インフィニット・ストラトス・アライズ-Dominater of Battlefield-   作:天津毬

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今回からゴーレム戦が本格化しますが、長過ぎたので前後編で分けようと思います(´・ω・`)

(´・ω・`)(まさか全体の6割で1万6000文字超えると思わなかった…)






#09 Engaged or a waltz(交戦開始あるいは円舞曲)

 

日本帝国長崎県五島市浜町

男女群島・国連直轄領トキオ自治区

────同・アッパーウィンディ区

 

自治区北西に位置する、近未来的造形のビルが建ち並ぶ海沿いの区画。

そこは見渡す限り、無人の市街地。

そこは見渡す限り、混乱する部隊。

そこは見渡す限り、立ちこめる煙。

耳を傾けてみれば、鳴り響く爆音。

耳を傾けてみれば、甲高い噴進音。

────そこもまた、戦場と化していた。

不明機から繰り出されるレーザー。

それにより爆散する放置車両や陸橋。

空中からインフラ破壊を遂行すべく、不明ISは対地攻撃を展開していた。

 

「────こちら01!誰か…、応援を!」

 

それを、市街に派遣された教師部隊のラファールリヴァイヴ6機が応戦していた。

01 ────森口鼎(もりぐち・かなえ)は事態の劣悪ぶりに歯軋りしながら救援を要請する。

周囲には大破したラファールリヴァイヴが複数機転がっており、眼前の不明ISによって手酷くやられた事が伺える。

 

『よくも、私達の街を…!』

 

────森口の僚機が憎悪が入り混じった声で言う。

ソレら全ての音が入り混じり、さながら魔女の釜のような混沌に満ちた空間を形成していた。

…昨日まで人々がここを闊歩し、桃源郷を思わせるような絢爛豪華な水上都市であったと言われても、嘘のようにしか思えない。

────それほどにまで、状況は悪化していた。

まるで────廃墟と化した都市を、連想してしまえる程には。

…そして、不明ISは、彼女らを嘲笑う様に砲撃を回避する。

 

『ちょこまかと……!』

 

空を裂くように舞う、灰の不明IS。

それを追う様に飛翔する深緑の影。

火薬と共に砲弾を穿つ、6名の女。

 

『死ねぇ────ッ‼︎』

 

『私達の街から出て行けェ‼︎』

 

6機のISが、捕捉しきれない不明ISを高速で飛行しながら、50口径アサルトライフルを穿つ。

コンペート操縦者の雄叫びと50口径アサルトライフルの銃声が響く。

それを森口が戒める様子はない。

────誰も彼もが、プライド等抜きにこの街を守ろうと必死なのだ。

…しかし、あまりに相手が悪過ぎた。

────遊びは終わりだ。

そう言わんばかりに不明ISはそのずんぐりとした巨腕をこちらに向け────パルスキャノンを、放つ…!

 

「全機散開(ブレイク)!」

 

森口の号令。

────その反応に遅れた教師部隊のラファールが一機、パルスに機体ごと上半身を吹き飛ばされ沈黙する。

 

『ッ────!』

 

それを見て、森口は歯を噛み締める。

機体の性能差が圧倒的過ぎる────。

自分達には、多少の機体性能の開きがあろうと自らの技量で埋め合わせるだけの自信はあった。

…しかし、これはどうか。

自機(ラファール)を凌駕する機動性。

コンペートの枠外の火力投射能力。

加えて通常の絶対防御を上回るエネルギーシールド。

これではコンペート、ISというより────まるで、化け物(アライズ)だ。

────ゾクリと。

一瞬悪寒がした。

…再構築戦争時、コロニア軍として参戦した森口は、その圧倒的な戦闘力を、身をもって知っていた。

世界最強と謳われていた兵器が一瞬にして斬り伏せられ、全長20キロもある水上都市(コロニア)艦が30秒もかからずに制圧────否、事実上殲滅される。

陥落するコロニアから別のコロニアに撤退する最中に追撃され、苦楽を共にした仲間達が戦死していく。

────死にたくない、殺さないで!

無様に懇願した。恥や尊厳よりも命を優先した。だってまだ生きていたい。

"────何を今更。殺しているんだ、殺されもするだろう。"

それでも殺しに来る敵機(アライズ)に死の寸前まで追い込まれ発狂する。

意味のある言葉など忘れ、死にたくない一心で逃げ回る。

その最中にV.I.C.6とコロニア間の講和会議により停戦命令が出されなければ、あと一歩のところで殺されていた記憶。

────あの時肌で感じ脳裏に刻まれた恐怖(トラウマ)が、眼前の不明ISと重な(ダブ)って見えた。

 

(…だけど、だけどもう逃げたくない!)

 

それを振り払う様に、森口は首を振る。

マニピュレーターに力が篭る。

 

(…私は良い。だけど、せめて────)

 

部隊間データリンクを見る。

12機中────5機が生き残っている。

…だから、

 

(例え、差し違えたとしても────あの四人だけでも…!)

 

…だから!

歯を食い縛り、森口は眼前の不明ISを再び睨みつけ、縋る様に願う。

 

(だから神様────今度こそ、私に償いの機会(チャンス)を下さい…!)

 

────そう願う。強く。

…応える様に、ハイパーセンサーが新たな識別不明機を認知する。

 

「ッ、新手…!」

 

それは眼前のISも認知したらしく、首を振り索敵する素振りを見せた。

────刹那。

ゴォッ、という大気を割く爆音と。

ガォン、という金属がひしゃげる音と。

バチリ、と火花の散る音がした。

それはマッハ3.5(時速4200km)で地上に自由落下したアライズ────【ヴァイムランナー】の脚が不明ISを踏みつけた音であり。

その勢いのまま、ヴァイムランナーは不明ISを地面に叩き踏みつけた────!

砕け散るアスファルト。

変形する機体フレーム。

叩きつけられ左腕がひしゃげた不明IS。

それだけでは足りぬと、ヴァイムランナーは手慣れた動きでISの右腕の付け根を踏み貫き根元からへし折る…!

更にそこへダメ出しと言わんばかりに、ヴァイムランナーは右腕に持つ────チェーンソーを連想させる形状の大型レーザーブレードを溶断作業の如く敵機体フレームに突き立てた…!

…大気をプラズマ化させる自由電子レーザーで形成された刃がISの中枢部(コアユニット)を焼き切り、完全停止させる。

────会敵して、10秒足らず。

あれだけ教師部隊を蹂躙していた不明ISを制圧するのに要した時間はそれだけだった。

 

『…どうにか、無事の様だな。』

 

ヴァイムランナーの操縦者(ヘズナル)が無線越しに声をかける。

しかし森口は今起きた一連の、圧倒的な光景を脳が処理し切れず、唖然と聞き流すしか出来ず、その声に反応し我に帰るのに時間を要した。

 

『…よく生き残った。防波堤港湾設備は既に解放した。貴公らはそこへ迎え。俺は残りを片付ける。』

 

矢継ぎ早に告げられる情報の数々。

それに森口は反射的に────

 

「ま、待って!私達も────」

 

機体の状況を気にせず叫んでしまった。

 

『────済まんがその損傷具合では、守り切れん。残ってくれ。』

 

申し訳無さそうな声────。

それで森口はハッとして部隊全機の機体状況ウィンドウを開く。

…平均シールドエネルギー残量20%

…平均推進剤残量15%

…平均残弾30%

────確かに、これでは足手纏いになるだけだ。

それを嫌でも理解させられる。

…否、12機編成の部隊を半壊させても倒せず圧倒された存在を、たった1機で瞬殺してみせた存在。

そんな機体に、自分達がついて行けるはずがないのは、少しでも考えれば分かる話だった。

 

『…だが、貴公らの気持ちだけでも頂こう。』

 

ヘズナルはそう告げる。

慈悲に満ちていながら、快活さを孕んだ声が無線越しに言い────

 

『────共に勝利を。』

 

────そう呟くと、ヴァイムランナーは反重力力翼を展開し、プラズマスラスターを点火。

空に吸い込まれる様にして────次の獲物の元へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

 

────同時刻

────同・セントラル区

 

IS学園第21地下格納庫から飛び立ったナガトの駆る日方風(ヒガタチ)と箒の雷火(ライカ)は学園の所在していた市街地を巡航していた。

学園とは比較にならない規模の攻撃に見舞われている市街地を背景に────

 

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《21式機動挺身装備【日方風(ヒガタチ)】》

ーー装甲耐久ーー

粒子装甲:100%

複合装甲:100%

機体骨格:異常なし

ーーアーカイブーー

所属先:IS学園警備部

    日欧合同開発実験団《ライカンズ》試験隊

帰属元:日本帝国陸上自衛隊

操縦者:八雲ナガト=アウグスト

製造元:巌崎重工業株式会社

ーーー兵装ーーー

腕部兵装右:GAU-8EⅡ(アヴェンジャー)ガトリングライフル

      81式Ⅲ型対戦車装甲穿孔槍(パイルバンカー)

腕部兵装左:RoD/LB-1(カノープス)レーザーバズーカ

      81式Ⅲ型穿孔射突剣(パイルバンカー)

格納兵装右:03式Ⅱ型近接長刀

格納兵装左:03式Ⅱ型近接長刀

肩部兵装右:07式斬艦刀

肩部兵装左:07式斬艦刀

兵装担架右:09式突撃砲

兵装担架左:09式突撃砲

背部兵装右:GDF-001 35mm連装機関砲

背部兵装左:10式120mm戦車砲

拡張領域内:IHI-F5-1T/OW付属重タキオンエンジン

      IHI-F5-1T重タキオンエンジン

      IHI-F2-2T中タキオンエンジン

      IHI-F2-2T中タキオンエンジン

      IHI-F2-2T中タキオンエンジン

      IHI-F2-2T中タキオンエンジン

      GBE-PFDD-1(プラズマフィールド)発生器

 

 

 

《試製22式機動挺身装備【雷火(ライカ)】》

ーー装甲耐久ーー

粒子装甲:100%

複合装甲:100%

機体骨格:異常なし

ーーアーカイブーー

所属先:IS学園1年1組

    日欧合同開発実験団《ライカンズ》試験隊

帰属元:日本帝国陸上自衛隊

操縦者:篠ノ之箒

製造元:日照ライムントヴァルト社

ーーー兵装ーーー

腕部兵装右:NR-ⅡⅩ式複合斬機刀《叢雲(ムラクモ)

腕部兵装左:NR-ⅡⅩ式複合斬機刀《叢雲(ムラクモ)

肩部兵装右:RR/CG-8四連装チェインガン

肩部兵装左:RR/CG-8四連装チェインガン

追加主翼右:NR-Ⅷ式レーザー照射基

      AIM-5空対空誘導弾

追加主翼左:NR-Ⅷ式レーザー照射基

      AIM-5空対空誘導弾

拡張領域内:NR-F1-7T中タキオンエンジン

      NR-F1-2T軽タキオンエンジン

      NR-F1-2T軽タキオンエンジン

      NR-F1-2T軽タキオンエンジン

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

────網膜投影に映し出された機体情報を確認しながら、ナガトはトキオ自治区の地図を展開し、それを見やる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

自治区北部および西部を中心に敵は侵攻しており、特に激しい戦闘が起きているのが西部のアッパーウィンディ区と、その反対側に位置する北部東端のマリンゲート区。

そして我らがIS学園の所在するセントラル区。

────アッパーウィンディ区は高層ビルが林立する地区である為、敵ISが制圧目的でビルごと薙ぎ払った結果極めて大きな被害が出ていた。

…敵としては、アッパーウィンディ区のビル街に敵が陣取る前に潰しているつもりなのだろう。

────次に大規模な戦闘力が起きているマリンゲート区は、その名の通りトキオ自治区における陸路と海路の玄関口。

特に日本帝国領九州本土と繋がる、全長180キロメートルもの西海道連絡大橋が掛かっており、また各地区に高速道路を合流・分岐させる南風ジャンクションが所在する、交通や物流の要所でもある。

…ここを潰せば、日本帝国本土との連絡を遮断できる他、陸路での応援部隊到着も不可能となる。

────最後にセントラル区は、自治区役所(マストタワー)やIS学園、無人艦基地が置かれた行政、教育、防衛の中心地であり、散発的だが大量の戦闘が発生している。

元々、区役所防衛局無人システム(ドローン)部隊や学園警備部EOS部隊で固められていたそこは他の地区と比べれば堅牢であり、もう少し持ち堪えられるだろう。

…これらの情報を基に、ナガトは思案する。

どこに向かうべきか────を。

…今一番増援を欲しているのは、間違いなく劣勢の西部・アッパーウィンディ区。

確かにアライズの制圧力を用いれば戦局を拮抗させられるし、瓦解した防衛線再構築も可能だろう。

しかし、それはアッパーウィンディ区以東に敵が浸透していなければの話。

現状はアッパーウィンディ区どころかセントラル区やマリンゲート区にまで浸透されている。

…では、セントラル区からアッパーウィンディ区まで押し上げるか?

確かに、行政府自体は維持できるし西部に防衛線が再構築可能だが論外だ。

そうした結果、西部の防衛線に対応するだけでなく東部のマリンゲート区に展開する敵部隊まで対応しなければならず、結果として東と西から挟撃される二正面作戦を展開しなければならない。

歴史上二正面作戦を成し遂げたのは第2次世界大戦時のドイツ第3帝国だが、第4次非核大戦にてそれで歴史的大敗を喫したのもドイツ第3帝国だ。故に現在では二正面作戦は愚の骨頂とされている。

…そうなると、消去法でマリンゲート区の防衛に行き着く。

ここは日本本土とを繋ぐ西海道連絡大橋が所在しており、ここを潰されると応援を遮断される。つまりは断たれてはならないアキレス腱。

ここさえ抑えれば────西部に全力を注げる為、現在制圧下にある地域の奪還も順次可能となる。

本土からの応援部隊も加われば尚の事。

その為にも、まずは────

 

「──── (ライカン03)、まずはマリンゲート区を制圧するぞ!」

 

────裂帛の号令。

普段の気の良い教官めいたソレとは違う、冷徹で機械めいて居ながらも熱意を孕んだ、戦士の声。

それで箒に指示を飛ばす。

 

『ッ、り、了解…!』

 

ふと、箒は歯切れ悪く解答する。

いつもキビキビと応える箒にしては珍しい。

それに疑問を抱きナガトは一瞬思考し────ああ、と合点がいった。

 

「────そういえば貴様、実戦は初めてだったな。」

 

箒はVRシミュレーション訓練や実機演習の経験こそあれど、実際に殺し合う実戦の経験は皆無だった。

────つまり今回が、初陣という事になる。

故に、緊張しているのだ。

 

「危険を感じれば、俺を盾にしろ。」

 

『え?あ、はい!』

 

そのための重量型機だ────と、箒の緊張をほぐすようにナガトは告げる。

実際、クラス代表決定戦の余興で見せつけた様に、ナガトの日方風は箒の雷火より装甲防御力が高く、並大抵の攻撃ではビクともしない。

だからこそ、高機動格闘戦に長けた雷火を差し置き、突入時に最も被弾しやすい最前衛を努めている。

試作機という未熟な機体と、学生という未熟な乗り手(ヘズナル)

それを護る防壁となり、敵を真っ先に叩き、後続の突入を支援するのが日方風の役割だ。

 

「…ま、いずれ避けられんのだ────」

 

────ナガトは口角を吊り上げる。

(エサ)に喰らいつく狼のように、目をギラつかせて。

 

「────初体験と行こうじゃないか。」

 

(仔犬)を率いて、戦場へと跳躍した…!

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

────同時刻

────同・セントラル区

────IS学園第2アリーナ

 

白式目掛けて放たれた高速イオン砲(パルスキャノン)

────しかしそれは、

 

『…奇襲とは。義賊には、誇りも無いのですね────無礼者。』

 

突如────ドスの効いた声と共に放たれる蒼の閃光。

レーザーがパルスキャノンと衝突し、大気を震わせる大轟音と共に拡散する。

────アリーナ観客席を覆う、傘のような天井。

そこに、ブルーティアーズに搭乗し、スターライトMk.Ⅲを構えたセシリアが。

 

「オルコット…?!」

 

一夏は驚いたように目を剥き、思わぬ援軍の到着に歓喜する。

そしてスターライトMk.Ⅲに加え、カデュケウスレーザーオービットが展開され────16基のオービットから放たれる光の雨が、アリーナを埋め尽した…!

クラス代表決定戦時同様、アリーナの地面を蜂の巣にする。

…そのレーザーを一斉射するも、不明ISには届かない。

否、着弾してはいる────しかし、不明ISが展開するエネルギーシールドが、レーザーを蒸散させてしまっているのだ。

だがレーザーの衝撃までは緩和出来ていないのか、不明ISはその場に釘付けとなっている。

────好機。

そうセシリアは考え、白式と甲龍、そしてアリーナ管制室を繋ぐ通信回線を開く。

 

『そのまま聴いてください!敵IS内に生体反応は有りません!無人機です!!』

 

砲撃しながら、セシリアは告げる。

 

「無人機だって?!そんな馬鹿な…!」

 

その事実に一夏は再び驚愕する。

無人駆動のISなど聞いた事がない。

…確かに、パイロットが空中で意識を失うなどの緊急時に備えた《E.A.F.S.(非常用自律航空システム)》という、指定座標まで自動で機体とパイロット(ヴァルキリー)を送り届けるシステムがある為、自律システムが無いわけではない。

しかし、完全無人の上に、無人のまま戦闘を展開する規模の自律駆動システムは、現状知る限りは開発されていない────その筈だった。

だがしかし、言われてみれば────動きはずっとワンパターンで、同じ軌道を繰り返していた。

 

『ちょっと、いくら動きが単調だからって、いい加減な事言ってんじゃ無いわよ…!』

 

鈴も信じかねる様に言う。

 

『────いいえ。ブルーティアーズにはハイパーセンサーの他に、赤外線センサー、動体流動センサー、生体センサーが搭載されています。それをもってしても、内部に生体反応は確認出来ませんでした。』

 

しかしそれに、セシリアは無慈悲に事実を告げる。

────狙撃戦ドクトリンに特化したイギリス機であるブルーティアーズは、多種多様なセンサーを搭載しており、全身装甲内の生体反応とその正確な数、位置を特定する事など朝飯前だ。

例えジャミング等の妨害をされても、ノイズめいた微弱なレベルであれ、生体反応を拾う事は可能な程の高精度高性能品。

…それをもってしても、特定出来ない。

つまりは────無人機であるという結論にしか辿り着かない。

セシリアはそう言っているのだ。

 

『…また、敵ISの放つエネルギーシールドはコンペートの絶対防御を凌駕する出力です。アライズ並みの火力で無ければ傷ひとつつけられません。』

 

セシリアの言葉通り、レーザーライフルとレーザーオービット、加えてミサイルオービットの一斉射を先程から繰り返しているが、全てが悉くエネルギーシールドによって霧散している。

それでも、セシリアは攻撃を繰り返す。

────その場に、釘付けにする為に。

 

『────現状では、タキオンブレードである織斑さんの《雪片弍型》が唯一対抗策たり得る手段でしょう。』

 

いきなり話の矛先をこちらに向けられ、一夏は困惑する。

 

「な…!お、俺が?!」

 

『はい。』

 

「無理だ!シールドエネルギーの残量的に、零落白夜はあと40秒だって展開出来ない!」

 

一夏が叫ぶ。

鈴に手酷くやられた白式は、シールドエネルギーの残量が既に30%を切っていた。

自身を執拗に狙っていたので、斬り込む事はできても、補給をしなければまともに運用すら叶わない。

────せめて補給させてくれ。

言外に一夏は訴える。

 

『────補給は不可能なんです。アリーナ各所でCPUウイルスを検出。バグ取りもしていますが依然、機体汚染の恐れがありますので、補給は許可出来ません。』

 

「そんな────」

 

『現在、警備部支援部隊が向かっています。ですのでお二人とも、今は待機していて下さい。…凰さん、最悪シールドエネルギーを織斑さんに回す事になる可能性が有りますので、準備しておいて下さい。』

 

『…何ソレ?一夏が頼みの綱だっての?』

 

淡々としたセシリアの言葉────それに、苛立ちを覚えた口調で鈴が噛み付く。

それに、困ったようにセシリアは語りかける。

 

『凰さん、今は私情を抑えて下さいまし。織斑さんの機体無しでは不可能なんです。ですから────』

 

『ざっけんじゃないわよ!あんなの、アタシ一人でやれるわ!!』

 

セシリアの声を振り払う様に鈴がスラスターを蒸し、敵ISに突貫する。

────一夏から納得のいく対応をして貰っておらず、それ故に苛立っていた鈴にとって、一夏を頼るというのは、耐えがたい事態だった。

冷静に考えれば、そんな判断は誤りだ。

しかし鈴は────冷静さを欠き、私情を優先した。

 

「鈴ッ!」

 

『ッ、凰さん!今は待機命令中で────』

 

一夏の声と、独断先行を戒めるセシリアの声。

それに鈴は羅刹の如く顔を歪めて、

 

『────アタシに命令しないで!!』

 

────叫ぶ。そして、

 

『てぇぁぁぁぁ────ッ!!』

 

レーザーの弾幕の中を掻い潜り、鈴が双天牙月を敵ISに振るう。

しかし────それはエネルギーシールドに弾かれる。

 

『ッ、まだまだァ────!』

 

再び斬りかかる。

だが眼前のエネルギーシールドが、部分的に解除される。

────一瞬の後。

敵ISの巨大な右腕が甲龍のコックピットブロックを掴み、握り締める…!

 

『がッ…………!』

 

生じた衝撃がコックピットを激しく揺さ振る。

衝撃で弾け飛んだ内壁の破片が飛び込んで来て鈴のこめかみを切った。

コンペートとは比較にならない握力で締め上げられ、最も頑丈なハズのコックピットブロックが軋む音を立てている。

────巨大な万力に、潰される様な錯覚を覚えた。

それで鈴を支配していた感情は霧散した。

だが冷静さが戻ることは無かった。

────激情が、恐怖に転じただけなのだから。

敵ISの中指によってコックピットブロックの上にある頭部がその締め付けに屈し、遂に機能を停止する。

見るからに頑丈で事実相当な重防御で知られたそれはいまやひしゃげた一斗缶のごときありさまを呈し、多数の複眼から成るカメラ・アイを巻き込んでそのすべてがショートし、あるいはカメラアイのレンズが飛散し────網膜に映し出されていた外部情報の大半が即時消滅した。

メインセンサーを失ったことで甲龍が情報提供を遮断したのだ。

それは、鈴の士気(モラル)を崩壊させる引き金には充分だった。

突如として視界のすべてが砂嵐で覆われ、失明したかのごとき錯覚を受けた鈴は、正気を疑わせるほどの悲鳴をあげた。

もはや見栄も外聞も尊厳もない。

もはや一夏やセシリアからの無線も耳に届かない。

────まともに抵抗する事すら忘れて、死にたく無いとすすり泣く。

だが、敵ISはそんな彼女の意思などお構いなく、ただひたすらに締め上げる力を強めていった…!

 

《オルコット!突入支援を────!》

 

鈴には届いていない中、無線の向こうで一夏はそう叫んだ。

 

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

────同時刻

────同・学園中庭

 

芝生の中に古代ギリシャをイメージしたオブジェや建築物が立ち並ぶ学園中庭エリア。

そこでは現在、警備部EOS部隊と不明ISが交戦していた。

 

「────くそが。やっぱ焼石に水かよ…!」

 

A-CIS/EOS(03式打鉄壱型丙)に乗り込み右腕に持つMk.8_90mm速射砲で敵機に応戦していた高木は思わず悪態を吐く。

アリーナに突入する支援部隊を護衛するべく彼自身も打鉄壱型丙で出撃。

 

────護衛対象

EOS(ターンソウル)12機

EOS(ブルーウェーブ)6機

74式改戦車8輌

 

────護衛部隊

A-CIS/EOS(打鉄壱型丙)6機

EOS(ターンソウル)18機

 

それら臨時編成隊を率いて、護衛対象の前方を行き、多目的防災署から第2アリーナまでの最短ルートである中庭を突っ切ろうとした。

そこでアリーナを襲撃していたものとは別の敵不明ISと遭遇────現在に至っている。

幸い生徒は地下シェルターに退避済みであり、兵器使用自由の命令は降りていた。

寄せ集めではあるが────戦闘実力において冠絶する敵を相手にした彼らは密集した中庭のオブジェや付近の校舎、雑木林を即席の防御陣地として使用し、素人目にも明らかなほど巧みな防衛戦を展開している。

高密度の訓練を施されたことで練りあげられた高い士気が、自己犠牲に近い彼らの抵抗を根本で支え続けていた。

だが、それとても所詮は凶暴な雀蜂を前にした蜜蜂の群れに等しい。

────否。現実にはそれ以上の差があった。

…嘲笑うように、不明ISが肩部レーザーキャノンを放つ。

────それが1機のターンソウルが身を隠した建物ごと、打ち砕く。

ターンソウルの群れが浴びせかける三十ミリ砲弾が、四方八方から雨霰と不明ISに叩きつけられる。

しかし、その機体全周を覆うエネルギーシールドを突き破るには到らない。

対抗するにはアライズ級の火力────大口径大質量実体弾あるいはエネルギー兵器の類が警備部隊にあれば、かなわぬまでも敵不明ISを相手に一矢報いることができただろう。

それらの兵装であるならば、あのエネルギーシールドを突破したあとにもある程度の攻撃力を残存させることが可能だからだ。

しかし、それでは後知恵にもとづく「たられば」の領域を出ない。

警備部隊の隊員たちはそれが匹夫の勇であると知りながら、それでもなお蟷螂の斧に等しい武器を携えて目の前の脅威に立ち向かう。

────アリーナには、今護衛している支援部隊を必要としている子供達がいるからだ。

それも、到着が長引けば長引く程、死ぬ可能性が上がって行く者達だ。

だから高木は最短ルートを選択した。

だがそれは裏目に出てしまい────

 

「くそったれ────!」

 

────90mm速射砲を穿ちながら、高木は学園の地図を網膜投影で開く。

幸い、現在護衛対象は後方で待機を命じている為無傷だ。

そして犠牲を払ってまでアリーナに向かうルートを強行突破させる必要はない。

故に、ルート変更の為に地図を展開したのだ。

 

警備部隊隊長(セキュリティリーダー)から支援部隊(バックブロウ)指揮官(リード)!」

 

────無線を開き、高木は支援部隊に怒号を放つ。

網膜には、アリーナに繋がる物質搬入用地下トンネルが表示されている。

中庭のルートより遥かに遠回り────だが、高木たち護衛担当部隊が不明ISを釘付けにしている限り、通る事は可能だ。

 

「────ルート変更!アリーナ搬入用地下トンネルを通れ!」

 

『了解、支援部隊(バックブロウ)全機、移動再開します。────ご武運を…!』

 

高木の命令を受け入れ────支援部隊の指揮官は歯を噛み締める様な声でそう告げ、通信を終える。

…正直な話。それに応えられるだけの余裕は高木に無かった。

不明ISが自治区と学園に突入してから無線で聞き取れた限り、すでに10機以上のEOSが撃破されていた。

だが、不明ISの足を止めることすらできていない。

不明ISが一方的な破壊と殺戮とを文字どおり楽しんでいるかの様にいまだこの位置で留まっている理由は分からない。

────同時に、市街地の方でも大規模な爆発が連鎖し、300メートルはくだらないキノコ雲が立ち込める。

同じ様に、市街地では倒壊する建物を避け、巻き起こる炎に追われて逃げまどう罪なき人々を守るべく警備部の別働隊が戦っている。

そのうちのどれだけが友人知人あるいは肉親を傷つけられ永遠の別れを強制されたのか、いまの段階では定かでない。

わかっているのは、それが決して低い比率でないことだけであった。

それだけは確かであった。

そんな彼らを尻目に轟然と仁王立ちする不明ISの姿。

それは、まさに神話の御世から降臨した破壊神そのものの姿であった。

高木の90mm速射砲と部下達の30mm機関砲やミサイルが放たれるが、依然として全てエネルギーシールドにより無力化され、帰す刀で腕部パルスキャノンと肩部レーザーキャノンを撃ち込まれる。

それらの直撃を受けた味方のターンソウルが更に2機爆散する。

────まるで自身はお前達の上位存在であると誇示しているかのように、不明ISは高木たちを蹂躙する。

 

…しかし世の中には、上には上がいるというもの。

────北東より、蒼雷の奔流が走る。

落雷が直撃したかと錯覚する爆音と共に、敵不明ISのエネルギーシールドが大きく減衰する。

…それはプラズマ砲の類が敵不明ISに叩きつけられたのだと理解するのと、もう一度プラズマ砲が弾着したのは同時だった。

…それで、敵不明ISのエネルギーシールドは機能を停止し、丸裸にされる。

着弾の衝撃で敵不明ISは体勢を崩し────それを見逃す高木ではなかった。

 

「全機ッ!一斉射────ッ!!」

 

高木の打鉄壱型丙が90mm速射砲を穿つ────!

それは、敵ISのコアブロックを喰い破り、機体中枢部に致命的な損傷を齎す…!

それを皮切りにターンソウル達が30mm機関砲を放ち、敵不明ISを蜂の巣にしていく。

先程までエネルギーシールドに阻まれていた砲弾らは、その鬱憤を晴らすかの様に敵不明ISの表層を、四肢接合部を、余すところ無く吹き飛ばしていく…!

それら攻撃をモロに受けた不明ISは、不時着と同時に土煙を立てて脚部フレームがへし折れる。

────そこを、三方向から突貫した打鉄壱型丙が03式長刀Ⅱ型でそれぞれすれ違い様に斬り伏せる…!

それで、両腕と胴体が泣き別れ────だがそれでも、悪あがきに肩部レーザーキャノンにエネルギーが充填されて…!

 

「────喰らっとけ。ブサイク人形…!」

 

それを黙らせるかのように、高木の90mm速射砲が二発叩き込まれた────!

…以って、敵不明ISは沈黙した。

────先の横槍から僅か5秒。

それで戦闘の優劣は反転し、高木たちに勝利を齎した。

 

『────お邪魔だったかしら?』

 

ふと、北西より1機のアライズが飛来しながら無線で声をかけて来る。

その声の主は国家安全保障局暗部部長にして学園生徒会長────更織楯無だった。

彼女の機体────19式【海月(カイゲツ)】は左腕に127mmプラズマ砲を下げており、先程のプラズマ砲は彼女のものだと理解する。

 

「────いえ、ナイスタイミングです。」

 

高木は90mm速射砲のマガジンを交換しながら応える。

 

「…学園内の敵機はアリーナのやつだけです。」

 

『了解────やはり、市街地のインフラ破壊が目的のようね。』

 

楯無が事前に聞いていた情報を思い返しながら口にする。

飛来した12機のうち、2機はIS学園。

その他10機は市街地に展開していた。

そして齎された情報が正しければ、西部アッパーウィンディ区にはユーロ軍のアライズが。北東部にはナガトと箒の2機が布陣している筈だった。

 

『────私は市街地の敵機を対処します。アリーナの敵機はお願いします。』

 

「了解。」

 

互いに簡潔に交信し、そして自らが赴くべき場所に向けて移動する。

────事態は急を要する。

その事実だけは、変わらないのだから。

 

『────こちら警備部南風ジャンクション守備隊────』

 

ふと、市街地で新たな戦闘が始まった事を告げる無線がこだました。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

────同時刻

────同・マリンゲート区

────南風ジャンクション

 

トキオ自治区の全高速道路と、九州本土と自治区を繋ぐ西海道連絡大橋を結ぶ、巨大な立体式分岐合流地(ジャンクション)

平面交差を排し、立体交差化する事で速度を必要以上に落とさず円滑でありながら安全な分岐・合流を実現し、接続された別の高速道路へ進むことに特化したそこもまた、戦場となっていた。

学園警備部隊から派遣された連結型装甲戦闘車輌が複数台ジャンクションの高架道路に配置されている。

荷台には、鎌首を上げるビーム兵器の照射アンテナが備わっており、その照準は────眼前より飛来する、1機の敵不明ISに向けられていた。

 

『目標、前方不明人型航空兵器────()ッ!』

 

指揮官の号令────それと同時に、高架道路に展開していた戦闘車輌から光の焦点(レーザー)が放たれる。

空に向けて放たれ焼かれた空中分子がプラズマ化し、弾けると同時にカーテン状に落雷を引き起こし、不明ISのエネルギーシールドを引き剥がす…!

空中で連鎖する雷電の炸裂。

それは、地上より空中の兵器を穿つことに特化した戦闘車輌────17式自走レーザー高射砲。その改良型(アップデート)モデルだ。

日本帝国で開発された同車は試験の為にトキオ自治区に訪れており、この戦闘に巻き込まれた。

しかし逆を言えば、実戦試験の機会が得られたという事────!

レーザー高射砲はそれに歓喜するかのように、光の矢を次々と放つ…!

────正確無比に着弾する光の矢。

────出鱈目に拡散するプラズマ。

それらは敵不明ISのエネルギーシールドを削ぎ落としていく…!

想定以上の攻撃に、不明ISは思わず回避行動に移行し────その身を、背後から(・・・・)蒼の閃光(レーザー)が貫いた…!

 

 

『────ワンキル!』

 

(僚機)からの撃墜宣言(キルコール)と共に市街地上空に駆け上がるふたつの機影。

────ナガトの日方風と、箒の雷火だ。

そして今のレーザーは、日方風の左腕に搭載されたRoD/LB-1(カノープス)レーザーバズーカから放たれたものだった。

 

「流石、狙撃精度自慢のイギリス製────存外、当たるものだな。」

 

ナガトなりの褒め言葉。

正直エネルギー兵器は安定性に欠く為個人的には好まないが、実戦ではそうも言っていられない。

それを証明するように──── 2人の眼前には、新たに1機の不明ISが現れて。

 

「ハッ────、」

 

ナガトは思わず笑みを溢す。

健気に抗う姿勢の敵IS。

通常であれば、アライズが投入されただけで逃げ出す輩が最近は大多数だというのに。

 

(────剛毅な事だ。)

 

『接敵まであと5秒…!』

 

箒の報告を耳にしながら笑みを浮かべ、ナガトは日方風のスラスターを蒸す。

機体が加速し、身体が後ろに持っていかれるのを堪えて、格納兵装の03式近接長刀Ⅱ型を展開し、副腕に装備。

敵ISもまた巨大な腕を展開し────掌から、レーザーブレードが形成される。

 

「面白い────!」

 

────既に地上は遠く、両者の激突は際限なく高度を上げていく。

反重力翼により空を舞う両者は足場など必要とせず、ビルの壁面を蹴るだけで(くう)を駆け抜ける…!

不明ISは巨腕を突き出し、レーザーブレードが日方風に迫る。

────それを、ナガトは03式近接長刀Ⅱ型で受け流す…!

飛び散る火花。

慣性に従い中程まで突き出された巨腕。

────不明ISの表皮を長刀の刃が舐め上げて、関節部(非装甲部)に達した瞬間。

 

「ふッ────!」

 

刀の峰を下から叩き上げるように、刀の柄を上から叩き下ろすように────テコの原理を応用し、刃は不明ISの腕を切断する…!

そしてナガトは速度を落とさず────長刀を手放し、駆け抜ける。

…それらは全てはすれ違い様の一瞬。

────そのまま日方風は敵ISの背後に回るなり、瞬時旋回(クイックターン)

 

「────ふんッ!!」

 

────左腕の81式Ⅲ型穿孔射突剣(パイルバンカー)を纏った拳をもって、背後から殴り打つ。

撃ち出されたタングステン合金の鉄塊が、凄まじい装甲侵徹力をもって、敵ISを粉砕する…!!

機体フレームは上半身から上の原型が失われ、臓物の代わりに内装パーツ群が紙吹雪の様に飛び散る────それを尻目に、ナガトは日方風を一気に急上昇させる。

────同時に響く、レーザー照射警報(アラート)

餌に釣られた魚の様に、先のものとは別の敵ISがナガト目掛けてレーザーを放つ。

迫り来る4つの光芒。

その全てがレーザー光。

レーザーキャノンは肩部に1つずつの1機あたり2門。

ならば数は2機か。

そう考えながら、ナガトは多段横深瞬時加速で機体を左右に────超音速域で振り、ビルをすら溶断する光速域の矢(レーザー)を躱す。

無論こんな軌道を取れば、狙い撃ちされるのは必然というもの。

それを解らぬナガトではない。

────証明する様に、敵ISが付近の敵反応を検知する。

ナガトの日方風とは反対側の自動車道の向こう。

────距離2000メートル。

そこ突撃して来る────雷火(赤い稲妻)が迫り来る。

 

『気付かれた…!』

 

思わず箒は毒付く。

しかし軌道は変えず、むしろ前に雷火を突っ込ませる…!

────距離1500メートル。

しかし、敵ISが雷火を阻止できる限界距離を超えている事は明白だ。

レーザー兵器はその特性上、大火力であればあるほど、エネルギーの再充填と砲身の冷却に多大な時間を要する為に連射には向いていない。

────距離1000メートル。

更に腕のパルスキャノンも確かに強力だが、レーザーと比較して拡散しやすく威力の減衰を招くという欠点が目立つ。

加えて、この機体は絶対防御を上回るエネルギーシールドを常時展開している。

更にエネルギー兵器で固めていることが災いし────5秒間、攻勢無防備状態となってしまうのだ。

────距離500メートル。

そして、5秒もあれば、それで充分。

雷火の脚をもってすれば、その間に駆け抜けるなど、造作も無い…!

────距離100メートル。

つまりナガトは、箒の雷火が敵ISの付近に至るまでの時間稼ぎとして、ワザと狙われる様な挙動を取る────囮役を務めただけなのだ。

その結論に至ったのか、敵ISはエネルギーシールドの出力を減らしてまでそのリソースを腕部パルスキャノンに注ぎ込む。

手甲部に埋め込まれた砲口に、光芒が満ちる。

────距離50メートル。

至近距離からの、パルスキャノンが撃ち込まれる。

それはレーザーと等しい光速の砲弾となり、雷火に向けて襲い掛かり────そして、

 

『はっ────。』

 

────笑う。

箒は笑う。

自信と自戒。

衝撃と歓喜。

二律相反。けして混じり合わない感情を殺意がぐちゃぐちゃに混ぜ溶かした感情。

垢抜けない、だがしかし獣のようにどうしようもなく歪んだ口と、射殺すように収縮した瞳孔で彩られた顔を浮かべそして────

 

『────はぁッ‼︎』

 

箒が手にした叢雲(ムラクモ)のイオンブレードが奔る。

自分を撃ち抜こうとするパルスキャノンを、彼女は演舞を舞うように斬り伏せる。

……パルスキャノンが標的に向かって放たれたミサイルならば。

彼女の剣はソレを叩き堕とす迎撃ミサイルだった。

敵機体との距離を一気に詰める。

悪あがきに敵ISは、癇癪を起こした子供の様に巨腕を振る。

 

『黙って────』

 

イオンブレードが迫る。

それは振るわれた巨腕を、熱したナイフでバターを切る様に両断し、

 

『────失せろ!』

 

────緋色の粒子を纏った渾身の一閃が、敵機の胸部を断絶する!

 

爆炎を上げ、崩壊する上半身。

その背後から、敵機の僚機が箒を睨みながら、再装填の終わったパルスキャノンを向けて────

 

「────おい貴様、俺を忘れてくれるな。」

 

────ナガトが言い、思わず敵機が振り返る。

巨体が飛ぶ。

ざっと4000メートル離れていた筈のそれは0.1秒もの速さで突貫してくる────!

それに気付いた敵ISは、箒には目もくれず、ナガト目掛けてパルスキャノンを穿つ…!

放たれた琥珀色の光は、高速で飛来する鉄塊を射抜いていく。

機関銃めいた掃射。一撃一撃が秘めた威力は容易く現用兵器を無力化し得るだろう。

家屋を数棟消し飛ばすには充分な火力を秘めたそれは、しかし。

 

「────終いか?」

 

日方風には、何ら効果を持たなかった。

そして────激突する脚部と胸部。

パルスキャノンを受けた日方風は一切減速せず、そのまま敵ISに強烈な飛び蹴り(ドロップキック)を見舞う。

その衝撃で敵ISの胸部コアブロックが火花と共に嫌な音を立ててへこむ。

だが終わらない。

地に落ちるより前、そのまま蹴りを打ち込んだ胸部を足場に日方風は再び飛び上がり。

 

「────せッ!」

 

サイドブースターを全力で蒸した瞬時旋回(クイックターン)

そしてそのまま、旋回で得た加速エネルギーを帯びた45トンもの右脚(大質量)が、渾身の回し蹴りを放つ────!

それをモロに受けた敵ISは、そのまま吹き飛ばされ、倉庫の外壁に叩きつけられる。

砕け散るフレーム。

割れて飛散するコンクリート。

胸部コアが破壊され、左腕は機能を停止。

右腕は付け根から脱落し地面に転がっている。

肩部レーザーキャノンはエネルギー供給ラインが断線し、ただの飾りに成り果てた。

脚部フレームと上半身の接合部が致命的に破損し、自立歩行すら不能。

敵ISは、5秒にも満たない会敵時間で無力化されたのだ。

────ただ二発の蹴りだけで、である。

…その、信じがたい現実を前にして今一度、敵ISは日方風を睨みつけた。

ノイズが走り、乱れる視界の中。

────日方風(鉄の巨人)は左腕に持つレーザーバズーカをこちらに向けていて。

刹那、光芒と共に蒼の閃光が敵ISの世界を刈り取った…!

 

 

『────ッ!やっと繋がった!こちらIS学園警備部指揮官代行・相川です。全部隊に伝達!襲撃機体はIS型のUAV(無人航空機)である事が判明!敵機体残数6機────!』

 

 

 

 

 




〜あとがき〜

◉ナガトと箒のナゼナニ劇場EX01

▪︎高木
「よく見てくれた。残念ながら今日は八雲も箒チャンもいない。」

▫︎楯無
「騙して悪いけど仕事だからね、視聴してもらうわ。さて、今日は前回リクエストのあった『日本帝国の成り立ち』について解説していくわ。」

▪︎高木
「イエェェェェイ!(ドンドンパフパフー)」

▫︎楯無
「ではまず日本帝国の成り立ちからね。」

▪︎高木
「そもそも第2次世界大戦後なのによく帝政維持してますねぇ…」

▫︎楯無
「一応皇族に政治干渉の権限はなく、国民から選ばれた内閣総理大臣が全権を有しているから、一応は民主主義国家ね。
 …さて、成り立ちに話を戻すんだけど、第2次世界大戦を1945年まで戦わず、1944年で条件付き降伏したから、国名を大日本帝国から日本帝国に改称する程度で済んだ。ってところかしらね。」

▪︎高木
「いやー流石に他にも理由はあるでしょう?」

▫︎楯無
「そーね、細かいところまで行くと…ひとつは、1943年にドイツのユダヤ人虐殺(ホロコースト)の実態を耳にして日本はドイツとの同盟を破棄。そのまま当時不可侵条約を結んでいたソ連と共にユダヤ人保護に乗り出したのも理由ね。
 当時は長崎・広島・神戸・横浜・函館にユダヤ人街が形成される程受け入れていたそうよ。
 …まぁ、広島のユダヤ人街は8月6日の条件付き降伏の講和会議中に投下された原爆で全滅したけれど。」

▪︎高木
「え結局原爆落とされてるんすか?」

▫︎楯無
「ええ。どうやらトリニティ核実験に使われた原子爆弾の試験場を広島にしたようね。
 だから、広島は、《人類史上初めて原子爆弾が炸裂した場所》となっているわ。
 …まぁ、広島のユダヤ人6万人を原爆の巻き添えにし、それがアメリカの資本家等に知れるなりアメリカ国内で厭戦ムードが起きたからね。当時は資本家にはユダヤ人が多かったし、彼らにとって《同胞ユダヤ人が原爆によって虐殺された》という事実は衝撃だったしアメリカの政界にまで波及する騒ぎとなった。
 現実でも、『私は原子爆弾を開発するべきでは無かった』と言ったとか言ってないとかで有名なアインシュタイン博士が、こちらの世界では【博士の過ち〜そして私は如何にして虐殺者となったか〜】という著書を出版し米国でベストセラーとなるくらいには…ね。
 こんな言い方は苦手だけど、彼らは今日の日本帝国が存在する為には必要な犠牲だったのかもしれない。…胸糞悪い話だけどね。」

▪︎高木
「…他の理由は?」

▫︎楯無
「他には、この世界のドイツとイタリアが史実以上に強力だった事。ドイツはソ連をシベリアに追いやったりノルマンディー上陸作戦で上陸部隊を撃退してしまったりアメリカに次いで原爆を開発してみたり。イタリアは陸上はともかく海上では地中海の制海権やジブラルタルからドイツまでの航路を手中に収める程。
 そんな状態だから連合国は事実より劣勢。
 猫の手も借りたいって事で、日本軍の残存部隊を臨時編成し、旗艦大和を中核とする残余臨時編成軍を欧州に派遣したの。
 そこでドイツやイタリアとドンパチし、イギリスへの侵攻を挫き、ドイツとイタリアの欧州大陸への封じ込めに寄与した。
 主要な要因は以上よ。」

▪︎高木
「纏めると、日本が帝国のままなのは、
・1944年に条件付き降伏を受諾した
・ドイツと袂を分ちユダヤ人保護に切り替えた
・広島原爆でユダヤ人虐殺という事態を連合国軍が引き起こした
・降伏後、残存軍を欧州に派遣して連合国軍として戦った
 …と。だいたいこんなもんスかね。」

▫︎楯無
「ええ。じゃあ今日はお開きね。次回はゴーレム戦後半といったところかしらね。」

▪︎高木
「そっすねーではまた次回ー。」

次回もよろしくお願いします。
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