インフィニット・ストラトス・アライズ-Dominater of Battlefield-   作:天津毬

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考えもなく初めてしまい、とうとう本編が始まってしまいました…。

今後もよろしくお願いします…

追記(8月11日)
IS学園の置かれているトキオ自治区の地図を挿絵として追加致しました。




s1.0:学園編
#01 入学式当日


 

────4月1日

日本帝国長崎県五島市浜町

男女群島・国連直轄領トキオ自治区セントラル区

 

メガフロートと旧コロニア艦の集合体で成り立つ洋上都市────そこに、IS学園は置かれていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

【IS学園】

コンペートの操縦者育成、またIS(アライズ含む)に関する技術、発展、研究を目的とした教育機関。

その運営、資金は基本的には日本政府、また協定参加国や参画企業がそれに協力する。

しかし、当機関で得られた技術は公開義務があり、また当機関の内部における問題は協定参加国の理解できる解決をすることを義務付ける。

なお、IS学園在役中の生徒は日本政府および各国からの義援金により生活の保護を受ける事が出来るものとする。

ただしアライズ関連技術は同機の拡散を防止する為に技術公開は義務ではなく努力義務とする。

(────アラスカ条約・第7条コンペート操縦者教育機関に関する規定条項第2項より抜粋)

 

 

 

────IS学園1年1組教室

 

女子で賑わう中、1人だけ男子という環境。

そこに箒はいた。

 

(一夏────あの報道、本当だったらしいな。)

 

箒は幼馴染でもある男子(織斑一夏)を見て、内心呟く。

1ヶ月前、突如男性でありながらコンペートを起動させたという人物────としてテレビに載った瞬間には思わず驚愕したのは記憶に新しい。

周囲の女子も箒と同じで、唯一の男子に視線を向け、雑談に興じている。

 

(…出る杭は打たれる────と、ならなければ良いが…)

 

コンペートを運用する業界は、ISが女性にしか動かせないが故に女は男より優れているという女尊男卑思想────言い換えれば、再構築戦争以前の古い発想────が未だ色濃く残る界隈だ。

…自らの立場を脅かしかねないとありもしない脅威と見做し、排除に動く可能性もある。

 

(────だから出来れば、嘘であって欲しかった。)

 

そう内心箒が呟くと、ふと────自身を見る、嫉妬や憤怒に近い視線を感じた。

…恐らくは、要人保護プログラムに従って試験をパスして入学した私が許せないのだろう。

 

(────まぁ、その感情が当然か。)

 

ふと────翠色のショートヘアーの小柄な女性が視界に映る。

メガネをかけておりたれ目も相まってインドア派の印象を受ける。

緑色の髪はよくそんな奇抜な色に染めたなと関心すら思ってしまう。

だがその目を見て────ハッとする。

…冷静に、大人しく見えて────殺意を封じ込めた瞳をしている。

────血に濡れた事のある人間の目付きだ。

 

(────ナガトと、同じ…)

 

思わず箒は内心独りごちる。

今まで"そうした環境"で生きてきたからこそ、箒もそういう人間の見分けはできる。

…他にもそんな人間がいる可能性があった。

 

「それじゃ、SHRはじめますよー」

 

「は、はい」

 

視線が向いている事に緊張してしまい箒は思わず声を上げてしまった。が

 

「「「…………………………………」」」

 

言った瞬間視線が無関心から何かに変化した。

やっちまったなと言う視線や憐れみみたいな視線。

盛大に滑ったよと声に聞こえてきそうな視線。

 

(……言わなきゃよかった)

 

思わず赤面し、机に顔を伏せた。

 

「それでは皆さん、1年間よろしくお願いしますね」

 

「よろしくお願いします!」

 

思わず箒は再び声を上げた。

────そして失敗したと自覚する。

皆は一人の男子が気になるらしく誰も声を上げなかったのだ。

────気まずい。

 

(皆教官には挨拶はするものではないのか⁉︎仮にも教えを乞う者だろうに…!)

 

「ふふ、篠ノ之さんは真面目なんですねぇ…。授業態度に反映しときますね!」

 

────その一言に全員が弾かれたように視線を教員に向ける。

…分かりやすいな────誰が話を聞いていなかったのか。

 

「遅くなりましたが、私は1組副担任を務めます。山田真耶と言います。

では────皆さんも自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」

 

「はい、相川清香。中学時代はハンドボール部に所属していました。IS適性はBですがこの学園で学び能力的に人格的に向上していきたいと思います。皆さん1年間よろしくお願いいたします。」

 

自己紹介を終え席に座った相川。

しかし自己紹介中も席に座り終えた後も視線は前の席の男子に向いている。そう言った感じで順に自己紹介をしていくのだが誰もが視線は男子に向けられたままだ。

 

「織斑君。……織斑君?織斑一夏君?!」

 

「は、はい!?」

 

何やら考え事をしていたらしく声が裏声であった。

 

「あ、大声出してごめんなさい。でも今自己紹介をしてる最中で次が「お」なんだけど自己紹介をしてくれるかな? だ、駄目かな?」

 

「いえ、ちょっと考え事していただけなので……っていうか自己紹介くらいしますから先生落ち着いてください。」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「はい。ええっと」

 

そう言って立ちあがり後ろを向くが多数の視線をまともに見てしまい、汗が出ているのが分かる。

 

(────そういえば、昔の私もあんな感じだったなぁ…。)

 

ふと、ROTCに行かされた当初の自分に重ね合わせながら、織斑を見やる。

落ち着くために小さな深呼吸をし気持ちを落ち着かせようとした。

 

「織斑一夏です。よろしくお願いします。」

 

「「「………………………………」」」

 

拍手もなく、よろしくお願いしますと返事もなく────あるのは期待の視線と沈黙だ。

 

「以上です!」

 

強引に締めくくる。

一昔前のコントよろしくずっこける女子が多数、苦笑する女子数人、頭を抱えた私が一人。

 

(せめて未熟者ですが力を尽くす所存ですとか言うべきだろう────上辺だけでもいいから)

 

そう思っていたらいつの間に教室に入ったのか、ビジネススーツを着込み、織斑にズンズンと近づく女性が────ガツンッと出席簿で頭を殴った。

 

「げぇっ!関羽!?」

 

(────なにを…言っている?)

 

ネタで言っているにしても教室の中では誰も笑っていなかった。

箒はそもそも眼前で展開された体罰沙汰に始まり織斑の珍妙な反応に至るまで────脳が理解出来ず思考が停止した。

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 

そう言って教卓に立ち、改めて姿を確認する。

目が俺よりも釣り目できつい印象を与える瞳。

しかし、畏怖よりも憧れの印象を与える。

黒髪を後ろで1つに束ね降ろしているが野暮ったさはなく、綺麗にまとめられている印象を受けた。

────そしてその瞳も、やはり血に濡れた経験者の目付きをしていた。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。なにはともあれ入学おめでとう。君たちはかなりの倍率があるIS学園に入って来るために努力した事だろう」

 

そこでいったん会話を止め織斑と、私を見る。

おそらく臨時的措置で入ってきた織斑と要人保護プログラムに基づき入った私達に思う事はあるのだろう。

しかし私にもどうしようもない。

どうする事も出来ない。

出来るなら、あのまま新東京箱根の、平凡な公立高校に行きたかった。

だが叶わないのだ。

────無意識に、私は教卓を見つめる瞳を鋭くしていた。

 

「君たち新人を一年で使いものになるまで育て上げるのが私の仕事であり義務だ。ISは本来競技用を取っているが兵器としての側面もある。その危険性、扱い方を私はスパルタ式で教えていくので覚悟していくように。出来ない奴にはできるまで指導してやる。逆らってもいいが私の言う事は聞け。いいな」

 

────理不尽ではない。横暴ではあるが目標はある。

…なら、少しはマシか、箒がそう思った。

────瞬間

 

「キェェェアァァァァァ────!千冬様よ!最強のヴァルキリー『ブリュンヒルデ』!」

「国家代表生時代からファンです!」

「私は代表選手権争奪戦で一目ぼれしました!」

「私、御姉様に憧れて猛勉強してきました!新大阪から!」

「私はロストックから!」

「不束者でございますが私に夜の勉強会を開いてください!」

「私、御姉様のためなら死ねます!調教して!」

 

黄色い悲鳴の濁流────頭を攪拌されるような衝撃に、一瞬平均感覚が失われる。

…人気アイドルがある日突然教室に転校してきたらこんな感じになるのだろうか。

いや、だとしても────

 

「うるさい、頭が割れる。」

 

苛立ちから、箒は小さく零す。

風邪をひいて苦しい時に耳元で騒がれて抱く感情────それに近いものがあった。

 

「……はぁ、なぜ毎年こうも騒がしいのだ?

よくもこれだけの馬鹿者どもが集まる。

それに感心させられそうになるのだがこれは新手の洗脳か何かか?もしや私のクラスだけ馬鹿者を集中させているのか?」

 

そしてうっとうしそうに溜息を吐き愚痴をつぶやく先生。

────それには同意する。

そう感じた瞬間、再び────

 

「キャァアアアアアアアア!御姉様!もっと叱って!罵って!貶して!そして冷めた目で私を見てぇ!」

 

「でも時には優しく耳元で甘い言葉をささやいて!」

 

「そしてつけ上がらないよう調教をして―!!」

 

限度と言う物を知らないような、品性を疑う絶叫が上がる。

────なんだココは、新手の宗教団体か何かか?

 

(ああ、ナガト…なんでこんな時に居ないんですか…?)

 

思わず、義理の父親を頭の中で思い浮かべ、箒はダメージを抑えようとする。

 

「静かにしろ!」

 

「「「…………………」」」

 

ただ一言で悲鳴は鎮圧された。

…さすがというか、教職員は伊達ではないようだ。

IS代表選手を蹴散らし世界最強の座を手に入れたというのも伊達ではない。

 

「で、挨拶もまともにできないのかお前は?」

 

「いや、千冬姉、俺は────」

 

バッコン!

 

「学校では織斑先生と呼べ」

 

再び出席簿で叩きつけられる織斑────

 

「え……? 織斑君って千冬様の血縁の弟?」

 

「それじゃあ、ISを動かせるって言うのも納得かも」

 

「え、じゃあもう1人の試験をパスしたって子は────?」

 

口々に紡がれる雑談の矛先が箒に向く。

同時に、

 

「篠ノ之、次はお前だ。このままでは他の生徒が気になって授業が身に入らん」

 

「は。」

 

確かに未だ織斑の方に視線を送っている者、

箒に視線を向け、だが興味を無くす者、

それでも視線を向ける者様々な女子が居る。

 

「────御殿場東予備役将校訓練学校中等部から来ました、篠ノ之箒です。IS適正はCと未熟者ですが、本校で学を積み、社会に貢献できるような人材になれるよう、精進致するつもりです。」

 

そう言って席に座る。

それで許してくれたのかこちらに視線を向けていた女子が前に向き直り織斑の次の人が自己紹介を始める。

そして、いろいろと時間がとられたせいか全員が紹介を終わるまでにSHRは終わってしまった。

 

「さて、SHRは終わりだ。諸君にはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、できれば基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ!よくなくても返事はしろ!」

 

「「「はい!」」」

 

全員に合わせて私も声を合わせる。

 

「で、なんでお前は返事をしない織斑」

 

(……馬鹿…。)

 

なぜ学習しないんだ、と箒が頭を抱えたのと、

 

「判断が遅い────ッ!!」

 

今度こそ出席簿が折れる程の一撃が叩き込まれたのは同時だった。

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

 

────5分後

 

SHR後、1限目まで10分間の準備期間が与えられ、その間に箒はノートや筆記用具、必要になるだろう教本を机の上に出していく。

────女子からは、ROTCにいたという事で余計に距離を取られているが、箒からすれば、知った事ではなかった。

ふと────

 

「あ、よぉ…。」

 

傍らに一夏が立ち、箒に声をかけてきた。

 

「箒…だろ?」

 

少し恥ずかしそうに、思春期相応の反応をして、一夏は話しかける。

…それに箒は────どうして良いのか分からなくなった。

…何しろ、自分の知る一夏とは見違えていたからだ。

 

「…ああ。」

 

だが────先程の馬鹿さ加減を思い出し、そういえば昔から抜けてる所があったなと思い出す。

 

「久しぶり…だな。」

 

たどたどしく、一夏は問い掛ける。

 

「…そうだな、10年来か。相変わらず抜けてる様子は変わってないな。…打った箇所、大丈夫なのか?」

 

対照的に箒は、努めて冷静に現状の印象と出席簿を叩きつけられた頭部について問い掛ける。

 

「え?あ、あー…いや正直痛いけど…」

 

たはは、と一夏は笑って誤魔化そうとするので、箒は立ち上がって────

 

「見せてみろ」

 

一夏の打撲痕を覗き込む。

 

「イ────ッ!」

 

「────ここだな。たんこぶが出来ている。…頭痛や目眩、吐き気などといった症状はあるか?」

 

「え?いや、無いけど、なんで…」

 

「そうか────では、脳挫傷になってる可能性は無さそうだな。」

 

────脳挫傷とは、頭部に強い外力が加わることで脳そのものに傷が出来た状態の事を指す。

挫傷した脳には、脳の腫れや出血が出現し、数時間から数日間の経過で浮腫や出血が伝播。開頭減圧術や血腫除去術などの外科的治療がなければ対応出来ないという高次脳機能障害や運動麻痺、失語症などに繋がる病である。

症状としては、意識障害をはじめとして、頭痛、めまい、吐き気や嘔吐など生じるというもの。

────一夏はこのどれも該当しなかったので、恐らくは大丈夫だろう。

…上記のような病を起こしかねない為、現在では頭部への打撲は教育現場では禁じられている。

 

「念の為、後で保健室へ行っておけ。何かしらの症状が出ても厄介だ。────今は時間もないし、とりあえずソレで冷やしておけ。」

 

そう言って箒は自身が持っていた金属製の水筒を一夏に渡す。

中には冷えたポカリスエットが入っている上、4月はまだ外が冷える時期。保冷剤代わりには最適だろう。

 

「お、おう。サンキュー…」

 

箒の診察違いの行為────それに一夏は一瞬気圧されてしまう。

 

「あ、そうだ!家族さん元気か?」

 

話題を変えようと、織斑は口にする。

────だがそれが地雷であると、一瞬後に知らされる。

 

「死んだ。」

 

「…え?」

 

「再構築戦争で皆死んだ。」

 

────冷たく言い放たれた事実。

箒の、触れられたくなかったであろうプライバシー的な部分に触れた事を悟り、一夏は慌てて謝罪の言葉を脳内で陳列する。

 

「ッッッ…!わ、わりぃ!俺…」

 

「別に気にすることは無いだろう。────こんな時代だ。大切なものを失っていない人間など、もう誰も居ないだろう。」

 

そんな一夏を面白そうに箒は笑う。

────その瞳は、達観を形にしたような雰囲気を纏っていた。

 

「なんか……変わっちまったな、箒」

 

「…10年も経てば、人は変わりもする。むしろお前の変わらなさに驚かされる。」

 

「はは…よく言われる…。」

 

痛い所を突かれた────そう言わんばかりに苦笑いする。

 

「…それで?お前はその調子で大丈夫なのか?」

 

ジトリと見る箒に、思い出したように一夏は飛び跳ねた。

 

「そうだった!どうなるんだ俺?ここで何かしらの成果出さなきゃ卒業と同時にとある研究所の施設にぶち込まれ一生モルモット生活とか嫌だぞ箒!」

 

「…成果をだしてどこかの国の代表候補生でもなればいいんじゃないか?

────あるいは、自衛隊(ウチ)に来てアライズ乗りにでも転職するか。」

 

────多分乗り手不足に喘いでいるから盛大に歓迎してくれると思うぞ、と付け足しながら箒は選択肢を提示する。

…確かに、アライズは男でも動かせる事実上の軍用ISだ。

そこに紛れ込めれば、一夏の希少性はかき消せる。

────だが、コンペートを起動させたという結果は消せない。

 

「いや、そう簡単じゃないだろ?それになったとしても不慮の事故で消えました。しかし現場には不可解な事があり俺の遺体がありませんでしたとかありそうじゃんか。」

 

貴重なコンペートを動かせる男性をそれに携わる企業、政府、国家を放置しておくはずがない。

中にはなんとしてでも細胞、遺伝子、ナノ単位まで調べたい、調べて利益に繋げなければならないと思う輩もいるだろう。

だが────

 

「さすがにそこまでするか?」

 

「……まぁ、俺の考えすぎって面もあるかもな。けどコンペート動かしてから政府にホテルに保護と言う名の監禁くらった日には一般人の意見なんて聞き入れてもらえねぇよ」

 

ホテルに監禁されていた時さすがに高級ベッドで1日寝続けてるわけにもいかず、見れる物がTVだけで、出ようとするものなら「部屋から出るな」の一言だけで入り口から出ていこうとすれば数名のSPが俺を床に伏せスタンガンを当てられ気絶、目覚めればさっきまで寝ころんでいた高級ベッドの上。

────そんな生活をさせられていたのだという。

それを聞いて箒はため息を吐き、

 

「やりたい放題だな…総務省の奴ら…」

 

呆れたような、同情するような────そんな声を発した。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「え?」

 

「何?」

 

唐突に2人に声を掛ける人影が。

────腰に手を当てモデルの様な姿勢。

────目はブルーでキリッとまっすぐにこちらを向いている。

────腰まで届いている金髪はかなり手入れにケアをしているのか乱れがなく、綺麗に縦ロールになっている。

 

「聞いてます?御返事は?」

 

「あーはい、聞いてますけど?」

 

「なんですのその間抜けな返事は! わたくしに声を掛けられただけでも光栄なのですから、それ相応の態度があるのではなくて?」

 

「────誰だ、貴様。」

 

思わず箒は心の声が出てしまった。

 

「な!わたくしを知らないですって!?」

 

「…地球の裏側の、赤の他人が知っていると思うか?それに────」

 

甲高く吠える女に対して、箒は努めて静かに────

 

「初対面の相手に話を振ったんだ。ならせめて────自己紹介くらいはするべきではないか?」

 

────ドスの効いた低い声音で、女に喰らい付いた。

それに面食らったのか、一瞬女は怯む。

だがすぐに勢いを取り戻す。

 

「くっ良いでしょう、私はセシリア・オルコット。イギリス代表候補生にして、入試首席ですわ!」

 

オルコットが歯ぎしりをして悔しがっているのが分かる。

だがそれで、箒の印象は少し変わる。

────なるほど、相手はエリートか。

そうした人種であればある程、自尊心が強い。

 

「ほう、イギリスの代表候補生か。それに加えて入試主席とは…感服するよ。」

 

────故に、適当に御立てておく。

 

「フフンそうでしょう?そう、エリートなのですわ!」

 

そうすればだいたいの相手は落ち着いて行く。

この手合いは、自分より人気があるものに対する嫉妬深さや思い通りにならない事に苛つき易い。

…踏み込んでみれば、他人の目が気になって尻込みしてしまったりする性格の者もいる。

だが、どちらにせよ面倒臭い人間であることに変わりはない。

そこで予鈴がなってしまい遠巻きに三人のやりとりを見ていたギャラリーも席に着いたり自分の席に戻っていった。

 

「あっ……!ッ、話の続きはまた今度!」

 

そう言ってオルコットも自分の席に戻っていく。

 

「じゃ、じゃあ俺も…!」

 

一夏も自分の席に戻った。

…カチリ。

箒はシャープペンシルの芯を出しながら、今しがた邂逅した人物の言動を振り返る。

…カチリ。

────拗らせた、実力主義者。

…それが箒がセシリア・オルコットに抱いた印象だった。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

「────であるからして、ISの基本的な運用には現時点で国家の承認が必要であり、枠内を逸脱したISの運用をした場合は、刑法によって罰せられ────」

 

ISに関わっていく以上必要になって来る法律────コンペート運用にもここまで細かな法規制があったのかと箒は内心感心する。

机の上に置いてある教本は5冊。

いずれも国語辞典のように鈍器にでもできそうなほど厚い。

ROTC時代に学んだ単語がチラホラと出てきたりして、仄かに懐かしい。

ふと────

 

「織斑君、何か解からないところありますか?」

 

「あ、えっと……」

 

「解らないところがあったら訊いてくださいね。何せ私は先生なのですから」

 

自信を持って胸を張る山田先生。ISに関しては余程の自信があるらしい。

一夏は一度教科書に目を落とし自分に聞き落としや間違いがないか調べているらしい。

すこし時間がかかり、よくわかっていない所を見つけたらしい。

 

「先生!」

 

「はい、織斑君!」

 

「ほとんど全部わかりません」

 

「────は?」

 

瞬間、箒は思考回路がショートした。

混乱と困惑と形状しがたい感情が込み上げる────

 

「……え。ぜ、全部ですか……?」

 

山田先生も同じらしい。

さすがに質問とか、用語とかではなく、"全部"だ。あり得ない。

 

(一夏────貴様中学を卒業してから今日の入学までの間何をしていた?)

 

口には出さない。

だが────思わず疑念の視線を向けてしまう。

 

「え、えっと……織斑君以外で、今の段階で解らないって言う人はどのくらいいますか?」

 

挙手を促す山田。

箒とて、アライズという畑違いの場所から来た為に質問はあるのだが、さすがに理解できないと言うわけではない。

 

「…えと、織斑君、どのようなところが解らないのか教えてくれませんか。」

 

「いえ、だから、その……ほとんど全部わからないんです」

 

「な────」

 

────絶句した。

有り得ない。

一体全体お前はどうなっとるんだ。

 

「……えっと、刑法的な事がですが?」

 

「それもです」

 

「……機械的な事も?」

 

「はい」

 

「……IS条約や規定の事も?」

 

「はい」

 

「………」

 

泣きそうになる山田。

まるで自分はダメ教師なんだと自己嫌悪してなければいいのだが────

 

「……織斑、入学前の参考書は読んだのか?」

 

ふと箒は春休み期間に読んでいた本を思い出す。

特に機械的なことについては、ROTCで習った範囲やアライズにも用いられている技術が多かったのでスラスラと理解できた。

▪︎アクティブセンサー(自ら電磁波や赤外線を派生させその反射したそれらを読み取り物体を検出する装置)

▪︎パッシブセンサー(物体は熱量に応じた赤外線をだすためそれを読み取る装置)

▪︎ハイパーセンサー(目視できない距離の捕捉、視野外のカバーをする装置)

それらを見て、興奮を覚えたのはやはりナガトの影響だろうなと箒は思う。

なので、一夏の次の発言で箒は更なる衝撃を受けた。

 

「古い電話帳と思って捨てました」

 

バァアン!

────響く炸裂音と共に箒の懐かしい思い出も霧散する。

 

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者。後で再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな?」

 

「い、いや、1週間であの厚さはちょっと……」

 

「やれと言っている」

 

「……はい。やります」

 

────なぜ捨てた?

箒は思わず口をあんぐりと開けて一夏を見た。

ドジとかうっかりとかのレベルなどではない。

やる気がなくて読んでなかったなどの方がまだマシだ。

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と未だに通常兵器を凌ぐ性能を有している。

そう言った兵器を深く知らずに取り扱えば必ず事故が起こる。

未だ自動車でも事故が無くならないのと同じ様なものだ。そうしないための基礎知識と訓練だ。

理解できなくても覚えろ。そして守れ。規則を覚える、守るまではISに乗せたくないと私は思う。」

 

────正論だ。

だがしかし────宇宙開発用のパワードスーツが軍事関連に加わるのは仕方のない事だとしても、なぜそれを本来の運用法に戻さないのか謎だ。

ISが宇宙で活動した事は1度も記録になく、精々が大気圏にアステロイドベルトから落下してきたデブリ破砕程度。

…ロケットを打ち上げるよりずっと、容易いはずなのに。

 

「……貴様は『自分で望んでここにいるわけではない』と思っているのか?」

 

一瞬一夏と箒の身体が跳ねた。

 

「望む望まざるにかかわらず、人は集団の中で生きている。それを放棄したいならまず人間であることをやめるべきだと思うがな」

 

もしくは本当に1人で生きていくか。

────いいや、無理だ。今の世界は群れで生き抜く事すら難しい。ましてや1人など…!

箒は知っている。

よく知っている。

────呆気なく消滅する巨大都市。

────街から放り出された難民。

────行き倒れ、干からびた死体の群れ。

…再構築戦争でそれを目の当たりにしたからこそ、よく知っている。

だからこそ、秩序と規範が今の世界では何よりも重要であるということも。

 

「さて、授業再開と行きたいが、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めておかないとな」

 

(クラス対抗戦?コンペートを使った実技競技なのだろうか?)

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会の出席……まぁ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点では大した差ではないが、競争は向上心を生む。一度決まると1年間は変わる事がない。自薦他薦は問わない、誰かいないか?」

 

────とりあえず、一夏はない。申し訳ないが。

箒は内心断言した。

確かに唯一の男子を据えれば特色は出るだろう。

…しかしこの分だと各クラスとの競争に耐えられない。

 

(────いっそ皆で戦えば良いのでは無いだろうか。)

 

やる気のある者ならそこで力を発揮しようとするから、全体の向上に繋がって、いい事づくめではないかと箒は思った。

 

「はい。織斑君を推薦します」

 

「私もそれがいいと思います」

 

「お、俺!?」

 

────しかし残念ながら、箒の期待は裏切られる。

やはりというか、一夏を推薦する女子が続出したのだ。

 

「織斑。席につけ、邪魔だ。さて他にはいないのか?いないなら無投票当選だぞ」

 

「ちょっ、ちょっと待った!俺は────」

 

「納得がいきませんわ!」

机に手を叩いて立ちあがったオルコットは険しい目をこちらと織斑に向け声を荒げる。

 

「そのような選出は認められません!」

 

────それについては箒も同意する。

 

「右も左も分からない様な男がクラス代表だなんて良い恥さらしですわ!わたくし達に、その様な屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

────ドが付いても足りない素人が飛び込めばどうなるかなど、火を見るより明らかだった。

 

「実力から言えばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で推薦されては困ります!知識がなく素人同然なサルなど推薦しないでください!わたくしはIS技術の修練に来ているのであって、動物園に来たわけでも、サーカスに所属する気も毛頭ございませんわ!」

 

────…なるほど、これはぐうの音も出ない正論だなと箒は思う。

知識が無いサル────幼馴染を馬鹿にされている上に過激な発言だが、内容自体は何も間違いでは無い。

 

「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべきもの。そしてそれはわたくしですわ!」

 

凄まじい自信だ。

大体人って言うのは心のどこかで不安を抱え尻込みするものなのにオルコットは、そんな不安などださずに堂々と宣言している。

貴様らは弱い。

だからわたくしが導いてやる────と、ここにいる全生徒に向けて言い放っている。

────ノブリスオブリージュ、と言うやつだろうか。

箒の勘違いかもしれないが、頼もしい奴と思った。

────なら、決まっている。

 

「────セシリア・オルコットを推薦します。」

 

「む。」

 

「「え⁈」」

 

箒がセシリアの推薦を言い放つ。

それに千冬は身構え。

セシリアは意外なところからの推薦に、一夏はまさかの幼馴染がセシリアの肩を持った事に驚きの声を上げた。

 

「────過激な発言が目立ちますが、他クラスとの競争も考えるのであれば、彼女の主張にも一理あるかと。」

 

それが箒の考えだった。

全てを容認するわけではないが、セシリアの主張は筋が通ってはいる────と。

 

「…じゃあ、私も…セシリアさんに…。」

 

「織斑くんも捨てがたいけど…ごめん!クラス同士で競い合うなら実力のあるオルコットさんを推すわ!」

 

箒の推薦を皮切り、一夏を推薦しなかった女子達の票がセシリアへと流れて行く。

そうして────セシリアの票と一夏の票が拮抗した。

 

「…さて、全員推薦対象はまとまったか?…それでは2人は一週間後の放課後、クラス代表の座をかけて第三アリーナにて試合をしてもらう。オルコット、織斑は準備しておけ。特に後者は恥をかかないようみっちり勉強しとけ────。」

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

────同時刻

IS学園・多目的防災署

 

IS学園の一角にポツンと建つ、3階建の合同庁舎。

そこがナガトに割り当てられた施設だった。

────IS学園警備部への異動辞令。

箒に追従する代わりにここへの異動が決まったのだ。

先に搬入された機体は見当たらない────おそらくは、地下に格納庫があるのだろう。

 

「────まぁ、とりあえずは挨拶か。」

 

そう思い、入り口のドアノブに触れて────扉は、開かなかった。

 

「…アレ?」

 

ごく普通の、手動スライド型のドアだ。

しかし、ビクともしない────鍵がかかっている。

 

「…おっかしいな…。」

 

────電気は付いてるから開いてるはずなんだが、と独りごちる。

…とりあえず、中の人間を呼ぶとしよう────そう思い至り、インターホンを押す。

カチ、カチ。

────しかし、乾いたクリック音を響かせるだけで、ベルの音は全く鳴らない。

カチカチ、カチカチカチッ!

…何度押しても変わらない────。

 

(壊れてんじゃねーか…!)

 

はぁー、とため息を吐き、ふと────視線を左に向けると、テンキーが目に映る。

それにハッとして、ここに来て渡された身分証明書に乱雑に突っ込まれていたメモ帳を取り出した。

────20090125。

メモ帳には、8桁の数字が刻まれていた。

それで全てを察し────テンキーのタッチパネルを操作する。

 

(ったく、最初から言えってぇの…!)

 

内心毒付きながらナガトは扉を開けて中に入る。

────フロントはがらんとしていて、誰もいない。

 

(…ホントにここで合ってるか?)

 

思わず、事前に渡された書類に目を通す。

────間違いない。

IS学園多目的防災署…とまでは書かれているがそれ以降がない。

────雑過ぎないか、仕事…。

はぁー…と、再び深いため息を吐く。

 

「お、アンタかい?新しく来たのは。」

 

ふと────いつから居たのか、廊下の隅の自販機に硬貨を入れて飲料水を買っている男が目に映る。

前髪は先端が目に掛かる程で。

後髪はうなじまで伸びていて。

上唇と顎に無精髭を生やしている。

それに反応して、ナガトは反射的に敬礼する。

 

「────は、陸上自衛隊第3帝都防衛局直轄第305機動隊から来ました、八雲ナガト=アウグスト一尉であります。」

 

「よせやい。アンタ俺とだいたい同年代だろう?敬語なんて固っ苦しいのは抜きにしようぜ。」

 

「は、はぁ…。」

 

────その、想定外の反応にナガトは呆気に取られた。

上下関係が徹底される組織柄、そんな事を言われるのは初めてだったからだ。

 

「俺は高木道生────よろしくな、八雲さん。」

 

男────高木道生はそう告げた。

────どこにでもいそうな、自分と同年代の男。

ただひとつ────どことなく、織斑千冬に似た顔つきであるという事を除いて。

 

 

 




〜あとがき〜

◉ナガトと箒のナゼナニ劇場③

▪︎箒
「今日はナガトがお休みにつき私と一夏でお送りするぞ!!」

◽︎一夏
「なんで俺も…?」

▪︎箒
「原作主人公だからな。」

◽︎一夏
「メメタァ」

▪︎箒
「さて、今回のお題だが、《私と一夏の出会い》等についてにしようと思う。」

◽︎一夏
「ただの身の上話じゃないか?それ。」

▪︎箒
「仕方あるまい、結構突拍子もない設定の山なんだ。過去がどうなっているのか気になる読者さんもいるだろう。」

◽︎一夏
「まぁ…それもそうか…。」

▪︎箒
「さて私とお前の出会いだが…11年前の【日比谷青空教室】で知り合ったのだったな。」

◽︎一夏
「そうそう、虐められてたところに割り込んで、虐めてた奴をぶん殴ったっけ。」

▪︎箒
「…ああ。そうだったな。それから、帰りしなに色々話したりして帰ってたな…。」

◽︎一夏
「ああ。文房具用の小遣い貯めて、それでお互いこっそり駄菓子屋さんのお菓子代に使ったりしてたよな。」

▪︎箒
「ああ。…懐かしいな…。」

◽︎一夏
「その後は…確か誕生日の翌日に箒、箱根に引っ越しちゃったんだよな。」

▪︎箒
「ああ。…あの当時は携帯なんて無かったし、電話も国民一人当たりの通話回数が制限されてたから中々連絡出来ず、そのうち疎遠になってしまったな…。」

◽︎一夏
「だな…。あの後は色々あって覚えて無いけれど…まぁ、弾と同じ中学に行ったり、鈴っていうセカンド幼馴染出来たり、色々あったなぁ…。」

▪︎箒
「そうか…。私はまぁ、色々あって両親は死に、独り身だったところをナガトに拾われた。
失語症と自閉症を発症していた私に、ナガトは優しく接してくれた。今の自分があるのは、ナガトのおかげだろう。」

◽︎一夏
「そっちも…大変だったんだな…。というかなんか自分語りになっちゃったな…。」

▪︎箒
「これではナゼナニを名乗れんな…。では今日は早いが締めるとしよう。」

◽︎一夏
「お、おう!また次回も見てくれよ!!」

次回もまた、よろしくお願い致します。





▪︎箒
「やはり私は────ナガトの様には行かないな…。」

◽︎一夏
「ホントは、おかしいんだよな…だって────箒と別れてから、鈴と会うまでの3年間…記憶がゴッソリ無いんだ…。」

▪︎箒
「────え?」
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