズは見抜いた。彼女がどういう人物なのか、大まかではあるが分かっている。
そしてウィルの真実を告げられた時も、彼女はそこまで動揺を出さなかった。
「あんまり深くは聞かないわ。でも、せめて一緒に抱えさせて」
「……ありがとう」
瞬間、ウィルを包んでいた霧の一部が離れて、人の形を作っていく。
「構えよ、来るぞ。あやつの記憶から無作為に選ばれた試練じゃ」
武器を構える。それと同時に霧が晴れて、一人の復讐鬼が姿を現した。
ベレスは覚えている。かつては彼と戦い、そして共に戦った事もある。――この世界では、きっと至らぬ道にいるであろう彼の末路。
「アレは……俺、か?」
「――殺し尽くしてやる……!」