ゼロとの事務レベルの話から数日、ナナリー総督へはスザクから話が上げられている。そして行政特区日本の建設予定地であるシズオカゲットーは百万の人で溢れていた。表向きは多いからという理由だけれど、真の狙いはわざと隙を見せて尻尾を出すのを窺っているためノーチェックで集めているらしい。
緊張しているのか、スザクの顔はかなり険しくなっている。今回の私の仕事はナナリー総督の護衛、この筋肉ならば生身でも並大抵の攻撃から総督をお守りできるだろう。因みにルッキーはパーシヴァルに搭乗し待機、リョウ達ワイヴァンナイツもイスカンダルに搭乗して会場にて警戒して貰っている。
…彼らももし本当にゼロが行政特区日本を受け入れ、全てが丸く収まったのなら行政特区に入ってもらう予定だ。幸いスザクは日本人だし、私はハーフだと思っていた時期があった分、日本という存在には寛容であるつもりなので、うまく橋渡しができればと思っている。…間違ってもE.U.のような隔離収容みたいなことにならないように気を付けなければ。だが、それも優しいナナリー総督ならばそんなことにはならないだろう。
「スザクくん、難しい顔モニ。平和はブリタニア人もそうでない人も平等に与えられるべきものだと思うモニ、行政特区日本はその一つの形だと思うモニ」モニ-
「…ありがとうございます。クルシェフスキー卿。」
モニカはいつもモニモニ言って跳ね回ってるだけかと思えば、こうして細かい気遣いが出来たりする。ドロテアさんへの土産の時もそうだったっけ。…うん?なんでモニカまだ帰ってないの?
「ここにいましたか、クルシェフスキー卿、お願いがあるのですが」
「モニ?」モニ?
モニカはローマイヤさんに連れて行かれた。なんだろう?お願いって…スザクも知らなそうだし総督からのお願いなのかな?
それにしてもこの百万人、ゼロの国外追放処分を聞いたらどうなるのだろう。できれば暴れてほしくは無い。鎮圧の名目で殺してしまうのはそれこそ虐殺だ。ユフィがあんな不名誉な呼び名をつけられたように、ナナリー総督にまで不名誉な呼び名をつけられるのは…あまり良い気分ではない。
「日本人の皆さん!行政特区日本へようこそ!たくさん集まって下さって、私は今とても嬉しいです。新しい歴史のためにどうか力を貸して下さい。
「日本人の皆さん、ありがとうございます。ブリタニア人である私を受け入れて下さり、私はとても嬉しいです」
不気味なほどにナナリー総督の言葉を日本人達は静かに聞いている。ゼロは未だに姿を見せていないけれど、国外追放処分の話をすれば安全を確信して出てくるだろう。奴がそう言う人物であると私は知っている。
「それでは式典に入る前に私達がゼロと交わした確認事項を伝えます。帝国臣民として、特区日本に参加するものは特赦として罪一等を減じ、三等以下の犯罪者は執行猶予扱いとなります。また、自由に筋トレも許されます。ブリタニアからの支援物資として高タンパク低カロリーの食事の提供を約束します。しかしながら、カラレス前総督殺害をはじめとする様々な犯罪は指導者であるゼロの責任は許し難い。よって、エリア特法12条代8項を適用し、ゼロだけは国外追放処分とする。」
意外な事にローマイヤさんからのこの発表にも日本人は無反応だった。流石に静かすぎる…。そしてどうやったのか、突然モニターが切り替わり、ゼロが映し出された。
『ありがとう!ブリタニアの諸君。寛大なるご処置、いたみいる。』
「ゼロ!来てくれたのですね!」
一先ず暴動が起きていないことに安心しつつ、私は念のためナナリー総督を庇うように立つ。狙撃とかされてナナリー総督を傷つけるわけにはいかないからだ。
「姿を現せゼロ!自分が拳でぶっ飛ばしつつ君を国外に追放してやる!」
スザクがそう叫ぶと、画面の中のゼロは静かに笑った。
『人の力は借りない。私ほどになれば海の上を走ってどこにでも追放されることが可能だ。』
…。それは追放とは言わない気がするけど…?
『それよりも枢木 スザク。君に聞きたいことがある、日本人とはなんだ?』
「いきなりなんの話だ!」
『日本語か?日本という土地か?血の、繋がりか?』
…日本人とは、か。考えたこともなかったけれど…。
言葉…?違う、現に私はスザクと日本語やブリタニア語でお互いにコミュニケーションが取れる。別に日本語が話せるから日本人…ということはないはずだ。
土地…?これも違う、リョウやユキヤ、アヤノ達はE.U.にいたけれど、日本人のままだった。逆もまた然り。別に日本に居るから日本人…ということもないはずだ。
血の繋がり…?これも違う、直接血の繋がりが無くても例えば養子とかで日本人がブリタニア人になったり、その逆があったという話があったとスザクから聞いた事がある。それに、血が繋がってないから家族じゃないなんて寂しすぎる。共に心を通わせ生きていれば本物の家族になれる筈だ。
つまり、心よ。日本人という心があれば人は日本人になれる。現に私がかつてハーフだと思っていたように、どこに居ても、どんな言葉を話しても、血が繋がっていなくても、日本人という誇りを持ち、何事にも屈しない鍛える心があればそれはきっと日本人のはずだ。
「…それは、心だ!」
きっとスザクも同じ結論に至ったのだろう。私と同じく心だと説いていた。
『私もそう思う。筋肉、自覚、筋肉、規範、矜持、筋肉つまり、文化の根底たる心と身体の根底たる筋肉があれば、それは日本人なのだ!!』
「それと、お前だけが逃げることになんの関係が…?」
確かに、今なぜそんな問答を…?もしかして何か仕掛けるつもり!?
振り向くと突然服を脱ぎ出した屈強な男達が一斉に身体を擦り始め、汗と熱気から水蒸気を形成し、白いモヤとなって視界が遮られてしまった。これでは何をされるか反応が遅れかけない!
「マーヤ!ナナリー総督を安全なところへ!」
「分かったわ!」
スザクに会場を任せ、私はナナリー総督を連れて野外ステージを後にする。
『全軍鎮圧準備!但し、向こうが手を出すまで絶対に手を出すな!』
『枢木卿、ここは先手を打つべきでは?』
『ブラッドリー卿、ここは自分の指示に従って下さい!』
『ふん…』
何やら通信でルッキーが仕掛けようとしていたようだが、スザクがためてくれたようだ。
「あの、マーヤさん…日本人の皆さんは大丈夫でしょうか…」
不安そうに振り返るナナリー総督に私はなるべく優しい声音を心掛けて答える。
「大丈夫です。会場にはスザクが居ますから」
「…そうですよね」
暫く移動を続けていると続けて通信が入った。
『申し上げます!行政特区日本会場内に無数のゼロが現れましたァ!』
『なにぃ!?』
無数の…ゼロ?通信では何が起こっているかよく分からないけど…
『全てのゼロよ!ナナリー総督からのご命令だ!彼女の手を煩わせないよう速やかに国外追放処分を受け入れよ!!』
…そうか!ゼロは確かに筋肉に嘘を吐かず国外追放を受け入れている!だが、ゼロとは正体不明の仮面の人物…故に、会場内の人物を全てゼロと言い張らせれば…その無数のゼロもゼロであり、ゼロであるならばと国外追放されようとしているのだ!やられた…!
『どこであろうと…我々は心と筋肉さえあれば日本人なのだ!さぁ!新天地を目指せ!』
ここからでは手出しができないけど、スザクはどうするのだろう?仮面を外させる?いや、筋肉量である程度は間引けても正体を知らない以上手間が掛かるだろう。そしてここでゼロを百万人ごと許せばエリア11は…ナナリー総督の手を汚さずに平和になる。確かにその魅力はあるかもしれない。それにここで撃って虐殺にでもなったらどうする…?
そしてゼロは国外追放処分というのはもう公開してしまった約束事項であり、違えればエリア11はもちろん、他の国民からも信用を失ってしまうだろう。国策に賛同しない不安分子を国外追放なら出来るという点でも利点はある。…スザクはどんな選択を取るのだろうか?
『約束しろゼロ!彼らを救い鍛えてみせると!』
『無論だ。枢木 スザク、君こそ救い鍛えられるのか?エリア11に残る日本人を』
『そのために自分は軍人になった!』
『信じよう。その筋肉を…』
それから暫くして誰も居なくなった行政特区日本にてある問題が起きた。
「モニカが居ない?」
「うん、マーヤなら知ってるかと思ったけど知らないか」
私はモニカの保護者じゃないし…
「…ルッキーも知らないの?」
「モニカに最後に接触したのはローマイヤだろう、あの女には聞いたのか?」
そういえばそうか。通信でローマイヤさんを呼び出すと、どうやらモニカを日本人の中に紛れ込ませていたようだ。…うん?モニカが日本人の中に紛れていた?
「そういえば…」
スザクは何か心当たりがあるようだ。
「歩き去っていくゼロ達の中に『ス、スザクく…モニィ!』ってなんか半ば強制的に連れ去られたゼロがいたような…。」
「それだ…」
なんて事だ。モニカは無数のゼロに紛れて連れて行かれてしまったらしい。
現状、私たちに中華連邦に助けに行く手段などない以上、モニカの身を心配することくらいしか我々にはできない。しかし、そんな諦めかけた私たちに希望の光が舞い込んだ。
「本国からの命令です。中華連邦で行われるオデュッセウスお兄様と天子様の婚約に関する式典に護衛役として出席してほしいとのことです。スザクさん、マーヤさん、ブラッドリー卿、行ってくださいますか?」
モニカを助ける絶好の機会…だが、一つ問題がある。
「しかし総督、我々が不在の間エリア11の守りはどうされるのですか?」
「シュナイゼルお兄様が言うにはゼロは中華連邦の攻略で忙しく、エリア11にて行動が起こせはしないと。」
しかし何もエリア11のテロリストはゼロだけではない。寧ろゼロがいないからこそと言うこともある。
「…それではマーヤさん」
「はっ!なんでしょうか総督!」
もしかして私に残れと言うのだろうか?それも良いだろう。スザクとルッキーの二人ならば信頼して任せられる。
「ワイヴァンナイツをお貸し頂けますか?彼らが残って下されば…」
ふむ、確かにただのテロリスト程度ならばリョウ達だけで十分対応できるか…
「しかし総督、彼らはイレブン、しかもE.U.からの裏切り者ですよ?また彼らが裏切れば…」
リョウ達が裏切るだなんて…侮辱にも程がある…!このクソアマブン殴ってやる…!
私が拳を握りしめ、顔か腹かあるいは両方か、どこを殴るか悩んでいると、ナナリー総督が口を開いた。
「ミスローマイヤ、彼らは信用に足る人物です。」
「しかし…」
「総督は私です…!」
珍しくナナリー総督が自身の立場を主張している。あまりの驚きに私は殴ろうという気が吹き飛んでしまった。
「…畏まりました」
彼女が去った後、私はナナリー総督に感謝を述べた。
「ありがとうございます。総督、彼らへの信頼のお言葉は彼らにも伝えたいと思います。」
「いえ、彼らが忠義を尽くしてくれているのは知っていますので…。それよりも、必ずモニカさんをお助けして下さいね」
「イエスユアハイネス…必ずモニカを連れ帰って見せます!」
…モニカは大丈夫だろうか、何か酷いことをされ…いや、なんか黒の騎士団にも呆れられてそうな気がしてきたわね…?