インフィニット・ストラトス・アライズ-Dominater of Battlefield- 作:天津毬
そろそろストーリーの軸が定まったようで定まっていない第3話です。
よろしくお願いします。
日本帝国長崎県五島市浜町
男女群島・国連直轄領トキオ自治区セントラル区
────IS学園・第3アリーナ
そこでは箒と一夏が、互いに打鉄を着込み、近接戦の鍛錬をしていた。
────箒が左腕に保持した50口径アサルトライフルの12.7mm弾を撒き散らし、一夏に対して制圧射撃をかける。
しかし一夏はそれを、打鉄の肩部展開型シールドを用いて防ぎ────瞬時加速。
強引に12.7mm弾を捩じ伏せ、肩部展開型シールドをタックルの要領で箒に叩きつける…!
それでアサルトライフルが弾け飛び、箒の体勢が一瞬崩れる…!
(────取った!)
そう一夏は確信すると、展開型シールドの陰から右腕の03式近接刀で牙突を放つ────!
…だが、
「────遅い…!」
その呟きと共に、箒は同じく右腕に保持した03式近接刀で一夏の牙突を受け流す…!
────それだけで終わらない。
箒はスラスターを点火。
一夏が突き出した近接刀をレールのように滑り────そのまま頭部装甲に一撃を叩き込む…!
「がっ────」
一夏の苦悶の声。
だが箒は気にする事もなく、頭部装甲に叩きつけた反動で跳躍────ガラ空きになった一夏の背後に、拡張領域から取り出したアサルトライフルを放つ…!
「くっ────!」
だがそれは、一夏が反射的に背後へ回した肩部展開型シールドにより阻まれる。
「まだまだぁ────っ!」
一夏は右肩に装備したMINI-CIWS20mmガトリング砲と左腕に持ち替えた携行型アローズミサイルによる射撃を再開した────。
、
、
、
────同時刻
第3アリーナ管制室
「…化けたな。」
それを、管制室から眺める高木は口にした。
「ああ。織斑くん、想像以上に素養があるらしい。」
業務用ノートPCのキーボードを叩きながら、ナガトは言う。
────訓練開始からはや5日。
3日間に渡るナガトのスパルタ教導を経て、一夏は3次元対応スキルを身につけ、また
箒の近接戦指導はまだ2日目だが、それでも実力はご覧の通り。
────多少強引かつ粗いところが見えるものの、本来の得意分野である近接戦はすぐにでも伸び代が見え出した。
「…どーよ八雲。勝率どんくらい?」
「────ざっと4割。」
────ここまで鍛えりゃ大丈夫っしょ、と問うた高木に、ナガトは無情な回答を告げる。
「ひっく!なんでだよ!?」
「まずオルコット嬢の機体を完全再現したわけではない点がひとつ。」
セシリアの機体は、企業の新型装備試験運用という側面もある。
つまりは、企業機密漏洩を阻止する為に公開できる情報も限られているという事だ。
…現に、ブルーティアーズ関連で公開されている情報は、機体名と運用用途、そして狙撃特化型ということだけ。
武装については秘密裏にされていた為、当然VR訓練に使うデータ等なく、ナガトは『こんなものが積まれているだろう』という想定の下、訓練を実施したのだ。
「次にオルコット嬢の軌道特性を再現したわけではない点がふたつ目。」
セシリアの軌道はあくまで狙撃メインであるという事は、
だが代表候補生という位にまで上り詰めた身である以上、馬鹿正直にひとつの戦闘パターンのみで戦っているとは到底思えない。
つまり、奥の手を見せられたら勝率は低くなる。
ナガトも定点狙撃戦と機動狙撃戦の2種類に対抗する手段は一夏に叩き込んだが、当のセシリアがそれ以外に戦闘パターンを持っていた場合は詰みだ。
「次に、織斑くんは近接主体であり、やはり相性が最悪であるという点。」
これも何度も口にした問題。
以前箒が『刀で鉄砲隊に挑むようなもの』と口にしていたが、正にその通りだ。
例で挙げるとすれば、歴史の授業でなら必ず出るであろう、かの有名な戦国時代における【長篠の戦い】が当てはまる。
武田軍騎馬隊と織田軍鉄砲隊の戦いであり、高い機動力を持つ武田軍騎馬隊が、織田軍を蹂躙ないし拮抗するとされていたが、織田軍は最新鋭兵器である鉄砲を戦線に投入────織田軍陣地に突撃する武田軍騎馬隊を鉄砲で悉く撃ち倒したという話だ。
最新の歴史解釈はどうか知らないが、それが鉄砲の優位性を示した戦いであることには変わらない。
だから一夏とセシリアを当てはめるならば、一夏が武田騎馬隊、セシリアが織田軍鉄砲隊といったところか。
────故に、相性が最悪なのだ。
「最後に、単純に両者の経験時間数。これが根本的な問題であり、両者の差が中々埋まらない原因だ。」
────つまりはこれに尽きる。
片やISを動かして僅か26時間の即席訓練を積んだだけの素人。
片やISを動かしてから恐らくは1000時間はくだらないであろう完熟訓練を積んだプロ。
…圧倒的に経験値が足りないのだ。
どれだけ背伸びしようが天と地がひっくり返ろうが、この溝は埋まらない。
「…まぁ、そんなわけで素人を『最低限戦える粗製レベル』にするのが、今ンとこの限界だ。」
ただ事実を告げる。
だが、歯痒いものを感じる。
もう少し、早く始められれば────所詮それはたらればの後出し論でしかないが、そう考えずには居られなかった。
出来れば勝たせてやりたい。しかし、どうあがいても勝てるのは奇跡でしかない────。
そう分かっては、いるのだが。
「────あん?」
ふと、業務用PCにメールの着信を告げる新規ウィンドウが開く。
差出人は────篝火ヒカルノ。
とにかく開いてみる。
おっと極秘メールかな?と言いながら、高木がナガトから再びアリーナの方を向く。
「────はァ?!専用機ィ!?」
後ろから叩きつけられた素っ頓狂な声に、高木は恨めしそうに振り返る。
────そこには、明らかに不味いという顔をしたナガトがいた。
◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆
────20分後
「────え?!専用機!?」
訓練が終わった一夏が思わず素っ頓狂な声を上げた。
「…倉持技研から一夏にブレード運用特化軽量型の専用機を提供すると…。」
言いながらゲンナリした顔で、ナガトは業務用PCの画面を一夏と箒に見せる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2022/04/06_16:32
題名:【極秘】新型機納入について
差出人:篝火ヒカルノ
宛先名:八雲ナガト=アウグスト
八雲さんへ。
お疲れ様です。
倉持技研第2研究所所長篝火です。
織斑一夏くんを対象とした次世代主力機開発として新型試験機を専用機として提供することが本日、弊社の代表会議で決定されました。
本日18時頃にはそちらに納入されます。
ですのでそのあたりの監督をお願いします。
では、よろぴく!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
────仕事増やしやがって…という顔をしたナガトと。
────ご愁傷様ぁ…と同情しつつも自身にも仕事が降り掛かるからか顔を引き攣らせた高木と。
────そんな…と顔を真っ青にして、絶望している箒と。
「わぁ…!マジかよ…!夢じゃないんだよな…!やったぜ!!」
────新しい玩具を与えられる事が決まった子供の様に歓喜する一夏と。
四人の反応は多種多様だが、一夏以外の三人の反応は似た様なものだった。
そんな、ただ一人事態を把握出来ていない一夏を見て、箒は口を開く。
「一夏…あの、分かってはいると思うが…」
「え、なんだよ?」
「一夏がここ5日間扱っていたのは打鉄だぞ?」
「それがどうし────…あ。」
そこまで箒に言われて、一夏は箒が言わんとしている事を理解した。
「────仮に、だが…。もし、この専用機が打鉄と操縦挙動の違う機体だったとしたら…。5日かけた訓練が水の泡となるのだぞ。」
打鉄をそれなりの新米並みに乗りこなすまでに5日を要した。
…一方でこの新型機が届いてから挙動や機動特性を把握する為に使える時間は────たったの1日。
…否。授業時間なども加味すればもっと少なくなる。
…よく持って────4時間。
たったの4時間で新型機の挙動および特性、適した戦術運用────その全てを把握しなくてはならない。
────それはつまり、今まで積んだ訓練が意義を喪失し、悪戯に勝利のハードルが跳ね上がった事を意味していた。
事の深刻さを理解したのか────一夏もまた顔から血の気が失せていく。
「…ど、どうすれば────」
一夏が縋るようにナガトを見る。
箒と高木も同様────この中で最も戦闘経験が豊富な人間はナガトだ。それは当然の行動と言える。
だがナガトは────
「────どうにもならん。」
────無慈悲に、そう告げた。
突き放された様な感覚を覚えて、一夏と箒は目を見開く。
「俺も貴様らも、今は出来る限りの事をやるしかあるまい。」
…ふと、新たに表示されるメール着信を意味する新規ウィンドウ────
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2022/04/06_16:58
題名:【極秘】新型機納入について②
差出人:巌崎哲璽
宛先名:八雲ナガト=アウグスト
八雲くんへ。
疲れているところ済まない。巌崎だ。
織斑一夏くんへの新型試験機(専用機)提供だが、それと同時に打鉄を2機パーツ単位に分解して提供することにした。
理由としては織斑くんが打鉄を用いた機体操作技術を身につけている為だ。
これらのパーツを持って、新型機をチューンして状況に対応できるよう、可能な限りの装備も用意した。
本日18時頃に新型機と同じ車列によって搬入される予定だ。
これが助力になるかは不明だが…よろしく頼む。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
────そう、記されていた。
それを見て、ナガトは腹を括る。
「…とにかく今は休め。後の事は、俺と高木で間に合わせる。」
そうナガトは告げて────え?俺もなんかすんの?という顔を高木は浮かべる。
「貴様の可愛い甥っ子の為だ。協力くらいしろ。」
そう言うと、業務用PCの電源を切り折りたたみながら部屋を出ようとして────
「────高木。可能な限りの整備スタッフおよび整備資格保有職員、第3格納庫に集めてくれ。」
────そう、耳打ちした。
「りょーかい。企業が送って来た新製品を早速弄り倒すんだな。」
高木はそう笑う。
「ハッ────こっちの事情を考えなしに送りつけてくる向こうが悪いんだ。」
そしてナガトもまた、鼻で笑いながら返す。
────一夏と箒は2人が何をしようとしているのか理解出来ず、ポカンとするしか出来ずにいた。
◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆
────18時45分
IS学園第3格納庫
『白式の搬入作業実施中。機体本体は88番ガントリーへ。』
『装備は順次搬入中。現在、打鉄用装備を兵装ターミナルに移送中。』
『一部パーツの輸送トラックが長崎市街で交通渋滞に巻き込まれた為スケジュールが僅かに遅延。それ以外に支障なし。』
────無線が飛び交う地下の大広間。
90機近いコンペートを収容可能な巨大地下空間に搬入された白い甲冑────新型機を眼前に、整備科22人、巌崎重工技術整備スタッフ12人、倉持技研技術スタッフ8人、整備士資格保有職員5人────総勢47人の整備士が集結していた。
その前に並べられた組み立て式テーブルに模造紙5枚に印刷され、そこに改修部分を赤ペンで書き込まれた設計図面。
そして各自に配られた、具体的な改修内容が記載されたホッチキス留のA4コピー用紙。
────【X02白式の現地改修に関する計画要綱】と記載されたその紙をペラペラと捲りながら、皆が一様に内容を見る。
◆機体データ◆
機体名:X-02 白式
装備:RA)ー
LA)コンバットシールド
BS)試作ブレード
────それが、今回の新型機のスペックであった。
…装備は試作型ブレードと左腕に取り付けられたコンバットシールドのみ。
…拡張領域も試作型ブレードのみで容量を圧迫される程の低容量。
────産廃。
ここまでそれ以外の言葉が出てこない機体はそうそう無い。
これを見た瞬間、ナガトは卒倒しそうになったのを覚えている。
────とてもではないがこんな機体で一夏を戦わせるなど無理だ、無茶苦茶だ。
だからこそ、ナガトと巌崎重工の整備スタッフは整備図面を殴りつけるかの如く、赤ペンで改修案を書き込んだ。
◆機体改修案◆
機体名:X-02 白式
装備:RA)ー
LA)コンバットシールド
BS)試作ブレード
↓
装備:RA)03式近接長刀
LA)MBDS_AllowsMissile
RS)MINI-CIWS(→肩部装甲取り外し後、打鉄肩部ジョイントパーツを移植し搭載)
LS)11式展開型追加装甲(→肩部装甲取り外し後、打鉄肩部ジョイントパーツと共に移植)
BS)試作ブレード
────書き込まれた内容は即ち上記のものだった。
肩部パーツは完全に打鉄のものに換装し、防御力と迎撃能力を向上させた。
次いで射撃兵装と近接実体刀の装備。これにより火力投射力と近接攻撃力能力を確保。
上記の射撃兵装と本機のレーダー・FCSとを統合データリンク化し、射撃可能とする事。
────残念ながら、試作ブレードは本機のキモという事で取り外しは叶わなかった。
見たところ03式近接長刀のような刃の鋭さもなく、何か特殊機構が備わっているようにも見えないナマクラ刀がどう役に立つのかは不明だが、ここは開発元に従うとしよう。
…重量制限カツカツだろうが、可能な限り打鉄に寄せ、必要な装備を搭載する。
────これが現状、思いつく中で最善の改修案だった。
「それで、その改修案がこれなんだな。全く無茶苦茶を言う。」
警① と書かれたラベルの貼られたヘルメットの下で高木が思わず愚痴をこぼす。
それに対して、警③とマジックで書かれたヘルメットを被ったナガトは、高木を見やる。
「無茶とは失礼だな。残された22時間で実現可能な変更点を書いただけだ。あとはどこまで精度を上げられるか────だろう。」
『遅延していたパーツ輸送トラック到着────これより積み下ろし作業に入ります。』
────最後のトラックが格納庫に到着した事を知らせる無線が響く。
「よし────では、各自作業を始めてください。」
そうナガトは言い放った。
◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆
────IS学園・教員寮101号室
高級ホテルかと見間違える内装の部屋。
2LDKとそれなりの広さではあるが、IHヒーターに冷蔵庫、エアコンなどの家電製品は最上級のグレードを揃えており、今横になっているベッドも高反発性の布団であり、トランポリンかと見間違える程。
思わず、多分月々の家賃、20万は下らないだろうなぁ────と邪推してしまう。
「…ああは言ったけど────大丈夫なのか…?」
リビングに置かれた机に腰掛けながら一夏は呟く。
同居人は現在シャワーを浴びており、向いには────
「問題ない…と、信じたい…な。」
────一夏同様、不安を抱きながらも机にあの分厚い参考書を広げている、別居人の箒がいた。
…だがソレはソレ。コレはコレ。と言わんばかりに、
「だが今は参考書の内容を勉強中の筈だが?」
そう告げる。
「うー…分かってるけどさぁ…いや心配で…。」
「心配なのは分かる。だが今はナガトを信じるしかあるまい。────それに、1週間でケリを付けねばならないのは対セシリアだけでなく、コレもなのだろう?」
トントンと机を指で鳴らし────そこに置かれた参考書とそこから書き出した大学ノートに一夏の視線を向けさせる。
────千冬に再び渡された参考書の内容学習。
クラス代表決定戦に向けた訓練と並行して、そちらも行われていたのだ。
1週間で覚えろ────1週間後に小テストをするからな。勿論、ちゃんと勉強していれば全問正解出来る内容だがな────と、先日言われた時に一夏は白目を剥いていた。
無理もない、コンペートの実習に勉強に────やる事が多過ぎて、脳がパンクしてしまうのも分かる。
…とはいえ現実は非情であり、こちらの事情などお構い無しに試練を与えて来るのが常だ。
一夏もショート寸前の頭を使って端から端までを勉強しようとした。
しかしそれでは間に合わないことは明白だ。
────なので箒は手を貸した。
おそらく次の小テストはIS運用において最低限の知識の再確認が目的だ。だから、まずは"IS乗りにとって必要最低限の常識"を覚えれば良い────と。
…そして今に至る。
「では次、ISの基本的な運用には現時点で国家の承認が必要であり、枠内を逸脱したISの運用をした場合は法律によって罰せられる。この刑法の名前は?」
「えーと────あ、機動機械運用死傷処罰法!」
「正解。中々頭に入って来たんじゃないか?」
箒は微笑みながら返す。
────ちなみに機動機械とは、コンペートやEOSの法律上での名称となっている。
基本的に軍事運用はされないコンペートやEOSは機動性に優れた機械である────よって、機動機械という名称が与えられた。
「…ところで全然関係ねぇんだけどさ…」
「む?」
…また雑談か?と言わんばかりの顔を浮かべるが────
「────箒って、好きな人とかいんのか?」
────想定外の爆弾を叩きつけられ、クラッと、一瞬視界が暗転する。
「な、ななななななな、なにを言っとるんだお前は!!?」
思わず箒は素っ頓狂な、悲鳴めいた声を上げて慌てふためく。
「いや確かにいるけども、いるけども…!だがそれは今関係な────」
必死で言葉を紡いでいって────固まった。
視線は一夏の後ろに向けられている。
「────ほう、恋バナか?思春期特有の反応で結構だが、貴様は篠ノ之に本来一人でやる筈の勉強を手伝ってもらっている身だったな…一夏。」
地獄の底から響いてくる様な声。
それにギギギ、と一夏は振り返る。
そこには、オレンジと白のラインが引かれた黒いタオルを身体に巻いた千冬────一夏の同居人が、仁王立ちしていた…!
「げぇ!ゼットン────」
「誰が恒星間天体制圧用最終兵器か────!!」
スパーン!と────ただのチョップが出して良いものではない音が、炸裂する…!
(…そこは宇宙恐竜の方じゃないんだ…)
────それを聞いていた箒は、そんな場違いな事を内心呟いた。
◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆
────19時15分
IS学園・第3格納庫
作業開始から30分。
搬入されたパーツ群の搬入は着々と進み、終わりつつあった。
一方、白式の改修作業も大量の人員と機材が投入され、格納庫内は異様な熱気に包まれていた。
「エネルギーシステムの組み直しは?」
溶接加工処理の手を止め、ナガトは無線機で作業の進捗状況を確認するべく問いかける。
明日の午後16時までに、少なくとも稼働部およびスラスター周りのテストもしなくてはならず、加えて作業に携わっている人間の休憩・睡眠時間や日中業務への従事を考えれば、組み立て作業が出来るのは今日の23時までだった。
────それまでに、組み立てを終わらせる必要があった。
『電力系統は、機体各所に超々小型大容量コンデンサーを搭載し、直接配電させます』
『現在、電圧系統関節操作用導線を装甲内部に敷設中、本日20時50分には、全て完了の予定です』
────機体のアクチュエータや電圧系統を担当していた技術スタッフが無線で告げる。
「装備類および増設用ウェポンラックの進捗状況は?」
『組み立ておよびハイパーセンサーとの同調作業に問題なし。IFF周りの再プログラミングも22時30分までには、なんとかします。』
「肩部パーツ群の状況は?」
『現在、右腕・左腕を共に打鉄の肩部パーツに換装中。あと2時間で形に出来ます。』
────ナガトはそれらの報告を基に、チェックシートに進捗を書き込んでいく。
「中々進んでるじゃん?」
覗き込みながら、高木が口にする。
「高木、スラスター周りは?」
「機体重量が増えたせいで既存のやつじゃ少々推力が足りない。なんで、オプションパーツにあった、より強力なやつに換装中だ。」
高木が告げる。
…確かに、試作型ブレードとコンバットシールドだけを搭載した軽量型機に、近接長刀だのミサイルランチャーだのミニガンだの展開型シールドだの…中量型機クラスの装備を外付けして行けばそうした問題は自ずと生まれてくる。
「そのスラスター、重量は大丈夫なのか?武装の重量に耐えられる推進力を得る為のスラスターがかえって足枷になっては意味がないぞ。」
だから、この作業は単純に予定された項目を終わらせるだけではなく、その過程で発生した問題を潰すのも作業の一環だった。
「拡張領域系統に搬入されたラファール系統の拡張領域増量パーツを組み込んだから、スラスターの内部系統は量子化させてそこに流し込む。そうすりゃある程度は問題ない。」
「了解────、間に合わせるぞ…!」
そういうとチェックシートを手放し、再びナガトは装甲パーツの溶接加工処理作業を開始した────!
〜あとがき〜
◉ナガトと箒のナゼナニ劇場⑤
◽︎箒
「ナガト!流石に今回の倉持技研の事後報告は酷過ぎるのでは?!」
▪︎ナガト
「うん、では今回は倉持技研について話そうか。」
◽︎箒
「よろしくお願いします!」
▪︎ナガト
「倉持技研は原作通り、白式を開発した企業であり、こちらでは日照ライムントヴァルト社傘下の技術研究法人だ。」
◽︎箒
「技術研究法人…アレ?じゃあ単純に物的商品を売って利益を得ている訳じゃないんですか?」
▪︎ナガト
「まぁ、そうだな。あくまで倉持技研が商品としているのは自社が持つ《特許技術》であり、その特許使用料で利益を得ている。
だから機体やパーツは日照ライムントヴァルト社や提携関係にある巌崎重工と組んで製造する事が多い。」
◽︎箒
「なるほど…」
▪︎ナガト
「で、そんな中で今回倉持技研は頑張って白式を開発した訳だ。」
◽︎箒
「はい、でもあんな産廃じゃ誰も使いたがらないかと。」
▪︎ナガト
「うん、倉持技研のマズイところはまさにそこなんだ。」
◽︎箒
「…というと?」
▪︎ナガト
「技術実証の為に開発する事はあっても、《実戦で運用する機体を作った経験が無い》という点だ。」
◽︎箒
「あ────」
▪︎ナガト
「多分今回も、スラスターの推力か、あの試作ブレードの実証試験という点しか主眼に入っておらず、戦闘でどんなものが求められるか、という点はまるで眼中に無かった。
────今まで自分達の特許技術を運用するのは取引先であって、自分達が直接作ったものじゃなかったからな。」
◽︎箒
「研究にしか目が向いてなかったんですね…」
▪︎ナガト
「身も蓋もない事を言えばそうだ。
今回は全体的に短いが、このくらいで締めようか。」
◽︎箒
「はい!
・倉持技研は日照ライムントヴァルト傘下の技術研究法人。
・特許技術の使用料で利益を得ている。
・自社製品を直接売り込みに来るのは白式が初めて。
・研究にしか目が無い。
…こんなところでしょうか。」
▪︎ナガト
「うん、そんなとこだな。」
◽︎箒
「そういえば倉持技研って何を専門としているんですか?」
▪︎ナガト
「ん?ああ、えーと、確か脳波コントロール型システムとか、次世代ロケット技術とか、あとはそうだな…タキオン技術とか。」
◽︎箒
「え?や、やっぱりこの世界の零落白夜ってタキオンもがっ!?」
▪︎ナガト
「き、今日はこの辺で!!」
◽︎箒
「まふぁれふふぁぁぁぁぁ〜!!」
今回は短いですが、以上となります。
次回もよろしくお願い致します。