戦闘が始まって既に1時間は経過しただろうか。結果で言えば奇襲は失敗のように思える。自軍の残存を示すモニターに視線を移すと恐ろしいスピードで減っていくのが見える。爆発音が聞こえると同時にまた一人また一人と消えていく。
「…この爆装、動きにくいわね…」
アノ…?あれ?なんだっけ…司令の…ムノウ…だったかな?忘れてしまったが、作戦開始ギリギリ前に突如付け足されたというアレクサンダの爆装。爆発力こそ目を見張るものがあるが、要はこれは自爆装置。司令は私達を人間爆弾として敵に突っ込ませる気らしい。
ふざけている…!
お陰でこちらは誘爆を恐れ離れて戦わざるを得ず、そうなると連携もクソもない。
そして、追い詰められて自爆を選ぶ味方は少なくなかったし、弾薬が尽きれば必死に逃げる敵に食らいつき自爆する人もいるようだ。
「遠慮なくやれって言ったってやり難いんだよねぇ…」
サザーランドの銃撃を躱しつつ、木々を蹴って飛び跳ねるように移動する。マッスルデバイスのお陰で私はアレクサンダ本来の動きができているらしく、かなり俊敏に動けるように感じる。木を遮蔽に距離を詰めては前腕部に仕込まれたブレードでコクピットを突き刺してパイロットを殺害する。そんなこんなでライフルを極力温存しつつ、私はこの1時間を戦っていた。
『ククク…死ね!』
この通信は…日向少尉?…また一人味方が爆死した。残りの味方は10…いや、今また死んで9か。
徐々に敵の動きがこちらを近づけないようにと気を付けているように思えて来た。まぁ当然だろう、近づかれたら特攻されて爆散なんて私ならごめんだもの。
『怯まず前進せよ』
そんな指令が聞こえて来た。今指令を出してるムノウとかいう人は恐らく相当な間抜けだろう。この自爆装置といい…無闇に戦力を減らすやり方はどう考えで邪道だ。まぁ、王道的なやり方で包囲網を突破できるかと言われればそれが難しいのはわからなくもないが…。そもそも、奇襲してから1時間も戦っていたらもはやそれは奇襲ではないし、自爆のせいで加速度的に戦力差が開いていくのたま。たまにアドレナリンを注入される感覚に少し酔いながら、引き続き戦場を駆け抜けていると更に連絡が入る。
『撤退開始時刻まで残り40分』
私としては別にユーロピア連合軍の撤退が間に合おうが間に合わなかろうが知ったことではないし、ブリタニア軍人としてはある意味喜ばしい。しかし、今はE.U.側として戦う作戦なのだから仕方がない。標的をライフルで仕留めつつ、次の標的を探した。
また味方の自爆の爆発が見える。あんなに派手に爆発すれば周りの敵にここで戦っていると知らせるようなものだ。とはいえ、それに釣られた敵を殺すのも私達の役目なんだけどね。
「日向少尉!ご無事でしたか」
『ディゼル准尉か。ライフルの残弾は?』
言われてから確認するとほぼゼロに近かった。
「ほとんどありませんね」
『ならこれを使え』
渡されたのは…味方のライフル?
「これは?」
『もう必要ないやつらから預かったものだ。』
味方の残骸から回収したらしい。だが、これでまだ戦える!
しばらくすると、とうとう私と日向少尉以外の全員がやられてしまったようだ。そして私もこの重たくて取扱注意な爆弾を背負ってどこまでやれるか…正直わからない。サザーランドの弾丸を回避し、木々を盾にしつつ駆け抜ける。日向少尉から貰ったとは言え、再びライフルの弾丸は尽き掛けている。その上私と日向少尉は囲まれてしまっているようだ。これは万事休すかな…。
『自爆装置の解除を許可する』
「爆装解除…?今更…!」
私は自爆ユニットを解除し、それを敵に投げつけてなけなしの弾丸を放ってそれを爆破、敵のサザーランドの一部を吹き飛ばした。
『ディゼル准尉!俺の分も使え!』
振り返り様に日向少尉の爆装を受け取り、再びサザーランドに投げつける。ボールスほどではないがこのアレクサンダも中々の投擲力だ。
そして木々を使い包囲してきた敵をトンファーで蹴散らしつつ包囲の突破を開始した。
「周りにもう5機」
『左の2機は任せろ』
「了解です…ってなんで私の方が多いんです?」
「撃破数を見ればその方が適任だと判断した。…良いからいくぞ」
あの乱戦で他の機体の撃破数まで確認するとは驚きだ。
こちらに気付いた相手のライフルをステップで回避し、距離を詰める。木々をブラインドにしつつトンファーでコクピットを穿って撃破し、すぐさま移動、こちらに攻撃を仕掛けてくるサザーランドの右腕を吹っ飛ばし更に連続で攻撃を叩き込む。
「はぁッ!」
殴打で転倒したサザーランドにとどめを刺しつつ飛んできたランスを回避して剣を持つグロースターにトンファーでの殴打を見舞う。トンファーで剣を引っ掛け叩き落とし、体制を崩したグロースターの両腕をトンファーで吹っ飛ばす。逃げようと背中を晒したところに手首のブレードを差し込み始末した。
「…ごめんなさい」
こうして私と日向少尉の2人だけがこの戦いを生き延びた。行きは空から来た為、帰りの足がない。私一人ならなんとかなるがナイトメアもとなるとそれはなかなか骨が折れる話だ。そんなことを考えていると、道沿いに立って車両の出す排気ガスや砂煙を浴びている日向少尉が見えた。…新手のトレーニングかな?自ら汚染された空間に身を置くことで体の内側を鍛える…とか?私も日向少尉の隣に立ち、一緒になって排気ガスと砂煙を浴びる。…ついでにスクワットでもするか…。
「おいアンタ、そこで何してんだ…?」
やがて一台のトラックが止まり、こちらに声を掛けてきた。
「俺達も運んでほしい。後ろのナイトメアと一緒に」
「あ、あぁ…良いけどよ…なんでそっちの…おん、女…女…だよな?は、スクワットしてんだ…?」
「趣味よ」
「趣味だそうだ」
「そ、そうか…変わったやつらだな…。念の為IDを見せてくれ」
私と日向少尉がIDを渡すと男は慣れた手つきで確認を行っていた。
「マーヤ ディゼル…あ、やっぱ女か…。そんでこっちは…あ?」
男は急に舌打ちをすると私たちにIDを投げつけてくる。
「イレブンかよ…乗りたきゃさっさと乗りな。但し荷台にな。ディゼルは隣乗れよ。一人で運転してると退屈なんだ。」
…ここでも…日本人差別…。命を張って戦ったのは日本人達だっていうのに…!
日向少尉はアレクサンダの近くで布を被り座り込んでいた。
「日向少尉ここ、いいですか?」
「…お前、助手席はどうした」
「断りました。荷台の方が筋トレ出来そうですし」
「…好きにしろ」
不規則な車両の振動に耐えながらのトレーニング、これは中々効くわ!良い!体のキレが高まるのを感じる!そんなこんなで私は日向少尉の近くで空気椅子や片手指立て伏せなどをしつつ、車両に揺られて帰還する。
「お前はイレブンを差別しないんだな」
突然声を掛けられたので私は筋トレを継続しつつ答えを考える。私が差別をしないのはハーフだからなのだが、それをいう勇気はなかった。
「日本人差別は…そうですね、そんなことしても筋肉鍛えられないじゃないですか」
「は?」
差別など愚かしい行動だ。そんなことをしても自分の筋肉は鍛えられない。人を差別する暇があるなら空気椅子や腕立て、スクワットをする方がよほど有意義である。
「…おかしな奴だな」
それからはお互い何も話すこともなく、私は淡々と筋トレに勤しんでいた。
その後、ナルバ作戦の報告の兼ね合いでマルカル副司令…じゃなくて司令がスマイラス将軍に呼ばれたため、私と日向少尉は護衛としてついていくことになった。
しばらくスマイラス将軍の部屋の扉の前で待っているとマルカル司令が出てくる。
「お待たせしました。日向中尉、ディゼル少尉」
「いえ、これが我々の今の任務ですので」
…うん?今更しれっと聞き流したけど私と日向…中尉?なんか階級上がってない?
「私も少佐から中佐に上がったのですが…日向中尉は驚かないのですね。」
「階級なんて俺にはどうでも良いですから」
「そうですか。ディゼル少尉も初陣で素晴らしい活躍でした。これからも力を貸して下さいね」
マルカル司令のサムズアップに私もサムズアップで返し、そのまま流れで固い握手を交わす。…私は現在進行形で彼らを裏切っているわけだが、手を汚すことを今更躊躇う私ではない。今は任務に集中するだけだ。
「これからナルバ作戦成功を祝しての記念パーティがあるので引き続き護衛をよろしくお願いしますね」
「果たして司令に護衛が必要かは置いておいてそれが任務なのでしたら従います。」
パーティか…。最後に行ったのはナイトオブツー&セブン歓迎会だっけ。…ルッキーが壁にめり込んだこととあとはモニカに胸を触られたことくらいしか覚えてないわ…。今回のパーティでは何も起きないと良いけど。
上官ではあるが男だからと飲み物をとりに行った日向中尉を見送り、私とマルカル司令は共に空気椅子をしつつ、口頭チェスと洒落込んでいた。…私チェスやったことないんだけどね。
「…チェックメイト」
「…はい、完敗です司令。」
「初めてという割には手強かったですよディゼ…マーヤと呼んでも良いでしょうか?私のこともパーティの時くらいはレイラと呼んでください。」
少尉の私が中佐を呼び捨てに…?まぁ、作戦の時だけ気をつければ良いのだろうか。
「分かりましたレイラ」
「敬語も不要です。私たち歳も近いんですから」
「分かったわ」
その時丁度グラスを持った日向中尉が戻ってきた。
「パーティ会場で筋トレしながら口頭チェスに勤しむような女性達に…声をかける男性は居ないようですね」
「日向中尉もジョークとか言うんですね、驚きです。」
「飲み物ありがとうございます。日向中尉」
「気にするな。司令を護衛しつつ飲み物を取ってくるなら俺がいく方が適任だと思っただけだ。お前じゃあの人混みを掻き分けるだけでどれだけのトラブルが起こるか分からん」
「確かに…少し力加減をミスったら壁まで吹き飛ぶかもしれませんね」
思い出されるのはラウンズ歓迎会の悲劇、皇帝陛下により突き飛ばされたルッキーが壁にめり込み、今なお入院中の大怪我をおった不幸な事故である。
そんな時、レイラに対し突如声がかけられた
「レイラ!レイラ マルカル!」
「ちょっと失礼…」
人混みを掻き分けやってきたのはヒョロガリのっぽとデブの二人組だった。
「ダニエルお兄様にステファンお兄様…」
どうやら今私がクソ失礼な呼び方をした二人はレイラのお兄さん達のようだった…。
「どうして連絡をくれなかったんだい?君に会うのは1年ぶりなんだよ?」
「それにその格好…パーティ会場で軍服だなんて」
現在行われているこのパーティはマルバ作戦の成功を祝しての催しである。つまり私やレイラの正装としては軍服は間違っていないのだ。
とは言え、軍人は見た限り私たち三人のみであり、話題も下世話な金の話ばかりだった。
「軍服は私の制服です。」
「その口調も…」
レイラの態度ややりとりを聞く限り余り良好な関係ではなさそうだ。
「これはこれは、ムキムキの妹君じゃないか」
更に今度は両脇に女を連れたナンパなキザ男が…ってこの人もレイラのお兄さんらしい。三人揃っても誰ともレイラは似ていないけれど、レイラって何人兄弟があるのだろうか。
「ヨアンお兄様…」
「ふん…イレブンの中尉殿は護衛か何かか?こいつにそんなもの不要だろうに…。まぁいいか、俺はヨアン マルカル。マルカル家の三男坊だ、以後お見知り置きを…」
態度の割に丁寧な挨拶をする人だった。意外だ。
「そうだ…これも言っておこうかな。この女はな、俺の…フィアンセなんだよ。…でもなぁそんなのは親が勝手に決めたことだ。あり得ない!こんな!筋肉女と!誰が結婚するか!!」
その態度にレイラは拳を握りしめていた。いけない…!あの筋肉の動きを見れば今にも睾丸を蹴り砕かん勢いで駆け出しそうだ!
思い出されるのは行政特区日本の惨劇…今度こそ悲劇は私が止める…!
私はまだ口をつけていないグラスを片手にレイラの前に割り込み、ヨアンさんの頭にガラスの中身を振りかけた。
「…は?」
「…マーヤ?」
「なんの真似だ貴様…!」
よし、レイラが構えを解いた…!そしてこのヨアンさんの注目は私に移っている!ならばここはいつも通り私が美少女であることを最大限に活かした色仕掛けしかない!
私はいつも通り上目遣いでヨアンさんの目を見つめる。
「頭を冷やしてあげようとしただけですけど…何か?」
「あっはい、なんでもありません。生まれてきてすみません」
よし!作戦はバッチリ成功ね!