「まずは二人っきりで会える場所を確保しないとね」
マオが選んだのはクロヴィスランド。閉園時間後なら人はいない。マオは心を読むギアスを使い、関係者を探し出し、心を読んで弱みを握り、閉園時間後に動かせる様に手配した。
「C.C.を飛行機に積む為にはコンパクトにしないとね。出刃包丁も良いけど、切り落とすのに時間がかかりそうだからチェーンソーの方がいいよね。」
何度か試し切りをすれば鉄をも斬り裂く素晴らしい切れ味だと実感する。これでC.C.をコンパクトにすることができるだろう。
問題ない、C.C.は不死なのだから。
それでは本編スタート…名前に一言、お気に入りが1000を超えました。ありがとうございます!それでは本編スタートです。
「ブリタニアの研究機関について知りたい?」
「はい。なんとかなりませんか、セシルさん」
セシルさんに差し出された"他のあらゆる食材が美味しく感じられる摩訶不思議な物理学的には飲食可能な謎の物体X"を無理矢理喉の奥に押し込み、持ち込んでいた水で流し込むと僕はセシルさんに尋ねた。
「スザク君や私なんかの立場ではなんとも…」
「ですよね…」
准尉とはいえ名誉ブリタニア人である僕にブリタニアの研究機関について調べられるはずがない。そんなのは分かりきっていたことだった。それでも…ゼロとは言えルルーシュのことを信じたい僕は諦めきれなかった。
「でも、伯爵ならおできになるんじゃありませんか?」
「僕ぅ〜?まぁ、機密度にもよるけどできなくもないんじゃないかなぁ」
「…え?ロイドさんって伯爵だったんですか!?」
驚きだ。貴族なのは知っていたけれど、そんなに高い地位だったなんて。
「放蕩貴族なの、遊びと仕事の区別もつかない」
「いやぁ〜お恥ずかしい」
その後、ロイドさんにシンジュク事変で見たカプセルの女の子の話をした。
「ブリタニアがそんなことを…!?スザクくん、それ他の人には…」
「言ってません。本当はお二人にも話すべきではなかったと思っています。ですが、ブリタニアが未だに非人道的な実験をしているのだとすれば…」
「ふうん?クロヴィス殿下が人体実験をねぇ…まぁ、息抜きに調べてみるよ。なんだか面白そうだしねぇ」
カタカタと楽しそうにキーボードを打つロイドさんを眺めつつ、補習があることを思い出し僕は学園に向かった。
俺はナリタからの帰りの電車の中で、心を読むギアスの男についてC.C.に質問をしていた。聞けば俺の大先輩、C.C.がかつてギアスを渡した男の様だ。名前はマオと言うらしい。
「マオは…人の心を読み取るギアスを持っている。集中すれば最大500m先の思考を読むことができる。その気になれば深層意識まで読み取れる。頭で考えて戦おうとすれば確実に負ける相手だ。」
「道理でチェスで勝てないわけだ。」
どうしても次の手を考え続けてしまうチェスではこちらの手もこちらが打たれたくない手も筒抜けだ。そりゃあ勝てるはずがない。だが打つ手は、いや、ぶつ拳はある。要は俺の拳が届く範囲まで接近し殴れば良い。思考を読んで避けようとも、疲れるまで殴れば良い。結論として、殴れるまで殴ればいいのだ。
「あいつの能力条件は?」
「マオのギアスは強い。お前のように回数制限も目を見るとかの制約も一切ない」
俺のギアスは効かず、一方的にギアスによる思考の読み取りがされるわけか、強敵だな。だが、あいつになくて俺にあるもの、それは筋肉だ。
「弱点はないのか?」
「強いてあげればマオは能力をオフにできない。常に周囲の心の声が聞こえてしまう。本人が望もうと望むまいと。あとまぁお前に本気で殴られれば多分簡単に気絶くらいする」
オフにできない?周囲の心の声が垂れ流しなんて…それは精神が病みそうだ。せめてもの慈悲に楽にしてやろう。
マオの捜索は思考が読み取られないC.C.に任せ、俺は俺の急所たるナナリーを守る事に徹した。学園内をマオの侵入がないかを確認しつつ、俺はナナリーを抱きながら走り続ける。
「ふふっ風が気持ち良いです。お兄様」
「それは良かった」\コラァ!廊下を走るな!/
何かが聞こえたが無視しよう。何人たりとも俺とナナリーの時間を邪魔する事は許さない。思えばこうしてナナリーと2人でゆっくりと…いや、速度的には速いが…するのは久しぶりだ。また寂しがらせてしまったのかもしれない。
「最近お兄様は家を空けてばかりでしたものね。どこか良いトレーニング施設でも見つけたんですか?」
「まぁね、今度のトレーニングはちょっとハードで」
「まぁ!お兄様でも?」
学園内を走りながら俺は思考する。俺もギアスを使い続ければ能力のオンオフが出来なくなるのだろうか?人を従わせるこのギアスがオンオフできなくなるのは少し不便だな。両目を瞑って舌打ちの反響音で周囲を察知する訓練でもした方がいいかもしれない。いや、今から鍛えるべきか?いやダメだ。ナナリーを抱きながら危険なことはできない。
次の日、ナナリーを送った帰りに会長と鉢合わせた。
「聞いたわよルルーシュ。昨日はナナリーを抱きながら校内走り回ってたんですってね。」
「ええ、たまにはナナリーだって風を感じたいと思って」
「いいなー、私も感じてみたい。ねぇ、今度私を担いでやってみせてよ」
風を感じたいなら自分で走れば良いじゃないかと思っていると、シャーリーがやってきた。
「会長ー!」
「あ、シャーリー。朝練復活?」
「はい、いつまでも落ち込んでてもしょうがないし」
シャーリーは俺に気付いたらしく、俺と会長を交互に見てから
「あっ!ごめんなさい会長、彼氏さんといるところお邪魔しちゃいましたね、それじゃまた生徒会で!」
走り去っていくシャーリーを会長はポカンとした表情で眺めていた。しばらくしてから何故か会長は俺の腕に絡みつきながら
「新婚旅行はどこに行く?ダーリン」
「ライザッフ○」
恋人段階から大分先に進んで無いか?
「さて、何冗談言ってるんですか。会長、どうせまたお見合いの話来てるんでしょ」
「バレてたか。それにしても何?今のシャーリー…」
会長は離れないまま話を続けた。俺の用意した完璧な言い訳を披露する時が来たな。
「実は…俺が走り込みをしていた時にシャーリーとぶつかってしまい…」
「その衝撃でルルーシュに関する記憶が吹き飛んだって言うの…?そんなことある?」
「試してみますか?」
「いえ、遠慮します」
確かめられないなら嘘もまた事実となる。ふふ、完璧だ!
シャーリーの日記は持ち出しておいて正解だったな。彼女には悪いが燃やさせてもらう。物的証拠は消さなければ。それにマオの操作も難航している。黒の騎士団の情報ルートにも引っかからないが…まぁ心を読む相手の情報など早々に集まるはずもない。
「ルルーシュ。そんなところで何をしているんだい」
「…スザクか。珍しいな。夜遅くに学校にいるなんて」
「補習だよ。軍の仕事で出られない日が続いたからね。…聞いたよシャーリーのこと」
スザクは静かに俺を睨んでいる。
「会長は走ってる君とぶつかったと言っていたけれど、君はシャーリーを殴ったな?だからシャーリーは記憶を失った」
「流石にお前は騙せないか」
「やはり君がフェネット氏を殺したんだな?だから都合の悪いシャーリーの記憶をぶん殴って消した!そうだろう!」
またもや俺はスザクに胸ぐらをつかまれる。今回も抵抗はしない。
「ブリタニアの捜索は終わったのか?」
「…僕の地位では調べられないことの方が多いよ」
「俺はゼロ、これ以上シャーリーが関わればまた何かに巻き込んでしまうかもしれない」
「だったら自首すべきだよ…君は…いや、言っても無駄だね。」
悔しそうに吐き捨てたスザクは俺を放り投げる様に解放した。スザク自身ブリタニアを信用しきれていない様だ。俺に電話が掛かってきた事をキッカケに俺とスザクは別れた。電話は…C.C.か。直接会って報告し合うこととなった。
「済まない、捜索は手詰まりだ。」
「分かっている。チェックを掛けるには駒が一つ足りない」
どうやら俺とC.C.の意見は一致している様だ。お互いがお互いの手を補うしかないだろう。
すると、電話が鳴った。誰から…非通知?
(このタイミングでの電話…マオか?)
ヒャハ!正解、心を読んだ感じ、近くにC.C.がいるみたいだ。
「僕だよルル。C.C.に代わってよ。そこにいるんだろ?」
『…分かった』
暫くしてからC.C.の声が聞こえた。やっぱり居たんだ!
『もしもし?久しぶりだなマオ』
「C.C.!ずっと探してたんだよ!急に居なくなっちゃうから心配してたんだ。」
『あれは…済まなかったな。』
「ねえC.C.、僕は怒ってなんか居ないよ。やり直したいんだ!あの日みたいに2人で暮らそう!」
『…わかった。どこで待ち合わせる?』
「クロヴィスランドで待ってる。一人で来て。来てくれないんならルルーシュの正体をバラすから。彼を抹殺するのはいつでもできるんだけど」
『はぁ…わかった。あいつを抹殺する方法については詳しく聞かせてくれ。私も気になる』
僕はクロヴィスランドのことを伝えるとC.C.は了承してくれたようだ。ルルーシュの心を読んだ感じ、C.C.は行き先を伝えていない。やっぱりC.C.は僕のことが好きなんだ!ひゃははは!
約束通りC.C.が来てくれた。僕はスイッチを押し、ライトをつける。まずは格好良く演出しなくっちゃ。C.Cの白馬の王子様になるためにメリーゴーランドに乗り、C.C.に呼びかける。
「C.C.!君はなんて静かなんだ!君の心だけは読めないよ。やっぱり君は最高だよ!」
「相変わらず子供だな」
C.C.は照れ屋さんだなぁ
「白馬の王子って言って欲しいなあ。君を迎えに来たんだからさ。ははははは!嬉しいだろ?C.C.」
「前にも言ったはずだマオ。私はお前とは…」
前…C.C.が居なくなる前に言っていた「私はお前とは一緒に居られない」の事?嘘だ。そんなの嘘っぱちだ。
「そんなの嘘嘘!C.C.は僕のこと大好きなんだから」
僕は昔の嫌な思い出とC.C.と暮らした幸せな思い出を思い出す。
「C.C.!君だけだ!君だけなんだ!僕が欲しいのは。ルルーシュなんてどうでもいい。君さえ来てくれれば!」
するとC.C.はピストルを持ち出した。分かった、これは愛の試練だ!僕は用意していたピストルでC.C.の腕を撃つ。大丈夫!C.C.は不死身だからね!とりあえずコンパクトにするためにも動かれると困るから四肢を銃で撃っておこう。
そう思って引き金を引こうとした時だ。
(殴る。)
うん?何か聞こえたぞ?
(殴る。マオを殴る。殴る。)
な、なんだ?すごい速さで近づいて来る…450m…400m…320m…200m…ど、どんどん近づいて来る!ルルーシュか!?ドドドドドと地面が唸り、ものすごい圧が迫ってくる!!
(マオ殴るマオ殴るマオ殴るマオ殴るマオ殴るマオ殴るマオ殴るマオ殴るマオ殴るマオ殴るマオ殴るマオ殴る殴るナナリーかわいいマオ殴るマオ殴るマオ殴るマオ殴るマオ殴るマオ殴るマオ殴るC.C.無事かなマオ殴るマオ殴るマオ殴るマオ殴るマオ殴るマオ殴るシャルル殺すマオ殴るマオ殴るシャーリーすまないマオ殴るマオ殴るマオ殴る)
う、うわあああ!?な、なんだこれ!!な、舐めるなよ!その気になれば深層まで心は覗けるんだ!どんな作戦を考えてるのか知らないが、僕が負けるはず…
(まずはマオを殴る。そしてマオを殴る。更にマオを殴る。マオを、殴る。殴る。殴る殴る殴る。)
ひっ…な、なんだこれ!なんなんだこいつ!!
「マァァァァァオォォォォォ!!!!!」
しまった、もうこの距離まで詰められた!くそ、あいつにはピストルなんて効かない…チェーンソーなら!
(お前を殴る。)
「お前を殴る。」
「くっそお!」
僕はチェーンソーを振りかぶる。どう避けようとも無駄だ!すぐさま追撃してぶった斬ってやるぞルルーシュ!
(チェーンソーか)
ガリッとチェーンソーがなにかに引っかかって動かない。チェーンソーはルルーシュの左腕に食い込んだまま止まっている。
「流石に痛いな。チェーンソーは」
「どうなってる!?なんで切れない!?」
(馬鹿かお前。筋繊維だよ筋繊維。極限まで鍛えた幾層もの筋繊維がそう易々と斬られるはずがないだろうが。俺の筋肉を甘く考えたお前の負けだ)
馬鹿はお前だ。チェーンソーで切れない人間なんていてたまるか。
「(殴る)殴る」
しまっ…
あの日に似た衝撃を食らい、僕は身体が吹き飛んだ。
「く、くそ…!ルルーシュ!」
「殴るのはこれくらいにしてやろう。(但し、蹴らないとは言っていない)」
「ひ…」
とっくにサングラスは吹き飛んでいる。この距離ならルルーシュはギアスも使えるはずだが使う気が無いらしい。ルルーシュの思考を読んでも「殴る」ばかりだ。
「マオ、人間の拳と蹴り、どっちの方が強いと思う?」
(もちろん蹴りだ。筋肉の量が違うからな。安心しろ、俺は優しいからな顔面に一発蹴りを入れるだけだ。)
動けない僕の元にゆっくり…ゆっくりとルルーシュが近づいて来る。ギュピッギュピッと足音を鳴らし、暴力の権化が近づいて来る!
「来るなぁ!僕の方に来るなぁ!なにが優しいだ!嘘吐き!!!」
僕はピストルでルルーシュを撃つ。何度も何度も引き金を引く。全てルルーシュの体に着弾するが、意に介している様子がない。
「なんなんだ?今のは」
「う、うわぁぁぁ!!!!!」
(今からお前を…)
(「蹴る!!!!!)」
グシャリ、と何かが潰れる音がしたそして僕の意識はそこで途絶えた。
脳筋的マオ攻略法:500m先から一気に距離を詰め殴る。思考を読んでも反応しきれない速度で殴る。そして、殴る。