インフィニット・ストラトス・アライズ-Dominater of Battlefield-   作:天津毬

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コロナの陽性者対応施設への応援と腰痛でくたばってましたアマツです。

なんとなく初めてしまった今作ですが、ゴーレム戦まで来ちゃいました。
今後も生暖かく見守って頂けると幸いです。

では第8話、どうぞ。






#08 Unknown Rader(所属不明襲撃者)

 

────1週間後。

4月15日

日本帝国長崎県五島市浜町

男女群島・国連直轄領トキオ自治区・セントラル区

IS学園・第2アリーナ

 

────クラス別トーナメント当日。

アリーナの観客席にいる1年1組の面々。

他クラスの人もアリーナを囲むように対戦表や試合が始まるのが今か今かと待っている。

人がいるだけで熱気に包まれ少し熱く、盛り上がりを見せている。

 

「どの人が優勝するか賭けた?」

 

「やっぱ織斑君でしょ。専用機持ち出し」

 

「私は大穴で3組のクラス代表に賭けた」

 

そういった話が持ち上がっている。

どうやらレートでは一夏と鈴が上位らしい。

そうこうしているうちに、その主役が登場する。

一夏と鈴がピットから飛び上がり、それと同時に歓喜の声がアリーナを包み込んだ。

 

 

白式を静止させて深呼吸────一夏は、眼前のあずき色の重量逆関節型ハイエンド・コンペディションIS【BAEs-HK-3《甲龍》】を見据えていた。

 

『フーン。大人気じゃない、一夏。』

 

面白く無さそうに鈴は言う。

 

「………。」

 

一夏に、応える余裕は無い。

1週間で叩き込まれた3人分の軌道パターン────それを忘れない様にするためだけに必死で。

…だから眼前の鈴の声など届いていなかった。

────それが、鈴は気に入らなかったらしい。

 

『へぇ…、謝りに来なかった上に無視するんだ。あたしを。』

 

良い度胸してんじゃない────と、鈴の怒りのボルテージが上がって行く。

一夏の名誉の為に注釈すると、彼自身は謝りに行っている。

それも何度も────しかし鈴がその都度面会謝絶と言わんばかりに部屋の鍵を閉めて拒絶していたのだ。

────よもや、扉をこじ開けて謝りに来て欲しい等、誰が思うだろうか。

当然一夏はその度に引き下がっている。

だから、鈴にとっては謝っていない扱いなのだ。

 

「いいわ────」

 

第一試合 織斑一夏VS凰鈴音

 

空中に投影パネルによるマッチが映る。

そして耳障りなブザーが鳴り────

 

「────血祭りに上げてやる。」

 

────醒めた、冷徹な声で言うと同時に、一夏に鈴が突貫した…!

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

 

────同時刻

IS学園・多目的防災署

同・地下6階第21格納庫

 

10機分のアライズが横一列に駐機可能な、それなりに広い格納庫。

機体の前方には自治区外縁に続いているであろうトンネル型滑走路が。

後方には、学園敷地内の地上に続いているであろうリニアエレベーターが設置されている。

本来は再構築戦争時にコロニア軍のIS用カタパルトとして建造された区画であり、おそらく10年前まではここからラファールリヴァイヴや打鉄が飛び上がっていたのだろう。

…だが、現在となってはもうその面影はない。

そこには、3機のアライズが駐機されており、うち2機は、ナガトと箒の機体────日方風と雷火だった。

 

「ふむ────やはりというか、押されてるな。織斑くん。」

 

『…ですね。』

 

機体のコックピットブロック内でナガトと箒が呟く。

中継映像には、一夏と鈴の対峙風景が映されていた。

一夏はセシリア戦同様にアローズミサイルによる遠距離戦から攻め入る。

だが、あっさりと瞬間的に展開された刃物で防がれる。

青竜刀のように曲線があるが、巨大な幅。

────まるで鯨包丁だ。

 

「BAEsホンコン・ディフェンス社のB-3双天牙月か。」

 

ナガトが呟くと同時に、それを片手に軽々と手に、重量エンジンに物を言わせた加速────一夏も瞬時に近接長刀に切り替える。

────太刀と鯨包丁の鍔迫り合う。

だがそれも一瞬。

さらにもう一振りの鯨包丁────双天牙月を展開し右横に切り払う。

一夏はそれで吹き飛ばされる。

何とか体勢を立て直そうとするが、鈴は瞬時に右腕装備を銃火器に換装────直後、その銃身が折れ曲がり、砲口が一夏を向く。

同時に、棘付きの砲身めいたユニットがスライド────中にプラズマを帯びた球体が光るのが見えて、そこから撃ち出された見えない砲撃が放たれ、更に右腕の銃火器からもグレネード弾が発射される。

砲撃をモロにくらった一夏は、後ろに吹き飛びアリーナの壁に後ろから叩きつけられる。

 

『今のはイスラエル製のカウンターキャノンでしょうか?』

 

カウンターキャノン────コーナーショットという、射撃手の体を完全に敵から隠しながら撃つという目的に特化した銃を起源とする兵器だ。

本来のコーナーショットの用途である、壁際から銃身前方を折り曲げて射撃する────その運用を落とし込み、敵に予測外の方角から砲撃する事に特化した兵器。

────それがカウンターキャノンである。

 

「ああ。そんでもって、不可視の砲弾は空間兵器────」

 

空間兵器。

空間自体に圧力をかけ、そこに砲身を生み出し溜まった衝撃を打ち出すというもの。

即ち、超巨大空気砲ともいうべき兵器である。

その源流は、風力砲というドイツ軍が試作した対空兵器まで遡る。

 

「────コンセプト自体は第2次世界大戦時からあったヤツだな。全部技術的観点から失敗しているが。」

 

当時は酸素と水素を混合した気体へ爆発により高圧を掛け、高圧の空気と水蒸気の塊をパイプを通して噴出させ、目標航空機に向けて吹き付けて撃墜しようとしたのだ。

しかし当然と言えば当然ながら何の成果も残せず失敗。

────だが、これはどうか。

PICによる空間圧縮を用いた空対空兵器としての運用。

不可視の砲弾として、敵に物理的衝撃やダメージを与えるにまで成長している。

…技術の進歩ってすげぇんだなとナガトは半ば感心する。

しかし中継映像内の一夏はそうもいかない。

立て続けに打ち出される衝撃砲に一夏は我武者羅に回避行動をとるしか出来ない。

何しろセシリアのレーザーと違って見えないのだ。死に物狂いで躱すしか出来ない。

狙いは少し外れているらしく、衝撃砲が観客席のシールドバリアまで振動させる。

 

『弾速はレーザーの比では無い。あとはパターンさえ掴めれば…!』

 

箒が通信越しに、祈るように呟く。

────箒の言う通り、救いがあるとすれば、弾速はセシリアのレーザーに比べるまでもなく遅い事。

だからこそ、パターンさえ掴めば対応できる筈だ。

だがそれを────鈴は許さないとばかりに、手に持っていた双天牙月を連結させデュアルソードとしてそれを投擲する。

ブーメランの如き回り一夏に向かって翔び、一夏はそれを回避し────そこをまた衝撃砲に撃たれてしまう。

誰であれ、目に見えないものより目に見えるものに意識が行くのは当然だ。

一夏は飛んでくる刃物に目が行ってしまい見えない砲台に気が回らなかったのだろう。

────そこを襲われた。

さらに衝撃で固まっていたところを後ろから返ってきた双天牙月に強襲される。

一夏は完全にペースを崩され、鈴が試合の主導権を掌握する。

故に試合は、一方的な展開となっていた。

────瞬間、中継映像が暗転する。

 

  【CH01 】

ーSIGNAL LOSTー

 

中継チャンネルを断線した事を意味する白文字が、黒の中に浮かんでいる。

 

『…?故障…、でしょうか?』

 

箒が問いかける。

そしてナガトは中継チャンネルを切り替えてみる。

 

  【CH02】

ーSIGNAL LOSTー

 

  【CH03】

ーSIGNAL LOSTー

 

  【CH04】

ーSIGNAL LOSTー

 

  【CH05】

ーSIGNAL LOSTー

 

    ・

    ・

    ・

 

…しかしどの中継チャンネルも繋がらない。

────まさか、と。ナガトの中で疑念が浮かぶ。

だから無線機を手に取って、

 

「────高木!」

 

────呼びかけた。

 

「────高木、聞こえるか?!」

 

『八雲か!システムエラーが多発してる!おそらく電子攻撃だ!』

 

それで疑念は確信に変わり、同時に格納庫内のサイレンが鳴り響く。

 

《────システムエラー多発、システムエラー多発。安全の為地下滑走路を封鎖します。》

 

機械音声と共に地下滑走路のゲートが閉じて行く。

本来タキオン粒子事故が発生した際に作動するべき緊急システムが、システムエラーにより誤作動している。

 

《学園だけじゃない、自治区内各所でも────》

 

高木の後ろからは、増大している警備課の無線交信内容が聴こえてくる。

それはつまり────

 

『────ナガト!』

 

同じ結論に至った箒が叫び、ナガトは歯を噛み潰す。

 

「ああ────始まりやがった…!」

 

────それはつまり、敵襲を意味するものだった。

 

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 

同区内・マストタワー

────同・トキオ区役所広域対応室

 

────灰色を基調とした部屋。

中央をU字型の木製長テーブルが穿っており、そこには理事会のメンバーが座している。

────その前面。

正面スクリーンに投影される────トキオ区の地図。

IS学園に隣接した、旧コロニア艦のマスト構造物だったタワーに置かれたそこも、混乱を極めていた。

 

「侵入者は!?企業のサーバーか?!」

 

「いえ、少なくとも国連管理SPC10!インド、中国、ロシア、アルジェ=フランス、中央アフリカからの侵入が確認できます!」

 

攻性防壁(ファイアウォール)第2層、処理能力限界値超過!第3層に侵入されました!!」

 

「逆探に成功、国連管理SPC13、企業SPC108、その他467件未特定────!」

 

────それは即ち、121基のスーパーコンピューターとそれに相当する467基によって学園と自治区がサイバー攻撃を受けているということだった。

 

「未特定とは何だ、再度確認しろ!」

 

「やってます────!」

 

その混乱の中に千冬も居た。

大規模な催しがある際、自治区にオブザーバーとして招かれるというものであり、通例に従って来た────その矢先に、この騒動に飲み込まれたのだ。

 

「────逆探に再度成功!467件の発信源は……ッ!?」

 

オペレーターの息を呑む声が響く。

その顔面は、あり得ないという表情で凍りついている。

 

「どうした?!」

 

指揮系統を無視して、千冬が問いかけた。

それで我に帰ったオペレーターは、震える声音で────

 

「ISコアネットワークからです…!!」

 

────最悪の事実を告げた。

ISコアネットワークとは、ISコアが形成するネットワーク網。

つまり────世界中のコア搭載型ISから同時多発的にハッキングされた事になる。

…否。

コアネットワークは全てのISを繋いでいる。

そして不測の事態にならないよう、コンペディションISは全て区役所と学園側で接続監視(モニタリング)している。

そして学園側は今回の催しを市街地に中継映像としてオンラインで流している。

つまりは、コアネットワーク内で自己増殖したウイルスプログラムが、学園内のISを介して一斉に自治区内全域に拡散した事になる。

────そして恐らくアリーナにいる生徒らも、一夏も鈴もこの事態に気付いていない…!

千冬は冷や汗が頬を伝うのを感じた。

次の瞬間────ブツンと、鈍く速い音を立てて、室内の証明とモニターが暗転(ブラックアウト)する。

突然のことに職員が悲鳴を上げる。

 

「停電?!」

 

「こんな時に…!」

 

誰かの驚愕の声と、忌々しく叫ぶ声が連鎖する。

直後────低圧ナトリウムランプの非常灯が点灯し、室内は薄暗い緋色に染まる。

────モニターと通信機は死んだままだ。

手にしていたケータイも圏外────おそらくは携帯電話中継基地局の電波塔も機能を停止したのだろう────。

直後、ジリリと床下から音が鳴り、職員が驚き飛び跳ねる。

千冬は、音源を辿り、床に貼られたタイルカーペットを剥がす。

そこには────《WARNING -EMERGENCY TELLPHONE-》と書かれた錆びが出始めたチタン製の蓋があった。

────音は、そこから鳴っていた。

それにマスターキーを捩じ込み、解錠するなり乱暴に開く。

────中には、1980年代ものと思われるダイヤル式の古びた非常電話が内蔵されていた。

 

「コロニア時代の電話線が生きていたのか…」

 

トキオ自治区はそもそも男女群島に座礁したコロニア艦の集合体である以上、非常用電話が壁や床下に埋め込まれていても何もおかしくは無い。

だが、10年以上も放置されていながら未だ使えるという事に驚きを隠せず一瞬目を見開き、千冬は受話器を手に取った。

 

「…もしもし。」

 

電話に出る。こんな時、この回線を知っている人間はおそらく、

 

『俺だ。千冬。』

 

やはり高木だった。

その声で、ひとまず学園(そちら)は無事なのだと安堵する。

だが、相手の声音は硬いものだった。

 

『────国連本部からA-616が出た。』

 

「616?」

 

聞きなれない言葉に疑問を浮かべる。

 

『IS学園およびトキオ自治区の特例による法的自治権の制限、及び行政指揮権の国連本部への分割委託────いわゆる恫喝さ。』

 

それは、本来平和維持の為に存在していた国連による侵略を意味していた。

…否。

IS学園およびトキオ自治区は現状国連の直轄領。

つまりこれは────国連内の内部粛正だ。

 

『────現在区内全域の通信交通管制システムや校内警備システム、ISコアネットワークがハッキングを受けている。一部区画は意図的な停電を引き起こしてハッキングを阻止。アナログで対応中だが…このままでは、乗っ取られるのも時間の問題だ。』

 

「…日本帝国政府への救援要請は?」

 

『やってる。だがここ(IS学園)は一番近い自衛隊基地から150km離れている。』

 

IS学園、延いてはトキオ自治区の所在する男女群島は東シナ海に浮かぶ群島だ。

本来は無人島であり、コロニア時代に築かれた五島列島を貫き九州本土に直結する西海大橋という超長距離巨大連絡橋が掛かっており、陸路でもアクセスは出来る。

しかし、仮にそこを時速80kmで飛ばしたとして、到着まで2時間は掛かる。

海路は九州本土との連絡船を担う高速艇があるが、こちらも片道3時間はかかる。

それはつまり、陸路や海路の部隊派遣は間に合わない────ということを意味していた。

 

「なんでもいい。とにかく無防備となった区内の安全を確保できる戦力を頼む。」

 

…今まで自力防衛に固執したツケか────と千冬は内心独りごちる。

トキオ自治区は再構築戦争で行き場を失ったコロニア艦の集合体であるという特性上、そこに住まう住民の反VIC6(六大国家)感情は根強い。

────故にトキオ自治区はISによる自主防衛を徹底していた。

…それに綻びが生まれたのは、VIC6(六大国家)以外にもアライズ保有国が生まれ、VIC6が事実上の新国連となり、学園や自治区のバックボーンたる国際連合が形骸化した事で財政難に陥ってから。

それでも防衛だけでも────と、VIC6の装備や人材を雇い、可能な限り自力防衛に努めていた。

────そこを、国際連合本部に突かれる形となった。

…そして恐らく、今回の電子戦攻撃(ハッキング)は、近年VIC6に傾倒しつつある自治区に対する示威行為なのだろう。

 

「…………ッ」

 

(────まだ、あの戦争の亡霊が居るとはな…!)

 

高木の電話を切りながら、千冬はギリ、と。

奥歯を噛み締めた。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

────同時刻

IS学園・多目的防災署

同・地下3階臨時仮設指揮所

 

合同庁舎地下に設けられた仮設指揮所────そこも現在、喧騒に満ちていた。

 

「現時刻より無線LAN一切封止。以降は有線でのみ区内通信を可能とする!」

 

千冬と電話していた非常用電話の受話器を置くなり、高木はフロア全体に響き渡る程の声で告げる。

眼前には警備部・教師部・事務部・整備科の各スタッフ────それらが、高木の怒号ひとつで事前の打ち合わせ通り、行動を開始した。

 

「無線LANは全部線抜いとけ!最悪叩き割っても構わん!!」

 

「デスクトップはウイルスで全部ダメ!ノーパソか予備端末を使って!!」

 

『こちら警備課第1戦術中隊、学園各所の警備を継続する。』

 

外部からのコンピュータウイルスを用いたサイバー攻撃。

それに抗う為の作業が、実施される。

結論から言えば────既存の(オンライン)通信網の完全廃棄を行いつつ、新規(アナログ)通信網を構築するという話だった。

 

『こちら事務課IT対策部!第1から第31通信回路の切断処理完了!』

 

『こちら整備科保守点検部第1班!主発電機に繋がる電源ケーブルは全て切断済み!独立補助発電機、稼働開始!』

 

『こちら整備科保守点検部第2班!現在、旧コロニア艦内配線トンネルを中心にLANケーブルおよび中継機コンセント群を敷設中。現在進捗率2%!』

 

『LANケーブルがまるで足りない!誰でも良い!予備のやつを持って来てくれ!!』

 

────そして傍らでは、今回の騒動の片棒を担いでしまったISコア搭載型コンベンションISへの作業が実施される。

 

「整備科機体整備部第2班はコンペートのコアを取り出しとくぞ!」

 

『作業アーム、電力不足で作動しません!』

 

「馬鹿野郎人力でやるんだよ!何のために工具持ってんだ!!」

 

「整備科機体整備部第1班はアライズの維持を最優先だ!この際コンペートは構うな!!」

 

飛び交う怒号と連絡の声────

 

『こちら整備科保守点検部第2班!当該管区の通信網仮設完了!現在進捗率5%!』

 

────作業は着実に進んでいた。

しかし、敵はそれを嘲笑う様に攻撃の手を更に強めていく…!

 

「帝国防衛省から入電────!」

 

ふと────相川という、日本帝国政府と状況のやりとりをしていた高木子飼いの警備部職員が叫んだ。

 

「大気圏外から突入してくる物体を観測!数は12!あと20秒でここ(自治区)に着弾します…!!」

 

それは、襲撃が次の段階に移行したことを意味していて────

 

「総員耐ショック────!」

 

高木が叫ぶと同時に、凄まじい衝撃がフロア全域を揺らした…!

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

────同時刻

IS学園・第2アリーナ

 

アリーナに衝撃が走った。

 

一夏は思わず振り向いて音の発生源を見る。

そこには見た事無い深い灰色をしたISが腕を上げながら立っていて────瞬間、ハイパーセンサーにロックオン警告が表示されたのだった。

 

「────は?」

 

一瞬、一夏はロックオンされた事の意味が分からなかったが、謎のISの腕部から放たれたビームがこちらに向かってきた事でハッとなり、その場から急降下して回避する。

 

『なんなのよ!コイツ────!』

 

想定外の乱入者に狼狽えたのか、鈴も叫ぶ。

両腕合わせて計四発のビーム────おそらくは箒の雷火と同じ高速イオン砲(パルスキャノン)────が雨霰と一夏目掛けて発射される。

外壁に着弾した際の威力からアライズ並みの高出力だと分かった。

冷や汗が頬を伝う。

着弾点には小さなクレーターが出来ている。

しかしあのチャージ速度は競技用のリミッターなんてのは掛けてない。

アライズの粒子装甲と違い、コンペートの絶対防御は完璧ではない。

あんな物を下手に直撃なんてしたら────!

ふつふつと湧き上がる恐怖に思わず震えそうになるが、そんな弱気の虫が顔を見せようとした瞬間に管制室の山田先生からの放送が入って来た。

 

『皆さん今すぐアリーナから脱出してください!先生達がISで制圧に行きます!』

 

「そうしたいのは山々なんですけどッ!!誰に恨まれてるのか鬼みたいなロックオンで振り切れそうに無いです!!」

 

一夏が半ばヤケクソ気味に叫ぶ。

この全身が装甲に包まれたISは少しでもピットに近付くと、それを阻止する様な砲撃を行う。

それに、アリーナに展開していた遮断シールドを突破してきた機体だから下手に逃げれば余計に被害が拡大する。

かと言って、満身創痍の機体を使って敵機を撃破できる程の腕前は無い。

だから教師部隊が来るまで被弾しない様、逃げ回る事しか出来ない。

────ナガト仕込みのレーザー回避術、それが素人を脱却できていない身でありながら逃げ回る事を可能としていた。

…だが、それでも限界がある。

 

「くそっ、埒が開かない!鈴、何か良いアイディアとか無いか?!回避に専念してる所為で全く頭が回らないんだ!!」

 

素人の浅知恵で何とか出来るとは思えなかった。

何よりそんな余裕が無い。

だからこの際鈴との間にあったことは彼方に放り投げて手を貸してくれと叫ぶ。

────しかし、返事はない。

 

「────鈴?」

 

回避しながら、不審に思って再度声をかける。

 

『…何────これ…。』

 

返ってきたのは震える声音だった。

思考が現実に追いついていないのか、鈴はアリーナ上空で唖然と滞空したままだ。

────何を、見ているんだ。

回避しながら、鈴とアイセンサーの視界を共有し────黒煙を上げる市街地が、新規ウィンドウに投影された。

 

「な────」

 

言葉が詰まる。

────なんだよ、コレ。

 

「一体何が────起こってるんだ…?!」

 

そして絶句して────直後、敵ISのパルスキャノンが白式を薙ぎ払った。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

 

────同時刻

トキオ自治区セントラル区

 

そこもまた、学園と同様に混乱に満ちていた。

唐突に始まった非常事態に市民は皆、商業施設や地下鉄駅への避難を余儀なくされている。

────セントラル区の《シーサイドポート》モノレール駅もそれらの影響を受け、人集りの巣窟と化していた。

バスや列車などの公共交通機関も路線寸断による運転取り止めや道路の混乱により、完全に沈黙。

…そんな中で人々が3000人以上、駅構内に溢れていた。

何か起きても所詮は対岸の火事だし自分とは関係ないと考える人々。

自分とは無縁の話で、自分には平和な日常が約束されていると信じて疑わない人々。

…その、幻想を叩き割るように。

────耳を(つんざ)くような爆音が急速に迫り来ることを認知する。

見ると、灰色のISが自分達の直上に展開し、両腕に内蔵されたパルスキャノンが、群衆に向けられて────一瞬後、群衆を薙ぎ払った…!

…攻撃目標を潰した機体は、すぐさま次の目標へと向かう。

その眼下には────地獄と化した駅構内が在った。

…改札口はパルスキャノンにより根こそぎ蒸発し。

…改札口の向こうはホームが落盤した事で完全に押し潰されていて。

…墜落の衝撃で飛散したガラスが無数の市民だった肉塊に突き刺さり赤い海が形成され。

…崩落したコンクリートの下からは、赤い水溜りと、肌色のナニカが覗いて居て。

惨劇の跡だけが、残されていた────。

 

 

────同時刻

トキオ自治区アッパーウィンディ区

────オフィス街区。

 

IS関連や旧コロニア系の企業が進出することで経済的発展を遂げた街区。

高層ビルが軒を連ねるそこは、やはり混乱に満たされていた。

逃げようと対向車に激突する車両。

その事故車に追突する運送トラック。

急ぎ自転車を動かそうと横転する者。

その現実離れした騒動を傍観する者。

咄嗟に背を向けて走り出す歩行者。

悲鳴を上げて、走り逃げる者。

恐怖より好奇心が勝り、スマートフォンで撮影を試みる者。

そこに「撮ってないで早く逃げて」と怒声を飛ばし、逃げるよう促す者。

その背後で、路上に打ち捨てられた無数の乗用車を、落雷の如き轟音と共にISが踏み潰す。

地鳴りと共に踏み潰された乗用車は爆発し、四散した破片が周囲の建築物群を豪雨のように叩きつける。

つい数分前まで平穏に満ちていた都市にはあまりに不釣り合いで、異界とさえ錯覚してしまう光景。

その中で────ISは、両腕に搭載された208mm自由電子レーザー砲を穿つ…!

高熱の光はアスファルトを溶解し、極太のレーザーがビルを貫く。

瞬時にしてコンクリート内の水分が蒸発し、ビルが水蒸気爆発によって内側から破裂する。

そしてビルの破片が、次々と民間人を押し潰していく…!

それでも尚、ISは攻撃をやめない。

新たなる標的として定めたビルに向けて、再びレーザー砲を放った────!

 

 

マストタワー内部・トキオ区役所

────同・広域対応室

 

「学園および市街各地にて不明ISが攻撃を開始…ッ、こんな…酷い…!」

 

意図した停電でブラックアウトした室内では、有線で繋がっている街頭カメラによる中継映像が予備端末に映し出されていた。

そしてそのあまりに惨たらしい映像にオペレーターが嗚咽する。

 

「何だコレは…!無差別攻撃、だと…?!」

 

思わず千冬も絶句する。

こんな光景は────10年前の再構築戦争以来だった。

そして、防衛用無人兵器を管制していた部署からは、

 

「都市外縁に未確認巨大兵器確認────!」

 

その一方が入り、復旧した主モニターに映し出される。

────甲殻類と虫を足した様な流線形のフォルム。

────上部甲板にVLSを、艦首に眼球を連想させる大口径砲を備えている。

────全長100メートルは下らない、武装水中翼船。

 

「改イワナミ級無人フリゲート艦、接敵します!」

 

区役所都市防衛局が所有する、無人フリゲート艦6隻で構成された邀撃艦隊が76mm連装速射砲と対艦ミサイルを発射する。

しかし直後の光景に皆が目を見開いた。

 

「な、何だ……あれ!?」

 

眼球の様なユニットの装甲板が開いたかと思うと、そこからハイレーザー砲を放つ。

そのエネルギーによって無人フリゲート艦たちは次々と溶断され、破壊されていく。

 

「改イワナミ級、全滅────」

 

「…あれは────」

 

…その機体を、千冬は知っていた。

第1世代型ISBAEs/IS-1(レヴィアタン)──── 白騎士と同時期にコロニアが開発していた水上戦闘艦型ISだった。

 

「ISの軍事転用を禁じたアラスカ条約違反の代物────老害共め、やってくれたな。」

 

モニターを忌々しく睨みつけ、千冬は毒付いた。

…ISが人型として確立された第2世代以前の機種────第1世代ISは、白騎士シリーズを除いて、IS適正を必要としない、無数の凡人によって制御される兵器だった。

それ故に、更なる戦火拡大に繋がるとして、VIC6と旧コロニア派の停戦条約であるアラスカ条約締結の折に、汚染問題を引き起こした初期型アライズ共々、全て廃棄された筈だった。

…にも関わらず、こうして稼働し同時にこれだけの機能を維持する────そんな事が可能なのは、条約に批准していない国際連合こと、旧コロニア派上層部達くらいしかいない。

しかし今この状況で、それがなんだというのか────そう言わんばかりにレヴィアタンは上部甲板上の垂直ミサイル発射機構から対地攻撃用のミサイルを放つ。

 

「…ッ、敵巨大兵器、港湾設備に攻撃開始!」

 

その言葉と同時に、港湾区のコンテナ群と停泊していた貨物船やタンカーが次々とミサイルの直撃によって爆発する。

その爆炎は周辺の一般市民を飲み込み────そこには、命だったモノだけが遺された。

 

(これが恫喝だと…?どう見ても制圧じゃないか…!!)

 

新たに生み出された惨状に千冬はギリ、と歯を噛み締める。

それと同時に────

 

『────こちら警備部隷下日欧合同試験隊。マストタワー、聞こえるか?』

 

────ナガトの声がした。

 

「八雲か!今どこにいる?!」

 

驚き、千冬は思わず問いかける。

 

日方風(アライズ)ン中だ。時間が無いんで要件だけ伝えるぞ。区役所理事会にアライズの出撃を要請させてくれ。』

 

法令上、コッチから勝手に動くワケにはいかんのでな────と。たたみかける様にナガトは告げる。

自衛隊に帰属するナガトと日方風は、国または自治体から出動要請が無ければ動けない。

それは警備部に移った今も同様だ。

────つまり今は出撃準備が整っていて、ゴーサイン待ちという事だ。

おそらく、箒も同様だろう。

だから────千冬は広域対応室にいた理事会の面々に首を振った。

 

「────ダメだ。」

 

しかし、出たのは否定の言葉だった。

千冬は思わず目を見開く。

 

「何故です…?!」

 

「…今回の攻撃はおそらく、我々がVIC6に傾倒し過ぎたが故の内部粛正だ。だから…頼む、何もするな…!」

 

驚愕は怒りを通り越し、呆れや失望の域に至る。

…理事会のメンバーは、未だこの状況で自分達の利権と保身に走るというのだ。

 

「…民間人に犠牲者が出ていますが。」

 

「仕方の無い犠牲だ。分かってくれ。」

 

────掛ける言葉も無い。

千冬は周りのオペレーターに視線を向ける。

全員、俯き、現実から目を背けていた。

それで、ああ此処に居る者もか────と千冬は落胆する。

皆、国連本部からの本格的な粛正を恐れ、今回の虐殺を黙認しようとしている────自分達が殺されぬ様にと、保身に必死になっている。

 

(────これでは…)

 

モニターに映る、新たな爆発の映像。

その爆炎の中で人が燃えている。

────何も出来ないのか、という諦観が千冬を支配する。

ふと────

 

「ッ、学園第21格納庫より、アライズ2機が発進体制に入っています!」

 

オペレーターが叫び、凍っていた場の雰囲気が動き出す。

 

「な、なんですって!?警備部のアライズ!聞いていなかったの?!勝手な真似はするなと言った筈よ!!」

 

思わず理事会のメンバーがヒステリックに叫ぶ。

 

『…全く────さっきから聴いてればグチグチグチグチと…!』

 

それにナガトは、明らかに苛立った口調で無線を開く。

…僅かに一拍開けて────

 

『安全な場所から────デカいクチを聞くな!!金ばかりせびって満足に働けない無能共がッ!!!』

 

────罵声が室内を震わせる。

それは有無を言わせない、憤怒に満ちた声だった。

 

「な────」

 

思わずその無礼ぶりに理事会のメンバーは唖然とする。

そこに────

 

『失礼。私の上官がご無礼を。上官殿は気が短いので。』

 

────箒が割って入る。

彼女なりに一触即発の雰囲気を回避しようとしたのだろう。

だが、直後────

 

『ただ私からも言わせて頂くとすれば────何もしないのなら、黙って見ていて下さい。』

 

────凍てつく様な声音で、釘を刺す。

 

『それに、A.T.L.A.S.(アラスカ条約機構軍)からTASK-04が発令された。』

 

A.T.L.A.S.(アトラス)────アラスカ条約締結とVIC6による国際秩序再生に伴いその実働部隊として組織された多国籍軍。

早い話が、国連軍のようなものである。

違いがあるとすれば、VIC6加盟国が『致命的な脅威』と判断した事象において超法規的措置を発動する権限を持つ、強権組織として有名だった。

そしてナガトが告げると同時に、TASK04のデータが映される。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

–Task 04 executed by A.T.L.A.S. JPN(アラスカ条約機構軍日本事務局より実行されたタスク04)−

 

▪︎From: A.T.L.A.S.JPN Commander Ulrich Signer(差出人:アラスカ条約機構軍日本事務局ウルリッヒ・ジグナー司令官)

 

▪︎Mission by Arise with the goal of annihilating the attackers(襲撃者殲滅を目的としたアライズによる任務)

 

▪︎Use of the Siegfried-class air cruiser when entering the area of operations from high altitude(高高度から作戦エリアに進入する際のジークフリート級航空巡航戦艦の使用)

 

▪︎Requisition of local Arise troops.(現地アライズ部隊の徴発)

 

▪︎Freedom to use weapons(武器使用自由)

 

▪︎No administrative authority in the area of operations has the right to veto this order in practice.(作戦地域の行政機関が本指令を拒否する権利は実行中には無い)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

────有無を言わさぬ命令の数々。

本来、帝国陸上自衛隊から警備部に出向しているナガトや箒はアラスカ条約機構軍に参加しておらず、従う義務は無い。

しかし────《現地アライズ部隊の徴発》という項目が、アラスカ条約機構軍の指揮下に加わり、直ちに出撃する正当性を持たせてしまっている。

当然、国連からの更なる制裁とタキオン汚染を恐れる区役所理事会からすれば御免被るが────《作戦地域の行政機関が本指令を拒否する権利は実行中には無い》という項目が、区役所にノーと言わせない。

それは、区役所理事会の有耶無耶にして終わらせたいという逃げ道を真っ向から潰す内容だった。

それに理事会のメンバーは血の気が失せていく。

だが、貴様らの事情なぞ知るものか、手前のケツは自分で拭け────そう言わんばかりに、

 

『ライカン01、ライカン03────出るぞ…!』

 

ナガトの裂帛の号令────それと同時に、国防色のアライズと、紅白迷彩のアライズが舞い上がった…!

 

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

 

────同時刻

五島列島・中通島沖30km

広域災害対応輸送船《たちばな》

 

総務省保有の大型タンカー改装船────その特殊タンク内に、1機のアライズが艦載されていた。

────曲面・球形の多い形状の四肢。

────コアパーツは日方風と同規格。

────重装甲機特有のずんぐりした体型。

────右腕には巨大なメイスを携えた機体。

────背中には、仏像の光背を連装させる制波装置。

そのコックピットブロック内で、蒼の髪を揺らしながら瞑想する少女が一人。

 

『────お疲れ様です、部長。高木です。』

 

その通信に瞼を開く。

────紅い瞳に機体のデータが投影される。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

《19式機動挺身装備【海月(カイゲツ)】》

ーー装甲耐久ーー

粒子装甲:100%

複合装甲:100%

機体骨格:異常なし

ーーアーカイブーー

所属元:日本帝国内閣国家安全保障局

操縦者:更織楯無

製造元:巌崎重工業株式会社

    ジャパンフリートユナイテッド社

機種:重量二脚型機

ーーー兵装ーーー

腕部兵装右:試製22式《蒼流旋(ガトリングメイス)

      35mmチェインガン

腕部兵装左:127mmプラズマ砲

      35mmチェインガン

格納兵装右:試製21式空間魚雷

格納兵装左:試製21式空間魚雷

肩部兵装右:三連装対艦・対戦車ミサイル

肩部兵装左:三連装対艦・対戦車ミサイル

背部兵装:試製重合水装甲制御基2型

拡張領域:IHI-F5-1Tタキオンエンジン

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ああ、高木クン。状況はどう?」

 

お姉さん会いたかったー!心配したのよ────!

…と、キャピキャピしながら少女────更織楯無は言う。

 

『────A.T.L.A.S.(アラスカ条約機構軍)からTASK-04が発令されました。現地アライズ部隊徴発を含む内容の、です。』

 

それを聴いて、楯無は雰囲気をガラリと変える。

 

「そう────事は深刻ね。」

 

努めて冷静に、楯無は口を開く。

 

「…先程、日本帝国政府も九州・沖縄地方を中心とした西日本全域に、【有事特別例外措置対策法】を適用────事実上の"戦時体制"に移行したわ。」

 

『そりゃまた…10年前に逆戻りですね。』

 

「ええ────長引けば、経済的損失も発生する…そんなワケで私も出るわ。"現地アライズ部隊"は全て参加を迫られているんでしょう?」

 

『────助かります。では。』

 

そう言って、高木は通信を切る。

直後、ガコンという音と共に、楯無の機体────海月(カイゲツ)の固定が解除される。

 

《後部ハッチ解放────》

 

アナウンスと共に警報が鳴り、たちばなの後部に備えられた揚陸艇発艦着艦用のハッチが開く。

 

「────さぁて、お仕事お仕事ー!」

 

そういうと、楯無はハッチから海月諸共水中へと身投げする。

 

────海水吸水。

────ナノマシン結合。

────重合水(ポリウォーター)装甲、形成。

情報が網膜に投影されて────機体を水圧から守る、水の壁が形成される。

それを確認するなり、楯無は空間流動スラスターを全開。

時速50ノットで、IS学園目掛けて水中を駆けだした────!

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

 

────同時刻

男女群島沖南東20km

────高度1万メートル

 

黒煙をたなびかせ、霞んだ戦闘音が連鎖的に木霊するトキオ自治区沖合い20キロ。

高度1万メートルの────澄んだ空が広がる雲海を割きながら進撃する。

────鋼鉄の牙城が2つ。

欧州連合レヴェラント連合国ドイツ連邦海軍ジークフリート級航空巡航戦艦、

FS-110【ジークフリート】

欧州連合レヴェラント連合国オーストリア海軍ライン級航空巡洋艦

FK-83【ザルツァハ】

────から成る、第1空中機動艦隊外洋派遣戦隊であった。

ISの技術を基に、反重力力場制御器と空間流動スラスターを搭載した本艦は、文字通りの空中戦艦と化していた。

再構築戦争においてアライズ開発で遅れた欧州連合の当時の切り札であり、それは今アライズを運ぶ為の足として活躍していた。

ひとつ不運があったとすれば────これから行く先が、戦場になってしまった事だろうか。

 

 

同・航空巡航戦艦ジークフリート

────後部甲板アライズ用デッキ

 

古代ローマのレギオン、あるいは翼人を思わせる鋭利なフォルムに銃砲火器で翼を象った巨人────EiR-Type-ⅡⅩⅠ【ヴァイムランナー】と、EiR/Type-ⅩⅨ 【ヴァハフントE】が鎮座していた。

────ヴァイムランナーのコックピットブロック内は静寂と興奮が同居していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

《EiR-Type-ⅩⅥ【ヴァイムランナー】》

ーー装甲耐久ーー

粒子装甲:100%

複合装甲:100%

機体骨格:異常なし

ーーアーカイブーー

所属:日欧合同実験団《ライカンズ試験隊》

帰属元:オーストリア合衆国ドイツ連邦軍

操縦者:ゲラルト・ヴォルテンガー

製造元:アイゼンライン社

機種:中量二脚型機

ーーー兵装ーーー

腕部兵装右:ⅡⅩ式S6大型レーザーブレード

腕部兵装左:Ⅹ式40mm機関砲

腰部兵装右:WtS-ⅩⅥ号突撃砲(近接格闘戦仕様)

腰部兵装左:WtS-ⅩⅥ号突撃砲(近接格闘戦仕様)

背部兵装右:Ⅸ式57mmプラズマ砲

背部兵装左:Ⅷ式120mm超電磁砲

拡張領域:EiR-T6六連結タキオンエンジン

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

網膜投影に現れる機体情報を見ながら、ゲラルト・ヴォルテンガー中尉は、ストレッチしながら出撃を待ち詫びていた。

耐GジェルがISスーツ内を満たし、起動工程が全て終わってから即出撃────とはいかない。

情報収集と────その上で射出角度の調整などが必要になってくる。

だから仕方ないのだが、暇だ。

なので、暇潰しに身体を動かす。それくらいしかできる事もない。

フランス内戦も、パリに於ける戦いでひと段落し────代償として、パリの南半分が更地になってしまったが────漸く本来の仕事に取り掛かれると思った途端にこれだ。

 

「……日本はそれなりに平和だと聞いていたんだがな…。」

 

思わず愚痴をこぼす。

 

『仕方ないですよ。今の時代、平和なんて簡単に壊れちゃうんですし。』

 

ふと、機付きの整備士が無線越しに言う。

自分より若い、20歳になるかならないかくらいの男だ。

…確かに、彼の言う通りだ。

かつての第4次非核大戦以前の時代────冷戦と呼ばれていた頃、核兵器で脅し合い、核兵器開発で競い合う、少しでも間違えれば人類種を7度絶滅させられる核の雨が世界中に降り注ぐとさえ言われていた時代ですら、核兵器の存在が国家の安全に寄与してすらいた。

しかし7度に渡り飛来した小惑星の迎撃と第3次世界大戦で核兵器────特にICBM(大陸間弾道ミサイル)の類は全て失われた。

その代替となっているのがアライズだ。

しかしそのアライズの配備が核保有国と非核保有国とのパワーバランスを破壊したとも言える。

核兵器とは違い、再利用が可能な個人運用すらも可能とする核に匹敵する戦略兵器。

そんなものが溢れ出した結果がこの世界規模の情勢不安定化というわけだ。

恐らく、これからはヘズナルの数を多数有している国であればあるほど有利な時代になっていく。

そしてV.I.C.6の一角である日本帝国は比較的情勢が安定しており、順調にヘズナルの人数を増やしていた筈だが────この有様だ。

 

「確かに────世の中は分からんものだな。」

 

ゲラルトは思わず苦笑する────次の瞬間。

 

《射出角度調整完了────ライカン02、発進準備!》

 

足元の昇降機(エレベーター)が駆動。

機体が甲板上にリフトアップされ、一瞬で視界が広がる。

艦が持つ耐気圧防護シールドによって減衰しているとはいえ、高高度特有のジェット気流が機体を振動させる。

…ああ、これだ。

この感覚が、やはりたまらない。

────戦場に身を投じる直前、中毒的なまでに血の騒ぐ、感覚が。

 

《ライカン02 ────射出機(カタパルト)へ!》

 

ゲラルトは艦側面に突き出したカタパルトへ向かわせる。

正規空母のように甲板に埋設されたものとは違い、第2次世界大戦時の弾着観測水上機の離艦に使われていた棒状の半旋回式射出台。

そこに足を乗せると、離床台が艦の向きと同調────正面に向け旋回する。

 

《────カタパルト、艦首方向に同調完了》

 

『発進準備完了です!…あの、ホントにシャルロットは寝かせたままで良いんですか?』

 

機体昇降機の床に安全ベルトで身体を繋いだ機付き整備士が無線で問いかける。

 

「構わん。長旅で疲れているのだ。…それにあの程度、俺一人でどうにかできねばならんだろうよ。」

 

そうでもしなければ先輩としての示しがつかん────言外に告げると、機付き整備士も『確かに』と笑ってみせた。

酸素マスクをしているから口元は見えないが、瞼の下が盛り上がっていたが故に、ゲラルトはそう思ったのだ。

そして眼前────戦場に向き直る。

 

《こちらCP、ライカン02発進せよ────》

 

『────ご武運を!』

 

────CPからの号令。そして機付き整備士の声援。

それと共に蒼電を奔らせ、機体がカタパルトから射出される…!

全身にかかる衝撃負荷。

身体が後ろに持っていかれる様な感覚と共にゲラルト────ヴァイムランナーは、空に飛び出した…!

 

直後に鳴り響くミサイルアラート。

それと同時に新規ウィンドウが網膜に投影される。

そこには、洋上から自治区を攻撃しながら、こちらに向けてミサイルを穿つ第1世代型IS《レヴィアタン》の姿。

 

「ク────」

 

漏れたのは、笑い声だった。

…条約違反モノを持ち出すとは────飢えた獣めいた壮絶な笑みを浮かべ、ゲラルトは突貫する。

眼前からは際限なく、穀物に群がるイナゴの如くミサイルが殺到する。

それは通常兵器であれば、まごう事なき過剰投射(オーバーキル)だったであろう。

…相手が、通常兵器であったのならば。

命中────次々とミサイルはヴァイムランナーに喰らいつく。

────だが、その全てが緋色の粒子装甲(パーティクルアーマー)に阻まれ無意味に霧散する。

…そう、今レヴィアタンが挑んだのは通常兵器では無い。

────アライズ(戦場の支配者)である。

 

「なるほど、大した度胸の持ち主だ。」

 

背に携えていた大剣の如き装備が肩にかかる様にして展開される。

左背部兵装の大型射撃兵装──── Ⅷ式120mm超電磁砲(レールガン)だった。

…コイルモーターが唸りを上げる。

加速器の電圧が増し、砲身に蒼の稲妻が迸る。

弾倉より120mmAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)が装填されて────

 

「ならば────応えねばなるまい…!」

 

────蒼の雷電と共に、120mm弾が時速8600km(マッハ7)という超音速域で撃ち放たれる…!

…1秒の後、それはレヴィアタンの絶対防御と上部甲板装甲を食い破り、内部に到達する────!

その瞬間、ミサイル発射管内の弾薬庫を破壊したのか────内側から800メートル以上の火柱を立て、爆発する。

…しかし、ゲラルトはソレが眼中にない。

────次だ。

一々一喜一憂していては長引くだけだ。

だからゲラルトは努めて冷静に。

そして────狼の様に眉間に皺を寄せ口角を吊り上げた笑みを浮かべて。

 

「次は、どこだ────!」

 

────トキオ自治区目掛けて、降下していった…!

 

 

 

 





〜あとがき〜

◉ナガトと箒のナゼナニ劇場■■





今回な非常事態につきお休みです。
…嘘です、ネタ切れです。
今後は、「コレとかどうなっているんですか?」等読者様の疑問点に対応する形でもやって行こうと思いますので、疑問点などありましたらコメント欄にドシドシご記入下さい。

次回は本格的にゴーレム戦に突入すると思いますので、次回もよろしくお願い致します。



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