リョウには水上走法の伝授を断られてしまったが、レイラは持ち前の筋肉と飲み込みの速さから直ぐに体得したようだ。そんなこんなですっかりと時間は夕飯時になり、お婆さん達と共に食事をする事になる。
こうして大勢とご飯を食べるのは陽菜達と過ごしたゲットーの日々を思い出す。それを奪ったゼロは許さないが、もう捕まってしまっているので今更どうすることもできない。食事中、日向中尉とアヤノが何やら話しているようだ。
「…お寿司もお刺身も食べられないの?」
「あんな生臭いものが食べられるか…!」
…どうやら日向中尉は魚料理が苦手らしい。魚には身体に良い栄養素がたくさん入っているのに…
やがてリョウが日向中尉を羽交締めにしてアヤノがムニエルを押し込むと言う事態に発展した。好き嫌いせず食べるというのは私の主義にも反さないので眺めていると日向中尉と目が合った。
「おい!ディゼル少尉!コイツらをなんとかしてくれ!」
「好き嫌いせず食べて下さい。日向中尉」
「俺の方が上官だぞ!」
おや、珍しく日向中尉が軍隊の階級を持ち出してきた…結構本気で嫌なのかもしれない。
「…では更に上官のレイラに判断を仰ぎます」
「お前…!」
「えっ?私ですか…?うーん、ムニエル、美味しいですよ…?」
「日向中尉、マルカル中佐から食べろとの上官命令みたいですよ」
私は笑顔でサムズアップを返す。
…ちょっと意地悪だったかな?
そのあと、大祖母様と呼ばれているお婆さんが眠いからという事で私とレイラが2人で送る事になった。レイラが灯りを持って前を歩き、私がお婆さんの手を取って歩く。
「大きな石があります。」
「私が砕いておくわ。フンッ!!」
「レイラにマーヤ、逞しくて良い子だから私が占ってあげよう…アンタ達の未来をね」
人の好意を無碍にもできず、私とレイラは2人でお婆さんの占いを受ける事になった。まずはレイラからだ。
「クッテネテプロテインバッカノンダラフトール…クッテネテプロテインバッカノンダラフトール…」
何やら呪文を唱えながら色と模様の付いた石を振っている。それを何やら模様の書かれた紙の上に放り投げるとお婆さんが口を開いた。
「昔森で…ピザの魔女に出会ったんだね?」
「ピザの魔女?」
「その魔女に呪いをかけられた…」
ピザの呪い…太るとか?いや、それにしてはレイラは凄まじい筋肉が輝く肉体美を手に入れている。もっと別の何かだろうか
「…アレは夢じゃなかった?」
…どうやら心当たりはあるようだ。
「その力があれば助けることができる…と、石は示している。」
「助ける?誰をですか?」
「それはね、アンタの大事な人だよ」
「大事な…」
レイラにとって大事な人は一体誰なのだろうか。やはりクレマン大尉だろうか?
「次はアンタだよマーヤ」
「お願いします。」
お婆さんは同じ呪文を唱え石を振り石を放り投げる。
「…おや、マーヤも呪われているようだねぇ…幼い頃に悪魔に呪いをかけられている…」
私の…幼い頃…?
「その呪いはアンタに苦難を与え…やがて…むっ!」
突然、石はひび割れて砕け散ってしまった。
「…こんな事は初めてだよ…これはもしかして石からの警告かもしれないね…」
「警告…ですか」
その日もハンモックに揺られて寝ることとなったが…呪いに苦難…。…まぁ、占いは所詮、占いだろう…。
次の日、薪拾いに行くと言うリョウとユキヤについて行くことになった私だが、なぜか2人はお婆さん達の車の中に入っていく。
「何故こんなところに?」
「マーヤ、お前だっていつまでもこんなトレーニング器具のないところに居たくないだろ?今からユキヤがヴァイスヴォルフ城に帰るために一仕事するんだよ」
見たところ古い型のPCだが、そんなもので何をするのだろうか?暫く見ていると小型のディスクからホログラムが映し出され、ユキヤは手元の端末で何か作業をしている。
「成瀬准尉、それ何してるの?」
「ホロディスクでスピードを上げてこのオンボロPCをスパコン並みの計算速度にしてるんだ。」
「それならパスワードの解読には時間が掛からないな」
リョウの反応を見るとユキヤはこういった事にはかなり手慣れている様だ。
「司令のIDだけどね、何者かが軍のサーバーにハッキングしてデータを書き換えてたんだ。…まぁ、これだけ痕跡を残しまくってるのはハッカーじゃなくてただの馬鹿かな。…不正に改竄されてるから直せばまた使える様になるよ」
「へぇ、成瀬准尉って手先も器用だけどシステム系にも強いんだ。」
「まぁね」
まぁ、特に悪いことをしようとしているわけじゃ無いようなので後は任せるとしよう。車両を出て予定通り薪を拾っていると、日向中尉とアヤノを見つけた。何やら2人で話しているらしい。
「…お前生まれはユーロピアなのか」
「…そうだよ。アキトは…ってマーヤ」
「お邪魔しちゃったかな?」
私が問い掛けると日向中尉は首を横に振った。ふむ、では私も混ぜてもらうことにしよう。空気椅子に腰掛け二人の雑談に混ざってみる。
「…俺も生まれはユーロピアだ。」
「そっか、リョウもユキヤも同じだよ。
純日本人の四人は日本を知らず、半日本人の私だけが日本を知っているとは…少しおかしな話かもしれない。
「いつかみんなで日本に行きたいね。…マーヤも来る?」
「…うん。それは…楽しそうね、とっても」
私はそう答えるが、日向中尉は行きたいとも行きたく無いとも答えずに小太刀を見つめ始めた。
「…マルカル司令からこの小太刀は預かっていた。作戦が終了したらこれをお前へ返す様にと。」
「…なんでアキトに?」
「マルカル司令曰く、『私やマーヤではふとした拍子にへし折りかねない』だそうだ。」
…うーん、あり得る…。
「脳筋に見えて冷静な判断は流石だよな。」
そう言って日向中尉はアヤノに小太刀を差し出すが、アヤノはそれを受け取らなかった。
「アキトが持っててよ。その小太刀は守り刀なんだ。待ってれば魔を祓えるんだって。」
一応日向中尉とアヤノにも薪拾いは手伝ってもらい、私達がレイラ達の所に戻るとお婆さん達にリョウが揉みくちゃにされていた。
「もっと触ってけ!ババア!!」
…リョウってそう言う趣味の人だったのか。まぁ、鍛えた筋肉を自慢したくなる気持ちはよくわかる。
「成瀬准尉、IDの改竄は終わったの?」
「当然。それで僕らが帰るって伝えてこの状況って訳」
なるほど、お婆さん達も色んな思いはあれど寂しくは思ってくれているのだろう。
そんな訳でその日の夜には宴と言うべきか、お婆さん達は民族楽器らしきものを演奏し、他のみんなは思い思いに踊っていた。ふむ、もしかしたら普段はお婆さん達も楽器の演奏などで日銭を稼いでいるのかもしれない。
私もこの筋肉をフルに活用したブレイクダンスを披露する事にした。まずは基本のインディアンステップからスピンダウンだ。そしてそのまま6stepsに繋げてフロアを沸かす。
「いいぞー!マーヤ!」「ブレイキンブレイキン!!」「ポゥポゥ!!」
しかしながら調査に乗って早く回り過ぎたらしい。
「あれ、私また何かやっちゃいました…?」
気が付いたら私のステップは暴風を巻き起こしていたらしく、みんなひっくり返り、木々を薙ぎ倒していた。やがてリョウが頭を振りながら起き上がった。
「…なぁ、マーヤ…頼むから二度と踊らないでくれ。二度とだ。」
「…はい。」
その後、吹き飛ばされていた訳ではなく危険を察知して逃げていた日向中尉とレイラが合流しその日の宴は終いとなった。
次の日、漸く手配された輸送機に乗り込みヴァイスヴォルフ城に帰れることになった。
「…司令、見てください。」
日向中尉がレイラに言った言葉に釣られて日向中尉の差した指の方を見るとお婆さん達が手を振っていた。私も手を振り返し、輸送機に乗り込む。…そう言えば私達がヴァイスヴォルフ城に居ない間にヴァイスヴォルフ城を攻め込めば簡単に落とせたのではないだろうか…?
『…と、思っている頃だと思って連絡させてもらった。』
…。直様指で二度叩いて合図を返すとよろしい、と呟きが返ってくる。
『司令も戦闘員も居ない状態でヴァイスヴォルフ城が攻められればヴァイスヴォルフ城は簡単に自爆を伴い破棄されてしまうだろう。だが、マーヤ ディゼル…お前達が居る間に攻められれば話は別だ。対抗できる手段が有れば簡単には破棄などできない…そしてそのタイミングで貴様の出番だ。如何なる堅牢な防御も中から崩されれば脆い。貴様が中から守りを崩す。そこを我らがすかさず攻め込み制圧する。…まぁ、他にも必要な物の準備もありはしたがな。この私にユーロピアの攻略など訳は無い。…次の連絡があるまでは引き続きE.U.の兵士として行動したまえ』
…通信が終わると、丁度日向中尉がレイラ司令に話しかけている所だった。
「司令、いつかみんなで…日本に行ってみたいですね。」
「…!はい!」
…レイラと日本に…か、そんな日が来るのだろうか…?
ヴァイスヴォルフ城に着いて早々、事件は起きた。世界解放戦線の箱舟の船団なるテロ組織が北海の洋上発電所を爆破したのだ。そして顔までは見えないが、その犯行声明文とも言える動画に映っている人物…その手口、筋肉の量からしてすぐに誰なのか私にはピンときた。ゼロだ…!恐らく、ゼロはその凄まじい筋肉を持ってしてブリタニア本国の牢屋から脱獄し、逃走し、海上を走って逃げ、この地までやって来たのだ。
…ユーロブリタニアではなくE.U.の戦力を低下させるこの行為にどんな意味があるかは分からないが、ゼロならば何かしらの作戦の一端に違いない…!ニクアツ マッスルガイさんから連絡が無いのも、恐らく軍師としてこのゼロの登場に対する対策を練るため、私に構う時間がないからだろう。だが、これは好機だ…!一度は討ち損ねた今度こそ陽菜達達を奪った事の復讐を果たしてやる…!陽菜達の願いに免じて命までは取らないでやるが、恐らく長期の逃亡生活でロクに筋トレもできていないはず、映像は暗くキレまでは確かめられ無かったものの、万全とは言い難く思える。ならば今の私ならば勝てるはずだ…!
ヴァイスヴォルフ城の中でも現在のE.U.内の混乱の確認作業が行われている。
「…SNSはデマが多いからね…」
とユキヤが呟くとそれにアヤノが反応を示した。
「でも、こんなにいっぱい書き込みがあるんだよ…?」
「人間は不幸な出来事に強く反応し、事実を確かめもせずその噂を広める…」
ネットなどには恐らく私よりも強いユキヤが言うのならそう言うものなのかもしれない。
「誰かがわざと悪い噂を広めてるってこと…?もしかしてあの動画の…」
ゼロ…。もしかしたらゼロはまだ黒の騎士団の様な組織が作れていないのかもしれない。そのためあの様なデマ動画を作成し、自身の能力を売り込んでいる…?
あくまで憶測だが、正直情報は足りない。何か手を打てれば良いのだが…。そう思っていると、日向中尉を引き連れたレイラが部屋に入って来た。
「パリの大停電の原因はテロリストによる洋上発電所の爆破ではありませんでした。北海の発電所は今も無傷で存在します。あれは巧妙に作られた動画です。」
…どこからその情報を仕入れて来たのかは分からないが、それが本当ならば私の想像はある程度現実味を帯びてくる。
「じゃあ、ネットにあるヨーロッパ各所での暴動も?」
「えぇ、全て事実ではありません。デマや噂でユーロピア市民を恐怖で駆り立て騒乱を引き起こしているのです。」
…そうか、ゼロは恐怖でユーロピア市民を駆り立て、そのままユーロピア市民を扇動しブリタニアにぶつける気なのだ。黒の騎士団の様な己の組織でなくてもそれならば戦力として活用ができる…流石はゼロ、何という人身掌握術…!それに奴にはギアスがある…その気になれば噂やデマが本当になる可能性があるのだ。
「そしてあの箱舟は実在しますがブラフです。人間の不安心理を突くための。」
ゼロはギアスを持っている…人々を操るあの力があれば極秘裏に造られていた飛行船を強奪し己の手中に収めるなど訳もないということか…!
「…この騒乱を止めるには箱舟の実態を知らしめる必要がある…そうでしょレイラ?」
「えぇ…ワイヴァン隊で箱舟に強襲作戦を行ってもらいます。」
よし…!待っていなさいゼロ…必ず捕まえて今度は脱法プロテイン無しでボコボコにしてやる…!!
マーヤは相変わらず天然()なため、ルルーシュとゼロ関連については非常にすれ違い気味ですね。