「私のことを…娘と言ってくださるのですね」
「シュナイゼルの奴がァ…何やら嗅ぎ回っておったァ。あ奴ならば真実に辿り着いたであろう。マリアンヌに写真をねだっていたようだしな。お前もォ…自らがルッルーシュの双子の姉だと知って、おるのだろう…」
「はい。」
私は頷き、先ほどの皇帝陛下…いや、ち、父上…の言葉を思い出す。
『ワシすらも忘れていた我が娘よ』
忘れていた…?一体何故…?
「聞きたいことがあるならばァ…聞くが、良い。」
「では、忘れていたとは…どう言う意味ですか?陛下…いえ、ち、父上」
「そのままの意味よ…。コードを受け継いだ時…ワシはァ全てを思い出した…ワシ自身がワシに掛けた記憶の改竄…。…呼び方はァ…焦らずとも、良い…」
何故自分自身にギアスを…?私のように己を鍛えたいならばまだしも、自分の記憶を消すことに何かメリットがあるのだろうか…?いや、人は誰しも忘れたい記憶の一つはあるかも知れない。自分の心を守るために…でも、いまの父上を見る限りではそういう目的で使ったようには思えない。
「ワシはァ…お前から皇族である記憶を奪い…お前を知る全てのものからもお前の記憶をォ…奪った。そしてワシは…ワシ自身にもお前を忘れるようにィ…ギアスを、掛けたァ…」
…なんとなく察しがついた。
「…きっと私のギアスの影響でしょう。私の絶対鍛錬…苦難を与えるギアスにより私は私により困難な人生を歩むように、皇帝であり実の父である父上に記憶を消させたのです。」
「ふはははははは!まさかこのワシすらもォ…無意識に影響を受けておったとは…!流石は、我が娘よ。…して、何故お前はァ兄さん…V.V.と共にィ…ここへ、来た?」
「君が奪ったコードを取り返すためさ。」
「コードならば…ここに、ある。」
見せられたのは右の掌。平仮名の「ひ」のようなマークが描かれていた。
「マァーヤよ…これが欲しいのならばァ…こちらへ来るが、良い…」
案外簡単に譲ってくれるようだ。さては私が余りにも美少女過ぎて父親として甘やかしたくなったに違いない。
言われた通り近付くと、父上はニコリと笑い、白い歯を輝かせてくる。鍛えられた体に白い歯は生えるわね…。
次の瞬間、私の顔面には父上の拳が突き刺さっていた。
「ッ!?」
あまりの衝撃に吹き飛ばされ、床を何度か転がり衝撃を殺す。先ほどまで父上の立っていたところを確認するが、姿は見えない。
「マーヤ!上だ!」
V.V.くんの声を聞き、直ぐにその場を飛び退くと、先ほどまで居たところに父上の脚が突き刺さっていた。あんな勢いで踏まれたら確実に死ぬ…なるほど、父上は私にコードを渡す気は無いらしい。
「この世の摂理はァ…弱肉強食ゥ!ワシのコードが欲しければァ!力ずくで奪ってみせよォ!マァァァァァァァァァーヤッ!!!」
恐ろしく早い踏み込みからの拳をなんとか受け流し、反撃に膝をぶち込む。だが、全く効いている気配がない。
「その程度のォ…殴打など!今のワシには無駄ァァアアーー!!!!」
振りかぶった拳を見て咄嗟に顔面をガードするが、すぐに間違いに気付く。狙いは…!
「愚かなりマァーヤッ!!」
圧倒的筋肉から繰り出される凄まじい殴打は私の腹に深々と突き刺さる。
「かはァッ!?」
私の腹筋の守りをまるでないかのように易々と…!貫通してないだけマシというレベルだ。
正直、一撃一撃がルルーシュの比では無い。流石に鍛えてきた年月が違いすぎる…!技のキレもクラリスさんよりも研ぎ澄まされている…コレが筋肉の力…!
「どうしたマァーヤッ!貴様の筋肉はァ…その程度かッ!」
次に飛んできた蹴りは痛みに怯む私を軽々と蹴り飛ばした。強すぎる…!圧倒的だ…!でも!
「まだよ…!」
父上の圧倒的筋肉から放たれる速さと鋭さを持つ攻撃は認識してから考えていては遅過ぎる…だから!私は突き出された拳を右腕で受け流し、左肘を父上の顔面に捩じ込んでいた。
流石に顔面に肘を食らえばよろけてくれるようだ。
「動きが変わった…か。流石はァ…ワシの娘よ。」
そして何故か父上はモストマスキュラーのポーズを取り、着ていた服を筋肉の膨張で弾き飛ばす。
「次はもう少し…本気を、出そう…」
今までのが本気じゃない…!?嘘でしょ…!?
「ッ!?」
「これも、止めるかァ…」
辛うじて、私の両腕は辛うじて父上の蹴りを防いだ。だが、全脊髄反射行動ですらぎりぎりだなんて…!更に次の殴打、ガードした左腕の骨にヒビが入ったのを感じる。そして目の前に広がるドロップキックをなんとか右腕と左腕をクロスさせる事で防御する。…が、非常にまずい、右腕にもヒビが…それに左の骨は完全に逝ったわね…。
圧倒的筋肉が生み出す肉の壁は全てを跳ね除ける…まさに強靭
圧倒的筋肉から放たれる拳は全てを砕く…まさに無敵
圧倒的筋肉を使っての高速移動は目で捉えることすら困難…まさに最強
強靭、無敵、最強…!強すぎる…!勝てるビジョンが見えない…!
「何をォ…呆けておるッ!!」
ッ!また、腹パンかッ…!咄嗟に後ろに飛ぶ事である程度の衝撃を軽減するもその拳を受けた私は後ろに吹き飛んでしまう。まともに食らえば背骨が折れていただろう。
「マーヤ、君に負けられると困るからさ。はい、コレ」
私のもとにやってきたV.V.くんが渡して来たのは…ブラックリベリオンの時にも見たあのプロテインだ。
「結局私はこういうものに頼らないと勝てないってことね…」
「仕方ないよ。シャルルはあの歳まで鍛錬を続けてきたからね、内包されている筋肉はマーヤの何倍もの密度だから。」
手渡されたプロテインを飲み干すと、瞬間全身の傷が完治したのを感じる。それにこの高揚感…負ける気がしないわ。
「ま、この為にこういうのを開発してたんだけどね」
「兄さん…まだそんなものを…!」
父上はV.V.くんを睨み付けていた。私はそんな父上の背後に回り込んだ。思わず父上は振り返るが、それすらも止まって見えるようだ。
「何ィ!?」
「父上には…親孝行しないとねッ!!肩、叩きッ!!」
アームハンマーを左肩に、ブチ込むッ!!
「ぬぅぅぅ!?い、一撃でェ…ワシの肩の骨が粉微塵に砕けよったァ!?」
さっきまでこんなに可愛い娘を遠慮なくボコボコと殴ったのだ。手加減など不要だろう。
「父上ぇ…肩はまた残ってるわよねぇ?」
「ッ!?」
父上は咄嗟にまだ無事な肩を守るが、残念な事に私は手段や方法を選ばない主義、先ほど砕いた肩に向けて踵落としを叩き込む。
「ぐぬぅぅぅぅううう!?だ、騙し討ちとはァ…!貴様それでもマッスルガイか!!」
私はお父さんの顔面をがっちりと両手で掴んでから両膝を顔面に叩き込む。
「失礼ね…私はマッスルウーマンよ。」
ふふ、力がまだまだ溢れる…高まる!全身に漲るパワーを感じるわ!
その時、この空間に何者かが入って来た事に気が付く。ルルーシュと緑の髪の女だ。あの女は確か…一度ならず二度までもスラッグ弾を寄越してくれた人だったか?まぁいい…。今更あんなものは瑣末ごとだ。
「ッ!来たかァC.C.!今こそ我らのコードを…一つにィ!」
父上が右の掌を翳すと、背景が変化し、新たな風景が写し出された。
「アーカーシャの拳でェ…神を殴り殺せば…!」
神を殴り殺す…だと!?なんだその面白そうな遊びは…!
「良いなぁ…今の私なら神すら殴り殺せそうだ…ふふふ」
チラリと上を見る。…アレが神だろうか?
「待ていマァーヤッ!神とは集合無意識…物理的に殴ることはァ…できん!」
「なにィ!?」
肉体がない…?なんて貧弱な…!いや、待てよ?
無いなら鍛えさせて筋肉をつければ良いのでは?
それに、筋肉は全てを解決するのだ。そして筋肉を付けるには?そう、鍛錬だ。つまり鍛錬は全てを解決するために必要!更に都合がいいことに私は相手を鍛えさせるギアスを持っている!私は空を見上げた。
「神よ!集合無意識よ!」
神にギアスを掛ければいい…!
「無駄な事ォ!王の力では神には…」
「うるさいッ!!」
父上の顔面に拳を叩き込み、更に腹にドロップキックをねじ込む。邪魔されたけどコレでギアスが使えるわね!
「マーヤ ヴィ ブリタニアが強いる数々の耐え難き苦難…!神よ!集合無意識よ!凌ぎ…抗い…鍛えよ!!」
すると、私のギアスのせいか神…?らしき物は何故か粉々に砕けてしまった。どうやら鍛錬が足りなかったようね、ギアスをかけただけで苦難に耐えられず死んでしまうとは。
「ワシの!マリアンヌの夢が!!…ワシの計画通りならば…もう一度マリアンヌとも会えたと言うのにッ!!マァァァァァァァァァーーーヤッ!!この鍛えし愚かものがァッ!!」
父上は私の首を右手で掴むが、もはや私はその程度の攻撃では怯まない。
「分かってるわ父さん。右肩が…まだだったわね!!」
「待て!マー…」
左手でがっしりと右肩を掴み、右拳を右肩に振り下ろす。
「ぐぬぁぁぁ!?」
そういえばコードとか言うものが必要なんだったっけ?どうやって奪えば良いのか分からないけど…そう思って父上の手のひらを見るが先程の模様はどこにもなかった。
「よくやったねマーヤ。コードの継承は上手くあったようだよ。鎖骨あたりだからマーヤからは見えないみたいだけど」
コードを継承できたという実感は…実感…は…?
『E.U.での任務ゥ…ご苦労でェ、あった…。だが…シャルル ジ ブリタニアが刻む新たなる偽りの記憶…。お前はナナリーの事、ルッルーシュが皇族である事を忘れるが良い…。そしてェ…お主にはァ…ロロの存在に対するゥ…記憶を、与える。お主はァ…嘘を吐くのが、余り得意では無いだろぅ、ルッルーシュにィ余計なァ情報を与えぬためにもォ…お前には敢えて、ルッルーシュを監視させぬゥ…」
これは…E.U.から戻ってきた時の…父上に掛けられた記憶の改竄のようだ。
『ルルーシュ ヴィ ブリタニアが問いに答えよ。』
『…はい。』
『お前はここに何をしにきた?』
これは…ホテルジャックの時の…ルルーシュのギアスだろうか
『シャルル ジ ブリタニアが刻む新たなる偽りの記憶…お前は皇族である事を忘れェ…只人となるが、良い…。お前の両親は今日からァ…この者らだ。皇族という環境よりも…貴様にはお似合いの環境よォ…過酷な環境でェ…鍛えてくるがァ…良い…。後はワシもォ…お前の事を忘れればァ…』
これは…私が皇族で無くなる時の…恐らく私が初めて掛けられた記憶の改竄のようだ。
コードなるものの継承はどうやら上手くいったらしい。それにしても不思議な感覚だが、このプロテイン…ブラックリベリオンの時を思い出せばとっくに副作用があってもおかしく無いはずだが…今は全くそう言った気配がない。もしかして私の今の状態がニュートラル扱いになっているのだろうか…?だとすれば
不死身 不老不死 筋肉パワー!私はこの世の何者もをぶっちぎりで超越した存在になったという事である。その気になればこの世界を支配する事だって可能な気すらする。
そう言えば、父上をボコボコにするのに夢中で忘れていたけれど、ルルーシュ達は何をしにきたのだろう?
「シャルルが…マーヤに負けてコードを…。いや、そんなことはどうでもいい!シャルル、お前が死ぬ前に質問に答えて貰うぞ!」
「…よかろう。最早ワシはァ…死を待つ身ィ…この身が滅びィ…Cィの世界に還ればァ…マリアンヌにも会えるゥ…」
「8年前母さんを殺したのは誰だ!何故お前は母さんを守らなかった!」
「今より半世紀前…ワシと兄さんは地獄に居た。親族は皆帝位を争い殺し合う、信じられるのは兄さんと己の筋肉だけ…殺し合いが日常となり怯えながら筋トレをする日々…皆、死んでいった。ワシの母もその犠牲となったのだ。ワシと兄さんは世界を憎み、暴力の根源たる筋肉を恨んだ。だが、同時に身を守るために力を…筋肉をつけた。…そして誓ったのだ。嘘の無い世界を作るために神を殴り殺そう、と。マリアンヌとォ…そこにおるC.C.もその誓いに同意した。だが…兄さん…そこにおるV.V.は…ワシらを裏切ったァ」
「黙って聞いていれば勝手な事を。先に裏切ったのは君の方だろう?シャルル。君はマリアンヌと出会ってから変わってしまったよね?互いに鍛え合うのはそんなに楽しかったかい?…それじゃあコードを継承して体に変の起きない僕だけが置いて行かれてしまうじゃないか」
なるほど、ここまでの話を要約すると…V.V.くんはお母さんにお父さんが取られて嫉妬した…って事ね。そして…
母さんを殺害し、父上との信頼関係を破壊…つまり!
父上にV.V.くんは恋を…!?