インフィニット・ストラトス・アライズ-Dominater of Battlefield-   作:天津毬

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なんとなく初めてめちゃくちゃ長くなってしまいました。
鈴のとこまで行くだけなのになんでこうなった()

…それでもよろしければ見て行って下さい。





#06 クラス代表決定

日本帝国長崎県五島市浜町

男女群島・国連直轄領トキオ自治区セントラル区

IS学園1年1組

 

「ということで、一年一組代表は織斑一夏くんに決定です────1繋がりで良い感じですね。」

 

翌日のホームルーム────山田先生はそう告げた。

…その結果に女子達は歓喜し、一夏はポカンとする。

 

「先生質問です。俺は昨日の試合に負けたんですが…」

 

────なんでクラス代表になっているんですか。そう、言外に問いかける。

 

「それは────」

 

言いかけて、山田が目配せする。

…応えるように、

 

「────わたくしが辞退したからですわ!」

 

────セシリアが立ち上がり、そう告げた。

 

「確かに貴方は、わたくしとの勝負には負けました。ですが、昨日も申した通り────わたくしにあそこまで切り込む事が出来た。…それだけで、貴方をクラス代表に据えても問題ないだろうと判断した。だから辞退したのです。」

 

口にする様は優雅そのもの。

だが、内容は一夏の努力に対する称賛と自身をギリギリまで追い詰めて見せた事からの実力に対する信頼なのだろう。

意思があり、実力も伴っている。

────ならば、クラスを率いるに相応しい。

少なくともセシリアはそう判断したのだ。

 

「え…で、でも俺…適正ランクDだぞ?オルコットの方が上のAランクじゃないか。

適正が上で、経験があるオルコットの方が相応しいんじゃないか?」

 

一夏が思わず問い返す。

 

「た、確かに…」

 

「クラス代表がランクDって言うのは…」

 

続く様に女子達も口にする。

IS適正ランクによる優劣関係の偏見。

ヴァルキュリー────コンペート乗りに対する別称────によく見られる風習だ。

旧コロニア時代から適正ランク至上主義だったコンペートは、適正ランクに応じて生活の質を約束されていたという。

今はその様なものは無いが、高い適正ランクであればあるほど偉い、優遇されるべき────という風潮は健在だった。

────その流れを断つように。

 

「現段階のランクなぞ、アテになるまい。」

 

────箒が口を開く。

ヴァルキュリー達の適正ランク視感はとうに破綻している。

ヘズナル────アライズ乗りに対する別称────として、アライズに携わってきた身としては、オリジナルナンバー達によって『IS適正が(ゴミ)でも戦闘の専門家たる実力者であれば、適正ランク等あって無いに等しいモノ』である事実が打ち立てられた話は身に染みて感じていた。

────周囲から向けられる、非難の視線。

それに抗うように、箒は立ち上がり、

 

「所詮今の私達は未だ乳歯も抜けないヒヨッコだ。なら、実際に結果を残した者を優先するのは道理に適っている────少なくとも、私もそう考える。」

 

────そう言い放つ。

…どれほど適正が高かろうと、扱う力が未熟では話にならない。

そしておそらく、一夏が努力だけで自身を肉薄した事で、セシリアもその事実を受け入れたのだろう。

彼女は箒を見て、強く頷いて見せた。

 

「ふむ、言っている事は最もだが────」

 

ふと、教室の支配者が声を漏らし、

────スパーン!スパーン!

出席簿が、箒とセシリアの頭蓋に直撃する。

 

「────今は私の管轄時間だ。座れ。」

 

そう言い放ちながら教卓横に立ち────

 

「一年一組のクラス代表は織斑一夏────異存はないな?」

 

────問いかける。

それに向けられた返答は、様々な思惑はあれど、満場一致の賛成だった。

 

「参ったな…強制かよ…。」

 

ガクリ、と一夏は項垂れる。

そこに、クラス代表として挨拶くらいせんか────と追撃の出席簿が入る。

ぐう…とどう言おうか、一夏は喉が詰まる。

だが箒は一夏を慰める様に、褒め称える様に。

 

「悲観する事はない────苦難があれば、また支えてやる。だからこの瞬間くらいは素直に誇ると良い。」

 

────そう告げる。

そこには、ただ気の強いだけの幼馴染の影は無く、母性を孕んだ少女の姿だけがあった。

…そうだ、それに。

一夏は思い出す。今日まで支えてくれた人達。

その人達の為にも、裏切れない。

退路は無いが、同時に背中を押して支えてくれるヒトがいる────その事実を認知して。

 

「────…、一年一組クラス代表として、頑張って行きます。…ので、よろしくお願いします。」

 

単調でテンプレートな挨拶。

だがそこには、入学当初の優柔不断な様はなく、少し成長した、芯のある声をした一夏がいた。

────応える様に、拍手が教室に充満した…!

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

IS学園・グラウンド

──── 1限目・実機演習

 

閑話休題(それはそれとして)

そこにはISスーツ────見た目は全身のボディラインを強調する紺色のフライトスーツ────を着た1組の少女たちと一夏。

そこに千冬が、号令をかける。

 

「これより1組の実習を行う────おい織斑。今は"やすめ"の姿勢だ。前を隠すな。」

 

「ッ、は、はい────…!」

 

一夏は全身にピッチリ吸い付くフィット感のせいか、全身がISスーツで締め付けられているが、同時に男性器と尻がやたらと締め付けられてそれぞれ強調されてしまっているらしく、凄まじく赤面している。

 

「きゃー織斑くんったらオトコノコー♡」

 

「あらやだ、結構可愛いちんちんじゃない?」

 

「ふへへ…お尻のラインも綺麗…撫でて揉みしだきたいデカ尻だワ…♡」

 

(────この変態共め。)

 

そんなISスーツとは対照的な、耐G機能を備えた作業着(ツナギ)のような外見の、カーキ色の軍用ISスーツ(フライトスーツ)──── 16式航空服(帝国陸上自衛隊仕様)を着込んだ箒は内心毒付いた。

 

「騒ぐな馬鹿者────これによりISによる基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、篠ノ之、ためしに飛んでみろ。」

 

「え?!わ、私もですか!?」

 

千冬の発現に箒は驚愕する。

────それは他の生徒も同様だ。

 

「そうだ、形はどうあれ、一応は専用機持ちだからな。」

 

さも当然────と千冬は言うが、箒は困惑を隠せない。

箒は確かに専用機を持っている。

だが────それはアライズだ。

前日の模擬戦に隔壁でアリーナの闘技場を密閉してタキオン被曝対策まで行っていた辺り、汚染問題を考えれば、千冬の発言は正気の沙汰ではなかった。

 

『────まぁ、問題無かろうよ。粒子装甲を出さん限り、基本的にはエンジン内のフィルターがタキオン粒子の毒性を中和してくれるからな。』

 

ふと、外部スピーカーを通して響いたであろう声。

その音源に、生徒全員が振り返る。

一同の視線の先には────巌崎重工製A-CIS-EOS(エイシズ・イオス)03式強化外装甲機【打鉄壱型丙】が展開していた。

打鉄壱型丙(エイシズ・イオス)────コンペディション・インフィニット・ストラトス【打鉄】をベースに開発された次世代型EOSであり、大まかな性能としては、男女問わず、凡人でもコントロール可能なアライズのダウングレード・モデルと言ったところだった。

…現状、コンペートは搭乗者を女性に限定するという問題から。アライズはその運用に汚染を撒き散らすという問題から。

────主力機動兵器は、EOSのままだった。

だからこそ、EOSもアライズやコンペート同様、進化するというもの。

────そのうちの1機が学園に配備されたのだろう。箒はそう判断した。

…というかそれ以上に。

 

「えッ…?!ナガト!?」

 

ナガトが打鉄壱型丙に乗っている事に驚いた。

いやまぁ、警備課にいるし、エイシズ・イオスは男も乗れるから不思議は無いのだが。

 

『おう、俺だ。というわけで雷火をトレーラーで搬入して来た────行ってこい。』

 

「そういう事だ。ボサっとするな。」

 

「────ッ、はいっ!!」

 

ナガトと千冬に促され────箒はトラックの方に駆けて行った。

 

「…で、八雲。今は私の管轄時間なのだが?」

 

『失礼────グラウンドの警備業務に戻る。』

 

ナガトはそそくさと、照準をグラウンド外縁へと向けた。

同時に、トレーラーの荷台が垂直にせり上がり、ガントリーロックに固定された雷火が顕現する。

慣れた手つきで雷火のコックピットブロックに箒は飛び込むと────

 

「────システム起動。対Gジェル注入開始。」

 

────生体認証(バイオメトリクス)スキャンと口頭操作で、システムを起動させる。

彼女の視界────アライズと接続することによって網膜上に展開された仮想視界の先に、グラウンドの風景が映る。

 

『────箒。何度も言うが、粒子装甲は使用禁止だ。』

 

秘匿回線(プライベート)通信でナガトが箒に告げる。

 

「はい、分かっています。」

 

『うむ。あと、生徒からは僅かに距離を取るよう心掛けろ。汚染が極めて低いとはいえ────それはアライズだ。

何事に対しても、慎重にあたれ。』

 

事故を起こした場合、この場にいる全員がタキオン被曝で死ぬ────そう、ナガトは言外に告げていた。

 

「────肝に、銘じます。」

 

その意図を汲み取った箒は、強張った声でそう返す。

ふと、視界にて、蒼のコンペート────ブルーティアーズが起動する。

流石の起動処理速度。

流石は天才か。それは箒も惚れ惚れする速さだった。

────負けていられないなと、無意識に対抗心を箒を燃やした。

心臓部のタキオンエンジンが火を灯し、生成されたタキオン粒子によって莫大なエネルギーが即座に大量生産される。

それらはアクチュエータ複雑系(ACS)を通して全身に行き渡り、やがて雷火のバイザーアイセンサーが爛々と輝き出す。

ずくんっ、と────自分の内側から、異なる何かが快感となって産まれたような錯覚。

────その一瞬を経て、雷火は起動する。

 

「雷火────起動、完了。」

 

脳に流れ込む、フィードバックデータの嵐に喘ぎながら箒は告げる。

────この程度で煩悩を感じる程度ではまだまだ下っ端だと、自らを叱咤する。

…厳密には、違う。

それはコンペートの起動方法とアライズの起動方法の違いだ。

コンペートは、ただISスーツと脳波計測装置を機体と同調させるだけ。

対して、アライズはまずスーツ内を耐Gジェルで満たし、次にISスーツの生体デバイス装置に神経伝達信号測定針が脊髄に打ち込まれ、機体と脳髄を直結する。

そうした複雑な工程を経て、ようやく鋼の巨躯に命が吹き込まれる。

それだけ起動までに行程があれば、差が出るのは当然だ。

だが────機体のせいにするのは、納得いかない箒はやはり対抗心を燃やしてしまう。

それは人のサガというものだろう。

 

『────で、いつまで貴様はかかっとるんだ貴様は。もうオルコットも篠ノ之も起動したぞ。』

 

呆れ顔で千冬が一夏の方を向いて言う。

…確かに、未だ白式は起動していない。

 

『集中して起動できんなら、口でやれ。』

 

『────動け、白式。』

 

一夏がそう呟くと、白式は2秒足らずで起動する。

それに安堵する様な息遣いが通信越しに聞こえる。

 

「遅い。熟練のIS乗りなら1秒とかからず起動できる…まぁ、例外はあるがな。」

 

だが千冬がその、少し調子に乗っているような織斑に切り込むように言い、次いで箒────雷火(アライズ)を見る。

 

『よし、飛べ』

 

そう言われ、3機は足を曲げ勢いよい良くその場でジャンプするような形で垂直に飛び上がる。

────速度はざっと、時速400キロ。

しかし、やはりというべきか。

代表候補生たるセシリアが2人よりも頭上に飛び、ある一定の高さに静止する。

箒も胸部に内臓されたJ-fA(ジェット補助推進)システムを点火。

…少し強引に機体を停止させ────反重力力翼を展開。

そうしているうちにオルコットは空中巡航を開始しグラウンドの周りを旋回し始めた。

 

『篠ノ之、オルコットに追いつくように飛んでみろ。』

 

そうインカムを手に持った織斑先生が言ってくるのでオルコットの後を追う。

喰らいつくことは簡単だが、できるだけタキオン粒子の中和限界域を超えない様に意識しながら、機体を前に出す。

 

『あら?私のお尻にくぎ付けにされたのかしら篠ノ之さん?』

 

「…追い越して、そんなバカなことを考えていない奴だと証明してみせます。」

 

あの試合以降オルコットは強張っていた表情が柔らかくなり、高慢な態度が緩和せれていた。

時には今のように冗談を交えるくらいだ。

────だが今は、追い抜く事が最優先だった。

 

「ふッ────!」

 

スラスターを点滅させるように高出力で瞬間的に吹かして一気に加速。

続け様に、その流れに乗りもう一度点滅させるように高出力で瞬間的に吹かす…!

二段瞬時加速────箒の十八番(オハコ)だった。

それはセシリアを悠々と抜き、前後を逆転させる。

しかし粒子装甲によって空気抵抗を相殺していない状況下で時速4000キロ────マッハ3にまで加速したせいか、機体が軋む。

…非粒子装甲展開状況下では、多用出来んなと、箒は内心思う。

更に言えば、そのまま減速し────セシリアと並列してしまう。

 

『まだまだでしてよ』

 

「…むぅ。」

 

────セシリアに言われ、箒はバツが悪そうに口を尖らせる。

…確かに、持久力の無さは前回のナガトとの模擬戦で露呈した自分と雷火の課題点。

だと言うのに、また同じ過ちを踏んでいる。

────迂闊だった。

 

『なんでお前らそんなに速いんだよ。どういうイメージしてるんだ?』

 

ふと、ずっと最後尾を駆けている一夏が聞いてくる。

 

『一夏さん。所詮はイメージ。自分がしやすい方法を模索するのが賢明でしてよ』

 

────セシリアが言う。

確かにその通りだが、それよりもう一歩踏み込んだ説明が必要だろう。

 

「…私としては、他の何かに例えるのがいいのかもしれんな。例えば…飛行機とか。」

 

『いや、ソレとかと同じに考えたら飛ばないぞ、これ。』

 

「飛行機と同じ理屈で考えるのではなく、パッと見た同じ感想を思い浮かべるんだ。例えば飛行機を見て速いって感想を抱いたのなら、そのことを思い出し続ける────そうすれば、自分に反映していく筈だ。」

 

『んー、ポイントはわかったんだけどさ…なんで飛んでいるのか気にならないのか?

こっちは空を飛んでいること自体あやふやだっていうのに…』

 

────まるで、空に堕ちてるみたいだ。と一夏は言う。

なるほどその錯覚は、初心者が陥り易い感覚だ。

それなりに練度を積んだ箒とセシリアからすれば当たり前だが、初心者である一夏に、先程のアドバイスは不正確だったかも知れない。

まずはそう────『水の中を泳ぐつもりで空に浮かぶ事に慣れろ』とでも言うべきだったかもしれない。

 

『説明しても構いませんが長いですわよ?反重力力翼と流動波干渉の話になりますもの。』

 

セシリアが言った瞬間、一夏の頭は理解を拒絶した。

否。理解する意思はあった。

だからこれはそう────脳の処理速度が追いつかなくなったという話。

 

『すまん。また後で頼む、もう頭がいっぱいだ』

 

プスンプスン、と頭がショートした様な顔で一夏は告げる。

 

「────では、また放課後の自習時間で整理するとしよう。だがくれぐれも、アリーナの使用許可申請を忘れるなよ?」

 

…ふと眼下を見下ろせば、グラウンドは遥か彼方に見える。

────高度900メートル。

生徒の集団は胡麻粒の様に小さく、ここがどれだけの高さがあるのかを物語っている。

 

『…っ、チビりそうな高さだ……。』

 

「粗相しても構わないが、寝小便癖まで付けないでくれよ?」

 

『いやしねぇよ!!』

 

────まぁ、実際の所。

ISスーツはコンペート、アライズを問わず長期運用に耐える為に生理的非常用ユニットが複数備え付けられている。

一夏に貸与された男性用コンペディジョンISスーツも股間部の内側は皮膚密着型おむつになっていたりする。

だが、そんなものに頼るなどごめんだ────と言わんばかりに一夏は赤面しながら箒に怒鳴り返す。

それをセシリアはクスクスと笑っていた。

 

『3人とも急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地上から10㎝以下だ』

 

ふと、その場に千冬の無線が捩じ込まれる。

 

『了解です。ではお先に』

 

そう言ってセシリアは急降下をし始めた。

そのさまは鷹が一気に地表のネズミを狩りに行くよう。

しかし地表すれすれのところで機体を反転させ地面に足をつける。

────見事。

あそこまで、自分は綺麗に決めることは出来ないだろう。

だが次は箒の番だ。

 

「では、先に行く。」

 

『ああ』

 

スラスターを蒸し、時速3600kmに加速する。

────0.00002秒。

一気に下に向けて加速しどんどん近くなる地表。ジェットコースターなんて目ではない。もはや墜落寸前の航空機が近いだろう。

────0.00018秒。

モニターに地表何メートルと表示されそれが30mを切ったところで機体を反転させJAスラスターを全開。

…しかし、少し遅かったのか、無理なブレーキは機体のバランスを崩して。

────0.00025秒。

どすん、と。セシリアから30メートルズレた位置に、地面を踏み抜く様に着地する。

…当然、目標は大幅にオーバーだ。

 

(────急降下だからと速くし過ぎた…)

 

失敗した。と箒は思ったが、後の祭りだ。

 

『篠ノ之、地面を凹ませてどうする。急減速と姿勢制御のタイミングを考えろ。あんな超スピードでは失敗して当然だ。…あとで凹ませた箇所を補修しておけ。』

 

千冬がそう言う前に何人かがくすくすと笑っていた。

まぁ、失敗を笑うのは普通なのだがせめてこらえる努力くらいはしてくれと思う。

しかし、今回の失敗は私が原因だ。笑われて当然か。

無理矢理そう言い聞かせ、はい。っと、言おうとし────ハイパーセンサーがけたたましい警報を鳴らす。

────空の方を見上げる。

 

「ちょ、どいてくれぇぇぇぇぇ‼︎」

 

情けない声を出しながら降下────あろうことか減速せずに加速しながら、白式を纏った織斑が落下してくる。

 

瞬間、

 

「皆さん伏せて‼︎」

 

山田が生徒に向けて叫ぶ。

 

「ッ、あの馬鹿────!!」

 

瞬間、箒は雷火のスラスターを全力で吹かし、横深瞬時加速で地面を滑る。

生徒と真耶の前方に立ち、一夏の直撃を防ごうとする。

────刹那。

銃弾並みの速度で飛んで来た打鉄壱型丙が、箒の眼前に立ち塞がり、追加装甲(シールド)を展開────直後、凄まじい爆音と共に織斑は地面に激突し、地面が抉れ、衝撃で地面から幾つかの破片が曲線を描きながら飛び散る。

ソレを、打鉄壱型丙のシールドが、受け止める…!!

がんっ、という音が連鎖し────シールドで砕けた細かな破片が雷火の表面装甲を叩く、乾いた音が響く。

 

「ナガト……!」

 

一瞬箒は、飛び出したナガトに驚きを隠せずだが酷く安堵する。

だが────

 

真耶(・・)!負傷者確認!!』

 

命令系統を無視したナガトの叫びでハッとする。

 

『はい!皆さん名前順に点呼します!────相川さん!』

 

『はっ、はい!』

 

『イェアードさん!』

 

『はい!』

 

山田も、負傷者確認────主に意識不明者かどうかの選別────の為に点呼を開始する。

 

「ッ!そうだ、一夏────一夏!!」

 

『いつつ…』

 

当の織斑はというと、地面に深さ3メートルの大穴を開けながらも、無傷だ。

コンペートの絶対防御さまさま、といったところか。

それに、ほんの少し安堵する。

 

『総員点呼完了!負傷者なし!!』

 

山田が宣言する。

生徒達の側に破片が落ちなかった訳ではない。

だが生徒の方に堕ちた破片は、大半が当たってもほぼ無害なサイズや、千冬が打鉄の刀で撃墜していた事から、被害は軽微だった。

────それに胸を撫で下ろす。

 

『ヒヤヒヤさせる…。ありゃ、また指導が要るかな…』

 

ナガトから漏れた通信。

それに箒は全力で同意する。

今回はどうにか被害がほぼゼロだった。

────しかしコレでは、いつか人を殺す。

 

『織斑くん大丈夫〜?』

 

そんな事は知る由もなく、女子たちは気軽な声で大穴を開けた織斑に話しかける。

 

『誰が大穴を開けろと言った、馬鹿者…っ!』

 

千冬は周りの女子がいるからか抑えているが、顔には明らかな怒気を孕んでいた。

 

『お前の耳が悪いのか?それとも目が悪くて地面が見えなかったのか?一歩間違えば死亡事故に発展していたんだぞ!?』

 

続け様に千冬から放たれる罵倒。

────だが、事実だ。

もし、千冬が破片を防ぎ切れなかったら。

もし、ナガトと箒が防ぎに来なければ。

もし、山田の反応が遅れれば。

全員がギリギリで対応したが故に、死亡事故を回避できた────逆を言えば、そのうちのどれかが欠ければ死亡者が出ていた可能性があるのだ。

その事実は一夏に深く突き刺さる。

 

『…すみません。』

 

ことの重大さを理解したのか、クレーターの中心にいる織斑は項垂れまた背が一回り小さくなったような反省をしている。

 

『…後でヒヤリハット(事故直前認知事例)報告書の提出。それとこの大穴を埋め直せ。』

 

────分かれば良い。

そんな顔を浮かべて千冬は言う。

 

「────。」

 

箒が言うべき事はない。

そも、言う資格もない。

元々、対セシリア戦のアリーナ内での運用に特化した機動スキルを叩き込むあまり、急降下からの完全停止、などといった機動訓練を叩き込んではいなかったからだ。

そういった意味では、今回の事故の一端は箒にもある。

 

「────あの、織斑教官」

 

その事を告げようとして。

 

『思い上がるなよ、篠ノ之。これくらいは出来て当然の話だ。そもそも、参考書を捨てるなどという愚行で完全停止のやり方を理解していなかった織斑が何よりの問題だからな。』

 

思考を読まれているのか、言おうとしていたことに対してカウンターを言われてしまった。

 

『────それに授業はまだ終わりでは無い。…織斑、武装展開ぐらいはできるようになっただろう。やってみせろ。』

 

『はぁ』

 

『教師にはハイ・イイエで答えろ。』

 

『はいっ』

 

『よろしい────ではとっととはじめろ』

 

そういって白式の手に光の粒子が集まり、強大な白い野太刀が光の粒子から現れる。

白式が装備しているタキオンブレード────雪片弍型だった。

────当然の如く、タキオン粒子刃『零落白夜』は発動していない。

 

『遅い、0.5秒台で展開できるようになれ。』

 

やはり辛辣な評価が下る。

 

『篠ノ之、今ある武装をすべて展開してみろ』

 

「はいッ────…あ」

 

次は箒に振られる。

箒は応答したものの、一拍開けてハッとする。

 

「────あの、今ある武装が全てなのですが…」

 

『…なんだと?』

 

箒の声に千冬も訝しむ声で応え、手元の端末で確認する。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

《試製22式機動挺身装備【雷火(ライカ)】》

ーー装甲耐久ーー

粒子装甲:100%

複合装甲:100%

機体骨格:異常なし

操縦者:篠ノ之箒

製造元:日照ライムントヴァルト社

ーーー兵装ーーー

腕部兵装右:NR-ⅡⅩ式複合斬機刀《叢雲(ムラクモ)

腕部兵装左:NR-ⅡⅩ式複合斬機刀《叢雲(ムラクモ)

肩部兵装右:NR-Ⅷ式レーザー発射基

肩部兵装左:NR-Ⅷ式レーザー発射基

背部兵装右:04式改空対空誘導弾/AAM-5Ⅱ

背部兵装左:04式改空対空誘導弾/AAM-5Ⅱ

拡張領域内:NR-F1-7Tタキオンエンジン

      高速イオン速射砲予備弾倉

      AAM-5Ⅱ予備弾頭

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『…なぜ武装が拡張領域に無いんだ?

 まだ近接ブレード程度のスペースはあるだろう?』

 

「これ以上積むと重量過多になりますし、EN供給が追いつかなくなりますから。」

 

なので、最低限リロードする時しか拡張領域からの展開はしない────と。

つまりはそういう事だった。

 

『ならば、リロードだけでも良い。やってみろ。』

 

「了解。」

 

…叢雲、弾倉パージ。

────0.0000001秒。

叢雲の高速イオン速射砲から弾倉が弾け飛ぶ。

────0.0000250秒。

そして箒はソレを。

────0.0000581秒。

 

(────指定展開…!)

 

告げる思考命令。

────0.0001652秒。

定められた座標。

────0.0005874秒。

叢雲の弾倉にエネルギーコンデンサが拡張領域から投影され、

────0.0006012秒。

入れ替わる様に弾けた弾倉が量子化され、拡張領域に取り込まれる…!

────0.0009982秒。

そしてガチャンと音が鳴る。

────0.0010002秒。

 

「装弾完了────撃てます。」

 

箒は告げる。

一夏とセシリアも────それどころか、生徒達全員が、その早業に驚愕していた。

総合計時間、約0.001秒。

そんな早業────否、もはや神業と評するべきか。

ただ3人、千冬と山田とナガトだけが平然としていた。

 

『ふむ、まぁアライズに求められる高速戦闘戦を考えれば、出来て当然のスキルだろうが…どう思う、山田くん、八雲警備官。』

 

『うーん…箒さんの機体相性的には、もう少し早く出来た方が良いでしょうねぇ…。』

 

『悪くは無いが、右に同じだ。まぁ、お前の場合は近接戦しつつ装弾とかもアリじゃないか?』

 

一応言っていることはおかしくはない。

ただオブラートに包んでいるが厳しく辛辣というだけだ。

────ところで何故山田先生にまで聞いたのか、と。箒は疑問に思った。

 

『では次。オルコット、武装を展開してみろ』

 

『はい』

 

そう言われた右手を右斜め下に掲げる。

直後に光が弾けブルーティアーズの目玉である【カデュケウス】レーザーオービットが現れ、左腕からは【インターセプター】レーザーブレードが展開。

そして右腕に、【スターライトMk.Ⅲ】が握られ────

 

『あがぁ?!』

 

『えっ』

 

『あ…』

 

『うわぁ…』

 

────横にいた白式の股間部に鈍い音を響かせる。

一夏は突然過ぎる不意打ちに間抜けな悲鳴をあげる。

セシリアは一瞬理解が及んでいない顔。

箒は全てを察した上で思わず声が漏れてしまい。

ナガトは不意打ちを受けた一夏へと、武装を破損させたであろうセシリアに同情する様に顔を顰めた。

本来銃の砲身で殴るのはいろいろと問題がある。曲がったり、破損したり。

殴るのは主に銃床である。砲身で殴るのはお勧めしない。

 

『あが…しぇ、セシリア…なん、れ…』

 

どうやら衝撃で股間部を打ったらしく、一夏は悶々とした呂律の回らない声で恨めしく声を出す。

 

『す、すいませんっ…!』

 

それに思わず焦りながらセシリアは謝罪する。

 

『オルコット、そのポースはやめろ。当ったのが白式ごしの織斑だからいいようなものの、一般人に当たりでもしたらどうする。正面に展開できるように心がけろ』

 

『……はい』

 

オルコットはがっくりと肩を下し今にもため息がつきそうな顔になる。

 

「む…さて、時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑はグラウンドを埋めとけ。篠ノ之は凹んだ地面を均しておけよ。」

 

そう言われ、箒は思わず体育倉庫にトンボ(地面を均すT字道具)はあっただろうか…と思う。

 

『────箒』

 

「はい?」

 

そこにナガトが────

 

『コレ、使うか?』

 

────打鉄壱型丙の装備していた、ドーザーブレードを差し出した。

ドーザーブレードとは、重量のある鉄塊で打撃を加えることで対象を破壊するという、非常に単純かつ分かりやすい装備だ。

その性質上、空戦などに適していないが、接近戦での使用は可能であり、与える衝撃も大きいということから、パイルバンカーの代わりに扱う猛者もいるという。

…まぁ、本来の用途である土木工事機械として使われる事がもっぱら────なので、

 

「ありがたく使わせて頂きます!」

 

喜んで、箒はソレを拝借した。

 

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

IS学園多目的防災署

────同・地下2階詰所

 

リノリウム製の床が貼られ、壁は塗装した剥き出しのコンクリート。

タバコの臭いが充満し、ボロボロの換気扇が必死に副流煙を吸い込んでいる、昭和レトロな雰囲気の一室。

 

「一坊と箒ちゃん、今頃パーティーですかねぇ…。」

 

臭いと煙の元凶────高木がパイプ椅子に腰掛けながら、吸い終わったタバコを灰皿に突き刺して口にした。

その問いかけた先は、長机を3つ繋げた簡易大型テーブルの向かいで同じくパイプ椅子に腰掛け、ラガービールを一升瓶ごと喉に流し込みながら、白式の設計図を睨みつけているナガトに宛ててだ。

 

「だろうよ。まぁ楽しめてれば、それでいい。」

 

どうせ俺たちは残業だ。と口にしながらナガトは手に持っていた赤鉛筆を耳に乗せ、つまみとして買ったビーフジャーキーの袋を開け、噛み千切り咀嚼する。

…眼下には。

 

▪︎試製22式機動挺身装備【雷火】第一次現地改修型最新再調整第壱甲番拡張領域増設仕様への改修計画に関する要綱

 

▪︎X-02【白式】第二次現地改修型最新再調整第壱乙番零落白夜運用試行仕様への改修計画に関する要綱

 

────その、ふたつのペーパープランが存在していた。

 

「…ところで高木。」

 

「おん?」

 

「この数日間、顔を見なかったが────何をしていた?」

 

「有ー給────。」

 

ナガトの問いに高木はそう答える。

 

「ほう、どう過ごしたんだ?」

 

「んー台湾行って台湾料理満喫────」

 

「ふーん。」

 

────そんな掛け合いをしながら。

ナガトはバルト海の爆発事故に関する記事に目を落とした。

具体的内容としては、ロシア領と、欧州連合領を繋ぐローベルマイヤートンネルにタキオン兵器を搭載した第一世代ISが侵入。

無差別破壊をした挙句、最後はトンネルの中継基地である換気塔・ギアタワーで未確認アライズと鍔迫り合い、最後は大規模タキオン爆発を引き起こしたという話だ。

…色々ときな臭い。

人型に移行する以前の第一世代ISは大半がアラスカ条約違反の代物であり、初期型アライズと共に廃棄されたとされている。

それを手に入れる事は、まぁコネクション次第で可能とはいえ、タキオン兵器を入手する事は容易では無い。

ましてや第一世代ISを、タキオン兵器運用を可能にするよう改造する事など。

…何より、その第一世代ISを撃破したと思しき未確認アライズ。

アライズを製造・管理するには極めて高い技術を求められる。

そしてその技術を持つのはVIC6や常任理事国などの限られた列強国。

…おそらくは、誰かが糸を引いている────…物騒になってきたなと、ナガトは憂鬱な溜息を漏らした。

 

 

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

IS学園・食堂

 

「織斑君クラス代表おめでとう!」

 

「「「おめでとー!」」」

 

寮の食堂であちらこちらでクラッカーが鳴り、紙吹雪や色があるテープが舞う。

一年一組の何人かがこの数日準備していたらしく、織斑の後ろの壁には『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と書かれた紙がある。

食堂には女子があふれかえりそうなほどおり、一組だけではなく先輩や他のクラスの生徒も混じっている。

主役でもある一夏は女子達の行動力に驚きながらもなんやかんやで楽しみつつ────だがやはり、当惑している様子だ。

 

「楽しんでいるようじゃないか。」

 

箒が言う。

 

「いやなんつーか…うん…こういうの慣れてねぇから…」

 

「楽しめるときに楽しんでおけ。────きっと、大切な思い出になる。」

 

────箒はフライドポテトを小皿にとりジュースを手に持ちそれらを口の中に入れながらそう告げる。

他の生徒は思い思いにテーブルにあるものをつまんだり、会話したりと思い思いにはしゃいでいる。

 

「はいはーい。新聞部の黛薫子でーす。話題の新入生、織斑一夏君に突撃インタビューをしに来ました!あとオルコットさんの方も記事にしちゃうよ」

 

そこに、新聞部を称する生徒が乱入する。

 

「では織斑君、クラス代表になった感想をどうぞ!」

 

そう言って差し出されるマイクとそこからコードがつながっているポケットにある膨らみ。

────十中八九ボイスレコーダーだろう。

下手な発言は控えた方がいいらしい。

 

「えーと……なんつーか、その、頑張ります」

 

それを察した一夏は無難なコメントを告げる。

 

「ええ……。もっといいコメントちょうだいよ~。俺はハーレム王になる!…みたいな。」

 

「自分不器用ですから」

 

「うわっ、前時代的すぎる…んー、ああ、セシリアちゃんもコメントいいかな?」

 

「わたくしこういったコメントはあまり好きではないので、ノーコメントという事で。」

 

「え〜…くそぅ、これじゃ記事にならない…。よし、じゃあ最後に────」

 

なんだまだあるのか、と箒が素知らぬ顔をしていると。

 

現時点で(・・・・)1年生唯一のヘズナル(アライズ乗り)の篠ノ之さん。」

 

────声音が変わる。

先程までが猫をかぶっていただけなのか。

あるいは最初から箒を狙っていたのか。

 

「────一夏に関する記事ではなかったのか?」

 

「書ける量が少ないから、急遽変更。ヴァルキリー(コンペート乗り)である私達とは違う立場にいる人間だから、昨日から記事にしたいなって思ってたの。」

 

────どうやら後者のようだ。

 

「貴女に聴きたいことは簡単な話────ズバリ、アライズについて。」

 

「機密事項が多いから絞りカス程度しか話せんぞ。」

 

ピシャリと言う。

しかし、それで食い下がる黛では無い。

 

「いやいや、篠ノ之さんの機体については聴けないなんて百も承知────だからそうね、ココを出たらどうしたいか、って聞きたいの。」

 

────その質問に箒は目を見開く。

入学して1週間程度の人間にソレを聞くかという呆れと。

将来を明確にしているか、試されている事実に。

 

「…私は。」

 

一瞬言葉が詰まる。

────民間人に戻る、という選択肢もある。

むしろナガトもそれを望んでいる。

だが、

 

「────私は、今の仕事を続ける。」

 

「えっと────なんで?」

 

「────こんな時間(・・・・・)を、遺して行きたいから。」

 

ちらりと、パーティーではしゃぐ女子達を見て言う。

一瞬、薫子は発言の意図を理解出来なかった。

 

「今は、いつこんな馬鹿騒ぎが出来なくなるとも分からない時勢だ。────だから馬鹿騒ぎができる程度には平穏で、当たり前の日常を、私達の子や孫の代まで遺して行けるように、私は国防に従事しようと考えている。」

 

その顔は迷いのない、純粋な心で言い放った。

隣に座っていた一夏とセシリアも、箒の言葉に心打たれた様で、目を見開きつつも感心した様な声をしている。

 

「…ご家族さんは反対しない?」

 

「…幸い、私の家族は再構築戦争でみな死んでる。ただ、育ててくれた自衛官の義父は、猛反対するだろう。『真っ当なサラリーマンとかと結婚して一般人に戻ってくれ』とでも言う顔が目に浮かぶ。」

 

「ふむ…でも、理由はそれだけ?」

 

それに苦笑しながら箒は応えるが、薫子の質問にすぐに神妙な顔になり────

 

「────まぁ、そうだな。私的な意志も、多少はあるかも知れん。義理の父親を放って置けないからな…。」

 

「────ひょっとして篠ノ之さんファザコン?」

 

「父親想いと言ってくれ。」

 

思わず、ムッとする。

────だが、確かに。それは確信を突いたかも知れない。

箒は少なくともナガトを半分は父親として。

もう半分は────異性として、見ているから。

だからコレはある種、不建前と糾弾されても仕方ない話だ。

だが、それでも────

 

「義父には再構築戦争で救われて、育ててくれて、支えてくれた恩がある。」

 

────『死なないで、帰って来て』

────『お願い負けないで、生きて』

ふと、10年前の自分の声が脳裏に浮かぶ。

ただ出撃するナガトの背中を見る事しか出来なかった自分。

ただナガトの生還を祈り続けるしか出来なかった無力な自分。

帰投する度にボロボロになり、血を吐いたり骨を折ったり腹に風穴を開けられたりしたナガトに泣きながら抱きついていた、弱い自分。

そんな自分でも、必ず恩を返せるようになりたい。

 

「…だから、そんな義父に恩を返せるよう、強くなりたい所存だ。…以上。」

 

再び迷いのない顔で告げる。

フムフムと相槌を打ちながら薫子はメモを取る。

 

「ねぇ篠ノ之さん、また話聞いても?」

 

「────気が向いたらな。」

 

…それでインタビューは終わりだった。

 

「ん。お話ありがと。じゃ3人とも並んでね。写真撮るから。」

 

「「「え?」」」

 

思わず箒のほかに、一夏とセシリアも驚きの声を上げた。

 

「注目の専用機持ちだからねー。3人の手でクロス握手とかしてるといいかもしれないから、やってもらえるかな?」

 

「私は別に良かろう…」

 

「そうですか……あの、撮った写真は当然いただけますわよね?」

 

面倒くさい…と箒はブツクサ言い、セシリアは半ば嬉しそうに問いかける。

 

「そりゃもちろん」

 

「でしたら一夏さん、箒さん。早くやりましましょう。ほら」

 

「お、おう」

 

「やらねば駄目か?」

 

「せっかくですから」

 

そう言われてオルコットと握手をし、互いの片手を織斑が手を繋ぐ。

幼馴染。

好敵手。

憧憬対象。

そんな関係の3人はカメラに視線を移し────

 

「それじゃあ撮るよー。155×96÷7440は?」

 

「2ィ────」

 

そして、気が付いた瞬間には写真を撮る前に食堂にいた全員がフレームに入ってくる。

 

「なぜ全員はいってますの!?」

 

「まぁまぁ、セシリアだけ抜け駆けはないでしょ?」

 

わいのわいのと宴の盛り上がりは衰える事を知らない。

この後もカラオケ大会、ビンゴゲームなどのイベントが続き、夜10時まで続くのだった…。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

 

IS学園職員用団地2号棟201号室

 

「────で、楽しかったか?」

 

病的なまでに火照った顔────間違いなく酔っている────のナガトが箒に問いかける。

隣には、ビール瓶6本とYEBISUビール缶が18本、加えてアカヒビール缶が10本。

完全に酒盛りをしていた後だった。

 

「はい!…そして疲れました…」

 

────ナガトも私が居ないからと言ってお楽しみだったようで。と言外に言い放とうとするが、もはや疲労困憊。

そのまま箒は布団に身を沈める。

 

「おい馬鹿、制服にシワつくだろうが。寝巻きに着替えてから寝ろ。」

 

「う〜〜〜…」

 

「う〜じゃねェ。着替えろ、デコピンすっぞ。」

 

中指と薬指を親指で弓を引くように力を込めて箒に向ける。

…ナガトのデコピンは強烈だ。

以前食らった経験から、箒は渋々寝巻きのあるタンスを開き、着替えに入る。

 

「あと仕切りくらい閉めろ。」

 

「良いじゃないですか、家族なんだし。」

 

「イヤ年頃の女子がンな破廉恥なのは良くねェンだわ。」

 

「はいはい────」

 

ナガトの説教が始まる前に箒は障子を閉めて────

 

「────え?」

 

驚く声がした。

箒が寝巻きを入れているタンスを引くと、中には紫陽花柄の藍色の着物と魚鱗柄の赤い帯が入っていた。

確かずっと前、箒が欲しいなぁと言っていて、そして値段を見て諦めたものだ。

…この、荒廃した世界で着物を調達しようなど、中々難しい話だ。

仮に通販サイトで販売されていても、平均的な国民年収ではとても手が届かない────。

 

「っ、ナガト…これ…」

 

思わず、障子越しに声をかける。

箒が購入した覚えはない、なら、これを買ったのは────

 

「────知らん。」

 

否定の声。

だがこの場においてその返答は、シラを切るというもの。

障子の角から、ナガトの方を伺う。

 

「俺は何も……知らん────。」

 

箒に背を向け、頸から耳まで真っ赤にしたナガトが視界に映り────答え合わせだった。

私はまだ、ナガトに甘えさせて貰っている…。

嬉しいような、恥ずかしいような。

16歳にもなる身だ。そろそろ金銭面くらい、自立しなくては。

だけど、今は素直に────

 

「ナガト────ありがとう。」

 

…そう、呟いた。

 

 

────その日の夢は、何故だか昔の事を思い出した────

 

 

ごうごうと、燃えている。

街の中、爆音と共にビルが燃え上がり、火の手が至る所から上がる。

死体の海の中で、父親の残骸(・・・・・)を抱いて、箒はそれを呆然と見上げていた。

破壊を撒き散らすISと、それに蹂躙されるEOS達。

ISが圧倒的に優勢であり、勝利は確定していただろう。

だが────砲声と共に、イレギュラーが舞い降りる。

全身装甲のIS ────アライズ【ヴァハフント】が。

自分達の手札から駆り出された切り札(ジョーカー)は、次々とISを叩き潰し、押し潰し、血霧に変えていく。

────箒はその光景に、高揚した。

 

その切り札の一人になれるならと、箒は口車に乗せられ人体実験に身体を差し出した。

 

ソレを見た彼は激怒した。

子供に何をしてやがると、怒り狂い、研究員を半殺しにした。

 

彼と初めて一夜を過ごしたあの日。

もうお前はここにいろ。純粋無垢な子があんなのに関わったら腐っちまう。

彼は宥めるように抱きしめて言う。

そうではない。

私は純真でも無垢でもない。

幼稚な篠ノ之箒は、あの戦いで死んだ。

私は最低な女なのだ。

家族である事を願いソレを押し付けて、彼を戦場に奮い立たせるための女になってしまったのだ。

私はその日、両親が死んでも流さなかった涙を流して泣いた。

自己嫌悪────あるいはそれは、第二の産声であったのかもしれない。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

────翌日。

 

「ねえねえ織斑くん。今日2組に転入生が入ってきたんだって」

 

パーティー明けの朝。

未だ疲労の取れない一夏に女子が話しかけてきた。

その内容に一夏は眉を顰める。

 

「転入生?この季節にか?」

 

「うん。何でも中国大陸の方の代表候補生らしいよ」

 

「それより一夏さん!代表戦の方、だいじょうぶですの!?」

 

「勝ってね!織斑君!」

 

「デザートのフリーパスが待ってるから!」

 

「それなりに出来てるから。だから本番でへましない様にするさ」

 

こんな風に女子が詰め寄るため、一夏はアハハと笑って場をごまかす。

 

「────慢心はするな。今日も放課後の特訓をするぞ。」

 

そこに、箒が釘を刺す。

わざわざ代表候補生を送りつけて来たのだ。

ならば専用機の1機、与えられていてもおかしくはない。

 

「でも専用機持ってるのは1組だけだし、余裕だね!」

 

そう言って盛り上がる女子達だが、この時開いた扉に音に反応してほぼ全員がそっちの方を見る。

 

「その情報、もう古いよ」

 

そこにいたのは身長が150ぐらいでツインテールにした髪の毛を持ってる女子であった。

 

「凰鈴音────イギリス連邦香港(・・・・・・・・)国家代表候補生よ。」

 

 

 

 

 

 






〜あとがき〜

◉ナガトと箒のナゼナニ劇場⑧

◽︎箒
「今回新規ワード多くないですか?」

▪︎ナガト
「多い。順に解説して行こう。
まずヴァルキリーとヘズナルについて。」

◽︎箒
「ヴァルキリーは原作的にIS乗りを指すと言うのは分かります。千冬さんも散々ブリュンヒルデって呼ばれてるし。だからなんとなく察しが付きますが、他2つは…」

▪︎ナガト
「うむ、ではヘズナルについて。
 一応はアライズ乗りの別称。名前については、古ノルド語…つまりはドイツ語の前身にあたる言語だな。その言語で《狼の皮》を意味する《ウルフヘズナル》から来ている。
 さしずめ、【狼の皮を被る者】といったところか。」

◽︎箒
「ふむふむ。では名前以外には特には無いと?」

▪︎ナガト
「そうだな。元々はヴァルキリーに対抗して作られた枠だ。差して意味はない。
 …では次だが────どれにするかな…」

◽︎箒
「あ、ではA-CIS-EOS(エイシズ・イオス)について!」

▪︎ナガト
「ん。了解だ。そもそもだが箒、この世界における主力機動兵器はなんだと思う?」

◽︎箒
「え?…これだけアライズやコンペートが普及しているんだから、ISでは…」

▪︎ナガト
「うーん、正解だが、不正解かな。」

◽︎箒
「え?」

▪︎ナガト
「コンペートはそもそもVIC6基準にはなるが、戦力としてカウントしていない。そしてアライズは、打てる手を出し尽くした最後に投入される最終戦略兵器。だから厳密には、ISは世界の主力機動兵器では無いんだ。
片や女しか乗れない不具合、片や致命的な汚染を撒き散らす欠点。それら問題があり汎用性に乏しいが故に、どれだけ高スペックだろうが限定運用兵器となってしまうんだ。
…特にアライズは、戦線が致命的なまでに回復不可能…つまりは何もかも手遅れになってからようやく投入される。ではそれまで戦線は誰が維持するんだって話になっちまう。」

◽︎箒
「…確かに。」

▪︎ナガト
「そこで登場するのがEOSだな。EOS自体は冷戦時代に開発された兵器であり、既存の戦車や戦闘ヘリ、航空機とも兵站連携が取れ、何より誰にでも動かせるという点から、主力兵器として運用されている。
 他にも、旧式化したモデルは民間用に再設計・再生産され、建築現場や消防、インフラ設備点検など、幅広い分野で活躍している。」

◽︎箒
「なるほど、つまり私達の生活は、EOSが地道に頑張っているおかげで成り立っているんですね。」

▪︎ナガト
「正確には、それを扱っている人間のおかげだな。
 …で、近年コンペートを用いたテロが増加傾向にあるのはプロローグの東京同時多発テロや第2話のフランスを見れば分かると思う。」

◽︎箒
「はい。特に日本は都市部テロやゲリラコマンドには警察が対応することになっていますが、コンペートは腐っても機動兵器。一筋縄には行きませんもんね。」

▪︎ナガト
「そこで生まれたのがA-CIS-EOS(エイシズ・イオス)って訳だ。
 …端的に言うと、コンペートの機能を搭載したEOSと言ったところだな。
 EOS最大の悩みは足の遅さだ。EOSをベースに開発されたアライズはタキオン粒子でソレを誤魔化しているが、ソレが無いEOSはお察し。
 だからA-CIS-EOS(エイシズ・イオス)はコンペートの反重力力翼と流動波干渉技術を基にした非タキオン型新基軸推進システムを組み込んで、機動力と空戦能力を上げたって話だ。」

◽︎箒
「なるほど…。ちなみに武装はどうなんでしょう?」

▪︎ナガト
「武装は当然だがアライズや既存EOSと共通規格化されているので共用だ。
 もっとも、今回のドーバーブレードの様にEOS系列でしか取り扱わないであろうモノも存在するが────まぁ、こんなとこだろう。
 これから運用されていく兵器なんだ。今後に期待するとしよう。では、締めと行こう。」

◽︎箒
「はい!まずヘズナルから!
・コンペート乗りであるヴァルキリーに対抗して作られた枠。
・語源は古ノルド語のウルフヘズナル。
・意味は【狼の皮を被る者】。
こんなところでしょうか。」

▪︎ナガト
「うむ、次はA-CIS-EOS(エイシズ・イオス)
・増加傾向にあるISテロに対応するべく開発された次世代型EOS。
・反重力力翼と流動波干渉技術を基にした新基軸推進システムを組み込んで、機動力と空戦能力を向上させている。
・武装は基本的にアライズや既存EOSと共用。
・今後の活躍に乞うご期待。
…こんなところか。」

◽︎箒
「次回は例の失言事件ですかね?」

▪︎ナガト
「分からんぞ?存外、俺達の知らないところの話が捩じ込まれるかも知れん。」

◽︎箒
「一寸先は闇────ですね。ではまた次回!」


次回もよろしくお願い致します。


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