インフィニット・ストラトス・アライズ-Dominater of Battlefield- 作:天津毬
投稿がめちゃくちゃ遅くなり申し訳ありません!天津毬です。
…遅くなった割にあまり話は進んでいませんが1万文字を超えてしまったので少し分割します……すみません…(学園パートと戦時パートの書き分け難しい…)
────IS学園校舎図書館渡り廊下
「…参ったな────」
オルコットと凰、そして一夏の分の飲み物を買おうとした箒は途方に暮れていた。
────飲料水不足の情報を聞きつけた一部生徒らが既に買い溜めてしまい、自販機に目当ての飲み物が一切残っていないのだ。
「…ダメだ、ここも…。」
────これで5ヶ所目。
あまり長く図書館を離れるワケにもいかない。
(仕方ない、とりあえず代わりになりそうなものを探して買って行こう────)
そう思って自販機のラインナップを見て────うぐ、と唾を飲む。
梅昆布茶、豆乳、ずんだジュース、トマト野菜ジュース────どれもクセのあるものばかりだ。
「どうしたものか…」
思わず箒は頭を抱える。
ふと────購買部運営のコンビニへと足を運ぶ。
「…────」
自販機より高いから気は進まないが…背に腹は変えられない。
コンビニで買おうと、箒はサイフの中のドル札を見ながら呟き、店内に足を踏み入れた。
『────アッパーウィンディ、ウィンディ区は現在
えー日本帝国内閣府からの会見によりますと────』
店に入ると、店内備え付けラジオが聞こえて来る。
窓際には雑誌が置かれており、店内側には生活用品、その列を抜けると食品取り扱いコーナー…と、作りは本土のコンビニと変わらない。
店内の垂れ幕には《学園おにぎり1個1ドルセール!!》という特価販売を知らせる広告も吊るされている。
────余談だが、IS学園やトキオ自治区で使う通貨はアメリカ・ドルである。
かつてのコロニア統治時代の名残りであり、再構築戦争後も世界的に影響力を持つ国際基軸通貨であるからだ。
そして何より、トキオ自治区自体が日本帝国との二重政治体制だったとはいえ国連管轄都市であったこと。
それらの要因により、自治区や学園では日本円ではなく米ドルが流通していた。
…とはいえ、それはもはや先日までの話。
────学園内は流石に無かったが、街中では、破壊されて現金を引き抜かれているATMを複数登校中に見かけた。
一体いくらのドル貨幣が不正に流出したのか。今頃自治区の金融機関は阿鼻叫喚の地獄絵図となっているだろう。
────逆を言えば、日本円を売り込む好機でもあるという事だが。
まぁ、そんな政治的かつFXだの金融だのとは無縁な箒からすれば『大変なんですね』と他人事の様に思うだけだ。
箒は経済学も知らないし金融なんて門外漢。
あくまで自衛隊で訓練を積み重ねて来たヘズナル候補生に過ぎない。
だからこういうのは、餅は餅屋に任せる────証券屋や銀行屋等、銭勘定を得意とする者達に託すのだ。
…そう考えていると、店内カフェテリアブースのTVモニターが視界に入る。
普段ワイドショーを写している筈の画面には、『都合により、番組を変更してお送りしています』というテロップと共に、都市の情景を映した環境映像が延々と流れていた。
────火を灯した蝋燭のようなデザインのタワーをバックに映る五重塔。
────古い木造家屋が並ぶ筋を歩く着物姿の舞妓たち。
────二重の水堀に囲まれた、こじんまりとした城。
────周囲が拓けた河川と、岸辺に木造家屋が並ぶ風景。
《失われた景色第26回・京都府京都市》…というサブタイトルが画面の隅に刻まれてあり、それが京都府
京都はかつて日本文化の中心地であり、多数の寺社や建築物が当時の姿を残していて、建都800年を誇る都だった────と授業では学んだが、そう言われてもピンと来ない。
現在では、京都と呼ばれた土地にこの環境映像や教科書に載っていたような風景は一切なく────クレーター湖と化した旧中心市街跡地と、その周囲には火災により焼失したであろう木造建築物とそれを飲み込みつつある植物と荒野と廃墟が広がっているだけだ。
故に箒は…否、ナガトですら京都がどんな街なのか知らない世代だ。
自分が産まれた時には京都という街は存在せず、名前だけは聞いた事がある程度だった。
後になって歴史の授業で、京都とは、大破壊期只中の1990年に『地球に落下したヨハネ彗星群の一部が直撃した事で地表部が蒸発し、地下水脈の水蒸気爆発によって地盤崩壊を引き起こし、更に琵琶湖水系の河川水流入により水没した街』の名前である事を知った。
それが32年前────ちょうどナガトが産まれた年にあった『京都消滅』なのだと言う。
────正直、こんな漠然とした話を教えられても、という感想しか湧かない。
だって今は存在しない街だし、自分にとっては縁もゆかりも一切ない街だし…まぁ、『こんな風景も昔はあったんだー』くらいにしか思えない。
…私もそういう立場に立たされたら、理解できるようになるのだろうか?
────いや、よそう。
箒は店内の飲料コーナーに足を運ぶ。
購買部は以前から商品の備蓄貯蔵庫を備えており、災害時も2週間は通常通り品出しができると言われていたために覗いてみると、思った通り普段と変わらない商品が並んでいた。
…とはいえ、箒同様自販機の飲み物にありつけなかった層が殺到したらしく、全体的に数は少なめだ。
多分、普段の6割くらいしか残っていない。
常時品出しはしている様だが備蓄倉庫からの供給が追い付いておらず────といったところだろうか。
「えーと、確かオルコットがアフタヌーンティーのストレート…凰がフューズティーのインテンスだったな…」
しかしあるのだろうか、いくら品揃えが豊富かつ在庫は多めに蓄えているとはいえ、この状況下だ。
外の自販機同様、売り切れているかも…。
(────あった。)
しかし心配は杞憂に。目当てのものはアッサリと見つかった。
そして見つけるや否や、箒は刀を鞘から抜く様な速さで買い物カゴにソレを投げ入れた。
「ふ────…」
やっと買えた────と安堵して、箒は自らと一夏の飲み物であるポカリスエットとアクエリアスに手を買い物カゴに入れる。
…さて、だいぶ道草を食ってしまった。早く図書館に戻らなくては。
そう思い、箒は会計を済ませてコンビニを飛び出した。
「ぐはぁ?!」
「あ痛ァ!?」
────その直後、箒は左から突っ込んで来た何かと衝突した。
アスファルトに倒れる二つの身体。
ゴロゴロと散らばる飲み物たち。
視界は
鈍い痛みが全身を駆け巡った。
「〜〜〜〜〜〜ッ」
痛みと困惑を無理矢理抑え込み、どうにか身体を起こす。
布仏といい…今日2回目だぞ────と箒は内心毒付き、突っ込んで来たものの正体に視線を向けた。
「いったた…ゴメン。飲み物ここくらいしか売ってないって聞いて焦って来たらぶつかっちゃった…。」
────そこには、少女が居た。
歳は箒とそう変わらない。
小動物を思わせる、幼い仕草。
貴公子とウサギ────釣り合っていない二つの要素が矛盾なく同居している────そんな印象を抱かせる。
…当然、初対面だ。
名前も知らない、初めて顔を合わせる。
「…え?」
思わず箒は驚きに顔が歪む。
間違いなく初対面────だが相手のその声を、箒は知っていた。
既に聞いて、彼女と話したことがあった。
そう、その声を初めて聴いたのは、先日の無人IS迎撃戦の最中────。
「────まさか…ライカン、04…?」
「え?…って、その声はあの
箒の声に反応して、金髪の少女────ライカン04こと、シャルロット・ヴィークマンも、箒を認知して。
────2人して、狐に摘まれたような間抜けな顔を晒していた。
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────セントラル区
被災地救援臨時仮設指揮所地下
────ライフライントンネル内仮設基地
先のブリーフィング後、ナガトと高木は仮設指揮所地下────旧コロニア11船倉区画ライフライントンネル内に設けられた地下仮設基地に案内された。
ここで戦闘準備を行い、作戦開始と共に行動を開始せよとの事だ。
なるほど、格納庫がわりには使える────ふと、ナガトはそう思いながら周囲を見る。
換気性を重視したのか天井までの高さは18メートルと6階建てビルに匹敵する高さ。
トンネル床面にはコロニア艦内の物資輸送に用いられたであろうリニアレール。
楯無や高木の説明によると、再構築戦争後は各地区を構成するコロニア艦とを繋ぐレールが増設されたのだという。
自沈・着底したコロニア艦で構成されているトキオ自治区らしくもあり、各艦のリニアレールを使えるという意味で合理的とも言える。
そんなライフライントンネル内にはA-CISおよびEOS、そしてアライズ用に設置された機体固定用ガントリークレーンが複数並んでいる。
いずれもリニアレールの台車を改造したものだ。
その中に──── 1機のアライズが鎮座していた。
日方風と同様の胴体に頭部。
腕も似通ってはいるものの、さらに重装甲かつ重厚感漂うフレームとなっている。
更に脚部に関しては、
────戦車。
そうとしか言えない機体が、配備されていた。
「予備機体って…コレ戦車じゃん。」
思わず高木が口にする。
…そも、アライズだろうがコンペートだろうが、ISとは航空兵器である。
だというのに陸上兵器たる戦車の要素を持つ機体が予備として送られて来たのだ。
「仕方ないだろう、日方風を本土の
────先日のゴーレム戦で、黒騎士と交戦した日方風はオーバーホールが必要な程に損傷していた。
その為日方風は現在愛知県にある巌崎重工整備工場に移送されてしまったのだ。
更にはデータ収集の為に雷火も防衛装備庁が接収する始末だ。
日方風の整備と雷火のアップグレードが終わるまでアライズが2機稼働不可となる────これは自治区にとって痛手だった。
何しろ自治区の防衛を担っていた都市防衛隊は先日事実上の壊滅。
学園警備隊も半数近い戦力を失っており、更に教師部隊はコンペートがバグ取りでほぼ全機稼働不可────と、猫の手も借りたい程に戦力が足りない。
もう一度厄介事が起きれば間違いなく自治区は瓦解するし、最悪九州に自治区民らが難民となって押し寄せることとなる。
そこで本土から予備機として新たにアライズが1機派遣されたのだ。
────それがこの
元々は米国の大手ISメーカー、ゼネラルアーマメント社と共同開発していた装履脚パーツ《チャリオット》を採用した機体で、その設計思想は『IS適正の低い者でも扱える機体開発』だったという。
…まぁ、最悪車の運転技術があればなんとかなる点を考えれば、アレコレ思考操作や空力調整を必要とする各種二脚・逆脚・無脚よりかは操縦難易度は遥かに単純だ。
「しかし空戦兵器相手に陸戦兵器とか絶対フルボッコにされて即棺桶コースじゃん。」
ナガトが機体調整をする傍らで高木が再び愚痴る。
「そういうな、確かに機体重量からくる脚の遅さは否定出来んが、悪くねぇとこだってある。特に装甲耐久力は折り紙付きだ。」
ナガトはそれに反論する。
装履脚型は主に防御力、積載力に特化した機種だ。
特に防御力は折り紙付きで、海自の主力打撃支援艦たる『やまと』型護衛艦の460mm砲を喰らっても数発は耐えられる程だ。並みのアライズ運用火器では破壊することも難しい。
次に積載量は二脚や無脚を遥かに上回る。
他のISと異なり脚部内格納領域と拡張領域は大型武装を4基、加えてそれら弾薬類を格納可能となっている。
それらの代償として機体総重量は重く、他の機種と比較して巡航速度はあまりに鈍重だ。
しかしその機体重量を逆手にとって相手を轢いてやれば機体そのものを大質量砲弾とする体当たりをもって一撃で沈められる。
単純かつ、それに応えるパワーと防御力を備えた機体。
────要約すると、ゴリ押しには向いてるってこった。とナガトは付け足した。
…普段使い慣れている日方風とは異なる戦闘スタイルを強いられるだろう。
装履脚型は圧倒的火力で敵を粉砕するという運用が常だ。
そして今回作戦エリアとなる箇所は大半が地下空間。敵に逃げる隙を与えず継続的大火力投射をもって撃破することも不可能では無い。
────何より先日の戦闘で無理な高機動戦に支障が出ているナガトにとってはありがたい話だ。
「そもそも論、なんでナガトまで投入されるワケよ。怪我人じゃん?お前。」
────ふと、高木が至極真っ当なことを問う。
先日の襲撃における黒騎士戦で負傷したナガトはしばらく安静にしていろと医師からも宣告された。
当然楯無がそれを知らない筈がない。
つまりは────
「────知らね。」
「はぁ?」
「冗談だ…半分な────多分、ペナルティなんだろう。ほぼ無人だったとはいえ戦闘で市街地を根こそぎ吹き飛ばしちまったんだから。」
────そしておそらく、踏み絵だろう。
…先の黒騎士戦にてナガトが使用した
それが見逃されているのは、敵がアライズ級の兵器であった事、そして吹き飛ばした区画が難民解放戦線の拠点であったという例外要素があったから。
────戦闘時の被害とはいえ文民の居住区を破壊したという罪科と。
────結果論とはいえ、テロ組織が根城としていた拠点に壊滅的ダメージを与えたという功績。
前者のマイナス要素と後者のプラス要素が合わさり、ナガトの処罰は今のところ減俸処分となっていた。
そして今回の作戦は────
「…先の被害を不問にして欲しけりゃ、テメェで御国への忠誠を証明してみせろって事だろう。」
────なんて事は無い。
ここで難民解放戦線を叩き潰し、その罪を清算し、日本帝国への忠誠を示して来いという、それだけの話だった。
「…だからってケガ人を扱き使って良い理由にはならんでしょフツー。」
「まぁ、ヘズナルってのは、無理と無茶と理不尽をどうにかして実現するのが仕事だからな────もう慣れてる。」
「うへぇ……で、本音は?」
「今減給されたら箒が進学したり就職した時の学費に響くから是が非でもなんとかしたい。」
「奨学金使えよぉ〜」
「それくらい使ってる。その上で奨学金の一括返済分に貯めてるんだ。…箒が社会に出て、足枷が少しでも少ない方が、後が楽だろう。」
「過保護かよぉ〜」
「なんとでも言え。」
揶揄う高木に真剣に返すナガト。
高木の言う通り、ナガトは過保護だろう。
しかし社会人として独立してからは月20万円程度の給料から医療・年金保険や所得税等税金…と引かれて、残った給料の全体の7割を手取りに生活費や貯金をやりくりするのだ。
そこに奨学金の返済が加わると更に生活費や貯金を圧迫することは目に見えている。
加えて自動車免許などもあった方が良い可能性があるからそれも取るならざっくり30万円は要るだろう。
だからナガトが箒の将来の為に一括返済をしようとするのは、ある意味必然でもあった。
足枷が少ない方が、生きやすいからだ。
…そこまで血のつながってない子供に尽くせるのがある意味羨ましい────そう高木が言おうとして、爆発音と振動が雑談を遮った。
発生源はこの真上。
────2人はすぐさまマストタワー一帯の街頭カメラ映像を確認する。
…ふと。
マストタワー前の食料配給所。
そこから煙が上がっている。
…朝、機動隊が暴徒とやりあった場所だ。
そして確か、食料の準備には学園炊事部も参加しているという話が────。
瞬間、弾かれた様に高木は動き出した。
「こちら
「ライカン01よりCP。状況報告を求む、オクレ────!」
高木は無線機に向けて怒鳴る。
そしてそれはナガトも同様だった。
『────こちらCP。配給所で自爆テロが発生した模様。死者重傷者多数────現在状況把握中。オクレ────。』
────陸自
…自爆テロ。
おそらくは、配給の列に並んでいたテロリストがリュックなりバッグなりに隠していた爆弾を起爆して、この惨状を引き起こしたのだろう。
…やられた、とナガトは思う。
あくまでこちらが警戒していたのは行政府ビル自体への攻撃だ。
その付近にある配給所や救済対象である避難民を対象とした自爆テロは想定していなかった。
連中はその盲点を突いてきたのだ。
『こちらお姉さん────』
ふと、今度は楯無から無線が入る。
『────落ち着いて聞いてね?学園炊事部の職員はほぼ全員死亡しました。あと、警備にあっていた都市防衛隊職員、並びに長崎県警・大阪府警警察官も複数名死傷、自治区一般人も…見たところ50人近くが死傷…多分これから結構増えます。』
────クラッと、楯無の報告に目の前が真っ暗になる。
…学園炊事部職員がほぼ全員死亡。
…都市警備隊員が複数名死亡。
…一般人が50人近く死亡。
学園炊事部は確か人数は8名程だった。
────つまり最低でも、60人近い人間が先程の爆発で死んだ事になる。
『それとたった今、難民解放戦線が犯行声明を出しました。────"この一撃は警告である、ただちに日帝は自治区より手を引くべし"────以上です。』
つまりトキオ自治区の復興支援を停止しなければ、今後も無差別テロを実行する、と。
そう言う事だった。
「…ふざけんなよ…、巻き込んでんのほとんど避難民じゃねぇか…!」
高木は思わず怒りを露わにしていた。
…無理もない。
自治区から手を引かなければ、無差別テロで区民が死ぬ。
自治区から手を引けば、今より被災状況は悪化し区民が困窮する。
日本帝国政府は、最小限の支援しか投じていない為、手を引こうが引かまいがほぼ無傷。
────このやり方では、割りを食うのは自治区民だけだ。
「…戦災難民解放を謳いながら、戦災避難民を虐殺するとは、ケッサクだ。」
思わずナガトは侮蔑混じりの皮肉を言い放つ。
救済対象の存在すら、敵対対象への攻撃に巻き込みあまつさえそれを政治利用し、自己の活動成果として取り扱う。
その時点で、難民解放戦線とやらは自らを迷惑極まりない害悪だと宣言した様なものだ。
「本当に…くだらねぇ。」
醒めた瞳を浮かべて、ドスの効いた声音で呟く。
…そこには明確な殺意が込められていた。
ふと無線の向こうで、楯無がくつくつと嗤う声がした。
『ま、これで是が非でも作戦を実行しなくちゃいけなくなっちゃいましたねぇ…』
楯無の言葉にナガトは思わず怪訝な顔を浮かべた。
『当初は、難民解放戦線はあくまで復興を支援する日本帝国臣民を狙うと考えていましたが、今現在はその支援を享受している一般人まで虐殺している────これはトキオ自治区の人間にとっても、由々しき事態だし、好機です。』
「…まさかとは思うが、これで『正義は我らに在り』とか言うんじゃねぇだろうな、お喋り娘。」
『…当たらずとも遠からず、です。
何しろ彼らは日本帝国とトキオ自治区の双方の人間を殺し、自らが《排除されるべき癌細胞である》と────そう
────これで
ゾクリ、と。2人の背筋に悪寒が走る。
…
先程の自爆テロを今回の難民解放戦線拠点制圧作戦を正当化する為の材料としか認識していない────その事実に、ナガトと高木は二人揃って嫌なものに気付いた顔を浮かべていた。
「…生徒会長、人の心とかないカンジ?」
ポツリ、と高木は問いかける。
相変わらず戯けた口調。
しかしその声音には、『もしお前の家族も巻き込まれた時、そんな他人事でいられるのか』────という、僅かな苛立ちが込められていた。
『失礼ね、有りますよ。…私だってかんちゃんや虚ちゃんが巻き込まれて死んじゃったら悲しいですから。』
「────なら」
『でもそれとこれとは話が別。大切なのは私情は殺し、お上に与えられた命令をどれだけ正当化し実行するか────公務員として成すべき事は、そういう事でしょう?』
楯無は努めて冷徹に言い放つ。
…もはやそこまで言われれば、高木はもはや返し様がない。
────2人からすれば、死んでも御免被る生き方を、二十歳にも満たないこの少女は受け入れてしまっているのだから。
『…さて、当初は19時頃の作戦決行を予定していましたが少々前倒します。』
閑話休題────と言わんばかりに楯無は口にする。
『────ただいまより、作戦を開始します。』
その宣告と共に、
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────同時刻
IS学園図書館付近
先程、校内コンビニを出るなり衝突事故を起こした箒とシャルは、2人とも飲み物を手にしながら図書館に向けて歩みを進めていた。
「いやー…ごめんね、ホント。頭大丈夫?」
このとーり!と、確かに反省してはいるがかなり語弊のある問いかけをこの少女────シャルロットは投げかけて来る。
…まぁ、悪気はないのだろう。悪気は。
だから我慢我慢────と私/箒は自らに言い聞かせて口を開く。
「────打撲した箇所の痛み、という意味でなら問題ない。」
「ああ良かったぁ…」
「…ただし────その聞き方では、相手を馬鹿にしていると誤解を与えかねないから気をつけた方が良いと思うぞ。」
とはいえやはり言わせてもらおう、と言わんばかりに箒は追撃する。
人間関係を長期に渡って維持するというのなら、こういう問題点は関係構築の最初期段階で潰しておけ────と、箒はナガトや教育隊の大人達に教わったからだ。
「ヴッ────ぜ、善処シマス…。」
箒が追撃すると、今までもそうした経験があったのか。
シャルは明らかにバツの悪い顔を浮かべて目を泳がせる。
…まぁ、私だって鬼じゃない…と、思う。
だからこれ以上は、やめておこう。
「…ところで、何故貴官まで学園に?というか何故彷徨いている?」
確か、シャルの帰属国家────レヴェラント連合国は、『今年2月末から発生した東欧戦争に際して、3年前から続くフランス内戦終息を支援する為に尽力するべく生徒は派遣しない』という話だった筈だ。
実際、シャルが身に付けているのはIS学園の制服ではなくレヴェラント連合国ドイツ連邦州軍の制服だ。
だからこそ、箒はシャルが駐在武官として来たのだろうと予想した。
「ああ、学園内の道を把握してただけ。2日くらいしてからかな────それくらいから、お世話になるから。」
「…なるほどな。」
派遣理由に疑問は残るが、自分は政治屋でも情報屋でもない以上、その点を詮索しても仕方ない。
それよりもシャルは2日後から世話になるという点だ。
この点から分かるのは、それまで学園の最低限度の機能回復に時間がかかるという事だろう。
…講義はともかく、ウイルス汚染された整備区画が完全復旧しない限り実技講習は再開されない。
もちろんアリーナを用いた訓練も────。
剣道や修練の次に機械弄りが楽しい箒にとっては忌々しい事この上ない。
(全く────今回の襲撃犯が割れたら一発殴ってやろうか。)
人としてアウトな考えである事は分かっているが、それくらいしてもバチは当たらないだろう────などと、箒が物騒な事を考えていると。
「あら…誰かと思えば、シャルロットじゃないの。」
────ふと、声がした。
振り返ると、見知らぬ少女がいた。
他者を見下している目付き。
よく手入れのされたブロンドの髪。
…シャルとどことなく、容姿が似ている────思い出した、彼女は。
「そういうキミは────────どちら様?」
ズコ────と。
シャルのその一言で箒も少女もずっこけた。
…まぁ、知らないのも仕方ない。と箒は内心思う。
何しろシャルは学園に来て…しかも見学に来ていたところだ。
生徒一人一人の事など、覚えているわけがないし、そもそも知る余地もない。
おそらく箒の事も、コンビニ前で衝突事故を起こさなければ全く気付かなかっただろう。
基本的に、ここにいる生徒とは皆、直接的接点など皆無なのだから。
────それが
それに気付かないのか少女────3組クラス代表が吠えた。
「忘れた⁈忘れたというの⁉︎この私を⁉︎」
「忘れたも何も初対面だから…」
────多分、他人の空似じゃない?と。
ヒステリックな声をあげて怒鳴る少女めがけてシャルはにこやかに付け加える。
「なわけないでしょう!」
しかし少女にはむしろ火に油を注いでしまったようだ。
ヒートアップしていく少女を前に、これでは埒が開かない────と箒は思う。
こういう時、ナガトはこう言ってたっけと思い出す。
『
…とか、言ってたな。
なので箒は。
「貴女私と同じ種から産まれたんだから母から知らされてる筈────」
「────おい。」
「何よ!?」
「────あそこでこちらを見ているの、織斑先生ではないか?」
そう、少女の遥か後方にある校舎を見ながら、顎で指す。
────当然、ウソだ。
箒が指した校舎の窓はスモークガラスであり、中に誰が居るかなど分かりようもない。
それに第一────如何に目が良くとも人間の肉眼で詳細に見える範囲など知れている。
だから普通なら、そんなウソに人は乗せられない。
しかし織斑千冬の名は、ヴァルキュリーとしての最上位ブリュンヒルデの名を持つ彼女の存在とスパルタぶりと畏怖は、その認識を捻じ曲げるには十分だった。
問題を起こせば無慈悲な
その事実が少女を青ざめさせ────
「────ぇ…え⁈えっ、えっ⁈ど、どこに…⁉︎」
────
少女は背後の校舎を探し回して、視界と意識から完全にシャルと箒が消失する。
その隙に、箒は両手にコンビニ袋を持ち、両腕をシャルの脇下と膝裏に通し────
「えっ、ちょ────」
唐突な行動に思わず声を上げるシャルを無視してそのままお姫様抱っこの姿勢で抱え上げ────
「────逃げるぞ!!」
「へあっ?!」
────瞬間、勢い良く駆け出した。
一瞬、シャルが素っ頓狂な声を上げる。
それで、ようやく少女は自分がハメられたのだと悟り────
「騙したわねぇぇぇぇ────────!!」
怒りに満ちた声を放ち、鬼の形相で一拍遅れて2人を追いかける。
────しかしその一拍で十分。
箒の脚力はその一拍で直線距離で20メートル近く引き離し、更には高低差2〜5メートルもある障害物を乗り越え飛び越え飛び降り縦横無尽に駆け抜ける。
一方の少女は、その高低差を補完する階段や他のルートを迂回せざるを得ず、瞬く間にその差は開いて行く。
「ちょっ…待ちなさ…っ、待ち、待ちな…オ゛ェッ、待っ…ぜぇ────、ぜぇ────…」
そうして来ると、少女は当然息切れを起こし、走るスピードも更に減速する。
ここまで来れば後は、思いっきり引き離すだけ────!
「待っ…ゼェ……!ゼェ…ハァっ、待ちっ、なさい!!」
結果、唐突に始まったこの競走は、息も絶え絶えな少女と。
その少女の視界から颯爽と消えて行く箒とシャル、という形となった────。
、
、
、
────5分後、学園図書館
「────という事があってな。」
「無理情報量多過ぎてついていけない」
どうにかして帰り着いた箒の身に起こった一連の話を聞いた一夏は、ただでさえ知恵熱で帯熱していた頭をショートさせていた。
隣に座る鈴も同様だ。
「────要約すると、買い物に手間取った。偶然先日共闘した方と再開した。その方に因縁をつける3組代表を撒いた。…という感じですよ、お二人とも。」
「ありがとうセシリア、要約たすかる」
セシリアが上手く話を整理して、ようやく一夏は流れを理解した。
「…それにしてもアンタ、アントワーヌに因縁かけられるって何したのよ?」
現実に帰って来た鈴は思わず箒の隣に座る金髪の少女────シャルに話しかける。
アントワーヌ・デュノア────3組クラス代表であり、フランス代表候補生。
自信家であり、実力は確かだがナチュラルに他者を見下す言動が目立つ、他クラスでも人格的な評価に乏しい話題がちらほらと聞こえる生徒だった。
────そしてつい先程、箒とシャルに絡んで来た少女でもある。
「…いやぁ、ホントに身に覚えないんだけど……」
思わず苦笑いしながら、シャルはそれに応える。
未だ転入すらしていないにも関わらず、在校生にイチャモンをつけられる。
これほど理不尽かつ傍迷惑な話はないだろう。苦笑いする以外にどうしろと言うのだ。
────心底、箒は同情する。
「────来て早々、災難だったな。」
ポカリスエットを口にしながら、箒は労う様にシャルに声をかける。
「あはは…。まぁでも、一番ビックリしたのは箒にお姫様抱っこされた事かなぁ…」
「おまっっっ────」
その、労いのつもりで声を掛けた箒にとんでもない爆弾が炸裂した。
アントワーヌを撒く上でシャルにしたお姫様抱っこだ。
無論一夏たちには、『走って撒いた』とは言ったが、『シャルをお姫様抱っこしながら』とは一切口にしていなかった。
…箒としても、それは恥ずかしい自覚があったからだ。
それにこれは言いたくなかった。何故なら────
「えっ、箒って力持ちなんだな。」
そう、
この
「────確かに、同年代の女の子と中身いっぱいの買い物袋2つ抱えてだから…結構よね?」
「ええ、そうなりますわね。篠ノ之さんは意外に筋力があるのですね…。」
そして見事恐れていた事態になったわ馬鹿!
一体全体どうしてくれる!?
…いや落ち着け。
落ち着け篠ノ之箒!
ここはそう、話の流れをズラすのだ!とにかく更に面倒になる前に!!
「そ、それより!02はどうした?一緒ではないのか?」
そう、羞恥心を押し殺しながら箒はシャルに問いかける。
02とは当然、ライカン02 ────先日シャルと共に僚機として戦ったヴァイムランナーのヘズナルの事だった。
…それでハッとしたのか、忘れていた事を急に思い出した顔をして。
「いっけない!手続きしてもらってそれから別れたままだった!」
思わずシャルが冷や汗をかきながら口にする。
話を聞く限り、ライカン02は職員室かどこかでシャルの転入手続きをしていて。
シャルはその間に学園を散策していて。
で、あの騒動に巻き込まれて。
現在ライカン02と逸れていると。
────つまり貴様、迷子ではないか。
一夏やセシリアに鈴も同じ事を思ったのか、思わず苦笑いを浮かべている。
「…今すぐ図書館にいると連絡してやれ。」
「うん、そうする!」
はぁ〜、とため息を吐きながら箒は口にする。
そしてシャルは反射的にスマートホンのDM機能で連絡を取ろうとする。
…全く、あまり保護者に心配をかけてやるな────と箒は口にしようとして。
「────アレ?」
シャルの疑問に満ちた声が鼓膜を打つ。
「さっきまで使えたのに────圏外?」
◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆
────同時刻
セントラル区地下区画・仮設指揮所
96式通信指揮戦闘車
「────自治区全通信システム、遮断完了。」
陸上自衛隊の96式装輪装甲車を改造した、通信指揮能力を向上させた憲兵隊仕様の車両内にオペレーターの声が響く。
「衛星への偽装情報送信は引き続き継続。悟らせるなよ。」
「────了解。」
この場の指揮官である国家安全保障局職員が命じる。
────ふと。
「ハァイ、おねえさん到着〜〜♡」
場違いな声と共に、装甲車のハッチを開けて楯無が入ってくる。
それを窘める様に、指揮官が渋い声で叱責する。
「遅刻です、楯無様。もう少し暗部を率いる身として気を引き締めて下さい。」
「ごめんごめん、遅れたのはホントごめん!」
「社会に出る前に、必ずやお直し下さい。」
「は〜い…────そういえば桐島クン、確認したいんだけど」
指揮官────桐島と呼ばれた男に、楯無は楯無が歌う様な声で尋ねる。
「は。なんでしょう。」
それに桐島はただ抑揚のない声で答える。
「報道管制────」
「手配済みです。放送局、通信局、各種通信回線すべて制圧完了との報告。」
「SNS等の情報遮断────」
「対応済みです。各中継局並びにサーバーセンターに電波妨害を実施。自治区のネットワークは外界と切り離し済みです。」
「大気圏内衛星への対応────」
「実行中です。完全な妨害は不可能ですが、ある程度はハッキングとダミー情報による目眩しでどうにか。」
「有能〜〜〜♡いつもありがとうね。私助かっちゃう。」
「────は。至極許悦にございます。」
「も〜硬い!硬いわァ桐島クン。…私と2人の時くらいさ────
「────
「も〜〜」
「まだ、お勤めの途中です。」
「じゃあ、仕事片付けたら呼んでくれるの?」
「…一考いたします。」
「よろぴく〜────さて、」
キャピキャピとした口調で楯無は返し────冷徹な口調で、場の空気を
「────部隊展開は?」
「完了済み。」
「────敵の配置」
「把握済み。」
「────内部破壊システム」
「設置済み。」
「────工作員退避状況」
「退避完了。」
「────
「03内に確認。先日の残留粒子ではありません。」
「────IFF《敵味方識別》」
「不明。」
「────アライズの可能性」
「不明、極めて高い。」
「────予測されるイレギュラーとして敵戦力に追加。」
「了解。」
「各員に伝達────
────同時刻
山口県下関市沖合・関門海峡
米海軍・ベーリング級巡洋揚陸母艦
────同・三番艦『タコマナローズ』
────同・艦内格納庫
米軍の中量二脚アライズと四脚アライズ、そして複数の二脚型エイシスEOSが鎮座する格納庫の片隅。
複数のモニターや通信機器、そして暗号解読機器を継ぎ接ぎした機械の塊を前に、ヘッドセットを耳に当てている女性兵士がいた。
「────ラルフくん、ラルフくん。」
ふと、ラルフ────近くで機体の整備をしていた男性兵士────に声をかける。
「────作戦、始まるみたいよ。」
「ハッ!!ファイルス大尉!!!…例の自治区の────でありますか!!!!?」
その女性兵士────ファイルスとは比べ物にならない喧しさの声で、ラルフは応じる。
「うん。現在の状況はこんな感じ。」
一方のファイルス大尉は慣れてると言わんばかりに平然としながらラルフにヘッドセットを渡し、『聞いてみて』と口にした。
ラルフは怖いもの見たさでヘッドセットを聞いてみたが────
『1.109067877648326e+130』
────と、意味不明な言葉が続くばかりだった。
それを聞いたラルフはすっとヘッドセットを取り外す。
「…どう?」
「ハッ!!ファイルス大尉!!まッッッッたく意味が分かりません!!!!」
そしてラルフは、馬鹿正直に回答する。
それに思わずファイルスは苦笑した。
「あはは────暗号解読技術は大事だからまた勉強しようね〜」
、
、
、
──── 1.109067877648326e+130
(以下、16進数の暗号化を10進数に変換)
────ライカン01突入開始。施設爆破工作ユニット起動。施設崩落確認後、上層階より硬化ベークライト注入開始。敵脱出経路封鎖完了後、憲兵隊機械化外骨格大隊及び学園警備部第1警備隊による掃討開始。戦闘員・非戦闘員への無差別発砲も許可します。