インフィニット・ストラトス・アライズ-Dominater of Battlefield-   作:天津毬

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なんとなくで初めてセシリア戦になります。

今回もよろしくお願いします。





#04 決定戦当日/Dirty holy sword(穢れた聖剣)

 

4月8日金曜日

クラス代表決定戦当日

 

日本帝国長崎県五島市浜町

男女群島・国連直轄領トキオ自治区セントラル区

──── IS学園第3アリーナ・Aピッド

 

管制室直下のIS待機スペース。

そこに白の翼が生えた鎧────そう形容するに相応しい全身装甲のコンペディションISが、鎮座していた。

 

「…来ちまったな…この日が。」

 

それを纏う一夏は緊張しているのか、少し語尾が震えている。

 

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UNIT:X-02 白式

PILOT:織斑一夏

WEPON:RA)03式近接長刀

     LA)MBDS アローズミサイル

     RS)MINI-CIWS

     LS)11式展開型追加装甲

     BS)試作ブレード

 

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眼前に投影された情報を見て、少し、昨日を思い返す。

前日の放課後────改修をやり遂げたナガト達によって託された専用機・【X-02 白式】の挙動を確かめ、僅かに打鉄とズレがある程度だが運用に支障がない事は確認している。

…しかし、それとこれとは話が別だ。

────初陣への期待、怯え、その全てが混ざり合い、一夏の身体を震えさせる。

手の震え、足の震え、酷く弱った子猫のように全身が小刻みに震えていた。

どくどくと脈打つ心臓に無駄だと分かっていても手を当て、なんとか鎮めようとした。

────これは、武者震いだ。と必死に自分に言い聞かせて、拭いようのない震えを止めようとする。

 

『恐れるな、フォーマットとフィッティングは昨日済ませたろ。挙動確認も問題無い筈だ。』

 

通信を介してナガトの声が聞こえた。

普段とは違う────低音の声音には、触れた者をすべて焼き尽くしてしまいそうな威厳が感じられた。

 

『いつも通り、訓練通りにやればいいだけだ』

 

「簡単に言ってくれるなよ。そういうナガトはどうだったんだ?昔、戦ったんだろ?再構築戦争…だったっけ?その戦争で。」

 

今の気持ちを理解してくれていない、そんな発言に苛立ちを覚え、強張った表情で無線越しの教官(ナガト)に噛みつく。

 

『俺か?そうだな……』

 

通信の向こうでナガトが昔を懐かしむように逡巡している姿が脳裏に浮かんだ。

 

『────正直、あまり覚えてねぇな。』

 

「はは────素直じゃないんだな。」

 

『いや……本当に覚えてないんだよ。あの時はたんまりと────』

 

ナガトは一拍開けて、

 

『────クスリを盛られたからな』

 

凍てつく口調で呟いた。

 

「えっ……」

 

予想外の内容に、一夏の口から情けない声が漏れた。

ナガトもオリジナルナンバー────初期ロットのアライズ乗り────であり、アライズを駆って再構築戦争に参戦していた。

VIC6(六大国家)の最新鋭兵器だったアライズはその当時────2000年代後期では技術的に成熟していない部分もあり、様々な臨床実験という名目の人体実験の被害者が存在していたという噂を聞いたことがある。

 

(……もしかして、ナガトもその中の一人…!?)

 

『────てぇのは嘘だ』

 

「は?あ…、はぁ、なんだよ……」

 

彼は肩を竦め大きな嘆息を漏らし、ナガトは鼻で笑った。

 

『どうした、同情でもしてくれたのか?』

 

「こんなときに冗談はやめてくれ。ただでさえ吐きそうなんだ……」

 

『だから和んだろ?』

 

酷い冗談にもう一度大きなため息を吐いた。

 

(けれども、ナガトの言うとおり気持ちは少し楽になった……ような気がする。)

 

『当時のオリジナルナンバーはVIC6にとって貴重品だ。適正のある者を見つけるのも造るのも一苦労。だからそんな薄氷を踏むようなことはしない────だが、覚えていないのは本当だ。出撃と同時に、ISスーツ内に仕込まれてた圧力注射機構で興奮剤を打たれたからな。』

 

「…勝手に、そんな事を…?」

 

『ああ。事が全て終わった時にそれを知って、仕込んだ奴に同じ事をしてやったよ。三倍の量にして、血管に注射器で────な。』

 

ついでに大事なところも思いっきり蹴飛ばしてやったよ────とナガトは笑う。

────痙攣しながらビチビチと床を跳ねて、ズボンのテントから汚ぇ汁をブチ撒けている様は、中々に滑稽だった。とも付け加えて。

それを聞いて一夏はうわぁ…と相手に心底同情する。いや、それをされた側は自業自得、因果応報なのだが。

なんとなく、ナガトは普段温厚だがこういう時は気性が荒いんだろうな────と最初の3日間で感じていたが、本当だったらしい。

────曰く、部下を無碍にする上官を部下の目の前でぶん殴って上官の顎を粉砕骨折させ、懲罰房にぶち込まれた。

────曰く、ISの絶対防御を打ち抜く必殺兵器としてパイルバンカーを愛用し、次々とIS乗りを血霧に変えた為に、《杭打ちの鬼》と呼ばれている。

────曰く、白兵戦にて壁を素手でぶち抜きそこにいた敵兵を殴打、気絶させた事がある。

…箒から聞いた彼の武勇伝は、どこから広まったのか整備科の一部で語り草となっている。

一夏は、ナガトだけは決して敵に回してはいけないと改めて心に刻んだ。

 

「一応聞いておきたいんだけど、俺のスーツには……」

 

『もちろん、そんなものは仕込んで無い。クスリなんぞに頼るか。お前の扱うそれは競技用。即ちお前は選手であって、戦士では無いのだからな。』

 

ナガトは父親が子供を叱るような口調で咎めた。

 

『お前はお前が培った力で当たれ。ドーピングなどもっての外、言語道断だ。いいな。』

 

「分かってる。ナガトから教わったことはちゃんと守ってる」

 

『よろしい。では、死力を尽くせ────俺からは以上だ。』

 

そう言って、ナガトは通信を切る。

────直後。

 

『────織斑。』

 

千冬から通信が入る。

 

試合後の予定(・・・・・・)の都合上、アリーナの使用できる時間は限られている。試合前の慣らし運転をさせておきたいところだがぶっつけ本番になる。』

 

(試合後の予定────…?なんか、あったっけ?)

 

そう思うが、直ぐに片隅に捨てる。

────今、目の前の試合には関係ないからだ。

 

『ISのハイパーセンサーは間違いなく動いているな。機体の不具合もこちらでは確認できないがどうだ一夏、気分は悪くないか?』

 

「大丈夫、千冬姐。いけるさ」

 

『────そうか』

 

────その言葉には、柔らかさがあった。

教師や指導者としてではなく、一人の家族を気遣う声音。

 

『────一夏』

 

続く様に、ピット内で仁王立ちしながら箒の声を、集音センサーが拾う。

その顔には、普段の凛とした雰囲気に僅かな愛いさが混じったような様子はなく、ただ冷静に眼前の事象を見据える冷徹な────だが熱を秘めた瞳だけがあった。

 

『────勝とうと負けようと、構わない。だが死力を尽くし、全力で当たれ。…私からは以上だ。』

 

────死力を尽くせ。

ナガトと同じフレーズを口にした。

口ぶりも、わずかにナガトに似ている。

それに一夏はクスリとする。そしてそれに振り返り────

 

「────箒」

 

『…なんだ?』

 

「俺は負けねぇよ!」

 

そう言って、格納庫にいる箒に向けて────白式のマニピュレーターでサムズアップを浮かべた。

ソレに一瞬箒は面喰らう。

その自信は一体どこから湧いてくるのか────だが、今は。それでいい。

 

『ああ────行ってこい!!』

 

そう言うのと同時に、白式の乗った電磁カタパルトに込められた電磁力が臨海に達し────白式はピッドから打ち出された…!

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

────同・第3アリーナ

 

所定の位置まで一夏は白式のスラスターを蒸して移動する。

────直後、青の全身装甲機がBピットから飛び出したと同時に網膜に機体データが投影される。

 

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UNIT:BAEs_A-CIS-3ブルーティアーズ

PILOT:セシリア・オルコット

WEPON:RA)RoD-LR3(スターライトMk.Ⅲ)レーザーライフル

     LA)RoD-LBL2(インターセプター)レーザーブレード

     RS)RoD-LOBT-1(カデュケウス)レーザーオービット

     LS)RoD-LOBT-1(カデュケウス)レーザーオービット

     RW)MBDSミーティアミサイル

     LW)MBDSミーティアミサイル

     BS)不明

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…あれがオルコットの…!」

 

────深海色の、聖堂騎士甲冑を思わせる機体フレームに、天使の翼を連想するユニットが背中と肩部に取り付けられている。

ハイエンド・コンペディションIS【BAEs_A-CIS-3(ブルーティアーズ)】が現れた…!

そして手に持たされている大型のレーザーライフル【RoD LR-3(スターライトMk.Ⅲ)】がこちらを向く。

 

『────よく、逃げずに参りましたね。』

 

ふと、セシリアが告げる。

そこにはある種の驚きと感心が込められている。

 

「…ああ。」

 

『ひとつ、お聴きしてもよろしいでしょうか?何故────貴方は其処にいるのです。』

 

「え────」

 

一夏はその質問に驚愕する。

────あれだけ自分をサルだなんだと言っておきながら、そう問うてくるのだ。

不思議に思わざるを得ない。

 

『貴方は確かに祭り上げられ、そして本来ならば代表になる意志もそれに伴う実力もなかった────棄権も出来た筈なのに、何故、此処にいるのですか?』

 

────なるほどこれはつまり、面接のようなものだ。

最初はなるつもりの無かったものが、何故ここに居る、どういった心境の変化があったのだ────と。

…そう聞かれているのだ。

一夏は一瞬瞑想し、目を開けて、口を開く。

 

「……支えられたから────かな。」

 

────思ったままの事を口にする。

 

「確かに俺は、代表になるべき器じゃないのかも知れない。だけど────今日この日まで、色々な人に支えられて、助けられて、ここまで来た。」

 

────だから、逃げられない。

自分の腕がかすかに震えているのが分かる。

心臓が何時もより大きく鳴っているのが分かる。頭がクラクラしてきそうな錯覚。

────けれど、逃げない。

知識と剣の腕をくれた箒。

最初は怖い人だと思ったけど戦い方を叩き込んでくれたナガト。

なんだかんだ協力してくれた道生兄。

そして白式を改修してくれた整備スタッフの皆。

────いろいろな人に手助けしてもらった。

それをここで恐怖に負けて逃げ出すことなんて俺ではなく、その人達に泥を塗るのと同じだ。

────そんな事は、死んでもしたくない。

 

「だから────絶対に逃げたりしない。」

 

迷い、怯え、その全てを振り切り────吹っ切れた様で、一夏は言い放つ。

それにセシリアはなるほど、と。その回答も悪く無い────という声で納得する。

 

『そう…────では、始めましょう!!』

 

 

その宣告と共に、砲口より蒼の光────レーザーが、放たれる…!

 

「ッ────!」

 

引き金の指に注意を向け何とか放たれるタイミングをつかみ、サイドスラスターで一夏は回避する。

肩をレーザーが擦め、装甲表面が加熱し赤く変色するが気にかけず一夏はMINI-CIWSを起動。

牽制射撃をかけながら、そのまま左肩部の11式展開型追加装甲を展開────機体の左半身を覆う、武士甲冑の大袖を連想させる3枚の耐熱耐弾耐レーザー複合装甲板でレーザーを弾きながら一夏は突貫する。

 

『────カデュケウス1-4、行動開始(アクティヴ)!』

 

セシリアが告げる────同時に、両肩部に束ねられた合計8基のうち、4基のオービットが射出される。

オービット────PIC(慣性制御)技術によって自律機動する浮遊砲台────が、ライフルと共に一夏に牙を剥く…!

 

「くっ…!」

 

────3次元全方位から乱れ飛ぶ蒼の閃光(レーザー)

一夏は高く方向からの攻撃を潜り抜けようとするが行動を先読みされている────なかなか前に進めない────レーザーが篠突く雨の如く叩き込まれる…!

 

(くそっ、止まるな…!止まるな止まるな止まるな!!)

 

────自身を鼓舞する様に言い聞かせる。

ナガトとの訓練で死ぬ程やらされたレーザーの回避機動訓練を思い出し、必死にスラスターを蒸し続ける。

縦、横、斜め、後ろ、前、すべての方向からレーザーが降り注ぐ。

その中に止まるという愚行はせず、全方向に意識をいきわたらせ敵を見据える。

────さもなくば、四方から一方的な蹂躙(リンチ)が始まる。

小刻みにスラスターを吹かしながら、されどできるだけ前に出るように右斜め前に、左下前に、上下左右に動いて射線から機体を逃がしながらも前進する────。

だが────

 

『────私をお忘れでして?』

 

────セシリアの声。

同時に、スターライトMk.Ⅲのレーザーがシールドを直撃する…!

 

「ぐぅッ────!」

 

走る衝撃。

左肩をバットで殴打されたような痛みが駆け、意識が一瞬白む。

機体が失速しかける。

だから必死に────

 

「ッ、止まるなァ!!」

 

────叫び、自らと機体に檄を飛ばした…!

瞬間、ところ構わずブーストを全力で蒸し、直進────その、一瞬前までいた空間を、4条の閃光が焼いた。

 

『なっ────』

 

────セシリアは、自身のタイミングを外された事に衝撃を受ける。

オービットの回避に手一杯となっているところにレーザーライフルの一撃で機体を硬直させ────オービットのレーザーで滅多撃ちにする。

そのタイミングの為の一撃に耐えた。

それは良い。

しかしその後の斉射を切り抜けた。

これは想定外だった。

そして更に────白式右肩部のMINI-CIWSガトリングガンがブルーティアーズを滅多撃ちにする。

思わずセシリアは反射的に目を瞑ってしまう。

一瞬。

その────刹那、白式は急加速する。

────瞬時加速。

近接戦を主体とするコンペートやアライズの全機種に標準搭載されている機能。

ソレを持って、白式は時速400kmから時速3800kmに加速し────ブルーティアーズとの距離を詰める瞬間。

 

「対レーザースモーク‼︎」

 

一夏が言うと、左腕に装備されていた発射基からロケットアシスト付きの擲弾が放たれ────ブルーティアーズと接触し、空中で炸裂。

同時に、弾頭内に詰められていた高濃度の重金属粉塵が展開────煙幕を形成する。

その展開時間は短く、わずか45秒で掻き消される程度────。

だが、ソレで十分。

距離は詰めた。

敵の動きは止めた。

レーザーは封殺した。

あとは、眼前にいる敵に────右腕に装備した近接刀を叩き込む…!!

 

「はァ────!!」

 

一ノ太刀でブルーティアーズの左肩部装甲を右から左に逆袈裟で斬り裂き、返す刀で二ノ太刀を放ち、胸部装甲を薙ぐ…!

 

「まだまだ────!」

 

そして更に返す刀で三ノ太刀を放ち────それをセシリアは、左腕上腕部より展開したレーザーブレード《インターセプター》で受け止めた…!

 

『おやりになりますわね…私に、剣を抜かせるなんて…!』

 

────信じられない、という驚愕と。

────素晴らしい、という歓喜が入り混じった声。

…シールドエネルギーの残量は50%を切った。

対して一夏はまだ85%は残されている。

状況だけで言えば一夏の方が有利────だが、形状しがたい悪寒が一夏をかける。

 

『認めましょう────貴方の実力を。』

 

ゾクリと。

冷たく言い放たれた言葉。

普段の高飛車な彼女はそこには居ない。

まるで別人のように冷徹な瞳が鍔迫り合うブレード越しの一夏を見据えていた。

直後────肩部に搭載されていた残り4基のオービットが射出され、拡張領域から更に8基のオービットが射出される。

鳴り響くレーザー照射警報。

────合計16基のレーザーオービット全てが一夏を捉えて。

全ての砲口に、蒼の光が宿り────

 

『故に、全力で倒します────貴方を。』

 

────死の宣告。そして光の雨が、アリーナを埋め尽くす…!

先程の4倍の密度に増したレーザーは流星群の如く白式をつるべ打ち、光の檻を形成する。

退き場所を見失い、一夏は思わず混乱する。

だが────そんな事をセシリアは感知しない。

 

『ブレード・サプレッション』

 

そうセシリアが口頭命令を下す。

直後、16基のうちの4基が2基ずつ合体し、2基の連結型オービットへと姿を変えたかと思うと────それは、射程2kmはあろうかというレーザーブレードとなって、猛威を振るう…!

12基のオービットによるレーザーの雨が豪雨の如く叩きつけ、アリーナの土台を、観客席を守るシールドバリアを蹂躙していく。

土砂を巻き上げ、地面に大穴を開ける光の嵐がアリーナ全域に荒れ狂う。

そして2基の連結型オービットが放つロングレンジレーザーブレードが、アリーナの隅々を焼却する…!

────先程までの攻撃が単なる攻撃だったとするならば。

────これはもはや、蹂躙や殲滅の領域。

それを避けて行こうが────ブルーティアーズの腰部に搭載された無数のミサイルと、レーザーライフルによる正確無比な狙撃が、的確に一夏のシールドエネルギーを削っていく…!

────シールドエネルギー残量77%。

 

「ぐぁぁぁっ!!」

 

右肩部のMINI-CIWSがレーザーに貫かれ、機体から脱落する。

────シールドエネルギー残量68%。

一夏はただ、さながら湖に落ちた虫のように、足掻き続けるしか選択肢が残されていない。

────シールドエネルギー残量60%。

だがそれでも、諦めるつもりはない。

────シールドエネルギー残量55%。

今諦めるなどという選択肢は、一夏の中に無い…!

 

(だから、せめて────)

 

一矢報いようと────だが、左腕にミサイルランチャーも右からレーザーに撃ち抜かれ、爆散する。

────シールドエネルギー残量49%。

形成が逆転する。

そこにセシリアはダメ押しと言わんばかりに────オービットのレーザー射撃をもって一夏を閉じ込めた光の檻に自らも飛び込んで。

レーザーブレードを一夏に叩きつける…!

一夏はそれを反射的に、逆手に持った近接刀で受け止め────再び鍔迫り合う。

 

『貴方が負けられない様に…私にも、負けられぬ理由がございます。』

 

セシリアが言った瞬間、近接刀の刃目掛けてオービットレーザーが3発叩き込まれる。

…刀身の耐熱耐弾耐レーザー塗膜が剥離する。

────セシリアのレーザーブレードが近接刀を両断する。

…一夏の機体から、全ての装備が失われる。

────セシリアはそのまま、レーザーブレードをレイピアの様に突き立てようとして。

 

(頼む、もう────お前しか、居ないんだ…!)

 

一夏は拡張領域から試作型ブレードを取り出し、ソレを防ぐ────!

…直後。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

《────Object updated.》

 

◆試製20式タキオンブレード【雪片弍型】◆

 

・刃渡りXXM

 

・特殊技能「零落白夜」

 

※注意

 当該装備は周辺環境汚染の危険がある為、使用に90秒の制限時間がかけられています。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そのアナウンスが鳴り、新規ウィンドウが一夏の視界に投影される。

 

「雪片、弍型…」

 

(千冬姐と同じ────世界を制した、一振りの刀…!!)

 

直後────試作型ブレードが変形し、緋色の粒子によって構成されたビームブレードを展開した…!

 

《警告:タキオン粒子汚染濃度が上昇しています。自然希釈汚染許容数値を超過する前に、速やかに使用を停止して下さい。》

 

(────つまり、90秒以内にカタをつけろって事か…ッ!!)

 

度重なる怒涛の展開────一夏は未だ、事態を全て把握は出来ていない。

…だがやるべき事はただひとつ。

────立ち塞がる眼前敵を倒すのみ…!

 

 

 

 

 

────ピット直下・資材搬入用1番ゲート前

 

『ナガト…!』

 

箒の焦燥に満ちた声が無線越しに響く。

それは、一夏の展開した試作型ブレード────雪片弍型を見ての事だった。

 

「…くそが────!」

 

思わずナガトも悪態を吐く。

倉持技研が指定したブレード────それに対消滅粒子であるタキオン粒子技術を搭載していたのだ。

本来ならば放射性廃棄物同様、一級汚染物質として扱われるべき代物を、【仕様を伏せたブラックボックス化】という形で潜り込ませていたのだ。

 

「なんてもんを積ませてやがったんだ…!」

 

奥歯を噛み砕かんばかりの怒号。

だが、今ここで介入するわけにもいかない────、

 

「山田先生!アリーナのタキオン粒子モニタリングポストは?!」

 

────だからこそ、今は周りを調整するしかない。

 

『はい!現在のところは自然消滅する程度です!ですが徐々に上昇中────100秒後には大規模除染作業が必要な汚染量に達ます!!』

 

『一夏!聞こえるか!必ず90秒以内にカタをつけろ!!』

 

無線の向こうで山田の悲鳴じみた報告と、千冬の狼狽えた怒号が飛ぶ。

 

(────奴ら、織斑たちをどうするつもりだ…!)

 

 

 

 

 

 

────第3アリーナ

 

セシリアの攻撃は際限なく続く。

むしろ激しさを増したそれは雨などではなく嵐の領域だった。

降り注ぐレーザーは爆撃と何が違おう。

その一撃一撃がTNT爆弾に匹敵する破壊力を伴って、矢継ぎ早に、正確無比に繰り出され、アリーナの地表に無数のクレーターを生み出していく…!

────それを。

 

「はぁ────ッ!」

 

────閃。

雪片弍型が振るわれる。

対消滅粒子で形作られた刃は、青の自由電子レーザーを接触と同時に侵食し、自らの刃諸共消滅させる…!

 

「…タキオン粒子汚染だか、なんだか知らねぇけど────」

 

ここまで来て、負けるなんか御免だ。

気持ちの整理はしたし、身体も皮一枚で繋がったし。

────《零落白夜強制停止まであと45秒》

時間も無ぇし、いい加減。

 

「────行くぞ!!」

 

────ケリを付ける……!!

 

スラスターを点火。

同時に、瞬時加速を爆発させて空を駆ける。

狙いは一点、敵機への一閃のみ────!!

 

『このぉッ!』

 

────迎え撃つは、レーザーの大嵐(たいらん)

収束機が焼き千切れる事を恐れない最大出力の破壊的弾頭の雨が降り注ぐ…!

────シールドエネルギー残量41%

────《零落白夜強制停止まで39秒》

 

「────っ、ぐッ────!!」

 

それを視認すると同時に、一夏は全力で再びスラスターを蒸す。

軋む身体に鞭打つように喝を入れながら、白式は真横に躍り出る。

 

「っ、く────」

 

無理矢理な横移動で崩れ堕ちそうになる身体を、残された左腕の一振りで持ち直す。

────直後、右肩に衝撃が奔る。

 

「っ……!」

 

金属の軋む音を立てながら、ハイレーザーが右肩部の装甲ブロックを抉り飛ばす。

────シールドエネルギー残量39%

────《零落白夜強制停止まで35秒》

夾叉した右肩が白熱し、骨に亀裂の入る音を錯覚する。

 

(────構わない。どんな不利な体勢でも、アレの直撃だけは回避する────‼︎)

 

────その意思を試さんとばかりに、再びハイレーザーが放たれる。

応えるように、一夏は再度瞬時加速し、螺旋を描きながら敵機と距離を詰める…!

────しかし、軌道を逸らすことは叶わず、そのままハイレーザーが一夏の眉間目掛けて飛翔する。

────それを、

 

「どりゃあッ────!」

 

────痛みとバランスの乱れから、立ち直るのに0.3秒。

眼前に迫る凶器を右腕に保持した雪片弍型で斬り打ち消す…!

 

「まだ────、だぁッ‼︎」

 

────セシリアは思わず目を見張った。

驚嘆すべきは。

その一連の動作をしながらも、疾駆する脚を止めない意思の強さだった。

 

「…ぐ、うッ‼︎」

 

五月蝿いハエを叩き落とさんとばかりに、再び四方八方からレーザーの雨と、ロングレンジハイレーザーによる断頭の光が降り注ぐ。

前方からは、レーザーライフルによる精密狙撃がシールドエネルギーを攫っていく…!

それはもはや雨などという生緩いものではなく、海と形容するに相応しい高密度で────!

────シールドエネルギー残量27%

────《零落白夜強制停止まで29秒》

このまま行けば、一夏は袋叩きされる。それは覆りようのない事実。

────このままの、速さなら。

 

「────おおッ!!」

 

────直後、一夏は正面目掛けて瞬時加速。

レーザーの海を潜りながら、コンマ数秒の世界を駆けていく…!

加速した際のGにより、直撃コースのレーザーを雪片弍型では完全には弾ききれず、僅かに軌道を逸らし、背部スラスターをえぐり攫って行く。

────推進力87%に低下。

────シールドエネルギー残量20%。

────《零落白夜強制停止まで27秒》

様々な警報が鳴り響く。

だがその一切合切を無視して一夏は駆け抜ける。

狙いは一点。

ただ眼前敵に一撃を加えるのみ…!

 

「────っ、この…‼︎」

 

最期の足掻きに、セシリアはレーザーライフル、オービット、ロングレンジブレードビット、ミサイルを一斉射する。

狙いは定まっていない────だが完全な停止とは行かずとも、動きを鈍らせることは可能だ。

瞬時加速中のダメージは、運動エネルギーと摩擦力の加算によって通常時より大きくなる。

事実、一夏は次々と被弾して行って────白式の疾駆は、衰えなかった。

────シールドエネルギー残量2%

────《零落白夜強制停止まで20秒》

 

「ハ────」

 

こぼれたのは今の瞬間を切り抜けた驚きか、それとも蓄積された疲労か。

思っていたよりも数次元強大な防衛機能を有していた眼前敵に、神経や筋肉が断裂してしまう程の負荷をかけながら突破し────

 

「っ、うおぉぉぉぉ────────ッッ!!」

 

(切り裂け………!!)

 

今まで蓄積したエネルギーを込めた渾身の刃が、振るわれる。

一ノ太刀。

二ノ太刀。

三ノ太刀。

四ノ太刀。

────雪片を振るい、次々と斬撃を叩き込む。雪片を振るい、次々と斬撃を叩き込む。

────ブルーティアーズ、シールドエネルギー残量15%。

 

「もう一丁────────ッ!!」

 

そして五ノ太刀を、縦一文字の体勢を描きながら、ブルーティアーズの頭部装甲目掛けて叩き込む────!!

 

「うあぁぁぁ────────ッッ!!」

 

だが、負けるものかと、代表候補生の意地を見せるようにセシリアは、白式の腹部装甲目掛けて左腕のレーザーブレードを横薙ぐ…!

雪片弍型は、一瞬遅れてブルーティアーズの頭部装甲を叩き付けた…!

────《零落白夜強制停止》。

────白式、シールドエネルギー残量0%。

────ブルーティアーズ、シールドエネルギー残量4%。

…一瞬。

ほんの一瞬の差────勝利の女神が微笑んだのは、セシリア・オルコットだった。

 

────以って、ここに勝敗は決した。

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

────第3アリーナ管制室

 

「ああ…織斑くん、頑張りましたね…。」

 

「ああ。まぁ、愚弟にしては、よくやりました。」

 

半ば結末を予見していた様に、山田は言う。

それに千冬も同様の感想を浮かべる。

相手は代表候補生という名のプロ。

此方は駆け出し未満のド素人。

勝負には敗北するのは、半ば必然と言えた。

────だが、代表候補生に紙一重の戦いをしてみせたのだ。

この敗北の意味は大きい。

 

「負けからこそ、学ぶべきものがあります。今回は良い薬になった事でしょう。…さて、山田先生。」

 

「────はい。次の予定、ですね。」

 

「うむ────織斑、オルコット。先の戦いで微量のタキオン粒子が発生した。安全確認の為に検査チームを闘技場脇のサブピットに待機させている。そこへ行け。」

 

そう2人に告げて────

 

「アリーナ、観客席および天井隔壁展開。」

 

そう、命じた。

 

 

 

 

 

第3アリーナ・観客席

 

「織斑くん負けちゃったねー」

 

「割と終盤は接戦だったんだけどねー」

 

「やっぱり経験差は埋められ無かったよ…」

 

などなど、口々に観客席にいた生徒たちは口にする。

その中の一人が、隣に座っていた少女に声をかける。

 

「ねね、更織さんはどう?」

 

────蒼の髪。

────赤の瞳。

────琥珀色の下斑メガネ。

1年4組クラス代表にして、日本国家代表候補生────更織簪に向けて。

 

「…別に。あのワンオフアビリティを使うまでは、セシリアに勝率が傾いていたけど、その後はどっちが勝ってもおかしく無かった。」

 

────だからこの結末は、必然。と、簪は告げる。

 

────ふと、鳴り響くサイレン。

 

『隔壁閉鎖────繰り返します、隔壁閉鎖!アリーナ闘技場の全隔壁を閉鎖。以降は、モニタリング観戦に切り替えます!』

 

アナウンスと共に、観客席を守るシールドバリア発生装置の支柱たる耐爆強化ガラスを守る様に、耐核耐熱耐爆耐レーザー複合装甲から成る隔壁がアリーナを覆う様にせり上がる────。

 

「え?まだなんかすんの?」

 

「試合ってこれだけじゃ…?」

 

困惑の声が伝播する。

────当然、簪も困惑を隠せずにいた。

そして、隔壁が閉まり切ると、隔壁に設置された複合カメラが捉える映像が耐爆強化ガラスに、プロジェクションマッピングの如く投影される。

その中で────ピット直下の資材搬入用の1番、2番ゲートが開放される。

普段コンペート射出に用いられるピットの隔壁ほ閉じたままで、その下にある資材搬入ゲートが開く事に簪は違和感を覚えた。

そして────その数秒後、1番ゲートから現れた機体を見て、違和感の正体を理解する。

深緑の国防色に身を包んだ、一目で重量型機体と分かる程の肉厚な脚部。

対照的に、格闘戦を想定した取り回しの良い上半身と無骨さを宿した三眼の頭部。

右腕には4メートルはある40mmガトリング砲。

左腕にはブレード機構。

背中には、折り畳まれた二連装35mm機関砲と、120mm滑腔砲。

両肩には大型スタビライザーらしき装備を搭載した、重量型全身装甲機体。

日本帝国陸上自衛隊正式採用型第3世代ARIS ────21式機動挺身装備【日方風(ヒガタチ)】。

 

「あ、アライズ────!?」

 

「なんで…?!」

 

女子の誰かが叫ぶ。

続く様に────2番ゲートから、新たな機体が現れる。

紅白とグレーのデジタル迷彩が施された、中量型機と思われる機体。

近接戦を前提とした事が一眼で分かるブレードエッジ装甲が多用された流線形のフォルム。

両腕に、銃剣と思しきブレード機構を備えたライフル。

両肩には、追加ブースターとも射撃兵装とも取れる、鏃型の駆動ユニット。

腰部には砲身を後方に折り畳んだレーザーキャノン。

背中には、垂直ミサイルランチャーと思しきミサイルコンテナ。

…それは、見た事の無い機体だった。

────深緑と紅が対峙する。

 

『双方配置に着いたな────』

 

ふと、千冬の声がアナウンスを介して響く。

 

『────ではこれより、【試製22式アライズ《雷火(ライカ)》】の模擬戦を開始する!』

 

その声と共に。

日方風と、紅の機体────雷火が激突した…!!

 

 

 





〜あとがき〜

◉ナガトと箒のナゼナニ劇場⑥

◽︎箒
「ナガト!ブルーティアーズが原作より強くなってる気がします!ライフルとビットの同時射撃ができるしビットの数は増えてるしビット使用中も動けるとか中ボスクラスじゃないですか!!あとやっぱり雪片弍型はタキオン兵器じゃないですか!!」

▪︎ナガト
「落ち着け。ひとつずつ片付けていくぞ。という事で今回はオービット兵器とタキオン兵器について話していくぞ。」

◽︎箒
「お願いします!」

▪︎ナガト
「まずオービットだが、思考操作と、それを補う自立型システムの併用型兵器だ。
 前者は機体そのものを空中固定砲台として運用する際に用いられる。こちらは原作と違い、FCSをライフルと連動する事で同じ標的を同時攻撃、または複数標的に同時多発攻撃が可能だ。」

◽︎箒
「一対多戦特化型である原作のブルーティアーズに準じた運用思想ですね。」

▪︎ナガト
「ああ。…後者は機動砲撃戦時に運用する場合に用いられる。この場合、ビットは母機であるISを中心に数パターンの軌道を描きながら旋回し攻撃する形となっている。」

◽︎箒
「こちらは原作にはない機能ですね。
 …一対一戦を考慮した機能でしょうか?」

▪︎ナガト
「そうだ。まぁ、オービットを運用する組織や国家によって機体の運用思想は千差万別なんだ。オービットの使い方も多少違いは出るだろうよ。」

◽︎箒
「なるほど…ちなみに、オービットは現実世界におけるドローン兵器の発展型に当たるんでしょうか?」

▪︎ナガト
「そうだな。現実世界のドローン兵器ほどのスマートさは無いが、使い捨てではなく戦闘機並みの戦闘力を有している。
 だからIS系やEOS、攻撃ヘリコプター、戦闘機などに搭載されているな。」

◽︎箒
「なるほど…。ではタキオン兵器はどんなものなんですか?」

▪︎ナガト
「現状公開できる情報は限られてるが…まぁ、今回使われたタキオンブレードについて解説しようか。」

◽︎箒
「タキオンブレード…雪片弍型のことですね?」

▪︎ナガト
「ああ。タキオンブレードとは、タキオン粒子を加速させ、対消滅エネルギーのブレードにして叩きつけ溶断する兵器だ。本家零落白夜やその派生型が該当する。」

◽︎箒
「…そしてタキオン粒子を使う以上、汚染も発生する…と。」

▪︎ナガト
「その通り。だから強制停止機能が搭載されていて、だいたい90秒で機能を停止。30秒間のクールダウンを要するというものだ。
…まぁそれは長時間使用後に限る話であって、数秒間のブレード展開程度であれば、クールダウンは不要だ。」

◽︎箒
「射程の短さと汚染の危険性を度外視すれば最強の兵器ですね。」

▪︎ナガト
「ああ。んでまぁ、どういうわけか日本企業の独壇場になっている…。
 ・倉持05式光波展開刀《雪片》
 ・NR-Ⅸ式光波展開刀《巻雲》
 ・NR-Ⅹ式光波展開槍《積雲》
 ・NR-ⅩⅨ式光波展開刀《雪片弍型》
 ・NR-ⅡⅩ式複合斬機刀《叢雲》
 ・巌崎16式加速粒子穿孔刀《燐灰》
 ・GE-TBM1《ブレードライナー》
…こんな感じで。」

◽︎箒
「そらミサイルやレーザーの発達した時代にブレードが求められるのってコラテラルダメージの許されない我が国くらいでしょうし…」

▪︎ナガト
「ま、そうだな。…ではまとめるとしようか!」

◽︎箒
「はい!オービットは、
 ・思考操作と、それを補う自立型システムの併用型兵器。
 ・思考操作モードは一対多戦用で自立型モードは一対一戦用。
 ・ドローンみたいに使えるので案外機動兵器や航空機で幅広く使われている。
 …こんな感じでしょうか。」

▪︎ナガト
「うむ!タキオンブレードは、
 ・タキオン粒子を加速させ、対消滅エネルギーブレードにして攻撃する兵器。
 ・長時間使用は90秒が限界で、それを過ぎると30秒のクールダウンを要する。
 ・何故か日本製が多い。
 こんなところか。」

◽︎箒
「次回はとうとう私とナガトが模擬戦しますね!」

▪︎ナガト
「何気に物語初のアライズ対アライズ戦だな。」

◽︎箒
「絶対負けませんからね!ギャフンと言わせてあげます!!」

▪︎ナガト
「ははっ、気合い充分だな。では、また次回!」

…次回もよろしくお願いします。
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