但しタイムリープではなくなっています。
STAGE01
戦争を機にスザクとは離れ離れになってしまった俺は、かつての後ろ盾だったアッシュフォード家に匿われた。今は俺は高等部、妹のナナリーは中等部の学生としてアッシュフォード学園に通っている。
ミレイ会長は俺の秘密を知った上でよくしてくれるし、こんな俺やナナリーとも仲良くしてくれるリヴァルやシャーリーという友人もできた。しかし…それも今だけのこと、俺達の正体がブリタニア皇族…それも現皇帝に捨てられた皇族だと知られれば関係は簡単に崩れ去るだろう。俺はナナリーの幸せを守る為に戦わなければならない。そしてその為に身体を鍛えてきた。
俺の朝は早い。毎日まだ日の昇らない時間から(ただし睡眠はしっかりとっている)ランニングとウェイトトレーニングを行い、朝食はプロテインを中心としたとりささみ、ブロッコリー等の高タンパク低カロリーな食事(もちろんナナリー用の別メニューは作る)を摂り身体作りに励む。
流した汗をシャワーで流してからナナリーを起こすために部屋を訪れる。圧倒的筋肉を手に入れた今の俺であればナナリーを片手で優しく抱きかかえつつ、空いた片手でベットメイクを行うなど造作もないことだ。筋肉に不可能は無い。
「おはようナナリー。」
「おはようございます、お兄様。もう、また私をダンベル代わりにして…」
確かに年頃の女の子をダンベル代わりと言うのは失礼かも知れない…しかし、体に染みついた習慣なので仕方が無いとも言える。
「ごめんごめん。でもこうやって抱えているとナナリーの成長を感じられて嬉しいよ。」
「まぁ!お兄様ったら…ふふふ」
可愛い。ナナリーを車椅子に座らせ、ゆっくりとテーブルのところへと運ぶ。テーブルについてから細心の注意でナナリーにスプーンを握らせて皿の位置を教えば盲目の生活にも慣れてしまったナナリーならば支障なく食事を行える。今日も普通の朝だ。
…普通でないとしたら、俺の野望の為の"資金集め"だろう。他国を侵略し征服するブリタニア、広すぎる国土はいかに監視の目を光らせようとも必ず影の部分が出来上がる。もっと言えばエリアの総督が無能だったり、黙認していれば尚のことだ。かつての日本、現エリア11も例に漏れず違法カジノが横行している。そして残虐な地下格闘は見世物として人々の優越感を満たすにはもってこいだ。ブリタニア人でありながら参加する俺なんかは変わり者だが、ブリタニア人を殴れるとなればイレブンも殺る気満々。勝負は白熱して金は面白いほどに回る。そんな地下格闘を回っては相手をボコボコにし、ファイトマネーを掻っ攫う。(ついでにリヴァルに大金を俺に賭けさせ賭け金も頂く。)
全てはブリタニアをぶっ壊す。その軍資金集めだ。あとトレーニングにもなる。一石二鳥だな。
とは言え、学校のある日は流石に地下格闘に行く余裕はない。小金稼ぎでチェスの代打ちなんかは授業をサボりつつこなせるので楽で良いが。…よし、今日の仕事場に到着だ。
「代理人のご到着かな?」
「あぁ!よかった間に合った…助かったよ…頼むよ、例のアレちゃんと用意しとくからさ」
学生の立場では手に入らないものは弱みを握った大人にやらせるのが良い。リヴァルのバイト先のマスターは調達に何かと便利である。しかしながら何故この人はチェスが下手な癖に賭けチェスなどやるのか…?さて、今日の相手はどんなやつかと見てみれば素材だけは一丁前の高級品に身を包んだ男…しかしながら服と髪型と装飾品と香水の組み合わせが死ぬほど悪い。これならイレブンの方が良いコーディネートができるだろう。そんな訳で相手はどこぞの馬鹿な貴族な訳だ。
「なんだ…学…生?お前…学生?学生…か?」
この学生服が目に入らないのだろうか?学生に決まっているだろう。
パチンと音が鳴りボタンが弾け飛ぶ。ヒュンと貴族の頬を掠めるとボタンは頬を切り裂いたようで貴族の頬からは血が出ていた…まぁそういうこともあるだろう。最近また制服がキツくなってきたんだよな。それはそれとして…
「なんだ、貴族か。」
俺が腰掛けると椅子は砕けた。脆い安物の椅子に違いない、馬鹿め!仕方ないので立ったままチェスのキングの駒を持ち上げ…
あ、駒が砕けた。
「しまった。指圧トレーニングの癖で…」
首が砕け散ったキングなど縁起が悪いが仕方ない。…いや、例えその身に怪我を負おうとも戦場の先人を駆ると考えれば寧ろ理想の王か?まぁいい、キングを盤に置いて相手の出方を待つ。それはともかく後で駒を弁償しなければ。素材は大理石のようなので安心した。俺の圧倒的筋肉で削り出せば素材を買うだけで済む。
「こ、降参する…」
何…?まだ有利な盤面なのに一手も刺さずに降参だと…?やはり馬鹿な奴だったようだ。これだから貴族は…
「思ったより早く終わったな。帰りは走る事にするよ。先に学園に帰っててくれ」
「おっけー!じゃあまた後で!」
バイクに乗り去っていくリヴァルの背を見送り、俺は学園へと駆け出した。
しばらく走っていると高速道路で事故があったらしい。何事かと見てみればトラックが工事現場のようなところに突っ込んでいる。
「誰か助け呼んであげたら?」「君肩にナイトメア乗っけてんのかい!」「他所見でもしてたんじゃないの?」「馬鹿な奴ぅ!」
周りの人間は写真を撮るばかりで助ける素振りはない。ちっ…どいつもコイツも…。そして、よくよく見てみれば事故現場の近くにはリヴァルもいるようだ。俺はリヴァルを助ける為に高速道路に飛び移った。「おっ!学…生…?救助隊登場!」
「リヴァル!無事か!」
「ルルーシュ!それが…エナジーの線が切れちゃったみたいでさぁ…」
「待ってろ」
バイクの中を少し調べたが…うむ、俺にはさっぱり分からん!だがこういうものは大概強い衝撃を加えれば直ると母上が言っていた。俺がリヴァルのバイクを蹴り飛ばすと、どうやらエンジンが再始動したようだ。流石は母の教え。そして俺の筋肉。やはり筋肉に不可能は無い。
「嘘だろ…!?」
「取り敢えず高速を降りて直すなり停めるなりするべきだろう。俺はトラックの方を見てくるよ。先行っててくれ。あとみんなに遅れるって伝えてくれると助かる。」
リヴァルと再び別れた俺はトラックによじ登り、中に入った。しかし、俺が中に入ると同時にトラックは急に動き出してしまう。まぁ、普段から体幹を鍛えているおかげで俺はびくともしないが。…おや?何かが落ちているな…これは…上着の様だ。上着を拾い上げると何かがポケットに入っているようだ。こらは通信機だろうか?それにしてもこの暗さと路面状況…旧地下鉄構内を走っているようだな。
トラックが停止し、荷台側面が開かれ…ようとしたがどうやら何かに引っ掛かっているようだ。仕方ないと思い蹴り飛ばすと、つっかえていた何かが取れたのだろう、無事に稼働したようだ。その瞬間、俺の視界の端に見覚えのあるものが映る。そのキックに俺は何度も敗れた。その度に奪われる「ナナリーにあーんする権利」は数知れず、俺の屈辱的な敗北の記憶は数年ぶりに蘇り、と同時に俺の体は自然と動いた。蹴りを両手でいなし、こちらもお返しに蹴りを入れる…が、それは相手の腕により防がれ、続けてのコンビネーションパンチも有効打になり得なかった。俺も鍛えてきたつもりだがまだまだのようだな…!
「この動き…ルルーシュか!?」
「やはりスザクか」
その顔は幼い頃に見た面影を残す日本人のもの、かつての親友スザクであった。
「お前軍人になったんだな」
「軍の施設なら効率的なトレーニングが出来るからね。栄養のある食事も出るし…君は?まさかトラックをダンベル代わりに!?」
「馬鹿を言うな。」
昔会長の無茶振りで機材を積んだトラックを引き摺ったことこそあるが流石に持ち上げられるはずがない。相変わらずの天然振りだが、再会を喜んでいる場合では無いようだ。何故なら突如カプセルが開いたのだ。
「いけない!毒ガスが!」
毒ガス…?するとスザクは小型のマスク…恐らくガスマスクの機能もあるのだろう…を付けた。俺も瞬時に息を吐ききり、そして息を吸い込んで呼吸を止めた。これで毒ガスが漏れたところで3分は活動できるだろう。
しかし、中からは毒ガスではなく一人の女が出てきた。
「毒ガスじゃない…!?」
女は拘束されているようなので、取り敢えず拘束具を引きちぎり、コミュニケーションを試みようとした。しかし、背後から声を掛けられた。
「ちッ!この猿!名誉ブリタニア人にそこまでの権限は与えていない!」
「しかしこれは…!」
やり取りと態度から察するにスザクにとっての指揮官に当たる人物のようだ。そしてスザクはカプセルの回収を命じられていたが、中を見る事までは許可されていなかったらしい。そうなれば毒ガスと偽られていたこの女は見られてはまずい物なのは想像に難くない。
「まぁいい、その成果を評価して慈悲を与えよう。この銃であの学…生?学生かアレ…?取り敢えずなんでも良い…あの男を撃て。」
「できません!彼を撃つことは…!」
「ならば死ね」
突如撃たれたスザクだが、先程拳を交えたので分かる。鍛えられた今のスザクはピストルの弾で死ぬ程やわな筋肉では無い。俺がこの場で暴れても良いのだが女の事を考えれば逃げるべきだろう。俺は女を抱えその場を後にした。その際都合よくトラックが爆発し、上手く撒くことができた。
どれくらい走っただろう。一旦女性を下ろして周囲を確認すると、微かに風を感じた。恐らく近くに出口があるのだろう。
「お前、喋れるか?何故追われているか心当たりとかはあるのか?」
女は大人しく反応を示さなかった。おそらくカプセルに入っていた液体に何かしらの作用があったのだろう。落ち着かせるために一度頭を撫でてから再度抱え上げ逃走を再開する。
「ここなんだな?出口の一つは」
「はい」
聞こえてきた話し声から察するにどうやら俺の見つけた出口は兵士によって先回りされていたようだ。それにしてもこのまま逃げ回っていても埒が開かない。逃げるのも面倒臭くなってきたので制圧してしまおう。
「お前はここで隠れてるんだ。いいな?」
女に隠れる様に指示し、手頃な瓦礫をいくつか拾い上げて何人かの兵士の頭に投げつける。
「ぐあっ!」
この程度で気絶するとは敵ながら情けのない連中だ。このまま制圧してやる。
「なんだ!?何が起きている!?」
「いたぞ学生だ!撃て!」
軍人の撃つ銃の狙いは正確だ。だが今はその正確さがこの場合は仇となる。
・銃で狙いをつけ引き金を引く
・撃たれた弾が着弾する
そのタイムラグの間に俺は狙われた場所から動けば銃は当たらない。ジグザグに走ることで弾を躱し、距離を詰める。
「馬鹿な!」
そして焦った人間の射撃で起こるのは残弾管理のミス。同時に撃ち出したのは判断ミスだったな。同時に弾切れを起こした兵士達など脅威では無い。スザクの見様見真似で回転クルクルジャンピングキックをお見舞いし、銃を取り上げる。もちろん撃つのでは無い、他の兵士に投げつけるのだ。こうして場を制圧した俺だったが、そんな俺に声がかけられた。
「動くな!この女を撃つぞ!」
見れば隊長らしき男がピストルを女に突きつけている。
「人質のつもりか?俺とその女にそこまでの関係があるとでも?」
「黙れ。お前のせいで人が死ぬぞ」
仕方なく俺は無抵抗を示す為両手を挙げた。
「ふん、無駄な手間を取らせやがって…死ね!」
俺に向けられて放たれた銃弾は俺の腹に着弾する…が、ピストルの弾が俺の筋肉を貫くことは無い。直ぐに弾を指で取り出し、お返しに撃たれた弾をデコピンで弾き出す。額に着弾した兵士は倒れた為、すぐさま距離を詰めて銃を取り上げる。
「馬鹿な…!」
「道具に頼り身体を鍛えなかったお前の負けだ。覚えておくんだな。」
俺は拳を振り上げ、そのまま男の顔面に振り下ろす。意識は確実に刈り取れるだろう。
「俺を撃って良いのは…俺にぶたれる覚悟のある奴だけだ!」
あれ?ギアス貰い忘れてない?
本来は
事故→カレン出陣→ヴィレッタ襲撃により旧地下鉄へ
という流れですが、ランニングのためにルルーシュの合流は遅れ、リヴァルの出発も早かったため
カレン出陣→二手に分かれリヴァルと事故→旧地下鉄へ
という流れになっています。ええ、言い訳です。