トプロside
それを見つけたのは普段使いの日用品を商店街へ買い出しに出掛けた時でした。
皆さんはアドマイヤベガさんというウマ娘をご存知でしょうか。
いえ…おそらく知らない人はいないでしょう。
煌めく流星のような走りで色んな人を魅了する孤高でクールなダービーウマ娘…それがアドマイヤベガさんであり私の尊敬するウマ娘の一人です。
そう…アヤベさんは
クールなウマ娘さんなんです…
だから私は、ナリタトップロードは目の前の光景にすごく困惑していました…
商店街のなかを手提げのエコバックを片手にルンルンとスキップしながら歩くアヤベさんを見つけたときは…
アヤベside
「ふんふふんふふ〜ん♪ アヤベは晩ごはん何がいい?」
(私はなんでもいい…カレンさんに聞いて。)
「了解!ふんふふ〜ん♪」
今喋っている私は私であって私ではない…私に取り憑く不思議な存在がその言葉を紡いでいる。
彼の名前はデネブ…それしかよく分かっていないけれど付き合いはそれなりに長いつもり…
彼との出会いは私の子供の頃に遡る…
その時私は妹の事を聞いたばかりで…
いつも公園で泣いていた…
「ひっく…ぐずっ…うぅ……」
「どっ、どうしたんだ?どこか痛むのか?」
背後から声が聴こえる、心穏やかな老年のような声で何故かひどく心が落ち着くのを感じた。
声の主を確かめるために振り返ろうとすると…
「あぁあ!ダメだ!振り向いちゃいけない!君はきっと俺を見たらびっくりすると思う…あまり怖がらせたくないんだ…」
まだ幼かった私はその言葉の意味を測りかねていたのだけれど、見られたくないなら無理に見ようとは思わなかった私はそのままの態勢で涙の理由を話していた。
「…うぅ…うっ…それは…かなしいなぁ…っ…ううぅ…」
私の話を聞いた声の主は悲しみを訴えた。見せ掛けの悲しみではないその様子に私は心を解かれ、思わず心中を吐露する…
私が生きていていいのかと…私が代わりに死んでしまえば妹は生きることができたのではないかと…
「それは違う!たとえ妹さんが生きることができたとしてもそこに君がいなきゃなんの意味もない!君が今感じている悲しみを妹さんに背負わせることになるはずだ…それはきっとすごく悲しいことだと思う…」
その言葉は悪く言ってしまえばとても月並みなものだったけれど本気で私を慮った言葉であることは幼いながらに理解できた。
「 そういえば自己紹介がまだだ、俺はデネブ!よろしく!」
「わたし…アドマイヤベガ…」
「珍しいけど凄く綺麗な名前だ!
じゃお近づきの印に…ああっ!?」
彼が突然大きな声を出す、それはまるで大事なことを失念していたことに気付いたような声色だった。
「ダメだ〜!!この状態じゃデネブキャンディを取り出せない!せっかく元気づけようと思ったのにぃ…」
その言葉の不可解さに私は首を傾げる、一体自分の懐から物を取り出せない状態とはどのようなものだろうか?
逸る好奇心を我慢できず私は振り向いて彼の状態を確認した…
そこには上半身と下半身が反転した砂の化け物がうんうんと頭を抱える姿があった。
「う〜ん…ん?…あっ!こっちを見ちゃダメって言ったじゃないか!こんな姿怖いだろう…?」
「ねぇ…デネブおじさん…」
私は彼のある種の恐怖を孕んだ問いかけを無視し、その代わりに自分の問を投げた。普通なら恐ろしいはずなのに不思議と恐怖は感じていなかった。多分今までの会話で彼の人となりを理解していたからかもしれない。
「それ、苦しくないの?…不便だったりしない?…」
「え…?…あっ…あぁいや苦しいわけじゃない…多少不便ではあるかもしれないが…」
「わたしに…できることはある…?」
「…あぁ…いや…う〜ん…」
答えを渋るデネブ、方法はあるが私に答えるのは気が引けるといった様子だ…だが私は彼を見つめ続ける、私の意志が固いことを言外に伝えるために…
「それは……いや…やっぱりダメだ!君にそんなことさせられない…!俺のことは気にしなくていいんだ…」
「おねがい…おじさんのちからになりたいの…」
「…契約を…してくれればいいんだ…願い事を聞かせてくれればそれで契約は完了する……でもいない人に会わせるなんてことはできないんだ…すまない…」
彼の危惧の理由が理解できた、彼は私が安易に契約をすることで傷つくことを恐れたのだ…だけど…
「だいじょうぶ…むりを言ってこまらせたりしないわ…だから…」
「てつだってほしいの…わたしがいもうとに…あの子にほこれるおねぇちゃんになるのを…」
「…ッ!…うっ…うぅ…わかった!契約成立だ!いつかは別れる時が来るけど…その時までは君をずっと助け続ける!頑張ろう…!」
すると反転して分かれていた上下の半身がしっかりと繋がり、砂の虚像で出来ていた彼の身体はしっかりとした実体を形成した。
色づいた彼の手に自分の手を重ねる…その大きく鋼のような手のひらからはその質感に似合わない不思議な暖かさを感じたのだった…
それからはあっという間で…デネブが家族の一員になってからはそれこそいろんなことを助けてくれた…時々お節介すぎる時はあったけれど…彼にはとても感謝してい…
「あっ…あの…アヤベ…さん…?」
「おおっ!!トップロード!すごい偶然じゃないか!」
…!!?!…まずいわ…
トプロside
意を決して話しかけたは良いものの少し言葉が詰まってしまった。だって目の前のアヤベさんがアヤベさんだと認識するのにすこし時間がかかってしまいましたから。
アヤベさんはいつもは白いスカーフで纏めていたさらさらの鹿毛を解いて惜しげもなく晒していてそして緑のメッシュとカラーコンタクトを入れていたのです。それになんだか言葉遣いもいつもと違うような…?
「は、はい…偶然ですね…アヤベさんはもしかしてイメチェンというやつですか?」
「…?…いや…いつもどおりだ!!」
ん???????
どう…言う…事でしょうか?
私の知ってるアヤベさんはクールで他人とあまり深く関わろうとしないけどその実みんなのことを見てくれる不器用で優しい人のはず…
あれ…?もしかして今まで私が見ていたアヤベさんは…実は本当のアヤベさんじゃなかった……?…
いえ…まさかそんなはずは…あれ…?…
「どうしたんだトップロード?…もしかしてどこが具合が…うわぁっ…!!?」
…はっ…!…いや心配をかけるわけにはいきません!
すぐに体調に問題はないことを伝えないと!
改めてすぐにアヤベさんの方に向き直すと…
「はぁ…はぁ…どうしたの…トップロードさん…?」
そこにはいつもの私が知るアヤベさんが立っていました。
あれ…?
「えっと…アヤベさん…さっきの格好は一体…?…」
「……えっと…フジ寮長に教わったのよ…早着替えの…マジックを…」
あっ…なるほど!そういうことだったんですね!
いやぁ~すごくびっくりしました!
「とても良かったです!学園の皆も見たらすごく楽しんでくれると思いますよ!」
「え…えぇ…でもまだ人に見せられるものではないから…」
「そんなことないと思いますけど…じゃあいつかもっとすごいのができたら見せてください!約束ですよ!」
「…そうね…何時になるかはわからないけど…」
ふぅ…なんだかスッキリしました!早く帰らないと!
あれ…?なんだか大事なことを忘れてるような…?
アヤベside
ふぅ…我ながら苦しい言い訳だったように思えるけどなんとか信じてくれてよかったわ…
彼の存在を公にする訳にはいかないもの…
(…それにしてもアヤベ…)
…?…どうしたの…?
(早着替えなんていつの間に習ってたんだ…?)
………は?
(だけど友達としっかり仲良く出来てるみたいだ!安心した!)
何言ってるの…貴方を隠すための嘘に決まってるでしょう?
(なんだって…!?俺のための行動とはいえ嘘は駄目だ!今から追いかけて、謝ろう!)
そんなことできるわけないでしょ?さっきの
(うぅ〜ん…なら、こうしよう!)
え…?何する気…キャッ…!?
「嘘を付いたなら本当にしてしまえばいい!今から寮長さんに頼んで早着替えを教えてもらおう!」
(何をおかしなことを…ちょっとっ!…勝手なことしないで!)
「あっ…!その前にカレンに献立聞いて晩御飯の仕込みを始めないと…!さぁて…今晩は忙しくなるぞぅ…!」
私の制止を聴く様子もなく彼は私の身体で駆け出していく…
いつもこうだ…彼は天然でそれでいて頑固だから、いつも私は振り回される…オペラオーとはまた別ベクトルで面倒くさい…でも…
彼に振り回されるこんな日常も存外悪くないものなのかもしれない…私は柄にもなくそんなことを思うのだった…
「うおぉ!速い速い!さすがアヤベだぁー!」
(ちょっと…!ちゃんとウマ娘用の歩道を使いなさい!危ないでしょ!)
「あ〜っ…!!すまない!」
少し…先行きが不安ではあるけれど…
つづく…かも…?
人物設定
アドマイヤベガ
基本的な設定に大した変更はないがデネブが幼少期から寄り添い続けた結果自己犠牲的な部分はある程度緩和されている。
最近の悩みはレースの遠征先でデネブが変な御当地Tシャツを買ってくること。似合うだろうという善意100%で買ってくるので捨てるに捨てれない。
「アヤベは女の子なんだからもっとおしゃれをしたほうがいい!」というのはデネブの談。
「だとしても貴方のセンスは独特すぎるわ…」というのはアヤベの談。
デネブ
一時的に時空が歪んだ影響によって侑斗との繋がりが途切れ、さらには別の時間軸であるウマ娘の世界に迷い込んでしまい、右も左も分からず、途方に暮れているところに泣いているアヤベに出会った。いつか侑斗が迎えに来て別れるときが来るだろうけどその時までは目の前の契約者に寄り添い続けると決めている。好き嫌いのないアヤベは侑斗より手が掛からないがデネブ的には物足りなさを若干感じている。
最近の悩みは焦げつかない便利なフライパンを壊してしまったこと。便利だったのにふとした拍子に曲げてしまったとのこと。
カレンチャン
みんなご存知カワイイの化身。
学園内でデネブの存在を知っている数少ない人物であり、やらかしたデネブをアヤベさんが寮部屋で説教していた際に鉢合わせする形で露呈、秘密を共有することになった。
「誰かの秘密をペラペラ喋るのってとってもカワイクないことですから♡」というのはカレンの談。
デネブの健康的で美味しい手料理には食事に気を遣うカレンも舌を巻いている。それで舌が肥えてきたのが最近の悩みのタネ。
ナリタトップロード
今回の被害者枠。
デネブのせいで買い出しのことが頭からすっぽ抜けてしまい、寮に帰ってから思い出して落ち込んだ。
本来デネブとは面と向かって話せば5分で一緒に買い物に行くほどの仲になれるほど相性がいいが今回では存在が露呈することはなかった。
この出来事以降デネブが憑依したアヤベを見かける機会が増えるも、早着替えのネタだと思っているので気にしない。
アヤベトレーナー
通称アヤトレ。今回未登場。
彼もまたデネブの存在を知る数少ない人物の一人。アヤベの為に無理をして散らかしてしまったトレーナー室を不在中にデネブが掃除していたところを鉢合わせする形で露呈。これが原因で先述のお説教が発生し、カレンにもバレる形となった。行動原理はすべからくアヤベであり、アヤベ曰く「変な人」、デネブ曰く「とても歪なあり方をしている」と評されているが両名からは全面的に信頼されている。