インフィニット・ストラトス・アライズ-Dominater of Battlefield-   作:天津毬

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|ω・)チラ

|•ω•。)"…ソォーッ

(。•ω• 。)
皆様お久しぶりです。アマツです。

気がつけば前話から1年も経ってしまい、申し訳ありません。

ちょっと半年ほど仕事が多忙になってしまったり、コロナに罹患したり、アーマードコア6に熱中したりで全く執筆出来ておりませんでした。
申し訳ありませんでした。

今回はゴーレム戦終盤となります。
長々とかかってしまい、申し訳ありません。
まぁ、なんだかんだ1万文字以内には収まるかなt………2万6678文字?

( ;゚Д゚)
じょ、冗談じゃ……







#11 Ghost and Wolf(機械と狼)

 

アメリカ合衆国ワシントン州

シアトル=タコマ広域都市圏ピアース郡

────フォートルイス基地

────同・A.T.L.A.S.(アラスカ条約機構)本部第一執務室

 

「────状況は、芳しくないな。」

 

無機質な室内で、デスクの上に置かれた赤電話(ホットライン)を手にした男は鋭い目で言葉を発した。

 

『ええ、事態は深刻だ。10年前の再現と言って良いでしょう。』

 

受話器の向こう側にいる男が口にする。

呼応する様に彼の眼前にあるモニター────そこに映る世界地図に、赤い光点(グリップ)が刻まれている。

 ────アメリカ合衆国領サンディエゴ

 ────アメリカ合衆国領ハワイ

 ────欧州連合・リステンブルク自治区

 ────イスラエル領エルサレム

 ────英連邦王国領香港

 ────日本帝国・トキオ自治区

 

『世界6ヶ所で、国連────旧コロニア派による同時多発的武装蜂起。この修正、容易ではありませんね。

 ────米国国防総省(ビッグボックス)はどのような対応を?』

 

受話器の向こうにいる男に告げる。

 

「────既に太平洋地域にはタスク04を発令。サンディエゴにはNo.15(クレイ)を、ハワイにはNo.11(カズマ)を派遣。

 香港にはNo.21(カレン)No.39(楽音)の派遣をイギリスと台湾に要請…現在移動中だ。

 ────欧州連合(ユーロ)はどうなっている?』

 

『────大西洋地域も同様ですね。リステンブルクにはNo.27(アレン)を派遣。…しかしエルサレムは政治的事情により、派遣が進んでいません。』

 

「────エルサレムは我々(アメリカ)で対応しよう。福音(ゴスペル)計画の一環で派遣されているUSA-No.7(ナターシャ)USA-No.8(イーリス)を使う。

…で、トキオ自治区はどうしている?シュヘンベルク。」

 

改めて、男が問いかける。

それに受話器の向こう側にいる男────シュヘンベルクと呼ばれた人物────は、男に回答した。

 

『被害が大きく、また電子攻撃(ジャミング)の影響で情報が錯綜しています。

…現在、A.T.L.A.S.日本事務局の司令官(ジグナー中将)を介して現地アライズを強制徴発。

EUR-No.4(ゲラルト)No.16(アウグスト)JPN-No.7(更識楯無)JPN-No.12(篠ノ之箒)のヘズナル4名が交戦中。EUR-No.21(シャルロット)はアラスカ条約に基づく投入機体制限により母艦《ジークフリート》にて待機中とのことです。』

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◇◆◆◆

 

 

 

日本帝国長崎県五島市浜町

男女群島・国連直轄領トキオ自治区

────同・セントラル区

 

『────【B(ベルセルク)モード起動要請受理。』

 

 ────機体同調過負荷限定接続(第1リミッター、解除)

 機体(アライズ)操縦士(ヘズナル)を繋ぐ神経接続端末(バイオデバイス)の、神経接続レベルを上げる。

 ────同時に、3段階ある第1拘束機能(リミッター)が外された。

 黒騎士の思考速度と状況判断速度はすさまじい────それは数度の打ち合いで嫌というほど味わった。

 しかし、それは決して目に見えないものや魔法めいた存在ではないし、何の情報もなしに未来が予測できるわけではない。

 ────ISを介している以上は、ハイパーセンサーがとらえた入力情報を元に演算し、物理的な動作を出力しなければならない。

 動きの初動から、直後の未来を予測演算できるのは、神経接続レベルを上げたナガトも同じだ。

 演算能力で勝る機械に人間が打ち勝つには、『予測をさせない』か、『予測を上回る』必要がある。

 その為に────IS適正が低くければ廃人と化す領域へと、ナガトは足を踏み入れる。

 光が、逆流し────ナガトは広大な神経接続の深海へと潜り込む。

 

「っ────、ぅ」

 

 ────脳細胞が沸騰する。

 視神経が無限にも拡張され、急速に視界がクリアになる。

 相対する黒騎士の装甲表面の傷。

 その凹凸がミリ単位でくっきりと見えるほどにまで視覚の解像度がハッキリする。

 

「っ、ぐ────!」

 

 ────脳が、灼熱した。

 脳細胞が過負荷により、チリチリと爆ぜる音がする。

 人間の脳は通常環境下において、全体の機能の10%しか一生涯稼働していないという。

 神経接続端末と繋がった脳は、その枷を容赦なく外す。

 ────脳の空白領域が、アライズの制御という役割の為にフル稼働する。

 

《────システム、起動します。おかえりなさい、オリジナル。》

 

 1秒に満たない瞬間の中────ナガトがシステムを起動することを想定していたかの様な音声プログラムが鳴る。

 そして枷を外されたナガト/日方風は、狂戦士(ベルセルク)のごとく黒騎士に飛び掛かった…!

 

 

 ────(黒騎士)右腕(タキオンキャノン)の放熱版にタキオン粒子を集中させる。

 …あくまで、剣で挑む。

 おおよそ合理的な判断ではなく、もはやそれは無茶か馬鹿の一つ覚えの領域。

 だがそれでも、私────織斑マドカ(G.D.モデル1064)は、その戦法を崩すことはなかった。

 きっと、アイツなら────この戦い方を崩すことなど無い筈だ。

 …なぁ、そうだろう?

 

《────イチカ。》

 

 スキャン完了(少女は呟く)

 戦闘モード再構築(私はタキオンブレードを振るう)

 ────瞬間。

 ハイパーセンサーに反応アリ(眼前敵が突如挙動を変える)

 警告、衝突警報発令(眼前敵が、私に飛び掛かった)

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

────同・セントラル区西部

 

 撃破対象である無人ISに近づくにつれ、セントラル区西部に位置する高層ビル街が少しづつ大きく見えてくる。

 前方のビル群の狭間────そこに、巨大な鉄の塊が確認できた。

 …思わず息を呑む。

 体積にすれば、およそアライズの10倍ほどはある大きさ────全長55m、全幅20mはあるだろうか。

 肥大化した巨体、あるいは下半身を支える堅牢な6本脚。

 それに支えられた下半身には上半身が旋回砲塔として埋め込まれ、また装甲表面にはいくつかのハッチが確認できる。

 上半身もISの3倍近い大きさの巨体であり、巨大な砲身となった両腕と肩部のガトリングを振り回す。

────超大型重装機(クレイドール)

 その、ISとしてはあまりに現実離れした(規格外過ぎる)スケールに箒は思わず畏怖を抱く。

 ────だが、止まる訳にはいかない。

 眼前では────そのデカブツに挑む、2機のアライズがいる。

 奥歯を噛み締めながら、箒はスラスターを蒸し、全速力で向かう。

 

『────やりましたよ、騎士さん。援軍です。』

 

 ふと、交戦中のアライズから無線が入る。

 

『来たか────すまんが手が足りない、加勢頼む…!』

 

 女の声と、男の声────それと同時に敵機体の兵装データが網膜に投影される。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【クレイドール】

 

ーーー兵装ーーー

腕部兵装右:V-G6パルスマシンガン

      1К17«Сжатие»50mm大出力ルビーレーザー砲

腕部兵装左:V-G6パルスマシンガン

      1К17«Сжатие»50mm大出力ルビーレーザー砲

肩部兵装右:380mm対艦砲

肩部兵装左:380mm対艦砲

腰部兵装:Mk.41VLS(垂直発射基)

脚部兵装:KRM-LB-1《六花》レーザーブレード

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ────もはや要塞と形容するに相応しい重装備。

 こんなゲテモノ、一体どこに隠し持っていたのか。

 …ふと────敵機動要塞は、6本足の歩みを止めた。

 中央の本体部分をわずかに低く屈め、肩部から延びる380mm対艦砲を動かし────ソレがピタリと動きを止めると、先端から光が瞬いた。

 少し遅れて衝撃波と発破音がこちらにも届く。

 同時に先程までいた後方、マストタワー上層階に着弾する。

 先程のレーザー照射により上層階に大規模な火災が発生していたタワーは、今の爆発で構造体が限界を迎えたのか────雪崩の如く瓦礫をまき散らしながら上層階が崩壊していく。

 

「ちッ────!」

 

 ぎり、と奥歯を噛み締めながら箒は舌打ちしつつ、全速力で接近する。

 ────そして、そういえば挨拶がまだだったなと箒は思い出す。

 

「────了解。ライカン03、加勢します!」

 

『なるほど、卿が────…よろしく頼むッ!!』

 

 無線から轟く男の声。

 直後、レーザー照射警報が鳴り響き、視界を紅色の光が埋め尽くし────

 

「ッ────!」

 

 思わず、箒は雷火の機首を地面目掛けて倒して回避する。

 そのまま雷火は頭からアスファルトに突っ込み、まるでミキサーにぶち込まれて掻き混ぜられている果実のように視界がめちゃくちゃに攪拌される(スピンする)

 ────砕け散る路面。

 ────後方の市街地。

 ────黒煙燻る空。

 ────敵巨大IS。

 ────路面に刻まれた止まれ(通行停止)のサイン。

 それを数回繰り返した後に雷火の脚部で強くアスファルトを踏み抜き、前転(スピン)にブレーキを掛ける。

 

「────っ、翔べ…!」

 

 そしてスラスターを蒸し、瞬時加速────強引に機体の姿勢を立て直す…!

 それと同時に、Mk.41VLS(垂直発射基)から巡航ミサイルが放たれ、高い放物線を描きながら箒の頭頂を目掛けて降り注ぐ。

 数はざっと、60発以上────!

 ────以前時代劇で見た、弓兵隊に蹂躙される歩兵の視点になったようだと、場違いな事を箒は思う。

 その時見た場面では、空を埋め尽くす数の矢による飽和攻撃で、行軍中だった足の遅い歩兵部隊は手も足も出ずに全滅した。

 兵装の種類に違いはあれど、シチュエーションはほとんど変わらない。

 ────他に違いがあるとすれば。

 こちらには────ミサイルを防ぎ切る装甲があり、ミサイルを叩き落とせる迎撃兵装があり、ミサイルを躱し切るだけの脚を備えているという点である。

 

「ッ、ふっ────!」

 

 それを証明するかのように、箒は再度瞬時加速。

 ────距離を詰めるために回避はしない。

 ミサイルを粒子装甲(パーティクルアーマー)で受け止めながら、叢雲の高速イオン砲(パルスキャノン)で1発ずつ確実にミサイルを撃ち落としていく────!

 そこへ────装甲越しに鼓膜を震わせる爆音と共に、先ほどの主砲が放たれる。

 だがそれでも前進は止めない。

 前方へ3度目の瞬時加速をして対艦砲を紙一重で回避────同時に最後のミサイルも叢雲のイオンブレードで撃ち堕とす(斬り伏せる)…!

 

『中々強引だな────いや、猛々しいというべきか。』

 

 ふと見ると、友軍機────EiR-Type-ⅩⅥ(ヴァイムランナー)から男の無線が走る。

 特徴的な鶴嘴帽子(ピッケルハウベ)型アンテナに一角獣を想起させるユニコーンマストを装備した頭部に騎士甲冑めいた胴体を赤銅色に染めたその機体は。

 右腕に装備したアイゼンライン社製ⅡⅩ式/S6(シュヴェルトゼクス)ハイレーザーブレードを振い、敵のパルスマシンガンを相殺する。

チェンソー、あるいは大剣(グレートソード)

 その様にしか形容出来ないカタチのブレードは、数万℃の高熱をもって大気をプラズマ化させ、敵の猛攻を容易く打ち払う…!

 

『戦いながらで済まない────こちらはレヴェラント連合国ドイツ連邦州軍ヘズナル、ゲラルト・ヴォルテンガー中尉。コールサインはライカン02だ。』

 

 挨拶が遅れて済まない────そうゲラルトが付け加えると同時に、左腕のX式40mm突撃機関砲と背部兵装のⅨ式57mmプラズマ砲が火を吹いた。

 ナガトが扱うGAU-8EⅡ(アヴェンジャー)ガトリングライフルと同口径の対戦車用40mm爆裂徹甲弾と、8000万℃にも達する蒼雷が敵機体へと吸い込まれていく…!

 

『────そして私はIS学園生徒会長の更織楯無です。よろしく。』

 

 ゲラルトに続き、楯無が告げ────それと同時に彼女の機体、19式【海月(カイゲツ)】の放った127mmプラズマキャノンが大気を震わせて巨大兵器に着弾する。

 続く様に箒も飛び上がり、巨大兵器を眼下に見下ろせる位置まで上昇。

 ────一瞬の浮遊感。

 そしてその直後、重力に捉われた雷火は自由降下しながら射程に捕らえた敵に向けて、両肩部のRR/CG-8四連装チェインガンを放つ。

 けたたましい砲声が鳴り響く────しかし、無数の曳光は、敵の厚い装甲で阻まれ、弾丸は跳弾し、派手に火花を散らしながらその場に落ちていく。

 それはヴァイムランナーのⅩ式機関砲も同様。

 ゲラルトは舌打ちする────肩部の散布型ミサイルを1発だけ放つと、無数の小型弾頭が敵の巨体めがけて一斉に向かう。

 全弾命中し、爆炎と黒煙が上がる────だが。

 

「────ッ!」

 

 ────走る悪寒。

 明確な殺意が、箒とゲラルトに向けられた。

 

『ライカン03、動け!』

 

 ────ゲラルトの声。

 それと同時に重々しい回転音が響き、黒煙を切り裂いて無数の砲弾とレーザーが放たれた。

 視認すると同時に2人は横深瞬時加速(スライド・イグニッション)で辛くも回避し────急加速に悶えながら、引き金を引く。

 

「ぐッ…、────ならッ!」

 

 ────瞬間、雷火の肩部主翼機外兵装取付部(ハードポイント)のNR-Ⅷ式レーザーターレットより、蒼の光芒(レーザー)を穿たれる…!

 アスファルトを熔解し、ゴーレムの重装甲を容易く焼いた幾条もの光は。

 摂氏8万℃の高熱と共に装甲に叩きつけられ────敵装甲にぶつかり、輝く粒を振りまきながら、やはり水しぶきのように散る。

 

「────っ!?」

 

 箒はその光景に絶句する。

 レーザーが装甲に当たった瞬間にかき消えたのだ。

 同じ様にゲラルトはレールカノンを。楯無もプラズマキャノンを放つが、数万℃あるはずの超高温プラズマ粒子は装甲を溶解できず、巨大兵器の装甲にぶつかってはかき消される。

 複数回被弾した箇所がわずかに溶けた程度だ。

 それを見て、箒の脳内にひとつの言葉が過ぎる。

 

「────対粒子装甲…!」

 

『…噂には聞いていたが完成していたのか。』

 

 …ゲラルトも同じ事を考えていたらしい。

 ────対粒子装甲。

 装甲に電気を流して強力な磁界をつくり、プラズマを形成する磁力線を攪乱する対プラズマ装甲。

 厳密には、そんなに仕組みは単純ではないのだろうが、とにかくこのデカブツに光学兵器は通用しない。

 耐弾耐熱性能が高い複合装甲を採用しているから、実体物理弾も────!

 

(だが、装甲に覆われていない主砲や関節部なら────)

 

 箒が内心呟き────それを嘲笑う様に。

 

「……は?」

 

 ────巨大兵器から、ゴーレムが射出された。

 それも1機や2機では無い。

 全ての脚部から────総勢6機のゴーレムが新たに射出される。

 

『…やはり、護衛機はいたか。』

 

 その図体であれば、当然か────と付け加えながら、ゲラルトが溢す。

 …単純な話。

 ゴーレムが戦闘機だとすれば、この巨大兵器はその母艦だったというだけの事だ。

 

「面妖な…」

 

 これで3:7 ────否、実質的な戦力比はそれ以上。

 

『マズイところだけど、ごめーん。お姉さんエネルギー切れでお先に〜。』

 

 ────更に状況が悪化した。

 唐突に告げられた楯無の言葉と同時に、彼女の海月(アライズ)が撤収する様子がハイパーセンサーに映り込む。

 ────これで戦力差は2:7だ。

 

『後はセルフサービスで、よろしく〜♪』

 

 そんな声を背景にギリ、と箒が歯を噛み締めると同時に────空を駆け抜ける閃光が視界に入る。

 緋色の粒子を撒き散らし、ぶつかり合いながら、西方に向けてと駆けて行く光。

 ひとつは先程会敵した黒騎士(白騎士モドキ)────であれば、もうひとつは。

 思わず網膜に投影されたハイパーセンサーのウィンドウを見て────

 

「────ナガト…!」

 

 戦況マップには、黒騎士(UNKNOWN)日方風(ライカン01)光点(グリップ)が投影されていた。

 ────向かう先は西のウィンディ区方面。

 …人口密度の低い農業地帯の広がる地区だ。

 二次災害を抑える為に、そこで黒騎士(アレ)と戦うというのか。

 

 ────そう思うと同時に鳴り響くレーザー照射警報。

 畳みかけるように、巨大兵器とゴーレムから、深紅の雨(ルビーレーザー)が降り注ぐ…!

 ちっ、と箒は舌打ちし、イオンブレードをもってして紅光(レーザー)を打ち払う────その先より、傀儡の群れ(ゴーレムたち)が迫り来る。

 その更に後方より、巨大兵器が再び紅光(レーザー)の砲門に光を宿らせる。

 感情は無く、人間らしい無駄は無く、統率された────明確な殺意の大群が。

 …抱く筈のない同族嫌悪(気持ち悪さ)に箒は吐き気がする。

 それに何よりも────しつこさと鬱陶しさに苛立ちが湧き上がる。

 きっ、と傀儡の群れ(ゴーレムたち)を睨みつけ。

 ぎり、と歯を強く噛み。

 

「邪魔だ────人形共が!!」

 

 ────箒は咆哮し、迫る傀儡(ゴーレム)めがけて叢雲(イオンブレード)を振り降ろした…!

 

《────こちらジークフリート(前線指揮所)、ライカン04射出準備完了。》

 

 ────上空からの空対地支援を行なっていたジークフリート級航空戦艦より通信が入ったのは、その時だ。

 

『お待たせゲラルト!それとえーと…なんか…赤い剣使い(ブレーダー)の人!』

 

 そして、少し抜けた内容の通信が入ったのもまた、同時だった────。

 

 

◆◆◆◇◆◆◇◆◆◆

 

────同時刻

────同・IS学園第2アリーナ

 

 ────苦情は後ほどいくらでもお伺いします。ですから今は、堪えてください。

 

(────と、言ったものの…ジリ貧ですわね…。)

 

 鈴にそうピシャリと言い放ったセシリアだったが、現状は何も変わっていなかった。

 否。打開策が無いからこそ、変わる筈も無いのだ。

 甲龍の双天牙月をもってしてもエネルギーシールドを貫くには至らない。

 頼みの綱の零落白夜は残るエネルギー残量からして稼働可能時間はあと20秒。

 セシリアもビットとレーザーライフルで動きを封じ込め、拮抗状態を作り上げるのが限界。

 ────故に、零落白夜を叩き込む前段階である、致命の一撃に届かない。

 そしてブルーティアーズのエネルギーももう間もなく尽きる。

 エネルギー補給はアリーナの設備がウイルス汚染されている為に使用不可。

 教師部隊は機体がウイルス汚染により行動不能ないし外部に出動している為増援は望めない。

 ────これをジリ貧、と呼ぶ以外どう形容できようか。

 …もちろん術を考えていない訳ではない。

 しかし、ビットを思考制御しながら一夏の突入タイミングまで考慮して対処法を一から考えるなど、セシリアは経験が無かった。

 ましてや他人を指揮するなど。

 ────詰み。

 その文字がセシリアの脳裏に浮かぶ。

 

『────セシリア』

 

 ふと、一夏の声がした。

 

「なんでしょう?」

 

『後ろ取れたら、なんとかなるかな?』

 

 一夏のその言葉に思わず息を呑む。

 人型の特有の弱点たる────即ち、頸を起点とする背後視界認識外円錐領域から、斬り掛かるつもりなのだ。

 ────覚悟を決めたという事か、だがしかし。

 

「────いけません。それでは先程の鈴さんと同じ結末になってしまいます…!」

 

 そう言い返す。

 零落白夜であれば、エネルギーシールドは突破できるだろう。

 ────だがそれだけだ。それより先に一手を投じなければ詰む。

 ────加えて、突破する為には今以上の火力投射が必要になる。

 …つまり、現状自分たちだけでは対処不能という事実だけ。

 

『そっちだって、エネルギーカツカツじゃ無いか。どっちにしろ、やらなきゃ勝ち目ないし────出来なきゃ死ぬんだろ?俺たち。』

 

 痛いところを突く、そして何よりも確かな反論。

 成し遂げられなければ死ぬ────分かり切っていた結論だ。

 …そう、だからセシリアは、死人を減らす方に舵を切った。

 

「…いいえ、死なせません。だから────」

 

『────で…、貴族の務め(ノブリスオブリージュ)発揮して、アンタ1人囮になって、アタシと一夏逃がすつもりなんでしょう…?』

 

 唐突に、鈴が口を開き────その言葉にセシリアはどきりとした。

 ────図星だった。

 

『舐めんじゃ無いわよ、アタシだって────この有様でも、固定砲台くらいにゃなるわよ。龍砲はまだ動くしね。』

 

 ────だからアタシを勝手に戦力外扱いするんじゃないわよ、と付け加えて鈴は言う。

 …ああ、ダメだ。2人とも残るつもりだ。

 ほぼ確実に失敗する賭けに縋り、そして全滅する。

 ────無知でもなければ直情的でもなく、達観したセシリアの出した答え。

 

「…いいでしょう、ヴァルハラでの思い出話には、なるかもしれません。」

 

 ────腹を括り、セシリアはレーザーの射線を開く。

 一夏が潜り抜けられる為の進路を開き────

 

『────おお、射線変更ナイスだ嬢ちゃん。』

 

「『『────は?』』」

 

 この場にいる筈の無い男の声がして、3人共狐に口をつままれた様な顔をする。

 …その直後、甲高い降下音と共に────陽光の下。

 流星じみた何条もの鉄塊がゴーレムをつるべ打ちにする────!

 

「な────…」

 

 …正確無比、とはこのことか。

 一度の外れもなく、寸分の誤差もなく、ゴーレムを射抜いていく鉄塊は。

 

『────警備部隊隊長(セキュリティリーダー)から支援部隊(バックブロウ)全機へ!支援砲撃継続!!』

 

 アリーナの外から放たれた、GB-ExS-R117(ターンソウル)およびBAEs-EoS44(ブルーウェーブ)の155mmグレネードキャノンと74式改戦車の105mmライフル砲による偏差射撃だった。

 機関銃めいた100mmを超える砲弾の掃射、一撃一撃が秘める威力は岩盤さえ穿ちかねない、計34発もの榴弾の雨霰。

 余波が地表を砕き、土塊を巻き上げ、土煙を起こし、ダメ押しに34発もの次弾がゴーレムを砕き潰す────!!

 

警備部隊隊長(セキュリティリーダー) より各機────突入開始ッ!!』

 

 その無線(こえ)と共に────ピットの隔壁が吹き飛んだ。

 爆炎と共にバラバラにシャッターだった残骸が飛散する。

 その残骸を跳ね除ける様に────鋼の巨人が14機、舞い降りる。

 ────打鉄壱型丙6機と、ターンソウル8機から成るA-CISとEOSの混成編成。

 高木が率いる、学園警備部隊が────!

 

「が、学園警備部隊────…?」

 

 思わぬ援軍にセシリアは思わず唖然とする。

 

『話は聞いていた。確かに一夏(いち坊)の雪片ならアライズ並みの火力があるから、あのブサイクなクソ人形を潰せるだろう。…加勢するぞ。』

 

 高木が言う。

 場に似合わない少し、おちゃらけた口調────しかしすぐに、それは硬いものに転じた。

 

警備部隊(セキュリティ)前衛突撃班(アサルトユニット)各機、突入完了────撃ち方始めッ!!』

 

 裂帛の号令────同時に、

 ────対艦バズーカの連続投射。

 ────30mm四連装機関砲の斉射。

 ────アリーナ外からの支援砲撃。

 連鎖する炸裂音とけたたましい砲声が大気を震わせ、ゴーレムを飲み込んでいく。

 …それでセシリアは、アリーナの外から攻撃している部隊が支援砲撃、突入した学園警備部隊が自分達の直接援護を担当する班に別れ、互いに連携している事を悟る。

 

 ────それと同時に、混迷が始まった。

 連係する応答。

 連鎖する銃声。

 摩擦‬する剣戟。

 紛紜する‬両陣。

 03式斬機刀で突撃する打鉄壱型丙────それはゴーレムの巨腕とエネルギーシールドに阻まれ迎撃される。

 だが────それで終わる警備部隊ではない。

 打鉄壱型丙の背後、アリーナ観客席の直下。

 そこに陣取ったターンソウル8機がゴーレムを囲む様に、三方向から84mm三連装無反動砲(リボルバー・バズーカ)を放つ…!

 …爆裂する炸薬。24発の84mm対戦車擲弾がゴーレムに吸い込まれていき、次々と着弾する。

 

『────次弾ッ!』

 

 高木が告げる。

 ────あくまで、警備部隊の兵装はゴーレムを倒す為のものではない。

 セシリアのブルーティアーズ同様、足止めするのが関の山。

 ────なら、今自分が為すべきことは。

 

「────織斑さん!」

 

 思わず叫ぶ。

 

「もう一度、突撃の機会を作ります!零落白夜の準備を!!」

 

 カドゥケウスとスターライトMK.Ⅲによる蒼光の雨を穿ちながら、セシリアは叫んだ。

 ────これならば。

 

(────ええ、勝てるやも知れません。)

 

 蒼光の雨を撒き散らしながら、セシリアは確信をもって内心呟いた。

 

 

『────カデュケウス1-16、遠距離斉射(フォックス・スリー)‼︎』

 

 ────宣告する。

 同時に。

 BT兵器(カデュケウス)より放たれる────蒼条の閃光。

 それはゴーレム目がけて迫り────(いかづち)の如く空を切り裂かんとばかりに。

 光の槍(レーザー)がゴーレムのエネルギーシールドを刺し穿つ。

 それに畳み掛け、追撃するように────。

 

『ナイスだ嬢ちゃん!!』

 

 ────高木が下す、90mm速射砲の斉射。‬

 ‪大気を震わせて穿たれるは90mm対艦砲。

 続く様に、外野から次々と84mm対戦車砲が命中する。

 ────それは、未だ健在であるエネルギーシールドを削っていく…!

 

「────突っ込む!援護してくれ!!」

 

 好機と捉え、一夏が吠える。

 限界の速さで突貫する。

 この相手(ゴーレム)には、時間が命なのだ。

 事実────既にゴーレムはオーバーヒートしつつあった筈のエネルギーシールドを最適化し、展開範囲を再拡大させている。

 だから、早く。

 この、一撃で────!

 

「うおぉぉぉぉ────────っっ!!」

 

 正面より、一夏は突貫する。

 ────同時に瞬間的に煌めく雪片弍型。

 それは紛れもなく零落白夜の対消滅エネルギー波(タキオンブレード)の閃光。

 

【警告】

零落白夜稼働可能時間、残り20.0秒

 

 ────それを、

 

「────はぁッ‼︎」

 

 ────ゴーレムの下腹部目掛け、零落白夜

(タキオンブレード)の刃を振るう。

 それで、ガラスが割れる様に、エネルギーシールドが遂に弾け飛ぶ。

 突破口は出来た。

 剣は切っ先を返し、敵に向けられる。

 ────あとは、斬り払うのみ…!

 

《────、────!!》

 

 だがゴーレムとてタダではやられない。

 

『ッ、織斑さん────!』

 

 その意思を真っ先に察したのはセシリアだった。

 

「────あっ」

 

 だが気付いた時には遅かった。

 ゴーレムは、健在の腕を一夏目掛けて伸ばし、掌に備わったパルスキャノンの砲口に光が収束する。

 ────死ぬ。

 どう足掻いても避けられない。

 砲口は僅か1メートル先で一夏の頭を狙い向けられている。

 否、既に1メートルを切った。

 ────この距離では、躱せない。

 

一夏(イチ坊)!!』

 

 ────高木の声がした。

 けれど、けれども、躱わせない。

 死への恐怖が一夏の脳を支配する。

 指先から爪先に至るまでの全神経が凍り付き、冷静な判断が喪われる。

 

(────ああ、死んだ。)

 

 …何故か、あっさりとそれを受け入れて。

 ────果たして、その瞬間は一夏に訪れなかった。

 

 轟音。

 それと同時に、空気の塊(・・・・)がパルスキャノンをゴーレムの腕ごと吹き飛ばしたのだ。

 

『アタシを…忘れてんじゃないわよ。』

 

 ノイズ混じりの無線が入る。

 鈴の声だ。

 つまり────今の攻撃は、甲龍の装備した衝撃砲による攻撃だったのだ。

 

「鈴────?!」

 

『固定砲台にはなるって言ったでしょ?ホラ、行きなさいよ。早く!』

 

『────ッ!織斑さん!!』

 

 鈴とセシリアの言葉に弾かれてハッとする。

 同時に────

 

【警告】

零落白夜稼働可能時間、残り9.1秒

 

 そう、ウィンドウが網膜に投影されて、反射的に瞬時加速する。

 時間がない。

 前方の木偶の坊(ゴーレム)に我武者羅に喰らいつく。

 

【警告】

零落白夜稼働可能時間、残り7.6秒

 

 一秒の余裕だってない。

 コンマの世界で動かなくてはならない。

 ゴーレムは、それを妨害するかのように、あるいは最後の抵抗と言わんばかりに、今吹き飛ばされた腕をめちゃくちゃに振るう。

 

【警告】

零落白夜稼働可能時間、残り6.3秒

 

「────ハ」

 

 溢れたのは余裕か怒りか。

 あまりにも鬱陶しい諦めの悪さを叩き伏せるように、

 

「行ッッッッッッ────、」

 

【警告】

零落白夜稼働可能時間、残り5.1秒

 

 雪片弍型を右肩に叩き入れ、

 

【警告】

零落白夜稼働可能時間、残り3.9秒

 

「けぇぇぇ────ッ!!!」

 

 タキオン粒子を帯びた渾身の袈裟斬りが、ゴーレムを両断する…!

 

【警告】

零落白夜稼働可能時間、残り2.4秒

 

 だが、それでも止まらない。

 ゴーレムは未だ動く。

 まだ稼働(うご)く。

 まだ意思(プログラム)がある。

 

【警告】

零落白夜稼働可能時間、残り1.3秒

 

 命令遂行の為に、壊れかけの身体に鞭打とうとするそれに────

 

「もう、一丁────────ッッッ!!」

 

────返す刀で、一夏は牙突を放った…!

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◇◆◆◆

 

────同時刻

────同・セントラル区西部

 

 ────雨霰と降り注ぐ砲弾の嵐。

 それは母機から射出された艦載型ゴーレム6機目がけて降り注ぐ…!

 

弾幕祭り(シュペルフォイアカルネヴァル)だよ!派手に行こう!!…あ、巻き込まれないでね!』

 

 そのパイロットはそんな場違いなセリフと共に、無数の砲火──── 76mmレーザーキャノン、35mmチェインガン、そしてマイクロミサイルの嵐を放つ…!

 

 ヴァイムランナー同様、特徴的な鶴嘴帽子(ピッケルハウベ)型アンテナを装備した頭部に重装騎士甲冑めいた胴体を橙色と白に染めたその機体は。

 ──── EiR-Type-IIⅩ(ロットワイラー)

 

 日照ライムントヴァルト社製第1世代アライズ【ヴァハフント】をベースにレヴェラント連合国ドイツ州が独自開発した新型機。

 それが今、24門の銃砲火器で空より大地を灼かんとゴーレム達を叩きつける…!

 

 連鎖する爆発。

 エネルギーシールドでゴーレム達は砲弾やミサイル攻撃を防いでみせるが、焼石に水。

 アライズ用に調整された砲火器はタキオン粒子による侵食劣化も考慮し、通常より強力なものとなっている。

 その数々を受ければ数秒と持たずにエネルギーシールドはオーバーヒートする。

 

『自己紹介がまだだったね。僕はドイツ代表候補生のシャルロット・ヴィークマン。コールサインはライカン04だよ。シャルって呼んでね!』

 

「…そうか。こちらは篠ノ之箒…コールサインはライカン03だ。」

 

『そっか、よろしく!』

 

 言いながら、シャルは右腕に装備したヴィトゲンシュタイン社製WtS_BzG-1(ブリッツゲヴェーア・アイン)レールキャノンがパルスマシンガンによる迎撃を試みたゴーレムを1機吹き飛ばす。

 

『鉛玉と火薬のフルコース!たっぷり召し上がれ!!』

 

 投擲槍(ジャベリン)、あるいは無反動砲(バズーカ)

 その様にしか形容出来ないカタチのレールキャノンは、時速7200キロ(マッハ5.8)の高速度で120mm徹甲弾を更に撃ち放つ…!

 それで、2機目のゴーレムを貫通し、母艦型(クレイドール)の表面装甲を打ち鳴らす。

 ────放たれる弾幕の雨。

 ────混ぜられる超電磁砲(レールキャノン)の雷霆。

 威力より弾数を優先した攻撃がゴーレム達のエネルギーシールドを小気味良く吹き飛ばす。

 そしてその弾幕の中よりレールキャノンが。

 あるいはそれを────

 

『────ふんッ!!』

 

 ゲラルトのヴァイムランナーが、右腕のハイレーザーブレードを振るい、次々と両断する…!

 

「────。」

 

 ────一瞬でゴーレム6機が撃墜された。

 …まさに"圧巻"の一言だ。

 ────ヴァイムランナーが戦闘邀撃機であるならば、ロットワイラーは戦域制圧支援機といったところだろうか。

 ヴァイムランナーがブレードとマシンガンによる機動戦闘を、ロットワイラーが制圧火力投射ないし支援砲撃を担当する────なるほど、運用次第ではこの組み合わせで堅実な戦闘を展開できる。

 ────流石はアライズ運用に特化した欧州機だ。

 欧州連合は第3次世界大戦と第4次非核大戦の戦火に見舞われた事で軍需産業が死に体とやり、戦車技術などもほとんどが失われた。

 代わりに軍需産業の枠に根付いたのがアライズを中核とするIS製造技術であり、結果的に軍の編成もアライズを中心とした運用がなされるものとなっている。

 ────この二機は、そんな欧州連合の軍事事情を如実に表した存在だ。

 …アライズで完結する防衛体制。

 それを標榜する欧州連合からすれば、この光景は歓喜モノだろう。

 ────だが、この運用体制(ドクトリン)には穴がある。

 細かな点はナガトがきっと話してくれるだろう。

 だからそう────例えば、アライズの火力で突破出来ない敵と邂逅した際に無力であると言う点…だ。

 

『うっわあ────硬いね、この子。』

 

 ────それを証明するかのように、眼前のクレイドールはロットワイラーの猛攻を受けてなお、健在だった。

 

『ならば焼き切り捨てるまでのことだ』

 

『ジャパニーズトーフじゃないんだから!』

 

『焼き切ってしまえばなにも違わん』

 

 ふと────眼前の巨大要塞(クレイドール)が動く。

 応酬と言わんばかりに地響きを伴って大地を蹴り────ロケットブースターの点火と共に箒に向かって飛び掛かって(・・・・・・)来たのだ。

 一瞬。全員が呆気に取られる。

 推定600トンはあろうかという鉄塊────それが、推定時速500kmで地面を滑走する。

 そんな非常識、呆気に取られない方がどうかしている…!

 

「躱わせッ────!」

 

 一足先に、我に帰った箒が叫ぶ。

 それで射線上にいた箒とゲラルトは横深瞬時加速(スライドイグニッション)で回避する。

 クレイドールは勢いのまま、2人の後方にあった低層ビルに突っ込み────速度を殺し切れずに数棟を薙ぎ倒す。

 

『行動パターンが変わった…!?』

 

「…なんて、出鱈目な────」

 

 思わずシャルと箒は絶句する。

 

『おそらくは慣性制御と反重力場翼を用いた地上滑走だろう────そうでなければ説明がつかない。』

 

 ゲラルトが言う。

 それで、眼前に対峙する巨大要塞が、嫌でもISの一種なのだと思い知らされる。

 第1世代ISは────白騎士シリーズを除いて、そのほとんどが現用兵器の延長線として設計された。

 先のベイエリア襲撃に用いられたレヴィアタンもその一種で、アレはミサイル駆逐艦の延長線の兵器として設計された。

 今対峙しているクレイドールはおそらく戦車や兵員輸送車の延長線にある複合兵器として。

 ────白騎士シリーズで証明された、人型である方がシールドエネルギー効率が良いという事実。

 ────アラスカ条約に基づく軍用ISの全面廃棄。

 それらにより、非人型軍用モデルである第1世代ISは廃れた────しかし、枯れた存在が脅威足り得ないという絶対的道理などない。

 それを証明するように、クレイドールは先程の勢いのままに。

 六脚の内の最前面にある、二脚を剛腕のように振るいながらビルを粉砕し────最前列脚部先端より発生させたKRM-LB-1【六花】(レーザーブレード)で箒らに斬りかかる…!

 

『ちょ、は…?何コレ…。冗談でしょ、ふざけてるの…?』

 

 シャルが横深瞬時加速しつつ、弾幕とレールキャノンを叩き込みながら呟く。

 傍らで箒は再度パルスライフルを脚部関節部目掛けて放つ。

 西洋の甲冑がそうであったように、全身が装甲で覆われていようと、関節部は可動域を確保する為に装甲を削がざるを得ない。

 それはクレイドールも例外ではなく、六脚の関節部は装甲化されていない。

 だからこそ、そこを箒は狙ったのだ。

 ────だが、脚が遅くなければ僅かな装甲の隙間を射抜くなどという芸当、叶うはずも無い。

 ましてや、対ビーム・対物理防御能力を兼ね備えた上で時速500キロ────リニアモーターカーに僅かに劣る程度の高速で動き回る鉄塊など。

 更に言えば、こちらを追尾しながら規格外の巨大レーザーブレードや380mm砲対艦砲による狙撃で攻撃までして来るのだ。

 通常兵器では対処不能に近く、アライズを含むISでも撃破は困難を極める────なるほど、こんな兵器を再構築戦争前のコロニアは大量に保有していたなら、確かに彼らは世界を支配できたろう。

 妙な納得が箒の脳内に浮かぶと同時に、今必死で関節を狙っては当たらない現実を前に苛立ちが浮かび、

 

「コイツの設計者は頭に虫でも飼っていたのか────?!」

 

 思わず叫ぶ。

 限界まで防御力を引き上げ、尚且つ人型ですら無いのに高速機動戦をさせる設計など、正気の沙汰ではない。

 ────とは言っても、嘆けど喚けど解決しない。

 それで解決するなら、最初からそうしている。

 だがそうせざるを得ない程に、眼前の存在は出鱈目そのものだったのだ…!

 

 …ふと、同時に疑問が浮かぶ。

 これだけの兵器が山のように現役だった再構築戦争時────オリジナル達はどのように攻略したというのだろう。

 いくら第2世代(私たち)より出力の高い機体を駆り実力も高かったとはいえ、これだけの敵機を複数機同時に相手取らざるを得ない事態が多かっただろう事は容易に想像できる。

 だというなら、どう乗り越えたというのか────

 

『HQからライカンズ────』

 

 ────答え合わせをするかのように、空より巨影が舞い降りる。

 西洋の城塞、あるいは聖堂めいた荘厳さを孕んだ外観の艦橋。

 ステルス性を意識したのか、船体表面は凹凸がほとんどなく流線的なフォルムをしている。

 だからこそ、搭載されていた武装が目を引いた。

 ────無骨という言葉を体現した、骨ばってごつごつとした、巨大な砲身を持つ単装砲塔。おそらく口径は400ミリはくだらない。

 それが3基。

 そんな、時代錯誤にも程がある────だが地上に展開する部隊からすれば驚異に他ならない巨砲を携えた巨艦が、セントラル区上空に立ち込めていた黒煙を裂いて現れた。

 ────ジークフリート級航空巡航戦艦級1番艦『ジークフリート』。

 ISの技術を基に、反重力力場制御フロートと空間流動スラスターを搭載・改装した空中戦艦だった。

 …思い出した。再構築戦争において、大破壊の傷が一層深刻だった欧州は産業基盤が崩壊しており、アライズ開発で遅れていた。

 その当時に欧州連合が思いついたものが、ISの機能を部分的に移植したアライズの艦載母艦────すなわち空中戦艦であった。

 アライズの輸送母艦として活躍しただけではなく、それは、アライズでは搭載不可能な大口径砲を叩き込む対地攻撃機(ガンシップ)としての役割を果たしたという。

 ────つまり、ジークフリートが降りて来たと言う事は。

 

『────これより対地支援を開始する。…巻き込まれるなよ…ッ!』

 

 答え合わせをするように。無線と共に3基の主砲、その砲口に光が宿る。

 艦内部に備え付けられたコンデンサが、コイルモーターが唸りを上げる。

 加速器の電圧が増し、砲身に蒼の稲妻が迸る。

 アライズが持つそれを遥かに上回る、電磁場の収束と昂りが大気を震わせる…!

 次の瞬間、蒼雷の嵐が空を一色に染め上げ、3発の460mm爆裂弾が第1宇宙速度(マッハ8)の超高速で撃ち放たれた────!

 

 …1秒の後、それはクレイドールの絶対防御と表面装甲を食い破り、内部フレーム基幹部に到達する────!

 その瞬間、砲弾の炸薬が点火され────内側から1000メートルはくだらない爆炎と雷電の嵐を巻き起こして爆発する。

 

 ──── 超電磁加速爆裂擲弾砲(リニアグレネードキャノン)

 空中戦艦に搭載された、対IS迎撃戦用の大型艦載兵器。

 その馬鹿と冗談と浪漫が総動員された大口径砲が、アライズで手こずっていたクレイドールの脚を吹き飛ばしたのだ…!

 ────なるほどこれらを標準装備していたのならば、かつて非ヒト型軍用ISに抗しうる力を、当時の六大国家は持ち得たろう。

 ────そして、当時のアライズ乗り(オリジナル・ヘズナル)らは、この空翔る巨人と共に眼前にいる巨大要塞の様な存在を叩き伏せて来たと言う事も…!

 

『────行くぞッ!』

 

「了解ッ────!」

 

 ゲラルトが吠える。

 箒が続くように応答し、瞬時加速────

 

『────援護しますッ!』

 

 ────それを、後方よりシャルが弾幕を張り、突入を支援する。

 超電磁加速爆裂擲弾砲(リニアグレネードキャノン)の直撃を受けたクレイドールからは、先程までの驚異と威容は失われていた。

 レーザーブレードを振るっていた左前腕脚部は根元から損壊、右前腕脚部は先端ブレード部分を喪失。

 左舷対艦砲塔基部は全壊こそなかったものの旋回機構およびFCSレーダーは破損、表面装甲も脱落し弾薬保管ブロックが露出。

 中央上部から右弦にかけても表面装甲が破壊され、機体上部に備え付けられていたルビーレーザー照射機構は爆裂弾がもたらした爆風により照射レンズが叩き割られガラクタに。

 加えて、動力ユニット(ジェネレーター)の耐圧殻が剥き出しとなっていた。

 死に体となった巨大要塞は最後の抵抗に、未だ健在の対艦砲と垂直ミサイル発射基からありったけの残弾を迫り来る死神(箒たち)目掛けて放つ。

 

『ライカン03、お前は上だ。』

 

「了解────右は頼みます。」

 

 クレイドールのハッチが大きく展開し、垂直ミサイルが発射された。

 高高度まで上昇した数発のミサイルが重力加速を加えて速度を高めながら箒とゲラルトに向かって降り注ぐ。

 それに対し、ゲラルトはハイレーザーブレードを振るい、ミサイルを叩き落とす。

 そして、その背後から箒は飛び上がる。

 クレイドールを眼下の望めるまで急上昇────そして、叢雲(パルスライフル)の砲口を、ジェネレーター目掛けてロックする。

 

 死に体とはいえ、攻撃のチャンスはそれほど多くはない。

 クレイドールは、再び垂直ミサイルを発射すべく上部の発射管ハッチを解放する。

 ────瞬間、箒はそこ目掛けて叢雲のパルスライフルを穿つ…!

 タイミングを合わせて放たれた高速イオン弾3が、ミサイル発射基のハッチ内めがけて正確に叩き込まれ────3本の光条がクレイドールに吸い込まれた。

 ひと呼吸遅れて、クレイドールのミサイル発射機構が大爆発を起こす。

 ミサイルの誘爆による要塞内部からの爆発は、ライフル弾をも弾く強靱な装甲と、中央脚部を含む機体右舷部分を木っ端微塵に吹き飛ばし、さらに600トンもの機動要塞を30mほど弾き飛ばす…!

 あたりには装甲や破片が散乱し、一部は周辺建築物に突き刺さり、ある破片は押し潰してすらいた。

 同時にゲラルトのヴァイムランナーが、クレイドールの左舷を掠める様に────。

 

『────ぬんッ!』

 

 ────ハイレーザーブレードで斬り刻む…!

 すれ違いざまに1万℃の高熱に溶断される。

 ジークフリートが放った爆裂弾により防御力が低下し、分子密度が低下した装甲は赤熱してあっさりと両断される。

 そしてその熱は、露出していた弾薬保管ブロックに到達し────左舷の200トンもの対艦砲が吹き飛ぶ程の爆発を引き起こす…!

 吹き飛ばされた衝撃で主砲は折れ曲がり、もやは攻撃力と呼べるものはないに等しい。

 それでも、後方脚部だけで姿勢を維持しようと金属片がきしみを上げる。

 だから、いい加減に────箒は叢雲のパルスブレードを起動する。

 そしてそのまま────眼下のクレイドール目掛けて瞬時加速。

 眼下には、未だ抵抗を続ける要塞と、剥き出しのジェネレーター。

 箒は、その一点目掛けて────。

 

「いい加減────、壊れろ!!」

 

 ────パルスブレードの、急降下斬撃を見舞った…!

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◇◆◆◆

 

────同時刻

────同・アッパーウィンディ区

 

 IS学園のゴーレムとセントラル区のクレイドールが撃破されたと同じ頃。

 農業プラントとプランテーション建築物が所在していたアッパーウィンディおよびウィンディ地区境界付近は、惨状と化していた。

 …高熱により熔解した金属が燻り、爛れたアスファルトが液状化し、人工地盤を溶かしながら海面へ高熱の滝となって流れ落ちる。

 海面は溶鉱と流出した重油とが混ざり合い、引火爆発による爆炎で満たされて、火の海となっていて。

 爆炎が巻き起こす上昇気流が周囲の炎を巻き込みながら、いくつもの炎の竜巻となって空を赤く染めていく。

 ────さながら、黙示録を彷彿とさせる地獄絵図。

 海水濾過円形耕作地(センターピボット)を埋め尽くしていた作物は爆炎で、あるいは熔解したアスファルトに熱されて至る箇所で発火し、絶え間なく炎と煙を撒き散らす。

 ガラス温室型多高層ビル群は炎が巻き起こす高熱で外装たるガラスが弾け、支柱たる金属フレームも飴細工の様に変形し、完全に崩壊した。

 大気に充満する鉄を溶かし得る高熱と高温が、この地から生命という生命を焼き払い、攫っていく────その、地獄の只中で。

 

 ────ふたつの機躯(からだ)が激突する。

 ひとつは、周辺の炎を巻き上げながら空を、地表上空とをめまぐるしく標的へ襲い掛かる黒騎士。

 スラスターによって形成された光の翼を引きながら宙を舞い、右腕に備えられたタキオンブレードを振るう姿は戦乙女(ワルキューレ)そのものだ。

 ────だが、その動きは感情任せながらも、お行儀良く定められた法則で戦う存在に過ぎない。

 もうひとつ────日方風(ナガト)は。

悠然と地上に構え、そして黒騎士の猛攻を迎撃し、防ぐどころか獰猛に喰らいつく。

 体躯は無骨なフレームから過剰生成されたタキオン粒子と排熱蒸気の奔流を撒き散らし。

 頭部は顔面表層フレームが弾け飛び、狼の(かお)めいた内部機構を剥き出し。

 手脚は関節と操縦者への負荷を度外視する獣じみた機動をもって、嵐のような剣戟と礼儀知らずの蹴りを放つ…!

 ────黒騎士が戦乙女(ワルキューレ)であるとするならば。

 ────日方風は、さながら狂戦士(ベルセルク)そのものだった。

 

《ッ…貴様…!》

 

「…ふッ────!」

 

 ────飛び交う荷電粒子砲(タキオンキャノン)を、暴風の如き乱舞が叩き伏せる。

 

 …黒騎士は、先程までのゴーレムとは違い、より強化された無人ISだった。

 不遜な異端者、不埒な離反者、その一切合切を斬り刻み処刑するための執行機体。

 故に、荷電粒子砲の他にも無数の装備が搭載されていた。

 5連装バルカン砲、パルスマシンガン、ミサイル、大出力レーザー発射基────それらも荷電粒子砲同様、対人・対地・対空・対水上の全領域で猛威を振るう代物だ。

 全領域での任務に対応する偏執的なまでの開発者と運用機関のこだわりを反映された黒騎士は、対峙するものを全て鏖殺する。

 ────それは戦場の支配者(アライズ)も例外ではない。

 

《ッ、少しは役目を果たせ────!》

 

 タキオンキャノンを穿ちながら、マドカはバルカン砲とパルスマシンガンを日方風目掛けて放つ。

 しかしその一切は通用しない。

 ジェネレーターの出力を引き上げた日方風の粒子装甲と、対艦刀を振るう剣戟に全てが叩き堕とされる。

 破壊力、兵種、砲門数問わず、"たかが一兵器を破壊するだけの代物"では、今対峙している日方風(狂戦士)を止めることすら叶わない。

 卓越した反射神経と攻撃予測能力。

 繰り出される剣戟は放出されるタキオン粒子の奔流を纏い、物理的破壊力を数乗上乗せするまでに引き上げる。

 剣を振るう腕に至っては、瞬間的に第1宇宙速度(マッハ7.1)に到達する速さを叩き出す…!

 その出鱈目過ぎる力は、通常の第3世代アライズを明らかに超えていた。

 

────B(ベルセルク)モード。

 

 第3世代アライズに搭載されていた、アライズ本来のスペック(極最初期型の力)を引き出す為の全安全装置強制排除形態。

 すなわち、17トン近い大剣を時速8800km(マッハ7以上)の速さで振るう乱舞を放つこの姿こそ────日方風本来の姿なのだ…!

 

 …無論、弊害はある。

 機体は多少濾過されたとはいえ致命的な汚染を撒き散らし。

 操縦者にはIS適正が低ければ廃人になりかねない過負荷が脳にかかり、また強制的に脳の未使用領域をアライズ操縦の為に稼働させられる。

 ────良く言えば、人馬一体の究極形。

 ────悪く言えば、人体の生体パーツ化。

 だがそれがどうした。

 勝てなければ、死ぬだけのこと。

 ならば『そんな塵紙一枚にも値しない(トイレットペーパー未満の)モノなんぞクソ喰らえ』などと常日頃から思っていたナガトは────

 

「は────ッ!!」

 

────音速で対艦刀を振るう。

 しかし黒騎士も馬鹿では無い。

 ある程度ではあるものの、独立稼働(スタンドアローン)の無人機。

 あらかじめ定められた機動しか取れないのであればまるで役に立たない。

 …故に、情報収集と多少の学習能力は持ち合わせている。

 だからこそ────ナガトの対艦刀による斬撃は既に解析済みだった。

 

《それで勝つつもりか単細胞め────同じ攻撃を繰り返すしか能が無いとは、呆れるな…!》

 

 罵倒と共に、全身に備え付けられていた拡張領域内蔵式垂直発射型ミサイルが放たれる。

 それは左右上下の四方から────ナガトを囲い込むように、100はくだらない数の鉄の矢が迫り来る…!

 殺意の包囲網を前に、ナガトは瞬時加速────タキオン粒子を纏わせた対艦刀を、横一閃に薙ぎ払った。

 ────音速を超えた剣圧。

 それは大気を切り裂く爆風となり、タキオン粒子の壁がそれを補強し────真空波となって、ミサイルの群れを粉砕する…!

 

 燃え落ちた農業プラントを。

 40年近く人の揺籠として荒波に耐えて来た人工の大地を木っ端微塵に踏み荒らし、吹き飛ばしながらナガトは黒騎士目掛けて疾駆する。

 

 …妥当な惨劇だ。

 黒騎士の武装はタキオンキャノンを除いて全てが対兵器戦を想定した代物だが、ナガトの駆る日方風ベルセルクモード────第1世代アライズのありし姿────は兵器であろうと都市だろうと大地であろうと分け隔てなく平等に猛威を振るう厄災そのものだ。

 …黒騎士が目標だけを蹂躙する戦略爆撃機だとするなら────今の日方風は、無差別に死と破壊を齎す核兵器そのものだった。

 

《そんな力が…許されるものか…!だが…!》

 

 マドカが吠える。

 ミサイルを潰される事も織り込み済みだったという事か、あるいは────襲撃者(テロリスト)の分際で正義の使者でも騙るつもりなのか。

 ナガトが知覚した瞬間には、黒騎士はタキオンブレードを振りかぶっていた。

 

《────堕ちろ!》

 

 黒騎士がタキオンブレードを振るい、直上から叩き打つ────それを。

 日方風は瞬時加速────ゼロ距離まで詰め、黒騎士の懐に飛び込んだ。

 タキオンブレードが粒子装甲と接触し、それを攫っていく。

 しかし懐に飛び込んだ日方風に対して、図体のでかい剣は脅威足り得ない。

 そして、応酬と言わんばかりに、

 ────(ガイン)と、右手の対艦刀を黒騎士に殴り付ける…!

 音速領域に瞬間加速した17トンもの鉄塊が懐に叩き込まれ、黒騎士には戦艦砲の直撃に匹敵する衝撃が走る。

 無人機である黒騎士に揺さぶりをかけたところで戦闘が止まらない事は判り切っている。

 だが、衝撃で壊れるものは人間だけではない。

 

《ッ⁈おのれ…!駆動系を…!》

 

 黒騎士は思わぬ反撃に面喰らう(マドカの構成部品が火花を散らして弾け飛ぶ)

 1秒遅れてノイズ混じりの怨嗟の声を放つ(機体の駆動系が異常を来たす)

 ────そう、物体にかかる衝撃は人体にも機体を構成する部品にも、無人機の核たる精密機械にも及ぶ。

 それで、脚部への駆動伝達系統に異常が生じたのか、思うように脚が動かなくなる。

 衝撃でノイズが走るセンサーを復旧させて────そこには、銃弾の如き速さで迫り来る日方風の脚裏があった。

 

《────!?》

 

 一瞬の硬直。

 理解を超えた行動パターンを前に演算処理がパンクする。

 ────何故目の前に敵機の脚裏があるのか。

 ────衝突すれば関節の破損は免れない。

 ────直ちに回避行動を…!

 チグハグな思考の中、マドカはブースターを前面に蒸し、瞬時加速する。

 しかし、ゼロから加速した速さと既に加速している速さとでは、どちらが速いかなど知れている。

 

 ────ごぎゃり゛っ!

 

 轟音と軋む音を立てて────日方風のドロップキックが白騎士の胸部に突き刺さる。

 コアユニットは金槌で叩き割られたクルミの如く、醜く変形した。

 有人機であれば、操縦者は間違いなく即座に圧死する一撃。

 そのままもう一発────ナガトは蹴りを放ち、黒騎士を後方へ吹き飛ばす…!

 

《ぐっ、ゔ────!?》

 

 思わぬ衝撃に撹拌され、マドカは無い筈の歯をギリ、と噛み締める。

 吹き飛びながら、黒騎士のタキオンジェネレーターが唸り声を上げる。

 ジェネレーターからのエネルギー供給を受け、右腕の荷電粒子砲(タキオンキャノン)は放電し、その場に在るだけで周辺物質を崩壊させる呪詛へと変質する。

 そして機体に搭載されていた、2基の1K17E "スジャティエ"(150mm大出力ルビーレーザーキャノン)に紅の光が宿る。

 ────光輝する3基の(あか)

 その規模も込められたエネルギー総量もこれまでの些事とは桁が違う。

 これこそが白騎士事件において2000もの攻撃を叩き落とした御技。

 2基のレーザーキャノンが共振する。

 その中央に在る荷電粒子砲が、タキオン粒子をもって、その威力を数百倍に膨張させる。

 剣戟ごときによる迎撃など許さない。

 現在の日方風の出力が黒騎士を遥かに上回るとして、この攻撃はその数倍。

 ただ『降りかかる火の粉を振り払う』程度の動きだった先の行動では、『国家を滅ぼすこと』を前提としたこの一撃を迎撃することなど出来はしない…!

 

《死ね────!》

 

 ────その確信と共に、真紅の嵐が吹き荒れた。

 放たれたレーザーは左右から収束する共振による威力の増幅と、タキオン粒子によって弾かれたことで拡散し、無数の光弾となってナガトの視界を埋め尽くす。

 その数、4000以上────!

 

(────なるほど、ただでは済まんか。)

 

 それを前にして、ナガトは冷静だった。

 眼前には光速────先程まで自分が放っていた剣戟を遥かに上回る次元の速度────で死の群勢が襲い来る。

 短い思考と、意を決する挙動。

 ナガトは迎え撃つのではなく、光の嵐へと突入する。

 ────降り注ぐ拡散レーザー。

 自分より速く迫るモノを、それより遅い鈍刀で行儀良く迎え撃つなど愚の骨頂。

 自分より速く迫りつつも、知覚できるなら。

 ────それより速く躱せば良いだけのこと…!

 

「ふゔッ────!」

 

 ────加速する。

 瞬時加速と横深加速の噴射速度を限界まで引き上げる。

 …黒騎士に誤算があったとすれば、それは拡散レーザーの弾着タイミングだろう。

 黒騎士の放った拡散レーザーは一対幾千もの面制圧に特化した攻撃。

 しかし四方八方に拡散する特性上、一対一(タイマン)環境下ではあまりに悪過ぎる。

 2020年代現在において、単体目標に対する面制圧は多数弾頭同時着弾がセオリーである。

 砲弾を当てずっぽうに撃ったところで、当たりはしない。

 …いかに光速で奔るレーザーとはいえ、拡散してしまえば同様。

 あとその、光の隙間を縫うように躱わせば良いだけの事。

 それを証明するように。

 光の嵐の中、ナガトは────幾数回もの瞬時加速をもって、光弾を躱わして進む…!

 

《馬鹿、な────》

 

 叩き落とせないなら躱せば良い────その発想は間違っていない。

 黒騎士にとっての問題は、光速────地球を1秒で3周半する速度────による面制圧そこに出来た僅かな隙間を、縫う様に躱していること。

 …通常、それは人間の反応できる速さではない。

 瞬きすると同時に…否、それより速く着弾する。それほどの高速だ。

 だと言うのに────

 

《…この中を…進んで来る、だと…?!》

 

 ────ナガトは、躱わすだけならず、黒騎士目掛けて突っ込んで来る…!

 

《くっ………!》

 

 マドカは照射を中断して身構える。

 斬撃か、蹴りか、あるいは。

 マドカは次に日方風が齎すだろう攻撃を予測(計算)して────

 

「────らぁッ!!」

 

 ────それより早く、ナガトが対艦刀の腹を黒騎士に叩き込む…!

 それは斬撃というより殴打。

 拡散レーザーを躱した際より劣るとはいえ、繰り出されるはマッハ7を超える斬撃。加えて17トンを超える大剣による一撃。

 それは、黒騎士を吹き飛ばすのに造作もない…!

 重く響く金属音と、派手に火花を散らしながら黒騎士は廃墟と化した化学肥料プラントに吹き飛ぶ(ホームラン)

 爆炎と砂塵を巻き起こし、煙突やタンク、パイプの集合体であるプラントが崩壊していく。

 ────そこへナガトも飛び込み追撃する。

 黒騎士の反応は、未だ健在だからだ。

 

《血迷ったか…!?》

 

 黒騎士(マドカ)が目を剥く様な声で言う。

 事実、ナガトは正常さを欠いている。

 B(ベルセルク)・モードは脳機能のほぼ全てアライズ操縦にリソースを割く。

 アライズを主観とした操縦体制に移行する為、ヘズナルは自身の生命維持を度外視した行動を取りがちだ。

 ────この時のアライズを人体だとすれば、ヘズナルは内臓に過ぎない。

 普段の人間が平時を除いて内臓に気をかける事がない様に、今この瞬間に不要なもの(ヘズナルの生命維持)を考えないようになってしまう。

 ナガトも例外では無い。

 崩落する廃プラントの中を突撃し、先程吹き飛ばした黒騎士に喰らい付かんと疾駆する。

 今駆けている場所は保たない。

 ナガトが駆けたすぐ後ろから鉄骨やパイプが折り重なり

 

《っ…狂犬め────ならばコレでどうだ!》

 

 黒騎士(マドカ)が吠える。

 それと同時に機体各部に内蔵されていたマイクロミサイルが放たれ、ナガトの進行上────その直上にあるプラント設備群に直撃する。

 …先程の黒騎士が吹き飛ばされて来た衝撃と、今の攻撃で、プラントの設備群は更に崩壊を加速させる。

 ドミノ倒しに崩壊していく鉄骨やパイプ。

 その中でも、一際巨大な瓦礫────圧力パイプで雁字搦めとなった煙突がナガトを押し潰さんと降りかかる…!

 それには脇目も振らずに前に進む。

 進んだとて黒騎士に辿り着く前に、瓦礫(煙突)に潰される。

 ────黒騎士はそんなナガト目掛けてタキオンキャノンを乱射する。

 ブレードとして使っていたが為に精密射撃を行う機器は故障し、また先程対艦刀で叩きつけられた衝撃でセンサーも破損。

 だが、それで充分。

 乱れ飛ぶタキオン粒子の砲弾が、日方風の粒子装甲を削って行く。

 そして日方風は、間も無く降り注ぐ煙突に潰される。

 距離にして5メートル。

 ────前門の虎、後門の狼。

 ────あるいは袋小路(デッドエンド)

 煙突は、粒子装甲を削られた日方風はそのまま降りかかり────日方風は全身でそれを受け止めた。

 

《ッ────!》

 

 黒騎士(マドカ)は絶句する。

 日方風は、鋼鉄製の塊を受け止めるだけに留まらず、背負ったまま突き進む。

 重さにして数十トン、日方風の体積の10倍以上はある鉄塊を…!

 そして────

 

「お゛ォォ────ッ!!」

 

 ────先程の応酬と言わんばかりに煙突をブン投げる…!

 日方風そのものをロケットの1段目、あるいは射出基(カタパルト)としたその投擲は、瞬時に音速域へと到達した。

 黒騎士はレーザーキャノンを起動し迎撃を試みるが────それより速く、投擲された煙突が突き刺さり、再び吹き飛ばされる…!

 

()れるな────ッ!!》

 

 次なる日方風の追撃を予想していた黒騎士(マドカ)は前に飛び出し────粉塵を切り裂いた日方風をタキオンキャノンの砲身で叩き伏せる。

 今度は黒騎士の攻勢が始まった。

 地に叩き付けられた日方風を追い、取り付くと同時に瞬時加速────。

 20G以上の加速をともなった黒騎士に衝突された日方風は機体制御もままならないままビリヤード球のように跳ね飛ばされる。

 好機、と黒騎士は。

 ジェネレーターが齎す潤沢なエネルギーによるブースター出力と、無人機特有のGを無視した尋常ではない動きで再びナガトを挽肉にせんと。

 地に。

 廃墟に。

 日方風を踏み付け、土塊を巻き上げ、めちゃくちゃに振り回す────!

 

「………ッ!」

 

 ナガトの全身に過負荷がかかる。

 四肢が引き千切れ、内臓が破裂する程の圧力がかかる。

 

「ぐっ、つ、ゔ────っ!」

 

 激流する情報の嵐とブン回される機体の衝撃に脳が灼ける。

 焼け切れる寸前の脳神経回路。

 軋む音を立てて変形し始める骨格。

 厭な感覚と共に破断していく筋肉繊維。

 弾け飛ぶ内装モニターが全身に突き刺さる。

 

(…粒子爆発相殺装甲(ブロッケン・フレア)────)

 

 口から血が溢れ返り、視界がレッドアウトする中、思考操作する。

 ────応えるように、日方風は全身の粒子波形制御基を大きく展開する。

 うなりを上げる対消滅粒子融合炉(タキオン・エンジン)

 赤熱する内装のタキオン粒子循環パイプ。

 このまま押し潰されるなんざまっぴらごめんだ、少なくとも箒が独り立ちできるまでは死んでも生きてやる。とナガトは笑った。

 

 同時に粒子装甲が瞬時にして高濃度化し、圧縮されていく。

 太陽光に匹敵する光量の圧縮タキオン粒子が日方風を中心に唸りをあげて────

 

(────点火(ブラスト)…!)

 

────膨大な熱と光と、そして衝撃坡を伴って、粒子の奔流が炸裂する。

 瞬時に音速に達するほどの加速で起こる空気圧縮熱。

 その嵐は、波打つように人工基盤をえぐり、溶けかかった地表の瓦礫や大量の土砂諸共黒騎士を吹き飛ばした…!

 

 ────粒子爆発相殺装甲(ブロッケン・フレア)

 それが日方風に装備された最終兵器のひとつ。

 かつて最初期型アライズに搭載されていた、至近距離での核爆発に抗する為の防御機構。

 原理は至極単純。

 粒子装甲を圧縮し、攻勢反射することで核爆発に匹敵するタキオン爆発を引き起こすことで、攻撃を相殺するというもの。

 そして防御機構とはいえ攻性防壁として機能する以上、攻撃に転用出来ない道理はない。

 攻勢反射されたタキオン粒子は一秒と待たずに直径400メートルを超える火球へと膨張。

 15キロトン(ヒロシマ型原爆級)の破壊力を伴って戦場そのものを叩き割る…!

 

《がっ、ぁ゛────》

 

 熱線と爆風、そして対消滅粒子の嵐に黒騎士が空へと打ち上がる。

 その反動でこの区画(旧コロニア03)は限界を迎えた。

 全長21キロ、全幅2.7キロの区画は。

 タキオン爆発により船体は直径2キロのクレーターが形成される形で南北真っ二つに割れ、海水に到達した熱線が水蒸気爆発を誘発させ、区画を支えていた海底地盤が破壊された。

 その先は単純だ。

 船とは底に行くに従って細くなり、上へ行くほどに幅が広くなる。

 ならば結末は単純で────支えたる海底地盤を失った区画そのものが横倒しになり始めた。

 

 ────そんな些事(さじ)がどうした。

そうナガトは内心呟き空を睨む。

 同時に、日方風のブースターに備えられたリミッターが解除される。

 弾け飛ぶ拘束器具。

 緊急排熱機構より緋色の粒子が溢れ出て、一条の光を形成する。

 ────それが6対。

 さながら、熾天使(6枚羽の天使)を彷彿とさせる、赤翼が生まれ出でる。

 

 敵は目の前。

 今度こそ逃がさない。

 今度こそ────!

 

殺す(終わらせる)…!」

 

 その意思を体現するように、日方風は翔ぶ。

 速さは先程までのそれを僅かに上回り、右腕に対艦刀を構えたまま。

 横一文字に切り裂かんと黒騎士に瞬時加速で飛び掛かる。

 

《それは…こちらのセリフだ────!》

 

 黒騎士(マドカ)が叫ぶ。

 日方風と同じく右腕の荷電粒子砲(タキオンキャノン)を空中で、抜刀の姿勢で構えて見せる。

 

《死ね────!!》

 

 荷電粒子砲が横一文字に振るわれる。

 深紅の掃射は黒騎士の憎悪を宿した熱線となって日方風に突き刺さる。

 ナガトはそれを、右腕の対艦刀で受け止めた。

 対艦刀は金属疲労と高熱と、そしてタキオン粒子による分子侵食分解により、どろりと崩壊する。

 だが熱さに焼かれながらも、ナガトはより強い殺意で空へと駆け上がった。

 ────手を伸ばす。

 それは攻撃を防ぐためにあらず。

 それは────本命を叩き込む為の、(デコイ)として。

 残り数メートル。

 そこで初めて、左腕の装備(本命)を起動する。

 ────81式Ⅲ型対戦車装甲穿孔槍(パイルバンカー)

 それこそが、ナガトが最後まで取っていた切り札。

 

《ッ────!》

 

 黒騎士が真意に気づく。

 しかしもう遅い。

 ここまで来れば既に射程内。

 右腕のマニピュレータが黒騎士の頭部を掴む。

 鉄の指に渾身の力が込められる。

 黒騎士(マドカ)の怨嗟をナガトは耳にした。

 憎悪と復讐心に呑まれた者が見せる、死してなお呪い続けるような声。

 だが、彼はそれを無視した。

 もとより聞く耳など持ち合わせていない。

 

「オ゛オォ────ッッッ!!!」

 

 殺意と狂喜に満ちた、人が発するものとは思えない雄叫びと共に吶喊する。

 ナガトは日方風の左腕を黒騎士めがけて叩きつけ、パイルバンカーが唸りをあげて杭を装填し、一拍ほどの溜めを置く。

 一瞬後────引き絞られた杭が突出した。

 ────(ガォン)、と。

 常識外の質量が黒騎士を打ち砕く。

 狼が獲物の喉笛を喰い千切るように。

 撃ち出された(パイル)は無遠慮に機体を突き破った────!

 そこには常識も礼節も遠慮もなく。

 砕く。砕く。砕く。砕く。

 装甲が内側からの爆発で弾け飛び、些塵と散り行く黒騎士(かつての支配者)

 それがなんだ、感慨に耽る暇があるか。

 やるべきことは単純だ。

 ただひたすらに、打ち穿つのみ────!

 

「さっさと────」

 

 そして再び、再装填(リチャージ)したパイルバンカーを、

 

「────壊れろォ!!」

 

 左ストレートの容量で叩き込む────!

 (ガッゴン)、という衝突音。

 それと同時に、パイルバンカーの二撃目を喰らった衝撃で、黒騎士はナガトの前方へと吹き飛ばされる。

 今の一撃で限界を迎えたのだろう。

 機体フレームの各所が弾け飛び、制御を失ったタキオン粒子によって自壊していく。

 ブースターは爆発し、空を翔ぶ力も失われた黒騎士はなすすべもなく、弧を描きながら堕ちていく────。

 

《殺してやる…!次こそ、必ず…!》

 

 激しい破壊の砂嵐に塗れた黒騎士の管制AI(マドカ)諸共からの怨嗟。

 

《…イチカの……仇…!》

 

「…来るなら来い、その度に殺してやる。」

 

────見下ろすナガトが最後に見たのは。

 海面に叩き付けられ、爆散する黒騎士の姿だった。

 

「────…状況、終了。」

 

 ハイパーセンサーに敵性反応が見られないことを確認すると、ナガトはそう宣告する。

 …もって、狼と亡霊の戦いは終了した。

 

 

 





〜あとがき〜

◉ナガトと箒のナゼナニ劇場11

▪︎ナガト
「このコーナー1年ぶりだよなぁ…」

▫︎箒
「ですね…何から語りましょう…?リクエストでも未消化のがありますが…」

▪︎ナガト
「旧コロニアのレヴィアタンに関する解説だな…そのついでに今回のクレイドールや黒騎士の解説もしちまおう。」

▫︎箒
「はい!お願いします!」

▪︎ナガト
「まずはレヴィアタンから。
【BAEs/IS-1 レヴィアタン】
 コイツは旧コロニア・イギリス連邦派が開発した第1世代水上戦闘艦型インフィニット・ストラトスだ。
 主な運用用途は2つあって、ひとつは対地上目標攻撃。本編でもあったように、ミサイルで地上目標を攻撃するというものだ。
 これだけなら既存のミサイル駆逐艦と変わらないが、コイツは反重力翼と慣性制御のおかげもあって、海上では90ノット────実に通常艦艇の3倍の速さで動ける。
 その為、離れた目標へも即座に対応可能となっている。
 2つ目の運用用途は対艦隊戦だ。
 本編ではハイレーザーキャノンを撃つだけにとどまっていたが、本来は90ノットという高速を活かして、敵艦隊を翻弄しつつハイレーザーキャノンによる機動砲撃戦を展開する────というのが主な運用スタイルだな。」

▫︎箒
「ここまで聞くと、結構な驚異だったんですね…降下中のゲラルトさんのレールガンで即死してましだけど…。
 …もしかして、空からの攻撃には弱い?」

▪︎ナガト
「鋭いな。指摘の通り、コイツはあくまで対水上・対地上目標の攻撃に特化している。
 対空目標への攻撃はミサイルで迎撃する程度が関の山だろう。…そもそも、この点は艦載していたISが対処するようになっていたし。」

▫︎箒
「ISの艦載機能もあるんですね…。」

▪︎ナガト
「今回は大気圏外からゴーレムが軌道降下して来たから積んでなかったが…もし積んでいたら、更にややこしくなっていただろうな。」

▫︎箒
「…あまり考えたくない絵面ですね…。
 では、次はクレイドールについて教えて下さい。」

▪︎ナガト
「ん。では次はクレイドールについて。
 【T_IS-99/RQ-001C クレイドール】
 コイツは旧コロニア・旧ソ連派が開発した第1世代重戦車型インフィニット・ストラトスだ。
 スペックは本編で見たとおり、戦艦級の火力投射が可能なほか、反重力翼と慣性制御により時速500キロで移動可能。加えて6機までISを艦載可能となっている。
 コイツは端的にいうと、レヴィアタンの地上バージョンと言ったところか。
 違いがあるとすれば、レヴィアタンは艦載ISを対空迎撃ユニットとして使っていたが、クレイドールは自前の迎撃装備があるから周辺制圧用小機として艦載ISを運用する点だな。」

▫︎箒
「なるほど…。心なしか、クレイドールの方が戦闘には向いている気がしますね…。
 こう、頑丈だし、ある程度自立しつつも制圧能力高めというか…。」

▪︎ナガト
「まぁ、そもそもの運用ケースが違うからな…。レヴィアタンはコロニア直援艦隊から支援を受けられる環境での運用を前提で、クレイドールはコロニア艦隊からの支援を受けられない敵地での運用を前提にしているからなぁ…。
 単純な強さで言えば、クレイドールに軍配が上がるかもな。レヴィアタンより速いし、俺も撃破するのに手間取った。」

▫︎箒
「えっ、ナガトもアレらと戦った事あるんですか⁈」

▪︎ナガト
「10年前にな。そん時ゃいっぱい居たから。」

▫︎箒
「ヒェ…あんなのがいっぱい……考えたくもない…。」

▪︎ナガト
「ホント再構築戦争は地獄だぜ。
 …さて、話を戻して、次は黒騎士だな。
 【FIS-1Q《WK-Black(黒騎士)》】
 コイツは旧コロニアの設計を流用した機体である事は間違いないだろうが、製造元が不明だ。
 …が、性能的にはオリジナルの白騎士と同等…という感じだな。俺の体感だが。」
 

▫︎箒
「見た目はまんま白騎士ですけど…何が違うんです?」

▪︎ナガト
「順を追って説明しよう。
 コイツはタキオンジェネレーターを2基搭載している点から、機動力、出力、防御力、いずれもアライズと大差ない。」

▫︎箒
「タキオンジェネレーターを…?!ッ、そういえば、タキオンキャノンも搭載してましたよね。」

▪︎ナガト
「ああ。零落白夜が原型であるタキオンキャノンは通常のISなら5分でエネルギーを喰い尽くす馬鹿の極みだが…タキオンジェネレーターを用いれば、通常フレームのISでも使えない事は無い。
 常時致死量のタキオン粒子に晒されるという点を除けば、だが。」

▫︎箒
「単純にタキオンジェネレーターを積めば良いってわけでは無いんですね…」

▪︎ナガト
「ああ。…他にも語るべきポイントはあるが、不確定要素が多過ぎるんで、他は追々…な。」

▫︎箒
「あ!じゃあ最後にベルセルク・モードについて教えて下さい!
 本編の描写だけじゃ分かりづらいポイントが多かったんです!!」

▪︎ナガト
「あー…、それはどのあたりだ?」

▫︎箒
「例えば、なぜ第1世代相当のスペックがあるのにリミッターをしているのか。
 また、どうして急にマッハ7なんて叩き出せるのか…とか…。」

▪︎ナガト
「そうだなぁ…。まず、第1世代相当のスペックにリミッターをかけている点については、単純に汚染と周辺被害が馬鹿にならないから、だな。
 今回の描写を見て貰えば分かる通り、ベルセルク・モード…というか第1世代アライズは現行世代と比較して圧倒的な出力と推力、そして粒子生成量を誇っているが、その分汚染も馬鹿にならない。」

▫︎箒
「具体的にはどれくらい酷いんですか?」

▪︎ナガト
「原子力発電所がメルトダウンして放射性物質を撒き散らすくらい。」

▫︎箒
「……(絶句)」

▪︎ナガト
「再構築戦争時はそれだけの汚染を引き起こしながら推移してたんだが…戦後、馬鹿にならない規模の被害が発生してな…。
 その後は生成されるタキオン粒子総量を削減したりフィルタリング型濾過システムの内蔵義務化などが制度化されていき、後発の第1.5世代型および第2世代型アライズでは、第1世代アライズのスペックに制限を掛けざるを得なくなったというオチだ。」

▫︎箒
「…待って下さい、それだと変じゃないですか?だって第1世代アライズよりスペックダウンしているんですよね?
 …なんで第1世代アライズのスペックを発揮できるんですか?制限されたスペックで規格化されてるなら、暴走状態にでもしない限りそんなの正常に稼働できない筈じゃ……」

▪︎ナガト
「第1.5世代と第2世代はな。そいつらはあくまで対コンペディションIS戦を想定した機種だから、んなもんしたらオーバーロードまっしぐらだ。
 だが、俺やお前が乗ってる第3世代型アライズは、対アライズ戦を想定した機種だ。
 だからいざとなれば、第1世代相当のスペックを発揮できるように設計されている。
 今回俺の日方風がベルセルク・モードでスペックを底上げ出来たのは、そうした理由だな。」

▫︎箒
「なるほど…。では、急にマッハ7とかを叩き出した理由は?」

▪︎ナガト
「それはタキオン粒子の性質だな。
 タキオン粒子は対消滅粒子だったよな?」

▫︎箒
「はい、そして粒子装甲で機体全面をタキオン粒子で覆い、進行方向に波形を変えたビームを展開する事で空気抵抗を軽減し、大気の干渉を減散させ、大気圏内をマッハ1〜マッハ4で飛行可能であると…そう記憶しておりますが…。」

▪︎ナガト
「満点だ。そしてベルセルク・モード発動時はより多くのタキオン粒子が生成され、粒子装甲も高濃度化する。
 こうなると、粒子装甲内の大気密度は極めて薄くなる。
 そして、大気密度が薄くなればなるほど、物体の移動速度は速くなる。
 このふたつの性質が合わさり、バカデカいブースターを積んでるわけでも無ぇのにマッハ7(第1宇宙速度)なんて叩き出せるってわけだ。」

▫︎箒
「なる、ほど……?」

▪︎ナガト
「…聞いただけじゃよく分からんよな。俺も参考書なしだと分からん。」

▫︎箒
「それに今回は解説項目多かったですから……」

▪︎ナガト
「だな。んじゃ今日はこれで〆るか。」

▫︎箒
「はい!…次回はどうなるんでしょう?原作のゴーレム戦より被害が多いですし…。」

▪︎ナガト
「…その辺も加味しつつ、可能な限り原作通りにやるそうだぞ。」

▫︎箒
「あ、良かった…(ホッ)」



次回もよろしくお願いします。




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