これはその、自慢とかではないのだけれど、クラリスさんはあれでも社長だ。そして…まぁ、つまりそのその、義娘の私も社会的立場で言えば社長令嬢と言うことになる。しかも今のところ一応軍属…そして、実に名誉なことにコーネリア総督やユーフェミア副総督に気に入られている…と、言える。何が言いたいかと言うと、結果として私とクラリスさんが対峙した男、マオは中華連邦の人間ということもあり、極刑に処されたそうだ。彼の言動も災いしたのだろう。彼のカルマだのなんだのという言葉は世迷言と言われ、虚言癖として対処されつつ最後には口を封じられたまま銃殺されたらしい。ブリタニアという国は他国民に厳しく、障害のある人物にも容赦は無い。…尤も、健常者だとしてもそのフィジカルはともかくとしてブリタニアの女性社長と社長令嬢を襲ったとなれば結果は変わらないのかもしれないけれど。
それはそれとして、あの一件があってからは少しだけクラリスさんと仲良くなれた気がする。…まぁ、一方的に嫌っていたのは私の方なのでなんというか私が少しだけ素直になれるようになっただけというのが正解なのだけど。
「マーヤ…あのね、あなたに私、言ってないことが…秘密にしていることが…あるの、でも…」
「…いいよクラリスさん。無理しなくても。私がそれを受け止められるようになったと思ったらまた教えて?」
「…えぇ、わかったわ」
秘密くらい誰にだってあるものだ。それこそ、家族にだって。それに、それを言わないのはそれなりの理由があるのだろう。クラリスさんは優しい人だから、きっとそうだ。
そして、私が特派に居ない頃の出来事として、日本解放戦線が壊滅したらしい。聞けばブリタニア軍を巻き込んでの自爆をしたとかなんとか。そしてそこに黒の騎士団が現れコーネリア総督を襲撃、ランスロットの活躍もありなんとか退けたそうだ。
ボールスの修理はまだ終わらないそうだが、今回は仕事があるらしい。何かと思って特派に向かうと、どうやら今回の仕事はブリタニア政庁だとか。
…嫌な予感しかしない。
ブリタニア政庁に行き、受付を済ませると案内されたのは副総督事務室…つまりは、ユーフェミア様関連…また、どこかに遊びに…いや、出張だろうか。3回ノックをしてから名を名乗り、許しが出てから入室すると、そこには珍しく真面目な顔をしたユーフェミア様の姿があった。
「お待ちしていました。マーヤ」
「は、お待たせしてしまい申し訳ありません副総督」
これはもしかしてユーフェミア様のことを馬鹿にしていたのかもしれない。そうだよね、副総督だし、何か重要な仕事に違いない。
「私、最近太ってしまったの」
…。ん?何か重要な仕事に違いないよな?で?今この人なんて言った?聞き間違いかな?
「私、最近太ってしまったの!」
「な、何故それを私に…?」
「太ってしまった乙女がすることと言ったら…ダイエットです!でも、そんなことがお姉様に知られたら馬鹿にされてしまうわ」
だからといって部下を呼び出す奴があるか。職権濫用も甚だしいけど…まぁ、ユーフェミア様は天然だから何言っても無駄かぁ…
「それで私に何をお望みなのですか…?」
「その、私に…ボクササイズを教えて下さいな」
ボクササイズ…無論教えることは可能だ。しかし…
「だからといってそれを何故私に…?」
「私、マーヤの逞しい筋肉が好きなんですもの、いけなかったかしら?」
…なんだ、私の筋肉が素敵だと言われたらもうそんなの断れないじゃない。こうなったら副総督だとか皇女だとか関係なく、一人の筋肉に悩める乙女として力にならなければ!
何故なら私はマッスルウーマン!己の肉体の筋肉のみならず他人の筋肉をも鍛えるのも真のマッスルウーマンとしての鍛錬の一つのはずだ!
「その任務、引き受けます。ですが、私のトレーニングは厳しいですよ…!」
「覚悟は、あります!」
「良し!ならば早速テーピングです!」
「はい!」
暫くボクササイズを教えて分かったこととして、ユーフェミア様はかなり筋がいい。あのムキムキな皇帝陛下の子供…そしてあのルルーシュと血が繋がっていると考えれば素質はあるということなのか、とりあえずこのまま鍛えれば必ず見事なマッスルウーマンになるだろう。ただ、恐らく軍人として鍛えているであろうコーネリア総督のあの体格を考えると鍛えても私の様なボディにはならず、引き締まるタイプだと考えられる。でもまぁ、ダイエットとしては程々が丁度良いだろう。あまりやりすぎて筋肉が増えると体重を減らすという意味では失敗に終わる。何故なら筋繊維のパンパンに詰まった私の筋肉は同じ量の脂肪に比べて非常に重いからだ。だから私は体重計に怖くて乗れない。きっとクラリスさんの2倍はあるだろう。だから、怖くて…乗れない。
「ふぅ、今日はありがとうマーヤ。やっぱり体を動かすのって良いですね。私も本国でバスケットボールを嗜んでいたのを思い出しました」
へぇ…結構ハードなスポーツをやってたんだな。意外だ。
「私もバスケットボール得意なんですよ。スリーポイントダンクシュートが得意で」
「スリーポイント…ダンクシュート…!?流石マーヤね、凄いわ!」
それほどでもある。筋肉はあらゆることを可能にするのだ。
「そうだわ!もうすぐ芸術週間でしょ?式典があるのだけれど、マーヤも護衛についてくださいな」
「…あー、私は構わないんですけど、それは流石に特派の方に問い合わせてもらわ…」
「はい、はい、じゃあそういうことで。今ロイド伯爵から許可をいただきました。これで一緒に回れますね!」
うーん、行動が早い!
そう言うわけで芸術週間の影響で数学の授業が芸術に関するものに差し替えられ、私とルルーシュは台の上に立ちポージングを決めていた。
「ルルーシュ、マーヤ!いいよ!キレてるよ!」「腹筋に板チョコでも貼ってるのかい?」「ナイスバルク!」
芸術とは美!即ち筋肉!さぁみんなよく見て私の鍛えた筋肉を!逞しく割れた八つの腹筋、そして爆発寸前かのように膨れ上がるシャーリーの脚よりも太い上腕二頭筋、ミレイ会長のウェストよりもぶっとい大腿筋、そしてニーナよりも豊満な胸筋!!ルルーシュにも負けず劣らずの私の筋肉はまさにベストコンディション!
「凄いなぁルルーシュとマーヤのやつポージング決めてからピクリとも動かないや」
その後は約束通り、ユーフェミア副総督と美術館を回ることになった。無論仕事だ。ユーフェミア副総督がクロヴィス記念美術館の落成式で選ぶ絵を決めるための。
「マーヤはどの絵が好きですか?」
「そうですね…」
皇帝陛下の見事な筋肉を豪快なタッチで描いた『オールハイルマッスル』も悪くはないが、やはり筋肉の描写の粗が目立つ。この絵は真の筋肉を愛する者が描いたものではないだろう。それよりも…私の目に止まったのは長閑な日本家屋と自然を描いた優しい絵だ。
「私はこの絵が好きですね」
「まぁ、これは…そうね、確かに長閑で…私も気に入りましたわ」
しかし、そこで問題が起きた。
「そちらは調査の結果、4分の1イレブンの血が入った画家のものでして」
…。イレブンの…日本人の血が入ってたら絵は評価しない…?そんなの、間違ってる…!私が暴れんとした瞬間、ユーフェミアが口を開いた。
「それが…なんなのですか?私はこの絵を気に入ったのですから、それで良いでしょう?ね、マーヤ」
「…!えぇ、ユーフェミア副総督のご判断で問題ないかと」
「しかし…」
私が笑顔で腕を捲るとそれ以上言葉を話すことは無かった。やはり美少女の笑顔と肌のチラ見せは中年男性には効果的面のようね。
それから落成式となると、美術館に関係のない質問がユーフェミア様を襲った。
「今回の美術館の建設でイレヴンの業者が排除されたと言われていますが?」
しかし、ユーフェミア様を以前のお飾り副総督と思ったら大間違いだ。私のスパルタボクササイズを経てユーフェミア副総督は…いや、ユフィは体の筋肉と心の筋肉が鍛えられ、しっかりとこういったことにも対応できる自信を身に付けたのだ!
「現在、そのことについては我々も調査を続けております。そのため、今回は解答を控えさせていただきます。」
隣に立つダールトン将軍も「ユーフェミア、ご立派になられて…」と涙を流していた。…爺や的ポジションなのかな?
「Hi-TVです!副総督、最近お痩せになられましたよね!?もしかして恋愛などあるのですか!?」
「えっ…?あー、その…ご想像に、お任せします」
何故一瞬こっちを見たのかは不明だが、先程の自信はどこへやら、ユフィは曖昧な返事をした。やはりまだまだ鍛錬は必要ということか。
「インターセイトのタフガイです。近々騎士をお決めになるとの噂ですが…」
騎士…そういえばユフィってまだ騎士を決めてないんだっけ?…私とか言わないよね…?しかし、そこで事件が起こった。次々に記者の携帯端末が鳴り始めたのだ。そしてダールトン将軍にもある知らせが届いたらしい。
「モニターに出せ!」
その言葉で映し出されたのはスザクが複数のナイトメアに押されている光景だった。そしてその動きを見ると違和感を覚え、すぐにその理由が判明した。
「…スザクの動きが読まれてる…!?」
「…何?」
「スザクは…その、戦い方に癖があるんです。模擬戦で何度も戦ってるので分かるんです。例えば今の状況…恐らくスザクは後ろに飛びます。距離を取るために」
すると画面のスザクは後ろに飛び退いた。
「…ゼロ、やつとは一度手合わせしたがどうやら体だけではなく頭も鍛えている厄介な相手のようだな…」
「スザク…」
私はここから祈ることしかできない…頑張れスザク…!"ここを凌げば…貴方はもっと鍛えられる…!"
「凄い!また躱したぞ!」「頑張れ、白騎士!」
だが、流石にスザクは劣勢、剣による三弾突きによりコクピットが破壊され、スザクの姿が露わになった。
「何でイレブンがナイトメアに!?」「冗談じゃない!」
しかし、スザクはそんなことでは止まらず、むしろさっきよりも機敏に動きゼロ達を圧倒し始めた。
「動きが変わったな…まさか…」
「はい、将軍。恐らくはハッチが切り落とされた分ランスロットの重量が軽くなった事が要因かと」
「やはりか」
そして黒の騎士団は諦めたのか、チャフスモークを展開して撤退していった。直前にランスロットのランドスピナーを破壊していることでスザクも追うことは出来ないようだ。
「何で追わないんだ?」「ゼロの仲間だからだろ」「なるほど、出来すぎてると思った!」
そんな記者の声が聞こえると、ユフィはツカツカとそんなことをのたまう記者の頬に強烈なビンタをぶち込んでいく。
「あの戦いぶりをみてそう思うなら記者なんてお辞めなさい。それが命を賭して闘う者への礼儀ですか!…そういえば先程の質問にはまだお答えしていませんでしたね、私の騎士となるのはあそこにいるお方、枢木 スザクです!!」
その発言に会場はどよめいた。私も自分じゃないことにホッとしつつ、とは言えスザクを騎士にするという判断には流石に驚いた。しかし、実力で言えば十分なことは確かだ。それに筋肉はまだ少し鍛える余地はあるが、人間としてもスザクはかなり真面目だし出来ている。私もサポートすれば十分騎士としての務めを果たせるだろう。
「Hi-TVです!副総督もしかして恋愛のお相手と言うのは枢木…」
このタイミングでそれが聞けるのは凄い勇気だと思う。そして彼女がコーネリア総督に処されないか心配だ。
「ななななななんのことかわわわわわわかりませんね!」
ユフィ、動揺しすぎ…
マーヤの苦手なもの:体重計。マーヤは乙女なので重たい体重(筋肉が原因)を見るのは怖いのです。